表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8章_堕落の弾丸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/230

8.4_終末教

終末教という新興宗教が、魔薬を使用している。

その魔薬は、セントラル東部から流れているらしい。


魔薬の出所を洗い出し、終末教の裏で暗躍する首謀者の情報を掴む。

それが今回、セツナたちに与えられた任務。


一行は、ガサ入れを行った終末教の事務所にて、興味深い情報を入手。


事務所内に魔薬を隠していた教徒を尋問――、もとい、拷問して得られたのは、極秘の集会情報。


教徒の中でも、とくに信仰の篤い(あつい)者を集めて行われる集会。

オペレーターからの情報には無かった、敬虔(けいけん)な信徒のみが知る集会。


この情報は、ダイナが教徒から引き出した。

沸騰し、燃えるお湯を、笑顔で飲ませようとするダイナの行動に、教徒は情報を白状した。


場所は、センターの隣町、レッドタウン。

赤い町、セントラルの西部と東部の緩衝地帯。


そこで、集会があるらしい。


もちろん、乗り込むつもりである。

夢戻りのエージェントは、怖い物知らず。


ひとつだけの命が惜しくないのか、ガサ入れを終えたその足で、会場へと向かう。


軽トラに3人と1匹、赤い町を目指して道路を走る。


運転席にはJJ。

峠最速の王者。


助手席には、シバ。

彼女の鼻は、頼りになる。


荷台には、ダイナとセツナ。

公務中の軽トラに突っかかって来た車は、2人のガンナーの手でスクラップにされる。


ダイナが、荷台のアオリにもたれ掛かりながら、ガラス瓶に入った魔薬を眺めている。

紫色の液体が入った瓶を太陽に透かしたり、瓶に添えられた説明書を読んだりしている。



「へぇ~。これを、アロマディフューザーで拡散して、集会に来た人たちに吸わせてるみたい。」


「そんなんで効果出るの?」



荷台に寝転がっていたセツナが上体を起こす。

ダイナからガラス瓶を受け取って、軽く振ってみる。


魔薬サタプロフェン。

気になるのは――。



「これ、オレたちが乗り込んだ時に、散布されたらマズくない?」


「保護マスクでも、用意しとくか?」



JJが、保護マスクの購入を提案する。


サタプロフェンには、洗脳効果があるらしい。

どのくらいの量を吸い込むと影響が出るのか分からないが、これを戦闘中に使われると面倒だ。


こういう、毒の類いの搦め手は厄介だ。

散布型であればなおさら。


対策があるならば、用意しておきたい。


セツナは、サタプロフェンの入った瓶をダイナに返す。

サタプロフェンを受け取り、アリサと通信。



「アリサちゃん、このサタプロフェンって、ボクたちにも効果あるのかな?」


「魔薬は、肉体ではなく、魔力に作用する薬です。

 皆さんの魔力量であれば、気化したサタプロフェンに曝露(ばくろ) (※)する程度であれば、問題ないかと。」


※曝露:晒されること、身体に掛かること。


「そうなんだ、ありがとう。」



風を切る軽トラの荷台に、キュポンという音が響く。

ガラス瓶の、ガラス製の封を開ける。


サタプロフェンに、鼻を近づける。



「ダイナさん!?」


「――えへへ~、桃の香りだ~~~。」



気化したサタプロフェンが無害と分かるや否や、匂いを嗅ぐダイナ。



「‥‥。あ、ホントだ。桃の香り。完熟だね!」

「でしょう?」


「セツナさん!?」



アリサは、オペレーションルームで頭を抱える。

問題児に、余計な知識を与えてしまった。



