SS14.05_異界武器(アルムテルム)
「良いことを、教えてあげる。」
カチリと、留め具が嵌る音が響く。
銃を構える。
「セントラルでは、エージェントの命は軽いの。
あなたたち消耗品と一緒か、それ以上にね。」
人質のセツナを始末して、ライザは野盗に銃を向ける。
リボルバーを両目の前に置き、左手を右手首の上に置く。
リストブレースという握り方を、我流に崩した構え。
シングルアクションリボルバー (※)を撃ちやすい握り方。
※発砲する前に、撃鉄を手動で上げる必要がある銃。
自動で撃鉄が動く、ダブルアクションに比べ、引き金が軽い利点がある。
この、安定感に欠けるリストブレースというグリップ方法。
リロードの時に見せる、スイングアウトやスイングイン(※)のリロード動作。
※手首の動きを使って、シリンダーを取り出したり、入れ込んだりする動作。
パーツの歪みや故障の原因となるので、現実世界ではNG。
それらは、彼女の自信の現れ。
暴れる猛獣を、片手で飼いならす腕前。
雑に扱われようが、歪みひとつ生じない信頼性。
武器としての自分自身に対する、絶対的な自信。
「あんたたち全員、あたしが相手してあげる。」
ハルが空から飛び降りて来る。
グレイが、ライザの横に降りてくる。
「姉上、我にも半分寄越せ。
この身体の力を、確かめておきたい。」
どうやら武器姉弟が、この連中の相手をしてくれるらしい。
ハルは、リーダーとしてこれを承諾。
一緒に戦う身として、2人の力を確認しておきたい。
「ライザさん、グレイ、よろしく。」
「ええ。」
「――フッ、契約は成ったな。」
「兄さんも、それで良いでしょ?」
「いいよ~。」
話しを聞いていたセツナが、返事をして立ち上がる。
何事も無く立ち上がって、周囲の野盗をドン引きさせる。
テレポートを発動。
ライザの左横へ瞬間移動。
開幕早々フレンドリーファイアを受けたが、気を取り直して――。
ここの見せ場は、ライザとグレイに譲ることにする。
「よ~し! ライザ、キミに決めた!」
ピシッと指を差し、ライザのホルダーとして、彼女に指示を出す。
し・か・し。
「あぁん!?」
しかし、それを素直に聞くライザでは無いのだ。
ライザは、めいれいをむしした。
セツナの襟首を掴む。
「え!? あの――!?」
セツナの足が、地面から離れる。
猛牛の腕で、軽々持ち上げられる。
「あたしに――、命令するなぁぁぁ!!」
「ごめんなさぁぁぁい!?」
セツナは投げ飛ばされた。
野盗の包囲を飛び越えて、瓦礫の上をゴロゴロと転がる。
ひょいと、グレイがハルを持ち上げる。
床みたいに薄いハルを両手で持ち上げ、ライザに差し出す。
「姉上、こちらを。」
「あら、気が利くわね。」
「あれ? あれあれ!?」
「ちょっと我慢してね、ハルちゃん。」
ハルは、ライザに襟首を掴まれて、投げ飛ばされた。
空中で宙返りをして、両足でキレイに着地する。
瓦礫が積み上がった場所で、セツナが高みの見物をしている。
ハルもその横に行って腰かける。
さて、お手並み拝見。
結晶の生えた野盗どもは、やっと我に返る。
奇襲を仕掛けたはずなのに、4人があまりに自由過ぎるから、ペースを握られてしまっていた。
「バカにしやがって‥‥! やっちまえ!」
「ふん、野良犬が吠えるんじゃないわよ。」
「ククク――。貴様らの血で、魂の渇きを潤してくれよう。」
武器と武器。
物と物。
異界化した街で、人の姿を持った物同士の戦いが始まった。
◆
ライザとグレイ。
それと、結晶の異界にて、人の姿を得た「道具」たち。
彼らを、異界武器と仮称しよう。
銀色の大地「フロド大陸」には、フーライと呼ばれる国があった。
その地では、この世の万物に精霊が宿るとされていた。
日本語で表現するならば、「八百万の神」とか「付喪神」のニュアンスに近い。
フーライは、人間とそれ以外の境界が曖昧な国だった。
国には、人だけでなく、様々な妖や精霊が住んでいた。
そして、人が妖となったり、精霊が人となったりすることも、珍しくは無かった。
その文化と歴史の中で――。
フーライに、とある呪術が生まれた。
