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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
7.5章_恐怖! 恐怖のクリスマスシャーク!

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SS12.06_いつもの3人

『JJ、そのまま直進してください。

 間もなく、大通りにでます。』


「あいよ。」



JJは、ダックスが残してくれた通信機を頼りに、次なるオーブの破壊を目指していた。

通信機には、「メリッサ」と呼ばれる女性が入っているそうで、彼女の声に導かれ、JJは死の街に活路を開いている。


仲間を失った彼にとって、メリッサの声だけが頼りだ。


薄暗い路地裏から、光差す大通りへと直進。

暗がりから外へと出る前に、大通りを確認。


‥‥‥‥。



「ヴぁぁあ‥‥!」



飛び出して来たゾンビに、冷静なハイキック。

相撲の股割りの要領で脚を開き、ほぼ密着距離にも関わらず、側頭部に回し蹴りをお見舞いする。


鼻を鳴らし、大通りを目視。


大通りを見れば、ゾンビやサメの群れが、路上を彷徨っている。

左右に視線を配れば、その数は100体はくだらない。


‥‥どことなく、ゾンビもサメも、何かを求めて彷徨っている雰囲気を感じる。

サメに関しては、酔ったように空を二足歩行している。



「‥‥ここを、通れって?」

『申し訳ありません。私は、最短距離しか示せませんので‥‥。』


「まあいいさ。どこに行けばいいか分かるだけ、有難い。」



有難いと、メリッサをフォローするも、これは困った。


大通りの道幅は、目測で30メートル。

アメリカの車が楽々走れる車線が6つも走っていて、歩道は大型トラックが楽々走れるくらいに広い。


道路だから隠れる場所もないし、高所から飛び越えるのも無理。

路地裏を飛び出せば、確実に見つかって、追いかけられることになる。



『JJ、右に50メートル。そこの交差点を左です。』



しかも、このゾンビの大群の中を50メートルほど走らないといけないらしい。

確実に見つかるし、囲まれる。


ゾンビだけなら何とかなるが、ここでキラーに狙われると非常に苦しい。

魔力が使えない生身でゾンビを捌きつつ、銃口から逃れるのは、骨が折れる。



「‥‥ま、やってみるか。」



手首を振り、足首を回し、身体の末端にまで血を送り、血管を広げる。

電脳の身体でこれをやる意味はあまり無いが、現実世界では効果がある。


手首や足首は、筋肉が緩んでなければ回せない。

簡単な動作で、身体の力みや引っ掛かりをほぐし、知覚する。


今日は、ちょっと左足に引っ掛かりを感じる。

紙一重のタイミングで左足に頼るのは、やめて置いた方が良さそうだ。


それを考慮して、身体の使い方を考える。


人間、ベストは出せても、万全を期することが出きるのは稀だ。

だから、現状での最善を尽くす。


さてが、勝ち続け、生き残り続けられるランカーの強さだ。


万全ではなく、最善を選ぶのだ。

この発想が、一般人には中々出てこない。


どうしても、万期万全の神話に囚われてしまう。


――呼吸を整えて、走り出す。

ゾンビの群れが、JJに気付く。


気にせず、メリッサが示した方向へ。


裏路地を出て、右方向。

50メートル先を左方向。


ゾンビが、のろのろとJJを追う、前から行く手を阻む。


ラジカセを担いだゾンビを蹴っ飛ばして、複数体を巻き込み、スペースを確保。

群れの隙間と流れを見極めて、前身。



『その交差点を左です。』



信号機が動いていない交差点を、左に曲がる。

するとそこには――。


シャークレイダーが道路を走っていた。

二輪の鮫型バイクに跨る、アンドロイド。


シャークレイダーは4体。

ウィリーをして、チェーンソーのスロットルを握る。


交差点を後退。

元来た道を引き返す。


シャークレイダーが交差点を曲がり、JJを追いかける。


追いかけた先には、ゾンビが居た。


ゾンビとサメは、敵対関係。

捕食し、捕食する仲。


シャークレイダーも、例外ではない。


ゾンビとレイダーの混戦が始まった。


レイダーが、バイクの機動力とチェーンソーの火力で、ゾンビの群れを圧倒していく。


どさくさに紛れて、JJがシャークレイダーの1体に飛び蹴りを浴びせる。

