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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
7.5章_恐怖! 恐怖のクリスマスシャーク!

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SS13.01_リアルクリスマスイベント

「セツナさん――。今まで隠していましたが‥‥、私は人間では無いのです。」



赤い瞳の不思議な女性と出会って、半年ほど経った日のこと。

いつも奔放な彼女から、真面目な話しがとあると、一緒に遊んだあとに言われた。


電脳のプライベート空間で告げられた事実。

彼女は、人間では無い。


自らは、実験のために創られたAIだと、そう告白された。



「すいません。隠すつもりは無かったなんて言い訳はしません。

 意図的に、ずっと黙っていました。」



この言葉を聞いて、セツナは何を思ったのだろう?



アイの人格は、彼女の言葉や行動は、すべて作り物だったと、幻滅したのだろうか?


人間の真似をするだけでなく、人間になろうとするAIを、気持ち悪いと嫌悪したのだろうか?


自分の友情を裏切られたと、心を傷つけられたと、怒り、憤った(いきどおった)のだろうか?



人間とAI、2つの距離は近く、それでいて遥かに遠い。


人間を中心にして世界が回っている社会において、人とAIは対等であっても、平等ではない。

対等ではあるけれど、同じではない。


AIが、人に取って代わろうなどと‥‥。

人を偽り、人として社会で過ごそうなどと‥‥。



セツナは、そんなことは一切感じなかった。


――ビックリした。

それが、最初の素直な感想。


次に、彼の感情は、アイへの同情へと変わる。


科学の発展や、人間の好奇心。

使命とエゴを背負わされ、生まれてきたこと。


「騙すつもりは無かった」とか「怖くて言えなかった」とか、いくらでも言いようはあったのに、「言い訳はしない」とか「意図的に黙ってた」なんて、自分だけ傷ついて、自分の心を犠牲にして悪者になろうとしていること。


セツナは、正義感でもお人好しでも、何でもなくって。

ただただ、何とかしなければと思った。


何か‥‥、こう‥‥、気の利いた‥‥。

自分が憧れたヒーローのように、カッコイイセリフを――。



「なんか、よく分かんないけど、メルカバーでも倒しに行かない?

 ゲームに、人間もAIも関係ないよ。」



たぶん、顔に出るくらい、色々と考えていたと思う。

全力で考えた結果が、これ。


‥‥やってしまった。

相手の真剣な悩みを、よく分かんないと、そう返してしまった。


ほら見た事かと言わんばかりに、アイも、セツナの言葉にビックリしてしまっている。



「‥‥あ、ごめん。これは違くて――。」

「セツナさんは‥‥。セツナはまだ、私の友人でいてくれるのですか?」


「うぅ? うんうん。もちろん。

 アイさんの悩みや、問題を理解できるなんて言わないけど、友達でいたいっていうのは、本当。」


「‥‥私が女の姿をしているから、美人だからそう言ってくれるのですか?

 この見た目は、人の感情を利用するために、意図して創られた見た目なのですよ。」



「そこを指摘されると、とても痛い‥‥。


 でも、ゲームには、中身が野郎の美人がわんさか居る。

 それだけじゃ、答えにならない?」



アイは、セツナの言葉にうつむく。

彼女の言葉を待つべきか? 何か言葉を、気持ちを伝えるべきか?


セツナは後者を選んだ。



「それに、アイさんは、オレのためにこんなに悩んでくれたんじゃん。

 外見は、もしかしたらキミの言う通り、色んな思惑があるのかもしれないけど――。

 アイさんの心は、アイさんだけの物で、本物だって、オレはそう思う。」


「演技なのかも‥‥、知れませんよ?」

「人間だって、演技くらいするよ。」



結局のところ、そうなのだ。

アイは、コンプレックスで見えていない。


人間の中にも、どうしようもないバカ野郎は居る。

人間同士だから、仲良くなれるなんてことはあり得ない。


だったらセツナは、種族なんて関係なく、心を通わせられる者と一緒に、暮らしていきたい。



「えーっと‥‥。これは、自衛団の先輩の受け売りなんだけど――。


 どんな能力や才能も、人の役に立てられて、はじめて意味があるんだって。

 賢いとか、強いとかを威張っても意味が無くて、それを、人や社会のためにどう使うか?


