8.4_終末教
終末教という新興宗教が、魔薬を使用している。
その魔薬は、セントラル東部から流れているらしい。
魔薬の出所を洗い出し、終末教の裏で暗躍する首謀者の情報を掴む。
それが今回、セツナたちに与えられた任務。
一行は、ガサ入れを行った終末教の事務所にて、興味深い情報を入手。
事務所内に魔薬を隠していた教徒を尋問――、もとい、拷問して得られたのは、極秘の集会情報。
教徒の中でも、とくに信仰の篤い者を集めて行われる集会。
オペレーターからの情報には無かった、敬虔な信徒のみが知る集会。
この情報は、ダイナが教徒から引き出した。
沸騰し、燃えるお湯を、笑顔で飲ませようとするダイナの行動に、教徒は情報を白状した。
場所は、センターの隣町、レッドタウン。
赤い町、セントラルの西部と東部の緩衝地帯。
そこで、集会があるらしい。
もちろん、乗り込むつもりである。
夢戻りのエージェントは、怖い物知らず。
ひとつだけの命が惜しくないのか、ガサ入れを終えたその足で、会場へと向かう。
軽トラに3人と1匹、赤い町を目指して道路を走る。
運転席にはJJ。
峠最速の王者。
助手席には、シバ。
彼女の鼻は、頼りになる。
荷台には、ダイナとセツナ。
公務中の軽トラに突っかかって来た車は、2人のガンナーの手でスクラップにされる。
ダイナが、荷台のアオリにもたれ掛かりながら、ガラス瓶に入った魔薬を眺めている。
紫色の液体が入った瓶を太陽に透かしたり、瓶に添えられた説明書を読んだりしている。
「へぇ~。これを、アロマディフューザーで拡散して、集会に来た人たちに吸わせてるみたい。」
「そんなんで効果出るの?」
荷台に寝転がっていたセツナが上体を起こす。
ダイナからガラス瓶を受け取って、軽く振ってみる。
魔薬サタプロフェン。
気になるのは――。
「これ、オレたちが乗り込んだ時に、散布されたらマズくない?」
「保護マスクでも、用意しとくか?」
JJが、保護マスクの購入を提案する。
サタプロフェンには、洗脳効果があるらしい。
どのくらいの量を吸い込むと影響が出るのか分からないが、これを戦闘中に使われると面倒だ。
こういう、毒の類いの搦め手は厄介だ。
散布型であればなおさら。
対策があるならば、用意しておきたい。
セツナは、サタプロフェンの入った瓶をダイナに返す。
サタプロフェンを受け取り、アリサと通信。
「アリサちゃん、このサタプロフェンって、ボクたちにも効果あるのかな?」
「魔薬は、肉体ではなく、魔力に作用する薬です。
皆さんの魔力量であれば、気化したサタプロフェンに曝露 (※)する程度であれば、問題ないかと。」
※曝露:晒されること、身体に掛かること。
「そうなんだ、ありがとう。」
風を切る軽トラの荷台に、キュポンという音が響く。
ガラス瓶の、ガラス製の封を開ける。
サタプロフェンに、鼻を近づける。
「ダイナさん!?」
「――えへへ~、桃の香りだ~~~。」
気化したサタプロフェンが無害と分かるや否や、匂いを嗅ぐダイナ。
「‥‥。あ、ホントだ。桃の香り。完熟だね!」
「でしょう?」
「セツナさん!?」
アリサは、オペレーションルームで頭を抱える。
問題児に、余計な知識を与えてしまった。
「JJもどう? ‥‥と思ったけど、ダメか。」
「そうだな。助手席にシバも居るから、パスだ。」
「JJさん!」
唯一の良心に、アリサは胸をなでおろす。
心が、あったかくなる。
「――また後で、渡してくれ。」
「オッケー。」
「‥‥‥‥。」
良心なんて無かった。
救いも無かった。
「アリサちゃん。そんなに落ち込まないで。」
「そうそう。」
荷台組が、アリサにフォローを入れる。
「桃の香りがしたら、要注意。
それが分かったんだからさ。」
「そうそう。」
「‥‥そうですね。そういうことにしておきます。
あと、もしサタプロフェンによる症状が出た時は、ポーションなどを使用してください。
悪影響を解毒し、一時的にサタプロフェンの効果を防ぐことができます。」
「分かった、覚えとく。」
軽トラが走る街並みの、景色が変わる。
発展した都市部から、錆びた工場が立ち並ぶ、寂れた町並みに。
目的地へは、あと少し。
まともな人間は立ち寄らない、ゴロツキ達の根城へと足を踏み入れる。
こそこそ悪いことをするのならば、ここは格好のロケーションだ。