レイダーに向けてゾンビを押し出し、ハンドルを切ったところを襲撃。


レイダーを転ばせて、転んだところにナイフで攻撃。

首を掻き斬り、仕留める。


落ちていたチェーンソーを振り回し、ゾンビをズタズタにして、バイクを強奪。


他のレイダーが逃走するJJに気付くも、時すでに時間切れ。


レイダーは、狩りに集中するあまり、ゾンビの群れに深入りし過ぎた。

数の暴力で囲まれて、すぐにはJJを追いかけられない。


サメバイクで逃げるサバイバーを、見送ることしか出来なかった。



「ついてたな。今回は。」



‥‥‥‥。

‥‥。





調子に乗って開封したプレゼントが、シャークレイダーを召喚してから紆余曲折。

セツナは、やっと次の目的へと到着した。



『オーブは、この中心にあります。』

「中心、って言ったって‥‥?」



バイクを止めて、見る視線の先。


そこには、住民の憩いの広場、公園が広がっていた。

‥‥濃い霧に覆われているが。


本来、見通しが良いはずの公園には、霧が立ち込めており、5メートル先が見えないような状態となっている。


視界が利くなら攻略が楽なのに、楽はさせてくれないようだ。



『なお、この公園には、31名のサバイバーが挑戦し、死亡しています。』

「‥‥。貴重な情報をありがとう。」



バイクを押しながら、公園の中へと入って行く。


霧の中に入ると、いま自分が通った入り口さえ分からなくなり、前後不覚となる。

足元では、芝生の地面を、落ち葉がカラカラと流れている。


外から見た感じだと、公園の外周は400メートルくらい。

けっこう広い。



(遭難して、帰れなくなっちゃった人も居るんだろうなぁ‥‥。)



人間の平衡感覚や方向感覚は、案外と脆い。

吹雪と中では、同じところを永延とグルグルと回り、力尽きてしまうことも珍しくない。


オーブは公園の中心にあり、ただ中心を目指すだけと言っても、障害物や敵をやり過ごしながら進むのは至難だ。


だからセツナは、公園にバイクを持ち込んだ。


ハンドルが真っすぐであれば、車体が傾いていないのであれば、真っすぐ進めている目印になる。


いざという時の足にもなるし、武器にもなる。


音でヤツ等を引き付けてしまわないように、押して進むのが難儀ではあるものの、持っておいて損は無いであろう。


バイクを伴って進みながら、耳を澄ませる。

足音を極力消し、枯葉をなるべく踏まないようにして、感覚を研ぎ澄ます。


鼻を利かせる。

足を止めて、地面に耳をつける。


‥‥ほんのりと潮の香りがして――、地面に付けた頬に、べとりと粘液が付着した。

まだ乾いていない、新しい。



「――――!!」



霧の中から突然、触手が伸びて来た。

緑色の、芝生に擬態した触手。


大人の腕ほど太さがある触手が、立ち上がろうとした足に絡みつき、セツナを霧の奥へと引き摺り込む。


足を取られたセツナは、バイクのタイヤにしがみつく。

立てていたバイクが倒れ、セツナと一緒に引っ張られていく。


とてつもない怪力だ。


足首の骨など、容易く砕いてしまうであろう。


セツナは、ズボンのベルトに手を掛ける。

背は腹に変えられない。


ベルトを緩め、ズボンの前開き部分を留めている、ボタンフライを外していく。

脚からスルリとズボンが脱げて、ズボンが触手に引っ張られて霧の中へ。


ヘレンダをインベントリから取り出し、射撃。

触手に命中。


触手は苦しみ藻掻く。

擬態が解かれ、赤褐色の触手が暴れる。


が、ズボンは返ってこなかった。

霧の奥で、ビリビリと音が聞こえて、ズボンのその後を悟る。


音がした方に向けて発砲。

2回発砲を試みるも、手ごたえは無かった。


銃声が霧に溶けて、静寂が戻って来る。



「‥‥まずいな、これ。」



ズボンを失ったセツナは、ヘレンダのマガジンを交換し、バイクを起こすのであった。





公園の中から、銃声が響いた。


JJはバイクを止めて、公園の敷地に入る。

霧を掻き分けて、音がした方向へと走る。


やや右方向へズレていく軌道を修正しながら、銃声が聞こえた辺りに到着。


プレゼントガチャで手に入れたナイフを構え、姿勢を低く。

すり足で、霧の中を進む。


1歩2歩3歩‥‥‥‥。


視界が利かないせいか、誰かからの視線を感じて仕方が無い。

不安と恐怖を押し殺し、進んでいく。


――瞬間。


霧の中から、強烈な光が発せられた。



(バイクのハイビーム!?)



