8.7_楽園の遺物
セントラル、???。
いくつもの映像が浮かぶ室内に、スナック菓子を食べる音だけが聞こえている。
サンタ服を着たナイスデイは、ポテトチップスを片手に、喜劇を鑑賞中だ。
ぞぞぞ、と、コーラをストローで飲んで水分補給。
炭酸の刺激でポテチの油分を中和しながら、映像に見入る。
「――戻りました。」
「ああ、お帰り。観てたよ。」
バカみたいに大きなコーラを、椅子の隣にあるテーブルの上へ。
背後、紫色の空間から現れたルフランに、ナイスデイはポテチの袋を差し出す。
ルフランは、首を横に振った。
テーブルを挟み、ナイスデイの横へと座る。
「ポップコーンの方が良かったか?」
「いいえ。物語に触れるときは、何も口にしないようにしていますの。」
「それは知っているが‥‥。
蝶を捕まえてから、碌に食べたり飲んだりしていないだろ?」
「だからこそ、良いのです。
人間の心とは、曖昧な物。
どうしようもなく満ち足りていては、悲劇の味付けが、分からなくなってしまいます。
わたくしは、悲劇に同情するのではなく、悲劇の痛みを味わいたいのです。
物語の人物と、共に。」
ぞぞぞ、コーラを飲む音。
中身が無くなったのか、ストローがカラカラと鳴り始める。
バカみたいにデカい紙コップをテーブルへ戻す。
「相変わらず、不完全だな。人間ってのは。
腹が膨れてる減っているで、意思決定に差が出てしまうとはな。
曖昧な生き物だ。」
「だからこそ面白いのでしょう?
完全な物語なんて、退屈。」
「違いない。」
人間が不完全だから面白いというのには、賛成でしかない。
ナイスデイは、サプライズが好きなのだ。
人間は不完全なので、自分のサプライズに驚いてくれる。
サプライズに、色々な表情をしてくれる。
だから、サウザントの幹部なんかやって、人間にちょっかいを出している。
ジュースが無くなったので、手元のタブレットで新しいジュースを注文する。
新しいのを待っているあいだに、業務連絡。
A4サイズのタブレットを、注文画面から、仕事の画面へ切り替える。
隣に座るルフランへ渡す。
「あらあら? これは――?」
「メリッサが、エージェントのスマートデバイスをハッキングした。
オペレーターがすぐにシステムを遮断したようだが、ヤツ等の機密を盗めた。」
サウザントが開発したAI、メリッサ。
なぜか、隙あらばナイスデイを殺そうとする困ったAIだが、彼女は優秀だ。
流石は、楽園の遺物と言ったところか。
ルフランは、メリッサが盗んできた情報に目を通す。
そして、とある情報に目を止める。
エージェントという暴力装置を操る、オペレーター。
その場所が、情報には記されていた。
「なんて言うこと。くふふ――。
そう、セントラルをいくら探しても見つからない訳ね。
どこに隠れているかと思ったら、まさかこんな――。」
オペレーターは、CCC支部には居ない。
オペレーションルームは、支部とは別の場所にある。
その場所を知る者は、セントラルでは極々一部の人間に限られる。
「彼女たちにも、舞台へ上がってもらいましょう。」
「その方が、楽しいからか?」
「ええ。セントラルには、我々を、サウザントを、敵として認めて頂かなければ。
そのためには、サプライズが欲しいですわね。
誰もが無視できない、大きな箱に包まれた物が。」
「私の部下の、チューズデー(※)を送ろう。」
(※6.5章_嵐へ続くにて登場)
「到着には、どれくらい掛かります?」
「あ~‥‥、それな~‥‥。
何せ距離があるからな~。
しかも、今の時期は、いつもよりも時間が掛かる。」
ナイスデイは、鼻の下の白いチョビ髭を、わざとらしくさすっている。
ルフランは、被っているシルクハットを膝の上へ乗せる。
それから、背もたれに小さな身体を預ける。
「3時間よ。3時間で、強襲作戦を開始しなさい。」
「――フッ。残念、あと30分で現地に到着する。」
サプラァイズ。
得意げなナイスデイである。
「‥‥随分と手際が良いようね?」