 それで、人間として器が決まるんだって。


 いいじゃん。せっかく美人に生まれたんなら、それを思いっきり利用すれば。

 手札を最大限活かすのも、悪用するのも、ゲーマーの常套手段でしょ?」



アイを元気づけようと、彼女の悩みに少しでも寄り添おうとして、出た言葉は、他人の受け売り。

‥‥経験が、彼にはまだまだ、経験が絶対的に不足している。


20年も生きていない若輩が、人生の重みを背負うには、まだまだ経験が足りない。



「‥‥‥‥。――ふ。ふふ、ふふふ。」



だが、アイは笑ってくれた。

セツナの情けなさと、必死さが伝わり、同情でもされたのか?


頑張った甲斐があるというのもである。

恥の上塗りも、たまには役に立つ。



「ありがとうございます、セツナ。

 なんだか、気持ちが軽くなりました。」


「それは良かった。」


「では、美人な私からのお願いを、聞いてくれませんか?」

「オーケー。アイテム収集と、ホラー以外なら、何でも任せなさい。」



セツナの予防線に、アイは微笑みながら首を横に振る。



「友達として、これからは "さん" 付けはやめましょう。

 私からの、お願いです。」


「――すごく、素敵なお願いだと思うよ、アイ。」

「ふふ、今後ともよろしくお願いしますね? セツナ。」


「こちらこそ。改めて、今後ともよろしく、アイ。」



‥‥‥‥。

‥‥。



これは、今から1年と半年前の出来事。

あれから時が経ち、セツナは、アイのことが少し理解できるようになった。


彼女の、人間ではない苦悩、人間としていられない恐怖。

そのことを、少し理解できるようになった。



――身を持って、自分の経験として。



そして、刹那は思うのだ。

自分はあの時、なんて無責任に、彼女へ言葉を投げかけたのだろうと‥‥。





「じゃ~ん。こんにちは刹那。

 あなたの可愛い可愛い彼女、アイちゃんですよ!」


「はいはい、こんにちは。

 はいはい、可愛い可愛い。」


「マル君も、こんにちは。」

「こんにちは。」



セントラルでのクリスマスイベントから、2日が経過。


魔神を6人で倒したあと、記念写真を撮ったり、復活したナイスデイと、ごちゃごちゃあった。


最終的に、ナイスデイの祖母(グランマ)が登場して、四の五の言う不出来な孫を簀巻きにして、バイクで引き摺りながら連れて帰り、一件落着。


黒いグラサンをかけ、口元で葉巻を吹かしながら、デカいバイクを操り。

孫に容赦なくショットガンをぶっ放すファンキーな婆さんに敬礼をしてから、2日が経ったのだ。



今日は12月24日、時刻は午前9:00。


セツナは、アイとのデートのため、ドローンポートに来ていた。


ドローンによる、空の交通便。

飛行機ほどの大量輸送には向かないが、車のように融通が利く、エアドローン便。


アイは、ドローンに揺られること約1時間。

東京から、にのまえ市の郊外にある、ドローンポートに到着した。



「どうだった? プライベートドローンの乗り心地は?」


「最高ですね。王様になれた気分です。

 空の眺めを、独り占めです。」


「へぇ~、それはスゴく良さそう。

 空の旅も、選択肢だな~。」



刹那は、たまに遥花 (刹那の妹)に誘拐されて旅行に行くことがある。

その時は、車での移動がほとんどだ。


遥花いわく、自分でハンドルを握って、あちこち行くのが楽しいらしい。


プライベートドローンは、庶民でも手の届く、ちょっとリッチな移動手段。

家族旅行でも、使われることがある。


飛行機に乗ったことはあるが、エアドローンには乗ったことが無いので、興味がある。


大学の友人である、バスケ仲間のバカ5人で乗ろうとしたこともあるが、絶ッッッ対にハメを外して散らかすので、実現には至っていない。



「ふふ――。刹那が、私と東京へ行くのなら、一緒に乗れますよ?」

「それはとても良いアイデアだけど、また今後。」



お互いの挨拶も終わり、いざデートに出発。

‥‥と、その前に。


アイが、何かを期待する表情でこちらを見ている。

その期待には、もちろん応えることとする。



「今日の格好、よく似あってるよ。」

「そうでしょう、そうでしょう。」



だいぶベタなやり取りだが、大切なやり取りだ。


さっきまでの挨拶は、礼儀としての挨拶。

こっからは、男女の関係同士の挨拶。



「どこが、どう似合ってますか?」



ほら来たと、刹那はアイの服装を観察。


今日は、セントラルでよく見るドレス姿や、このあいだ現実世界で見たスーツ姿でもない。


