SS14.07_空落ちる刺客
結晶の街を、異界武器と共に進むハルたち一行。
一行はほどなくして、グレイやライザと同じ、異界武器と化した無名の暴徒たちとの戦闘に突入。
戦闘をグレイとライザに任せるも、2人は戦闘開始早々、姉弟喧嘩を開始。
喧嘩の合間に暴徒を片付け、姉弟喧嘩は、セツナが仲裁した。
異界武器の実力は分かった。
頼りになる。
――分かりきっていたことでは、あるのだが。
◆
「悪かったわよ。やり過ぎた。」
「くっ。内なる闇に意思を乗っ取られるとは――。」
異界武器の凶暴性が鎮静化する。
ハルは、他の3人から少し離れたところで、考え事。
グレイとライザ。
なるほど、強くて頼りになる。
頼もしさは、人の姿となっても健在。
しかし、危うくもある。
抜き身の刀を、そのまま持ち歩くかのような危うさ。
‥‥武器に、感情は存在しない。
それでも、武器が人を傷つけるのは、武器を人が使うからだ。
人の意思が、武器に、武器としての意味と価値を与える。
なら、人と武器、両方の性質を持つ存在はどうなる?
その答えのひとつが、グレイとライザなのだろう。
武器としての存在意義に、人間としての社会的な承認欲求が、深く絡みついている。
承認欲求とは、人間の深い部分に根差した本能。
食事などの三大欲求は、動物的な生存本能に根差している。
対する承認欲求は、社会的な生存本能に根差している。
生存競争には、外側と内側があるのだ。
内的な生存競争、つまり、人と人、人と社会の中で起きる生存競争。
その中では、自分がいかに優れているのか?
いかに、コミュニティに貢献しているのかを示さなければならない。
そうした方が、種の生存と保管に有利だからだ。
これを、異界武器に当てはめてみる。
武器姉弟の行動に、理由を求めてみる。
すると、ある仮説が浮かぶ。
自分が、いかに他の武器よりも優れているのか?
それを証明するために、他の異界武器を破壊する。
それこそが、異界武器の凶暴性の正体であり、闘争心の根幹。
それらは、生存戦略に基づく、承認欲求を源泉としている。
弱い武器は、淘汰される。
弱い人間は、淘汰される。
‥‥‥‥。
ハルは、3人の元へ歩み寄る。
グレイの頭に、右手を置く。
少し強めに、頭をわしゃわしゃとする。
「!? なんのつもりだ、眷属。」
「にひっ――! いいから!」
セツナは、ハルとグレイの様子を、ライザと一緒に見ている。
少し考え込むセツナ。
その横、ライザがセツナに、視線をチラチラと送っている。
パチン、指を鳴らす。
ガバリ、勢いよく、ライザに向き直る。
右手を上げる。
自分よりも、ほんのちょっと背の低い愛銃の頭に、手を――。
「――――ッ!!」
右手が捻られる。
捻じられて、曲がってはいけない方へ曲がろうとする。
「痛たたたたたたッ!? ギブギブギブギブ――――。」
ライザが、乱暴にセツナの手を離す。
「ふん」と鼻を鳴らし、腕を組む。
セツナは右手を忙しく振り、痛みを逃がしている。
「ちぇ。グレイのこと、羨ましそうに見てたくせに‥‥、厳しんだから。」
「!? べ、別にそんなこと――。」
「ライザ、キミの強さは、良く分かったよ。
オレと一緒に、たくさん戦ってきただけはある。」
一緒に戦った時間なら、JJよりも、ダイナよりも長い。
そして、いずれはハルよりも、長くなる。
セツナの言葉に、ライザは、そっぽを向いてしまった。
「最初から、そうやって言いなさいよ。――馬鹿。」
ハルのおかげで少しだけ、分かった気がする。
人の姿を得た武器のこと。ライザのこと。
ハルとのスキンシップを抜け出したグレイが、そろりとセツナに近づく。
「セツナさん、セツナさん。」
「なになに?」
膝を曲げ、グレイの近くに耳を持っていく。
男2人で、ひそひそ話。
「姉ちゃんは、ああ見えて褒め殺しに弱いんです。」
「なるほど。純粋な好意には弱いタイプね。」
「ちょ――!? グレイ!」
じゃじゃ馬の耳――、もとい。ゴリラの耳は、地獄耳。
ひそひそ話の内容は、筒抜けである。
‥‥ちなみに、ハルにも聞こえている。
「姉ちゃんのことは、褒めてコントロールしてあげてください。」
「ほうほう。オレも褒めて伸びるタイプだから、シンパシー感じちゃう。」
「‥‥おい。」
「姉ちゃんを褒めてくれると、オレも嬉しいです。(暴力が減るから)」
「へへへへへ――――。
ツンケンしてるクセに、褒められちゃうとデレちゃうとか――。
まったく、チョロくて面倒くさい女だぜ。」
「いやホント、まったくまったく!」
「「あっはっはっは――――。」」
頭に手が置かれる。
ライザのだ。
右手をセツナに乗せ、左手をグレイに乗せ。
「‥‥‥‥おい。」
指先が動き、頭を撫でる。
‥‥頭の形を確かめるように。
撫で撫で、良い子良い子。
そんなスキンシップの雰囲気では、無いらしい。
油の切れたブリキ人形みたいに、首を後ろに向ける男2人。
ライザの両手に、青筋が浮かぶ。
セツナとグレイを、軽々持ち上げる。
2人の頭を掴んで。
「「痛たたたたたたッ!?」」
「誰が、何だって?」
「ライザ、ライザ。顔が怖いよ。いつもの事だけど。
ほら、笑って笑っ――たたたた!?」
「おい離せ! このじゃじゃ馬猛牛ゴリラ!
