SS12.06_いつもの3人
『JJ、そのまま直進してください。
間もなく、大通りにでます。』
「あいよ。」
JJは、ダックスが残してくれた通信機を頼りに、次なるオーブの破壊を目指していた。
通信機には、「メリッサ」と呼ばれる女性が入っているそうで、彼女の声に導かれ、JJは死の街に活路を開いている。
仲間を失った彼にとって、メリッサの声だけが頼りだ。
薄暗い路地裏から、光差す大通りへと直進。
暗がりから外へと出る前に、大通りを確認。
‥‥‥‥。
「ヴぁぁあ‥‥!」
飛び出して来たゾンビに、冷静なハイキック。
相撲の股割りの要領で脚を開き、ほぼ密着距離にも関わらず、側頭部に回し蹴りをお見舞いする。
鼻を鳴らし、大通りを目視。
大通りを見れば、ゾンビやサメの群れが、路上を彷徨っている。
左右に視線を配れば、その数は100体はくだらない。
‥‥どことなく、ゾンビもサメも、何かを求めて彷徨っている雰囲気を感じる。
サメに関しては、酔ったように空を二足歩行している。
「‥‥ここを、通れって?」
『申し訳ありません。私は、最短距離しか示せませんので‥‥。』
「まあいいさ。どこに行けばいいか分かるだけ、有難い。」
有難いと、メリッサをフォローするも、これは困った。
大通りの道幅は、目測で30メートル。
アメリカの車が楽々走れる車線が6つも走っていて、歩道は大型トラックが楽々走れるくらいに広い。
道路だから隠れる場所もないし、高所から飛び越えるのも無理。
路地裏を飛び出せば、確実に見つかって、追いかけられることになる。
『JJ、右に50メートル。そこの交差点を左です。』
しかも、このゾンビの大群の中を50メートルほど走らないといけないらしい。
確実に見つかるし、囲まれる。
ゾンビだけなら何とかなるが、ここでキラーに狙われると非常に苦しい。
魔力が使えない生身でゾンビを捌きつつ、銃口から逃れるのは、骨が折れる。
「‥‥ま、やってみるか。」
手首を振り、足首を回し、身体の末端にまで血を送り、血管を広げる。
電脳の身体でこれをやる意味はあまり無いが、現実世界では効果がある。
手首や足首は、筋肉が緩んでなければ回せない。
簡単な動作で、身体の力みや引っ掛かりをほぐし、知覚する。
今日は、ちょっと左足に引っ掛かりを感じる。
紙一重のタイミングで左足に頼るのは、やめて置いた方が良さそうだ。
それを考慮して、身体の使い方を考える。
人間、ベストは出せても、万全を期することが出きるのは稀だ。
だから、現状での最善を尽くす。
さてが、勝ち続け、生き残り続けられるランカーの強さだ。
万全ではなく、最善を選ぶのだ。
この発想が、一般人には中々出てこない。
どうしても、万期万全の神話に囚われてしまう。
――呼吸を整えて、走り出す。
ゾンビの群れが、JJに気付く。
気にせず、メリッサが示した方向へ。
裏路地を出て、右方向。
50メートル先を左方向。
ゾンビが、のろのろとJJを追う、前から行く手を阻む。
ラジカセを担いだゾンビを蹴っ飛ばして、複数体を巻き込み、スペースを確保。
群れの隙間と流れを見極めて、前身。
『その交差点を左です。』
信号機が動いていない交差点を、左に曲がる。
するとそこには――。
シャークレイダーが道路を走っていた。
二輪の鮫型バイクに跨る、アンドロイド。
シャークレイダーは4体。
ウィリーをして、チェーンソーのスロットルを握る。
交差点を後退。
元来た道を引き返す。
シャークレイダーが交差点を曲がり、JJを追いかける。
追いかけた先には、ゾンビが居た。
ゾンビとサメは、敵対関係。
捕食し、捕食する仲。
シャークレイダーも、例外ではない。
ゾンビとレイダーの混戦が始まった。
レイダーが、バイクの機動力とチェーンソーの火力で、ゾンビの群れを圧倒していく。
どさくさに紛れて、JJがシャークレイダーの1体に飛び蹴りを浴びせる。
レイダーに向けてゾンビを押し出し、ハンドルを切ったところを襲撃。
レイダーを転ばせて、転んだところにナイフで攻撃。
首を掻き斬り、仕留める。
