2.8_飛竜と隼
デミワイバーンを駆る騎兵、三騎との戦いが始まった。
騎士たちは、セツナとJJを、空から睥睨している。
端的に、作戦会議を開く。
「JJ、何か作戦は?」
「‥‥‥‥。」
空を飛ぶ相手というのは厄介である。
何せ、こちらの攻撃が届かない。
近強遠弱な仕様も相まって、飛び道具で応戦しようにも、泥試合になりがち。
「――JJ?」
デミワイバーンが、口を開く。
小さな牙が並ぶに、青紫色をした魔力の塊が膨らんでいく。
「――逃げよ。」
セツナとJJは、仁王立ちから一転。
踵を返して、走り出した。
彼らが居た場所に、魔法の弾が着弾して地面を穿つ。
デミワイバーンの、マジックブレスの攻撃である。
ワイバーン種は、もともとは火炎のブレスを吐くモンスターである。
それを家畜化するにあたり、威力を落としたマジックブレスとなるように、個体の選別を行っていったのだ。
野生種のワイバーンのブレスは、一息で家屋十棟を燃やし尽くす威力がある。
これでは、とても家畜として扱うには看過できない威力であったので、品種の改良がなされた。
マジックブレスなら、建物に穴が開く程度で済む。
それくらいなら、人に直撃しても、重体で済む。
人の命も、建築物の命も、全ての安全性が終末仕様。
それが、セントラルクオリティ。
竜騎士たちは、逃げる2人をデミワイバーンのマジックブレスで追撃する。
家屋の屋根から、3メートルほど高くを飛び、離れ過ぎない距離で追いかける。
そして、騎士ら自らも、肩に下げているショットガンに手を掛ける。
ポンプをコッキングして、中に入っている弾を排莢。
空になったチューブマガジンに、別の弾を込める。
ショットガンの優位性は、状況に応じて、複数の弾を扱えること。
空の弾倉に、竜の鱗を模したデザインのショットシェルを装填する。
一発は、開いたチャンバーに送って、ポンプをコッキングしてチャンバーを閉める。
残りは、銃の下にある給弾口から、バレル下にあるチューブマガジンに送る。
弾込めが終わったら、銃を構える前に祈りを捧げる。
十字を切る。
右手を、額、胸、左肩、右肩の順番にかざす。
父と 子と 聖霊の 御名によって。
――アーメン。
ショットガンが炎を吹いた。
比喩ではない、文字通り、ショットガンの口から竜の火炎が迸り、大地を焼いているのだ。
セツナの背中を、赤いレンガの破片と、赤い炎の熱が撫でる。
「――!? ‥‥ドラゴンブレス。」
ドラゴンブレス。
実在するショットガンが扱かえる弾の一種で、名前の通り、炎を銃口から放つ弾である。
セントラルでは、弾に魔石や魔法など、異界由来の製法を用いることで、本物の竜の火炎を再現している。
銃弾に施せる、魔法容量(情報容量)は決して大きくないので、竜の威力に迫ることはできないが、それでも一発で家ひとつを吹き飛ばす威力がある。
異端や不信心を罰するのは、炎であるべき。
この騎士たちは、形式を重んじる傾向があるようだ。
そして、形式のために、建物に被害がでるのも仕方なし。
車やバイク、建築物。
これらは、プレイヤーの所有物でない場合、なぜか壊れやすいし、なぜか爆発する。
アクションシーンでは、車は爆発して、建物は崩れた方が、絵になる。
例えそれが、非現実的なフィクションだとしても。
そうであるならば、存分に破壊すれば良い。
それが、ゲームだからこそできるエンターテインメント、である。
住宅街を逃げ回るセツナ達を追い詰めるために、騎士たちは、銃口を家屋に向ける。
デミワイバーンも、銃口の狙いに合わせるように、マジックブレスを構える。
照準が絞られ、マジックブレスの溜めが終わり、6つの咆哮が街の家屋を襲う。
家屋は、みちみちと並ぶご近所さんを巻き込んで、あっけなく倒壊し、炎と爆発を伴って、セツナ達の行く手を遮らんとする。
2人は、少しだけ目配せ。破壊と倒壊に乗じて、攻勢に出る。
テレポートを発動。
倒壊する建物の隙間に滑り込むように、瞬間移動で回避を行う。
すかさず、セツナは手近な建物の屋根に向けてマジックワイヤーを射出。
ワイヤーの巻き取る力を利用しつつ、建物を登る。
JJは、ジャンプをして、空中で身体を反転。追いかけてくる騎士に向き直る。
手に火薬武器を呼び出す。
火薬銃と呼ばれる火薬武器を両手で握る。
火薬銃は、巨大なリボルビングライフルの形状をした武器。
その全長は、成人男性の身の丈ほどある。
あまりにも巨大なため、ストック部分を脇に挟んで運用する。
ストック部分とシリンダー部分の境目にある、ボルトハンドルを引く。
リボルビングライフルのクセに、コッキングが必要な単発銃。
腕に抱えた火薬銃を、空中に居る態勢で、空の標的目掛けて引き金を引いた。
ダァァァン!!