霧の中で、単眼のライトが太陽のように瞬き、霧中で輝く。

白い霧に乱反射をして、一面が真っ白な光で覆われる。


霧に順応していた目が、鋭くなっていた感覚が、光に潰される。


光で怯まされたところに、横合いから気配が近づいて来る。

低く、鋭く、地を這う蛇のように、足元から攻撃が迫る。


しかし、JJの方が、奇襲者よりも上手であった。

地面に散らばる枯葉の音で、だいたいの距離と攻撃のタイミングを逆算。


それどころか、足音の歩幅と特徴で、相手の体格まで見抜き、蹴りを合わせる。


JJの足を刈り取ろうとしていた奇襲者の顔に、キックを見舞った。



「「‥‥‥‥あっ。」」



声が、綺麗にハモった。

そしてお互い、自分の攻撃を止められなかった。


お互い、手練れ相手に、手加減する余裕が無かったのである。



「ぶへ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ――!?!?」



セツナが、JJのミドルを顔面で受け止め、ゴロゴロとバイクの所まで転がった。





「――銃声!」



ダイナは、銃声から逃れるように、木の影に隠れた。

公園に植えられている、葉の落ちた木に背中を付けて周囲を警戒する。


左手に握る、M19llを確認。

右の手のひらを開いて、閉じる。


銃を構え、進む。


CARシステムの、エクステンドポジション。

腕と銃を、顔の前に。


ターゲットを視認次第、即座に射撃を行えるように構えた。


顔の前に銃を構え、照準を常に覗くこの姿勢は、視覚と照準が一致している構え。

自分が見ている物を、即座に射撃することができるポジションだ。


‥‥銃のブローバック (スライドが後ろに引かれる動き)で、顔をぶつけないように注意。

また、リボルバーでやると、シリンダーから漏れたガスで火傷をするので、ダメ絶対。


5メートル先を見るのがやっとの霧を、ゆっくりと、しかし躊躇わずに奥を目指す。


所々から伸びる木立には、ナイフで目印をつける。

自分が来た方向と、進んだ方向を、ナイフで目印。


行って、帰るための備えをしておく。


銃声から数分。

たかだか100メートル歩くだけでも、霧と不明敵のせいで、大いに時間を取られた。


ダイナの体感では、そろそろオーブがある距離。

木立があったので、クリアリングをして、目印を付けてナイフをしまう。


銃を構えて、先へ。

‥‥‥‥。


――――物音!


9時の方向、10メートル先。

銃を向け、咄嗟に木の方へと下がる。


‥‥木の枝が揺れる。

枝擦れと、枝折れの音。



「――しまっ!?」



言い切る前に、ダイナは口を塞がれた。


木の上で、キラーが待ち構えていた。

音でダイナを釣り、視界の届かぬ木の上から奇襲を仕掛けてきた。



「ヒ~~~~~ハ~~~~~~!!

 オレ! 復活!!」



キラーは、ダイナの銃を叩き落とし、木の影に引きずり込み、彼女の首元を狙いナイフを構える。



(こいつは‥‥!)