落ちていたチェーンソーを振り回し、ゾンビをズタズタにして、バイクを強奪。
他のレイダーが逃走するJJに気付くも、時すでに時間切れ。
レイダーは、狩りに集中するあまり、ゾンビの群れに深入りし過ぎた。
数の暴力で囲まれて、すぐにはJJを追いかけられない。
サメバイクで逃げるサバイバーを、見送ることしか出来なかった。
「ついてたな。今回は。」
‥‥‥‥。
‥‥。
◆
調子に乗って開封したプレゼントが、シャークレイダーを召喚してから紆余曲折。
セツナは、やっと次の目的へと到着した。
『オーブは、この中心にあります。』
「中心、って言ったって‥‥?」
バイクを止めて、見る視線の先。
そこには、住民の憩いの広場、公園が広がっていた。
‥‥濃い霧に覆われているが。
本来、見通しが良いはずの公園には、霧が立ち込めており、5メートル先が見えないような状態となっている。
視界が利くなら攻略が楽なのに、楽はさせてくれないようだ。
『なお、この公園には、31名のサバイバーが挑戦し、死亡しています。』
「‥‥。貴重な情報をありがとう。」
バイクを押しながら、公園の中へと入って行く。
霧の中に入ると、いま自分が通った入り口さえ分からなくなり、前後不覚となる。
足元では、芝生の地面を、落ち葉がカラカラと流れている。
外から見た感じだと、公園の外周は400メートルくらい。
けっこう広い。
(遭難して、帰れなくなっちゃった人も居るんだろうなぁ‥‥。)
人間の平衡感覚や方向感覚は、案外と脆い。
吹雪と中では、同じところを永延とグルグルと回り、力尽きてしまうことも珍しくない。
オーブは公園の中心にあり、ただ中心を目指すだけと言っても、障害物や敵をやり過ごしながら進むのは至難だ。
だからセツナは、公園にバイクを持ち込んだ。
ハンドルが真っすぐであれば、車体が傾いていないのであれば、真っすぐ進めている目印になる。
いざという時の足にもなるし、武器にもなる。
音でヤツ等を引き付けてしまわないように、押して進むのが難儀ではあるものの、持っておいて損は無いであろう。
バイクを伴って進みながら、耳を澄ませる。
足音を極力消し、枯葉をなるべく踏まないようにして、感覚を研ぎ澄ます。
鼻を利かせる。
足を止めて、地面に耳をつける。
‥‥ほんのりと潮の香りがして――、地面に付けた頬に、べとりと粘液が付着した。
まだ乾いていない、新しい。
「――――!!」
霧の中から突然、触手が伸びて来た。
緑色の、芝生に擬態した触手。
大人の腕ほど太さがある触手が、立ち上がろうとした足に絡みつき、セツナを霧の奥へと引き摺り込む。
足を取られたセツナは、バイクのタイヤにしがみつく。
立てていたバイクが倒れ、セツナと一緒に引っ張られていく。
とてつもない怪力だ。
足首の骨など、容易く砕いてしまうであろう。
セツナは、ズボンのベルトに手を掛ける。
背は腹に変えられない。
ベルトを緩め、ズボンの前開き部分を留めている、ボタンフライを外していく。
脚からスルリとズボンが脱げて、ズボンが触手に引っ張られて霧の中へ。
ヘレンダをインベントリから取り出し、射撃。
触手に命中。
触手は苦しみ藻掻く。
擬態が解かれ、赤褐色の触手が暴れる。
が、ズボンは返ってこなかった。
霧の奥で、ビリビリと音が聞こえて、ズボンのその後を悟る。
音がした方に向けて発砲。
2回発砲を試みるも、手ごたえは無かった。
銃声が霧に溶けて、静寂が戻って来る。
「‥‥まずいな、これ。」
ズボンを失ったセツナは、ヘレンダのマガジンを交換し、バイクを起こすのであった。
◆
公園の中から、銃声が響いた。
JJはバイクを止めて、公園の敷地に入る。
霧を掻き分けて、音がした方向へと走る。
やや右方向へズレていく軌道を修正しながら、銃声が聞こえた辺りに到着。
プレゼントガチャで手に入れたナイフを構え、姿勢を低く。
すり足で、霧の中を進む。
1歩2歩3歩‥‥‥‥。
視界が利かないせいか、誰かからの視線を感じて仕方が無い。
不安と恐怖を押し殺し、進んでいく。
――瞬間。
霧の中から、強烈な光が発せられた。
(バイクのハイビーム!?)
