SS14.08_影広げる極彩鳥
M&Cには、シネマティック・シナリオ・システムという、ストーリ分岐システムが存在している。
セントラルの冒険は、プレイヤーの行動や選択により、有機的に変化していく。
旧現代のゲームとは比べ物にならないほどリアルタイムに、世界は変化する。
AIが人間と、違和感なく意思疎通が可能になったことにより実現した、シネマティックシステム。
ネクストという、無制限無限大の資源により、実現したシステムでもある。
人間とは、超高性能かつ、超省エネなマルチタスクコンピューターである。
それを機械が模倣するためには、ネクストの力が必要だった。
人工知能の研究に多大な貢献をした、マーヴィン・ミンスキー (1927 - 2016)は、自著にて、人間のマルチタスク能力について語っている。
その内容を要約すると、次のようになる。
~
幼子がする、積み木遊びですら、AIにとっては難問なのだ。
AIが赤子のように積み木遊びをするのには、実に100個の命令が必要となる。
単純な積み木遊びにも、ルールがある。
例えば、積み上げた積み木は、もう使ってはいけない。
当たり前である。
塔の根元の積み木を、塔のてっぺんに置こうとすれば、塔はたちまち崩れてしまう。
塔のてっぺんにある積み木をいくら使っても、塔はいつまで経っても高くはならない。
幼子でさえ、そのことを「常識」として認識している。
しかし、この常識をAIが理解するには、実に100個の命令文が必要となるのだ。
我々人間は、積み木で遊ぶのに、100個の命令文を必要としない。
ただひとつ、「常識」というものがあればいい。
我々は、無意識のうちに、それを忘れてしまっている。
常識とは、認識や思考の、出発地点や最小単位ではない。
常識とは、もっと広域的な、数え上げるのも億劫なほどに膨大な――。
幾千幾万の命令文からなる、巨大で複雑な心の社会であるのだ。
~
実のところ、人工知能に関する理論の研究は、西暦が2000年になる頃には、あらかた終わっていた。
それでも、完全なAIの実現には、ネクストが必要不可欠であった。
機械が人のように思考し、意思決定をする。
そのためには、膨大な命令文と、それを演算できるだけのコンピューター。
そして、コンピューターを動かせるだけのエネルギーが必要であった。
レオナルド・ダ・ヴィンチの、ヘリコプターと一緒だ。
ヘリコプターの理論は、1500年代にはあったのに、実現には400年の時を要した。
ダ・ヴィンチのヘリコプターも、完全な人工知能も、理論に技術が追い付いていなかった。
ヘリコプターは、黒いダイヤモンドと呼ばれる、石油の発見によって実現した。
完全な人工知能は、ネクストと呼ばれる、情報エネルギーの発見によって実現した。
完全な人工知能の実現により、VRゲームは誕生した。
AIの研究と、人間の脳科学は、切っても切れない関係にある。
機械に人間の思考をさせるには、人間の脳の仕組みを知らなければならなかったからだ。
また、AIの学習プロセスを解析することにより、脳科学もまた、発展していった。
AI科学と脳科学は、両の車輪。
機械が人間のように思考できるということは、人間の思考を、0と1の数列で表記可能になったことに他ならない。
人間が電脳世界で自由に身体を動かし、五感で世界を感じるのだって、機械が「考える」ことを出来るようになったからだ。
マーヴィンの言葉を借りるなら、機械が「常識」を身に着けた。
そういうことになる。
偉大な先人たちの研究を根幹とする、シネマティック・シナリオ・システム。
その手法は古典的で、AIや世界にパラメータを設定するだけ。
すると、そのパラメータに応じて、AIが意思決定や行動したり、世界が変化したりする。
AIと世界。
それぞれが、それぞれの「常識」に従って行動するのだ。
そのため、同じ任務に別のプレイヤーが挑んでも、同じシナリオにはならない。
最終的な結果は同じになるが、過程は超有機的に変化する。
任務の協力者が変わるかも知れないし、同じ敵でも、強さが変わっているかも知れない。
M&Cは、プレイヤーの実力に応じて難易度が変化する。
プレイヤーが強ければ強いほど、敵も強くなる。
異界武器とは、この世界にあって、特異な存在だ。
プレイヤーが強ければ、異界武器も強くなる。
強い味方の加入により、任務の難易度が相対的に下がる。
だが、もしも‥‥。
もしもの話しではあるが、プレイヤーの異界武器が、敵対者として現れたら?
