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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
2章_休日

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2.5_侍と騎馬

~ ちょいとちょいと、お眼鏡さん(※)。

  冷やかしで結構、おいでなさい。


  これから(はなし)ますのは、西の海をぐるっと越えて、天竺のずーっと先のとこ。

  西におきましては、川と煉瓦(レンガ)がありまして、そこに大和の侍と馬がありました。


  拙い(つたない)語りですけども、どうぞ一席、よろしくお頼み申し上げます。 ~


※お眼鏡さん:物の善し悪しが分かる人のこと。



西洋風の街並みが広がる、川の街に到着したセツナとJJ。

彼らを迎えたのは、同郷の鎧武者と足軽たちであった。


鎧武者はバイクを駆り、ライダースーツの側近2人を伴って、レンガ造りの道を、紅葉を散らすが如くひた走る。


川の方では、足軽の水軍衆。

陣笠被って、胴鎧を巻いて、川から火縄銃を()()している。


陸と川からの包囲網。

脇道に逃げて、水軍衆をやり過ごすこともできるけど、それは面白くない。


売られたケンカは買うが江戸の(いき)というやつなので、このまま川沿いの道をバイクで走り続ける。


アイコンタクトをする。


(手分けして、戦おう。)

(船は俺がやる。セツナはバイクだ。)


手短に作戦を立てて、JJが川の方へとバイクを寄せる。


スロットルを開ける。

エンジンの回転数が上がり、急激な回転数の上昇に、前輪が浮く。


前輪を上げたまま、ウィリーの姿勢で、セツナの前に出て距離を開けていった。

屋台船の足軽たちは、JJを追いかけるために、船の速力を上げる。


船外に取り付けられたエンジン、船外機は、なだらかな川に波を起こしながら、JJを追っていく。

屋台船、その屋台から、障子の張られた扉を開けて、足軽たちが追加で加勢する。


JJを狙う火縄銃部隊は、およそ8人ほど。

なぜだか連射ができる、セミオートライフルと化した火縄銃で、JJを狙っている。


左の川に屋台船、右の陸にバイク。


川からバイクを狙ってみるが、互いに移動しているムービングターゲット同士、セミオートの射撃では中々当たらない。


(まあ、だろうな。)


一応、弾切れの概念があるのか、足軽たちはたまに、巣口(銃口)へ火薬と弾を込めて、カルカと呼ばれる棒で火薬と弾を筒の奥に押し込む動作をしている。


JJもインベントリから銃を取り出す。

彼のサポットであるハッカク、セツナのマルに当たるAIに、ハンドルを預ける。


右手をハンドルから離して、手元に拳銃を呼び出す。


右手に現れたのは、ボルトアクションピストル。

‥‥ピストルとは名ばかりで、ボルトアクションライフルの、ストックとバレルを切り落として、小型化した銃である。


古くは、ロシアの発祥で、このような形態の拳銃を、オブレツピストル(切り詰めたピストル)という。


JJの手にあるのは、旧日本軍が使用していたボルトアクションライフルを、オブレツ化したものである。

日本軍の装備は、天皇より賜った物であるから、時代が時代なら、オブレツ化などしたら大目玉だっただろう。


ゲームだから許される。


和製ボルトアクションピストル、オ-三八八拳銃を構える。

両手をバイクのハンドルから離して、左側に身体を捻り、アイアンサイトを覗きこむ。


多少、火縄銃の被弾を受けるが、気にしない。


狙いを定めて、撃つ!


船頭に居る足軽を狙ったが、外れる。

だが、一発目は軌道の確認。


軌道修正をする。二発目からが本命。


左手でフォアグリップをしっかり握り、右手をグリップから離して、ボルトハンドルを操作する。


カッチャン! と、ボルトアクション特有のメカニズムが駆動して、チャンバー内の使用済み薬莢が、硝煙と一緒に飛び出してくる。


排莢を終えると、次弾が固定マガジンから給弾されて、それをボルトハンドルを押し込むことで、次弾が装填される。


狙いを定める。

軌道を修正、船の揺れを調整――、撃つ!


ライフル弾という、ピストルで扱うには強力過ぎる弾丸が、銃身を上に蹴り上げて飛んで行き、足軽の胸を捉えてダウンさせた。


JJ、彼は射撃の腕に自信あり。

早打ちはセツナのそれに敵わないが、精度に関しては、JJに分がある。


射撃の精度は、精神状態に大きく影響される。

わずかな手元の狂いが、最終的に大きな誤差を生み出してしまう。


武術とスポーツで培った平常心が、彼に常に安定した精度を提供する。

早打ちは度胸と勘、スナイプは静と平常心。


そして、何よりも大切なのは――。






圧倒的なモチベーションである。


(ボルトアクションを使いこなす俺、カッコイイ!)


