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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8.5章_ワン・マン・アーミー!

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SS14.13_異界化する現実世界の中で――。

ハルとグレイは、落とし子となったチューズデイを倒した。

また、チューズデイを落とし子にした巨岩も破壊した。


これで、この街の異界化は収束する。


結晶に病んだ人々も、徐々に快復へと向かうだろう。

街を覆う結晶も、次第に消えていくだろう。


そして――。


ハルの背中に、人の重みがおぶさる。

子ども1人の、軽いくも重くもない、人の重み。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



グレイが、ハルの背中に乗った。

その重みは徐々に、()()()()()()()



「貴様との戯れ、悪くはなかったぞ。」

「そういうのは、目を見て、同じ目線で言いなさい。」


「ふん、我が褒めてやったのだ。

 有り難く喜んでおくがいい。」


「はいはい。」



異界化の終わり。

それは、夢の終わり。


異界武器たちは、目覚めるときが来た。

自分たちの姿を思い出し、目覚めるときが。



「ドリーもありがとう。さっきは庇ってくれて。」

「い、いえ。お役に立てて何よりです。」



チューズデイとの戦いで、身を挺してハルを守ったドリー。

ハルのお礼に、実体化して答えた。


強さを見せた彼に、グレイも得意げだ。



「うむうむ。流石は我の家臣。

 見込んだ通りだ。」


「えへへ――。」



グレイとドリー。


2人の姿が薄れていく。

存在が、希薄になっていく。


名残惜しそうに、眉を下げるドリー。



「そろそろ、みたいですね。」



ドリーとは、1時間とか2時間くらいの付き合い。


だけども、今、名残惜しい。

そう感じる。



「夢みたいな時間でした。

 僕が、人のお役に立てるなんて。」


「ドリー‥‥。」


「また気が向いたら。僕のことも使ってくださいね。

 ――その時は、回復魔法は使えないですけど。」



そう言って、ドリーは夢から覚めた。

ハルの視線の先には、誰も居ない。


背中の重みも、いよいよ消えかけている。

ただ、人のぬくもりが、重さも無くハルの背に乗っかっている。



「背中から降りる気は?」

「無い。」



重みが無いから、ハルは気が付かない。

‥‥フリをする。


グレイは、空の方を向いている。


ハルは後ろを見ない。

絶対に。


彼が、さよならを言う気が無いことだけは、伝わった。

それで充分。



「また、いつでも我を召喚するが良い。

 いつでも、お前と遊んでやろう。」


「ええ。頼りにしてる。」



言葉を交わし、温もりが消えた。

息をつき、空を見上げる。


セツナが、ハルの元に戻って来る。


彼1人。

腰にリボルバーを携帯している。



「帰ろっか?」



兄の言葉に、ハルは頷いた。

時間にすると、半日にも満たない冒険。


それでも、今日を共に旅した仲間との別れは、名残惜しいものだった。



期間限定イベント「ワン・マン・アーミー」、クリア。



‥‥‥‥‥‥‥‥?





――3日後。



セントラルは、今日も平常運転。

青い空、青い日差しに照らされた、青い街。


自分たちの住んでいる街が、異界化に飲まれようとも、チンピラの皆さんは元気いっぱい。


子どもは風の子と言わんばかり、お外を元気に信号無視。

赤信号をフルスロットルでぶっちぎる。


ぶっちぎって、車は爆発炎上した。


対向車線の方で、運転席から身を乗り出していたハルが、車内に戻る。


ショットガンをコッキング。

銃から排莢されたショットシェルを空中でキャッチ。


銃とシェルをインベントリにしまい、ハンドルを握る。


‥‥横断歩道の信号が、赤になった。


ブレーキを踏み、サイドブレーキを外す。

車のギアを入れ、微速前進。


信号が青になる。

車は交差点を、交通ルールを遵守して通過する。



「おい――。おい――。」



ハルは、車のドアに肘をつく。

手の上に、頭を置く。


開いている窓から、気持ち良い風が髪をなびかせる。



「おい、次の交差点を右だ。」



車内にあるカーナビは、次の交差点を直進だと言っている。

仕事の目的地へは、真っすぐだ。



「ドリー、お前も何を注文するか決めておけ。

 これがメニューだ。」


「え? あ、うん。」


「ちょっと――!?」



やっと、ハルがツッコミを入れた。


ドリーが後部座席で、申し訳そうな顔をしている。

グレイは、助手席で偉そうにしている。



「なんで!? なんでいるの!?

 しんみりしてたじゃん!

