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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
7.5章_恐怖! 恐怖のクリスマスシャーク!

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SS12.02_なぜ彼は、この街にいるのか?

12月22日。

クリスマスイベント初日。


多くのプレイヤーがPvPサーバーへと集まり、セントラル西部に集まる中、北部の峠を攻める者が1人。


セントラル北部。

大自然と文明が融和した、セントラルで最大の面積を誇るエリア。


東部に置かれた首都「センター」に続く、第2の都市「セカンドシティ」を構え、大自然に囲まれて人々は暮らしている。

犯罪者による犯罪も少なく、人々は、仕事の合間に酒を飲み、酒を飲む合間に労働に勤しみ、悠々自適に暮らしている。


東部から北部への入り口となるのが、セントラル中央山脈。

国土を北と南で分断するようにそびえる山々。


「セントラルの背骨」とも呼ばれる山々は、北部を象徴する自然が広がる山岳地帯。

標高3000メートル級の山々からなり、最高地点は5000メートルにも達する。


魔力の力場が気候に影響を与え、山脈の西側は永久凍土となっており、そこはウインタースポーツの聖地となっている。


スキー、スノーボード、バイクにスケート。

白く美しいゲレンデを滑ってもいいし、岩肌を下るように滑っても、森林の中を動物たちと一緒に滑っても良い。


年から年中、1年を通して良質な雪が降る降雪地帯は、セントラルでも人気のレジャースポットだ。

さらさらとして軽い雪は、滑りやすく、転んでもケガをしにくい。


時折、発生する雪崩だって、この国では自然が生み出す臨時イベントだ。

魔力で強化された身体と、年から年中、鉛弾のブリザードが吹雪く環境で育ったセントラル人のメンタルは、雪崩にだって負けない。


白い雪山が広がる、中央山脈の西部。

対する中央山脈の東部は、緑と森林が広がる山々で構成される。


ウインタースポーツの聖地である西部とは対照的に、東部はモータースポーツの聖地。

走り屋たちの楽園だ。


山の麓から山頂まで、植林限界などお構いなしに森が広がり、そこをアスファルトの道が貫いている。


3000メートル級の山を、愛車で走り越える爽快感は、ハンドルを握る者の心を捉えて離さない。


(ふもと)の広葉樹林を越えて、針葉樹林。


愛車が、広葉樹林の枯れてなお美しい落ち葉を巻き上げて疾走し、針葉樹林が作り出す木漏れ日、天使の柱の光を浴びながら、森の中を駆けのぼる。


時たま、視界の左右に川が現れて、山越えのドライブに変化を与える。


低地では、川は広く、流れが緩やか。

高地になるほど、川は狭くなり、細く枝分かれして急流となる。


川の様子で、自分が今どの高さに居るか?

その変化だけでも楽しめる。


それよりも一目瞭然なのが、山を見下ろせる絶景スポットだ。


東部山脈の一部には、「蛇紋岩地帯」に似た地質が確認されているポイントが複数ある。


蛇紋岩地帯は、植物の成長に必要な、窒素・リン・カリウムの含有量が他の土壌と比べて少ない。

そのため、標高が低くても、背の高い木々が成長できず、独特の植生が見られるのだ。


このような蛇紋岩地帯に自生する植物のことを、「蛇紋岩地植生群」と呼ぶ。


さて、ドライバーにとっては、地質学や植物学の蘊蓄(うんちく)なんて不要であろう。


ラジオのチャンネルを変えられる前に、この蛇紋岩地植生群が、ドライバーにとって何の益となるか?

これを語ろう。


‥‥と言っても、語るよりも、見た方が早い。


山脈を走っていれば、ドライバーは絶対に気付く。

鬱蒼と森が広がる東部山脈で、森が途切れている場所に。


そこが、蛇紋岩地帯であり、蛇紋岩地植生群だ。


高地にさえ森が広がる東部山脈において、高く伸びる木々が生長できない場所。

そこには、ジャモンタンポポ (架空の植物)が群生している。


タンポポの生長によって、黄色くも、白くもなる絨毯の向こうには、自分が上った山を一望できる大自然のジオラマが広がっている。


ドライバーは、タンポポとその向こうに広がる景色に、車を停めてもいいし、そのまま車を走らせてもいい。


地質と植生的に珍しい蛇紋岩地帯に腰を下ろし、缶コーヒーを飲んでもいいし、雄大な景色を前に、電子タバコで一服してもいい。


気の向くまま、風の向くまま、ハンドルが導くまま、走り屋の楽園を、走ればいい。

クリスマスイベントなんてお構いなしに、山に導かれたっていいのだ。


‥‥‥‥。

‥‥。





JJは、()()()()()()()と、下り最強の座を争っていた。

3メートルを超える大きなシカと、肩を並べ道路を走る。


動物のギャラリーの度肝を抜きながら、1人と1匹が、熱いレースを繰り広げている。


今日は峠を攻めようと、新車の軽トラを走らせたのが、数時間前の話し。


JJは、ふと思ったのである。

軽トラは、セントラルを走るのに適した車であると。



‥‥‥‥。

?????



