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2.9_海原と時計塔

~ 我らは誇り高き戦士である。

  我が父、我が子。先祖、子々孫々に渡り、勇猛な戦士である。


  我らの血は炎のように熱く、その意思は鉄のように堅い。


  一体、誰が、我らを止められよう。


  友よ、兄弟よ、家族よ、武器を取れ。


  我らの神に、我らの雄姿を。

  我らの神に、我らの勝利を。 ~



デミワイバーンの翼によって、セツナとJJは、一気に街のランドマークである時計塔までたどり着いた。

デミワイバーンは、空中で2人を降ろすと、旋回して丘陵に建てられた屋敷へと帰っていく。


「ばいば~い! ありがとう!」


2人で手を振って飛竜にお礼を言う。

飛竜は、あっという間に見えなくなった。


時計塔へと振り返る。


川の街、建物の屋根に登ればどこからでも見えるというだけあって、近くで見ると見上げるほど大きい。

時計の文字盤が地上60メートルの高さ、塔の全長は100メートルはあるのではないかと思う。


時計塔の針は、すでに良い子はお家に帰る時間を刺している。カラスが鳴く時間だ。

それでも、外はまだ十分に明るいが。


街のモデルとなっているヨーロッパは、日本とは日照時間が異なるので、そこを再現しているのかも知れない。


川の街も同じセントラルなのに、日照時間が異なっているとはこれいかに?


演出上のハッタリなのだろうか?

あるいは、魔法がもたらす情報災害とやらで、本当に日照時間に差があるのかも知れない。


時計塔の足元には、時計塔にも負けない立派な建物。

立派な宮殿や、立派な教会を思わせるような3階建ての建物が建てられている。


時計塔と宮殿の前方には、大勢が集まって、祭りや催し物をできるくらいの、円形の広場が広がっている。


家屋がきゅうきゅうと並んでいた住宅街に比べ、かなり開放的に見える。


傾いた日差しを横に浴びつつ、セツナとJJは宮殿にお邪魔しようと歩き始める。

デミワイバーンに降ろしてもらった広場を抜けて、宮殿の扉まであと少しのところになった頃、やっぱり乱入者がやって来る。


ドンッ! ドンッ! ドンッ!


空から、川のある方角の空から、木や金属を叩く音が聞こえてくる。


2人は立ち止まって、広場に戻る。

空を見上げた。


空には、船が――、帆をたなびかせ、オールを漕ぎ、竜骨(※)にドラゴンの鉄細工が施された、古い時代の船が、空を漕いで近づいて来る。


※竜骨:日本家屋の大黒柱みたいなもの。船の底面を縦に伸びる、大きな木材。船の背骨にあたる。


木材で造られた船は、横に丸盾が拵えられており、外敵との戦いを想定したものだということが分かる。

さらに特徴的なのは、金属製のリベット(釘)が使われていることだ。


古い時代、船に使われる釘は、木の釘が多かった。

その方が錆びて腐食しないし、水を含んで膨張するため、浸水しない。

オマケに安価。


だのに、鉄を使うということは、その船はかつて鉄が豊富に採れる地で造られたものであり、なおかつ、鉄の釘を使って木材の変形を防ぐ必要があったほど、過酷な海で使われる船だったということだ。