「JJもどう? ‥‥と思ったけど、ダメか。」


「そうだな。助手席にシバも居るから、パスだ。」


「JJさん!」



唯一の良心に、アリサは胸をなでおろす。

心が、あったかくなる。



「――また後で、渡してくれ。」


「オッケー。」


「‥‥‥‥。」



良心なんて無かった。

救いも無かった。



「アリサちゃん。そんなに落ち込まないで。」

「そうそう。」



荷台組が、アリサにフォローを入れる。



「桃の香りがしたら、要注意。

 それが分かったんだからさ。」


「そうそう。」


「‥‥そうですね。そういうことにしておきます。

 あと、もしサタプロフェンによる症状が出た時は、ポーションなどを使用してください。

 悪影響を解毒し、一時的にサタプロフェンの効果を防ぐことができます。」


「分かった、覚えとく。」



軽トラが走る街並みの、景色が変わる。

発展した都市部から、錆びた工場が立ち並ぶ、寂れた町並みに。


目的地へは、あと少し。


まともな人間は立ち寄らない、ゴロツキ達の根城へと足を踏み入れる。

こそこそ悪いことをするのならば、ここは格好のロケーションだ。


そんな場所に、悪い宗教にハマった一般人が立ち入るようになるとは‥‥。

セントラルの治安は、本当に悪くなっているらしい。


日の当たる場所を悪党が跋扈するのはいつものことだが、日陰を一般人が歩くようなことは、今まで無かった。


独特な、セントラルならではの、治安悪化の仕方だ。



「あと、10分くらいで着くぞ。」

「「オーケー。」」



荷台組は、装備の確認に入る。

JJは、シバを時おり撫でながら、目的地へとハンドルを切るのであった。



‥‥‥‥。

‥‥。





赤い町、秘密の集会場所。


廃棄された大型トラックが並ぶ工場。

そこが、尋問で得られたポイント。


かつて、ここは食品工場だったらしい。

入り口には、錆びた看板があって、そこにはパイナップルの缶詰のイラストが色褪せている。


敷地の中や入り口に、見張りは居ない。


宗教家たちの集まりということで、チンピラとは行動原理が異なるようだ。

もちろん、罠という可能性も捨てきれない。


見張りの居ない状況に肩透かしを受けつつ、棄てられた倉庫へと向かう。


食品の原料や、在庫を保管していた倉庫。

巨大な冷蔵庫へと向かう。


スマートデバイスを起動。

ホログラムダミーの機能を応用した、変装機能を起動。


信徒になりすまして、集会に紛れ込む。


こっそり倉庫の中を見た感じだと、信徒は左腕に腕章を付けているようだった。

赤龍を模したであろうシンボルが刻まれた腕章。


龍がとぐろを巻き、円環を模った(かたどった)丸いシンボル。


それを、ホログラムで偽装。

何食わぬ顔で、3人は信徒の中に混ざる。


シバはお留守番。

何かあった時の、バックアップ要員だ。


電気の通っていない広い倉庫へと入り、周囲をキョロキョロ。


見る顔、見る顔――。

見渡す顔、見渡す顔――。


みんな、一般人。


チンピラのような、品性も頭も悪いような雰囲気ではなく、ちゃんと良識を持った人々が集まっているように見える。


だが、どことなく、チンピラたちと同じ匂いがする。


信徒たちの雑談に耳を傾ける。

話す内容、抑揚、相槌、身振り手振り――。


そこに、チンピラと同じような雰囲気を覚える。

自分を大きく見せるような、そういう雰囲気。


口は笑っているが、目が笑っていない。

会話をしている相手と、目が合っている時間が長い。


警戒。心を許していない者に向ける視線。


足元。

本人は気付いていないかも知れないが、足の指先が、外側を向いている。


