SS14.04_異界の結晶街
白龍の青きオルギンによってもたされた、異界化現象。
エージェントは、セントラル各地にばら撒かれた、異界化への対処にも追われることとなる。
ハルとセツナが訪れた、結晶の異界へと変貌した、セントラル西部の街。
異界化の核となる「落とし子」の捜索中、2人は結晶の光を浴びてしまう。
光を浴び、強制転移によって街から追い出された2人を待っていたものは――。
人の姿を得た、彼女たちの武器であった。
三悪魔CE、グレイドラグーン。
悪魔を召喚すると呼ばれる、D-13リボルバー。
グレイとライザは、結晶の異界への調査に同行する。
エージェント2人、人型武器2人。
足並み揃わぬカルテット部隊の冒険が、いま始まる‥‥!
◆
「――ククク。では行くぞ!
進むのだ、赤月の宴の堕天使たちよ!」
「なんで、あんたが仕切ってんのよ!」
「姉上‥‥。トワイナイトとして動くときは、我のことをマスターと呼べと言っているだろ。」
「だ・れ・が! あんたのことなんかマスターって呼ぶか! この愚弟ッ!」
‥‥足並み揃わぬ、カルテット部隊の冒険が始まる。
始まって、スタートラインで躓いた。
さっそく、躓いた。
「「‥‥‥‥。」」
武器姉弟のやり取りに、無言と真顔になってしまうハルとセツナ。
クソガキグレイは、両手を頭の後ろに組む。
自分の姉、身長180cmの大女を偉そうに見上げる。
「なら、姉上が仕切ってみるがいい。」
「‥‥え? それは‥‥、ちょっと‥‥‥‥。」
「まあ、バカでガサツで単細胞な姉上に、部隊の指揮など――。」
――拳骨。
大女の拳骨が、愚弟を殴った。
成長期のきていない、低い背丈の弟を、上から。
「つ~~‥‥。何すんだよ!? 姉ちゃん!!」
「うるさい黙れ‥‥!」
頭頂部を押さえながら、食って掛かるグレイ。
「ふん!」と、そっぽを向き、知らんふりをするライザ。
「あの~、オレから提案良いかな?」
完全に、武器に使われている状態のハルとセツナ。
セツナが、武器2人に対して、控え目に手を挙げる。
「今回のリーダーだけど、ハルにやってもらおうと思うんだ。」
「うぇ!? 私!?」
急にパスが飛んで来て、ビックリするハル。
セツナの首に、腕を回す。
武器2人に背を向けて、ひそひそ話。
(どういうこと!? 私にこの状況をまとめろって言うの!?)
(まあまあ、そう言わずに。)
ハルとセツナの背後からライザが声を掛ける。
「あら、あたしは賛成よ。
ハルちゃんがリーダーするの。」
‥‥そう、ライザは、ハルの言うことなら聞く。
セーフハウスで、ライザがグレイに対して当たりが強かったのは、それが理由。
可愛い妹分に、不出来な弟が突っかかっているから、躾をした。
そういう理由。
妹に甘い姉である。
ハルをリーダーに推薦したのは、彼女がライザの手綱を握れるから。
ただ、そうなると言うことを聞かなくなるのが‥‥。
「眷属が? 部隊のリーダー?
セツナさん、妹御を贔屓したいのは分かりますけど‥‥。
この女は頭が良くなっただけの姉う――。」
グレイの鼻先を、弾丸が掠めた。
音速を超える弾丸は、ソニックブームを生み出す。
至近弾の生み出した衝撃波を鼻に受ける。
グレイはその場に崩れ落ち、小さな声で呻く。
ライザは何食わぬ顔で、銃口から香る硝煙に息を吹きかける。
「反対意見は無いわね?
