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2.4_川の街

~ 青い所を歩くなら、”C”を名乗るヤツに気を付けろ。

  アイツらはクソッたれだ! 親父もダチも、ヤツらにやられた!


  だから、オレたちは”B”を名乗るのさ。

  ヤツらの越えて先をいく、”B”を名乗るのさ。 ~


セツナとJJに懸賞金が掛けられた。


1人始末するごとに1億クレジット、2人で2億クレジット。

大金である。


この世界のお金の単位はクレジットで、1クレジットがだいたい現実の1円と同じくらいの価値。

まあ、物価の相場は色々と異なるのだが。


セントラルでは、スナック菓子感覚でピストルが買えるし、ファストフード感覚でライフルが買える。

無法者の暴力に対して、善良な市民も暴力で対抗しているのだ。


2人は、ラジオを片手に少し考え込む。


‥‥ふむ、1億クレジット。

そんな大金があったら、豪華なセーフハウスが購入できそうだ。





この猟犬狩り(ビーグルハント)、オレも参加できないかな?

ちょっとして、出来心やイタズラ心が、思考に侵入してくる。


セツナは、右腰に下げているリボルバーに手を添える。

JJは、スーツのポケットから、リングピストルという指輪の形をした武器を取り出して装備していた。


両者、武器を握った状態で目が合った。

考えていることは、同じだったらしい。


「にひひひひひひ――。」

「にへへへへへへ――。」


お互いに、露骨な笑みで、自分の考えを誤魔化そうとする。

そんな茶番もほどほどにして。


セツナは露骨な笑顔をしまう。


「――で、真面目な話し。これからどうする?