あ、これは褒め言――ぐふぅ!?」
――ペットボトルが潰れるみたいな音がして、バカ2人は静かになった。
手を離すと、膝を付き、顔から地面に倒れる。
手で顔を覆い、首を横に振るハル。
今日は、煽ったり暴力を振るったり、バイオレンスだ。
異界武器という、自分の所有物との関係性なので、互いに容赦がない。
仲の良い者同士の遠慮が無い関係というよりは、一種の自己対話に近い感じ。
異界武器には、親近感ではなく、ある種の同一性を覚えるのだ。
だから、やり取りに容赦がない。
お互いに。
サンプルの数が少ないから、これが他の異界武器も一緒であるか否かは、不明ではあるが。
ライザは両手をパンパンとはたき、ため息。
こうやって、バカどもの煽りに一々反応していては、日が暮れる。
リーダーのハルに、余計な負担を与えてしまう。
進軍しよう、そうしよう。
晶力解放:銃
銃を、地面に向けて撃つ。
地面に魔法陣が描かれ、栗毛色の馬が召喚される。
鞍を掴み、乗る。
‥‥馬が馬に乗っている、なんて流石に言わなかった。
言わなかったけれど、セツナとグレイは、投げ縄に捕まる。
「‥‥あの、ライザさん?」
「さあハルちゃん、乗って。」
「あっ、うん。」
「ライザさん? ハル?」
ライザが、馬にハルを乗せる。
手綱を右手で握り、荷物を繋いだ2本の縄を左手で握る。
カウボーイブーツの踵部分に付いた拍車で、馬の脇腹を擦る。
「行け!」
拍車の刺激に馬が反応し、走り出す。
駿馬であり、荷馬でもある馬は、4人の重さを物ともせずに加速する。
「「ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶ――――!?」」
瓦礫の段差や、ひび割れた悪路を物ともせず、自動車にも負けないスピードで道路を走る。
女性2人を背に乗せ、野郎2人を、西部劇仕込みの引き回しに処しながら。
仕方がない。
この馬は、好き嫌いが激しい。
男は乗せたがらないから、引きずるしかないのだ。
馬は終末の街を駆ける。
結晶の巨岩をランドマークに、そこを目指す。
‥‥‥‥。
‥‥。
◆
武器が意思を持ち、心を持った街。
その異変は短時間で、内的生存競争による種の取捨選択と、淘汰のきざしを見せていた。
巨岩を臨む道で、5人の男が、1人の少年を取り囲んでいる。
地面にうずくまる少年を、複数人で上から蹴りつけている。
「オラ! オラ!」
「お前が、俺らの仲間だなんて、笑わせるんじゃねぇ!」
「人を殺せない銃なんざ、価値がねぇんだよ!」
「うっ‥‥!? ぐぅ‥‥!?」
グレイよりも、さらに背丈の低い少年。
人間基準であれば、子供も子供な外見。
うずくまり、手で頭を守り、暴力が終わるのを待っている。
‥‥暴力が加速することはあっても、終わるなんてことは無いのだけれど。
暴漢どもはいま、自分の意思で、引き金を引けるのだから。
暴力こそが存在意義である彼らは、暴力に快感を覚えこそすれ、忌避感など抱かない。
見た目と性質こそ人の形をしているが、本質は全くの異種族なのだ。
暴漢の1人が、少年の頭を蹴る。
顔の横を、サッカーボールを蹴るみたいに。
「ぐっ!?」
髪の毛を乱暴に掴み、小さな身体を起こさせる。
「お前も武器なら、反撃してみろよ! あぁん!」
「おいおい、ソイツに無理を言うんじゃねぇ。」
「何たってコイツは、オモチャの銃にすら負けるんだからな。」
「う‥‥、うぅ‥‥‥‥。」
「ハッ! 男のクセに、女みたいに泣くのか?」
「イイゼ、泣け泣け! ママぁ~助けてぇ~ってな。」
「「「ギャハハハハハ!!」」」
下品な笑い声が街の建物の隙間から、空に吸い込まれていく。
建物から建物へと反響し――、そのひとつが消えた。
ひとつの銃声によって。
「あぁ!? どこのどいつ――。」
暴漢の汚い口は、弾丸として打ち出された魔石によって塞がれた。
