SS14.11_星の鉄槌
~
しかし、貧しい私には、夢しか無かったのです。
暗い夜。私は、夢を見るしかなかった。
だから、あなたの足下に、私の夢を。
~
夢とは、差し出すことができるらしい。
夢とは、足元に置くことができるらしい。
貧しい者の、見る夢とは――。
――本を閉じた。
客人だ。
◆
2度目、結晶の巨岩の元へとたどり着いた。
――パタン。
岩の見張り番が立ち上がる。
壊れた教会の長椅子。
スーツ姿の男が立ち塞がる。
チューズデイ。
巨岩が出現する前に、破壊したはずのアンドロイド。
「異界化とは、平等だ。
全ての”物”に等しく、力を得る機会を与えた。」
いつもよりも流暢に、それでいて滑らかに。
そしていつものように、迂遠で回りくどい表現をするチューズデイ。
「ひとつ――、聞いておきたい。」
右手で、眼鏡を直す。
左手で、髪形を直す。
肌色の指が、細長い眼鏡の位置を正す。
肌色の手の平で、ワックスで固めた髪を掻き揚げる。
「どういう気分だね?
――人と異なる力に目覚めるというのは?」
ネクタイを締め直す。
ネクタイの細い剣が勢いよく擦れて、高い音を出す。
「私には分かる。
とても‥‥、とても気分が良い。
救世主か? 支配者か?
そう、なれた気分だよ。」
巨岩が光り、チューズデイの影が伸びる。
地面に伸びた影が形を変え、立ち上がる。
黒い色素が落ちて、なかから肌の色を発色させる。
色のついた影は、右手で酒を煽る。
左手に装着しているフックでコルクを引き抜き、ワインを口に流し込む。
口から零れた酒が、白いカイゼル髭を赤く濡らす。
黒い海賊服と、海賊帽子がたなびく。
光が収まると、服はくったりと地面の方を向く。
「ヤーハーーー!!
また会ったな! こんちくしょう共ッ!」
ヴォイド海賊団船長、アゲインが出現。
人の肌を手に入れた彼は、フックで立派な髭を梳いている。
チューズデイは、アゲインに静かに指示を出す。
「それでは、手筈通りにお願いしますよ。」
「ガハハハッ! 任せとけ!」
アゲインは、セツナとライザの方を向く。
彼の目線が高くなる。
目線が高くなる彼を、4人して見上げる。
彼の影から、海賊船が――。
木で造られた、古めかしい海賊船が出現する。
「面白れぇことに声を掛けてくれたんだ!
仕事はする! 大船に乗ったつもりでいやがれ!」
海賊船が動き出す。
海に浮かぶそれよりは大きくない、大型トラックを縦と横に2台づつ並べたくらいの大きさ。
船底の竜骨で道路を削りながら、船は漕ぎ出した。
‥‥セツナとライザを乗せて。
亡霊がどこからともなく現れて、2人を攫ってしまった。
「出航だァ! お前らを、八つ目の海に、招待するぜェ!」
船首の向こう、空間が裂ける。
暗い雲が広がる海に、アゲインたちは消えていった。
結晶の街に残ったのは、ハルとグレイ。
2人で、チューズデイを倒す。
「――人の心が、我々に魔力をもたらす。
この異変は福音だと、思いはしないかね?」
ハルが二丁拳銃を抜く。
拳銃のリアサイト同士を引っ掛けて、スライドを引く。
「私たちからすれば、これは災害よ。
だから、止める――!」
‥‥‥‥
‥‥
◆
アゲインに連れて来られたのは、大海原であった。
水平線まで、海が広がっている。
しかし、どうにも息苦しい。
船の上から、周囲を見渡す。
船の底を、漂流する箱や樽がぶつかっていく。
こっちで、ひとつふたつ。
あっちで、ひとつふたつ。
数えてまとめて、九つ十と、ぶつかる。
