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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
3章_異世界からの招待状

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3.4_2人はガチ勢?

戦闘状態が解除されたことで、体力が回復し、アサルトゲージが0に戻る。


非戦闘状態で体力が回復する仕様は、一見すると優しい仕様に見えるが、逆から言えば1戦1戦、敵が全力で殺しに来るということでもある。


あと、アサルトゲージが0に戻ってしまうのが、大分しんどい。


プレイヤーも敵も、容赦と出し惜しみをしてはいけない、してはくれない。


「「いえ~い!」」


セツナとダイナは、手を挙げてハイタッチ。

パチンと良い音が響いて、勝利の喜びを分かち合う。


「にしし――。セツナ殿。オヌシ、なかなかやりおるな?」

「いえいえ――、ダイナ殿ほどではございませんよ!」


あっはっはっは――!


ソードリザードとの戦いは、とんとん拍子で勝利することができた。


ソードリザードは、セントラルのチンピラとは異なる。

チンピラは、適当に一発かませば倒せるので、10人来ようが20人来ようが、30人来ようが何とかなる。


しかし、こちらの攻撃を明確に耐えて来るソードリザードは、3体いるだけでも充分に脅威である。

囲まれてタフネスに物を言わされて波状攻撃されたら、テレポートで逃げ回るしかなくなりグダグダな戦闘になってしまう。


今回は、ダイナの魔法による足止めで疑似的に数的な有利を作り、セツナの魔法の瞬間火力でチャンスのリターンを最大化する。

このコンビネーションが、この上なく上手く噛み合った。


姉弟クラスということもあり、コンビを組んだ時のシナジーも良好なようだ。

もちろん、それも2人のプレイヤースキルがあっての物だが。


「ほらほら、リスナーのみんなもパチパチって褒めてくれてるよ~。」

「ありがとう。‥‥くぅ~、褒められると気持ちいい!」


2人とも上機嫌である。

すでに有頂天になっている姿を見たアリサは、困ったように「ご無事で何よりです。」と労っていた。


探索を再開したセツナとダイナは、遺跡へと向かう道すがら、雑談を交えて歩を進める。


「そう言えば、ダイナはグリモアビルドなんだね?」

「そう、今作から初登場のビルド。けっこう楽しいよ。派手な魔法たくさん撃てるし♪」

「それは、さっきも思った。――でも、リソースの管理大変じゃない?」

「う~ん、そんなこと無いと思うよ。むしろ、そこが楽しい。」


にしし、と笑みを浮かべるダイナ。


ダイナのスキル構築は、グリモアビルドと呼ばれ、魔導書(グリモワール)スキルを軸に戦うビルド。

強力な魔法を手軽に撃てるのが特徴。


従来のメジャーなメイジのビルドよりも、初手から強力なスキルが使用でき、とにかく派手で見栄えの良いビルドである。


弱点は、一度使用した魔導書のスキルは、 ≪サルベージドロー≫ というスキルを使用しないと再度使用できないところ。

≪サルベージドロー≫ の発動には、体力かアサルゲージをコストとして支払わなければならないので、あまりにも無計画にスキルを使っていると息切れしてしまう。


状況に応じてスキルを使い、今使えるスキルでゲームを組み立てる。

どことなく、火薬術士の残弾管理の香りを匂わせるビルドだ。


メイジのビルド談議に花を咲かせていると、ここでダイナが気になるコメントを拾う。


『セツナさんっていうプレイヤー、もしかしてエンコン(※)の動画上げてた人じゃない?』

『ダイナさんの相方、銀腕の人かも?』

※エンコン:エンドコンテンツのこと


ダイナのライブ配信に流れるコメントは、セツナにも見えている。

ダイナとセツナは、顔を合わせる。


「――なんか有名人らしいじゃん?」

「有名ってほどじゃないよ。」