「アイコー! オー! エイ!」

「アイコー! オー! エイ!」


何の言語かは分からない。

だが、掛け声に合わせてオールが漕がれ、船は広場の真ん中に止まった。


空を漕ぐ船からロープが垂らされて、乗組員が降りてくる。


降りてくるのは、男の戦士たち。

鎖帷子(くさりかたびら)の上に皮の鎧を着こみ、目の深さまで被るスパンゲンヘルムという兜。

防具の統一感は無く、通気性の良い綿を詰めた厚手の服の者、上裸の者、獣の頭のような兜を被る者も居る。


武器は斧に丸盾。斧は片手で扱える物から、両手で振るう物まで。


少数ではあるが、片手で扱う剣を持つ者も居る。

幅広で肉厚、剣の重心を取るために、柄頭が大きく膨らんでいる。


彼らの正体は、西洋の歴史に少なくない影響を与えたにも関わらず、その正体の多くが謎に包まれている、ヴァイキングという戦士たちだ。


ヴァイキングたちは地上に降りた後も、自身の鎧や盾を叩き、音を鳴らす。

打楽器の代わり、戦士たちを鼓舞する音色を奏でる。


「「「Åh! Åh! Åh! ――――。」」」


ウッ! ウッ! ウッ! と、防具を叩く音に声を合わせ、自らと仲間を鼓舞する。

そこには、恐れを知らない、誇り高き戦士たちが居た。


その数、約30名。


セツナとJJは、臆することなく彼らに近づく。

このまま時計塔に駆け込むこともできるが、そこまで無粋では無い。


戦士には、相応の礼で持って応える必要がある。


「背中は任せるよ。」

「振り落とされるなよ。」


軽くひと言を交わして、構える。

セツナは右手に魔導ガントレットを装備して、下段に構える。

JJは、火炎鎚を取り出し、両手で持って構えた。


「「「Valhallaaaaaa!!」」」


勇猛な戦士の雄たけびと共に、広場での大乱闘が始まった。



セツナとJJは、互いに付かず離れずで、互いをフォローできる距離で戦おうとする。

戦おうとするが、混線での立ち回りは難しいので、できれば近い方が好ましいくらいの優先度で立ち回る。


斧を持った2人の戦士が、セツナとJJに襲い掛かる。


JJは、振り下ろされた斧を懐に入り込んで捌く。

そのまま皮のチェストアーマーに手を引っかけて、柔道のように片手で背負い投げをする。


セツナは上段から振り下ろされた斧を身体を半身にして回避。

懐に入り込んで、脚を踏みつける。

そのまま、頭突きをして怯ませて、斧を左手で取り上げ、右手で素早く顔にジャブを放って倒す。


奪った斧を横に振り、回転しながら前進。

襲い掛かって来る敵との距離を測りながら遠心力を強める。


頃合いを見計らったところで、遠心力の乗った横薙ぎ。

後ろに引いて躱される。


でもそれは計算済み、本命は追撃にあり。


斧を使って溜めた遠心力をそのままに、跳躍。

宙で回転しながら、十八番の回し蹴りを放つ。


ヴァイキングが盾で受けるも、盾もろとも横に吹き飛ばした。


地に足をつけて走り出す。――そしてスライディング。

敵の足元を斬りつけて攻撃、怯んだヴァイキングの首根っこを捕まえて、盾にする。


盾を見て、攻撃を躊躇した相手に向かって、盾にしたヴァイキングを ≪ブレイズキック≫ で吹き飛ばす。


クラス「魔導拳士」はリーチが短い。

だから、使えるものは何でも使う。


1人のヴァイキングが、盾を構えて突進してきた。

斧を横に振って迎撃、斧の刃が盾の守りをすり抜けようとする。


これをヴァイキングは、盾の横部分である”へり”を使って受け止める。

木材で作られた盾に、斧の刃が食い込んで取れなくなってしまう。


ヴァイキングは、盾を横に振るう。

テコの原理で引っ張られて、斧を持つセツナの身体が振り回される。


それを側宙でやり過ごして、力を逃がす。

斧を手放して、後ろにジャンプしながら、ソバットキックを放って、距離を取った。


すかさず、マジックワイヤーを射出。

盾に撃ちこむ。


ワイヤーの力で、盾を引っ張ってヴァイキングを引き付ける。