なら、決まり!」
今回のリーダーは、ハルに決まった。
人間関係のパワーバランスを考えると、この人選が最も丸く収まるのだ。
ライザは、セツナの言うことを聞かない。
グレイは、ハルの言うことを聞かない。
しかしライザは、ハルの言うことなら聞く。
そしてグレイは、ライザの言うことを聞かされる。
武器2人の手綱を握るのであれば、ハルが一番の適任だ。
そのことを、分からないハルではない。
‥‥‥‥。
にひっと、リーダーはセツナに笑顔を向けた。
「兄さん。私、喉が渇いた。
ジュース、リーダー命令ね!」
「はいはい了解。リーダー。」
インベントリからコーラを取り出し、コップに注いで渡した。
ハル率いる、カルテット部隊。
やっとスタートラインに着き、いざ出発進行。
‥‥‥‥。
‥‥。
一行が目指すのは、街の教会。
地下から巨大な水晶が突き出した地点へと向かう。
巨大水晶の光を浴びたことによって、武器は人の姿を得た。
あの水晶こそが、異界化の核「落とし子」であると当たりを付けたのだ。
行軍を続けながら、街を見渡す。
街の結晶化が、先ほど来た時よりも進んでいる。
道路の真ん中に、水晶の柱が何本も伸びいる。
普通車ならば問題ないが、大型車は、進めなさそうだ。
建物からも水晶が飛び出し、あるいは壁面に張り付き、浸食が進んでいる。
道を歩いていると、時たま、水晶の反射した太陽光が視界を覆い、目が眩む。
眩しさで、視界が潰れる。
科学と魔法で栄えたセントラルに、人口密度の空白が生まれている。
異界化が起こる前は賑わっていた街に今、人の気配は無い。
人々の繁栄を象徴する青い街並みも、水晶によって砕かれた。
街は、人を失い、崩壊し、そこには終末が広がっている。
人が住めなくなり、街並みは崩れさった、終末の世界が。
結晶の異変に触れた、この街の住人は、かつて楽園があったオーストラリア大陸に隔離されている。
そこには、セントラルの大陸調査基地がある。
基地を拡張し、住民の隔離と避難場所としているのだ。
月の女神が予言した、2度目の絶滅。
絶滅の青い光は、セントラルに留まらず。
地球全土に根を下ろし、確実に広がっている。
◆
街を歩くこと、10分ほど。
変わり果てた街並みに、目が慣れたころ、一行を次のイベントが待ち受ける。
グレイは翼を広げ、背中を地面に向け、空中を背泳ぎしている。
翼を小さく漕ぎ、両手を頭の後ろで組み、横着をしながら飛んでいる。
「人間とは不便だな。
空を飛べぬと、窮屈であろう?」
空中を泳ぎながら、ライザの前に出る。
「なるほど、足癖も悪くなるのも頷ける。」
「あぁん!?」
ライザのファニングショット。
グレイは空高く飛び、銃撃を回避する。
やられてばかりの弟では、ないのだ。
武器姉弟のやり取りにも慣れてきた、ハルとセツナ。
ハルは、また兄にジュースをねだっている。
その横で、銃撃を躱された足癖の悪い猛牛は、地団駄を踏む。
「下りて来なさい! この、もやし野郎!
ぼっこぼこにしてやるッ!」
「おお、怖い怖い。
あまり地団駄を踏むな、地割れが起きる。」
「‥‥‥‥。
殺す――! ぶっとばす――!」
――マジックワイヤーを射出。
ライザではない、ハルが射出した。
空を飛ぶグレイに向けて、ワイヤーを伸ばす。
グレイがワイヤーを掴む。
掴み、引っ張り上げ、ハルを宙に浮かせる。
道路が光に包まれる。
水晶だ。
道路に生えた水晶が輝き始めた。
光がハルの脚を焼き、微量のダメージを与える。
ライザとセツナは光に飲み込まれ‥‥、水晶は爆発を起こした。
「眷属!」
ハルが、翼を広げたグレイの背中に飛び乗る。
銃を構える。
主力火器のひとつ、レールガン。
膝を付けてしか射撃ができない、エージェントが扱う武器では珍しい、遠距離攻撃に適した武器。
重く長い銃をグレイの背で構える。
ホログラムの照準が展開。
建物に隠れている「敵」の存在を、魔力センサーで捕捉し可視化する。
トリガーを浅く引く。
レールガンのチャージが始まる。
AGを1本消費。
射撃性能を強化。
――攻撃対象を増加。
さらに、AGを1本消費。
射撃性能を強化。
――攻撃範囲を増大。
ハルは、セツナから受け取ったポーションでAGを回復していたのだ。
ブレイブゲージを1つ消費して、AGを50ポイント (2本分)まで回復。
そのAGを使い、レールガンの性能を強化させる。
ホログラムの照準が、自動で敵を索敵。
ビルに隠れている敵を炙り出す。
攻撃対象をマルチサーチ。
射撃効果が最大となるように、効果範囲を演算。
攻撃対象10体にスコープ。
チャンバーに、エネルギー充填完了。
射撃準備、OK。
‥‥‥‥ファイア。
レールガンの引き金が引かれた。
撃ち出された魔石の弾丸が、10個に分裂。
スコープした敵に向かい、光となって襲い掛かる。
10個の弾丸が命中。
敵に避ける隙を与えず、隠れていた敵を、建物ごと撃破した。
ビル3棟が、ハルの射撃によって崩落し、瓦礫の山となる。
敵の視線には、気が付いていた。
敵の潜伏にも、気が付いていた。
だから、あえて相手の術中に嵌ってやった。
ライザとセツナは囮。
2人が罠に掛かったところを、ハルとグレイで奇襲する。
作戦の首尾は上々。
この4人、足並みは揃わない。
けれど、息だけは合う。
それが、このカルテット部隊。
ハルは、グレイの上でレールガンを構えたまま。
瓦礫が舞い上げた粉塵。
砕けた結晶の粉塵。
その中に残存する敵を、ホロレティクルで索敵する。
これは――。
想像以上に‥‥、多い。
多いし、統率されている。
確認できただけでも、20以上の人影。
人影は、罠に掛かったライザとセツナの元へと群がっている。
「動くな! 大人しく、そこから下りてこい!」
粉塵が収まり、視界が晴れる。
地上には、ライザの首筋に剣を当てる、人の姿。
人‥‥なのだろうか?