セツナは、前作のゲームにて、エンドコンテンツの攻略動画を投稿していたことがある。

いつもは、100再生行くか行かないかくらいだが、1つだけ3000再生された動画があった。


それがエンドコンテンツのひとつである「魔神戦」を、初期開放スキル縛りで攻略するという動画。

初期開放スキル縛りは、マジックシリーズではメジャーな縛りで、通称「バニラ縛り」や「初期縛り」と呼ばれている。


そのバニラ縛りにて、とある魔神を、魔導拳士クラスで1番乗りで達成したことがあるのだ。

その時のビルドが「銀腕ビルド」というビルドだった。


前作でもリボルバーを腰に付けていたため、マイナーなゲームの、マイナーなクラスのプレイヤーならば、特徴から思い当たっても驚くことでは無いのかも知れない。


「へぇー! すごいじゃん! やり込んでるじゃん!」

「運が良かっただけだよ。たまたま時間が取れて、たまたまモチベーションがあって、たまたま戦略がハマった。

 実力が上振れただけ。」

「え~、上振れどうこうって言っている時点で、相当やってるよ~。」


自分の過去の実績が褒められて、満更でもない。

満更ではない。――が。


「‥‥オレはむしろ、さっきの戦いを見ただけでピンと来たリスナーさん達の方に、戦慄してるんだけど?」

「えへへ。うちの子たち、勉強熱心な子が多いんだ~。」


少なくとも、セツナに言及するコメントがあったということは、そのリスナーたちはエンドコンテンツの動画を弱小投稿者の分まで見ていて、なおかつプレイヤーの特徴と紐づられるくらいには目と腕が肥えているということだ。


「その勉強熱心な人たちの中心人物なんだから、ダイナも、もしかしなくてもやり込んでる人だよね?」

「そうかな~? そうかも~!」


ソードリザードとの戦いといい、今の雑談といい、連携や会話が噛み合っているということは、ダイナもセツナと同じくらいかそれ以上に手練れという事だろう。


メイジは確かに強クラスだが、ゲームメイク能力は自前で用意する必要がある。

その能力が、ダイナには充分以上に備わっているように感じた。


ガチ勢同士は引かれ合う。

それが、この世界の摂理。


『ま、銀腕スキルはリストラされたんですけどね。』

『銀腕‥‥、銀色スキルの残念な方。』


手練れ同士の邂逅に心ときめき、ほっこりした雰囲気が、一気に急降下。

セツナが今一番気にしていることを、無情にもコメントされて、彼のセンチな心をバッサリ切り捨てた。


過去作では、通常プレイでも縛りプレイでも愛用していた銀腕スキル、今作ではリストラ。


「それを言わないでってば! 気にしてるんだから!

 今のビルドにも、AG最大値強化を装備してるんだから!

 別れた彼女との思い出を忘れられない、女々しい男みたいなムーブしてるんだから!」


過去作には、 ≪銀腕の一撃≫ という初期開放スキルがあった。

通常スキルなのに、アサルトゲージを4本支払って強力な攻撃を放つ、異色のスキル。


しかし、色々と効果が戦闘システムと噛み合っておらず、不遇スキルとして前作数年間の歴史に幕を下ろした。

しかも、魔導拳士には ≪シルバームーン≫ というぶっ壊れスキルがあったために、”銀腕”と”銀月”でよく比較されて、銀腕はネタにされていた。


シルバームーンは、過去作でやり過ぎたので、今作では落ち着いた性能になった。

銀腕は、「痩せろ」とか「宴会芸」とか「甘味たべてるだけ」とか、それはそれは散々なイジられ方だった。


方や調整されて続投、方や不遇な扱いを受けた上にリストラ。

この差は一体?


シルバームーンは、お姉ちゃんのメイジから教えてもらった。

銀腕の一撃は、お兄ちゃんの火薬術士から教えてもらった。


魔導拳士は、優等生な姉の良い所と、頭に火薬が詰まっている兄の悪い所を見て育ったクラス。

銀月と銀腕は、魔導拳士のルーツや設定もあって、よくネタの引き合いにされる。


「みんなは、あのスキルの事を、痩せろとか宴会芸とか言っているけど、使い手からするとデキるスキルなんだよ?