霧の中で、単眼のライトが太陽のように瞬き、霧中で輝く。
白い霧に乱反射をして、一面が真っ白な光で覆われる。
霧に順応していた目が、鋭くなっていた感覚が、光に潰される。
光で怯まされたところに、横合いから気配が近づいて来る。
低く、鋭く、地を這う蛇のように、足元から攻撃が迫る。
しかし、JJの方が、奇襲者よりも上手であった。
地面に散らばる枯葉の音で、だいたいの距離と攻撃のタイミングを逆算。
それどころか、足音の歩幅と特徴で、相手の体格まで見抜き、蹴りを合わせる。
JJの足を刈り取ろうとしていた奇襲者の顔に、キックを見舞った。
「「‥‥‥‥あっ。」」
声が、綺麗にハモった。
そしてお互い、自分の攻撃を止められなかった。
お互い、手練れ相手に、手加減する余裕が無かったのである。
「ぶへ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ――!?!?」
セツナが、JJのミドルを顔面で受け止め、ゴロゴロとバイクの所まで転がった。
◆
「――銃声!」
ダイナは、銃声から逃れるように、木の影に隠れた。
公園に植えられている、葉の落ちた木に背中を付けて周囲を警戒する。
左手に握る、M19llを確認。
右の手のひらを開いて、閉じる。
銃を構え、進む。
CARシステムの、エクステンドポジション。
腕と銃を、顔の前に。
ターゲットを視認次第、即座に射撃を行えるように構えた。
顔の前に銃を構え、照準を常に覗くこの姿勢は、視覚と照準が一致している構え。
自分が見ている物を、即座に射撃することができるポジションだ。
‥‥銃のブローバック (スライドが後ろに引かれる動き)で、顔をぶつけないように注意。
また、リボルバーでやると、シリンダーから漏れたガスで火傷をするので、ダメ絶対。
5メートル先を見るのがやっとの霧を、ゆっくりと、しかし躊躇わずに奥を目指す。
所々から伸びる木立には、ナイフで目印をつける。
自分が来た方向と、進んだ方向を、ナイフで目印。
行って、帰るための備えをしておく。
銃声から数分。
たかだか100メートル歩くだけでも、霧と不明敵のせいで、大いに時間を取られた。
ダイナの体感では、そろそろオーブがある距離。
木立があったので、クリアリングをして、目印を付けてナイフをしまう。
銃を構えて、先へ。
‥‥‥‥。
――――物音!
9時の方向、10メートル先。
銃を向け、咄嗟に木の方へと下がる。
‥‥木の枝が揺れる。
枝擦れと、枝折れの音。
「――しまっ!?」
言い切る前に、ダイナは口を塞がれた。
木の上で、キラーが待ち構えていた。
音でダイナを釣り、視界の届かぬ木の上から奇襲を仕掛けてきた。
「ヒ~~~~~ハ~~~~~~!!
オレ! 復活!!」
キラーは、ダイナの銃を叩き落とし、木の影に引きずり込み、彼女の首元を狙いナイフを構える。
(こいつは‥‥!)
