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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
2章_休日

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2.7_騎士と竜

~ これより竪琴が奏でますのは、美しき金髪の騎士の物語。

  銀腕と呼ばれた王の血を引く彼は、火を噴く怪物と相対します。


  王都を攻める怪物は、戦士たちを眠りに堕とす妖しい術を使い、

  恐ろしい炎と覚めぬ眠りで、王都を恐怖へと陥れます。


  果たして、金髪の騎士は怪物を討ち倒せるのか?

  そして、深き森で密かに咲く、美しきトルイドとの恋の行方は?


  さあ! 竪琴よ!

  我らを神話と英雄の世界へと導きたまえ! ~



「いらっしゃい。」


商店の扉を開くと、扉につけられた鈴がカランカランと客人を招き入れる。

レンガと川の街では珍しく、1階をガラス張りにしている小洒落た商店に、セツナとJJは立ち寄った。


ラジオ局のある時計塔へ赴く前に、”菓子折り”の買い出しに来たのだ。


商店に入る2人を、店主の老人が迎えた。

老人は、たった今、火をつけたばかりの葉巻に、ふかふかと空気を送り込み、火が落ち着いたところで最初のひと口目の煙を吐き出す。


最初のひと口は、マッチの火薬の匂いが強いので、味合わずに吐き出すのだ。


出入り口の近く、レジの向こうで椅子に座り込み、客が来たというのに気にせず煙を味わっている。

椅子の向こうには、物々しいショットガンが壁のガンストックに腰掛けており、番犬のように招かざる客を威圧している。


店主は、カジュアルなジャケットに、シンプルなチノパン。

ところどころヨレたワイシャツというラフな格好だが、それがなんだか様になっている。


顔のシワの彫が深く、だけども人好きする優しい目元、ラフな服装に反して、きちんと整えられた白髪と白い口ひげ。

人生の、酸いも甘いも、清も濁も飲み干した、イカした老人だ。


様になっている葉巻姿に、セツナは、思わず見入ってしまう。

店主がそれに気が付く。


にっこりと笑って――。


「ああ、生憎、葉巻(これ)とお酒が、老後の楽しみでね。」

「それはそれは、素敵な趣味ですね。僕も、将来はそんな漢になりたいと憧れています。」


セツナと店主は談笑を始める。

JJは、店主に軽く会釈をしてから店の奥に入り、ラジオ塔へ持っていく菓子折りの品定めをする。


セツナとJJを見て、店主が何かを察する。


「おや? お兄さんたちは、エージェントの――。」


2人が賞金首だと言うことに気が付いたようだ。

しかし――。


「まあ、構わないさ。買い物をしてくれるのだったら、誰だってお客さんだ。」


人は裏切っても、金は裏切るな。

それがこの街のルールなのだと、店主は教えてくれた。


JJが、酒ビンをひとつ持って、店主の前に来る。


「店主、お聞きしたいのだけど、ワンドロップが楽しめるウィスキーは置いてませんか?