万物八百万の精霊に、人の形を与える技法。
フーライの人間は知っていた。
人の形とは、人ならざる力によって構築されていることを。
人は妖であり、精霊である。
精霊もまた、妖であり、人である。
この奇妙な隣人関係と、血縁関係を用いた呪術。
形代、あるいは晶晴術。
この呪術はそう呼ばれ、銀色の大地に人知れず広がっていった。
銀色の大地は滅び、いまは失われた技術。
それが、創造による殺戮がもたらした異界化により、甦ったのだ。
‥‥‥‥。
ライザとグレイが、精霊の力を解放する。
「「晶力解放。」」
ライザの銃に魔力が集まる。
グレイの身に着けているシルバーアクセサリーが、意思を持って動き出す。
スキル発動。
晶力解放――。
「「蛇(巳)!」」
ライザの銃から、複数の毒蛇が放たれる。
スネイクショット。
悪魔を召喚すると呼ばれる銃から、散弾を発砲。
紫色をした、毒矢のような子弾が、5発放たれる。
毒矢を速射。
ファニングショット。
引き金を引いたまま、右手の親指と、左手の人差し指を交互に使い、早打ち。
2回の銃声で、3発の弾丸が発砲された。
合計15匹の毒蛇が、無名の異界武器をまとめて仕留める。
対してグレイの攻撃は、1体だけが対象であった。
尻尾のように垂らしていたシルバーが、異界武器1人の胸を貫く。
銀細工を伸ばすみたいに尻尾が伸び、巳が獲物を捕食する。
銀の尾が抜かれ、捕食された異界武器は倒れ伏す。
「ククク――。奪ったぞ、お前の力!」
グレイドラグーンを象徴する不協和の力、ゼナス。
捕食により、相手の力を我が血肉に変える。
グレイが、両手を地につける。
「光に焼かれ、影と消えるがいい‥‥!」
地面から、幾つもの結晶が生える。
先ほどライザたちを不意打ちした、光って爆発するトラップ。
ハルとセツナは、自分たちが座っていた瓦礫の山の影に隠れる。
「†黄昏の地平†」
突き出た結晶の柱が輝き始める。
光が、異界武器とライザを焼き始める。
「この‥‥愚弟がッ!」
どさくさに紛れて、姉にフレンドリーファイアをするグレイ。
ライザは毒づき、怒りに任せて地団駄を踏む。
晶力解放:地
セツナが使うスキル ≪グランドスマッシュ≫ に似た技。
足を踏み鳴らし、地盤を破壊。
脆くなった地盤に左手を突っ込み、めくり上げる。
地盤を持ち上げ、岩の盾として、†黄昏の地平†から身を守る。
光が強くなり、爆発する。
爆発の当たり所が悪かった異界武器たちが、戦闘不能となった。
敵の増援が、騒ぎを聞きつけて集まっている。
キル稼ぎには困らない。
ライザが、地盤を蹴り飛ばす。
凶暴な暴れ馬の蹴りで、岩盤はサッカーボールみたいに飛んで行く。
‥‥グレイの方へ向かって。
グレイは、シルバーアクセサリーを変形させる。
≪晶力解放:巳≫ には、シルバーの形を自由に変えられる能力もある。
シルバーが液体となる。
増殖しながら形を変えて、グレイを岩盤から守った。
液体から固体に変質したシルバーが、衝撃を受け止め、返り討ちにして岩盤を砕く。
銀の膜から、棘が撃ち出される。
複数本の棘は、ライザの銃から呼び出された毒蛇によって、溶かされた。
熱を帯びた棘が、地面にへばりつく。
ライザとグレイの、互いの目が合う。
互いに、殺気立つ。
戦闘中であってもお構いなし。
姉弟喧嘩が勃発する。
元々、気性が荒い武器同士。
持ち主が兄妹という繋がりだけでは、完全に制御できていない。
互いに、自分こそがナンバーワンだと、信じて疑わない。
自分がナンバーワンだと、ホルダーに分からせたい。
その承認欲求と、生来の闘争心と混ざり合い、化学反応を起こす。
感情の化学反応が、意思決定に影響を与える。
無名のザコよりも、姉(弟)を倒した方が、ホルダーへのアピールになる。
結果、戦いの中にあっても、2人は姉弟喧嘩をする。
チームワークなんて言うのは、このコンビに存在しない。
ダメな方向に息が合い、相変わらず足並みは揃わない。
ここは任せろと言った言葉は何処へやら。
闘争に燻る硝煙に当てられて、自制が利かなくなる。
ハルは、姉弟喧嘩を目の当たりにしても動かない。