赤外線スコープをしているため、目元は見えないが、このキラーには覚えがある。

ダイナが、イベント初動で爆破したキラーだ。


どういう訳か、復活して、再びダイナの前に現れた。


彼も、赤外線スコープ越しに、彼女が自分の仇であると理解しているらしい。

赤や緑で配色されて、人の顔など識別できない状態でありながら、ダイナをダイナだと認識している。


――この女からは匂うのだ。

上澄みの、ヤベー奴の匂いが。


霧の中で、鈍くナイフが光った。



「ぐっ――!?」



苦悶の声を漏らしたのは、キラーの方。

太ももに、何かを刺された。


得体の知れない痛みに戸惑っている隙に、ダイナは拘束から抜け出す。


口を塞ぐ手を、首を縦に振ってずらす。

ずらして、手に噛みつく。


右肘でエルボー。

本当なら顔を狙いたいが、小柄なダイナでは叶わない。


代わりに、肘で肝臓を狙う。


後ろから組み付くキラーの、レバーを右肘で強打。

拘束が緩んで確保できたスペースを最大限使って、人間の急所に肘を打ち込む。



「ぐぉ!?」



キラーがたたらを踏み、背後の木にぶつかる。

ダイナが、右手に隠していた、乙女の秘密を構える。


裁縫針。

糸を針に通して、手の中で操作しやすくした、美しき棘。


右手に武器を持っていないと油断させたところを、チクリ。

キラーとの戦闘を想定した暗器だ。


花の棘が、キラーの腹を2回刺す。


腹の痛みに気を取られている隙に、掌底。

左手で、キラーの顎に掌底、平衡感覚を奪う。


苦し紛れに振るわれるナイフを屈んで回避。

コートから、サバイバルキットを取り出す。


取り出して、キラーの腿に打ち込む。



「ぐはぁ!?」



キラーの顔色が悪くなり、血を吐いた。

サバイバルキットは、敵に使用するとダメージを与えられる仕様がある。


キラーの反応を見るに、このイベント中は、即死ダメージを与えられるようだ。


地面に転がった銃を拾い、キラーへと向ける。

膝を追って倒れ込む彼は、ブルブルと震える手で、赤外線スコープを外す。


‥‥寒い、熱い。身震いが止まらない。

だが、その目には、まだなお闘志が燃え盛っている。



「キサマの名を‥‥、オレに教えろぉ‥‥!!」


「ボクはダイナ。たぶん、キミと同類のプレイヤーだよ。」



キラーは、ダイナの名を知り、嬉しそうな表情を浮かべる。



「オレは、ノクター‥‥。キサマを殺す者の名だ‥‥!

 覚えていろぉ! ダイナァ!!」



キラーの名は、ノクター。

世界一イケてるヴァンドから取った名前。


ノクターは、ダイナに凄んだ。

下から血を吐きながら凄み、息絶えた。


地面に落ちた銃の汚れを払う。

枯れた白っぽい芝生を払い、手入れ完了。


銃を使わなかったおかげで、周囲に敵の気配は感じない。



「ふぅ――。ファンが、1人増えちゃった。」



自分のリスナーに、そう茶化し、彼女は公園の奥を目指すのであった。


この後、公園のオーブは彼女に破壊される。

彼女が壊したオーブは、これで2つ目。


この公園に潜む脅威を、他のプレイヤーが引き付けてくれたおかげで、ダイナは2つ目の戦果を挙げたのだ。





「JJ、キミは峠を攻めてたんじゃないの?」


「それが‥‥。ヘラジカとレースして、フラグ男と犬のお巡りさんで、ゾンビがシャークなんだ。」


「‥‥‥‥。

 つまり、峠攻めてたら、いつの間にかここに飛ばされて、仲間たちと一緒に戦ってたんだ。」


「そう言う事だ。」



さすがセツナ。

かれこれ1年の付き合いから来る理解力で、JJの事情を理解した。


JJの事情が分かったので、今度はセツナの事情を確認する番。



「ところでセツナ。‥‥ズボンはどうした?」

「それが‥‥。」



いま彼は、公園の真ん中でパンツ一丁。


いや、正確には上は着ているから、もっとヤバいくて――。

いや、そうじゃなくって、どういう要件でパンツになったのか、聞かざるを得ない。


――霧の奥から物音。


バイクの影に隠れて、セツナがジェスチャーで事情を説明する。


両手をくねくねさせた後、足首を掴む動作。

それから、ベルトを外す動作をして、ズボンを破くジェスチャーをする。


それに対し、JJは首をコクコクと振り、サムズアップ。

伝わったらしい。



(触手に足を掴まれたから、脱いだ。)



