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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
7.5章_恐怖! 恐怖のクリスマスシャーク!

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SS12.10_陸呑む鮫龍

サイバー・ゾンビメガロドン・ドラゴンアハト。

8つの首を持つシャークドラゴン。


冗談みたいなイベントのオオトリを飾るのは、冗談みたいなドラゴンであった。


3つの頭を持ち、二本足で立つ。

手足、それと尾までサメの頭。


サメ、サメ。

ヤマタノ、サメ。


冗談みたいなサメが、空を見上げる。

3つの頭が、空を見る。

6つの瞳が血のようにヌラリと瞬くと、空に雨雲が広がる。


‥‥‥‥。

また、雷の雨でも降らせるつもりだろうか?



いや、違う!

空が、地上に落ちてくる。


空に広がった雨雲が、空に広がる黒い雲海が、そのまま地上へと落ちてくる。


雨なんて代物じゃ無い。海だ。


海が、空から落ちてくる。



JJと八車は、可及的速やかに建物の屋根へと上る。

比較的頑丈そうな、落ちてくる海にも耐えられそうな屋根へと上り、海雨(かいう)に備える。


海が空気を押し潰す音が轟き、空からの落下によって、鉄のように硬くなった水が、陸地に叩きつけられた。


2人の賢明な避難も虚しく、一帯の建物はぺしゃんこに潰される。

文明のことごとくは一瞬で破壊され、街は海に呑まれる。


瓦礫が漂う海を泳ぐ。

泥で濁り、瓦礫が土砂となって襲い掛かる海を浮上する。


この海雨は、ただの演出ではない。

れっきとした攻撃だ。


不可避の攻撃で、容赦なく体力を削っていく。


この世界には、リゲインという力がある。

魔力が感情に感応する性質を利用した戦闘技法。


敵に攻撃をすることにより、精神を昂揚させ、魔力を生命力へと変換するのだ。


ゆえに、熟練の戦士は、回復薬を必要としない。

ゆえに、この世界の強敵は、不可避の攻撃を平気で行う。


Ultがアンロックされ、プレイヤーは、クラスのポテンシャルをフルスペックで発揮できるようになった。


‥‥ならば、そのような強者には、相応しい強敵が必要だ。



強者よ、死闘を臨め(のぞめ)

前にこそ、活路はあるのだ。



シャークドラゴンからの、不可避の攻撃はまだ続く。


濁った海からやっとの思いで浮上した小さき者の前に、今度は竜巻を呼び起こす。


ドラゴンは、背中から翼を生やし、宙に漂い、自らの足元から竜巻を発生させる。

腕を組み、静かに佇んだまま、風と水の中へと消えていった。


海を流れる瓦礫が、やっとの思いで掴んだ足場が、竜巻に吸い寄せられていく。


地平の向こうまで広がる海が、竜巻に捉えられて吸い寄せられていく。


JJも八車も、圧倒的な超自然の力に抵抗できず、瓦礫もろとも竜巻の餌食となる。


風が水を吸い上げ、吸い上げた水が石すら切り裂く凶器となり、瓦礫の礫と水流が身を抉っていく。



この冗談みたいなサメが、この場に佇むだけで、龍の力を身体に取り込んだ人間を、塵芥(ちりあくた)とする。

ランカーであるプレイヤーでさえ、有象無象のように蹂躙される。



――セントラルを知らない者は、勘違いをしている。


魔法界の地下ダンジョンで戦った、一つ目の怪物も。

サウィン祭に顕れた、厄災の幼体も――。


それらは、()()()のボスである。


魔神級であって、それらは魔神では無い。


本物の魔神とは、今、目の前にある化け物のことを指す。


存在自体が厄災。

力を奮うまでもなく、誇示するまでもなく、ただそこにあるだけで、世界の秩序と法則を捻じ曲げる。


彼の者が、ここに顕れたから、ここは海になる。

ただ、それだけ。


それこそが、魔神。


サイバー・ゾンビメガロドン・ドラゴンアハト。

メリッサという、100年以上前から存在するコンピューターウイルスが溜め込んだ、膨大な情報を糧として生まれた、進化の極致。


電脳ウイルスのUlt。



(‥‥ネタみたいな見た目のクセに、こいつ魔神かよ。)