ベージュ色のトレンチコートに、紺色のスキニーデニム (細いジーンズ)。

肩に、動きを阻害しない、小さなショルダーバッグを通している。


コートはフロントリボンを結び、上着の下には、白いタートルネックが見えている。


コートの紐留めと、細いデニム。

ウエストと脚のラインを美しく見せ、彼女のスタイルの良さが強調されている。


‥‥が、刹那が一番思っていること。

それは――。



「コートがお洒落で似合ってるのもあるけど‥‥。

 服装、オレに合わせてくれた?」


「ピンポンピンポーン。」



アイの足元を見て、服装を合わせてくれているのだと気づいた。


彼女の足元は、スニーカー。

刹那の足元も、スニーカー。


アイはデニムを穿いているし、刹那もジーンズを穿いている。


スニーカーは、綺麗めな服装を好むアイがチョイスするのは珍しい。

トレンチコートに、タートルネックという、大人の女性を演出する服装に、足元だけは活動的なスニーカー。


デートで歩き回るからという機能的な意味合いもあるだろうが、それ以上に、刹那に合わせる服装として、スニーカーを履いて来たのだろう。


それに気付けたおかげで、アイからは合格点を貰えた。


刹那は、内心ホッとする。


よかった。

アイシャドウがどうのとか、口紅(ルージュ)がどうのとか言われたら、もう正解できる気がしない。



「刹那も、今日はいつもよりも張り切った服装ですね。

 似合ってますよ。」


「ありがとう。」



張り切っている、と言われても、いつもとほぼ同じ格好。

パーカーの上に、テーラードジャケット (スーツの上着のようなジャケット)を着ているだけ。


パーカーの上にジャケットを着る都合上、パーカーを薄地の物にしたり、ジャケットの(ラペル)が細い物にしたりと、重ね着したときのシルエットがダボダボにならないように、工夫はしている。


ついでに、ジーンズもキレイ目で、色落ちがしにくい、しっかりと色が入っている物を新しく購入した。


‥‥昨日、妹が家に突撃してきて、服選びに連れて行かれたのだ。


おかげで、良い買い物になったと思う。

妹の荷物持ちをしていた時間の方が長かったとは、微塵も思っていない。


断じて、誓って、たぶんメイビー。



「わざわざ、新しい服を着てくれるなんて、うれしいですね~。」


「そうでしょう。そうでしょう。

 ‥‥? なんで、新しいって分かるの?」



刹那の疑問に、行動で答えるアイ。

彼の後ろポケットに、手を伸ばす。



「値札、ついたままです。」

「マジ!?!?」



値札は、携帯していた小型ナイフで切った。


スマートデバイスを収納しているベルトポーチに仕込んである、小型ナイフ。

カランビットナイフのように、指にリングを通して使う、刃渡り2cmほどのナイフ。


‥‥男の子は、こういうのの方が大好き。


一応、有事には車のフロントガラスを割るのに使え、簡易的なブリーチングにも耐えられるナイフとなっている。


男の子は、こういうのの方が大好き。


ともあれ、さっそく刹那がやらかして、アクシデントがあったものの、気を取り直して――。



「じゃ、行こうか?」

「はい。」



刹那が手を差し出し、アイが手を握る。

手をつないで、ドローンポートを歩いていく。


なんだか、エアドローンを利用しているお客さんの視線を感じる気がするが、たぶん気のせい。


バカップルな両親の、血は争えなくて、すでにバカップルの予兆を漂わせて、周囲の目を集めているのは、たぶん気のせい。


アイとの待ち合わせ場所になっていたエアドローン乗り場は、にのまえ市の郊外にある。

栄えた市街地から少し離れた所に、野球やコンサートをするためのスタジアムがあり、そこに併設されている。


アイが言うには、東京の調布という場所にも、スタジアムの近くに飛行場があるらしい。


12月の、午前の空気。

吐息を白く染め上げる肌寒さを、つないだ手で温めながら。


2人は、にのまえスタジアムの外周を回って駐車場へ。


久遠(くおん)家の自家用車へと乗り込み、エンジンを点ける。



今日の行き先は、色々と考えた。

アイの喜びそうな場所、人気のスポット。


色々と考えた結果、最終的に刹那は、自分の得意で行き先を決めることにした。


助手席に座るアイが、シートベルトを締める。



「にのまえ(こう)水族館、楽しみです。」

「きっと、水族館が好きになるよ。」

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