リーダーとして、この場は2人に任せると言った以上、動かない。
セツナも、リーダーの意思に従う。
無名たちが取り囲むなか、グレイが動いた。
≪晶力解放:風≫ 。
ハルが使うスキル、 ≪リボルビングスピン≫ に由来するスキル。
グレイが右手で、弧を描く。
人差し指をすーっと横に滑らせる。
彼の指を追うように、結晶の弧が宙に描かれる。
結晶に、左手で触れる。
魔力が流し込まれ、結晶が巨大化する。
左手を前に押し出す。
巨大な光を反射する三日月が、ライザへと向かう。
見え見えの攻撃を、ライザはスライディングで回避。
狙いを外れた三日月は、姉弟喧嘩に巻き込まれた無名たちを惨殺した。
ライザは、スライディングをしながら、左手を地面につける。
スキル発動、 ≪晶力解放:銃≫ 。
悪魔を召喚する銃の力。
彼女の周囲に、10個ばかりの魔法陣が地面に描かれる。
魔法陣から、悪魔が召喚される。
棘で覆われた、枯れ草の、悪魔。
枯れ草の正体は、タンブルウィード。
西部劇で、道をよく転がっている、あれだ。
「いけ!」
ライザが命令をすると、タンブルウィードが転がり出す。
西部劇では、荒野の殺風景さを表現するために使用されるタンブルウィード。
だがしかし、現実世界のそれは、そんなに詫び錆びに満ちた習性をしていない。
これの植物は、群生するのだ。
群生して、季節風で転がり回り、人や建物に被害を与える。
ライザが、左手にソードオフレバーアクションライフルを構える。
荒野で、イエローボーイの異名を持つ、傑作ライフル。
イエローボーイは、ライフルであるにも関わらず、拳銃の弾が流用できた。
ライザが、リボルバーとライフルの引き金を引く。
赤い蛇が10匹、トリガーから召喚される。
蛇は、タンブルウィードに潜り込む。
潜り込み、枯れ草は燃える。
‥‥この草は、群れで襲い掛かるだけでなく、良く燃えるのだ。
直径1メートルの草の塊。
それが10の軍勢となって、グレイに襲い掛かる。
グレイは、背中に翼を生やし、躱す。
草は、空を飛べない。
タンポポじゃあるまいし。
燃え盛る迷惑草は、これまた蚊帳の外の無名たちに迫り、火だるまに変えた。
竜の異界武器が、空から強襲。
≪晶力解放:焔≫ 。
ハルの使うスキル ≪ブレイザー≫ を模したスキル。
闇の炎が、竜の姿を形取る。
竜のオーラを纏い、空からライザに殴り掛かる。
≪晶力解放:炎≫
セツナの ≪ブレイズキック≫ と同等の性能を持つ、ライザのスキル。
彼女の持ち主を彷彿とさせる、後ろ回し蹴りを披露。
空飛ぶトカゲを迎え撃つ。
赤い炎と黒い炎が衝突。
衝撃が大気を震わせ、地面から土ぼこりを舞い上げる。
力は拮抗し、自分たちの攻撃の反動で、2人の距離が離れる。
2人を囲む無名たちからの銃撃が、喧嘩を煽る歓声のように響き渡る。
≪晶力解放:剣≫
グレイが大剣を装備する。
縦に回転をしながら、勢いに任せて空から剣を叩きつける。
黒い火柱が空に伸び、地上を黒く溶かしていく。
大振りな攻撃にライザが当たるはずも無く、グレイは散弾を叩き込まれる。
それを、銀の壁で防ぐ。
壁を、ライザが殴りつける。
銃弾でビクともしなかった銀の壁が、凹む。
彼女の、左手の形に沿って、凹む。
「クソ、ゴリラめ‥‥。」
「あぁ!?」
銃よりも、素手の方が強いと証明してしまったライザ。
彼女を、銀の棘が襲う。
棘が、身体に刺さる。
気合いと根性で、無理矢理耐える。
足に炎を纏う。
炎の慣性を使い――、壁を貫く。
ライザの拳が、銀の壁を貫通した。
壁が液体となり、グレイの制御が崩れてしまう。
拳を、大剣で受けようとするグレイ。
中段に構えた大剣を、ゴリラが、お構いなしに素手で掴んだ。
「――!? このゴリラ。」
「誰がゴリラじゃぁぁあ!!」
グレイの身体が、放物線を描く。
大剣を起点に、縦方向に。
ライザに持ち上げられて、地面に叩きつけられた。
リボルバーが、グレイを睨む。
ハンマーが起き、引き金が引かれる。
リボルバーは‥‥、無名のザコを撃ち抜いた。
勇敢にも、姉弟喧嘩に突貫したザコは、儚くも散った。