これでは、漂流物の上を進んでいるみたいだ。
落ち葉や、枯れ枝の上を歩いているような感覚。
思わず錯覚して、海の実感を忘れてしまいそうになる。
落ち葉を掻き分け進み、左手に小高い岩山が見えたと思ったら、それは難破した船。
船尾から半分、鉄の船が真っ二つになって浮いている。
この海には、山がある。
山があれば、森もある。
右手、視界の奥に森を確認。
マスト船の帆柱が遠くに見えて、森となっている。
破れた帆が風で靡き、森の木が揺れている。
上、空のあちこちでは、重く低い雲の隙間から、太陽の光が差し込んでいる。
空に、天使の柱を作っている。
それがどうにも、森の中の木漏れ日のようで、ここが海だという実感をますます遠ざける。
心なしか、潮の香りも感じない。
不思議な空間だ。
不思議な海だ。
海は地平まで広く、されど息苦しい。
海というには狭すぎて――。
ここを沼と呼んだ方がしっくりくる。
いつかレトロゲームで見た、「船の墓場」を想起させる。
そんな海沼が広がっている。
セツナとライザは、抵抗もせずに黙って周囲の様子を窺っている。
2人の周りを、青い顔をした人間が取り囲んでいる。
地に足のついていない、蒼白の亡霊。
アゲインが亡霊の奥から、2人の前に出てきた。
「ようこそ。八つ目の海、冥海へ。
ここで死んだ者は皆、俺様のクルーとして、永遠に働くことになる。」
冥海に、死んだ者に、永遠――。
セツナは、改めて周囲を見渡す。
「なるほどね‥‥。
奪って殺して、貯め込んだ訳だ。」
「おうとも。海いっぱいのお宝よ!」
お宝を攫ってきた囚人に見せつけ、アゲインは豪快に笑う。
宇宙での戦いで辛酸を舐めることとなったヴォイド海賊団。
彼らは地球最強の海賊団。
今度は、海賊のホームで戦うつもりで居るらしい。
左手のフックが、セツナとライザに向けられる。
「お前たちも、俺様のお宝に加えてやるぜェ!
サメのエサとして、永遠に働かせてやる!」
セツナは、魔導ガントレットを装備する。
ライザがリボルバーのシリンダーを取り出し、中身を確認。
6発入っていることを確認し、シリンダーを閉じる。
「オレは、ペンギンのエサやり係がしたいなぁ。」
「あんたみたいな男に、あたしは使いこなせないわ!」
戦う構えを取る2人に、アゲインはニカリと白い歯を見せる。
「ガハハハッ! いいねェ!
手が掛かるから、お宝ってのは価値があるんだ!
――テメェ等2人とも、俺様のコレクションになりなッ!!」
アゲインの声に反応し、亡霊が動き出す。
2人を囲む10体を超える亡霊が、物量に物を言わせて襲い掛かる。
セツナが、屈む。
足に、稲妻を宿す。
ライザが動く。
腰に銃を当て、撃鉄を起こし、引き金を引く。
引き金を引いたまま、左手で撃鉄を連続で起こす。
晶力解放:蛇
銃口から、散弾が発砲される。
紫色の蛇が、亡霊に食らいつく。
全弾発射。
6発の弾丸が、10を超える亡霊を射抜いて倒した。
射撃が終わると即座にリロード。
視線はアゲインに向け、片手でリボルバーの排莢を行う。
左手で、タクティカルベルトからラピットローダー (リボルバー用のマガジン)を取り出す。
ここで、屈んでいたセツナが飛び出す。
スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。
ライザが亡霊を倒すや否や、一直線に霹靂と駆ける。
稲妻蹴りが、アゲインを狙う。
稲妻は、左手のフックに止められる。
