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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
2.5章_ボーイ・ミス・ガール「破れ鍋に綴じ蓋」
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SS1.3_ほら~・おぶ・ぽるた~がいすと

チカチカと明滅する照明が、カウンターテーブルを挟んで身を寄せる2人を照らす。


アイが、ひそひそとセツナに、このセーフハウスの裏設定を教えてくれる。


「じつは‥‥、このセーフハウス、出るんですよ。」

「出るって‥‥、ネズミが?」


もぐりの酒場だし、地下にあるし、衛生管理には問題があるかも知れない。


「そうじゃありません。出るんですよ。ほら、これが。」


そう言って、両手を前に出して、オバケのジェスチャーをする。


ホラー系のドッキリ要素は、VR世界でされると正直シャレにならないので、見過ごせない要素である。

自分のセーフハウスに、プレイヤーでもNPCでもない存在が腰かけていたら、滅茶苦茶こわい。


覚えの無い先住者の存在に固まる自分。

色素の薄い先住者が、音もなく振り返って、感情の無い瞳でギョロリとこちらを一瞥(いちべつ)したあと、音もなく消えていく。


ホラーゲームでもないジャンルのゲームで、そのような演出をされたら、泣いちゃう自信がある。


アイの言うことが本当ならば、このセーフハウスの購入を検討し直さなければならない。

‥‥決して、断じて決して、セツナが心霊系のホラーが苦手という訳では無いのだ。


あくまでも一般論。一般論として、精神衛生上よろしく無いというだけなのだ。


思考で固まるセツナに、アイが更に近づいて、彼の耳に裏設定を吹き込んでいく。


「昔、ここは酒場じゃなかったんです。何に使われていたと思いますか?」

「‥‥‥‥。」


ごくり、固唾を飲む。


「昔はですね、ある裏の組織が使っていた墓場なんです。特別な、ね。

 組織に歯向かった者を処刑して、死体をこの下に埋めて、死体が見つからないようにして。

 そんな逸話が――。」


「もういい! もういいから!」


アイの語りに割り込んで、話しを無理矢理に遮った。

アイのせいで膨らんでしまった、イヤな妄想を払うように、セツナが口を開く。


「だいたい――、シグレソフトさんがそんな悪趣味な設定を――。」






ガチャン!!


不意に、大きな物音が響く。


「ひっ!?」


咄嗟に、セツナはアイの肩に抱きついてしまう。

アイは、全く動じた様子は無く。


「あっ、すいません。テーブルの下に置いてあるグラスが――。」


などと、天板の下にある棚の方をちらりと見たあと。


じゃ~ん、ドッキリ大成功。

無表情のまま、両手の手の平を開いて見せる。


今のは、全部アイの作り話。


どうやら、アイに担がれてしまったらしい。

セツナから、大きな大きな、安堵のため息が漏れる。


「なんだ、脅かさないでよ~。もう――。」






ドン! ドン!


突然、セーフハウスの入り口を叩く音が響く。


「――――っ!?」

「‥‥‥‥。」


音にビックリして、咄嗟にアイはセツナの肩に抱きつく。


「アイ。今のは、気圧差による物音だと思うんだけど。」


室外と室内の気圧差によって、壁や扉が叩かれた音がする。

ポルターガイスト現象を起こす、オバケの正体の1人である。


先ほどと打って変わって、アイが、ゆっくりとセツナから手を離す。

それから――。


じゃ~ん、ドッキリ大成功。

そう、何事もなかったかのように、無表情のまま、両手の手の平を開いて見せる。


「さすがに、ムリがない? それ?」


もしかすると、アイもけっこう怖がりなのかも知れない。


怖がりなのに、なんでセツナにこんなドッキリを仕掛けたのか?