彼の理論によると、軽トラは、セントラルのカーチェイスにおいて最強なのだと言う。



‥‥‥‥。

?????



まあ、話しを最後まで聞いてみよう。

JJ曰く、セントラルのカーチェイスにおいて大事なのは、小回りと火力。


小回りが利けば、敵からの攻撃を捌きやすくなる。

つまり、小回り = 防御力とも言い換えられる。


そして、車体が小さければ、歩道をショートカットに使うことだってできる。


チンピラどもは、歩道を車道とばかりに走る連中ばかりなので、チンピラ相手に戦車へ乗るのは、相性が良くない。

逆に、小さなボディにパワフルなトルクを持っている車両は、チンピラの相手にうってつけだ。


カーチェイスにおいては、火力も大切だ。

結局のところ、この土地のチンピラを止めるためには、火力でぶちのめす以外に無い。


その点、軽トラの荷台にガンナーを配置すれば、乗用車なんて目ではないくらいの火力を確保できる。


ゆえに、セントラルのカーチェイスにおける最適解は、軽トラ。

日本製であれば、尚よい。


彼は、そう結論づけた。


そして、自分の理論を証明すべく、峠を攻めた。

理論は、証明されることによって、はじめて価値を持つ。


祖母や母のおかげで、JJはそれなりに教養がある。

音楽しかり、絵画しかり、歴史しかり。


理論と実践。経験は、この両輪で磨き上げられる。


だから、理屈詰めで頭でっかちになることもないし、精神論や根性論で、身体でっかち(?)になることも無い。


峠へと繰り出すと、最初はニュービー (新星)のイノシシが勝負を仕掛けてきた。


『そんなちっせぇ車で、山を走れんのか?』と挑発する彼を、小さなボディに積んだモンスターでビビらせ、ぶっちぎった。


次は、イノシシの親分である、ヤクとのレースになった。

背中にコブを持つ、長毛の牛。


車を弾き飛ばすフィジカルと、コブに蓄積したエネルギーによるスタミナを持つ実力者。


彼は、軽トラと頻繁に接触をするダーティプレイで、JJを追い込んだ。


しかし、JJはヤクと車を接触させたまま、コーナーをアウトへと膨らみ、彼をコースアウトさせることによりぶっちぎった。


3度目のレースは、ハンドルを握るゴリラだった。

この峠屈指の実力者で、確かなドライブテクニックと豪快なハンドル捌きで、この峠の高みに君臨している。


彼は強敵だった。


なにせ、コーナーを膨らんでコースアウトをして、勝負あったと思ったのも束の間。

彼は運転席から飛び降り、車を軽々と担ぎ、道なき道を駆け下り、大胆なショートカットをしたのだ。


だから、JJは空を飛んだ。

軽トラの荷台に飛び移り、火薬籠手を装備。


人類の叡智を結集させた蒼い炎を噴出し、空を飛んだのだ。


森の木を飛び越え、ショートカットをするゴリラを追い抜く。

森の木を躱す都合上、最短距離を走れないゴリラに対し、JJは空を真っ直ぐ直進。


大幅リードを逆転し、道に見事に着地を決めてゴリラの前を走り、ゴールテープを切った。


そしていよいよ、峠の王者、ヘラジカのお出ましだ。

グリズリーすら手出しができない、北国最強の生物。


巨体に見合った馬力、偶蹄目の粘り強いスタミナ。

加速、最高速、ハンドリング。


どれを取っても、今までの強敵を上回る相手。


こちらを見下ろすほどに大きく、強大な相手に、白くて小さな軽トラが食らいつく。

レースは中盤から終盤に差し掛かる辺り。


両雄一歩も譲らず、デッドヒートを繰り広げる。


峠を下る道、肩を並べて走り、コーナーに差し掛かる。


アクセルを踏み、加速して、コーナーを膨らむ。

軽トラとシカは、眼下に広がる森へと突っ込んだ。


峠の強者にとっては当たり前の、森ショートカット。


10メートルほどの崖を飛び降りて、ヘラジカが落下の速度も使いつつ加速。


対するJJは、助手席の手りゅう弾のピンを抜く。

地面に投げて、着地の衝撃を軽減。


黒い土にハンドルを取られながら、ショートカットを走る。

軽トラがふらついた分、ヘラジカに先行を許した。


それだけではない。

針葉樹の木の根が、軽トラのタイヤを妨害して、車体が跳ねる。


エンジンが生み出すトルクが、地上へと伝わらず、ヘラジカとの距離がますます広がって行く。


マシンの性能も、コースへの適正も、相手の方が格上。

窮地に立たせられるJJ。


下り最速、峠の王者を引き摺り出して、ここでつまらない走りをしてゴールなんて、あり得ない。


最後まで全力を尽くすことが、王者に対するリスペクトであるのは当然として、なによりも――。



(俺は、俺が失望する走りをしたくない――!)



自分の人生を特等席で見ているのは、いつだって自分だ。

一番真剣に、誰よりも熱くスクリーンを見ている自分を、落胆させる走りはしたくない!