つまりは、そういうことらしい。



「JJ。武器は何かある?」

「このナイフだけだな。」



と、柄の部分にボタンが付いたナイフを見せる。



「よし、じゃあそれで仕留めよう。鉄砲玉はオレが。」

「オーケイ。」



手短に作戦会議を済ませ、セツナはバイクに跨る。

キーを回し、エンジンを付け、エンジンを噴かす。



「さあ来い! タコ野郎!」



そう、セツナを先ほど襲ったのは、巨大なタコ。

潮の香りに、地面に付着した粘液、それと擬態できる体。


その特徴のどれもが、海に住むタコと一致する。


セツナたちの作戦は簡単だ。

セツナがバイクで突っ込んで、サメバイクを爆破させる。


仕留めそこなったら、JJのナイフでトドメを刺す。


ツーアクションリーサル。

実にシンプル。


バイクに跨り、触手が伸びて来るのを、今か今かと待ち、備える。

先の見えぬ霧を、目を皿にして凝視する。



――触手が伸びて来た!

JJの方!



セツナの背中を守るように立っていたJJに向けて、触手が伸びて来る。

タコの足は、セツナでは無く、JJを狙ったのだ。


明らかに闘争心満々のセツナではなく、ほぼ丸腰のJJを狙う。

狡猾。実に狡猾。


タコとは、頭が良く、その分だけ狡猾なのだ。



「セツナ!」

「よっしゃあ!」



しかし、負けず劣らず、セツナとJJもずる賢い。

人間は、知性と連携能力を磨くことで、生存競争を生き抜いた。


弱い方から倒す。

それは、弱肉強食においても、人間の闘争においても、同じ。


同じであるならば、そこに罠を張るのは当然の摂理。

JJは、霧の中から伸びる触手を躱す。


芝に擬態して伸びて来る腕を、器用に避ける。


初見ならこうもいかないが、ネタはもう割れている。

セツナから、教わっている。


JJと入れ替わるように、バイクが飛び出す。

人間の連携能力が火を吹く。


触手の大きさからして、タコの本体は相当にデカい。

このまま真っ直ぐ突っ切れば、本体を視界に捉えられる。


バイクのスロットルを開き、加速。

潮の香りが強くなる。


――見つけた!


芝生の上で触手を伸ばす、大ダコ。

8本の触手を操る、シャークトパス!


タコの足に、サメの頭。

死角から伸びてくる足に、人を丸呑みにできる頭。


バイクを加速させる。

目的地は、シャークトパス。


加速し、勢いをつけ、バイクから転がり降りて脱出。

シャークトパスは、旺盛な食欲から、バイクとセツナを触手で捕まえようとする。


バイクに向けて、ヘレンダを発砲。

3点バーストのおかげで、バイクに銃弾が命中する。


セントラルの車両は、良く燃える。


ボディから火を上げるサメバイクが、シャークトパスに突進。


共食い!

爆発炎上。


サメバイクが、タコの足を3本持っていった。

本体は、筋肉の塊である触手が爆発を軽減し、まだ生きている。


シャークトパスは、タコの口から墨を吐く。

触手の中にある口から、濃い白い煙が湧き立つ。


視界が、さらに悪化する。


サメバイクが食い千切ったタコ足が、セツナに襲い掛かる。


タコの足には、頭部から独立した脳 (神経節)がある。

足にある脳のおかげで、本体から切り離されても、動くことができるのだ。


視界が狭まったせいで、反応が遅れて、セツナが切れた足に捕まる。

胴に巻き付き、締め上げていく。


その横を、JJが通り過ぎる。

走り駆け抜け、シャークトパスが消えた霧の墨へ突っ込む。



(俺も、バイク持ってきたら良かったな。)



そう反省をしつつ、逃げながら振り下ろされる触手を躱す。


視界が3メートルも利かなくなっているのに、それを何でも無いかのように、触手の乱打を躱す。


野生の動きは、極めて本能的。

ゆえに強力。


だがしかし、いかんせん合理的が過ぎる。

四角四面、合理に理詰めされた動きは、強力だが単調だ。


手負いの獅子が、なぜ危険なのか?