セツナは、右足で蹴りを放った姿勢のまま、左手を構える。
拳を握り、顔を狙う素振りを見せる。
彼の動きと意図に、アゲインが反応。
生身を得たアゲインの上体が、わずかに浮く。
セツナの拳に反応し、意識や思考が、身体の動きとなって出てしまう。
機械の体では起き得なかった、反射現象。
セツナは、そこに付け込む。
生身に慣れていないルーキーに対し、情け容赦ない初心者狩り。
フックを蹴りつけている右足を離す。
すぐさま、右足でアゲインの膝を横から蹴る。
膝が反射で曲がり、バランスを崩す。
アゲインの意識は、上体から下半身へ。
マジックワイヤーを、胸に撃ち込む。
意識は、下から上へ。
すべて、身体に出ている。
顔には出ていないが、心をしまっている胸中が、素直に動いている。
何を考えているか丸見えだ。
スキルを発動。
出始めをキャンセル。
Zキャンセル版 ≪グランドスマッシュ≫ 。
床に、衝撃波が発生する。
膝をついたアゲインの身体が、浮き上がる。
船の上で舞う。
マジックワイヤーで、アゲインの動きをコントロール。
ライザの方へ投げ飛ばす。
リロードを終えたガンマンが、宙の標的を狙う。
外しはしない。
6トリガー30発の散弾が、アゲインを捉えた。
「ぐはぁぁぁ!?!?」
散弾に撃ち抜かれ、腹から船に落ちるアゲイン。
ぐったりと、うつぶせに大の字に倒れて、動かない。
露骨な、死んだふり。
リロードを行うライザ。
隙が生まれた彼女に、フックが伸びていく。
マジックワイヤーのように、フックが射出され、足元に鎖が伸びる。
視線を逸らしていないライザは、これを踏みつける。
「なにぃ!? 俺様の完璧な不意う――ごばぁ!?」
セツナが、アゲインを蹴り飛ばした。
頭を、サッカーボールみたいに。
ライザが、踏みつけたフックを左手で握る。
怪力で、フックを手繰り寄せる。
晶力解放:炎
炎の後ろ蹴りが、アゲインに炸裂した。
船の上を転がり、盛大に帆柱へ激突。
マストが折れた。
セツナと、ライザの方へ倒れて来る。
「はッ! サメのエサになっちまいな!」
どこからともなく、砲撃が飛んで来た。
砲弾が船を穿ち、穴を開け、浸水させて沈ませる。
セツナとライザは、船から飛び降りる。
漂流物の箱や樽を足場に、難破した船へと移動した。
――遠くに、幽霊船が見えている。
空から、アゲインが降って来る。
乗り移った船を、急降下でバラバラに粉砕した。
セツナはライザを抱きかかえ、足に稲妻を宿す。
空を飛び、沈む難破船から脱出を図ろうとする。
‥‥‥‥の、だが。
フックが、彼の足を掴んだ。
「おいおいツレネェナぁ! もっと遊ぼうぜ!」
フックがセツナを手繰り寄せる。
ライザは、セツナの腕の中から脱出。
彼の頭を踏みつけて、跳躍する。
晶力解放:銃
左手にレバーアクションライフルを召喚。
空を飛びながら遠距離射撃。
沈む船の上、ニカリと笑うアゲインに向けて、発砲。
3発撃って、1発が当たる。
が、有効打になっていない。
少し、遠い。
セツナが、沈む船に落ちた。
大の字に仰向けになっている彼の顔を、アゲインの右拳が殴る。
1発2発と殴り、フックを胸にかける。
アゲインは、腰から海賊の剣、カットラスを抜く。
海と垂直になろうとする船に、カットラスを突き刺す。
セツナを海に向けて蹴り飛ばす。
セツナは、冥海に落とされた。
(‥‥また海か。)
そんなことを思ったのも束の間。
彼を、冥海に住む亡霊が拘束する。
この海で溺死した、溺死させられた者たちの魂。