そんな場所に、悪い宗教にハマった一般人が立ち入るようになるとは‥‥。
セントラルの治安は、本当に悪くなっているらしい。
日の当たる場所を悪党が跋扈するのはいつものことだが、日陰を一般人が歩くようなことは、今まで無かった。
独特な、セントラルならではの、治安悪化の仕方だ。
「あと、10分くらいで着くぞ。」
「「オーケー。」」
荷台組は、装備の確認に入る。
JJは、シバを時おり撫でながら、目的地へとハンドルを切るのであった。
‥‥‥‥。
‥‥。
◆
赤い町、秘密の集会場所。
廃棄された大型トラックが並ぶ工場。
そこが、尋問で得られたポイント。
かつて、ここは食品工場だったらしい。
入り口には、錆びた看板があって、そこにはパイナップルの缶詰のイラストが色褪せている。
敷地の中や入り口に、見張りは居ない。
宗教家たちの集まりということで、チンピラとは行動原理が異なるようだ。
もちろん、罠という可能性も捨てきれない。
見張りの居ない状況に肩透かしを受けつつ、棄てられた倉庫へと向かう。
食品の原料や、在庫を保管していた倉庫。
巨大な冷蔵庫へと向かう。
スマートデバイスを起動。
ホログラムダミーの機能を応用した、変装機能を起動。
信徒になりすまして、集会に紛れ込む。
こっそり倉庫の中を見た感じだと、信徒は左腕に腕章を付けているようだった。
赤龍を模したであろうシンボルが刻まれた腕章。
龍がとぐろを巻き、円環を模った丸いシンボル。
それを、ホログラムで偽装。
何食わぬ顔で、3人は信徒の中に混ざる。
シバはお留守番。
何かあった時の、バックアップ要員だ。
電気の通っていない広い倉庫へと入り、周囲をキョロキョロ。
見る顔、見る顔――。
見渡す顔、見渡す顔――。
みんな、一般人。
チンピラのような、品性も頭も悪いような雰囲気ではなく、ちゃんと良識を持った人々が集まっているように見える。
だが、どことなく、チンピラたちと同じ匂いがする。
信徒たちの雑談に耳を傾ける。
話す内容、抑揚、相槌、身振り手振り――。
そこに、チンピラと同じような雰囲気を覚える。
自分を大きく見せるような、そういう雰囲気。
口は笑っているが、目が笑っていない。
会話をしている相手と、目が合っている時間が長い。
警戒。心を許していない者に向ける視線。
足元。
本人は気付いていないかも知れないが、足の指先が、外側を向いている。
目は相手を見ているのに、意識は相手を向いていない。
口元に笑顔を張り付けてはいるが、立ち居振る舞いに、余裕が感じられない。
虚勢というか、何というか――。
自分が特別だと、そう思い込みたい心理が、透けて見える。
3人は、どろりと粘り気のある熱気の中を、奥へと進んでいる。
ここに集まっている人間は、50人ほど。
男女比は、半分半分くらい。
セツナたちを怪しむ者は居ない。
新興宗教なので、全員の顔をみんなが知っている訳ではなさそうだ。
倉庫を進む。
甘い香りが漂い始める。
甘い、桃のような香り。
ダイナがスマートデバイスを取り出す。
‥‥極微量ではあるが、空気中にサタプロフェンが検出される。
香りに誘われるように歩を進めると、そこには小高い舞台。
階段3段分くらい高い、舞台が設営されている。
舞台の上では、鳥頭の白服たちが、設営を続けている。
ペストマスクと呼ばれる、鳥の嘴のように見えるマスクを被った集団。
異様な5人組が、黙々と作業を続けている。
舞台の上に、十字架が立てられる。
人を、磔にできそうな十字架。
黒い十字架が2つ、舞台の上に立って――。
設営は、終わったらしい。
鳥マスクの白服は、1人を残して、舞台の上から姿を消す。
この、姿を消したとは、舞台から降りて、裏手に回ったという意味ではない。
文字通り、姿が消えた。
それに驚いている信徒は居ない。
驚いている信徒は居ないから、セツナたちも、驚きを顔に出さないようにする。
3人は極力、鳥マスクと目を合わせないようにして、周囲の雰囲気に紛れておく。
――集会が、始まる。
「終末に救いを求める、迷える雛鳥の皆さま。
本日は、よくぞお集まりいただきました。」
舞台上の鳥マスクが、マスクをしたまま口上を述べる。
‥‥50人からなる雑談が、一瞬で失せた。
信徒が、舞台の前に集まる。
3人も怪しまれないように、群衆の行動に習う。
群衆の集まりを見計らい、鳥マスクが口上を続ける。
