7.6_満ちる梟月(きゅうげつ)に武勇を示し。
――政府から、外出禁止の声明が発表された。
12月13日、午後3時過ぎ。
地方都市、にのまえ市のアーケード街で、テロリストによる暴動が起きた。
自衛団狩り事件は、無差別な殺傷事件へと変貌。
政府は、個人の生命と健康のため、外出を控える声明を出した。
本日18:00より、法的な手続きと手段において、国民の外出を禁止する。
これは、国民の三大義務である、自由・国防・幸福において法的な拘束力を持つ。
外出の禁止。
これは、国防の義務を果たすための、政府から国民に対しての命令だ。
今回のような非常事態が発生した場合、便乗して暴行事件を起こす者や、素行の悪い者が社会秩序へ反抗をしようとする。
残念ながら、現在は、事が大事だ。
チンピラの、安いプライドに付き合っている場合ではない。
声明を無視するのであれば、超法規的な手段による対応も行われる。
パトロールロボットによる、超法規的な対応が行われないことを願うばかりである。
◆
午後7時。
外出禁止令が施行されてから、1時間が経過した。
定期的に行われている、非常時の避難訓練によって、にのまえ市では大きな混乱も無く避難が完了。
刹那の元には、家族から無事を報せるメールが届いていた。
メールには、刹那を心配する文言も添えられていた。
両親も、妹も、何となく察しているのであろう。
彼が近ごろ、危険の伴う社会的役割に従事していたことを。
父からは、「親としては反対だが、1人の男として応援する」と、激励をもらい。
母からは、「あなたの帰りを待っています」と、優しい言葉をもらい。
妹からは、「兄妹で家に帰りましょう」と、心強い言葉をもらった。
妹の遥花も、自衛団としてパトロールに駆り出されている。
彼女だって、テロリストの標的になる可能性があるし、場合によっては戦闘を行うことになるだろう。
みんな、それぞれに戦っている。
それぞれの戦いがある。
刹那の戦いは、テロリストの殲滅。
警察が掴んだ情報を元に、彼奴等の根城を潰して回る。
警察から送られたポイントに移動するために、ホテルの1階で待機。
腕時計を見て、ラウンジのソファから立ち上がる。
地下駐車場に用意された、車へと向かう。
――と、その時である。
プツン。と、ホテルの灯りが消えた。
停電だ。
自宅からマルに持ってきてもらった、暗視ゴーグルを装備。
スキーゴーグルに似た形状のタクティカルデバイスを装備して、機動。
ソファの影に隠れながら、周囲を確認する。
彼に同行しているアイは、暗視メガネを装備して、同じく物陰に隠れる。
周囲の状況を観察するに、この辺り一帯が停電を起こしたようだ。
現代では、電力の発電と供給は、各建物ごとにされている。
ネクストを電力に変換する発電機が、建物ごとに用意されているのだ。
ネクストのエネルギー量は、E = P × mc²。
とんでもないエネルギーを有しており、前時代的な発電所からの配電は、非常に危険。
もし、ドッカーンなんてしたら、県がひとつ吹き飛ぶ。
そのため現代では、小型の家庭発電機が普及している。
小型であれば、安全管理もしやすく、万が一の事故が起きても、被害は知れている。
多くの場合は、ボヤ騒ぎがせいぜいで、家屋が吹き飛ぶなんてことは、違法な改造をしない限り起こらない。
そんなインフラ事情でありながら、辺り一帯が停電。
明らかに、何かがおかしい。
辺りを見渡していると、ホテルの非常灯が点灯。
外の街灯も、非常電源が入って点灯する。
刹那は、手首に装備したギアを起動する。
ギアは、通常通り使えている。
状況から察するに、ネクスト動力の機器を狙い撃ちしたEMP攻撃。
だが、その状況下においても、ギアは問題なく使用ができる。
ネクストは、人間の感情に感応する性質がある。
そのため、EMP攻撃に晒されても、ギアを使うことができるのだ。
光源が確保されたので、刹那はゴーグルを外す。
1階に居た宿泊客や従業員を避難させ、外へと出る。
不気味なほど静かな地方都市の真ん中に、アイと共に立つ。
――ギアの出力を高める。戦闘態勢。
肌をピリピリと刺す、ギアの反応。
人気のない街から1人、また1人と、ぞろぞろと人が集まってくる。
数は、全部で6人。昼間の時と同じ人数。
(どっから出てきた?)