 魔導拳士では貴重な、リゲインが高めなスキルなんだよ? まさに起死回生の切り札なんだよ?」


「あはは。ポジティブだねぇ。いいよ、みんなにPRしちゃう?」

『でも、EXを2回撃った方が強いですよね?』

『仮に痩せて2ゲージ技になっても、貴重な7枠の1枠消費するのがね‥‥。』


‥‥‥‥。

‥‥。


「うるさ~~い! 本当のことを言うんじゃな~~い!」

「‥‥そこは、反論しないんだ。」

『wwww』

「特定の状況下では強いんだよ? 本当だよ?

 雑魚の数が多くて、AGが貯まりやすい状況なら、強いんだよ?」


マジレス(※)にあっけなく論破されてしまうセツナであった。


※マジレス:正論。合理的な考え。冷静なツッコミ。


それでも、アサルトゲージを4本、つまりアサルトゲージ100ポイント消費して放つスキルというのは、男の子を惹きつけて止まない何かがある。


だから、マイナーなクラスの、さらに辺鄙なところには、いかに ≪銀腕の一撃≫ で気持ち良くなれるかという、銀腕教なる宗派があるとか無いとか界隈では噂されている。


‥‥世間からの理解は得られないが。


「くっそ‥‥、くっそ‥‥。散々ネタにされた上にリストラって、なんでこんなことに。」

「分かるよ、分かる。好きだったスキルや武器が続編で出てこないの、寂しいもん。」

「ゼッタイ! ゼ~~~ッタイ、追加のアプデで復活するから! もう、予言するから。」


今作は、EXスキルにコアスキルが追加され、2ゲージ消費の価値が上がり、なおさら4ゲージ消費する意味が薄いということには、目を瞑る。


与太話をする2人と、それを見守る視聴者を、紅葉に染まる木々が囃し立てた。



リスナーのコメントも交えて、2人と不特定多数の大所帯で色鮮やかな絨毯が敷き詰められた山道を歩いて行く。


そうすると、山道の終着点にたどり着く。


馬車が往来できそうなほどに整備されていた道が無くなり、目の前には森林地帯が姿を現す。

目的の遺跡に向かうためには、この森を抜ける必要があるらしい。


ここからは道なき道を進む冒険。

自然の脅威の中を掻き分けて進むのだ。


セツナが、森の入り口にある木の幹に触れる。

幹は、真っすぐと空に伸びていて、背が高い。


地面に広がる落ち葉を一枚拾う。

葉の形は、モミジやカエデに似ている。


(葉っぱは広葉樹なのに、木の立ち方は針葉樹っぽいな~。)


科学界の生態とは一致しない、不思議な木の形を眺めて、森に入っていく。

待ってくれていたダイナにお礼を言ってから、2人で森の中へと踏み入る。


森は、木々が点々といった密度で生い茂っており、雑草は生えていない。

カズラの類いも生えておらず、荒れているという印象は無い。


自然公園みたいで、歩くのに不便さは感じられない。

周囲を木々が覆い、空を枝葉が覆う、森林特有の開放的な閉塞感はあるものの、枝葉の割には陽の光が充分に入っていて明るい。


もちろん、それでも視界が悪いということに違いは無いので、不意打ちに警戒して進んでいく。

セツナとダイナは、数メートルの距離を取って、横に並んで進む。


少しでも、集団としての視覚を確保するために距離を開け、されど何かあったら直ぐに集まれる距離。

ヤマアラシのジレンマならぬ、山歩きの地練間(じれんま)の距離で森を掻き分けていく。


会話自体は、通信機能を使えば、声を張らずとも問題なく行える。


左耳の横に、逆三角形と円の図形を重ねたようなホログラムが表示され、それを無線として使用する。


ダイナがセツナに無線で声を掛ける。


「そっちは、問題なさそう。」

「うん。見える範囲には、何も。」


森に入って、10分ほど歩いただろうか?

