SS14.10_契約
時間を、少し遡ろう。
「少し見ないあいだに大きくなったね、グレイ君。」
「長くは持ちません。速攻で仕留めましょう。」
この会話を、ハルの視点から見てみよう。
グレイに食べられたハルは、自らの異界武器と同化した。
‥‥そして、どうかなっていた。
「グレイ! 今すぐこの鎖を解きなさい!」
ハルは、手足を鎖で縛られている。
水晶のように透き通った鎖。
鎖が4本伸びて、手足を1本ずつ絡め取っている。
鎖は、彼女を閉じ込める水晶の檻から伸びている。
宙に浮いた、六角柱で、両端の尖った形状の檻。
ハルは檻に閉じ込められ、なおかつ鎖で四肢を雁字搦めにされている。
灰色の水晶に囲まれた空間。
グレイは、ハルを無視している。
背を向けて、知らんふり。
自分を無視する子ども姿のグレイに、ハルはなおも言葉を投げて‥‥、話し合いを試みる。
「ねえ! 聞こえているんでしょう!
私をここから出しなさい!
いま解放すれば‥‥、許して――! あげるから――!」
だんだんと、怒気が強まるハルの言葉。
グレイは、やっと後ろを振り返り――、やっぱりそっぽを向いた。
「‥‥このガキ――。」
いけない。
地雷を踏んだ。
もはや地雷源で踊るのではなく、地雷がタップダンスを踊っている。
じゃじゃ馬が暴れ始めた。
鎖と檻は‥‥、長くは持たない!
(セツナさん、頼みます‥‥! 早く終わらせましょう‥‥!)
グレイの背後で、ハルは鎖を破壊しようと試みている。
腕を引っ張り、鎖を引き千切ろうとする。
右腕を拘束する鎖が、赤く色を染める。
ハルの腕から滴った液体で、そうなった。
右手首、腿、それから首。
滴る赤いエフェクトも何のその。
大人のグレイが負った傷のフィードバックすら燃料に変えて、檻の中で暴れる。
じゃじゃ馬が、怪獣に戻りつつある。
晶力重来:死ノ剣
竜がホルダーを喰らい、一体化する合技。
その特性は、CEとパイロットの関係に似ている。
本来は、グレイとホルダーで役割を分担し、大人姿となった竜を操って戦う技。
‥‥なのだが、グレイは多感で反抗期なお年頃。
姉みたいに口うるさいホルダーと相乗りなど、まっぴら御免なのである。
だから、閉じ込めた。
閉じ込めたら、輪をかけてやかましくなった。
グレイは、二と三の太刀、黒翼の剣の操作に集中する。
本来なら、この操作は竜とホルダーのどちらかが担当するのだ。
黒翼の剣を片方が操りつつ、もう片方が大人グレイを操る。
そうすることで、単騎での波状攻撃と飽和攻撃が可能となっている。
だが、グレイは1人で操作することを選んだ。
これが初乗りである。
息など、会おうハズがなく‥‥、絶対に主導権で揉める。
グレイは、ハルとの共闘では無く、セツナとの共闘を選んだ。
それが、最善手であると――、そう信じて。
‥‥‥‥
‥‥
しばし、激闘があり――。
プロトエイトは倒した。
水晶の檻は壊れた。
割れた檻の中から、怪獣が出てくる。
「ふふ。おめでとうグレイ。
よくやったわね。」
グレイに、労いの言葉を送る。
指の骨を鳴らしながら、彼に近づく。
「――そして、よくもやってくれたわね?」
首の骨が鳴り、グレイを威嚇をする。
グレイは、無言で後退り。
大慌てで晶力重来を解除しようとするのだが‥‥。
変身解除に干渉され、妨害される。
「‥‥逃さん‥‥ ‥‥お前だけは‥‥!」
――ハルの右が、グレイの腹に突き刺さった。
グレイのライフポイントは、ゼロになった。
ハルの、ぶちかましによって。
◆
一行は、徒歩で結晶の巨岩へと向かっている。
ハルがグレイの足を持ち、引き摺りながら歩いている。
が、さすがに可哀相になってやめた。
今はおんぶをして歩いている。
このまま、何事も無ければ良いのだが。
異界化した空間では、何が起こるか分からない。