この近辺を停電させるほどの大掛かりな工作をしておいて、誰にも気盗られずに、刹那たちの目の前に現れる。
前々から思っていたが、普通では無い。
失踪事件や、自衛団狩り。
それでさえ不可解だったのに、それさえも可愛く見えてしまう。
6人組は、懐から拳銃を取り出す。
刹那とアイは、シールドを展開する。
だが、銃弾が盾に衝突することは無かった。
銃口は、弾丸は、その銃を握る者の方へ。
「ネメシスに、栄光あれ。」
「ネメシスに、栄光あれ。」
「ネメシスに、栄光あれ。」
‥‥‥‥
‥‥
6人組は、口々にそう呟く。
拳銃を、左手の甲へ押し付けて。
――笑えないカルト宗教みたいだ。
カルト集団は、握った拳銃――。
弾を一発だけ装填できる、デリンジャーの引き金を、全員で引いた。
銃声が6発分、木霊する。
ホテルから、警備の退役軍人たちが加勢に来る。
その数、10名。
あらかたの避難を片付け、刹那たちに加勢をする。
軍人たちは、6人組に対して、即座に発砲。
非常用のフルオートショットガンをぶっ放す。
マガジン式の、市外線を想定したショットガン。
スラッグ弾(散弾でなく、1発の大きな弾を発射する弾丸)が、銃口から吐き出され、テロリスト共に突き刺さる。
元プロの射撃は外れず、6人を全員吹き飛ばし、道路へ背中を付けさせる。
‥‥テロリストは全員、何事も無かったかのように起き上がる。
再び、退役軍人が発砲。
今度は、テロリストたちは倒れない。
命中はしているが、スラッグ弾の衝撃に耐えている。
テロリストたちの目が、月の無い夜に赤く光った。
「‥‥‥‥は?」
緊張と緊急を要する、張り詰めた戦場で、間の抜けた声が出てしまう。
その目は、その赤目は、まるで――――。
6人の身体に変化が起こる。
身体を痙攣させて、筋肉が膨張する。
服が破れ、人の形を失っていく。
軍人たちは、異様な空気とテロリストたちにも怯まない。
マガジンを交換。
弾丸を焼夷弾に切り替える。
異形へと変わり果てるテロリストに引き金を引き、焼却を試みる。
焼夷弾は、街灯に照らされる道路で明るく輝いて、テロリストをたちまち火だるまへと変わる。
――倒れない。彼奴等は、火を浴びても倒れない。
‥‥‥‥。
テロリストたちは、新月の下、怪物へと姿を変えた。
虎・熊・猪・鹿・サイ・ハイエナ。
人と獣が混ざったような、人に獣が憑いたような、怪物へと成り下がる。
皆、一様に爛々と赤目を光らせて、刹那たちに敵意を向ける。
6体が吠えて、襲い掛かって来る。
サイの怪物が、刹那へ突進。
人間離れした速度の突進を、大きく躱した。
そこに、熊の怪物が襲い掛かる。
人の2倍はあろう巨躯となり、爪で切りかかる。
熊は、大きい上に素早い。
ギアで向上した身体能力ですら、振り切れない。
シールドを展開。
完全に避けられないと判断し、爪を盾で受ける。
半透明の青い盾に穴が開いて、熊の爪が顔に迫る。
盾が阻んだ一瞬を使い、紙一重で屈んで躱し、熊の足元を潜り抜ける。
ギアの出力を最大に、熊の背中を蹴り飛ばす。
‥‥薄々、覚悟はしていたが、まるで効いていない。
キックの反動で、熊から距離を取る。
異常事態を検知して、パトロールロボットが駆け付ける。
人間と、異形が入り乱れる戦場。
ロボットは、人間に味方をする。
旗色は、芳しくないが。
人間とロボットが寄って集って、たった6人のテロリストと戦うも、ロボットは次々と薙ぎ払われていく。
彼奴等を叩くための、有効な火力が無い。
冗談抜きに、この異形を葬るには、戦車並みの火力が居る。
‥‥時間を稼ぐのだ。
いま、この状況。警察には通報されている。
有効な火器が到着するまで時間を稼ぐのだ。
戦闘ヘリの機銃でもいいし、ミサイルでもいい。
それが到着するまで、耐えるのだ。
軍人に、負傷者が出始めた。
彼らは、4体の異形を引き受けている。
パトロールロボットの支援は、刹那とアイに全て回し、10人で4体を引き受けている。
刹那とアイは、機械の物量の支援を受けても、いっぱいいっぱい。
生き延びるので、精一杯。
機動力でも、攻撃力でも遥かに劣っている。
素手で猛獣に挑むが如く、力の差が歴然としている。
刹那は、ロボットを盾にしつつ、なんとか熊の猛攻を凌いでいた。
ロボットを足場にしたり、壁にしたり、とにかく逃げ回る。
左手にタクティカルライトを握り、熊の目に光を当てるも、効果はない。
光で目が潰れても、正確に刹那を狙って来る。
周囲を見渡す。
何か、使える物は無いかと。
ホテルに逃げ込むのはダメだ。
宿泊客に被害が出る。
無人になっているであろう、ビルに逃げる?