プレイヤーの最高峰、ランカー。
もし、彼らの異界武器が、敵として現れたら?
‥‥‥‥。
この世界は、強者に優しくない。
そして、強者に嬉しくできている。
◆
『侵入者を、排除します。』
「プロトエイト‥‥。」
セツナのCE、その異界武器。
プロトエイトが、5人の前に立ち塞がった。
しかし妙だ。
セツナは左腕に装備したスマートデバイスに触れる。
デバイスがホロディスプレイを表示。
CEの情報画面が開かれる。
情報によればプロトエイトは、CCCのガレージで待機状態となっている。
グレイと異なり、プロトエイトは巨岩の光を浴びていない。
なら、目の前の異界武器は――。
晶力解放:隼
プロトエイトが翼を広げる。
CE実機と同じく、胸から肩にかけてのラインに、戦闘機のような翼が展開される。
プロトエイトの姿が消える。
実機と同じく、一瞬で時速100kmを超える速度に達する。
人間の反応など許さぬ速度で、セツナをカタールで串刺しにした。
咄嗟に、ガントレットで胸を守ったセツナ。
しかし、カラスの嘴は受け止められず、籠手を貫通して嘴が胸に刺さる。
プロトエイトの背部から魔力が溢れる。
鎧の隙間から、背中と脚の隙間から、魔力が流れる。
セツナを串刺しにしたまま、空へと連れ去る。
グレイが、プロトエイトを追う。
「おのれ――!」
竜の翼が、黒い極彩鳥を追うも――、追いつけない。
極彩鳥はもう、亜音速まで加速している。
晶力解放:鴉
セツナを刺しているカタールが、炎に包まれる。
クラス「魔導拳士」のスキル、 ≪炎撃掌≫ を模したスキル。
嘴が炎の槍となり、セツナを焼いて穿った。
魔力の槍によって、セツナは空から叩き落とされる。
斜めの角度でビルに侵入。
ビルの反対側から退去して、地面に叩きつけられる。
晶力解放:梟
スキル ≪魔女のライトニングアクセル≫ を模倣。
プロトエイトの姿が消える。
瞬間移動し、自分を追って来たグレイの上を取る。
グレイは、大剣を召喚し構える。
彼奴は、亜音速で動き回る。
攻撃を躱すのは不可能。
受けて凌ぐ。
プロトエイトの足に稲妻が走る。
霹靂一閃。
青空から稲妻が落ちる。
鳥の足に生えた鉤爪が、大剣とぶつかる。
カラスと竜が、空から落ちる。
背中からグレイは地面にぶつかる。
稲妻を纏ったカラスに、力負けした。
大剣を持った竜が、カラス如きに力負けした。
烏合風情と侮るなかれ。
「格」が違うのだ。
悪魔の出来損ないと、本物の悪魔が駆るCEでは、格が違う。
カラスの鉤爪は、グレイの小さな頭を掴み上げる。
掴んで、放り投げ、グレイは建物の壁に激突。
瓦礫の中に生き埋めとなってしまう。
プロトエイトの狙いは、セツナたちの分断。
エージェントは、複数人で協力することで、より大きな力を発揮する。
パイルバンカーを、魔法の力で加速させ、射程を大幅に強化する。
魔導拳士に灰色の杖を渡し、AGが溜まるまでの脆弱さを補う。
そのような連携により、クラスのスペックを超えたパフォーマンスを発揮する。
だから、それを封じる。
自分の速度を活かし、疑似的に1対1を構築し、分断する。
晶力解放:隼
地上を亜音速で飛行。
地上をのろのろしている、ハルとライザの元へと飛ぶ。
「この‥‥!」
ライザは、ファニングショット。
リボルバーから散弾を連射する。
――当たらない。当たる気がしない。
CEよりも遥かに小さな的が、音速に迫る速度で三次元機動をしているのだ。
しかも、プロトエイトは、最高速度よりも制動能力に優れた機体。
減速することなく直角に曲がり、そこから減速することなくライザに突っ込む。
晶力解放:鴉
晶力解放:地
炎を纏う嘴の一撃を、踏み割った岩盤で受ける。
プロトエイトの足元から、結晶の柱が追加で伸びる。
結晶は、カラスを捉えなられない。
鳥が岩盤を回り込み――。
晶力解放:鶯