赤外線スコープをしているため、目元は見えないが、このキラーには覚えがある。
ダイナが、イベント初動で爆破したキラーだ。
どういう訳か、復活して、再びダイナの前に現れた。
彼も、赤外線スコープ越しに、彼女が自分の仇であると理解しているらしい。
赤や緑で配色されて、人の顔など識別できない状態でありながら、ダイナをダイナだと認識している。
――この女からは匂うのだ。
上澄みの、ヤベー奴の匂いが。
霧の中で、鈍くナイフが光った。
「ぐっ――!?」
苦悶の声を漏らしたのは、キラーの方。
太ももに、何かを刺された。
得体の知れない痛みに戸惑っている隙に、ダイナは拘束から抜け出す。
口を塞ぐ手を、首を縦に振ってずらす。
ずらして、手に噛みつく。
右肘でエルボー。
本当なら顔を狙いたいが、小柄なダイナでは叶わない。
代わりに、肘で肝臓を狙う。
後ろから組み付くキラーの、レバーを右肘で強打。
拘束が緩んで確保できたスペースを最大限使って、人間の急所に肘を打ち込む。
「ぐぉ!?」
キラーがたたらを踏み、背後の木にぶつかる。
ダイナが、右手に隠していた、乙女の秘密を構える。
裁縫針。
糸を針に通して、手の中で操作しやすくした、美しき棘。
右手に武器を持っていないと油断させたところを、チクリ。
キラーとの戦闘を想定した暗器だ。
花の棘が、キラーの腹を2回刺す。
腹の痛みに気を取られている隙に、掌底。
左手で、キラーの顎に掌底、平衡感覚を奪う。
苦し紛れに振るわれるナイフを屈んで回避。
コートから、サバイバルキットを取り出す。
取り出して、キラーの腿に打ち込む。
「ぐはぁ!?」
キラーの顔色が悪くなり、血を吐いた。
サバイバルキットは、敵に使用するとダメージを与えられる仕様がある。
キラーの反応を見るに、このイベント中は、即死ダメージを与えられるようだ。
地面に転がった銃を拾い、キラーへと向ける。
膝を追って倒れ込む彼は、ブルブルと震える手で、赤外線スコープを外す。
‥‥寒い、熱い。身震いが止まらない。
だが、その目には、まだなお闘志が燃え盛っている。
「キサマの名を‥‥、オレに教えろぉ‥‥!!」
「ボクはダイナ。たぶん、キミと同類のプレイヤーだよ。」
キラーは、ダイナの名を知り、嬉しそうな表情を浮かべる。
「オレは、ノクター‥‥。キサマを殺す者の名だ‥‥!
覚えていろぉ! ダイナァ!!」
キラーの名は、ノクター。
世界一イケてるヴァンドから取った名前。
ノクターは、ダイナに凄んだ。
下から血を吐きながら凄み、息絶えた。
地面に落ちた銃の汚れを払う。
枯れた白っぽい芝生を払い、手入れ完了。
銃を使わなかったおかげで、周囲に敵の気配は感じない。
「ふぅ――。ファンが、1人増えちゃった。」
自分のリスナーに、そう茶化し、彼女は公園の奥を目指すのであった。
この後、公園のオーブは彼女に破壊される。
彼女が壊したオーブは、これで2つ目。
この公園に潜む脅威を、他のプレイヤーが引き付けてくれたおかげで、ダイナは2つ目の戦果を挙げたのだ。
◆
「JJ、キミは峠を攻めてたんじゃないの?」
「それが‥‥。ヘラジカとレースして、フラグ男と犬のお巡りさんで、ゾンビがシャークなんだ。」
「‥‥‥‥。
つまり、峠攻めてたら、いつの間にかここに飛ばされて、仲間たちと一緒に戦ってたんだ。」
「そう言う事だ。」
さすがセツナ。
かれこれ1年の付き合いから来る理解力で、JJの事情を理解した。
JJの事情が分かったので、今度はセツナの事情を確認する番。
「ところでセツナ。‥‥ズボンはどうした?」
「それが‥‥。」
いま彼は、公園の真ん中でパンツ一丁。
いや、正確には上は着ているから、もっとヤバいくて――。
いや、そうじゃなくって、どういう要件でパンツになったのか、聞かざるを得ない。
――霧の奥から物音。
バイクの影に隠れて、セツナがジェスチャーで事情を説明する。
両手をくねくねさせた後、足首を掴む動作。
それから、ベルトを外す動作をして、ズボンを破くジェスチャーをする。
それに対し、JJは首をコクコクと振り、サムズアップ。
伝わったらしい。
(触手に足を掴まれたから、脱いだ。)
つまりは、そういうことらしい。
「JJ。武器は何かある?」
「このナイフだけだな。」
と、柄の部分にボタンが付いたナイフを見せる。
「よし、じゃあそれで仕留めよう。鉄砲玉はオレが。」
「オーケイ。」
手短に作戦会議を済ませ、セツナはバイクに跨る。
キーを回し、エンジンを付け、エンジンを噴かす。
「さあ来い! タコ野郎!」
そう、セツナを先ほど襲ったのは、巨大なタコ。
潮の香りに、地面に付着した粘液、それと擬態できる体。
その特徴のどれもが、海に住むタコと一致する。
セツナたちの作戦は簡単だ。
セツナがバイクで突っ込んで、サメバイクを爆破させる。
仕留めそこなったら、JJのナイフでトドメを刺す。
ツーアクションリーサル。
実にシンプル。
バイクに跨り、触手が伸びて来るのを、今か今かと待ち、備える。
先の見えぬ霧を、目を皿にして凝視する。
――触手が伸びて来た!