「今、この時間、ここにおわす方々は、選ばれし方々。
終末を生き延びるに値する、資格ある方。
特別な方々にだけ、我々から招待状をお送りさせていただきました。」
ダイナが、周囲の人々の表情の変化に、目敏く勘づく。
(選ばれし‥‥、資格‥‥、特別‥‥。)
鳥マスクの言葉を反芻しながら、周囲の反応と照らし合わせる。
この群衆の性質や属性、特色を割り出していく。
先ほどまで目が笑っていなかった人々の顔に、笑顔が見られる。
キーワードは、「特別」。
「この龍のシンボルこそ、終末の福音。
あなた方を、福音が守ってくださいます。
何も、恐れることはありません。」
人々は、ねっとりとした視線で、自分が身に着けた腕章を見つめる。
宝物のように、丁寧に触れる。
鳥マスクが、指を鳴らす。
虚空から、別の鳥マスクが2人現れる。
それと、手枷と口枷を嵌めた女性が2人。
金髪の女性に、茶髪の女性。
手枷の鎖を引っ張られて、無理やり舞台の上に登壇させられる。
「――そして、今一度、記憶して頂きたい。
福音を受けられなかった者が、どういう末路を辿るのかを。」
女性の手枷が外される。
2つの十字架に、磔にされていく。
両腕を、鎖で縛られていく。
――女性たちの顔には、見覚えがある。
金髪の方は、燕尾服を着た、男装の麗人。
茶髪の方は、灰色のデニムジャケットを着ている。
ジャケットの前を開けて、下はチューブトップだけの薄着。
細い腰と、ヘソが見えている。
2人とも、蝶の組織の構成員。
‥‥なぜ、彼女たちが捕まっている?
「福音なき者は、終末を生き残れない。
このように――――!」
磔にされた2人の足元から、赤黒い炎が噴き上がる。
罪人を火刑に処すように、燃え上がっていく。
アラートが鳴動。
レッドアラート。
スマートデバイスが、ディビジョナー因子の活性を検知。
けたたましく警告音を発するセツナのデバイスに、衆目が集まる。
左腕の偽装が解ける。
その下から、赤い警告表示を光らせるスマートデバイスが出現。
同時、セツナの足元に雷鳴が轟く。
JJとダイナが、拳銃を構える。
発砲。
霹靂。
JJとダイナの銃撃が、十字架の枷を破壊。
セツナが、鳥マスクの1人を蹴り飛ばす。
舞台の上で、リボルバーを抜く。
ファニングショット。
残りの鳥マスク2人に攻撃。
リボルバーをホルスターへ。
蝶の2人を、肩に担ぐ。
スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。
雷鳴が空を駆け、群衆を飛び越える。
地上に着地し、燃える足で地上を走る。
――見えない何かに、攻撃される。
脇腹を、鳥の爪に切り裂かれる。
(光学迷彩‥‥!)
抱えた蝶と一緒に転倒。
セツナは掴み上げられ、鳥の爪に首を絞められる。
舞台の上では、司会をしていた鳥マスクが、群衆を扇動する。
「不道徳な者に、罰を!
神聖を汚す連中に、福音の粛清を!」
群衆が、セツナたちへと振り向く。
セツナだけでなく、JJとダイナの方にも、ぬるりと視線を向ける。
懐から銃を取り出す。
デリンジャーと呼ばれる、小さく、隠密性に優れた銃。
銃を右手で握ると、左手に、終末教のシンボルが浮かび上がる。
福音の力。
手の甲と、手の平に浮かび上がる。
龍がとぐろを巻く、円環の中心へ、拳銃を押し当てる。
手の平に銃口を押し当てて、デリンジャーの引き金を引く。
――堕落の弾丸が、銃から吐き出され、手の平を貫通した。
「ルシフェライザー。
選ばれし者に、然るべき祝福を!」
アラートが、鳴動する。
再び、セツナの腕の上で。
当の本人は、首を絞められてそれどころではない。
両膝を着いたまま、動けずにいる。
茶髪の女性、オラクルが、セツナの首を絞める見えない敵に、脚を振り下ろす。
彼の首を掴む腕があるだろう位置に、踵を振り下ろす。
踵落としが命中し、首の拘束が緩む。
セツナが右手に火炎を纏わせながら、鳥の腕を振り払う。
金髪の女性、デアソラは、セツナのホルスターからリボルバーを拝借。
鳥がいるであろう場所に射撃。
手応えがあり、赤いエフェクトが床に広がり、また消える。
セツナが、デアソラにリボルバーの弾を投げて渡す。
彼はそのまま、襲い掛かって来た信徒の攻撃を受け止める。
デアソラを守るように、拳を払おうとして――、払えずに顔面に拳を叩き込まれる。
‥‥力負けした。
一般人の攻撃に対して。