燃える鉤爪で、ライザを押し倒した。
胸と腹を、爪で抉られ、地面に倒される。
プロトエイトの翼と背面に、魔力が流れる。
ライザの身体が地面に押し込まれ、爪と足が深く食い込んでいく。
彼女は勝気な瞳で、黒い極彩鳥を睨んでいる。
ハルが銃剣を振るう。
右銃剣が、横薙ぎに迫る。
プロトエイトは避けようとして‥‥、それができなかった。
ゴリラに、足を向けたのが運の尽き。
ライザが、腕力でプロトエイトの足を掴んでいる。
銃剣が、亜音速のカラスを捉えた。
動けないのであれば、音速も光速も知ったことではない。
プロトエイトは吹き飛ぶ。
ライザを掴んだまま。
ゴリラが足を掴むのなら、こちらも爪で掴むまで。
空中で受け身を取り、くるりと縦に一回転。
ライザを伴って空を飛ぶ。
飛んで、手頃な建物の屋上へ。
晶力解放:梟
爪に流れる稲妻が、ライザを感電させる。
身体に食い込んだ爪が、彼女の身体を内側から焼いていく。
急降下。
3階建ての建物の、屋上と天井を全部破って、ライザは1階の床に叩きつけられた。
持ち前の丈夫さで攻撃を耐える。
が、ちょっとしんどい。
建物の壁が撃ち抜かれる。
ハルのレールガン。
壁越しにプロトエイトをロックオン。
魔弾が曲線を描きながら、極彩鳥の装甲を凹ませた。
ライザが、鉤爪から解放される。
天井に空いた穴に目掛けて、雷が落ちる。
スキル ≪魔女のライトニングアクセル≫ 。
ドリーを脇に抱えたセツナが、建物の中に乱入する。
奇襲を仕掛けるも、魔力の流れを読まれ、攻撃は当たらない。
ドリーを離す。
少年がライザの治療を始める。
本当の狙いは、こっち。
ライザの治療。
グレイが、セツナに合流する。
晶力解放:巳
シルバーアクセサリーの尻尾を、変形させる。
液状化させ、プロトエイトを囲むドームに整形。
液化銀が硬化。
プロトエイトは、内側から嘴を突き立て、脱出を図ろうとしている。
セツナが攻撃に転じる。
スキル ≪グランドスマッシュ≫ 。
攻撃の出始めをZキャンセル。
振り上げた脚は地面を踏み割り、地面を揺らす。
地中を伝う衝撃波が、プロトエイトを足元から攻撃する。
手応えを覚える。
銀の壁の向こう、攻撃は命中した。
ドームの中から、空気を裂く音。
CEのブースター音が、銀の壁を振動させる。
もう、持たない。
――レールガン。
ハルのスナイプ。
魔弾の着弾寸前、グレイがシルバーの硬化を解除。
液状化した壁を、弾丸が通り抜ける。
魔弾がプロトエイトに命中。
怯んで、たたらを踏む。
セツナが前に出る。
スキル ≪炎撃掌≫ 。
右手に昇った太陽を握り潰し、掌握する。
黒い極彩鳥に、燃え盛る掌底が迫る。
晶力解放:鴉
プロトエイトも、 ≪炎撃掌≫ 。
掌底を貫くかのように、燃え盛る嘴を前に出す。
‥‥手の甲を、燃える刃が穿つ。
右腕が、肩まで火傷を負う。
‥‥左肩の関節から、火花が散る。
太陽を受けきれず、関節が悲鳴を上げる。
セツナの背中を、じゃじゃ馬が飛び越える。
晶力解放:炎
ブレイズキック。
ドリーの治療を受けたライザが、セツナを飛び越えて、ジャンピングキック。
セツナが、手に生えたカタールを握り込む。
カラスに逃げられぬよう、嘴を掴む。
プロトエイトはカタールを破棄。
即決。
左手に装備した嘴を手放した。
エージェントには、ブレイブアーマーがある。
ここで張り合っても、不退転の力で耐えられるだけだ。
ライザの飛び蹴りを、バックステップで躱す。
晶力解放:隼
晶力解放:鶯
黒い翼が、真っ赤に燃える。
驚異的な加速で、セツナ・ライザとすれ違う。
燃える翼が、2人を焼き、切り裂いた。
勢いそのまま、ドリーを蹴り飛ばす。
グレイが彼を突き飛ばし、庇った。
自分が蹴り飛ばしたグレイを、空中で捕まえる。
あっさりと追いつき、フリーハンドとなった左手で、宙を舞うグレイを捕まえた。
