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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
7.5章_恐怖! 恐怖のクリスマスシャーク!

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SS12.03_クリスマス・オブ・ザ・デッド

クリスマスイベント、ダイナの視点。

ナイスデイがデート券を取り出し、プレイヤーを篭絡している様子を、彼女も見ていた。



『デート券‥‥だと?』

『オレも欲しい!』

『クソ! 疲れてるが、今から行くしかねぇ!』



コメント欄も、デート券という甘美な響きとアイテムに湧き立つ。

このアイテムは、クリスマスに予定のない物にとっては、ことさら魅力的に映るだろう。



「‥‥‥‥。」



ダイナは、しばし空を見上げ、コメント欄を読み――、手元にメッセージウインドウを開いた。

ウインドウには、ナイスデイに与するか否かの選択肢が表示されている。



『は?』

『は?』

『は?』


『ヒヒーン!』

『デートするのか‥‥。俺たち以外のヤツと‥‥!』


「なんでさ!?

 なんで、ボクがデート券もらおうとしたら、怒るのさ!?」



自分たちは散々浮足立っているクセに、ダブルスタンダードなリスナーたちである。



「いいもんね! 浮気するみんなのことなんて知らない!

 イエスボタンを押してやる!」



ダイナは、リスナーの煽りと静止を振り切り、ウインドウのボタンを押した。


‥‥しかし、指先は空振った。

ボタン表示が消えて、指先は空を切る。


ウインドウの代わりに現れたのは、ダイナのサポットである、マイト。



「ダイナ、高評価のためです。ここはガマンです。」


「‥‥‥‥。

 むき~~~~!!」


『ナイスマイト。』

『さすが、このチャンネルのさいかわ。』

『マイト、デート券で俺とデートしてくれ。』



リスナーとマイトに翻弄されるダイナであった。

結局、ダイナはタイミングを逃し、サバイバーとしてイベントに参加することとなった。


――リスナーたちとのプロレスも終わり、サバイバーとキラーの選別が終わった。

キラーが、次々とサンタの衣装に袖を通していく。


一方、イベントに合わせて、サンタ服を着て来ていたダイナはというと‥‥。



「ああ! ボクの衣装が!?」



サンタ服を、システムに引っぺがされていた。


サバイバーがサンタ服を着ていたら紛らわしい。

よって、衣装没収。


着ていたサンタ服が雪のように溶けて、いつもの服装に戻ってしまった。



「――くっ!? せっかく、おしゃれしてきたのに‥‥ッ!!」



せっかくのオシャレを台無しにされて、不満が爆発する。



「うお~~! 許さないからな~! ナイスデイ~~!!」



空に向けて両腕を突き出し、プンスカと地団駄を踏むダイナであった。


リスナーにも、サポットにも、ナイスデイにも翻弄されるダイナ。

そんな彼女の後ろに、忍び寄る、白い精霊。


ずい! ずい! と、笑顔を張り付けた顔で、ダイナに近づいていく。



『ひえっ!?』

『ダイナ! 後ろ! 後ろ!』

『エイメン‥‥。』



コメントの流れに我に返りって、後ろを振り返る。


身長149cm。

現代における女性の平均身長は約165cm (男性は180cm)。


笑顔の雪だるまは、小柄なダイナを上から見下ろし、影で覆う。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