吹き飛ぶセツナの背を、デアソラが支える。
追撃を仕掛ける赤目の信徒を、セツナが蹴り上げる。
火炎を纏った蹴り上げで、アゴを撃ち抜く。
主力火器を取り出し、発砲。
グレネードランチャーから、催涙弾を発射。
得体の知れない怪力を発揮する信徒も、人体の制約からは逃れられず、涙で視界が潰れ、咳き込む。
が、完全に動きを封じられていない。
魔力野によって、セツナたちの気配を見られている。
「――――ぐ! ‥‥うぅ!」
口枷で発声がままならぬオラクルが、宙に浮く。
鳥マスクだ。
ヤツが、オラクルの肩を掴み、宙へと持ち上げている。
肉に爪が食い込み、骨が握り潰されていく。
デアソラがリボルバーを構えるも、誤射が怖くて発砲ができずにいる。
セツナは、信徒の群れに囲まれて、オラクルを助けに行けない。
JJとダイナも同様だ。
見えない敵と、常人離れした膂力を発揮する信徒に囲まれて、思うように動けない。
「クソ‥‥!」
セツナは、自らを囲む信徒の1人を殴り飛ばす。
続けて、スキル ≪グラウンドスマッシュ≫ を発動。
倉庫の床を叩き割り、抉り、岩塊を生成。
自分の頭の高さまで岩塊を浮かべる。
オーバーヘッドキック。
ブレイズキックで、岩塊を蹴り飛ばす。
蹴った岩は、オラクルの方へ。
彼女を掴んでいる鳥を叩き落とす。
しかし、それは悪手。
見えない鳥は、オラクルを岩塊の軌道直線上に。
彼女を盾にして、攻撃から身を守る。
この可能性が充分に考えられたから、デアソラは銃を撃たなかったのだ。
――だからこそ、そこに付け入る!
マジックワイヤーを射出。
岩塊を掴む。
スキル ≪ブレイズキック≫ 。
岩を自分側に引っ張るように走る。
ワイヤーがピンと張り詰め‥‥、オラクルの目前で止まった。
デアソラが走る。
走り、ローリング。
宙に浮くオラクルの背後に回り込む。
ポジショニングから、片膝立ちの姿勢で、射撃。
肉の盾を構え、動きを止めていた鳥を撃ち抜く。
見えない鳥の翼を撃ち抜いて、オラクルは解放される。
落下するオラクルを、デアソラが受け止める。
‥‥悠長に、人の世話を焼いていたセツナは、信徒の群れの中に消える。
オラクルを受け止めたデアソラの元にも、信徒が迫る。
数の暴力に、エージェントと蝶は、すり潰されていく。
‥‥‥‥。
‥‥。
「総員、撃てぇ!!」
「「「イエス、ボス!」」」
喧騒と乱闘の倉庫内に、クマさん人形の号令が響く。
ショッキングピンクのクマさん、マルの号令に応え、彼の部下が射撃を開始する。
20人のチンピラが、アサルトライフルを乱射。
ドラムマガジンを取り付けた大容量ライフルが、弾幕を作り、所属関係なく蜂の巣にしていく。
「オラオラオラァ! マルさんの縄張りで何してやがる!」
「縄張りを荒らす奴は、カタギだろうと容赦しねぇぞ!」
「オラ! くたばりやがれ! 夢戻り共々、地獄に送ってやるぜ!!」
オラクルは、デアソラに覆いかぶさる。
銃撃から、身を挺して仲間を守る。
涙ぐましい友情を披露する2人に、空気を読まずに鳥が急降下。
弾幕を意に介さず、腕の爪を揃え、2人まとめて串刺しにしようとする。
弾幕により、光学迷彩が揺らぎ、彼奴の輪郭を看破している。
「おーっと! うちのバーテンダーに、手出しはさせませんよ!」
マルの攻撃。
スキル ≪ポルターガイスト≫ 。
サポットクラス「サイコテックス」のスキル。
倉庫の外にあった大型トラックが、デアソラの元に駆けつける。
バードストライク。
宙を走る輸送トラックが、鳥を撥ねた。
ついでに、その奥にいる信徒も、撥ね飛ばした。
さらについでに――。
「うお!?」
「うわぁ!?」
トラックは、あわやJJとダイナまで撥ね飛ばしそうになる。
統率されたチンピラたちの弾幕と、暴走トラック。
敵も味方もない猛攻に、フィールドは大混乱。
彼らは、別にどっちの味方ということはない。
縄張りに、よく分からん連中がいるから、挨拶しに来てやった。
それだけだ。
彼らからすれば、エージェントも信徒も関係ない。
が、この程度でどうにかなるような夢戻りエージェントでもない。
弾幕の中から、セツナたちが出てくる。
頑丈で怪力な信徒を、弾幕の盾にしながら、戦場から脱出。
セツナが、マルに声を掛ける。
「マル! 蝶をお願い!」
宙に浮いたぬいぐるみが、サムズアップのジェスチャーをする。
「総員、撤退!