生者を海の底へと連れて行き、沈めていく。
足に纏わりつく亡霊を踏みつける。
海中で、大地を踏み割る力を――。
セツナが雷に打たれた。
フックから、電流が流れた。
塩の味がしない海水が蒸発し、服を焼き切る。
フックは、海上へ戻っていく。
セツナは、深く沈んでいく。
寄ってたかって、団子となった亡霊に引っ張られて。
‥‥‥‥
‥‥
漂流物の上に着地したライザ。
彼女に、アゲインの魔の手が迫る。
海賊が空へと飛び立ち、漂流物を踏み割る。
次から次へと。
ライザは幸運にも、漂流物が溜まってできた小島に逃げ込む。
広さが直径30メートルほどの、暴れるには手狭な小島。
狭いが足場はしっかりとしている場所で、アゲインを迎え撃つ。
タンブルウィードを召喚。
海風で転がり、跳ねて空へと飛んで行く。
射撃で点火。
燃える枯れ草が、空飛ぶ海賊へ束になって刺さる。
草に粘着されたアゲインは、勢いを失う。
空の航海半ばで、海にポチャってしまった。
海の中から、亡霊の足場の上に立つアゲインが出てくる。
跳躍。
真上に飛び、小島ではなく海にそのまま落ちる。
小さな波が島に打ち付けて、ライザの足を濡らす。
引き波が、ライザの足を掴む。
海から、亡霊が波と一緒に打ち上げられた。
もう片方の足で、亡霊の頭を蹴り飛ばす。
亡霊は、彼奴1人だけではない。
背後から掴みかかってきた亡霊に、肘をお見舞い。
続けて銃から散弾を撃ち、周囲の亡霊を一掃する。
‥‥残弾、残り1発。
左手にライフルを取り出す。
このライフルは、リボルバーの弾と規格が同じ。
魔力を込めれば、散弾も撃てる。
リボルバーほどの連射力は無いが、装弾数が12発と、継戦能力に優れる。
波が、小島に打ち付ける。
先ほどよりも高く、先ほどよりも多くの亡霊が打ち上げられる。
早々に、リボルバーの最後の1発を使用。
リボルバーをホルスターにしまい、武器をライフルに切り替える。
散弾を射撃、からのスピンコック。
次弾をマガジンからチャンバーに送り込む。
近接射撃から、近接格闘へ移行。
バレル部分を握りしめ、グリップ部分で殴打。
格闘から、射撃へ。
振り返り、散弾を発砲。
タンブルウィードを呼び出す。
10個の枯れ草を、壁のように積み上げる。
燃える足で火を点けながら、蹴り飛ばす。
攻撃的なバリケードで、敵の動線を制限する。
近くに寄った亡霊を、肘で追い払う。
頭部に肘を食らわし、怯んだ亡霊を盾にしつつスピンコック。
盾を蹴り飛ばし、発砲。
(あのバカは何をやってるのよ‥‥!)
遅い。
待たせ過ぎだ。
セツナが、いつまで経っても戻って来ない。
いったいどこで油を売っているのか?
3度目の波が、小島を襲った。
ライザの身長を超えるほどの、高さ2メートルの高波。
身体が波に攫われる。
波の中から、大勢の腕が伸びて来る。
ついに捕まる。
「このっ! 離しなさいっ!!」
小島の波打ち際、たくさんの亡霊がライザに乗りかかり、動きを封じる。
うつ伏せのライザは、動けない。
海面に、自分の顔が映っている。
――亡霊の腕が伸びて来る。
たくさん、海の中から、彼女の頭に。
「ぐぶ――っ!? う――!?!?」
武器のときには感じることが無かった、溺れる感覚。
ライザは、顔だけ海に浸かり、息ができないでいる。
酸素を求めて藻掻くも、身体は動かない。
数の暴力で押さえつけられて、ビクともしない。
彼女の首だけが、たまにわずかに動く。
それが、彼女にとって幸運なのか、不幸なのか?