――加速。
壁をブチ破りながら、全速前身。
目的地は、ハルのところ。
さっきから、遠くからチクチクしている、女々しいスナ野郎の元へ。
グレイを盾に、ハルへ急接近。
3秒も立たず、ハルを攻撃の間合いに捉える。
他の者が追い付くには、10秒はかかる。
ヒーラーが居ない隙に、この2人に痛手を負わせる。
hps (回復速度)を上回る勢いで、ダメージを蓄積させる。
ハルは、グレイを盾に接近してきたプロトエイトに対し‥‥、引き金を引いた。
盾の存在など、お構いなし。
照準も、指先も。
何も躊躇わず、魔弾は発射される。
弾がグレイの身体を貫き、プロトエイトに命中する。
相対速度の影響で、ダメージが水増しされる。
速度が、死ぬ。
カラスに掴まれていたグレイが、悪い顔をする。
「ぬかったな‥‥!」
晶力解放:焔
闇の炎が、プロトエイトの拘束を振り払う。
カラスを模した兜を掴み、地面に叩きつける。
後頭部を、強く打ち付けた。
しかし、プロトエイトもタダではやられない。
地面に叩きつけられてすぐ、彼の足首を、左手で掴む。
ふくらはぎを、右手のカタールが裂く。
右腕から、ブースターのような魔力が噴き上がる。
ふくらはぎを、推進力に任せて、下から上に引き裂く。
右腕の勢いで立ち上がる。
グレイの足首を持ったまま立ち上がり、彼を転倒させる。
加速。
ハルは、武器を二丁拳銃に持ち替える。
カタールによる突き攻撃を、 ≪リボルビングスピン≫ で回避。
プロトエイトの二の太刀。
左手のグレイを、横に振るう。
雑に振るって、投げ飛ばされたグレイ。
ハルは ≪ムーンスタンプ≫ で回避。
フロントフリップで、プロトエイトの上を取る。
銃口を向けるも、彼はもうそこに居ない。
カラスは、ハルの真横に居た。
燃える翼の熱が、頬を焼く。
スキル ≪リボルビングスピン≫ 。
空中で榴弾のフルオート射撃をしながら浮上。
頭頂部を、燃える翼が掠めた。
――急停止。
――急旋回。
悠長に空を散歩しているハルの後頭部を、鳥の足が掴む。
爪が‥‥、爪の先が、頭蓋骨を貫通している。
獲物を掴み、足を上に振り上げ、振り下ろす。
CEの比にならない関節の可動域を使う。
抗う術も無く、ハルは地上に叩きつけられる。
急加速。
ハルを嘴で貫く。
仰向けのハルに、嘴が食い込む。
腹に細長い穴が開いた。
腹を穿ったまま、ハルを持ち上げる。
それを、大剣を握るグレイの方へ向ける。
カタールに刺したハルを、グレイの攻撃からの盾にする。
グレイの瞳に、一瞬の迷いが生じる。
ハルは自重により、カタールに腹を掻っ捌かれる。
鳩尾まで切られて、肋骨の部分で落下が止まる。
プロトエイトの背後を、銀色の尻尾が不意打ち。
地中を伝い伸びてきた、グレイの尻尾。
加速。
尻尾よりも速く前進。
ハルを突き刺したカタールで、グレイも串刺しにする。
晶力解放:鴉
炎の槍が、2人を射抜いた。
ハルの頭を守るように、グレイが背中から倒れる。
――突如、道路をタンブルウィードが転がる。
プロトエイトと、ハルたちのあいだに割って入るように。
直径1メートル以上の枯れ草の塊が、炎の蛇に入り込まれて、燃えながら転がる。
プロトエイトの目の前を、枯れ草の団体が通り過ぎる。
ころころ、ころころ。
その、枯れ草のひとつ。
そこから、マジックワイヤーが伸びてきた。
ワイヤーがカラスを捕まえる。
枯れ草の中に隠れていた、セツナが飛び出す。
顔に負った火傷を無視して、炎の推進力を使い接近。
低い姿勢からの下段蹴り。
ダンスのステップを踏むように、足を前に出す。
カラスに飛んで躱される。
上から爪が降りかかる。
地面に両手をつき、足を振り上げる。
逆立ちの状態になりながら、爪を弾く。
足を覆う魔力が、炎から雷に変わる。
両手で向きと角度を調整。
スキル ≪ライトニングエッジ≫ 。