ライザが、タンブルウィードを召喚する。
グレイが、彼女の足元で大剣を振るう。
闇の旋風を纏い、足元を一回転。
ライザは跳躍し、大剣からは焔が噴き上がる。
旋風と焔が熱波を作る。
枯草は燃え、転がり、ギャラリーが阿鼻叫喚となる。
それを、もう一度。
先ほどよりも大量の枯草と、高温の熱波が、無名の集団を襲った。
大都市のど真ん中で、山林火災が発生する。
無名たちは、人の身体を得てしまったばっかりに、武器姉弟に近づけなくなる。
火災の熱で足止めされて、近づけない。
ならばと、彼らは人間兄妹に標的を変えるが‥‥。
語るまでもなく、ボコボコにされてしまう。
ハルが双銃を構える。
スキル ≪リボルビングスピン≫ 。
クルリと回転しながら、敵に接近。
Ultパッシブ「反逆心の燕」を発動。
パッシブの効果で、スキル ≪飛燕衝≫ を強化する。
銃に4発の、リベリオンスタックをチャージ。
片方4発、両方で8発。
スキル ≪反逆の飛燕衝≫ 。
銃口から、強化された弾丸が発砲される。
彗星の如く、青い尾を引く弾丸。
身を翻しながら撃った弾丸が、2体の無名を仕留める。
さらに、 ≪リボルビングスピン≫ 。
90度転身、腕を交差、発砲。
反逆の燕が、また2体、仕留めた。
ハルの背後から攻撃。
木製のバットを持った無名が襲い掛かる。
新スキル ≪ムーンスタンプ≫ 。
宙返りで空中を舞い、相手を踏みつけるスキル。
Fキャンセル属性で、踏みつけ攻撃をキャンセルできる。
ハルは、敵に背を向けたままバックフリップ。
無名の頭上を通り過ぎる。
バットを持った無名は、背中に岩塊が直撃し、すっ飛んでいく。
セツナが、見学席に使っていた瓦礫の山の、解体作業をしている。
解体作業ついでに、無名どもにぶつけている。
ハルは、 ≪ムーンスタンプ≫ をFキャンセル。
攻撃動作を、 ≪リボルビングスピン≫ でキャンセルする。
頭を地面に向けて、空中で一回転。
回りながら引き金を引く。
燕が、2体の敵を仕留める。
強力な弾丸によって、敵を1撃の元に次々と沈めていく。
Ultパッシブ「反逆心の燕」。
再使用までに180秒のクールタイムが必要だが、AG消費無しで強力な攻撃が可能となっている。
リボルビングスピンの機動力と合わせれば、高機動高火力の実現が可能。
――ハルの頭上に影が差す。
空から、岩の雨が降って来る。
雨ごいをしたのは、彼女の兄、セツナ。
ちまちま解体作業をするのがダルくなった彼は、瓦礫の山の根っこを蹴り飛ばした。
ブレイブゲージを消費して、青いポーションを飲んで、 ≪AG魔女のブレイズキック≫ 。
スキル ≪魔女の一撃≫ の出始めをZキャンセル。
魔女の技法により、ブレイズキックにエンチャント。
墨汁の如き黒い炎が、横一線に伸びる。
AGにより延焼範囲が上昇した黒炎は、瓦礫の足元を刈り取り、魔女の魔力で持って、山を抜いて持ち上げた。
瓦礫の雨は、ハルと無名たちに容赦なく降りかかる。
ハルは、雨の中をくるくると舞う。
雨の縫い目を潜り抜ける。
大きな雨粒だけの直撃を避るように、リボルビングスピン。
足元に炎を纏いながらステップを踏み、頃合いを見て跳躍。
スキル ≪ムーンスタンプ≫ 。
雨が終わる直前、空中の雨粒の上に乗り、スタンプ。
幸いにも雨に打たれなかった無名に、岩の塊をプレゼントした。
炎上する岩が、無名に直撃する。
空中で燕を放ち、地上に着地。
生き残りの頭を蹴って着地。
転倒した敵を踏みつけて、銃を向ける。
「やめといた方がいいよ。
ちょっと強いんだ、私たち。」
その忠告も、時すでに時間切れ。
下手に人間兄妹に手を出してしまったばっかりに、無名たちは壊滅した。
さて、山林火災の方へと目を向ければ――。
機械竜が、空に咆哮していた。
≪晶力天灰:崩灰≫
晶力天灰とは、プレイヤーのEXスキルに該当する技。
あの凶暴姉弟は、喧嘩にEXスキルまで持ち込み始めた。
ハルが、セツナの方を見る。
セツナは、両手を頭の後ろに組み、山林火災の方へと歩いていく。
グレイの晶力天灰に当てられて、ライザも晶力天灰。
「やってやろうじゃない‥‥!