動けないおかげで、酸素が温存され、息が長く続く。
‥‥‥‥溺死の恐怖を、より長く感じる。
(ダメ‥‥。息‥‥が‥‥‥‥。)
意識が遠のく。
口と鼻から、海水が入って来る。
冷たく暗い、海の沼が、肺を満たしていく。
‥‥‥‥。
エマージェンシーコア (剣) × ヘックスコア × 魔女の一撃 = 銀腕の石抜剣
重たい雲の下、沼の海の上。
青く輝く銀の剣が、亡霊を浄化した。
ライザの上で山となっている亡霊を、一撃で消し飛ばす。
彼女は、身体の自由を取り戻す。
火事場の馬鹿力。
我武者羅に振るった左の拳が、海面を割った。
深く狭く、海を凹ませる。
「ゲホッ――! ゲホッ――!」
反射的に顔を上げ、咳き込む。
水の入った肺に、酸素が入る。
胸を叩く。
肺の中の水を、腕力で外に出す。
口から、海に水を返した。
海面に揺蕩うカウボーイハットを手に取る。
海の上で、逆さになって小舟のように浮かぶ帽子を取り、被り直す。
荒い息で立ち上がると、そこにはセツナが立っていた。
ライザは、助けてくれた彼にお礼をする。
濡れた小島を歩き、彼の近くまで行き――、胸倉を掴み、頭突き。
「なんで――!?」
「来るのが遅い!」
鼻を抑えて倒れ込むセツナ。
大きな波が、小島に迫る。
セツナが片膝立ちとなる。
右手に握った、銀腕の剣を振るう。
大波を横切るように、青い輝きが走った。
一刀のもと、波が切り伏せられる。
波の中に居た亡霊も、切り裂かれる。
‥‥セツナの体力とAGが、大きく回復する。
神剣クラウソラス。
光の剣と呼ばれる、ケルト神話に伝わる4つの秘宝のひとつ。
銀腕の王、アーガトラム (ヌアザ)が振るったとされる武器。
トラムも持つ光の剣は、ひとたび鞘から抜かれれば、何人たりとも耐えることができなかったという。
必中必勝の、光の剣。
神話を再現した ≪銀腕の石抜剣≫ は、鞘に込められている時間が長いほど、神話の再現度を増す。
AGが100ポイント溜まった状態。
その時に抜き放つことで、完全な性能を発揮する。
――不用意に、無限のザコ敵を、けしかけてはいけない。
それらは、エージェントのエサにされるから。
無限に湧いてくるから、無限に狩ってやった。
AGを、限界まで溜めてやった。
右手に持った石抜剣で、右肩を叩く。
「ま、遅刻した分は働きますとも。」
セツナが石抜剣を振るう。
剣が、狼の如き唸りを上げる。
空に向かって吠える。
海の上を、青く燃える光の波動が奔る。
波動は、アゲインに向かい迷いなく伸びていく。
――海の底から、海賊船が浮上する。
沈没船が浮上し、船長を守り、必中の剣を防いだ。
攻撃の余波で荒波が起き、アゲインの足元を攫っていく。
‥‥。
一隻では、間に合わない。
次々と――。
海賊の艦隊が浮上する。
沼の底から、冥海を彷徨う幽霊船が艦隊を作る。
しかし、10隻ほどの戦艦も、光の剣の前には、露と同じ。
剣を振るえば、船が沈む。
また振るえば、船が沈む。
現代式の船も、古めかしい船も、剣の遠吠えひとつで、藻屑となっていく。
縦に割れるか、横に割れるか。
下から壊れるか、上から壊れるか。
それくらいの違いしかない。
「怯むなァ! 撃てェ!!」
同胞の撃沈にも物怖じせず、砲撃の雨が降り注ぐ。
砲撃が、セツナとライザの立つ小島を破壊。
海に沈めた。
空を稲妻が駆ける。
AG版 ≪ライトニングアクセル≫ 。