 ここで暴れても良いけれど、民間人に迷惑かけちゃう。」


別に、悪党が徒党(ノマド)を組むのは問題ない。

しかも相手からやって来てくれるなんて、手間が省けて良い。


しかし、それはあくまでも自分たちの都合で、セントラルがそれを許容するのかは別である。


この世界は、プレイヤーに主人公であることを求める。

度の過ぎた行為には、お仕置き(ゲームオーバー)が待っている。


それに、セツナ達は、マルのような自我を持つAIと生活を共にしている。

例えゲームであっても、あまりNPCに露悪的な態度をとるのは、生活の中で培われた価値観によって忌避感を覚える。


なので、あまり市街地で派手にドンパチするのはよろしくない。

悪党をとっちめることが、この世界でのプレイヤーの役割だとしても、やり方は選ぶ必要がある。


セツナは、そこを問題視していた。

彼の問題視に、JJが解決策を提案する。


「なら、ドンパチしても怒られないところで、暴れよう。」


JJは、先ほどチンピラから失敬して拝借した財布の中から、チンピラの身分証らしき物をひらひらと見せた。


道路に転がっているバイクを起こして、2人は移動を開始する。


JJは、拝借をした財布は失敬して、胸元に返しておいた。


2台のバイクが走り出す。

セツナのバイクは、初動でスロットルを開きすぎて前輪をやや浮かし、青い街を駆け出していった。



文化区。フロスシュタッド、川の街とも呼ばれる、セントラルの一角。


ここは、摩天楼が立ち並ぶ都市部とは打って変わり、古い町並みが特徴な区画である。

曰く、文明が崩壊する前の文化を現代に保存するための区画だとか。


西洋風の家屋が立ち並び、木と石で造った「ハーフティンバー様式」の家屋が並んでいる。


家屋の中には、一階がお店になっていて、二階が居住スペースになっているものもある。

意外と、石造建築は少ない。あっても、一階がレンガ造りになっているものが大半だ。


それらが、もはや密着するかのように、ぎゅうぎゅうと街に並んでいる。

レンガの敷き詰められた道は広いのだが、建物は近くで見ると牛々と圧迫感がある。


押し合いへし合う家屋はそれでも、木組みの柱と、色とりどりの漆喰(しっくい)が生み出すコントラストが集まって、美しい町並みが広がっている。


建物の上を見上げれば、角度の急な鮮やかな赤い瓦の三角屋根。

瓦が赤いのは、レンガと原料が同じだから。


レンガも瓦も、粘土に含まれている鉄分が、加工の過程を経て酸化鉄となり、赤く見えるのだ。

レンガも、瓦も、同じ粘土が使われているのだと思われる。


煉瓦(れんが)、瓦、漢字で表記すると、2つが似た者同士であることが分かりやすい。


あの屋根は、パルクールが難しそうだ。

家屋も引っ付くように並んでいるし、ここにセーフハウスはやめとこう。


セツナは、そう思った。


さて、そんなパルクールの天敵である川の街。

この街には、象徴的なロケーションが3つある。


一つ目は、街の名前ににもなっている、河川。

人工的に整備され、水路も設けられており、第2の交通網としても機能している。


水は澄んでいて綺麗。流れも緩やかで、日本の川とは大きく異なる。


小舟で、荷物や人を運んでいる姿が目に留まる。

この川を下って行けば、海の街、シーサイドに抜ける。


二つ目は、高くそびえる時計塔。

家屋の屋根に登れば、どこからでも目にすることができる、この街一番の高さを誇る。

古典的な建築方法ゆえに、センター区画のビルには及ばないが、古風な街並みにおいての存在感は唯一無二。


時計塔の前は、大きな広場になっていて、バザーやお祭りなど、催し物の会場となる。


三つ目は、丘陵な土地に見える、お城。

この街は、平地と緩やかな丘陵からなっており、丘陵地帯は高級住宅街となっている。


貴族でも住んでいるかのような建物が並んでいて、丘の頂上には立派なお城が建てられている。

丘陵は海の方まで続いており、海の街シーサイドは、傾斜のキツイ街らしい。


海というのは、良い物も悪い物も大量に入って来る、いわば都市の入り口である。

そこに続く丘陵地帯に、要塞としての役割を果たす城があるのは、理に適っているのかも知れない。


総じて、右も左もヨーロッパ! 西洋という雰囲気を感じる街になっている。

セツナもJJも、外の国を知らないけれど、まるでそこに来たかのような錯覚を覚える。


なんか、こう、空気が違う。


日本は高温多湿な気候で、空気中の水分が四季の香りを集めて、人々に季節の便りを届けてくれる。

比べて西洋は、乾燥しているため、カラッとしていて空気の香りもしない気がする。


気がするだけで、実際にそこまで再現されているのかは、分からない。


JJは、レンガで彩られる道と建物が気に入って、セーフハウスを持つならここだなと思った。

夜、街灯に照らされたレンガ通りの上を、車で切り裂く俺。――カッコイイ。


「――で、なんで此処に来たの?」


通信機能を使って、バイクで川べりの道を走りながら、セツナはJJに聞く。


道中に絡んできたチンピラどもは、適当にあしらってここまで来た。

大きな被害と騒ぎにはなっていない。‥‥多分。


JJが答える。


「此処が、ラジオの発信地点で、ゴロツキどもの根城だからさ。」

「へえ、詳しく。」


JJは、チンピラからラジオを巻き上げたさいに、自身のサポット(サポートAI)に頼んで、ハッキングをしていた。

サポットのハッカクが言うには、逆探知をしたところ、ラジオの電波は此処の時計塔から出ているらしい。


時計塔の一部が、ラジオ局としての機能も果たしているらしい。


「素敵なイベントに招待してくれたんだ、せめて挨拶くらいはしとかないと。」

「それは良いね! 途中で菓子折りでも買っていこうか?」


売られたケンカは買う。

売られなくても、強敵の匂いがすれば、こちらから会いに行く。


レトロ時代、格闘ゲームというジャンルが社会現象となった頃よりの、ゲーマーのサガ。


「――でも、結局ここで暴れたら、民間人を巻き込んじゃうよ?」

「そこも問題ない。」


川の街は、海に繋がる街。

そして、まるで貴族が暮らしているような、お城が建っている街。


海とは、良い物も悪い物も大量に入って来る。

古くから、港街とは、暗い利権がわんさか蔓延っているのだ。


そして、ここからは希望的観測になるが、利権の胴元がここの貴族連中であって、そのお膝元たる川の街は荒くれ達の根城なのだろうと、そう考えたのだ。


チンピラの財布を拝借して、身分証明書(ライセンス)を検めた時、彼の住所は川の街で、職業は船乗りになっていた。

偽装されていたら仕様が無いが、当たらずとも遠からずだと思っている。


「つまり、あのお城は成り金の道楽じゃ無くって、招かざる客を追い払う物だってこと?」

「そういうこと。海から来る客と、陸から来る客の、な。」


ケンカの相手が、利権を掌握している貴族連中であれば、1億の懸賞金を掛ける羽振りの良さも納得できる。


狩りは、貴族の嗜み。

きっと、どこの貴族の派閥が賞金首を仕留められるのか?