グレイは瞳孔を大きく開く。
瞳のピントを調節し、地上に群がるハエを拡大する。
ハルは、ホロレティクルの倍率を上げる。
魔力センサーを切り、通常のスコープモードへと変更。
地上の人影の正体を確かめる。
地上に居たのは‥‥、人の姿をした、何か。
人の肌を持ち、身体から結晶を生やした、何か。
住民は避難したはずである。
なら、この人間たちは?
――おそらく、グレイやライザ同様、異界化の影響を受けた「物」なのだろう。
ハルの見立てでは、銃やロボット。
それらが、人の姿を得たのだろう。
彼らは、地上で20人ほどの徒党を組み、ライザを人質に取っている。
「早く下りてこい! さもないと、この女の命は無いぞ!」
野盗どもは、グレイとハルに投降を促す。
グレイは、右手で両目を覆う。
親切心で、襲撃者に忠告してやる。
「馬鹿者、やめておけ。」
野盗に忠告するも――、少し遅かった。
白刃を突き立てられているライザの額に、青筋が浮かぶ。
火薬よりも発火しやすい気性が、羽毛よりも軽い引き金が、爆発する。
後ろから剣を首筋に当てている野盗の、足を踏み抜く。
「ぐわぁ!?」
物であった頃には感じたことの無い痛みが、野盗を襲う。
ライザがホルスターからリボルバーを引き抜く。
銃のバレルを、首と白刃のあいだに滑り込ませる。
白刃が銃口の表面を撫でる。
火花が走り、剣は防がれる。
ライザは一歩前に出て、後ろ蹴り。
強烈なじゃじゃ馬キックが、野盗の腹に突き刺さる。
ライザは振り返る。
ファニングショット。
銃を構えていた3人の野党にマグナム弾をお見舞い。
ガンマンの早打ちによって、3人とも地面に倒れる。
女ガンマンの強さに、人の姿を得た「物」は怖気づく。
ライザは、武器としての完成度と格の違いを、野盗に分からせる。
彼女は、ランカーが握っている銃なのだ。
猛者が愛用するのには、相応の訳がある。
その辺の有象無象とは、格が違うのだ。
これが、ランカーの愛銃!
その、実力――!
「‥‥あのぉ~? ライザさん?
その調子で、オレのことも助けてくれると、嬉しいなぁ~。」
女の方は、人質にできなさそうだ。
なので今度は、男の方を人質に。
セツナの声に、ライザが振り返る。
そこには、地に伏せて、両手を頭の後ろに組んでいる、不甲斐ない持ち主の姿があった。
野党が、ライザを脅す。
「銃を捨てろ! さもないと、この男の命は無いぞ!」
グレイは、空でため息をつく。
ハルは、地上に向けて銃口を向ける。
ライザは、リボルバーを胸の高さへ。
手首を回しながら、リボルバーの全体を眺め――、ニッコリと笑った。
セツナが声を上げる。
野盗に対してではなく、仲間に対して。
「――バカ!? やめてぇぇ!?」
地上からマグナムが2発、空からレールガンが1発。
全部、セツナに命中した。
「‥‥‥‥。」
なんか身体の色が灰色になって、セツナは静かになった。
このフィールドでは、フレンドリーファイアがオンになっているらしい。
しっかりと、身体にダメージを受けた。
心にも、しっかりとダメージを受けた。
ライザとハルの凶行に、敵は怯む。
人質に取られた仲間を始末するという、血の通っていない行いに、慄く。
「こいつら!? マジか!?」
「仲間をやりやがった!?」
「イカれてやがる!」
ライザは、銃を向けられているのも気にせず、悠々とリロード。
イジェクトロッドを押して排莢。
ラビットローダーという、リング状の取っ手がついたリロードツールで、弾を装填。
シリンダーに弾を込め、取っ手を引く。
ラビットローダーから、弾が切り離される。
取っ手を引いた勢いで、シリンダーが回転。
回転するシリンダーを、リボルバーの中に収める。
「良いことを、教えてあげる。」
カチリと、留め具が嵌る音が響く。
銃を構える。
「セントラルでは、エージェントの命は軽いの。
あなたたち消耗品と一緒か、それ以上にね。」
‥‥‥‥。
‥‥。