「なに、発想の転換さ。
セントラルの中を探していないなら、別の場所。
それも、他所からのやっかみを受けない場所。
そう考えれば、自然と場所は絞られる。」
「前もって、準備を進めていたと?」
「その通り。古い友人の伝手も使ってな。
3度のメシよりも、バカなことが大好きな、類の友さ。」
「対価はなに?」
「相乗りさせろ。そう言ってきた。」
「‥‥いいだろう。
サウザントの幹部として、許可する。」
「それと――、これは具申と打診なんだが――。
チューズデーを、幹部に昇格させてはどうだ?」
「‥‥‥‥。」
ルフランは、脚を組む。
チューズデー、ナイスデイの腹心。
幹部の席は全部で4つ。
ルフランが座る最高幹部の席に、平の幹部の席が3つ。
幹部の席は、ハーマンが欠けて、今は空席がある状態。
ならば、答えは決まっている。
ナイスデイの具申に回答する。
「彼は、もう少し、あなたの下で使ってあげなさい。
椅子が空いたからと、繰り上げで昇格させては、幹部としての質が担保できないわ。
それに――。」
「それに?」
ルフランは、肘置きに肘をつき、頬杖を立てる。
「1度、不相応な椅子に座ってしまうと、人はその椅子の脚に縋るようになる。
椅子は、下に置いて使う物よ?」
ナイスデイは、手を紙ナプキンで拭く。
最高幹部殿のお言葉に、視線を肘置きに持っていく。
両腕を乗っける。
五本の指で、肘置きの先っちょを子気味よいペースで叩く。
「言ってみただけだ。
もう少し鍛えて、出直すとしよう。」
「ええ。そうして頂戴。
彼には、わたくしも期待しているのですから。」
2人の後方で、部屋の扉が開く。
ロボットが、ナイスデイの注文したジュースを持ってきた。
ぞぞぞ。と、さっそく口をつける。
2人の会話は終わり、視線は宙に浮く映像へ。
複数の視点を映し出す映像の中では、エージェントやチンピラ、そして蝶の生き残りが、ルフランが送った刺客と戦っている。
戦いを見ながら、ナイスデイが下馬評を論じる。
「エージェントは、まあ勝つだろうな。
メリッサの切り札を退けた連中だ。蝶では止めれんよ。
――となると見どころは、あのAIが率いるチンピラ集団か。」
「彼らの相手は、VICE。
試運転を兼ねて、20機、送り込みました。
パイロットは、メリッサ。」
「CEが20機。普通に考えれば、ワンサイドゲームだな。」
「メリッサから嫌われているあなたからすれば、VICEには負けて欲しいのではなくて?」
「それはそれさ。お互い、そこの線引きはしているつもりだ。
一応仲魔で、一応晴れ舞台なんだ。応援はするさ。」
「そう。」
AIが操縦するCEのことを、ICEと呼ぶ。
複数の機体を、ひとつのAIが操縦することにより、人間では再現が不可能な一糸乱れぬ連携が可能となっている。
赤い町にけしかけたのは、そのICEの発展系。
ディビジョナーに汚染されたCEを、ディビジョナーに覚醒したAIが操る。
ディビジョナーとは、情報に感染するウイルスだ。
魔力が存在する物理空間よりも高次の次元、情報空間に潜伏し、感染する。
情報に感染するから、当然AIにも感染する。
かつて、人類再起のために創られた楽園は、管理AIがディビジョナー化することによって滅びた。
メリッサは、そのデータを元にして作られたAIなのだ。
楽園の遺物であるがゆえ、その力は強大。
情報生命体として、AIの定義を超越した唯一種として進化をしている。
その力は、世界のデータを書き換えるほど。
魔神を召喚してみせたり、この世界には存在しないクラスを創造したり――。
ナイスデイをして、チートと言わしめるほどの力を有している。
だが――。
だがしかし、そんなメリッサは、ルフランに心酔しているのだ。
サウザントの最高幹部は、魔神を召喚する化け物が惚れ込む、化け物なのだ。
ナイスデイは、頬杖をつく。
考えているのは、ルフランの立ち振る舞いについてだ。
「大ボスは、物語の最後まで引っ張って登場するものだろ?