JJの方!
セツナの背中を守るように立っていたJJに向けて、触手が伸びて来る。
タコの足は、セツナでは無く、JJを狙ったのだ。
明らかに闘争心満々のセツナではなく、ほぼ丸腰のJJを狙う。
狡猾。実に狡猾。
タコとは、頭が良く、その分だけ狡猾なのだ。
「セツナ!」
「よっしゃあ!」
しかし、負けず劣らず、セツナとJJもずる賢い。
人間は、知性と連携能力を磨くことで、生存競争を生き抜いた。
弱い方から倒す。
それは、弱肉強食においても、人間の闘争においても、同じ。
同じであるならば、そこに罠を張るのは当然の摂理。
JJは、霧の中から伸びる触手を躱す。
芝に擬態して伸びて来る腕を、器用に避ける。
初見ならこうもいかないが、ネタはもう割れている。
セツナから、教わっている。
JJと入れ替わるように、バイクが飛び出す。
人間の連携能力が火を吹く。
触手の大きさからして、タコの本体は相当にデカい。
このまま真っ直ぐ突っ切れば、本体を視界に捉えられる。
バイクのスロットルを開き、加速。
潮の香りが強くなる。
――見つけた!
芝生の上で触手を伸ばす、大ダコ。
8本の触手を操る、シャークトパス!
タコの足に、サメの頭。
死角から伸びてくる足に、人を丸呑みにできる頭。
バイクを加速させる。
目的地は、シャークトパス。
加速し、勢いをつけ、バイクから転がり降りて脱出。
シャークトパスは、旺盛な食欲から、バイクとセツナを触手で捕まえようとする。
バイクに向けて、ヘレンダを発砲。
3点バーストのおかげで、バイクに銃弾が命中する。
セントラルの車両は、良く燃える。
ボディから火を上げるサメバイクが、シャークトパスに突進。
共食い!
爆発炎上。
サメバイクが、タコの足を3本持っていった。
本体は、筋肉の塊である触手が爆発を軽減し、まだ生きている。
シャークトパスは、タコの口から墨を吐く。
触手の中にある口から、濃い白い煙が湧き立つ。
視界が、さらに悪化する。
サメバイクが食い千切ったタコ足が、セツナに襲い掛かる。
タコの足には、頭部から独立した脳 (神経節)がある。
足にある脳のおかげで、本体から切り離されても、動くことができるのだ。
視界が狭まったせいで、反応が遅れて、セツナが切れた足に捕まる。
胴に巻き付き、締め上げていく。
その横を、JJが通り過ぎる。
走り駆け抜け、シャークトパスが消えた霧の墨へ突っ込む。
(俺も、バイク持ってきたら良かったな。)
そう反省をしつつ、逃げながら振り下ろされる触手を躱す。
視界が3メートルも利かなくなっているのに、それを何でも無いかのように、触手の乱打を躱す。
野生の動きは、極めて本能的。
ゆえに強力。
だがしかし、いかんせん合理的が過ぎる。
四角四面、合理に理詰めされた動きは、強力だが単調だ。
手負いの獅子が、なぜ危険なのか?