 ちょっと、しんみりしたお別れだったじゃん!」



ドリーは、苦笑いしながら頬をかく。


彼の手元には、グレイから受け取ったタブレット。

画面には、ファストフード店のメニューが表示されている。


車は、次の交差点へ。

車は、カーナビの案内に従い、直進。


‥‥グレイが助手席から、ハンドルを右に切った。

ウインカーも出さず、車線も無視して。



「な゛――!?」


「ハハハハハ――! 待っていろ! 我のテリヤキバーガー!」


「じゃ、じゃあ僕は、スパイシーチキンバーガーで。」



ハルは、グレイに拳骨。

危険運転をした彼に、鉄拳制裁。


鉄拳制裁したは良いが、ツッコミが追い付かない。


危険運転をしたハルの車の後ろ。

ぞろぞろと、車がついてくる。


交通ルールを無視して、5台くらいついて来た。


ハルのルール違反に触発されて、ワルの皆さんが、やる気になってしまったのだ。


後続車の窓から、銃を握ったチンピラが顔を出す。

ハルの乗る車を、銃撃してくる。



「ふむ。おやつの前に、軽く運動をしておくか。

 やるぞドリー。」


「うん。グレイ君に教わった魔法、使ってみる。」



グレイが窓から車の屋根に登る。

ドリーが窓から身を乗り出し、両手を構える。


ハルは、ルームミラーを見たり、サイドミラーを見たり――。

車の屋根を見たり、ドリーを見たり――、てんやわんや。



「もう! 何がどうなってるのーー!!」


「カッカッカッ! そう狼狽えるな!

 ここは、セントラルだぞ?」



叫ぶハルに、笑うグレイ。

担いでいた大剣を、()()に刺す。


‥‥車の屋根に、穴が開いた。



「あぁ‥‥‥‥。」



ハルの中で、何かが切れる音がした。

腰のホルスターに、手を伸ばす。


右手で銃を抜く。

銃口を上に向ける。

引き金を引く。


魔法の矢が、車の屋根に穴を開けた。

矢は、グレイに当たった。



「痛っっっつ!?」



何発も、何発も、車に穴が開く。

屋根の上の、不届き元を制裁する。



「痛っ!? ちょ――、痛っ!?