ドラゴンブレスに負けず劣らず、火薬銃の銃口からもド派手な華が咲く。
有効射程は、約10メートル。それをパッシブ「失敗の母」で延長して約20メートル。
地上から打ち上げられた火薬は、まるで花火のように散らばって、拡散弾として空の敵を狙う。
しかし、横一列の隊列を解いて避けられてしまう。
JJは地上に着地、パルクールスキルの「スライディング」を発動。
ジャンプの慣性を維持して、進行方向に背を向けたまま、騎士の様子を窺いつつボルトハンドルを引く。
ハンドルを引くと、シリンダーが回転。回転と同時に、先ほど使用した弾丸が、シリンダー内から排莢された。
ここで、JJの花火によって隊列を乱した騎士の1人に、セツナが攻撃する。
建物の壁面を駆け上り、屋上に飛び移るように跳躍。
屋上付近に刺したワイヤーを切り離して、振り子ジャンプ。
ワイヤーの巻き取る力が、セツナのベクトル情報に加わって、跳躍力が強化される。
物理法則を無視して、セツナは飛び上がり、デミワイバーンの更に上をとる。
彼の足を、炎が覆う。
「ブレイズキック。」
急上昇からの急降下、JJの射撃からセツナの追撃。
騎士の1人は、これをデミワイバーンの体を横に寝かせ、翼が地面と垂直になるような姿勢で回避する。
空振ったセツナは屋根に着地。
彼の標的とならなかった騎士2人からの射撃を、後ろ宙返りで躱す。
三角屋根で足場の悪い中、器用にバックフリップで、屋根の頂点を飛び移って捌いている。
JJが地上から二度目の射撃。
再びジャンプしてから射撃体勢に入る。
スライディングとジャンプを繰り返して慣性を維持する、スライドホップで引き撃ちをしながら応戦。
狙いは、セツナに発砲している2人の騎士。
「飛燕衝。」
スキル ≪飛燕衝≫ を発動する。
火薬銃で ≪飛燕衝≫ を使用すると、射撃が3点バースト射撃に変化する。
ワントリガーで3発の弾が消費され、ストレートプル方式(※)のボルトハンドルが、自動で前後に動いて自動で3発分の射撃を行う。
※ストレートプル:前後にボルトを引くだけで、コッキングができるボルトアクション方式のこと。
花火の弾幕が広がり、面と量による攻撃で、空の敵を制圧する。
隊列が崩れ、セツナへの応戦に意識を取られていたため、今度の射撃は2人の竜騎士に命中する。
クリティカルでは無いが、幾らかのダメージにはなったはずだ。
着地して、火薬鎚に持ち替える。
「リロード!」
声を張って、セツナにリロードをする意思を伝える。
シューティングゲームでの、意思疎通の基本である。
火薬鎚の頭を地面に向けて、柄の部分に掌底をして押し込んで、シリンダーをイジェクト。
武器間で共有される弾薬をリロードする。
リロードの隙を狙おうとする騎士に対して、セツナの ≪ファイヤーボール≫ が、それを咎める。
地上と屋上から、意識を分散させて、1人のターゲットに集中させないように立ち回る。
リロードが終わったJJは、マジックワイヤーを射出。
自分も屋上に登る。セツナとは向かい側となる屋上に登って、飛竜撃墜の算段を立てる。
自分は、セツナほど縦横無尽に飛び回ることはできない。
クラスの性質上、慣性移動の手段に乏しいし、彼ほどパルクールが上手い訳でもない。
パルクールのコツを聞いたら、「大切なのは、グルーヴとファンク(※)。要は、その場のノリ」という、あまり参考にならない教えを賜った。
ダンスと一緒で、テクニックやステップだけを見るのではなく、全体のノリを意識することが大事らしい。
※グルーヴ&ファンク:グルーヴは、ダンスの”ノリ”、あるいは音楽のリズムに乗れていること。ファンクは強い”拍”のこと。
グルーヴと、ファンク。全体のノリ。
分かるようでいて、分からない。
だがしかし、俺にはロマンがある!