無言でスマイルの雪だるま。

無言で、生唾を飲むダイナ。


――次の瞬間、雪だるまが爆ぜた。


目や口からトマトケチャップを滲ませながら、腹が裂ける。



「‥‥ガァァ。――アァァ‥‥。」



裂けた腹から、爛々と赤い目を光らせる、道化(ゾンビ)が飛び出す。

潰れた喉から、声にならない声を上げ、ダイナに掴みかかる。


掴みかかり、押し倒した。



「うわぁ!?!?」



フィールドには、魔の領域が展開されている。

いつもは使えるはずのスキルや魔力が使えず、身体は生身も同然。


いつもならば簡単に引き剥がせるはずの、ゾンビの体重さえ、押し返せない。


ゾンビが、彼女の喉元に噛み付こうとする。


右腕を前に出す。

コートの袖を噛ませる。


ゆったりと広い袖にゾンビが食らいつき、顔を左右に振り、生地を食い千切ろうとする。


左手で、ホルスターからピストルを引き抜く。


M19ll。

第一次世界大戦から登場し、その後100以上も使われた、伝説的なピストル。


ストライカープレートを装着した銃口を、ゾンビの胸に押し当てて発砲。

コートから、ゾンビが口を離した。


追撃。

乙女を押し倒す、不埒な輩の顎に、鉛弾を一発。


さらに、ストライカープレートで殴ろうとしたところで、ストップ。


ゾンビの胸倉を掴んで、影に隠れる。

ゾンビの腹から、小刀の切っ先が伸びて来た。


キラーだ。

ダイナを狩ろうと、攻撃してきた。


ダイナは、盾のゾンビを前に押す。

刃渡り50cmくらいの小刀が、死んだ死体に深く刺さる。


盾の影から発砲。

銃口に気付いたキラーが後ろに逃げる。


小刀は、盾に刺さったまんまだ。

ダイナが盾を前に押した影響で、抜けなくなったのだろう。


盾を持ち替える。

裏表をひっくり返して、ゾンビの顔が正面を向くように。


小刀の柄を取っ手の代わりにして保持。

簡易的なスパイクシールドが完成。


腹から刃が生えた盾で牽制しながら、ダイナは路地裏へと逃げる。


ピカピカと光る大通りは、地獄絵図。

どんどん路面が赤くなっていく道路から、距離を取る。


路地裏に差し掛かり、ダイナを追って来るゾンビにシールドバッシュをお見舞い。

スパイクシールドの棘が、ゾンビに刺さる。


盾の後ろに隠れたまま、ゾンビにヘッドショット。

綺麗に頭を2枚抜き。


二枚装甲にレベルアップした盾を、路地裏の入り口に設置。

即席バリケードにして、ダイナは大通りから逃げ出した。


弾丸は3発消費。

残弾は5発。残りのマガジンは4本。



『やる。』

『ナイス~!』

『さすがに、初動で脱落はしないか。』


「ありがとう。」



コメントに返事をしながら、ピストルをしまう。

インベントリから、ショットガンを取り出す。


アロフツローディングショットガン。

単発式中折れショットガンの側面に、アロフツローディングツールという、外付けのマガジンを装着させた変わり種。


装弾数は6発。

所持しているショットシェルの合計は、30発。


――今、29発になった。


建物の裏口を開けて、飛び出してきたゾンビに発砲。

一撃で胴体から上を吹き飛ばし、路地裏を抜ける。



―――

◎クリスマスイベント開始

逃げ延び、生き延び、オーブを20個破壊しろ!