それは、一発逆転、捨て身の急所狙いをしてくるからだ。
だからこそ、手負いと油断すれば、急所を潰されて返り討ちに遭う。
手負いシャークトパスも同じだ。
JJを一撃で仕留めるべく、大振りの大上段を振るい、叩き潰そうとしている。
ここに僅かでも、ほんの少しでも、人間のような狡猾さがあれば、シャークトパスが勝てていた。
自らの手負いすらブラフに使い、小賢しくも足元を狙う胆力があれば、勝負の結果は違った。
だが、シャークトパスは人間ではない。
だから負ける。
「ぬぅぅぅん!!」
触手の乱打を捌き、懐に潜り、牙を剥いたサメの頭に、ナイフを突き立てた。
ナイフのグリップに付けられたボタンを押す。
ナイフに仕込まれたギミックが作動する。
グリップ内部に装填されたカードリッジから、CO₂ガスが噴射。
充填されたガスは、ナイフの先端にある穴から噴出。
液化二酸化炭素が、気化することによる、膨張効果。
気化熱による、冷却効果。
シャークトパスの頭部に突き立てられたナイフは、サメの頭を内部から破壊した。
ガスの圧力と、冷却による凍傷で、内部を破壊。
頭が爆ぜて死亡する。
インジェクターナイフ。
人には、間違っても使いたくない、捕食動物から身を守るための自衛用ナイフ。
ガスのイジェクトを受けたサメは、藻掻く暇も無く即死した。
最後っ屁でタコ足が暴れるも、じきに動かなくなる。
ナイフを、サメの爆ぜた頭部から引き抜き、セツナのところへ。
本体を倒したおかげで、セツナもタコ足から脱出できたようだ。
2人で、グータッチを交わす。
‥‥ところが、一難去ってまた一難。
霧の向こうから人の気配。
静かになった公園に、枯葉を踏む音が響いた。
即座に戦闘態勢に戻る2人。
足音を立てないように、霧が深くなった公園を進む。
‥‥‥‥。
‥‥。
セツナが動いた。
ヘレンダを手に取り、霧の中へと消える。
不明敵も、それに合わせて動く。
セツナの足音に反応し、迎撃の構え。
霧の中から、セツナが飛び出す。
左ストレート!
「「‥‥‥‥あっ。」」
金髪サイドテールの女性と目が合って、ストライカープレートの装着された銃でぶん殴られた。
「ぶへ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ――!?!?」
どっかで聞いたような悲鳴を、もう一度。
霧の中から、JJがラリアットを構えてこんにちは。
「ちょ!? だめだめだめだめぇ――!?!?!?」
「ぬぅぅぅん!」
ダイナの首を、ラリアットが刈り取った。
「きゅ~」と鳴いて、ダイナが倒れ伏す。
「‥‥‥‥。うん?」
ラリアットの素振りをしながら、足元を確認。
転がる鉄砲玉と、大の字の魔法使い。
‥‥‥‥。
「「おりゃぁあ!!」」
「あ゛ふん!?!?」
示しを合わせたのように、ダイナとセツナが、JJの足に組み付く。
組み付いて、彼を押し倒した。
――霧が晴れていく。
公園の主を倒したことにより、霧の発生源が絶たれた。
霧が晴れるのも、当然と言えよう。
ここに、いつもの3人が結集した。
奇しくも、PvPサーバーで、ランカートリオが結成されたのだ。
「‥‥ところで、セツナ?」
「なんだい、ダイナ?」
「ズボンはどうしたの?」
「‥‥‥‥。」
黙るセツナに代わり、JJが事の成り行きを説明。
セツナに習って、ジェスチャーでタコに破かれたと伝えた。
ダイナは、「やだ~、BANされちゃう~。」とか言って、お茶らけている。
この場にいる人間も、この配信を見ている人間も、だいたいは成人しているので、BANはされない。
そも、ズボンを脱げたということは、脱いでも問題ないから脱げたのである。
「見つめましたわよ!」
「覚悟しなさい! セクハラ兄貴!」
「セツナ‥‥。私、悲しいです。しくしく――。」
「「「‥‥‥‥あっ。」」」
「「「‥‥‥‥は?」」」
ズボンを脱いでも、システム的には問題ない。
――ただし、人間関係における問題は考慮しない。
‥‥‥‥。
‥‥。