遠距離攻撃が可能なレールガンが、暴漢の1人を撃ち抜き、弾丸が身体を貫通する。
地上を、稲妻が走る。
少年をかばうように、セツナが暴漢の輪に割って入る。
‥‥両腕を、縄で縛られた状態で。
暴漢の1人に、金的。
膝を上げて、前蹴りを放った。
「おごぉ!?!?!」
白目を剥いて、戦闘不能となる。
急所は、異界武器たちも機能しているようだ。
まだ、形を得て時が浅く、急所の概念が浸透していないようである。
知っていることと、動けることは違う。
セツナは縄を解く。
少年を守るように、彼に覆いかぶさる。
その上を、小さな竜が飛ぶ。
残る暴漢は2人。
目障りな暴漢駆除を締めくくるのは、グレイ。
翼を生やした、魂に闇を宿した少年が、暴漢の胸倉を掴み、空へと羽ばたく。
生き残り2人を、空へと連れて行く。
男たちが拳銃を抜き発砲するも、グレイは利いている素振りを見せない。
彼の黄色い瞳が、怪しく紫色に光る。
晶力解放:焔
爬虫類の目がもたらす、呪いの毒。
暴漢の手にした得物を、腐らせるように溶かす。
男たちの手は、溶けた銃に焼かれる。
「「ギャァァァああ!?!?」」
グレイは、なおも高度を上げる。
街が見下ろせるほど。
自分たちが居た場所が、ちっぽけに見えるほど。
「貴様らの魂。我が糧となる価値すらない。
――消えろ。」
闇の炎が、暴漢を覆った。
蛇の如く絡みつく炎に襲われる暴漢。
男たちから、手を離す。
ゴミを、道端に捨てる感覚で。
背に竜の翼を持つ異界武器は、空を仰ぐ。
翼を、太陽に向ける。
「お前たちの法に則り、相手をしてやったぞ?
本望であろう? 法がもたらした虐殺を、その身で味わうが良い‥‥。」
地上には届かぬ言葉を、太陽と青空が代わりに聞いている。
空から降り、地上の仲間に合流する。
倒した敵の姿が消えて、普通の武器に戻っている。
「あ、あの! ありがとうございます!」
地上では、なんか少年が、目をキラキラさせていた。
真っ直ぐな瞳を、空から降りてきたグレイにも向ける。
「翼! 竜の翼! カッコイイ!」
「う‥‥!? う、うむ。そうであろう。」
真っ直ぐな瞳に若干、気後れしてしまうグレイ。
少年の視線は止まらない。
「すごいなぁ‥‥。僕と同じくらいの身長なのに、君は強いんだ。」
「ほう。貴様は、強さに憧れがあるのか?」
「うん。だけど‥‥、僕は全然弱っちくて‥‥。
君みたいに強かったら、僕もヒーローみたいに、人を助けられるのに。」
「‥‥‥‥。」
黙り込む一同。
しかし、反応はそれぞれだ。
ハルとセツナは、目を見開く。
ビックリ仰天。
互いに顔を見合わせる。
今まで、凶暴で好戦的な異界武器たちとの遭遇しか無かったのだ。
この、善性の塊のような少年に、驚く顔を隠せない。
セツナなんかは、ライザと少年を交互に何度も見比べて、挙句ライザを指差した。
これと少年が同じ種族だなんて、到底信じられない。
無論、そんな失礼な行動を許すライザでは無く‥‥。
ゴリラに指を掴まれる。
影の差した笑顔で、折られるか、引っこ抜かれるかの選択をセツナに強いている。
少年は、ハルとセツナの驚いた表情を、間違った意味で受け取ってしまっている。
「あ‥‥、そうですよね。
僕なんかが強くなりたいなんて、烏滸がましいですよね。」
自嘲気味に、頬を掻きながら笑う。
黒い髪で片目を隠した、容姿の整った少年。
灰色がかった白衣に、白いワイシャツ。
カーキ色 (淡い茶色)のチノパンに、ダークブラウンの革靴。
気弱そうな雰囲気と、研究者のような印象を受ける見た目をしている。
自分の非力さを自嘲して笑う少年を見て、グレイは真剣な顔をしている。
「少年、名は何という?」
「え? あ、僕はドリーって言います。」
「ドリー‥‥、良い名だ。」
「あ、ありがとう。」
「ドリー、良く聞け。我が名はグレイ!