同時に、セツナも走り出し、 ≪ブレイズキック≫ の慣性で加速。


盾は、テコの原理で武器を奪える反面、自分も盾を掴まれることに弱くなってしまう。

ワイヤーに盾を引っ張られて、防御が取れなくなってしまった。


そこに、セツナの勢いを乗せたラリアットが、首を刈り取る。

ラリアットで、ヴァイキングの脚が地面を離れたのを腕の感触で確認。


ネックブリーカーに移行。


自身も脚を空中に投げ出す。セツナとヴァイキング、両者の背中が地面と平行になり、一瞬静止してから地面に落ちていく。


「ぬんッ!」


ジャンピングネックブリーカー。

刈り取った胴体を地面に静めた。


しかし、戦場で寝そべるような愚か者には、当然、お仕置きが待っている。

機動力が大きく削がれたセツナに、斧が横薙ぎに迫る。


横腹の部分から切断するつもりなのだろう。


咄嗟に、脚を頭の方へと持ち上げて、やり過ごす。

同時に、脚の重みと反動を使って、ネックスプリング。


寝そべった状態から身体を跳ね起こして立ち上がり、側頭部目掛けて回し蹴り。それを2回振るう。

躱されて意識が上に向いたところで、くるりと身体を回して、下から股間を蹴り上げる金的。

動きが止まったので、側頭部に回し蹴りをして仕留める。


彼の武器を拝借。

JJを背後から襲おうとしているヴァイキングに投げつけて、その背中に刺す。


セツナを取り巻く、ヴァイキングたちが少なくなった気がした。

しかし、倒した数に比べて、人の密度が薄すぎる。


はっとして、周囲を確認すると、魔法の槍を右手に構えた5人ほどの集団があった。

槍を投げて、投擲してくる。


空中で身体を捻りながら槍を避ける。


さらに、もう一投されたので、同じ要領で躱す。


近づこうする――、これがいけなかった。

投槍部隊に意識を取られたせいで、周囲への意識が疎かになる。


上空から魔法の雷が落ちて、セツナの身体を電流が駆け抜けた。

動きが止まってしまう。


そこに、盾を構えたヴァイキングが突撃してくる。

突撃され、シールドバッシュで態勢が崩れる。


ヴァイキングソードが縦に振り下ろされるのを、ガントレットで無理やり受け止める。

削りダメージが発生した。


ヴァイキングの攻撃は止まず、剣を受け止めると見るや否や、盾を横に振り、シールドで顔面を殴る。

シールドでの殴打が命中し、たたらを踏む。


もういちど、シールドの殴打を受けた後、ヘッドバットを受けて、地面に仰向けに倒れてしまう。


無防備なセツナに、剣の刺突攻撃が――。来るその前に、はらりと火薬が舞う。


黒い粉末は、宙を漂ったあと、爆発を起こし、セツナを窮地から救った。



JJは、火薬刀のスキル ≪飛燕衝≫ でセツナの窮地を救った。

時間差で起爆する粉塵を撒くスキル。


タイムラグがあり、扱いにはクセがあるが、頼れるスキルである。


弾は残り2発。


乱戦でリロードする余裕は無い。

――が、派手に行きたい。


クラス ≪火薬術士≫ 。

宵越しの火薬を握っていては、男が廃る。


刀を鞘に納める。


隙を見て斬りかかってきたヴァイキングに、右手の掌打で応戦。

拳を握らずに、耳・ノド・鼻と素早く攻撃。


握らない分、力まないので素早く繰り出すことが可能。

鎧の上からの攻撃なので幾分かダメージが削がれても、勢いを削ぐには充分。


追撃の当身を繰り出して、ヴァイキングを跳ね飛ばした。


ヴァイキングの密度が高そうな場所を探して、そこにアサルトダッシュを使用して、一気に詰め寄る。

さらに、アサルトゲージを使用。


「飛燕衝!」


AG版の ≪飛燕衝≫ が発動。


爆炎を纏った煤けた刃が鞘から抜き放たれて、横一文字に火炎斬りを見舞う。

AG版の飛燕衝は、粉塵が即時起爆する。


通常版の弱点を克服した、スキルである。


火炎斬りで敵集団を一刀両断。


刀を鞘に戻し、鞘のレバーをコッキング。

一連の動作を走りながら行い、残兵に踏み込む。


残りの弾は1発。


ヴァイキングも、JJの勢いにたじろぐことなく、2人がかりで斧を振る。