溜め動作なしで高速移動が可能になった稲妻走りで、空中を移動。
AG版は、3回連続で使用が可能で、大きく移動するのに向く。
3回連続で空を駆け、追加でAGを使って空を駆け。
海を渡り、艦隊のひとつに着地する。
左肩に担いだライザを下ろす。
船に乗っていたアゲインに、斬りかかる。
アゲインは、カットラスで迎え撃つ。
石を鍛えた剣と、海賊の剣がぶつかる。
鍔迫り合い。
石の剣が振動し、アゲインの身体を衝撃が突き抜ける。
「ぐふっ!?」
骨の髄を噛み砕く衝撃に、声が漏れる。
‥‥彼の背後、海を挟んで浮かぶ海賊船が、破壊された。
膝をつくアゲイン。
石抜剣の大上段が迫る。
カットラスを構える。
骨の髄が揺れて、乗っている海賊船が真っ二つになった。
船の中腹を横断するように、青銀の斬撃が走って、船を小枝のようにへし折った。
船のマストが、ゆっくりと横に倒れる。
その動きを追うように、半分に割れた船がゆっくりと横転していく。
海の中から、船が浮上する。
沈む船を踏み潰すかのように、突っ込んで来る。
石抜剣を振るい、船を破壊する。
上から襲い掛かる船を、下から踏み潰した。
その隙に、アゲインは船から離脱する。
ライザもそれを追う。
セツナの手から、石抜剣が消える。
右手に、亀裂が入る。
エマージェンシーコアの反動だ。
銀腕の加護により、身体に巡っていた微かな不退転の力が切れた。
加護で抑えつけていた反動が、表面化する。
必中必勝の剣は、守りの剣。
AGを100ポイント消費した場合、プレイヤーは石抜剣の効果中、倒れなくなる。
ゆえに、この剣は必勝の剣。
驚異的な破壊力を持つUltとは、別ベクトルの強さを持つ奥義だ。
セツナは倒れたマストを伝い、アゲインとライザを追う。
別の船へと飛び移る。
亡霊の船員を、ライザが次々と仕留めている。
セツナは船長の首を狙う。
‥‥つくづく、このアゲインという男は、セントラルの戦士と相性が悪い。
本来なら、彼に有利となるはずの海の戦場が――。
本来なら、悪夢となり得る海の亡霊が――。
アゲインにとって、悪い方向に働いている。
下手にエージェントにエサを与えたせいで、彼はいま、闘志に満ちている。
どれだけザコをけしかけようとも、彼は止められない。
異界武器は、いまだに闘志と勇気の再現に至っていない。
海賊はまだ、セントラルの戦い方を知らない。
セツナの左拳が、アゲインの腹を穿つ。
カットラスの攻撃を足で逸らし、拳を叩き込んだのだ。
切りかかってきたカットラスに対し、回転回し蹴り。
剣の腹を蹴り。軌道を逸らすだけでなく、アゲインの重心を奪う。
よろめいたところに、左のボディブロー。
亜音速のカラスと戦っていたのだ。
海賊の攻撃など、止まってみえる。
新月に鍛えられた悪魔が、人の限界を超え始めている。
時折、超越的な武技を垣間見せる。
アゲインは劣勢にも関わらず、ニカリと歯を見せる。
拳を繰り出す。
カットラスの鍔、拳を守るナックルガードで、セツナの顔を殴る。
‥‥アゲインの拳よりも速く、セツナの拳が、海賊の顔を殴った。
一手先。
動きを読んでいたかのように、迷い無い拳が命中した。
アゲインの攻撃は失敗に終わる。
彼は後ろにたたらを踏みながら、左手を前に出す。
――火薬の爆ぜる音。
反射的に、セツナは横に飛ぶ。
フックが、船の床に突き刺さった。
フックに鎖は繋がっていない。