ボルトを引いて、チャンバーを開ける。

ボルトが後退し、薬莢がイジェクトされ、次弾が給弾され、ボルトを押して装填する。


この一連の流れが奏でる音、これがJJの心を惹きつけて止まない。


まさに、戦場のクラシック。

時代を越えてなお、愛される音楽である。


クラシック音楽とは、芸術の中では異質な、ロジカルな手続きに乗っ取った芸術である。

音色の美しさを、楽譜という形で明確に記述することができる。

他の芸術は、こうはいかない。


ボルトアクションが奏でる音色は、まさにクラシックのそれだ。

ボルトを引き、排莢し、ボルトを押しこんで給弾する。


彼の(かの)ロマンは、ロジックによって成り立ち、ロジックによって記述ができる。


弾が切れたので、クリップでまとめられた五発の弾を、固定式のマガジンに押し込む。

古い銃は、マガジンが取り外せないので、クリップ給弾と呼ばれる装填方式が主流であった。


装填し、狙いを定め、撃つ。

当たれば次、外れれば調整。


そのようにして、1人、また1人と足軽を仕留めていく。

ヘッドショットは狙わずに、当てやすい胴体に照準して撃つ。


そうして、半分ほどの足軽を倒した頃に――。






「ああああああああああ!?!?」


後ろの方から相棒の悲鳴が聞こえて、悲鳴が川に吸い込まれていった。


「何やってるんだ? アイツ?」



JJと分かれて、セツナはバイクに跨る騎馬部隊の相手。


まずは先鋒の相手。ライダースーツとヘルメット姿の手下が、セツナに近づいて来た。

バイク武者は我大将と決め込んで、どっしりと手下の戦いぶりを見るつもりのようだ。


手下は、セツナのバイクを左右から囲んで、日本刀で攻撃してくる。

片手でも振りやすい、長さにして2尺(約60cm)弱の脇差や小刀に分類させる日本刀を振るう。


左右を挟まれた状態で、斬りかかられては堪らない。

セツナは左にバイクを寄せて、川側に陣取る手下の刀を振りにくくさせるように、バイクと刀の懐に入り込む。


バイクの頭同士がぶつかる。

それでも、お互いの自動運転機能によってバランスが取られて、転倒するには至らない。


セツナは、ライダースーツの手下に拳を放つ。

バイクの上でのCQC、とても現実では叶わないアクションだ。


左手で裏拳をするように、刀を振るえないように牽制しながら左へ左へと追いやる。


川が近づいて来る。

落下防止のための、レンガを積み上げた1メートル強ほどの壁。


適度に壁に追い込んでから、バイク同士の距離を少し離し、バイクに蹴りを放った。

フラフラとコントロールを失い、手下のバイクは壁に向かっていき壁に衝突――、しなかった。


手下はバイクのハンドルを握ったまま、忍者のように壁を両足で駆けて、キックの衝撃を殺し、バイクと共に道路へ復帰する。


(わあ‥‥。相変わらず、平気でスーパープレイしてくる。)


スーパープレイを魅せたところ恐縮だが、追撃させてもらう。


右腰のリボルバーを抜いて、左腕の下に持っていき、トリガーを引いた。

跳ね上がる反動を、左腕で制御して、狙いを逸らさないようにする。


ダンッ! ダンッ! と、大口径由来の雷を裂くような射撃音が響く。


忍者バイカーは、これをウィリーで回避。

スロットルを吹かしたため、忍者はセツナの前にでる。


再び、魅せプレイで攻撃をやり過ごそうとする。


(それを待ってた!)


左手を前に出す。マジックワイヤーを射出。

左前腕に、緑のレーザー線でかたどられた、仮想プロテクターが構築されて、そこからマジックワイヤーが射出される。


ウィリー中は、ハンドルが効かない。

その無防備となった背中をワイヤーで捕まえて、後ろに引っ張り、バイクから引きずり下ろした。


「ぐわッ!?」


ヘルメットでくぐもった、短い絶叫が聞こえた。


主を失った駿馬(しゅんめ)は、前輪を浮かしたまま、セツナのさらに前に行ってしまった。

軽くなった分、速度が上がったようだ。


――シュン。


1人手下を倒したのも束の間、二の太刀がセツナに迫る。

残りの1人が斬りかかってきた。


「あぶね!?」


それを、体操選手のように、ハンドルを支点にして逆立ちをして日本刀を躱す。

バイクは、バランスを保ってくれていて、乗り手の無理な動きについていく。


リボルバーを握る右手が、手首を圧迫して、じんわりと痛みが広がる。


手下の追撃、逆立ちしている片腕を狙って水平斬り。


「ふあ!?」


それを、片手を支点にくるりと横に一回転して、日本刀が通り過ぎるまでをやり過ごす。

バイクのシートに両足を着地。


また水平斬りが来たので、その場でジャンプして躱し、着地してリボルバーを射撃。

腰に銃をつけてのファニングショット、射撃音が1回しか聞こえない2連射を、手下に叩き込んだ。


バランスを崩し、転倒して、あっという間に後方へ消えて行った。


セツナは、バイクに立った姿勢のまま、リボルバーの銃口に息を吹きかけて、硝煙を燻らせる。

残るは、大将のバイク武者――。


「――あっ?」


マルの間の抜けた声が響く。


「なに、”あっ”って?」


セツナは、バイク武者を見ていた視線を、進行方向に戻す。

――目前には、バイクが転がって来ていた。


「あ゛っ!?」


マジックワイヤーで引きずり落とした、忍者バイカーが乗っていたバイク。

主を失って、ウィリー状態で疾駆するも、その勢いを失い、セツナのバイク目掛けて転がって来ていた。


バイクは車とは違う。

二輪車では、座席に立ったドライバーを守るように、急ハンドルをすることは出来ない。


‥‥そもそも、バイクの上に立つなという話しではあるのだが。


あわれ、転がってきたバイクを避けられず、セツナは川にその身を投げ出した。


「ああああああああああ!?!?」


川に落ちる前、JJがこっちを見ている気がした。



「何やってるんだ? アイツ?」


JJが相手をしていた屋台船の水軍衆は、セツナが落水すると見るや否や、彼の方に(きびす)を返していった。


鳥は、水に濡れると飛べなくなる。

水を駆ける水軍衆からすれば、セツナは格好の獲物だろう。


(‥‥まあ、何とかするだろ。)


セツナは、何は無くとも、何かをやらかす人間ではあるが、あれでいて強い子だ。

そう信頼して、視線を後ろに向ける。


「アンタの相手は、俺がしよう。」


バイク武者が、後ろから横へと、スピードを合わせて来た。


侍同士の一騎打ちが始まる。

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