ロマンがあれば、翼が無くったって、空を飛べるのだ。
火薬鎚の柄を、左手で反時計回りに回す。
撃鉄が起きて、火薬を使う準備が完成する。
ハンマーを背中の方に寝かせて、大上段に構える。
アサルトゲージを使用、アサルトダッシュを発動する。
一時的に機動力が大きく上昇する、その力を使って前に跳躍。
通常のジャンプでは考えられない勢いと飛距離のジャンプをする。
それでも、飛竜を捉えるには至らない。
ここで、火薬鎚を振るう。
ヘッドスピードが特定の速度を越えたことで、自動的に撃鉄が落ちて火薬を発火、爆発を起こす。
当然、目の前に何もいない鎚は空を切る。
だが、これでいい。
左手で柄を反時計回りに回転、ハンドルを固定。
火薬鎚のスラムファイヤ機関が機能する。
火薬の力で前方に宙返りをしたJJの身体は、スラムファイヤの連射機能によって、追加でもう一回転、さらにもう一回転と縦に回転していく。
スーツを着込んだ、元ラガーマンのガタイは、火薬によってビュンビュンと音を立てて、空中を加速していく。
アサルトダッシュで得た慣性が、火薬の爆発力を受けて更に加速、瞬く間に、空を駆ける飛竜に高度と距離が並んだ。
「ノッてるぜ! ファンクな――、ビート!!」
弾倉に残った最後の一発が消費されて、火薬鎚が振るわれる。
その一撃は、デミワイバーンの脳天に直撃し、地上の家屋もろとも地面に叩き伏せた。
◆
(Foo~、ナイスジャンプ! ナイスグルーヴ!)
セツナは、口笛を鳴らして、JJのジャンプを称賛する。
あのジャンプは、自分にはできない。彼だからこそできた。
推進力を失ったJJは、デミワイバーンを追うように地上に着地。
建物の倒壊で発生した煙の中に消えて行く。
「弾切れ!」
JJの声。
声を張り上げて、エマージェンシーリロードが必要であると伝える。
火薬の無い火薬武器は、ただの棒と筒である。
セツナは、腰からリボルバーを抜く。
雷が裂けるような銃声による精神的な負荷によって、残りの騎士2人の意識を自身に向ける。
空を回転しながら加速する、スーツ姿の筋肉ダルマを見て、こちらも対抗心が芽生えてきた。
自分も負けてられないと、作戦を立てる。
(とっかかりは万端。あとは、その場のノリ。)
初手は上手く決まる自信があるので、その後は、野となれ山となれ、である。
リボルバーを弾を使い果たした。
シリンダーをスイングアウトして、リロードする素振りを見せる。
その隙に反応して、騎士の1人が、デミワイバーンに対してマジックブレスを命令する。
彼らも弾切れ、あるいは、残弾を温存しておきたい状況なのだろう。
魔力の塊が、デミワイバーンの口元に発生し、セツナ目掛けて放たれる。
これを、さっきまで見せたように、バックフリップで避けるようなことはしない。
アサルトゲージを使用、アサルトステップを発動。
ふわりとセツナの身体が後ろへ下がり、マジックブレスをすり抜けるように回避する。
回避成功、アサルトステップの追加効果が発動。
一瞬のうちに、30メートルはあった距離を移動して、マジックブレスを放ったデミワイバーンの上にセツナが現れる。
遠距離攻撃を使うときは、アサルトステップに注意。
近強遠弱の世界では、遠距離攻撃は安全行動ではない。
空中ジャンプを使う。
空中に見えない足場が発生して、1回だけ自由に動けるようになる。
足場を蹴って加速。
デミワイバーンに跨る騎士目掛けて、拳を振るう。
まさか近距離戦闘になると思っていなかった騎士は、反応が遅れる。
アサルトステップ後に派生でき、ノックバックに秀でたアサルトアタックの拳を受け、騎士はデミワイバーンから地上目掛けて叩き落とされた。