稲妻の速度を持ってしても、カラスの動きについていけない。
亜音速の速度が、攻撃面においても防御面においても、絶対不可避の暴力となり、この場を支配している。
――だからこそ、ランカーたるセツナの出番だ。
速度で勝てないなら、別の要素で勝つ。
意表を突き、裏をかき、初見殺しで制圧する。
ワイヤーを射出。
最小限の動きで攻撃を回避したプロトエイトに、鎖を撃ち込む。
ワイヤーは、明後日の方に稲妻駆けて行くセツナに引っ張られ、伸びていく。
プロトエイトとは反対方向に、鎖が引っ張られている。
ワイヤーを切り離す。
ベクトル反転。
プロトエイトとは逆方向に向かっていたが力が、反転する。
セツナの身体が、物理法則を無視して、カラスの方へと吹っ飛ぶ。
彼の目論見を看破。
ブースターを噴かせる。
伊達に、彼の愛機を担っていない。
ワイヤーが撃ち込まれた時に、彼の意図を察した。
回避行動を取る。
自分のパイロットは、何をしてくるか分からない。
だから、大きく空に逃げる。
仕切り直しだ。
このままの立ち回りは、リスクが大きい。
‥‥‥‥。
セツナの稲妻蹴りが、プロトエイトを捉えた。
避けなかった?
いや、避けられなかった。
ライザと、タンブルウィードだ。
彼女が蹴り飛ばした燃えるタンブルウィードが、プロトエイトの背に引っ付いた。
加速の邪魔をした。
ハルが、腹を抑えながら立ち上がる。
スキル ≪反逆の飛燕衝≫ 。
二丁拳銃から、反逆心の燕が解き放たれる。
8羽。
全弾命中。
カラスの翼が折れる。
地に落ちるどころか、膝をつかされる。
ドリーが、ハルとグレイの治療を開始する。
コリブリピストルの少年、裏で大活躍。
彼の回復が無ければ、とうに全滅している。
全員が、死なない程度にプロトエイトの気を引くことにより、何とか戦線を保っている。
リゲインをしようにも、攻撃が当たらないのだから、どうしようもない。
守りを固めようにも、スピードについて行けないのだから、どうしようもない。
ドリーの存在が、戦線を維持し、またプロトエイトの行動を縛っている。
彼の回復があるから、プロトエイトは前線に張り付く必要がある。
大きく逃げずに、速攻を強いている。
だから、こちらの攻撃が当たる。
亜音速を、辛うじて追えている。
プロトエイトが、1人だけを遠くまで連れ去ってしまわないのも有難い。
1人ずつ遠くに連れ去さられてボコボコにされれば、セツナたちに打つ手は無い。
希望的な観測だが、亜音速機動は短時間しか使えないのであろう。
使用時間に応じて、クールタイムがある。
プレイヤーが使う、テレポートと同じだ。
‥‥でないと、割と本気で勝てない。
速度で上から殴られて潰される。
亜音速を見切るだなんて、不可能だ。
人間は、100マイル (約160km/h)で投げられるボールを打てない。
亜音速とは、その2倍。
見切れるはずがない。
膝をついたプロトエイトが立ち上がる。
セツナとライザは、様子に徹する。
自分たちからは、手を出さない。
ハルとグレイの治療時間を、少しでも稼ぐのだ。
下手に手を出して藪蛇となっては、目も当てられない。
『装甲の損傷を確認。脅威レベルを再計算。
撃滅プログラム、フェーズ2を実行。』
プロトエイトの胸の装甲が開く
翼を広げるみたく胸が開き、中から大空が顔を覗かせる。
空のように澄んだ、丸くて、青いコア――。
『晶力天灰――、千鳥。』
青い胸のコアに、ケルト十字をモチーフにしたシンボルが浮かび上がる。
大空に、円環の太陽が浮かび――。
剣が、空と太陽を貫く。
『仮想スキルをインストール。』
千鳥 (剣撃) × グランドスマッシュ = 火薬の石棺
プロトエイトの得物が変わる。
カタールから、鎖大鎚へ。
鎖を巻きつけた巨大な石の棺を、カラスが担ぐ。
‥‥棺の中には、侵入者の亡骸が入ることになるだろう。