あんな登場の仕方で良かったのか?」
「その仕事は、わたくしには役が重すぎますわ。
だって――。もっと相応しい方がいらっしゃるもの。」
化け物が惚れ込む化け物。
――が、惚れ込む化け物。
その化け物は、たぶん、赤龍とタイマンを張れる。
たぶん、セントラルが消し炭になっても、ソイツだけは生きている。
居るのだ、そんな化け物の中の化け物が。
ここ、セントラルに。
◆
セントラル、赤い町。
マルのアジトに現れたのは、サウザントの幹部を名乗るルフランという女性。
彼女は、自分がやりたい事を好き勝手やって、去って行った。
残されたのは、ディビジョナーとして覚醒したアゲハ。
その奥で、次から次へとフォールしてくるCE。
‥‥CEの数が多い。
見た事も無いCEが、10体以上、次々とフォールしてきている。
明らかに過剰戦力だ。
ディビジョナー化した人間が厄介だというのは、経験者であるセツナたちが良く理解している。
恐らくだが、プレイヤー3人掛かりになる。
ただ、そうなると、CEが‥‥‥‥。
青い日差しを浴びるCEの群れに意識を取られていると、アゲハが右手を横に振る。
瞬間、彼女を中心に、大きな竜巻が発生。
アジトの屋根を吹き飛ばして、アゲハとエージェント3人の姿が忽然と消えた。
アジトに残されたのは、マルファミリーと、蝶の組織のデアソラにオラクル。
そして――、シバ。
『――センチュリオン、オーバーロード。』
アジトの前に立ち塞がるように、シバのCEがフォールする。
四足歩行型CE、ブラックパンサー。
機械の黒豹が、不明CEの群れを威嚇する。
敵は、赤黒い体を持つ機体。
体の至る所に、血の塊ような結晶がこびりついている。
体型は中型機相当で、得物は双剣。
二振りのカットラスを握りしめている。
その動きは、どことなく歪だ。
油の切れたロボットみたいにギクシャクしている。
ギクシャクしているし、たまに妙なノイズが走ったり、カクついたり、動きが止まったりしている。
見ようによっては、CEの姿をしたゾンビにも見える。
このCEの機体名は、ヴェノム・クラウン。
悪意の巨人。
ヴェノムの群れがアジトに迫る。
マルが、部下に指示を出す。
「総員、武器を取れ! 打って出ます!」
「「「応っ!」」」
マルの声に応えるように、アジトのCEが反応する。
マルの愛機、ジルヴァルベ。
主の闘志に反応し、白銀のツバメが駆け付け、彼を騎乗させる。
シバの乗るブラックパンサーと、マルのジルヴァルベが、ヴェノムの群れへと突進。
戦闘が始まった。
チンピラをまとめるリーダーが、野郎どもに檄を飛ばす。
「野郎どもッ! 俺たちも続くぞ!」
「「「応ッ!」」」
「誰にケンカを売ったか、クソ野郎どもに教えてやれ!」
「「「応ッ!!!」」」
各々、手際よく武器を手に取り、車両へと乗り込み、外へと飛び出した。
とてもチンピラとは思えない練度と統率力で、CEに臆することなく突っ込んで行く。
アジトに残った戦闘員は、蝶の2人。
デアソラが、オラクルに声の肩を叩く。
「オラクル、僕たちも。」
「う、うん。」
オラクルは、周囲を見渡す。
緊急事態だ、ここにある物を拝借して、使わせてもらう。