JJは竜巻に揉まれながら、そんなことを考える。

体力を100ポイント消費して、Ultパッシブ「愚者の引き金」を発動。


火薬籠手から1発ショットシェルを排莢して、愚者の弾丸を装填。


‥‥ブースター、オン。


火薬の発火と同時、竜巻からJJの姿が消える。

愚者の引き金は、次元を裂き、次元を超える。


テレポートの理屈を、火薬の力で捻じ曲げて、海と瓦礫の嵐から脱出した。


脱出先は、宙を漂う瓦礫の足場、

魔神の放つ高濃度の魔力によって、物理法則が希薄となり、浮いている建物の残骸に着地する。


比較的安全な場所から周囲を見渡すも、八車の姿が見えない。

まだ、彼は竜巻の中に居るようだ。



『オーバードライブキー。――スタンドアップ。』



嵐の中、ブレイブゲージを消費。

アーマーキーを交換、オーバードライブキーに換装。



『ファントム――。』



コアレンズはそのまま。

変えたくても、レンズがバンクル内部に焼き付いて、変えられない。



オーバードライブキー × ファントムコア =――――。



『アウェイキン――。エボルブ・ファントム。』

『The Joker。』



黒い鬼甲冑に、ヒビが入る。

装備したアーマーが、内部のエネルギーに耐えられない。


亀裂から、黒い煙が噴き上がる。


内部の圧力に耐えられず、鎧が弾け飛ぶ。


弾け飛んだ装甲は、竜巻を貫通し、内部の鮫龍に直撃。

直撃したものの、効いているような様子は無い。


鎧を失った八車は、白いベースボディが剥き出しとなる。

黒い煙が、その素体を変質させ、魂に巣くうディヴィジョナー因子が、肉体を変質させる。


ベースボディと肉体がリンクし、素体は昆虫の外骨格ように、神経が通った身体の一部となる。


八車の右半身が、真っ黒に染まる。

白い生地に墨汁を垂らしたかのように、右半身が黒へと染まる。


顔の右部分には、赤いペイント。


ピエロが笑っているかのような、狼が牙を剥いているかのような、赤く吊り上がったペイントが施される。


白い左半身は、胸の心臓の位置だけ陥没し、黒い黒い虚空が広がっている。



エボルブ・ファントムアーマー。

ファントム (亡霊)の名の通り、その姿は、命を失った亡者を思わせる風貌。


心臓を潰されてもなお、身体を突き動かす破壊衝動によって、死んでも戦い続ける、狂気の進化形態。


魂に巣くうディヴィジョナーは、気付いたのだ。

人間の身体は、戦うにしては脆弱すぎる。


ならば、急所を無くしてやればいい。

心臓が無ければ、思う存分、戦い続けることができる。



「はァァ‥‥‥‥!」



リビングアーマーが、竜巻の中で、静かに拳を構える。

天地逆さまの状態で、右手を握り込む。


生者には決して扱えぬ、死と崩壊の力が、拳から滲む。



「デアァ‥‥‥‥っ!」



拳を突き出す。

黒い風が、死の風が竜巻に混ざる。


死は、たちまち周囲へと感染して伝播し、竜巻を黒く染める。


竜巻の勢いが目に見えて衰える。

風が、海を持ち上げるほどの力を失う。


薄くなった竜巻を突き破り、ビルが突っ込んで来た。


JJだ。