貴様を、我が軍団 †赤月の宴† に入れてやろう。」
「え? え?」
「我は、強きを志す者が好きだ。
トワイナイトに入り、その志のために働くとよい。
眷属、異論は無いな?
異論など、認めんが。」
グレイは、ドリーを勧誘する。
リーダーの判断など無視して。
ライザが、グレイの頭に強めに手を乗せる。
ぐしゃぐしゃと、グレイの頭を押す。
「友達になりたいって、素直に言えば良いのに。」
「うっさいな姉ちゃん!
我は孤高の存在。天上より上は無く、配下が居るのみなのだ。」
「はいはい。」
三悪魔CE、グレイドラグーン。
龍の心臓を持つ、厄災の幼体。
彼は竜であって、龍ではない。
厄災の主たる母には、遠く及ばぬ。
だから、強さに固執する。
ゆえに、強きを志す気持ちが分かる。
強者のそれも、弱者のそれも。
少年の顔は、自嘲から喜びに変わる。
それから、諦観に変わった。
相手を思うがゆえに、遠慮が勝ったのだ。
「グレイ君、ありがとう。
すごく嬉しい。けど‥‥。」
ハルとセツナの目の前に、ホロディスプレイが起動する。
そこには、彼の原型になったであろう銃の情報が表示されている。
「僕は、弱い存在なんだ。
グレイ君が思っているよりも、もっと弱い‥‥。」
コリブリピストル。
「ハチドリ」の名を持つ、時計職人が制作した小さな銃。
全長40mm、口径は2.7mm。
弾の威力は、わずか4J。
厚手の服を着ていれば、完全に無効化できる程度の威力しかない。
日本では2007年よりも前、威力が2Jに匹敵するエアガンが販売されていた。
ちなみに、狩猟用のスリングショット (パチンコのこと)の威力が、約10J。
コリブリピストルは、火薬を使うにも関わらず、ゴムの力に負けてしまうほど非力なのだ。
現実でもそうなのだから、ゲームでもネタ武器だ。
コリブリピストルが強い世界なんてのは、現実でもフィクションでも存在しない。
「きっと、僕の弱さが、皆さんの迷惑になる。
だから‥‥‥‥!」
「‥‥‥‥。まだ、自分の立場が分かっていないようだな。」
ライザが、グレイから離れる。
厄災の幼体が、拳に炎を纏う。
拳を振るう。
少年に向けて。
彼の弱音を焼き払うかのように、彼の横を通り過ぎて――。
ドリーの背後にあった建物が、吹き飛んだ。
「この街では、弱者に権利は無いらしい。
ドリー。貴様の正体など知ったことではない。
我が来いと言ったのだ。
だが譲歩はしてやる。
黙ってついてくるか、喜んでついてくるか、どちらかを選べ。」
異界武器には分からぬだろうが、世の中には、色んな人間がいる。
弱かろうが、ネタ武器だろうが、その存在を肯定する者もいるのだ。
ゲーマーなら、なおさら。
コリブリピストルとかいうネタ武器で、1000キルの死体の山をつくる人間だっている。
コリブリで、重戦車を破壊する人間だっている。
チーター (不正プレイヤー)のキル数すら追い抜いて、コリブリの世界ランカーを誇りに思う人間だっている。
異界武器は、人類を舐めている。
人類の変態性を、軽んじている。
でも、グレイは知っている。
自分のようなCEに好んで乗る変人や、持ち主を射撃の反動で蹴り上げるような銃を好んで使う変人を。
――ドリーの影った表情が晴れていく。
頬と、瞳が赤くなる。
グレイが、ドリーの肩に手を置く。
拳を振るった右手を、そっと、優しく。
「我と共に来い。これは命令だ。」
「――うん。――うん!