セツナは、素早く空席になったデミワイバーンのサドルに乗り移り、手綱を握る。
いつもの乗り手と異なる手綱の引き方に、デミワイバーンは暴れ出す。
騎乗者を振り落とそうと、空中で暴れ、それでも落ちないならばと、自身の体ごと地上の家屋に突っ込む。
セツナを乗せたデミワイバーンは、屋根に穴を開け、連立する建物の壁を壊し、5棟ほどを破壊させて道に飛び出してくる。
ちょっと罪悪感。
(ひぃ~、ごめんなさい~。)
この世界の建築物は、壊されるために存在する。
しかし、戦いになる前の、店主との交流で街に情が湧いてきている。
人間の感情が持つ、不合理さが、反射的に罪悪感を作り上げた。
飛竜と罪悪感に振り回されながら、セツナはまた空に飛び立った。
すると、あれほどまでに、嫌がっていたデミワイバーンが、大人しくなる。
どうやら、混乱から我に返ったらしい。
それから、仕方がないので、セツナに付き合ってもくれるようだ。
手綱とは、デリケートなもの。
訓練された騎馬であっても、不用意に手綱へ触られると、暴れて怪我をすることがあるらしい。
今回は、セツナもデミワイバーンも丈夫だったので、大事には至らなかった。
‥‥眼下には、大惨事が広がっているが。
セツナと飛竜の後ろから、最後に残った騎士が襲い掛かって来る。
「よし、ゴー!」
デミワイバーンに指示を出して、騎士の追跡を振り切ろうとする。
ヨーロッパの街並みを再現した空で、デミワイバーンによる空中戦が始まった。
◆
後ろを取られているセツナは、まず追跡を振り切る必要がある。
この状況では、こちらが攻撃できない。
リボルバーをリロードして、撃ってみるけれど、効果はない。
回避に集中した方が良さそうだ。
騎士はショットガンの弾を変更、単発弾道で有効射程の広いスラッグ弾に装填をし直す。
銃口から、スラッグ弾が放たれる。
それは、セツナ達の至近距離を通ると、標的を感知して自動で爆発を起こした。
目標を検知すると起爆する、近接信管の類いで、ドッグファイトを想定した弾なのだろう。
爆風が掠めたことで、セツナの駆る飛竜の速度が落ちてしまう。
速度が落ちると、距離を縮められる。
距離を縮められると、被弾の確率が高くなる。
ジリ貧である。
飛竜の高度を下げる。
位置エネルギーを運動エネルギーに変換して、失った速力を取り戻す。
セツナ達が戦っていた道、買い物をしていた道に、高度を落として潜り込む。
騎士には、後ろと上を取られることになるが、問題ない。
相手が攻撃をするために、高度を落とすことに意味がある。
スラッグ弾の弾速は、空気抵抗の影響で遅い。見てから回避はできないが。
それでも、立体機動が可能な空中戦で偏差射撃を安定させるには、近づく必要がある。
逃げるセツナ。それを追いかける騎士。
――騎士の前に、屋上からこちらに得物を向ける人の影があった。
「飛燕衝。」
火薬銃から、3発の花火が打ち上げられる。
とっさに旋回し、攻撃の加害範囲からギリギリのところで逸れることに成功した。
セツナは、その隙に高度を上げる。
グングンと、傾きがキツくなり、そろそろ夕日になろうかという太陽に目掛けて高度を上げる。
白と黄色の逆光に隠れて、狙いを付けられないようにする作戦のようだ。
それを騎士は追いかける。
相変わらず後ろを取り、離された距離を補うために、また弾の種類を変える。
白い色をしたショットシェルを、弾倉に込めて、十字を切る。
太陽の逆光に隠れようとする敵に、銃口が吠える。
銃口からは、十字架を模した形をした攻撃が放たれた。
十字架は、敵を裁くべくセツナに迫る。
「ファイヤーボール。」