参加人数:961人


サバイバー:709/761

キラー  :188/200

オーブ  :0/30


※ルール補足

脱落者はネクロマンサーとなり、ゾンビを召喚したり、ゾンビを先導したりすることで、サバイバーやキラーの妨害ができる。


ネクロマンサーは生存者からは見えず、互いに干渉もできない。

また、ネクロマンサーが操るゾンビは、青い瞳をしている。


一定数、生存者 (キラーを含む)をキルすると、生存者として復活ができる。

―――



「ハロウィンの次は、ゾンビパニックかぁ~。」



呟きながら、ショットガンを一発。


続けてコッキング。

単発ショットガンを魔改造し、スピンコックが可能となった銃を、手元でクルリ。


次弾を装填して、速足で近づいてくるゾンビに一発。

それを、もう一回。


残弾が2発となったところで、クアッドリロード。

ベルトのシェルホルダーから、4発のショットシェルを取る。


銃側面のマガジンに、2発ずつ押し込んで、リロード。

散弾の残りは、26発。



「‥‥‥‥。

 ふぅ。クリア、かな?」



ダイナは、死屍累々の通りから2つほど離れた道路で営業されている、コンビニにお邪魔していた。

店員も、客も、みんな襲って来たので、床で寝てもらうことにした。


ガラス製の壁に備え付けてあるブラインドを下ろす。

外から見えないようにして、ヤツ等から見られないように。


商品棚を物色。

お酒コーナーから、酒瓶を両手に抱え込む。


そのまま入口へと赴く。

瓶を3本ほど、入り口の前で割る。


簡易なトラップ。

瓶の破片を”まきびし”に、床を濡らす酒を、燃焼トラップとして使う。


レジ横にあったライターを拝借して、コートのポケットに突っ込む。

コンビニの裏口を確認してから、レジの裏にしゃがみ込む。



『ずいぶんと、手際いいっすね。』


「ふふ。男の子なら、妄想するでしょ?

 街にゾンビが現れたらどうしようとか、エイリアンが攻めてきたらどうしようとか。」



コメントと会話をしつつ、簡易的な安全地帯で、サバイバルの準備。



「さて‥‥と。」



長居はできない。

手早く、確認したいことを片付けておこう。


インベントリから、アイテムを取り出す。

取り出したのは、丁寧なラッピングがされた、プレゼントボックス。


イベントが始まる前、雪だるまがくれた物だ。

アイテムの説明欄によれば、クリスマスが始まると使用可能になるらしい。



「‥‥まさか、罠なんてことは無いよね?」



苦笑いしながら、プレゼントの封を切る。

一辺が30cmほどのプレゼントの紐を解き、ラッピングを破る。


ビリビリと、静かな店内に大きな音が立つ。

‥‥これは、開ける場所を選んだ方が良さそうだ。


ゾンビは、音に反応する。

ゾンビパニックのお約束。


蓋を開けると、そこには、複数のアイテムが入っていた。


ピストル1丁と、マガジンが2本。

グレネードが1個に、サバイバルキットが1つ。

それと、通信機。


サバイバースターターパックと言わんばかりのラインナップが、封入されていた。


ピストルは、ヘレンダ93Rという種類。

イタリア警察及び、軍特殊部隊用向けに開発されたマシンピストルで、3点バーストと、折りたたみ可能なフォアグリップが特徴。


装弾数は、20 + 1発。


タクティカルリロード済みで、スライドを引くと、弾丸が1発イジェクトされてきた。

イジェクトされた弾を、マガジンに詰め直しす。



「良い趣味しているな~。」


『ヘレンダ93Rキタコレ!』

『俺の愛銃。』

『これは運営の趣味』



銃を眺めてから、インベントリにしまう。

グレネードと、サバイバルキットも、同様にしまった。



「‥‥ああ、そっか。

 スキルが使えないから、回復アイテムも使えないんだ。」



サバイバルキットをしまい、効果を確認している時に、思い出す。


M&Cでは、回復アイテムはスキル枠に装備する。

ポーションやサバイバルキットは、システム上はスキル扱いなのだ。


そのため、このイベントでは回復アイテムを使えない。

常時戦闘状態であるため、体力の自然回復もしない。

魔力も封じられているから、リゲインにも期待できない。


かすり傷が致命傷となる、サバイバル仕様だ。


頼みの綱であるサバイバルキットの効果は、体力を30%回復させ、身体の欠損を回復できるらしい。

また、瀕死のプレイヤーに使えば、復活をさせられる。


使いどころが命運を分けるアイテムだ。

どれくらいの頻度で手に入るかも不明なため、とりあえずは最終手段として温存しておきたい。


さて、プレゼント開封の儀は終了。

ダイナは立ち上がり、レジから顔を出す。


その視線は‥‥、お店の奥、ジュースコーナーの手前に雑に積まれてある――、プレゼントの山。


‥‥‥‥。

だいたい分かって来た。


この街で、どうやって生き残るのか。


つまりは、サバイバーは街中のプレゼントから物資を集め、それを駆使して追跡者たちを掻い潜り、オーブを探す、ということだろう。


オーブの位置は、先ほどのプレゼントに入っていた通信機を使用すれば、最寄りのオーブがある方向を教えてくれる。


ダイナは、もう一度だけ店内を回る。


クリアリングの時にも思っていたのだが、この店には銃を売っていていない。

セントラルでは、スナック菓子感覚で売られている銃が、である。


銃器の入手は、プレゼントのおみくじに頼るしか無さそうだ。



『よし! ガチャろう!』

『はよ。 ガチャはよ!』

『割るのです、王子。』(?)