アゲハのことも気になるし、心配だ。
2人にとって、彼女は家族なのだから。
だが、自分たちもプロだ。
他所に借りを作るばかりなのは、プライドが許さない。
ヴェノムの1体が、アジトに侵入する。
あちらは、20機もフォールしたのだ。
対して、こちらのCEは現在2機。
チンピラが40人ほど車両に乗り込んで応戦しているが、多勢に無勢。
アジトへの侵入を許すのも仕方なし。
ならば、侵入者にはお引き取りを願おう。
エンジニア組が、戦車に乗り込んで、戦車砲で攻撃。
攻撃は命中し、ヴェノムの胸に大穴が空く。
‥‥が、その傷はみるみる塞がっていく。
自然回復能力を持つCE。
ヴェノムは、ディビジョナー化による再生能力を獲得している。
その他のスペックは平凡より少し劣るものの、それを差し引いても、お釣りが来る能力だ。
ヴェノムは、ダメージなんてお構いなし。
右手の剣を掲げて、振り下ろす。
無造作に振るわれた剣は、手近に居たデアソラへ。
地面を蹴り、横に飛び転がって回避。
自分を狙ってくれるのは、都合が良い。
時間を稼ぐ。
オラクルは、その隙に武器や車を物色している。
ヴェノムの振り下ろした剣が、水平方向に滑る。
デアソラが剣を飛び越えて回避。
それを、左の双剣が上から狙う。
――両手を合わせる。
クラス ≪ガンスリンガー≫ のウェポンシフトアクション。
ウェポンシフト、銃剣。
「はあ!」
2本の銃剣を振るい、上から迫る剣の横っ腹を殴る。
剣の軌道が逸れて、攻撃は外れる。
エンジニアの支援攻撃。
戦車砲が火を吹いて、ヴェノムの片脚に直撃。
膝から下の足を失って、ヴェノムがバランスを崩す。
崩れた隙を、デアソラが畳み掛ける。
対CEを想定した武装で、CEの頭部を破壊。
しかし、このCEは、頭を失っても動けるらしい。
なおも自己治癒して立ち上がろうとするヴェノムに、戦車砲が炸裂。
片腕がもげて、アジトの外へと吹っ飛んで行った。
しぶとい。
まだ、再生しようとしている。
「――タイタンフォール! スタンバイ!
いやっほぉぉォォォォ!!!!」
ハイテンションでご機嫌な声が、上空からどっぷらこ。
ドップラー効果を伴って、空からCEがフォールしてくる。
フォールしたCEは、ヴェノムをぺしゃんこに潰した。
フォールキル。
キルしたのは、窃盗品のCE。
本部のCEを、マルが ≪マルチOSデス洗脳ビーム≫ で奪い取った、立派な窃盗品である。
その後、魔改造を経て、マルファミリーの武力として運用されている。
‥‥洗脳ビーム対策済み。
空から、もう1機、CEがフォール。
アジトの中から、わざわざ転送装置で空へ移動して、ド派手にフォール。
本部から盗んだCEは、全部で2機。
彼も、ヴェノムを上からぺしゃんこにして、フォールキルを決める。
これで、見える範囲では2体倒した。
そして、こちらのCEは5機になった。
5対18。
――少し、希望が見えて来た。
物色を終えたオラクルが、デアソラの元へ車で駆け付ける。
「乗って!」
「‥‥え? オラクル、これは――。」
「早く!」
「う、うん。」
言われるまま、荷台に飛び乗るデアソラ。
荷台には、拝借した火器が、所狭しと並んでいる。
ギアを入れて、アクセル全開!