パッシブ「双子の火星」によってチャージされていた、二連のファイヤーボールがこれを相殺。
しかし、何度もは相殺ができない。
騎士はポンプを操作してコッキング、火球のチャージよりも、圧倒的に速い。
セツナは手綱を操る。
飛竜に、上向きに宙返りするように指示を出す。
飛竜の尾を掠めるか否かのところを、十字架が通り過ぎて行った。
上にループすることで、運動エネルギーが位置エネルギーに変換され、速度が落ちる。
ショットガンの次弾が、下からこちらを狙っている。
ふぅーっと、息を吐く。
高度を上げるために、地面に垂直な姿勢で空を飛ぶ飛竜から――。
セツナは手綱を手離した。
身体が、背中から後ろ向きに落ちていき、頭を下にして落ちていく。
――騎士に目掛けて、落ちていく。
「ストライクコア × ブレイズキック。」
空気中の塵が発火して、セツナの周りを赤く焦がす。
位置エネルギーは、運動エネルギーに。
彼の得ていた高度が、どんどん速度に変換されていく。
まるで、隼の狩りの様。
獲物に高速で接近し、鋭い爪を刺す。
対する騎士は、雉撃ちだ。
迫る獲物に対して、祝福を受けた弾丸を放つ。
十字を切り、祈る。
右手を、額、胸、左肩、右肩へ。
父と 子と 聖霊の 御名によって――。
「Ameeeeen!! Yaaaaaaaaay!!」
隼の爪と、騎士の剣が衝突する。
甲高い音が響いて、火花が散って、衝撃波を生み出して、猛禽類の爪が剣を切り裂いた。
スキルの力を引き出すコア・レンズ。
ストライクコアは、スキルの威力を高める。
「スーパーブレイズ!!」
隕石が落ちたような一撃が、騎士を空から落とした。
◆
騎士とのドッグファイト、一騎打ちを制したセツナは、撃ち落とした騎士をなぞって、自分も落下していく。
ここからはノープラン、何とかしてベクトルをやり繰りして、受け身を取って生還することを考える。
パラシュート降下をするように、身体を大の字に広げて、空気抵抗で減速しようとする。
そこに救いの船、セツナが乗っていたデミワイバーンが来てくれた。
馬の群れに上下関係があるように、デミワイバーンにも上下関係や社会性があるらしい。
彼は後から知ることなのだが、デミワイバーンの上下関係は、空で強いヤツが偉いという理屈で決まる。
そして、空を羽ばたく自分を、強くしてくれる乗り手として、騎手を選ぶのだと言う。
もちろん、それだけで信頼関係が成立する訳では無いのだが、それでもデミワイバーンにとっては大切な事なのだ。
このデミワイバーンは、乗り手が困ってそうなので、とりあえず翼を貸してあげるくらいには、セツナを信用したのかも知れない。
後は、野となれ山となれのプランだったので、これは嬉しい誤算。
「ありがとう」とお礼を言って、デミワイバーンに跨った。
高度を下げて、立ち並ぶ家屋の上を飛ぶ。
1人、屋根で手を振っているJJが見えた。
「JJ!」
声をかけると、彼は飛竜の脚に、マジックワイヤーを引っ掛ける。
痛がった様子も無く、飛竜はそれを受け入れて、2人を運んでいく。
その様子に、エージェントと騎士の決闘を見ていたギャラリーたちが、歓声を上げる。
ギャラリーの中には、店主も居た。
「イエーーーイ!! フォーーー!!」
20歳は若返ったように、目に活力が漲り、エネルギッシュなギャラリーに混じってはしゃいでいる。
ギャラリーの見送りを受けて、セツナ達は、街のランドマークに向かう。
「いこう! 時計塔へ!」
今日の旅は、車もバイクも無し。
でも、飛竜がダメとは言っていない。
その場のノリで予定が決まることも、旅路の中では珍しくないだろう。
 