それを娯楽として楽しんでいるに違いない。


‥‥なんか、ムカついてきた。


「よし、ぶっ飛ばそう! そんで、もしJJの予想がハズれていたら、一緒にゴメンナサイしよう。」


2人は、互いにサムズアップをして、今後の段取りを終える。


とりあえず、まず目指すは時計塔。

そこで、仕掛け人が誰かを吐かせ――。


――ヒュン!


静かに、だけれども大きな風切り音が、セツナの駆るバイクの左ミラーを破壊した。


2人は、互いの距離を離して、周囲を確認する。

敵は、後ろに居る。


「あれは‥‥、なんだろう?」

「見ての通りだろ。」


それは、敵の正体はご覧の通りなのだが‥‥、いまいち、セツナの頭で情報が整理できない。

視覚の情報と、知識の情報で齟齬(そご)が起きている。


彼を困惑させる刺客の正体。それは――。






バイクに跨った、鎧武者だった。


「マジック‥‥、サイバーパンク?」


鎧武者は、バイクから腰を上げて、背中に背負った矢筒から矢を取り出して、和弓にしては短い弓を番える。

小癪にも、バイクにはオートドライブ機能が付いている。


矢を取り出して、弓を番えて、構える。

馬を駆りながら弓で敵を射抜く、流鏑馬(やぶさめ)である。


「いぃ~!? サイバーサムライ出て来ちゃった!?」


何となく、自分が狙われている。

セツナは、そう感じる。


(狙いはオレか。)


奇天烈なビジュアルを思考から取り払って、片方だけになったミラーでバイク武者を捉えて、弓を射るタイミングを計る。

目で得られる情報、肌で感じる感覚――、今!


矢がバイク武者の手を離れた瞬間、弓が張力でしなる瞬間、セツナは重心を傾けてバイクを操る。

銃も弓も、突き詰めれば一緒である、真っすぐ飛ぶのだから、銃は銃口から逃げればいいし、弓は矢じりから逃げればいい。


「――痛゛っっっだ!?」


そう、さっきまでは思っていた。

避けたはずなのに、背中へ思いっきり矢が刺さってしまった。


弓矢は、弦から放たれたあと自身の体、シャフトの部分をたわませながら飛んで行く。

木でできているので、シャフトの揺れのバランスが取られることで、真っ直ぐ飛んで行く。


そして、このたわみを調整することで、矢の飛ぶ方向を曲げることが出来るのだ。

慣れた使い手は、これで物陰から獲物を射るのだと言う。


セツナがバイク武者の攻撃を読んでいたように、バイク武者も避ける位置を読んでいたのだ。

この世界、プレイヤーはコンティニューが出来るのだからと、敵が平気でスーパープレイをしてくる。


そういうのは、プレイヤーの役割のはずなのだが‥‥。

背中に刺さった矢を取り除く。


「あたたた――。」

「大丈夫か?」

「うん、頭じゃ無くて良かった。」


背中の矢を抜いて、何かに使えそうなので、インベントリにしまう。

弓は無くとも、刺突用の暗器として使えるだろう。


鎧武者の後ろから、ライダースーツにヘルメット姿の手下が2人現れる。

鎧武者と同じくバイクに跨り、それから得物である日本刀を抜いた。


道の片側を流れる川の方では、屋台船に乗った足軽たちが、連射のできるファンタジー火縄銃でセツナとJJを狙っている。


騎馬隊に水軍衆。

西洋の街並みの下、異国の戦士たちの、合戦の法螺貝が高らかに鳴る。

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