軽トラック (JJの所有物)が、アジトを飛び出す。
小さなボディが、赤い町で青い日差しを浴びて、CEが跋扈する修羅の地へと躍り出る。
デアソラは、ロケットランチャーを肩に担ぐ。
4連装のランチャーを担ぎ、照準し、ファイヤ。
1発のミサイルが発射されて、ヴェノムに直撃。
ひっくり返った車を、踏み潰そうとする敵の足を止めた。
間一髪、チンピラたちは、車と一緒にスクラップにならずに済む。
ミサイルを受けて怯んだヴェノムを、元本部CEが仕留める。
彼はいま、別個体のヴェノムをジャイアントスイングしている。
グルグルとスイングして――、リリース。
同士討ちをさせたあと、すかさず追撃のジャンピングストンプ。
技を決めたら、即座に離脱。
すると、空からマルが切り込んで、砲撃を浴びせてヴェノムを粉々に粉砕。
連係プレーで、またまた2機撃破する。
軽トラが、大きな影に覆われる。
敵意を見せるCEが、軽トラの上空を飛んで追跡をしている。
デアソラが、ロケットランチャーを向ける。
「デアソラ、掴まって!」
車体が揺れたので、照準を中断。
背の高いアオリに掴まる。
オラクルがハンドルを切り、ブレーキを踏む。
広い道路で、タイヤが半月状の跡をつける。
自分たちが先ほど居た場所に、大きな剣が刺さった。
オラクル、天性の運転技術や操縦技術を持つ、蝶のドライバー兼メカニック担当。
後ろに目が付いているかのような、驚異的な直感を有する。
軽トラは、ドリフトでCEの攻撃を躱し、進行方向に対して後ろを向いて走り出す。
デアソラはランチャーを荷台に置き、機関銃の引き金を引く。
軽トラにマウントされた銃で、空の敵へと攻撃。
薬莢が、屋根や荷台に散乱。
繰り出された弾幕は、CEの体に亀裂を入れていく。
――――。
不意に、空でCEの動きが停止する。
ホバリングではない。文字通り、時間が止まったかのように、停止する。
離れていく標的に、デアソラは引き金を引き続ける。
束の間の、薄気味悪い沈黙。
ヴェノムが動いた。
機体にノイズが走り、カクつく。
その瞬間、ヴェノムが車の目の前に現れる。
「――!?」
「ちょ――!?」
剣が振り下ろされる。
――急ブレーキ。
ヴェノムの股下を潜るようにして、剣戟を避ける。
ギアを入れ直す。
バックから、前進へ方向転換。
完全に停止していない状態でギアを入れたため、軽トラが悲鳴を上げる。
が、構っている場合ではない。
大急ぎでアクセルを踏んで、ヴェノムから遠ざかる。
デアソラが、ランチャーを担ぐ。
カクつき、チラつくヴェノムに、1発お見舞いした。
ランチャーは、空を切る。
ヴェノムが、また消えた。
今度は、軽トラの左横から現れる。
「なんなのよ!!」
ハンドルを切り、ドリフト。
ヴェノムの蹴りを回避する。
回転する車体の上で、デアソラはアオリを掴みながら射撃。
テクニカルショットを決めて、ヴェノムの体に大穴を開ける。
「‥‥オラクル!」
「わかってる!」
アクセルを踏んで加速。
空から剣が降って来て、道路に深々と刺さる。
ヴェノムが道路の剣を引き抜く。
ミサイルが命中したはずの胸に、穴は空いていない。
信じがたいが、彼奴は、攻撃を食らっていない。
信じがたいが、攻撃に当たっていたのに、当たっていないことになっている。
「どうなってるの!?」
オラクルは、ハンドルを両手で握り、サイドミラーで敵の様子を窺う。
ヴェノムは、遠ざかる車を、立ちすくして追わない。
体がチラつき、カクつき、動かない。
20機というヴェノムの群れを管理していたメリッサが呟く。
『ヴェノムの機体数が減少。
現存機体、9機。
リソースが確保されたことにより、機能を解除。
フレームスキップによる戦術を展開。』
ヴェノムの不可思議な挙動には、カラクリがある。
新現代の通信技術では考えられない、過去の産物だ。
過去のゲーマーなら、ヴェノムの挙動のカラクリに、気付けるかも知れない。
止まっている相手が、急に目の前に現れる現象。
当たったはずの攻撃が、当たっていないことになっている現象。
そのどれもが、過去、多くのゲーマーの堪忍袋をズタズタにしてきた。
――ラグ。
自分と相手のあいだに発生する、同期ズレ。
ネットワークの通信速度が極端に悪いと、相手がカクカクしたり、高速移動したりする。
ラグは、オンラインの宿命で、オンラインの嫌われ者。
VRゲームが普及し、人間の意識を演算できるほどの大量通信ができる現代では、信じられないだろうが‥‥。
昔は、ラグという、どんなプレイヤーよりも強い、最強の敵が存在したのだ。
ヴェノムクラウン。
悪意の巨人。
この巨大な道化は、ラグを、意図的に操ることができる。
自分の挙動をおかしくして、食らい判定をちょろまかしたり、自分の移動を秘匿したりできる。
ヴェノムクラウンは、悪意の巨人。
誰からも歓迎されない、電脳世界の嫌われ者。
‥‥‥‥。
‥‥。