デアソラさんと、そのお友達を最優先!」
「「「イエス、ボス!」」」
チンピラの皆さんは、蝶の2人を守りながら脱出。
殿の連中は、信徒へ銃撃を行い、なおも倉庫で戦うエージェントの援護をしつつ退いていった。
マルたちの乱入のおかげで、エージェント3人が合流する。
「セツナ、ランチャー貸してくれ。」
JJの要求に対し、グレネードランチャーを投げ渡す。
ランチャーを受け取る。
パッシブUlt「愚者の引き金」を発動。
ダイナがヒールストーンを割る。
JJの体力のフォロー。
体力を600ポイント消費して、愚者の弾丸を6発生成。
グレネードランチャーに、愚者のシリンダーを換装。
シリンダーを装填して、ゼンマイを巻く。
「光学迷彩ってのは、フェアじゃないな。
スポーツマンシップでいこう。」
火薬籠手を点火。
天井に向かって飛び、ランチャーの銃口を下方向へ。
引き金を浅く引く。
魔力を充填。
3点バースト。
愚者のEMPグレネードを擲弾。
それを、もう1回。
擲弾が床に接触して爆ぜる。
強力なEMPフィールドが展開される。
鳥マスクが装備している光学迷彩の機能が停止する。
白装束を翼の代わりにしている鳥マスク5人の姿が、露わとなる。
『「ボクたちのターンだ。」』
ハウススキル ≪ダークボール≫ 。
瞬間移動。
鳥マスクの1人の目の前へ。
倉庫の天井に稲妻が落ちて、穴が開く。
稲妻がダイナに命中すると、黒い爆発が起こる。
黒い隕石に鳥マスクが飲まれる。
飲まれて、爆発の内部で潰されて、戦闘不能となる。
――瞬間移動。
翼を持たぬダイナが、テレポートで宙を飛ぶ。
残り4人となった鳥を、追いかけ回す。
地上では、セツナが信徒どもを一掃する。
AAGスキル ≪双星炎撃掌≫ 。
右手に込めた太陽に、闘志を流し込む。
太陽の熱量が、指数関数的に膨張し、黒く変色する。
変色した太陽は、蜃気楼を作り、2つに分裂する。
分裂して出来た左手の太陽を、床に叩きつける。
熱が爆ぜ、大地に浸透。
床を溶かす。
溶けた床に、信徒は足が捕まる。
「――燃え尽きろ!」
右手の太陽を、大地に押し付ける。
熱でぬかるんだ大地が、浮き上がる。
溶けた大地に、大波が起きる。
大赤津波。
赤く溶けた大地が大波となり、信徒を飲み込む。
足が、溶けた沼に沈んだ信徒の群れは、これを躱せない。
一網打尽。
熱の津波が、30人余りの信徒を一掃した。
ダイナが、セツナの横にテレポートで現れる。
粗方、空の掃除が済んだらしい。
――踵を返す。
倉庫の中に、軽トラックが乗り込む。
助手席から、シバが吠えている。
JJがハンドルを握り、残りが荷台に飛び移る。
エンジンを吹かし、アクセルを踏み――。
黒い爪を引き伸ばしながら、軽トラは倉庫から姿を消した。
‥‥‥‥。
‥‥。
倉庫の外へと飛び出した軽トラを、1人の鳥マスクが追う。
上空から追跡する彼は、しかし地上に墜落する。
セツナもダイナも、銃に指を掛けていないし、攻撃もしていない。
だが、彼・彼女のどちらかが仕留めたと、公式にはそう記録される。
追っ手を振り切り、軽トラが道路を疾走する。
騒動が去った倉庫の中では、見えない足音が木霊している。
先ほどまで、ここには人間が居たはずだが‥‥。
そこに人の気配は無く、静寂だけが倉庫を満たしている。
溶けて変形した床と、真っ白い、灰のような砂が、外から入って来る風に煽られて散らばっていく。
足音は、倉庫の外へと向かう。
燃え尽きた灰は、砂と散り――。
欠片も残さず消え去った。