目は相手を見ているのに、意識は相手を向いていない。



口元に笑顔を張り付けてはいるが、立ち居振る舞いに、余裕が感じられない。

虚勢というか、何というか――。


自分が特別だと、そう思い込みたい心理が、透けて見える。


3人は、どろりと粘り気のある熱気の中を、奥へと進んでいる。


ここに集まっている人間は、50人ほど。

男女比は、半分半分くらい。


セツナたちを怪しむ者は居ない。

新興宗教なので、全員の顔をみんなが知っている訳ではなさそうだ。


倉庫を進む。

甘い香りが漂い始める。


甘い、桃のような香り。


ダイナがスマートデバイスを取り出す。

‥‥極微量ではあるが、空気中にサタプロフェンが検出される。


香りに誘われるように歩を進めると、そこには小高い舞台。

階段3段分くらい高い、舞台が設営されている。


舞台の上では、鳥頭の白服たちが、設営を続けている。


ペストマスクと呼ばれる、鳥の嘴のように見えるマスクを被った集団。

異様な5人組が、黙々と作業を続けている。


舞台の上に、十字架が立てられる。

人を、(はりつけ)にできそうな十字架。


黒い十字架が2つ、舞台の上に立って――。

設営は、終わったらしい。


鳥マスクの白服は、1人を残して、舞台の上から姿を消す。


この、姿を消したとは、舞台から降りて、裏手に回ったという意味ではない。

文字通り、姿が消えた。


それに驚いている信徒は居ない。

驚いている信徒は居ないから、セツナたちも、驚きを顔に出さないようにする。


3人は極力、鳥マスクと目を合わせないようにして、周囲の雰囲気に紛れておく。


――集会が、始まる。



「終末に救いを求める、迷える雛鳥の皆さま。

 本日は、よくぞお集まりいただきました。」



舞台上の鳥マスクが、マスクをしたまま口上を述べる。

‥‥50人からなる雑談が、一瞬で失せた。


信徒が、舞台の前に集まる。

3人も怪しまれないように、群衆の行動に習う。


群衆の集まりを見計らい、鳥マスクが口上を続ける。



「今、この時間、ここにおわす方々は、選ばれし方々。

 終末を生き延びるに値する、資格ある方。

 特別な方々にだけ、我々から招待状をお送りさせていただきました。」



ダイナが、周囲の人々の表情の変化に、目敏く勘づく。



(選ばれし‥‥、資格‥‥、特別‥‥。)



鳥マスクの言葉を反芻しながら、周囲の反応と照らし合わせる。

この群衆の性質や属性、特色を割り出していく。


先ほどまで目が笑っていなかった人々の顔に、笑顔が見られる。


キーワードは、「特別」。



「この龍のシンボルこそ、終末の福音。

 あなた方を、福音が守ってくださいます。

 何も、恐れることはありません。」



人々は、ねっとりとした視線で、自分が身に着けた腕章を見つめる。

宝物のように、丁寧に触れる。


鳥マスクが、指を鳴らす。


虚空から、別の鳥マスクが2人現れる。

それと、手枷と口枷を嵌めた女性が2人。


金髪の女性に、茶髪の女性。

手枷の鎖を引っ張られて、無理やり舞台の上に登壇させられる。



「――そして、今一度、記憶して頂きたい。

 福音を受けられなかった者が、どういう末路を辿るのかを。」



女性の手枷が外される。


2つの十字架に、磔にされていく。

両腕を、鎖で縛られていく。


――女性たちの顔には、見覚えがある。


金髪の方は、燕尾服を着た、男装の麗人。


茶髪の方は、灰色のデニムジャケットを着ている。

ジャケットの前を開けて、下はチューブトップだけの薄着。

細い腰と、ヘソが見えている。


2人とも、蝶の組織の構成員。


‥‥なぜ、彼女たちが捕まっている?