その覚悟が、JJを大一番の大博打へと打って出させる。


コースを見極める。ラインを、見定める。


樹の位置、路面の状況。

ショートカットを越えた先。



――――!



JJが、ドアを開けた。

アクセルに重りを乗せ、荷台へとマジックワイヤーを駆使しつつ飛び乗る。


そして、火薬籠手を構える。


ホロディプレイで観戦するギャラリー。

森に先回りして、現地で観戦するギャラリー。


どちらからも、どよめきが起きる。



『まさか!? ターボで森を突っ切るつもりか!?』

『無茶だ! 車が持たない!』

『樹にぶつかって、おしまいだ!!』



蹄や肉球を持つギャラリーが口々に騒ぐ。


レースでの、自動運転は禁止されている。

今、軽トラはドライバーが居ない状態。


路面や、樹の根っこにハンドルを取られれば終わる。


それでも、JJは迷わない。

EXスキルを発動 ≪バレットタイム≫ !!


火薬籠手に、無限の力が、無限の火薬が供給される。



「ブースター‥‥、オン!!」



鉄の獣が、王者に向かって吠えた。

蒼い雄叫びを上げ、黒い爪が大地を掴み、速度を上げる。


無人の運転席など気にせず、ハンドルを握らずとも、圧倒的な火力で持って、森を突っ切る。


悪路を捻じ伏せ、木の根を切り裂き、大樹の幹をへし折り、直線最速の化け物が爆誕する。


ヘラジカとの距離が、ジリジリと縮まる。

王者の背中を捉えた!


ショートカットが終わる。


森を抜け、道路へと飛び出す。

ヘラジカと軽トラが、崖の上から道路に飛び降りる。


加速をし過ぎた軽トラが、道路の上で止まれない。

道の向こうまで飛んでしまう。


JJが、グレネードを投擲。

手動の窓を開けて、手りゅう弾を投げ、爆風でコースに復帰。


残すは、最終コーナーと最終ストレートのみ。


ヘラジカがわずかに先行し、コースのインを突く。

軽トラは、ヘラジカを追い抜くために、アウトへと膨らみながらコースを曲がる。


‥‥が、速度が乗り過ぎている。

ガードレールを突き破る勢いで、軽トラが大きく外へ膨らんでしまう。



勝負あった。

レースに関わった者全員が、そう思った。



――JJを除いて。



ありったけのグレネードを外へと放る。

バナナの束みたいになっているグレネードが宙を舞い、爆発。


軽トラのボディを黒く塗装しながら、爆風でコースへと押し戻す。


グレネードでコーナーを曲がり、速度を殺さず、そのままヘラジカに突進。



『――なに!?!?』



ヘラジカが、わずかにヨレた。

意識外からのアタックにより、一瞬、ほんの一瞬だけ減速する。




軽トラの鼻先が、王者の先を行った。



『ゴォォォォォォォォル!!!!!!』



レースの立会人を務めていたツキノワグマが、フラッグを全力で振るう。



『新たなキングの誕生だぁぁぁあああ!!

 二本足のタフガイが、王者を下したァァァ!!!!』



JJは、軽トラを停めて、車から降りる。

頑張ってくれた相棒のボディを優しく撫で、労う。


そして、後ろから歩いてくる、ヘラジカの方へ。



『見事だ二本足よ。

 侮りも、驕りも無かった。――完敗だ。』



ヘラジカはそう言って、右の前足を差し出す。

JJも右手を出し、固く握手をした。


レースの勝者を祝福するために、かつてJJと激戦を繰り広げたライバルたちが集まる。


今回のレース、勝てたのは、ライバルとの激闘があったから。

ライバルが、JJを強くしたのだ。


イノシシの、直線をぶっちぎる度胸。

ヤクの、ダーティなクロスプレー。

ゴリラの、ショートカットを使う知恵。


この勝利は、紛れも無くライバルがもたらしてくれた勝利だった。


ヘラジカは、ライバルに囲まれるJJの前で、頭を左右に振る。

彼の立派な角が、取れて道路に落ちる。


それを、見習いのヘラジカが手に取って、JJの元へ。



『王者の証だ。持っていけ。

 俺は、自らを一から鍛え直す。


 そして、再びこの峠の王者として、大自然の頂上で角を掲げる。』



敗者は、多くを語らず、ただ去るのみ。

最低限の言葉だけを告げ、背を向け、森へと消えていった。


JJも、車に乗り込む。

ライバルとギャラリーに見送られながら、東部山脈を後にした。


動物たちが見えなくなり、のどかな下り道を、のどかな速度で下っていく。

レースで火照ったパッションを、窓の外の風で冷ましていく。



――その時、不思議なことが起こった。



眩い、銀色と雪の結晶の光が瞬いて、思わず目を閉じる、


目を開けた時、そこに広がっていたのは――。

廃墟のように荒んだ建物と、それらが並び立つ、荒んだ街だった。



「‥‥ぬぅん?」



本日のクリスマスイベント。

現在ログインをしているランカーは、強☆制☆参☆加☆


ばっくれようたって、そうはいかないぞ♪


‥‥‥‥。

‥‥。


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