 ここの酒には、疎いもので。」


ワンドロップとは、ストレートのウィスキーに、水を一滴ずつ垂らして飲む、水割りの一種。


ウィスキーはアルコール度数が高く、外気に触れるとアルコールが揮発してしまう。

それにより、ウィスキーの華やかな香りが、アルコールの刺激臭でかき消されてしまうことがある。


なので、水を一滴垂らし、アルコール度数を下げることで、ウィスキー本来の香りをより引き出すことができるのだ。


この世界で、そこまでの味覚や風味は再現できてはいないだろうが、何より、酒とは雰囲気が一番の肴なのだ。


なんでもない安酒が、サイコーの一杯となるシーンだって、男の世界にはある。


JJの祖父は、道場を切り盛りしている。


何々流みたいな名は無く、武の求道者から近所のご婦人まで、広く門戸を開く緩い雰囲気の道場。

年寄りの道楽である。


武の真髄は脱力にあるのだから、道場は、四角四面の三角野郎じゃあいけないと、祖父は語る。


道場と武道。

武道と酒は切っても切れない縁で、神聖な道場で酒盛りが行われるのも珍しくない。


やれ八百万への感謝だ、やれ武の神様への奉納だ、やれ門下生のとこに子どもが生まれただとか――。

要は、酒盛りの口実が欲しいだけの、吞兵衛(のんべえ)の方便である。


祖父も、例に漏れず、吞兵衛である。


酒好きの門下生に悪い遊びも教わって、その縁でJJは、酒には年齢の割に詳しく(※)、自分なりの拘りがある。


※飲酒とタバコ

2XXX年の日本では、飲酒もタバコも、成人年齢と同じ18歳から。

三度目の世界大戦を機に、徴兵をする観点から、酒・タバコ・ギャンブルなどの年齢制限も18歳に引き下げられた。

戦後も、18歳で不都合が生じていないので、そのままの法律が運用されている。


ワンドロップという言葉を聞いて、セツナは「なんかカッコイイ」と内心で思う。


‥‥意味は分からないが。

意味は分からないが、ロマンの香りがするので、今度試してみようと考える。


店主は、JJが飲める口だと理解したのか、目を細める。


「ほうほう、スーツのお兄さんは、若いのに(つう)なことを知っているね。それなら――。」


店主に、この土地の酒や、美味しい飲み方、それからツマミを紹介されて、買っていく。

電子の世界でも、味覚はある程度なら再現されている、腹は膨れないし、酔うことも無いが。


それでも、異国の地で酒の蘊蓄(うんちく)を聞けるというのは、男2人の冒険心を満たすには充分な魅力があった。


結局、菓子折りどころか、自分たち用の品まで買っちゃって、紙の買い物袋が2つ分、レジにそびえることになった。


‥‥酒とは、インテリアでもある。セーフハウスに置いて、ロマン指数を高めるのだ。

酒の種類、保管されている場所、嗜み方。


それらが、そこに住まう主のバックボーンを、傾けられたグラスから零れるように、饒舌に語るのだ。


セツナは、お土産袋をひとつ頼み、菓子折りの分だけ別の手提げ袋に分けてもらう。

「いっぱい買っちゃった」。2人とも、良い買い物にご満悦である。


ゆっくり傾く陽だまりの中、上質な時間を過ごし、会計をしているところに、店のガラス扉が乱暴に開かれる。


扉の鈴が、横暴と乱暴に、抗議の音色を上げる。

入って来たのは、サングラスを掛けて、キャップを後ろ向きにして被った、いかにもな兄ちゃんだった。


「オイ! 見つけたぞ! 賞金――。」


――ズドンッ!!


グラサンの兄ちゃんのセリフを遮って、こじんまりした店に大きな銃声が響いた。

銃声と銃弾は、グラサン男を吹き飛ばし、ガラス扉を割りながら外に追い出した。


男を吹き飛ばし、硝煙を銃口から吹かすのは、店主が担ぐショットガンだった。






「ママのおっぱいでもしゃぶってろッ! この、鼻たれ坊主ッ!!」


老成した雰囲気が一変、ドスの利いた声と、アウトロー仕込みの罵倒が招かざる客を追い出す。


グラサン男は、ガラスが散乱する店の外で身体を起こし、トボトボとお家に帰って行った。


((えぇ~‥‥。))


一連の流れ、一連の一幕に、2人は心の中で困惑の声を上げる。

耐えるんだ、ショットガン。


店主は、困惑する2人へ向き直り、にっこりと人好きな笑顔を向けて――。


「全部で、5万と2600クレジットだ。」

「あ、一括払いでお願いします~。」


セツナはすぐに調子を取り戻し、スマートデバイスを会計用の端末にかざして、会計を済ませた。


会計の裏で、マルとハッカクが、JJが購入した分のクレジットをやり取りする。

マルチプレイの時は出番が減ってしまう彼らは、裏でサポット同士の井戸端会議に花を咲かせて、彼らは彼らで楽しんでいる。


サポットたちは、人間の役に立つこと、それに喜びを感じる。そう、プログラムされている。

しかし、それはそれ。自我があり個性を持つ彼らは、人間のように得手不得手があり、彼ら用の娯楽やサービスもある。


会計が終わり、店主が「それから」と、レジ横のお菓子コーナーに手を伸ばす。


「お兄さんたちに、飴ちゃんのオマケをしよう。

 ボンボさんとこの息子が、飴職人と店の看板を継いでね、良い腕をしてるんだ。」


そう言って、人の手で包装された透明な袋に飴が詰められた商品を、オマケしてくれた。

「ありがとうございます」。お礼を言って、2人でレジにそびえる紙袋を1つずつ持ち上げた。


さあ、そろそろお暇する段になった。

するとそこに、散乱したガラス片なぞ気にも止めず、大きな足音を立ててヅカヅカと店に客が入り込んで来る。


――ズドンッ!!