 眷属! 何をする!?」


「うるさい黙れ‥‥!」


「う~ん‥‥。ポテトもいいけど、ナゲットもいいな~。」



‥‥‥‥

‥‥



――セントラルは、本日も快晴。

平常運転、異常なし。



期間限定イベント「ワン・マン・アーミー」、クリア。



info.異界武器が、1人のときの冒険をサポートをしてくれるようになった。








グレイとドリーが正式に仲間となって、次の日。


ハル――、遥花が不思議な体験をしてから、1週間が経過した。


原因不明の空中浮遊を経験してから1週間後。

遥花は、兄の元を訪ねた。


兄に「大切な相談がある」とメールを送り、彼の家を訪ねる。


現実世界の、刹那のマンション。

リビングに通されて、上着を脱ぐ。


刹那が、ココアを入れて持って来る。

水色のマグカップと、黄色いマグカップ。


黄色い方が、遥花の分。


両手でマグカップを持ち、ふーふーとココアを冷まし、ひと口。

冬の寒気に冷えた身体が、あったまる。


自然と、表情がほころぶ。


刹那は猫舌なので、遥花よりも念入りにフーフーして、ココアをひと口。

‥‥悪魔として目覚めても、熱いものは熱いのだ。


カップを、テーブルの上に置く。



「それで、今日はどうしたの? 困りごと?」



さっそく本題に踏み込む刹那。

まあ――、あらかた見当は付いているが。


遥花。

彼女から、魔力を感じる。


電脳世界では感じ取れない、妹の変化。


遥花のサポット、マドカから内緒で連絡は貰っていたが‥‥。

今日、遥花に会って確信した。


遥花は、持ってきた買い物袋の中から、来るときに買ってきたリンゴを取り出す。


何の変哲もない、ただのリンゴ。



「あのね‥‥、兄さん。」



恐る恐る、そういった様子で、手に持ったリンゴを刹那の方に出す。


リンゴを前に、差し出しただけ。

しかし、それ以上の情報を、刹那は読み取る。


魔力の起こりを、彼の肌が感じ取る。


‥‥‥‥。

リンゴが、遥花の手から離れた。


手の、上に。

リンゴは、彼女の手を離れて、彼女の手の上で浮いている。



――1週間前、遥花は魔法に目覚めた。


トレーニング中、突然、覚醒した。

進化の悪魔の力が、彼女を目覚めさせたのだ。


その日は、それ以降、魔法が発現することは無かった。


だが、次の日。

眠りから目が覚めて、違和感に気付く。


自分の身体に、目に見えない、腕や脚が生えているような感覚。

うっすらと、血の通った(かよった)、目に見えない、身体がある。


それは、自分の身体の一部ではあるが、自分の身体から切り離すことができる。

切り離しても、自分の手足のように動くし、感じ取れる。


日に日に、「見えない何か」の違和感は大きくなっていった。


そしてある朝。

違和感は、完全に身体の一部となって馴染んだ。


最初に「手」で触れたのは、目覚まし時計。

両手を状態で、遥花は目覚まし時計を持ち上げた。


違和感は、実感へ。

違和感は、魔法へ。


遥花は、見えない力を自在に操れるようになった。


ひとたび、出来るようになってしまえば、簡単だ。

むしろなぜ、今までこれが出来なかったのかとさえ、疑問に思えてしまうほど。


自分の身体の一部なのに、今までは動かすことは愚か、知覚することさえ出来ていなかった。


――人間の耳は、動かすことができる。

犬や猫ほど自由には動かせないが、動くのだ。


だけども、多くの人はそれができない。


やろうとしても、できない。


けれど、耳を動かそうと続けていくうち、出来るようになる。


ある日、突然、耳の筋肉を知覚できるようになる。


最初は違和感として。

耳の筋肉を知覚する。


そうすれば、もう耳を動かすなど容易い。


なぜ、今までこんな簡単なことが出来なかったのか?

そう疑問に思わずには、いられなくなる。


遥花の魔法も、それと同じ。


彼女は知覚したのだ。

今まで使って来なかった、自分の身体の一部を。



――遥花の手の上で、持ち上げられたリンゴ。


それを、刹那は受け取る。

リンゴは、彼の手の上に。


遥花の手から、刹那の手へ。

宙を横に滑り、肌に触れることなく、リンゴは受け渡された。


刹那が手を下ろしても、リンゴは一向に宙から離れようとしない。

物理法則を無視して、宙にそのまま留まる。


‥‥見える者には分かる。

刹那の魔力がリンゴに絡みつき、持ち上げている。


毛細血管のように魔力が伸びて、リンゴを引っ張っている。

リンゴの重さを魔力が支え、空中に留めている。



遥花は目を見開く。


半分は驚き。

半分は予想通り。


刹那の手に、リンゴが落ちた。

リンゴを、そっとテーブルに置く。



「ええっと‥‥‥‥。何から、説明しよう?」


「全部。全部話して。」


「そっか――。分かった。」



全部、話した。

全部、聞いた。


現実世界で、魔法が発見されたこと。

魔法は、新月の女神が持ち込んだこと。


新月の女神が、刹那を使って、魔法を広めたこと。


その事情を知っている科学者や研究機関があること。


刹那の彼女であり、遥花の友人であるアイは、その研究機関の関係者であること。

また、アイも魔法に目覚めたこと。



そして‥‥、刹那はすでに、人間と呼べるか怪しい身体になってしまっていること。


遥花は、魔法に目覚めても、強烈な飢餓に襲われることはなかった。

アイも同様、魔法に目覚めた副作用は、特に確認されなかった。



久遠 刹那。

彼だけが、魔力の副作用を患ったのだ。


魔力の獲得に、代償を払ったのだ。


女神が刹那を選んだ理由。

それは、科学者とは異なるのだろう。


悪魔の子、進化の悪魔。


女神は、彼の中に、悪魔を見たのだ。


そして、悪魔を使い、自らの願いを叶えようとしている。


絶滅の回避。

いつか楽園で聞いた、彼女の言葉。


新月の女神は、そのために、悪魔を目覚めさせ、悪魔を使うのだ。



‥‥‥‥

‥‥



――全部。

全部聞いた。


兄の口から、全部。


率直な感想として、ほっとした。



「ありがとう、兄さん。」



遥花は、兄にお礼を言った。


このお礼は、自分の相談に乗ってくれたことに対してでは無くって――。

それよりも、彼が正直に全部を話してくれたこと。


それに対しての「ありがとう」。

そっちの方が、大きい。


彼の背負った――、背負わされてしまった宿命。

そのひとつでもいいから、自分が持てたら。


そうしたら、やっと自分は、兄の横に並べる気がする。


凡人だった兄と、才女だった妹。


世間が2人を、どう見ていたかは関係ない。

兄は、自分が生まれた時から、自分の兄をしていて――。


天才と囃される自分の前を、いつだって歩いていた。


その背中から、私がひとつ、何かを背負えたら。


やっと自分は、兄の横に並べる気がする。

ヒーローと一緒に戦う、強い自分に、なれる気がする。


テレビの画面。

その向こうで見た、憧れの存在。


強い彼女みたいに、自分も、なれる気がするのだ。






だから私は、あなたの足元に。



そっと――、踏んで欲しい。



暗い夜道に迷わぬように。

冷たい夜風に凍えぬように。


私の大切な夢だから。



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