視線をアゲインに戻せば、彼の左手は、銃の形状となっている。
ラッパ銃に似た形をしている、鉄くずを撃ち出す義手。
銃を乱射する。
釘やら何やらの、船の部品を詰め込んだラッパ銃から、次々と弾丸が撃ち出される。
銃と銃口の体積を無視した量のスクラップが、次々と飛び出してくる。
セツナは足に炎を纏い、広範囲に広がる射撃を躱していく。
‥‥‥‥足が、床に取られた。
腐った部分を踏み抜いて、右足が埋まる。
ラッパ銃の射撃を、モロに食らう。
怯んだところを、アゲインが一太刀。
袈裟斬りに切って捨てて、続けてナックルガードで拳を一発。
胴体を切られ、顔に良いのを貰った。
セツナが床を踏み割る。
左足で床に衝撃波を流す。
アゲインの両足が床に埋まる。
セツナの足元には、穴が開く。
即座に空中ジャンプ。
気と足を取られたアゲインに、空中ジャンプからの飛び蹴り。
炎の足が、落下速度を速める。
飛び蹴りが命中。
直後、ラッパ銃が火を吹く。
お互い地面を転がる。
立ち上がったアゲインを、散弾が襲う。
ライザが、ザコを片付け終わった。
ついでに、船も一隻沈めといた。
大砲に亡霊を詰め込んで撃ったら、クリティカルヒットした。
取り巻きは居なくなった。
しかし、ザコをまとめる船長は怯まない。
ライザの散弾を受けても、怯まない。
効いてはいる。
だが、それを上回るほどに――。
「楽しいなぁ! 楽しいなぁぁオイ!!」
劣勢にも関わらず、ニカリと笑う。
闘争に、高揚している。
「身体の底から‥‥、熱いのが滾って来やがる‥‥ッ!」
機械の体では感じることも無かっただろう。
脳内麻薬がもたらす高揚感と、全能感を。
‥‥海でできる悪いことは、全部やったつもりでいたが、まだまだ世界は広い。
人間が、なぜ悪事などという非合理を行うのか、少しだけ理解できた。
ライザは銃をリロードする。
弾は、もう効きそうにない。
殴って、それから終わらせる。
「セツナ、決めるわよ。」
「‥‥ちゃんと、ついて来なよ?」
「あんたこそ、振り落とされないでよね。」
「ヤーハー! もう勝ったつもりか?
もっと、もっと、俺様と遊ぼうゼェ!!」
ラッパ銃が火を吹いた。
結晶の柱が、それを防いだ。
晶力解放:地
船の床から、白く曇った水晶が生える。
水晶の表面が、小さく細かく砕ける。
拳が、水晶を砕く。
根元から折れて、水晶の塊が飛んで行く。
見え見えの攻撃は、悠々と回避――。
――するも、背後から水晶が飛んで戻って来る。
テレポートしたセツナが、水晶を蹴り返した。
アゲインは、ラッパ銃の義手で、飛んで来た水晶を割る。
剣でライザを牽制。ラッパ銃でセツナを牽制。
ラッパ銃が、砕けた水晶を吸い込む。
体積を無視した量の水晶が吸い込まれ、鋭く尖った水晶が銃口から発射される。
セツナはテレポートで回避。
回避先に置きエイム。
ぶっ放して、棘の散弾がセツナに命中する。
勢いそのまま、ラッパ銃は続けてライザを狙う。
鋭い棘の散弾が、ライザを襲う。
避けられず刺さり、赤いエフェクトが流れ――、そのままアゲインを殴り飛ばした。
丈夫な身体で、気合と根性で散弾を受け、ぶっとばす。
「なにィ!?」
策士、策に溺れる。
アゲインは、手に入れた玩具に、はしゃぎ過ぎた。
セツナが避けたから、ライザも避けるだろうと思ってしまった。
自分が散弾を耐えられたのに、なぜそれが他人にもできると思い至らなかったのか?