「福音なき者は、終末を生き残れない。

 このように――――!」



磔にされた2人の足元から、赤黒い炎が噴き上がる。

罪人を火刑に処すように、燃え上がっていく。



アラートが鳴動。

レッドアラート。



スマートデバイスが、ディビジョナー因子の活性を検知。

けたたましく警告音を発するセツナのデバイスに、衆目が集まる。


左腕の偽装が解ける。

その下から、赤い警告表示を光らせるスマートデバイスが出現。


同時、セツナの足元に雷鳴が轟く。


JJとダイナが、拳銃を構える。


発砲。

霹靂。



JJとダイナの銃撃が、十字架の枷を破壊。


セツナが、鳥マスクの1人を蹴り飛ばす。

舞台の上で、リボルバーを抜く。


ファニングショット。

残りの鳥マスク2人に攻撃。


リボルバーをホルスターへ。

蝶の2人を、肩に担ぐ。


スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。


雷鳴が空を駆け、群衆を飛び越える。

地上に着地し、燃える足で地上を走る。



――見えない何かに、攻撃される。

脇腹を、鳥の爪に切り裂かれる。



(光学迷彩‥‥!)



抱えた蝶と一緒に転倒。

セツナは掴み上げられ、鳥の爪に首を絞められる。


舞台の上では、司会をしていた鳥マスクが、群衆を扇動する。



「不道徳な者に、罰を!

 神聖を汚す連中に、福音の粛清を!」



群衆が、セツナたちへと振り向く。

セツナだけでなく、JJとダイナの方にも、ぬるりと視線を向ける。


懐から銃を取り出す。

デリンジャーと呼ばれる、小さく、隠密性に優れた銃。


銃を右手で握ると、左手に、終末教のシンボルが浮かび上がる。


福音の力。

手の甲と、手の平に浮かび上がる。


龍がとぐろを巻く、円環の中心へ、拳銃を押し当てる。


手の平に銃口を押し当てて、デリンジャーの引き金を引く。



――堕落の弾丸が、銃から吐き出され、手の平を貫通した。



「ルシフェライザー。

 選ばれし者に、然るべき祝福を!」



アラートが、鳴動する。

再び、セツナの腕の上で。


当の本人は、首を絞められてそれどころではない。

両膝を着いたまま、動けずにいる。


茶髪の女性、オラクルが、セツナの首を絞める見えない敵に、脚を振り下ろす。

彼の首を掴む腕があるだろう位置に、踵を振り下ろす。


踵落としが命中し、首の拘束が緩む。


セツナが右手に火炎を纏わせながら、鳥の腕を振り払う。


金髪の女性、デアソラは、セツナのホルスターからリボルバーを拝借。

鳥がいるであろう場所に射撃。


手応えがあり、赤いエフェクトが床に広がり、また消える。

セツナが、デアソラにリボルバーの(ローダー)を投げて渡す。


彼はそのまま、襲い掛かって来た信徒の攻撃を受け止める。

デアソラを守るように、拳を払おうとして――、払えずに顔面に拳を叩き込まれる。



‥‥力負けした。

一般人の攻撃に対して。


吹き飛ぶセツナの背を、デアソラが支える。


追撃を仕掛ける赤目の信徒を、セツナが蹴り上げる。

火炎を纏った蹴り上げで、アゴを撃ち抜く。


主力火器を取り出し、発砲。

グレネードランチャーから、催涙弾を発射。


得体の知れない怪力を発揮する信徒も、人体の制約からは逃れられず、涙で視界が潰れ、咳き込む。


が、完全に動きを封じられていない。

魔力野によって、セツナたちの気配を見られている。



「――――ぐ! ‥‥うぅ!」



口枷で発声がままならぬオラクルが、宙に浮く。


鳥マスクだ。

ヤツが、オラクルの肩を掴み、宙へと持ち上げている。


肉に爪が食い込み、骨が握り潰されていく。


デアソラがリボルバーを構えるも、誤射が怖くて発砲ができずにいる。


セツナは、信徒の群れに囲まれて、オラクルを助けに行けない。

JJとダイナも同様だ。


見えない敵と、常人離れした膂力を発揮する信徒に囲まれて、思うように動けない。



「クソ‥‥!」



セツナは、自らを囲む信徒の1人を殴り飛ばす。

続けて、スキル ≪グラウンドスマッシュ≫ を発動。


倉庫の床を叩き割り、抉り、岩塊を生成。

自分の頭の高さまで岩塊を浮かべる。


オーバーヘッドキック。

ブレイズキックで、岩塊を蹴り飛ばす。


蹴った岩は、オラクルの方へ。

彼女を掴んでいる鳥を叩き落とす。


しかし、それは悪手。

見えない鳥は、オラクルを岩塊の軌道直線上に。


彼女を盾にして、攻撃から身を守る。

この可能性が充分に考えられたから、デアソラは銃を撃たなかったのだ。



――だからこそ、そこに付け入る!