番犬が吠えた。

しかし、番犬の吠え声は、甲高い音を立てて弾かれてしまう。


店の入り口――、今は吹き抜けとなってしまった場所には、フルプレートアーマーを着込んだ人物が立っていた。


グレートヘルムという、バケツのような兜を被り、着込んだアーマーの上に、十字架を想起させるような紋章が印された(しるされた)聖騎士の外套(セイバークローク)を着込んでいる。


腰に帯剣。肩には、騎士の風貌には時代錯誤な、ポンアクション式のショットガンが担がれている。


彼の着込むアーマーが、店主の一撃を弾いたのだ。


「こりゃまたずいぶん‥‥、ケツの硬ぇ客だな。」


騎士の後ろから、追加で2人の騎士が店に入って来る。

セツナは、JJが持つ荷物を、さりげなく受け取る。


騎士の1人が、肩に下げたショットガンを店主に向けた。

JJはそれを見逃さず、ショットガンの銃口を店主から逸らし、ストックに掌底をして銃を奪う。


JJたちと騎士の間で、緊張が最大まで高まる。


奪ったショットガンのポンプ部分を操作して、シュコシュコとコッキングを繰り返して、銃に込められた弾を全て抜く。

銃を騎士に返した。


「ここじゃ店主の迷惑だ。表に行こう。」



エージェント2人、騎士3人が、道の真ん中で”ガン”を飛ばし合っていた。


異様な雰囲気に、周囲の通行人たちは避難を――、せずに面白がって見物している。

本当に、この世界、この街の住民はたくましい。


買い物した商品をインベントリにしまって、両手がフリーハンドになって準備万端。


セツナとJJは、胸を張って腕を組み、脚を肩幅強の広さに。

仁王立ちの出で立ちで、人数的な不利をものともせずに騎士に相対する。


JJが口を開く。


「よう、不良騎士。どっからでも、掛かって来な。」


ツッパルように、騎士を挑発する。

すると、騎士の1人が、道の隅っこに目線を送る。


目線の先には、小間使いだろうか? 簡単な防具に身を包んだ人物が居て、何やらゴソゴソとしている。

小間使いは、腰に下げていた角笛を口につけて、息を吹き込んだ。


ぶおぉぉぉ! っと、巨大な魔獣が目覚めたような音を街に響かせる。


エージェント2人は、それを仁王立ちしたまま聞いている。


角笛の音が止んで、それはすぐに訪れた。

羽音、鳥が羽ばたくでも無い、ヘリコプターやドローンが飛ぶでもない。


何か、大きな翼が、海をオールで漕ぐような、ゆったりと、それでいて雄大な翼の音が聞こえる。


音の正体は、すぐにセツナとJJの頭上に現れた。


魔法の世界の住民、ワイバーン。


それを家畜化し、人が充分に扱えるようにした、デミワイバーンという種の翼竜である。

年間の餌代がかなり高く、それがステータスになるので、ペットとして飼うのが金持ちの道楽。


デミワイバーンが三頭、翼を羽ばたかせ、周囲の砂や塵を巻き上げる。

その姿は、少し首の長い始祖鳥に近い。


首の付け根と胸の付け根の部分にサドルがあり、騎乗できるようになっている。


翼には、まだ腕の名残が見えて、地上では四足歩行をしているのだろうと見当ができる。

そも、鳥類の祖先は恐竜であり、恐竜が鳥類へと進化したのだから、ワイバーンの姿は恐竜と始祖鳥の相の子であることには、納得性がある。


トカゲのような四足爬虫類が、偶然の進化によって、翼に似た機関を獲得した。

それが生存に便利だったので、種が生き残った。


飛行の性質をより活かすために、鱗が羽毛になった。


デミワイバーンは、爬虫類由来の鱗で体表が覆われ、翼や頭などの一部に羽毛が生えている。

目は爬虫類のそれで、特に蛇の目に似ている。


口は、鳥の嘴では無く、顎を持ち、小さな黄色い牙が並んでいる。

牙が小さいのは、獲物を噛み千切るのではなく、丸吞みにして捕食するから。


牙が黄色く見えるのは、おそらく、コモドドラゴンという実在する生き物のように、歯に鉄分が含まれているからだろう。

頭の形も、コモドドラゴンに似ている。


コモドドラゴンの顔をシュッとさせて、羽のトサカを生やせば――。

などと、セツナは魔法世界の生物に、現実の生物の特徴を当てはめていく。


骨格や生態を知るのは大切である。

とくに、骨格は運動能力に直結するのだから。


魔法や魔力があっても、骨格の可動域を超えた挙動はできない。


本来、滑空するのが限度であるはずの翼と骨格ではあるが、デミワイバーンたちは、魔力で物理法則を無視して、我が物顔で空を飛ぶ。


空からセツナ達を見下ろすデミワイバーンに、騎士たちが騎乗する。

マジックワイヤーで登る者、テレポートで登る者、単純な跳躍力で登る者、三者三様。


主を騎乗させたデミワイバーンが、高度を上げる。


それに伴って、仁王立ちしている2人の腰も、視線が上に向くに伴って、段々と後ろに逸れていく。

威勢よくどっしりとした姿勢は、腰がふんぞり返るから先にいってしまって、威張っても格好がつかないようになっている。


「「‥‥‥‥。」」


侍の次は、ナイトときた。


竜騎士(ドラゴンナイト)との戦闘が幕を明ける。

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