覚悟なさい!」
リボルバーをリロード。
手元を見ずに、竜を睨んだまま、操作を終える。
≪晶力天灰:六魔≫
グレイが、ライザに襲い掛かる。
一時的にCEの姿を取り戻したグレイが、虫のように小さくなった姉を、手で潰そうとする。
リボルバーが火を吹く。
ファニングショット、5発。
5発の弾丸が、五芒星となる。
CEの手が、五芒星に止められる。
止められて、弾かれた。
ならばと、CEは拳を握る。
拳から、黒い炎が噴き上がる。
五芒星に守られたライザが銃を構える。
竜が拳を振るう。
ガンマンが、引き金を引く。
‥‥五芒星から、悪魔が召喚された。
それは、暴食であり、暴力である。
ただ、大きな、魔力の塊。
純粋な力のみで構築された、暴食の王。
暴食の悪魔が、不協和の悪魔と衝突する。
竜の拳に、亀裂が入る。
五芒星に、亀裂が走る。
紫色した暗い光が、一帯を覆う。
太陽の光を遮り、眩しいのに暗い。
明るいのに、暗い。
力と力の衝突が、周辺の結晶を破壊する。
無名の残党を、力の余波だけで吹き飛ばす。
結晶は割れ、光り瞬くも、暴力に圧し潰されて輝けない。
――異界武器は、精霊であり人間である。
精霊には「格」が存在する。
武器精霊の格とは、優れた持ち主に使われることによって高まる。
優れた戦士が使う武器に宿った精霊は、強い力を持つ。
上澄みのプレイヤーともなれば、よりいっそう、強い力を持つ。
上澄みのプレイヤーに選ばれた精霊もまた、上澄みの精霊となるのだ。
そんなのが、身体に帯びた凶暴性と闘争心の赴くままに行動すると、こうなる。
辺りは、弱者が滅びる地獄と変わる。
――暴力と暴力の拮抗が崩れる。
竜の腕が砕けた。
五芒星が砕けた。
互いにぶつかる相手を見失った魔力は暴走。
轟音と暴風を起こし、嵐に姿を変えた。
瓦礫さえ浮かせる嵐が、戦域に発生する。
嵐の目の中。
人の姿に戻ったグレイが立ち上がる。
ライザも立ち上がる。
まだ、やるつもりでいるらしい。
大剣を握る。
銃をリロードする。
走る、距離を詰める。
大剣の間合いになる。
銃必中の間合いになる。
精霊とは名ばかりの、悪魔の視線が交錯。
闘争心を乗せ、ぶつかり――。
――割って入ったホルダーに、じゃれ合いを諫められた。
「はい、そこまで。」
銀色の籠手が、銃口を逸らす。
炎の蹴りが、大剣の軌道をズラす。
2人のあいだに割って入ったセツナが、2人の攻撃を止めた。
無粋な乱入に、武器が凶暴な瞳をホルダーに向ける。
銀色の尻尾が伸びる。
セツナの背後から、地中を伝って。
不意打ちを事も無げに掴む。
掴んだ尻尾を引っ張ると、グレイが転倒する。
ライザがセツナに銃を向けようとする。
銃を握る手首に、尻尾を絡ませる。
ライザの腕を封じ、セツナは左腿からリボルバーを抜く。
銃口を、ライザの頭に向ける。
暴走する異界武器を、セツナが鎮圧した。
「これ以上続けると、こわ~いリーダー出てくるからね?
怪獣が火を吹く前に、やめとこう?」
ハルは、今でこそじゃじゃ馬だが‥‥。
昔は怪獣だった。
本人は、昔の自分を、内気な性格だと思っているらしいが。
サブリーダーの、実力行使による説得からの、言葉による説得。
順序が逆である気もするが、説得は成功。
グレイは尻尾を引っ込め、ライザは銃をしまった。
2人が暴れたおかげで、無名の異界武器たちは全滅。
2人の実力も、よく分かった。
頼りになる。
――分かり切っていたことでは、あるのだが。
‥‥‥‥。
‥‥。