それは、一発逆転、捨て身の急所狙いをしてくるからだ。


だからこそ、手負いと油断すれば、急所を潰されて返り討ちに遭う。


手負いシャークトパスも同じだ。

JJを一撃で仕留めるべく、大振りの大上段を振るい、叩き潰そうとしている。


ここに僅かでも、ほんの少しでも、人間のような狡猾さがあれば、シャークトパスが勝てていた。

自らの手負いすらブラフに使い、小賢しくも足元を狙う胆力があれば、勝負の結果は違った。


だが、シャークトパスは人間ではない。

だから負ける。



「ぬぅぅぅん!!」



触手の乱打を捌き、懐に潜り、牙を剥いたサメの頭に、ナイフを突き立てた。


ナイフのグリップに付けられたボタンを押す。

ナイフに仕込まれたギミックが作動する。


グリップ内部に装填されたカードリッジから、CO₂ガスが噴射。

充填されたガスは、ナイフの先端にある穴から噴出。


液化二酸化炭素が、気化することによる、膨張効果。

気化熱による、冷却効果。


シャークトパスの頭部に突き立てられたナイフは、サメの頭を内部から破壊した。

ガスの圧力と、冷却による凍傷で、内部を破壊。


頭が爆ぜて死亡する。


インジェクターナイフ。

人には、間違っても使いたくない、捕食動物から身を守るための自衛用ナイフ。


ガスのイジェクトを受けたサメは、藻掻く暇も無く即死した。

最後っ屁でタコ足が暴れるも、じきに動かなくなる。


ナイフを、サメの爆ぜた頭部から引き抜き、セツナのところへ。

本体を倒したおかげで、セツナもタコ足から脱出できたようだ。


2人で、グータッチを交わす。


‥‥ところが、一難去ってまた一難。

霧の向こうから人の気配。


静かになった公園に、枯葉を踏む音が響いた。


即座に戦闘態勢に戻る2人。

足音を立てないように、霧が深くなった公園を進む。


‥‥‥‥。

‥‥。


セツナが動いた。

ヘレンダを手に取り、霧の中へと消える。


不明敵も、それに合わせて動く。

セツナの足音に反応し、迎撃の構え。


霧の中から、セツナが飛び出す。

左ストレート!



「「‥‥‥‥あっ。」」



金髪サイドテールの女性と目が合って、ストライカープレートの装着された銃でぶん殴られた。



「ぶへ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ――!?!?」



どっかで聞いたような悲鳴を、もう一度。

霧の中から、JJがラリアットを構えてこんにちは。



「ちょ!? だめだめだめだめぇ――!?!?!?」

「ぬぅぅぅん!」



ダイナの首を、ラリアットが刈り取った。

「きゅ~」と鳴いて、ダイナが倒れ伏す。



「‥‥‥‥。うん?」



ラリアットの素振りをしながら、足元を確認。


転がる鉄砲玉と、大の字の魔法使い。

‥‥‥‥。



「「おりゃぁあ!!」」


「あ゛ふん!?!?」



示しを合わせたのように、ダイナとセツナが、JJの足に組み付く。

組み付いて、彼を押し倒した。


――霧が晴れていく。


公園の主を倒したことにより、霧の発生源が絶たれた。

霧が晴れるのも、当然と言えよう。


ここに、いつもの3人が結集した。

奇しくも、PvPサーバーで、ランカートリオが結成されたのだ。



「‥‥ところで、セツナ?」

「なんだい、ダイナ?」


「ズボンはどうしたの?」

「‥‥‥‥。」



黙るセツナに代わり、JJが事の成り行きを説明。

セツナに習って、ジェスチャーでタコに破かれたと伝えた。


ダイナは、「やだ~、BANされちゃう~。」とか言って、お茶らけている。

この場にいる人間も、この配信を見ている人間も、だいたいは成人しているので、BANはされない。


そも、ズボンを脱げたということは、脱いでも問題ないから脱げたのである。



「見つめましたわよ!」

「覚悟しなさい! セクハラ兄貴!」

「セツナ‥‥。私、悲しいです。しくしく――。」



「「「‥‥‥‥あっ。」」」


「「「‥‥‥‥は?」」」



ズボンを脱いでも、システム的には問題ない。

――ただし、人間関係における問題は考慮しない。



‥‥‥‥。

‥‥。



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