「そうなるよね~。」



他人事だからって、リスナーはリスキーな選択を迫る。

この世界が、プレイヤーに「ハイどうぞ」と、アイテムを素直に渡す訳は無い。


罠、きっと紛れていることであろう。


ダイナは、乱雑に積まれているプレゼントのひとつ、一番大きな箱に、空になったスターターパックを投げつける。


‥‥‥‥。

紙製の箱同士がぶつかって、軽い音を立てて、スターターパックがころころと転がる。


罠は無さそう? ‥‥に、感じる。



『ミミックチェック、ヨシ!』

『へいへいへ~い、ダイナっちビビッてるぅ!』


「びびび、びびってないしぃ!? 慎重なだけだしぃ!?」



リスナーに茶化されながら、ダイナはプレゼントの前に。

一辺が1メートルある、一番大きなヤツの封を切った。


――瞬間!


コンビニの入り口が、蹴破られた。

サンタ服の追跡者、キラーのお出ましだ。


キラーが向けるアサルトライフルから逃れるように、ダイナは商品棚を後ろに隠れる。


そして、彼女は聞いた。


蓋を開けたプレゼントボックスの中から、「プシュ~」と‥‥。

なんか、導火線に火が付いたみたいな音を。



「いぃ~~~!?」



床に伏せたまま、顔を引きつらせる。

顔面蒼白のダイナに構わず、キラーはアサルトライフルを乱射する。



「ヒ~ハ~~~!!

 メリークリスマスだ! この野郎!!」



このキラー、ノリノリである。

メタルバンドのボーカルみたいに化粧までして、気合が入っている。


彼は、ダイナ以外にもサバイバーが潜んでいると考えたのであろう。

銃を乱射し、反撃を受けないようにしている。


アサルトライフルには、バレルマガジンが取り付けられている。

大容量の装弾数に物を言わせ、隠れているサバイバーが、カバーから出られないようにする。


が、それが仇となった。


トラップ発動。

アルコールトラップ。


入り口を濡らしていたアルコールが揮発し、銃から発せられる火の気に引火。



「ぐはぁぁぁぁぁ!?!?」



小さな爆発が起きて、キラーは店の外へと吹っ飛んで行った。

道路で、むくりとキラーが起き上がる。



「野郎ぉっっっ!! 許さねぇ!!」



火傷した顔に青筋を浮かべ、再度コンビニに入店。



「オラぁ!! 覚悟しやがれッ! 小娘ぇ!!」



鋭利なナイフを抜き放ったキラーが、入り口から、いらっしゃいませ。


ダイナは、プレゼントボックスを蹴り飛ばす。

床を滑り、プレゼントがキラーの脚にぶつかり、脚を取られる。



「――!? クソがッ!!」



ダイナは、ガラスの壁を破り、退店。

道路を転がりながら、うつ伏せになり、両手で頭を守る。



「あ゛ぁん?」



疑問符と、マヌケな顔が、キラーの最期となった。


脚にぶつけられたプレゼント。

今まさにこの瞬間、その中で、ダイナマイトの尻に火が付くところであった。


大きな爆発が起こった。

空気を震わせ、お店を吹き飛ばし、火柱が上がった。



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」



ダイナに遅れて、キラーも退店。

ダイナは、爆発の音に集まってきたゾンビから逃げるため、コンビニの跡地を離れる。



「待、待ちやがれぇぇ‥‥‥‥。」



キラーは立ち上がり、3歩4歩とダイナを追いかけるも、力尽き、倒れた。

音に集まったゾンビに、何度か背中を踏みつけられながら、光の粒子となって消えた。



「サンタさんの予行練習には、丁度良かったかな?」



そう呟きながら、ダイナは街の騒乱と争乱に消えていった。


‥‥‥‥。

‥‥。


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