人間の感情は非合理ゆえ、そのような間違いを犯すのだ。
ライザは、アゲインの右手を取る。
剣を持った腕を脇に抱え込み、動きを封じ、膝蹴り。
こっちに向いたラッパ銃に、拳を突っ込む。
銃から黒い煙が上がる。
銃口から出てきたライザの手から、黒い煙が上がっている。
膝蹴りを、もう1発。
煙の上がる拳で、顔面パンチ。
吹っ飛ぶアゲインを、セツナが捕まえる。
背後から、組み付く。
後ろから腰に手を回し――、ジャーマンスープレックス。
半月の軌道を描き、アゲインを床に叩きつける。
地面に大の字に倒れたアゲインに、拳を振りかざす。
「魔女の――。」
AGを4本消費。
左手の中から、赤黒い太陽の光が滲み出す。
「一撃!!」
セツナの拳が、船をカチ割った。
アゲインは、船と一緒に、海へと沈んでいく。
悪魔の左手に、昏い太陽が昇る。
赤黒く昇った、脈打つ熱を握りつぶし――、掌握する。
海の中で、太陽が弾ける。
船の周りに、いくつもの水柱が上がる。
全てを奪う、破壊の太陽が海の中で暴れ、そこにいる者を、海の中だろうと蹂躙していく。
合計で30。
30発の太陽爆発と、30本の水柱。
割れて沈む船の周囲は、静かになる。
‥‥しぶとい海賊だ。
まだ、生きている。
いや、正確にはもう死んでいるのだが、まだ続けるつもりでいるらしい。
「はッ! こんな楽しいこと、死んだくらいで終わらせてたまるかってんだ!」
海の底から、声が響く。
亡霊船長の航海は、まだまだ続く。
‥‥‥‥。
スチャリ。
革と金属が擦れる音がした。
セツナのホルスターに、ずっしりと重い、懐かしい感覚。
懐かしい感覚を引き抜く。
右手は力が入らないので、左手に持ち変える。
反動で、蹴り上げられては大変だ。
ライザが、セツナの横に立つ。
彼の左横。
いまは、こっちの位置に居たいらしい。
アイコンタクト。
――それだけで、充分。
晶力‥‥、重来。
セツナの足元を中心に、魔法陣が展開。
黄色い魔法陣は、稲光する放電を伴っている。
膝を浅く曲げ、同じタイミングで床を蹴る。
沈む船から脱出し、空へと飛ぶ。
銃口を、海へと向ける。
「地獄の海を、泳ごうぜェェ!! ヤーハーーー!!!」
蒼白半透明となったアゲインが姿を現す。
人間の姿となったから、死人にもなるし、幽霊にもなる。
往生際の悪い海の亡霊を、二丁のリボルバーが睨んでいる。
「往生際だぜ――、ベイビー。」
「サメの餌になりなさい。」
晶力重来:十二星
引き金を引いた。
撃鉄が落ちた。
魔弾が撃ち出された。
二丁六発、フルトリガーフルバースト。
6発の弾丸が、フルオートで射撃される。
悪魔の銃が、手元で暴れる。
1発ごとに手の中で暴れ、腕を振り回す。
手元が狂い、銃口がブレる。
暴れ放たれた12発の弾丸は、流れ星となり、流麗群となる。
それは、星の鉄槌。
流れ星が集まり流麗群となり、流星群は空が振り下ろす天鎚となる。
――空からの鉄槌が、海の亡霊を撃ち抜き、潰した。
‥‥‥‥
‥‥
冥海の空が晴れていく。
海が澄み渡っていく。
沼の海が、明るい日差しに照らされていく。
生者の肌を明るく照らし、死者の彷徨える魂を抱擁する。
船の墓場は、澄んだ姿を取り戻すだろう。
冥海を荒らす海賊が、蘇らぬ限りは。
景色が褪せて、ぼやけていく。
海面と、海の中に、セントラルの景色が映える。
空を下り、海へと落ちる。
その最中――。
ライザが、セツナの左手を握る。
強く握り、それから離した。
‥‥‥‥。
海の中へ飛び込む。
その先は、青い日差しの差す、セントラルだった。
左手にリボルバーを握ったセツナが、1人そこに立っている。