マジックワイヤーを射出。

岩塊を掴む。


スキル ≪ブレイズキック≫ 。

岩を自分側に引っ張るように走る。


ワイヤーがピンと張り詰め‥‥、オラクルの目前で止まった。


デアソラが走る。

走り、ローリング。


宙に浮くオラクルの背後に回り込む。

ポジショニングから、片膝立ちの姿勢で、射撃。


肉の盾を構え、動きを止めていた鳥を撃ち抜く。

見えない鳥の翼を撃ち抜いて、オラクルは解放される。


落下するオラクルを、デアソラが受け止める。


‥‥悠長に、人の世話を焼いていたセツナは、信徒の群れの中に消える。


オラクルを受け止めたデアソラの元にも、信徒が迫る。

数の暴力に、エージェントと蝶は、すり潰されていく。



‥‥‥‥。

‥‥。



「総員、撃てぇ!!」


「「「イエス、ボス!」」」



喧騒と乱闘の倉庫内に、クマさん人形の号令が響く。

ショッキングピンクのクマさん、マルの号令に応え、彼の部下が射撃を開始する。


20人のチンピラが、アサルトライフルを乱射。

ドラムマガジンを取り付けた大容量ライフルが、弾幕を作り、所属関係なく蜂の巣にしていく。



「オラオラオラァ! マルさんの縄張りで何してやがる!」


「縄張りを荒らす奴は、カタギだろうと容赦しねぇぞ!」


「オラ! くたばりやがれ! 夢戻り共々、地獄に送ってやるぜ!!」



オラクルは、デアソラに覆いかぶさる。

銃撃から、身を挺して仲間を守る。


涙ぐましい友情を披露する2人に、空気を読まずに鳥が急降下。


弾幕を意に介さず、腕の爪を揃え、2人まとめて串刺しにしようとする。

弾幕により、光学迷彩が揺らぎ、彼奴の輪郭を看破している。



「おーっと! うちのバーテンダーに、手出しはさせませんよ!」



マルの攻撃。

スキル ≪ポルターガイスト≫ 。


サポットクラス「サイコテックス」のスキル。


倉庫の外にあった大型トラックが、デアソラの元に駆けつける。


バードストライク。

宙を走る輸送トラックが、鳥を撥ねた。


ついでに、その奥にいる信徒も、撥ね飛ばした。

さらについでに――。



「うお!?」

「うわぁ!?」



トラックは、あわやJJとダイナまで撥ね飛ばしそうになる。


統率されたチンピラたちの弾幕と、暴走トラック。

敵も味方もない猛攻に、フィールドは大混乱。


彼らは、別にどっちの味方ということはない。

縄張りに、よく分からん連中がいるから、挨拶しに来てやった。


それだけだ。


彼らからすれば、エージェントも信徒も関係ない。

が、この程度でどうにかなるような夢戻りエージェントでもない。


弾幕の中から、セツナたちが出てくる。

頑丈で怪力な信徒を、弾幕の盾にしながら、戦場から脱出。


セツナが、マルに声を掛ける。



「マル! 蝶をお願い!」



宙に浮いたぬいぐるみが、サムズアップのジェスチャーをする。



「総員、撤退!