彼が、火薬鎚でビルをかっ飛ばしたのだ。



荒れる竜巻の海原を越えて、コンクリートの塊が鮫龍に直撃。

彼奴は、なおも腕組の姿勢は解かないが、やっと2人の相手をする気になったらしい。



その瞳が、敵意でヌラリと瞬く。


街のあちこちで、竜巻が起こる。

街に広がった海を、この場に留めるために、風で巻き上げて海が逃げないようにしている。


巻き上げた水は、定期的に空から落ちてくる。

竜巻を起点に、海が循環している。


出鱈目である。

全くもって、出鱈目な力である。


だが、それこそが魔神。

これこそが、本物の魔神。



JJは、空に浮かぶ足場から、地平の彼方を眺める。

‥‥地平の彼方まで、海が広がっている。



セントラル西部の一角は、内陸にも関わらず海に沈んだ。



「おうおう。パッと出の鮫が、派手にやりなさる。」

「サンタさんからのプレゼントだ。喜べ。」


「まあ‥‥、俺ら好みではあるか。」



通信で軽口を叩きながら、空に浮く足場で武器を構える。

降って湧いた、魔神との戦い。


おそらく、この世界で魔神戦に1番乗り。


誉れある一番槍を賜り、最初こそ巻き込まれて参加したイベントだが、これは悪くないと思える。

悪くないと思えるから、ここで勝つ。



‥‥多くのプレイヤーは知ることとなる。

このイベントの、本当の意図を。


このイベントに参加した多くのプレイヤーが、目撃することとなる。

ランカーと呼ばれるプレイヤーたちの、真の実力を。


‥‥‥‥。

‥‥。





JJと八車、5弱クラスと呼ばれる弱クラスのコンビ。

体力は、2人とも4割ほど。


魔力を取り戻して、ゾンビ狩りをしたおかげで全快まで回復していた体力が、鮫龍の初動で半分以下まで削られた。

鮫龍が、入場料と言わんばかりに、安くない体力を持っていった。


JJの切り札である「愚者の引き金」は、発動に体力が必要。

鮫龍の不可避攻撃を考えると、もう何度も使えない。


八車は、エボルブ・ファントムアーマーを装備。

精神が繋がった外骨格を装備しているため、被ダメージが増加する状態となっている。


彼もやはり、鮫龍の不可避攻撃がネック。

少しでも攻撃を当てて、被弾を避けて、リゲインで体力を回復する必要がある。


よって、2人の作戦は、こうだ。



((先手必勝‥‥‥‥!))



2人同時に蹴り出した。

八車が空中を蹴って空を駆け、JJが火薬で空をかっとぶ。


鮫龍は、微動だにせず。

腕を組んだまま、眼を血で染め上げ、虎視眈々と黙している。


腕を組み黙したまま、八車に対し尾撃を放つ。


CEの体長にも匹敵する、サメの頭を持つ尻尾が、八車を襲う。

まるで本物のサメが泳ぐかのように、空駆ける亡者に食らいつく。


八車は、もう一度、空中を蹴る。

スキル欄に装備したパッシブ ≪アップグレードパッチ≫ 。


これにより、八車は空中で2度、ジャンプを行える。


2度目の空中ジャンプで軌道を変化。

牙を剥くサメの上を取る。


右足から、死の力が滲み出る。

装甲の隙間から漏れだして、それを利用し蹴りつける。



(‥‥固い。)