これは‥‥、イヤな予感。
最悪な組み合わせ――。
プロトエイトが動いた。
魔導拳士が火薬の力で振るう重い棺を、なんのその。
ご自慢のスピードで、重さを物ともせずに扱う。
棺を前に構え、加速。
ライザに突進。
彼女の射撃を棺で防ぐようにして、最短距離をぶっちぎって彼女にぶつかった。
ライザの足が地面から離れる。
上から、棺が降って来る‥‥。
カラスは上から、棺を踏みつける。
棺の下に、ライザが埋まる。
地面に埋まり、見えなくなった。
プロトエイトが加速。
セツナに、徒手空拳を挑む。
文字通りの、マッハパンチ。
避けるために、大きく、上体を横に傾ける。
足を大きく横に開き、踊るように、カポエイラのエスキーヴァのように。
頭上で空気が弾ける。
右手を地面につき、左足でプロトエイトを蹴り上げる。
スキル発動 ≪シルバームーン≫ 。
半月を描く弧が、銀色の魔力を伴って伸びていく。
プロトエイトが屈む。
銀色の半月を捌きつつ、ショルダーチャージ。
鎧の隙間からブースターを噴かせ、タックル。
テレポートで躱す。
背後に回り込む。
‥‥読まれていた。
プロトエイトご自慢の旋回能力を披露。
低い体勢で、セツナの足元を刈り取った。
亜音速の突進。
膝の皿を直撃。
膝が、前に。
あり得ない方向に曲がってしまいそうになる。
現実だったら、膝から先が無くなっていた。
両手をつき倒れる。
脚が痺れて、動かなくなる。
セツナの後ろで轟音。
地面が割れる音が響いて、石棺が宙を舞う。
ライザが、地面に空いた穴から這い出て来た。
カラスは宙の石棺を掴み――、振り下ろす。
ライザの腰を、棺の衝撃が襲った。
腹から水風船が潰れたみたいな音がして、口から彼女らしくない声が漏れ、動かなくなる。
ライザが、棺から解放される。
ハルが銃撃。
2点バースト・グレネードショットガン。
ポンプアクション式のショットガンを、スラムファイア。
引き金を引いたままポンプをコッキングすることで、速射を行う。
爆発する散弾は、分厚い石の棺に防がれる。
プロトエイトに、火薬の棺の組み合わせ。
速度だけでなく、攻撃力も防御力も手に入れた組み合わせ。
棺を前に構え、にじり寄る。
ブースターのクールタイムを、盾による守備で稼ぐ。
セツナは、手元で ≪炎撃掌≫ を発動。
スキルのチャージ動作。
炎の力を、ガントレットに溜め込もうとする。
炎が、カラスの気を逸らす。
セツナは、顔を爪で蹴り飛ばされた。
真っ赤な3本の線が、顔に描かれる。
グレイが大剣を持ち、プロトエイトに斬りかかる。
その隙に、ハルはドリーを担ぎ、ライザの元へ。
気絶している彼女の治療を開始。
ハルは、ショットガンリロードを行う。
グレイには加勢しない。
‥‥加勢できない。
いま、ドリーの傍を離れたら、終わる。
グレイの大剣が闇の炎を滾らせ、石の棺を切る。
棺が大炎上するも、後ろのプロトエイトにまで熱は届かない。
セツナがマジックワイヤーを射出。
脚の利かない状態で、地面に身体を擦りながら、カラスの足元へ。
プロトエイトは、盾の守りを解く。
マッハパンチ。
爆ぜた空気でグレイを吹っ飛ばす。
そして、棺を持ち上げ――。
それを、地を這う隼に――。
「――なんちゃって!」
脚が利かないなんて、真っ赤なウソ。
もう治った。
頭を潰そうとする棺を立ち上がって避ける。
カラスの腹に膝蹴り。
そのまま、首に腕を回す。
ヘッドロック。
脇に頭を抱えて、プロトエイトの自由を奪う。
抵抗のマッハパンチが、セツナを何発も殴打する。
「グレイ! やれ!」
セツナの声を待つまでも無く、グレイは竜の姿となる。
晶力天灰:崩灰
一時的にCEの姿に戻ったグレイドラグーン。
セツナもろとも、拳の餌食とする。
‥‥往生際が悪い。
飛んで逃げられた。
すると地上から、投げ縄が飛ぶ。