JJのスキルが発動。


「飛燕刃。」


火薬の爆発力を得た刀を、上に振り抜いて1人、返す刀を振り下ろして1人。

一息一間で、2人を切り伏せる。


火薬刀の ≪飛燕刃≫ は2回連続が可能。

1撃目も2撃目も威力は落ちるが、1発の火薬で複数回攻撃できるスキルである。


6発目の弾丸を使用したことで、鞘から火薬と弾の詰まったシリンダーが自動でイジェクトされる。

金属の甲高い音が、地面を転がっていく。


これで、火薬刀は、ただの煤けて切れ味の良くない刀になった。


だが、問題ない。

すでに、敵の数も大分減っている。


あとは、セツナが何とかするだろう。


回復アイテムの「サバイバルキット」を取り出して、自分に使う。

自動注射器の針が飛び出して、太ももに筋肉注射をする。


パッシブ「滋養と狂走」が発動。

回復アイテムを使用した際に、わずかな間、機動力が大きく上昇する。


左手に火薬籠手を装備。

スーツの袖の上を、籠手が覆う。


この武器は、弾丸が独立していて、他の武器が弾切れであっても使用できる。

装弾数2発。


「滋養と狂走」によって強化された移動力で、ヴァイキングの1人に一気に近づく。


左拳を思いっきり握り込む。

そうすることで火薬が発火、火薬の力を纏ったハードパンチがヴァイキングの腹を穿つ。


ヴァイキングが衝撃で後方へと吹き飛んでいく。


JJは、それを追いかける。

石の地面を穿って、吹き飛ぶ速度よりも速く、距離を詰める。


石火の間で拳の距離となり、脚の浮いたヴァイキングに両手でラッシュを叩き込む。


――「2進数の余白」という言葉がある。

脳科学と情報科学の上に成り立つ、電脳科学という学問の言葉である。


人間の思考は、AI技術の発展と共に、0と1での記述が可能になった。

しかし、意識の電脳化に成功してもなお、人間の意識には不可解な部分がある。


それが、2進数の余白と呼ばれる領域。

同じ、0と1の羅列であっても、ある個人によっては、意味や効果が異なるものがある。


それは、電脳科学の結晶である、VRゲームでも起こりえる。


――――。

――。


ヴァイキングの腹部に一発。

地面を穿つ勢いで接近して、ラッシュ。


拳の嵐を叩き込んで、最後に火薬の一発!


パッシブ「滋養と狂走」のカタログスペック、規定された「わずかな」や「大きく強化」を超えた連撃で、ヴァイキングを静める。


左手を、素早く開いて閉じる。

この動作を2回。


籠手の、手の甲部分が開いて、弾丸が排莢される。

スーツの裏側に縫い付けてある、弾丸ポーチから、ショットシェル状の弾を取り出して、籠手に込め直す。


2進数の余白。

これが決定的な格差を生むことは無い。


だが、移動速度を上げるようなアクションは、どうしても脳の時間認識に関わる演算と処理をする性質上、個人の電脳野に処理を委ねることになり、個人差の影響を受けてしまいやすい。


なので、カタログスペック以上の性能が出せてしまうプレイヤーも存在する。


これを、ロマンと受け入れるか、グリッジ(意図しない挙動)と非難するかは、個人の価値観による。

2進数の余白は、未だ人類が触れられぬ神秘であり、エンタメと公平性のグレーゾーンでもある。


JJがリロードを済ませると、空に大きな魔法陣が現れる。


「ヘヴィコア × ライトニングエッジ。」


スキルの力を引き出す、コア・レンズ。

ヘヴィコアは、スキルの”破壊力”を強化する。


セツナが右手を空に掲げる。

そうすると、右手に魔法陣から一鎚の、大きな稲妻が降り注ぐ。


稲妻は、セツナに襲い掛かろうとしたヴァイキングたちを吹き飛ばす。

稲妻を受けたセツナの右手に、雷撃の力が収束する。


その右手を、横に薙ぎ抜く。


「トールハンマー!!」


雷神の一撃は、生き残ったヴァイキングたちを焼き払った。

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