サメの骨格は本来、鳥に近い。

見た目の凶暴さとは裏腹に、骨は鳥のようにスカスカ。


鳥の祖先は恐竜と言われているが、鳥の骨格は、空を飛ぶためにスカスカだ。


サメも、鳥みたいにスカスカな骨格なので、恐竜みたいな骨格を持つシャチに、オモチャにされたり、エサにされてたりしている。


‥‥が、この鮫龍は違う。

蹴った感触で分かる。


衝撃が、全く内部まで通じていない。


圧倒的なタフネスが、この一撃だけで伝わる。


コイツの体力を削るのは、骨が折れそうだ。

2人で削るには、果てしが無い。


頼りになるのは‥‥。



「ぬぅん!」



頼りになるのは、火薬術士であるJJの火力。

5弱と評されるクラスだが、火力だけはトップクラス。


彼は、悠長に腕組みを決めている鮫の腕を、鎚で殴打した。


避けられることもなく、鎚は命中。

赤い炎が舞って、強烈なインパクトが叩き込まれる。


――それでも、鮫龍は3つの頭で、5弱を見下ろすばかり。

‥‥生き物としての格が、違い過ぎる。


アリが、象に挑むようなものだ。



龍が羽ばたく。

力を込めず、羽団扇で仰ぐような動作にも関わらず、アリはあっけなく吹っ飛ぶ。


深海の水圧に潰されるが如く、空から叩き落とされ、陸に広がる海に飲まれた。



ちゃぽんと、無情な音が響いて、その上に容赦なく瓦礫が降り注ぐ。

超自然的な魔力を浴びて、世界の物理法則が狂った空を泳ぐ瓦礫を操り、海へと投げ込む。


試しに、ビルを海へ放り込む。

投げ込んだビルは、縦一閃に両断される。


火薬刀。

JJが、一刀のもとに切り裂いた。


切り捌いた瓦礫の塊を、八車が駆けあがる。

ウォールランと、亡者の膂力。


生命維持のためのリミッターが外れた脚力で駆けあがり、跳ぶ。

全身に、死のオーラを纏う。


龍が羽を動かすも、死の力が風圧を消し去る。


届いた。八車の蹴りが。


追撃。白い左手を、左胸の虚空へと伸ばす。


胸から剣を引き抜いて、攻撃。

鮫龍の腕を切りつける。


傷口から、死が感染し、龍の体を蝕む。


白い左半身は、骸骨格(がいこっかく)に残された理性。

極めて人間的な、道具を扱える習性を持つ。


――人間の知恵は、闘争と進化の役に立つ。


八車に、サメの尾が迫る。

龍の体に巻き付くように動き、自らに張り付くアリを追い返す。


龍の体から飛び降りる。

降りながら、弓を構える。


死の矢を番え、死者の膂力で弓を引き絞り、放つ。


攻撃が命中し、また、僅かばかりのダメージを与える。


JJが、八車のフォロー。

彼の足場として、火薬鎚を提供。



「――行って来い!」



火薬鎚をカチあげる。

八車がかっとぶ。


空を突く蹴りが、サメの真ん中の頭を捉えた。


真ん中の頭が、ゆっくりと後ろへ仰け反る。


‥‥龍の姿が、その場から消える。

テレポート。


その巨体で、小細工を弄する。


自分を蹴り上げた八車に、テレポートで追いつき、尻尾で攻撃。

宙を蹴って躱す八車を、翼の風圧で叩き落とす。


再びテレポート。

JJの立っている、陸の小島に瞬間移動。


尻尾を振るい、小島を破壊。

突っ込んで来たJJを、ちょっと前身する突進で押し返す。


火薬の一撃は、インパクトがズレて力負け。

普通の正拳突きなら、インパクトがズレるなんてことは有りえないが、火薬の影響で、微調整が利かない。



2人は、またまた海に落とされる。

海から顔を出した2人を、空から龍が見下ろしている。


‥‥腕組みを解いた。

8つの頭が、溺れる者を睨む。



「ヤベッ!!??」



サメの頭からブレスが放たれた。

それ1本だけでも、致死に至るブレス。


それが、8つ束になり、足場が極端に少ない地上を穿つ。

テレポートで回避。


‥‥空が、海となって落ちてくる。

致死の攻撃を、平然と連発する。


死のオーラと、火薬で、頭の上に広がる海を薙ぎ払う。


竜巻が、足元から巻き起こる。

迎撃の準備が間に合わず、竜巻の藻屑にされる。


そして――、竜巻に閉じ込められた2人に、八つ首が向く。


不可避の波状攻撃。

当たるまで、死ぬまで、不可避の攻撃を連発する。


とても人が泳ぐこと叶わない、逃げること叶わない竜巻は、龍のひと吠えによって、易々貫かれる。


竜巻は消し飛び、巻き上げた海と瓦礫が沈んでいく。

‥‥そこに、2人の姿は無かった。



‥‥‥‥。

‥‥。



「オルラスビルガ!」



嵐の前に、龍のブレスの前に、黄金の槍が構えられる。

魔導真書(グリモワール・ジーア)オルラスビルガ。


満月の女神の寵愛を受けた、金髪の英雄が用いた槍、ビルガで敵を穿つ魔法。


槍を構え、黄金の魔力を纏い突進。

突進中は無敵。


例え、龍のブレスであっても、黄金の槍は止められない。



――竜巻は消し飛び、巻き上げた海と瓦礫が沈んでいく。

‥‥そこに、2人の姿は無かった。



その運命は、変わる。

4人の加勢によって。



「またせたね。ボク、登場だ。」

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