警戒しながら進んでいると、ドリーの足がふらつく。
貧血みたいに立ち眩みが起きて、足取りが怪しくなる。
ふらつく彼を、ライザが受け止めた。
「ライザさん‥‥、すいません。」
「気にしないで。」
セツナとグレイ以外には優しい、ライザであった。
まるで、姉御肌の気の良いお姉さん。
ドリーは深呼吸をして、再び自分の足で歩こうとする。
また足がもつれて、あわや倒れそうになる。
ライザが、後ろから肩を掴んで支える。
‥‥よかった、ドリーに怪我が無くて。
あわや、ゴリラに握りつぶされるところだった。
ライザが、なぜかセツナを睨む。
音の出ない口笛を吹いて誤魔化セツナ。
ドリーは申し訳なさそうな表情。
視線が、地面の方を向いている。
ハルがリーダーとして、提案をする。
「どうする? 少し休憩しようか?」
「いえ! みなさんのお邪魔をする訳には‥‥。」
提案を、ドリーが否定する。
強がる少年に、ライザはイタズラっぽい笑顔。
「だったら、あたしがおんぶしようか!」
「だだだ、大丈夫です!」
ブンブンと顔を横に振るドリー。
彼は、ライザやグレイとは違う。
「格」の低い、無名武器なのだ。
ハルの背中で、グレイが目覚める。
金髪の頭に手を置き、身を乗り出す。
被っているベレー帽が、くしゃりと潰れた。
「ドリー。眷属との契約を認めよう。
仮の契約となるが、幾分かマシになるだろう。」
じゃじゃ馬がグレイの手を払おうと、頭を左右に振る。
グレイは、意に介さない。
「契約? が何か分からないけど、起きたなら降りなさい!」
「断る。
存外、この眺めが気に入った。
馬車馬のように働く権利をくれてやる。」
「この‥‥!」
ライザが腰の銃に手を掛ける。
グレイはハルの背中に引っ込む。
馬車馬の首筋に、爪を当てる。
「おっと姉上。
おかしな素振りを見せれば、この女が不要に傷つくぞ。
姉上のせいでな。」
「こいつ‥‥!」
ハルを人質に取り、ライザの暴力から小賢しく身を守る。
ドリーは、傍若無人な竜と、殺気立つガンマンにあわあわしている。
グレイが、またハルの頭に手を置き、身を乗り出す。
視線が高く、愉快である。
「ククク――。見ただろドリー?
この部隊は、我が手中にある。
遠慮せずに、眷属と契約をするが良い。」
「い、いいのかな? ホントに?」
「構わん。
こう見えて眷属は、まあまあ腕が立つ。
強くなりたいのであれば、契約する相手は選べ。」
ライザは、しれーっとセツナの右側に立つ。
にっこりとドリーに笑顔を向ける。
やんわり、彼を脅している。
セツナとは契約させん!
強い意志を感じ取り、セツナも黙っている。
周囲の時間の流れが止まり――、風が吹くとともに動き出す。
とことこ。
遠慮がちな歩調の背中を風が押して、ドリーはハルの目の前に立つ。
ハルは、グレイを背負ったまま屈む。
ドリーと目線を合わせる。
「あ、あの‥‥! ハルさん!
僕の‥‥、ホルダーになってください!」
――にひっ!
眩しい笑顔が返って来た。
「ありがとうございます!
非力で戦うことは苦手ですけど、回復魔法でサポートします!」
グレイは、笑顔の上に肘をつき、頷く。
これにて、一件落着。
ハルは立ち上がり、グレイを背負い直す。
「それで? 契約ってどうすればいいの?」
頭に肘をついているグレイが、ため息。
な~んと察しの悪い眷属であろうか。
「おい眷属~。我らは武器だぞ?
契約と言ったら、装備する以外に他があるのか?」
「ああ~。なるほど。」
ハルの目の前で、ホロディスプレイが起動する。
ドリー (コリブリピストル)を装備するか否かの選択肢が表示される。
「Yes」を選択する。
すると続けて、現在の装備と変更するか否かの選択肢が表示される。
「ドリー」と、「ポーション」を入れ替えますか?