純粋に疑問である。


「なんで、自分も苦手なのに、こんなイタズラをした――。」






――プツン。


部屋の照明が消えて、部屋が真っ暗になった。


「ひぃ!?」

「――――っ!?」


テーブルを挟んで、互いに互いの肩を抱き合う。

照明の光が元に戻り、視界に明るさが戻ってくる。


ゆっくりと、互いの顔を見合って、ゆっくりと離れる。


――パタリ。


ガタッ、と、2人とも勢いよく、音がした方に視線を向ける。

音の正体は、カウンター席から転げた、クマさん人形であった。


「あ、あれ~。飲みすぎちゃったのかな?」


セツナの、ぎこちないおとぼけに対して、アイが首を横にガクガクと振って否定する。


セツナにミルクを奢ってくれたクマさんが、椅子から落ちてしまった。

パッチリお目目が、床の方をじーっと見つめている。


セツナとアイは、互いに目を合わせる。

テーブルの上の銃を持って、スライドを引いてチャンバーに弾を送って、発砲できるようにする。


送弾したら、スライドを少し引いて、チャンバーチェック。

チャンバー内に、弾があることを確認。


その後、ゆっくりとセツナがクマさんに近づいて、彼を手に取ろうとする。


固い足音が響いて、恐る恐る手を伸ばす。

彼の手が、クマさんに触れる瞬間――。


ギロリ。クマさんと目が合う。


セツナは、驚いて後ろに尻もちをついてしまう。

尻もちをついたまま後ずさりして、震える脚で立ち上がる。


ふわり、ふわり。

クマさんの体が宙に浮き、2人を見下ろす。


見下ろして――。


「みぃ~、たぁ~、なぁ~‥‥!!」


不気味でくぐもった電子音声が、クマさんから流れた。


「うああああああああああ!!」

「――――っっっ!?!?」


ズドン! ズドン!

セツナとアイは、クマさん目掛けて発砲した。


弾が数発、クマさんに命中して、白くもこもこした臓物をぶちまける。


「イッダ! イタイ! イタイイタイ! ちょっと、タンマ。タンマ~~~!!」


マガジンの弾を全て吐き出して、静寂が訪れる。

薬莢が甲高く鳴いて、火薬が白く立ち上がり慄いて(おののいて)いる。


被弾してボロボロになって、床に落ちたクマがよろよろと立ち上がる。


お腹から臓物が飛び出して、パッチリお目目の片方がビロビロしている。


「うぅ~‥‥、ヒドいデスよ。セツナさん、アイさん。」


クマさんからは、マルの声がしている。


マルの声を聞いて、セツナは床に座り込み。

アイはテーブルに体重を預けて、頭を抱える。


「マ~ル~。もう‥‥、脅かさないでよ~。」


ほっとしたように、マルに声を掛ける。

マルは、クマさんの体から抜け出して、いつもの球体の姿に戻る。


このクマさん、なんとハッキングが可能。

遠隔爆破機能があるため、そこに侵入できるのだ。


主に、プレイヤーがチンピラを、クマさんのキャワワな愛らしさで惹き寄せて、一網打尽にするためのアイテムである。

敵が使うのではなく、プレイヤー用のアイテムである。


悪役として登場する敵よりも、プレイヤー側の方が邪悪な戦い方をする。

ゲームあるある。


それにしても、マルのイタズラで、ぞっと肝が冷えてしまった。


セツナは、ボロボロのクマさん人形を拾い上げて、ホコリを払い、自身のクレジットを消費する。

クマさんの傷が癒えたのを確認してから、インベントリにしまった。


「アイ、提案があるのだけれど。」

「ええ、ここはやめておきましょう。」


2人は、セーフハウスを後にした。


扉が閉まり、セーフハウスに人の気配が無くなくなった。





‥‥本当に?



青い空の下で、うんと背伸びをする。

深呼吸をして、身体の喚起、鬱屈とした薄暗い空気を入れ替える。


ひとつ分かったことは、地下のセーフハウスは無し、ということだ。


気分を切り替えて、アイに別の物件を紹介してもらうことにする。


「なら、次の物件は、ファストトラベルで移動します。」


ファストトラベル。

あらかじめ設定されたポイントに、一瞬で移動できる機能。

マップが広大なゲームであれば、メジャーな機能である。


「ファストトラベルしますので、スマートデバイスを立ち上げてください。」


セツナは言われるまま、スマートデバイスを取り出して、起動させる。

ファストトラベルの機能を選択すると、セツナとアイの目の前にホログラムが現れて、セントラル全域のマップが広がる。


青い街、赤い町、川の街。

行ったことのあるロケーションの目ぼしいランドマークに、ファストトラベルが可能になっている。


「では、座標の手動入力機能を選択してください。」


スマートデバイスの液晶画面を操作して、ファストトラベルの手動入力画面に移動する。


ホログラムのマップはそのままに、スマートデバイスの液晶画面には、アルファベットと数字が入力できる、仮想キーボードが表示された。


「合言葉は、GAEDCDCD、です。」


言われたまま、入力する。


「この合言葉って、何かの意味になっているの?」

「ヒントは、ピアノの音階です。」


疑問符が浮かぶ。


釈然としていないセツナに、アイはリズムを取る

小気味よく、肩と人差し指を横に揺らして、歌ってみる。


(G)(A)(E)(D)(C)(D)(C)(D)~。」


歌い終えて、手をおでこに当てて、空を見上げる。


――どれどれ?

セツナも釣られるように、手をおでこに当てて、空を見上げた。


空を見上げる2人は、青い光に包まれて、瞬きをする暇も無く、その場から一瞬にして消えて居なくなった。


ファストトラベルの座標手動入力。

隠しコマンドが認証されて、秘密のロケーションへと転送される。

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