 デアソラさんと、そのお友達を最優先!」


「「「イエス、ボス!」」」



チンピラの皆さんは、蝶の2人を守りながら脱出。

殿(しんがり)の連中は、信徒へ銃撃を行い、なおも倉庫で戦うエージェントの援護をしつつ退いていった。


マルたちの乱入のおかげで、エージェント3人が合流する。



「セツナ、ランチャー貸してくれ。」



JJの要求に対し、グレネードランチャーを投げ渡す。


ランチャーを受け取る。

パッシブUlt「愚者の引き金」を発動。


ダイナがヒールストーンを割る。

JJの体力のフォロー。


体力を600ポイント消費して、愚者の弾丸を6発生成。


グレネードランチャーに、愚者のシリンダーを換装。

シリンダーを装填して、ゼンマイを巻く。



「光学迷彩ってのは、フェアじゃないな。

 スポーツマンシップでいこう。」



火薬籠手を点火。

天井に向かって飛び、ランチャーの銃口を下方向へ。


引き金を浅く引く。

魔力を充填。


3点バースト。


愚者のEMPグレネードを擲弾。

それを、もう1回。


擲弾が床に接触して爆ぜる。

強力なEMPフィールドが展開される。


鳥マスクが装備している光学迷彩の機能が停止する。


白装束を翼の代わりにしている鳥マスク5人の姿が、露わとなる。



『「ボクたちのターンだ。」』



ハウススキル ≪ダークボール≫ 。


瞬間移動。

鳥マスクの1人の目の前へ。


倉庫の天井に稲妻が落ちて、穴が開く。

稲妻がダイナに命中すると、黒い爆発が起こる。


黒い隕石に鳥マスクが飲まれる。

飲まれて、爆発の内部で潰されて、戦闘不能となる。


――瞬間移動。

翼を持たぬダイナが、テレポートで宙を飛ぶ。


残り4人となった鳥を、追いかけ回す。


地上では、セツナが信徒どもを一掃する。

AAGスキル ≪双星炎撃掌≫ 。


右手に込めた太陽に、闘志を流し込む。

太陽の熱量が、指数関数的に膨張し、黒く変色する。


変色した太陽は、蜃気楼を作り、2つに分裂する。


分裂して出来た左手の太陽を、床に叩きつける。


熱が爆ぜ、大地に浸透。

床を溶かす。


溶けた床に、信徒は足が捕まる。



「――燃え尽きろ!」



右手の太陽を、大地に押し付ける。


熱でぬかるんだ大地が、浮き上がる。

溶けた大地に、大波が起きる。


大赤(おおあか)津波。



赤く溶けた大地が大波となり、信徒を飲み込む。

足が、溶けた沼に沈んだ信徒の群れは、これを躱せない。


一網打尽。


熱の津波が、30人余りの信徒を一掃した。


ダイナが、セツナの横にテレポートで現れる。

粗方、空の掃除が済んだらしい。


――踵を返す。


倉庫の中に、軽トラックが乗り込む。

助手席から、シバが吠えている。


JJがハンドルを握り、残りが荷台に飛び移る。



エンジンを吹かし、アクセルを踏み――。

黒い爪を引き伸ばしながら、軽トラは倉庫から姿を消した。



‥‥‥‥。

‥‥。



倉庫の外へと飛び出した軽トラを、1人の鳥マスクが追う。


上空から追跡する彼は、しかし地上に墜落する。

セツナもダイナも、銃に指を掛けていないし、攻撃もしていない。


だが、彼・彼女のどちらかが仕留めたと、公式にはそう記録される。


追っ手を振り切り、軽トラが道路を疾走する。


騒動が去った倉庫の中では、見えない足音が木霊している。



先ほどまで、ここには人間が居たはずだが‥‥。


そこに人の気配は無く、静寂だけが倉庫を満たしている。

溶けて変形した床と、真っ白い、灰のような砂が、外から入って来る風に煽られて散らばっていく。


足音は、倉庫の外へと向かう。



燃え尽きた灰は、砂と散り――。

欠片も残さず消え去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