歩きやすいことも相まって、もうかなり奥深くに入り込んでいるはずだ。


少なくとも、現実世界で同じ状況になったら、方向感覚を失い遭難するレベルまで深く森に入っている。


この世界では、ナビゲーターの機能があるので、問題ない。

セツナたちの視界には、進むべき方向が薄いラインで表示されている。

それを追っていけば良い。


追っていけば良いのだが――。


「ゼッタイ! ゼ~~~ッタイ、何か出てくるって。

 ボクならゼッタイ、ここに何かモンスター配置するもん。」

「それには、同感。」


少し、メタ読み(※)にはなるが、この世界の創造主の気持ちで考えれば、こんな視界の良くない場所で、何もしないはずが無い。


※メタ読み:お約束や経験則から、次の展開を予想すること。


勝負事では、相手の気持ちになって考えることが重要である。

それと同じく、ゲームの攻略だって、創造主の気持ちを考えることが重要なのだ。


ダイナであれば、セツナであれば、自分が世界の創造主だったら、この森で待ち伏せをさせる。

そう考えるから、周囲の警戒はしておく。


戦う相手にもよるが、数の暴力に飲み込まれるのが一番ツラい。


辺りを見渡しながら、歩を進める。

その時――。


突然、セツナの下半身が、地面に埋まってしまう。


落とし穴。

落ち葉が積もって、落とし穴に全く気付けなかった。


「いッ!?」


足を取られたのも束の間、こんどは足の裏に痛みが走る。

鋭く長い棘を踏んでしまったのか、体力が少し削られる。


彼からは見えないが、足には動物の細長い骨を使った、スパイクトラップが敷き詰められていた。


「セツナ!?」


異変に気付いたダイナが、駆け寄ろうとする。

――罠を踏み抜いて、落ち葉が擦れる騒乱に紛れて、風が運ぶ凶器にも気付かずに。


「――う゛っ。」


ダイナは、後頭部を硬い物体で殴られたような、鈍い痛みを覚え、そのまま倒れてしまった。

小さく漏れたうめき声は、森の音に紛れて、枝が折れる音に紛れて、誰にも聞こえない‥‥。



「くっそ‥‥。なんて原始的で文明的なトラップなんでしょう。」


まんまと引っかかっしまったことに対して軽口を叩きつつ、脱出の算段に入る。

すっぽりと埋まってしまった下半身を引き上げようとして――、森に違和感。


めりめりと、枝の折れる音を風が運んでくる。


「――!?」


イヤな予感がして、すぐさまテレポートで落とし穴から脱出。

すると、彼の頭があった場所を、丸太が通り過ぎていく。


通り過ぎた丸太には、尖った木の枝がいくつも埋め込まれており、明らかに殺意を持ったトラップであることが分かる。

今回は、木に吊るされていた丸太が、小枝を折りつつ振るわれたので、それで感づいて事なきを得た。


土の地面を、赤いダメージエフェクトが点々と痛々しい足で踏みしめる。


落とし穴の棘には、毒は塗り込まれて無かったようだ。

状態異常の類いは受けていない。


周囲を確認。


――ダイナが地面に倒れ込んでいる。


「ダイナ!?」


駆け寄って、肩を叩く。


「いったた‥‥。」


ダイナの背後には、動物の頭蓋骨のような骨の塊が落ちていた。

どうやら、セツナに気を取られた隙を突かれて、投擲の攻撃を受けたようだ。


穏やかだった森が、一気に騒々しくなる。


木々の戯れを掻き消すほどの大きな鳴き声。

獣の鳴き声。


それは、サルに似ていて、紅葉覆う森の屋根から聞こえたと思うと、2人の周囲をあっという間に取り囲んだ。


体長が1メートル強、体毛の黒いチンパンジーの魔物が、セツナたちを取り囲んだ。

狡猾な待ち伏せをしていた魔物たちは、黒い体毛の所々に白い金属質な部位を持っている。


右手だけ義手になっていたり、左目が義眼だったり、腹の部分が金属質だったりと、各々野生生物らしくない、サイボーグかサイバネティクスを思わせる、異様な外見をしている。


義体のチンパンジー、マッドモンキーは罠にかかった獲物を嗤うように、喧しい(やかましい)ほどの鳴き声を上げる。


群れの個体の中には、木で作った槍を持つ個体、ソードリザードの鱗で出来た剣を持つ個体、それから石を抱えている個体が混じっている。


武器と罠を使う魔物。

これは、少し骨が折れそうだ。


セツナとダイナは、自分の得物を装備して、背中を合わせて構えた。

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