よろしく、グレイ君。」
「フッ。初めからそう言えば良いのだ。」
ライザは腕を組み、うんうんと首を縦に振る。
旅の道連れが増えた。
ドリーが、改めて全員に自己紹介をする。
「改めまして、ドリーです。
今後ともよろしく――。」
ドリーの自己紹介に、全員が答え、彼を受け入れた。
弱くて非力な少年の、強くなりたいという願いに共感し、勧誘を試みたグレイ。
†赤月の宴†の主として、眷属たちに器の広さを示すこととなった。
‥‥‥‥って、終わるはずが無いのである。
ここはセントラルで、こいつ等は、クセ者ばかりなのだから。
こんな言葉を知っているだろうか?
「類は、友を呼ぶ」。
ドリーが、両手を胸の前でギュっと握る。
「僕にできることで、皆さんのお役にたって見せます。」
握った両手を前に出し、開く。
ドリーは目を閉じる。
――緑色の魔力が、彼の身体を包む。
「エリアヒーリング。」
「「「‥‥‥‥は?」」」
素っ頓狂な声を上げたのは、グレイ・ハル・セツナの3人。
ライザだけ、何も分かってない。
分かってないけど、分かった風な雰囲気だけ出しておく。
グレイの身体から、暴漢に付けられた弾痕が消えていく。
ライザに引き回されて、ほつれた服が元に戻っていく。
セツナの服のほつれも、直っていく。
緑のオーラと、魔力が霧散して消える。
ドリーが、申し訳なさそうな顔をする。
「すいません。僕は武器なのに、こんなことしかできなくて。
武器が回復魔法なんて‥‥、やっぱり気持ち悪いですか‥‥?」
ライザが、ドリーの背中を叩く。
‥‥ゴリラの腕力で。
「う゛ぶッ!?」
「男がナヨナヨするんじゃないの! 強くなるんでしょ。」
「は、はい! すいません。」
良かった、ライザが馬鹿で。
微妙な空気を、解してくれた。
セツナが、グレイの横に立つ。
ちょんちょんと、肘で彼の肩を小突く。
「‥‥グレイ君。」
「ふ、ふふふ。流石は我の邪気眼。全て分かっていたともょ!」
「そっかぁ‥‥。」
ゲームの世界ではメジャーな、回復魔法。
ゲームの世界ではメジャーだが‥‥、セントラルではマイナーもマイナーだ。
この世界には、回復魔法の代わりに、リゲインがある。
敵を攻撃することで、体力が回復するシステムがある。
死ななければ安いという、回復魔法が存在するがゆえ価値観を排し、かすり傷にも緊張感を持たせるためだ。
なので、プレイヤーは生き延びるために、前に進むことを求められる。
逃げ回るのではなく、前に踏み込み、攻撃を当て、活路を見出すことを求められる。
だから、セントラルでは、回復魔法は非常に珍しい。
クラス「メイジ」や、クラス「ベルセルク」が、ヒーラーの役割をこなすこともある。
しかしそれは、条件付きの回復効果。
回復量がビルドの影響を受けたり、自分がダメージを負うことで味方を回復したり。
使い勝手は、一般的な回復魔法には遠く及ばない。
無条件の回復魔法は、クラス「ナイト」などの非常に限られたクラスにしか存在しない。
そんな中、このドリーという少年は、範囲回復魔法を――。
――魔力野が、魔力の膨張を捉えた。
空の上、近い。
空を見上げる。
魔法陣が、展開される。
『センチュリオン、オーバードライブ。』
空から、敵意を向ける刺客がフォールした。
2メートルを超える体躯を持つ、甲冑を纏った異界武器。
長身痩躯、黒い装甲。
鉤爪を思わせる足甲。
得物は双剣。
カタール (ジャマダハル)と呼ばれる、インド発祥の刺突剣。
メリケンサックのように、拳を握り込むようにして持つ武器。
刃渡り40cmほどの凶器が、刺客の拳を覆っている。
‥‥セツナは、この武器を良く知っている。
『オペレーティングシステムを起動――。任務を受領。』
片膝をついていた刺客が立ち上がる。
カラスを模した兜の奥で、赤い右目が光った。
『プロトコル01。侵入者を、排除します。』
‥‥‥‥。
‥‥。