セツナの足を捕まえて、馬鹿力で隼とカラスを叩き落とす。
グレイドラグーンが、地上を火の海に変える。
鳥を、丸焼きにする。
追撃の拳、拳、拳――、滅多打ち。
闘争心と殺意に任せて、鳥に拳を何発も打ち込む。
手応えはある。
このまま、死ぬまで殴り続け――。
『晶力天灰:千鳥。』
千鳥 (剣戟 ) × シルバームーン = 銀なる大輪
晴れた空から、月光が降り注ぐ。
月の柱が、グレイドラグーンの拳を受け止める。
ドラグーンの姿が消える。
グレイが、人間の姿になった。
変身で消耗したのか、息も荒く膝を折る。
月光の中、空をカラスが飛ぶ。
満月の大剣を担いで。
満月の、勇躍の加護により、大空を月の翼で――。
――加速。
空から三日月が落ちてくる。
亜音速で空を飛び、月の刃を引き延ばし、空を切り落としたかのような三日月が、地上に。
ハルはドリーを抱え、退避する。
月が、彼女の後方で爆ぜた。
地割れみたいに深い亀裂から、月の光が逆行する。
魔力の圧力で、身体が浮く。
ドリーを庇いながら、地面を転がる。
セツナは、グレイドラグーンの猛攻を受け、戦闘不能になっている。
人間は、CEの攻撃に何度も耐えられない。
原型が残っているだけでも、異常な状態。
月の光に煽られて、力無く地面を、枯れ草みたいに転がっていく。
ハルが顔を上げる。
目の前には、いつの間にか、凶兆のカラスが立っている。
地上で燃える月に、暗い極彩鳥が照らされている。
ライザが、縄を投げる。
ハルの足を引っ張り、カラスから距離を取らせる。
そんな速度で、逃げられはしない。
‥‥けれども、割って入るくらいの隙間は作れる。
満月の大剣が振るわれた。
ライザが、大剣を背中で受ける。
背中から力が抜けていって、口から空気が抜けていく。
「‥‥あのバカを、‥‥起こしなさい。」
ハルとドリーに、それだけ伝えた。
ライザが振り返り、銃を構える。
そこに、カラスの姿も影も無く。
彼女の腹から、新月の剣が生えた。
エストックが、ライザの腹を貫通。
新月の剣は、速足の剣。
エストックとカランビットナイフから成る、変則双剣。
新月の仰ぐカラスの影は、誰も踏めない。
カランビットナイフが滑る。
ライザの首を、後ろから掻き切った。
勝気な瞳から、光が消える。
糸が切れて、膝から倒れる。
ハルとドリーは、セツナの元へ。
顔の青いドリーが、セツナに回復魔法を掛ける。
少年の消耗も激しい。
重症の治療を連続で行ったため、魔力が枯渇し始めている。
ハルはインベントリから、ポーションを取り出す。
セツナに飲ませて、戦闘不能を解除しようと――。
そうしようとして、グレイにポーションを奪われた。
小さき竜は、小瓶ごとポーションを口に放り、噛み砕く。
「ちょっと――!?」
抗議しようと声を上げたハルの首筋を、喰い千切る。
竜のホルダーは倒れ、動かなくなった。
目を血走らせたグレイが、新月の双剣を握るカラスに振り返る。
竜の魔力が、高まっていく。
「烏合風情が‥‥、頭に乗るなよ‥‥‥‥!」
竜が、両手を組む。
銃剣を召喚する時と、同じ構え。
「晶力――、重来!」
‥‥‥‥
‥‥
「――死ノ剣。」
厄災の幼体が、闇の渦に包まれる。
渦の中に、ハルの身体が吸い込まれていく。
魔力の粒子となって、渦に、竜に取り込まれていく。
晶力重来は、結晶武器とホルダーの合技。
武器と戦士の、絆の結晶。
‥‥この竜に、絆などという価値観は、ありはしないのだが。
天上の頂に、上は無く。
ただ、その下に、眷属があるのみ。
ホルダーを食らい、竜は厄災へと至る。
――渦が消える。
渦の中から、グレイの姿が現れる。
黒い軍服に身を包んだ、偉丈夫。
黄色い瞳の、背高い男が、闇の中より現れた。
「‥‥漆黒のイーヴィル。
その名を胸に刻み――、死んでいけ。」
‥‥‥‥
‥‥