ドリーは、回復アイテム扱いらしい。
「Yes」を選択。
ハルのスキル欄に、ドリーが装備された。
契約成立。
ドリーはハルの異界武器となり、ハルはドリーのホルダーとなった。
ハルと契約したことにより、彼女の経験が魔力となって異界武器に流れ込む。
彼女の強さ、気質、戦闘データやビルド。
様々な情報がドリーに流れ込み、取捨選択される。
無名武器を、異界武器として成長させる。
‥‥元が非力過ぎるゆえ、微々たる成長であるけども。
それでも、彼にとっては大きな一歩だ。
ひな鳥の羽ばたきをバカにする親鳥はいない。
「ありがとうございます! ハルさん! グレイ君!」
両手を胸の前でギュッと握り、お礼を言うドリー。
彼は、姿がうっすらと消えていって、ハルのポケットに入り込んだ。
小さな光球となり、彼女のスキルに装備されたのだ。
~
ドリー (異界武器)
回復魔法を扱える異界武器を召喚する。
回復魔法の効果は、以下の3つの中から選択できる。
1.味方1人の状態異常を回復し、体力を3/s 回復させる。
持続100秒、合計回復量300。効果中は状態異常無効。
2.味方全員の体力を、200ポイント回復する。
3.自分が力尽きた時、体力を100ポイント回復する。
BGを1つ消費。1度の戦闘で1回限り。
この回復アイテムに、パッシブは装備できない。
~
これにて、ドリーの正式な持ち主が決まった
めでたしめでたし。
‥‥‥‥そうはならない。
そうは、ならないのだ。
ふと、兄の方を見た。
彼の横に、ライザが立っている。
金髪碧眼の、背の高い女性。
深紅のスカーフ。
胸元とヘソを見せるワイシャツ‥‥。
「そう言えば兄さん、この前のイベントの時も‥‥。」
思い出す、クリスマスイベント。
自分の兄は、ガールフレンドと妹に捨てられたあと、知らない女性を引っ掻けていた。
金髪で、お淑やかなドレスを着た女性。
※ep.208に登場した、アンジェのこと。
彼は、捨てられた腹いせに、ガールフレンドと妹に、金髪美女と取っ組み合っている姿を、自分たちに見せつけてきた。
そして、自分が今日、セツナに会った時も、彼はライザと取っ組み合っていた。
‥‥金髪の、美女。
グレイを片手でおぶる。
左手で、髪の毛の毛先を梳く。
肩まで伸ばした金髪が、さらさらと左の視界を流れていった。
時が止まる。
風が、ハルの前を通り過ぎて、髪を梳いた。
‥‥‥‥。
「うっわ! ――うっっっわ!!」
ドン引きしながら、セツナと距離を取るハル。
「‥‥おい。」
妄想たくましい妹に、兄の方は呆れ顔。
妹の頭の上のグレイも、呆れ顔。
「ハル‥‥、そんなこと言っちゃっていいのかな?」
そっちがその手札を切ると言うのなら、こっちにも用意があるのだ。
強力な、カウンタートラップの用意が。
1ターンだ。
たった一言で、後攻ワンターンキルを決める。
――ジッと、ハルの方を見る。
左手をシュワッチと構えて、臨戦態勢のハル。
セツナの視線は、グレイの方を向く。
それから、ドリーが消えていったポケットの方も見る。
「ハルは――、子どもが好きなんだね!」
「ごめんなさい。謝るからそれだけはやめて!」
みろ、見事なカウンターで返した。
調子に乗ってるからこうやって痛い目に遭う。
脳裏に、奇天烈な名セリフがよぎるハルであった。
「ククク――。気に病むな眷属よ。
我はその程度で、お前に失望などせぬ。」
「お・ま・え――!」
「なんだ眷属? 我は子どもだぞ?
いたわれ、労え、敬意を払え。」
「だァーーー! ややこしくなることを言わないでよっ!」
――てか、下りろ!
――断る!
――飛べば良いでしょ飛べば!
――ふん! 眷属をこき使ってやってるのだ。感謝しろ。
――ライザ。オレたちだけでも、先に行こっか?
――そうね。そうしましょう。
――ちょっと待って! ねぇ! 置いてかないで!
――進め~! ハイドー!
‥‥イテテテテ!? 摘むな! 腿を摘むな!? 千切られる!?
――あはは‥‥。みなさん、仲良しですね。
‥‥‥‥
‥‥
◆
もしも――。
もしも私が、天の衣をもっていたのなら。
黄金と星屑の光で織った、
青く薄墨の色をした、ほのかに暗い衣。
そんな、薄明かりの衣があったなら、
あなたの足元に広げるのに。
そっと、あなたに足元に、灯りを――。
詩を読んでいた。
巨岩の下で。
――美しい。
なんとなく、空を見上げてみた。
天まで澄んだ、青い色。
ぽつりと浮かぶ、堂々と照り輝く、白日の黄金。
――美しい。
白日を、この身に。
頬、手、服。
温める。温まる。
――心地よい。
心地よいとは、美しい。
心地よいから、それは美しい。
初めて‥‥、知った。
ならば、この美しさをもたらす ”それ” もまた――。
――美しい。
そうであったならば‥‥。
機械はとうに、人間になれていたであろう。
‥‥‥‥
‥‥
分からない。
こんなにも美しく、こんなにも暗い。
なぜ、こんなに美しく、こんなにも暗い。
こんなにも世界が良く見えるのに‥‥、何も見えない。