それも辞めておいた方が良い。
袋のネズミになる可能性がある。
――残念ながら、これは現実で起こっていることなのだ。
現実は、クリアができるように調整はされていない。
超常現象を考慮していない。
目の前の敵は、良き敗者には、なり得ない。
活路を見いだせず、息の詰まる防衛が続く。
1秒が10秒に。
10秒が1分に感じる、当てもゴールも見えない戦い。
そしてそれは、あっけなく終わる。
物語の主人公の死によって。
銃声が、どこからか響いた。
方角が何処かさえ分からない。
分かるのは、それがテロリストによるものだという事だけ。
銃声と同時に、刹那の脚が止まった。
撃たれた。
横っ腹に1発。貫通した。
ギアによって強化された肉体を、防護されている肉体を、貫く弾丸。
そのことに意識が向く前に、刹那の側頭部を、熊の腕が薙ぎ払った。
‥‥人間の死とは、劇的なんてことはなく、案外とあっけない物だ。
猛獣にばったり出くわせば、逃げる間もなく、殴られ、噛みつかれて終わる。
それだけだ。
身体の力が抜け、ぐったりと横たわる。
首が飛ばなかったのは幸いか? あるいは、手加減をされていたのか?
走馬灯が走る暇も無く、刹那の意識は闇に沈んだ。
腹と頭から血が溢れ出し、水たまりが広がっていく。
「刹那っ!!」
戦場では、意識を乱した者から死んでいく。
アイには、足りていなかった。
死地に望む上で、彼を失うことを受け入れる覚悟が。
無理もない。こんな敵が相手になるとは、文字通り夢にも思わなかったのだから。
刹那に気を取られたアイは、虎の怪物に押し倒される。
丈夫に創られた身体で押し返そうとするも、虎はビクともしない。
虎の顔が、一時的に人間のそれに戻る。
「――――!?!?」
アイは、瞳を大きく見開く。
彼女の眼前にあったのは、死んだ者の顔。
お昼に、アイが倒したテロリストと同じ顔。
銃剣をへし折って、折った銃剣でその首筋を切り裂いてやった者と同じ顔。
死者の顔が、獰猛な虎に戻る。
そして――。
アイの首筋に、牙を突き立てた。
「かはぁ―――!? あ゛―――、ぁ。」
声が潰れる、喉が潰れる。
怪物は、アイの喉を潰し、獲物の上から離れる。
まだ、獲物は生きている。生かしてある。
空気の漏れる喉を抑え、刹那の方を見る。
彼が、人の姿に戻った熊の怪物に、連れて行かれようとしている。
アイの脚に、虎の爪が刺さる。
右のふくらはぎを串刺しにされたまま、地面を引きづられる。
「s、、、っうナ――――!!」
潰れた喉で、彼の名を呼ぶ。
彼女の助けてくれる者は、刹那を守ってくれる者は、誰も居ない。
軍人は、全滅してしまった。
援軍も、まだ来ない。
マルが、ホテルからガソリン車を引っ張り出し、突撃を試みるも、サイの怪物との力比べに敗北してしまう。
――いやだ。
死んで欲しくない。死にたくない。
まだ2人で‥‥、みんなで笑って‥‥。
離れていく、手の中から。
見えなくなっていく、目の前から。
アイの周りを、異形の怪物が囲む。
喉を裂かれているのに、まだ死なない彼女を面白がって、集まってくる。
刹那は、熊人間に連れ去られてしまった。
届かないと分かって伸ばした手は、猪の怪物に噛みつかれる。
右腕を掴み、その小指だけを握り、噛みつき、食い千切った。
ウインナーでも噛むように、アイの指が千切れる。
人造の身体にだって、痛覚はちゃんとある。
‥‥その心にも。
「ぐっ――――うぅ‥‥!!」
泣いてしまいそうだ。今にでも。
泣き叫んでしまいそうだ。すぐに。
親しい友人を失った喪失感。
目の前で鎌首をもたげる、死の恐怖。
圧倒的な力の差でもって、弄ばれていると知ってもなお、声を上げず、食いしばり、耐える。
彼なら、きっとそうすると思ったから。
猪は、弱い人間の信念を面白がって、腕を引っ張る。
肩が外れた。
虎と猪で、両腕を引っ張り、綱引きを始める。
「あぁ――! くぅッッ!!」
身体の中から聞こえてはダメな音がする。
夢なら覚めて欲しいと、思考は現実逃避を始める。
手持ち無沙汰にしているサイの怪物が、四つん這いになってアイに突進した。
サイの角が腹に刺さり、腹と背中を貫通する。
身体から、白い血が零れだす。
人間らしい生活が営めるように調整されたナノマシンが、身体から零れだす。
サイの突進により、腹部に穴が開き、腕も千切れた。
右腕が肘のところから千切れて、拘束から解放されて、地べたを転がる。
――彼女はまだ、死んでいない。
幸か不幸か、生きている。
(だいじょうぶ。だいじょうぶです。
私は、人間であり、AIなんですから‥‥。)
肉体に酷いダメージを負い、思考能力が低下。
意識も思考も、明後日の幻覚を見る。
虎の怪物に羽交い締めされたまま、焦点の定まらない瞳で、思いを馳せる。
‥‥来るはずの無い、明日へ。
(人格と記憶のバックアップは、取ってあります。
全部、全部が終わったら‥‥、また一緒に遊んでくださいね。)
顔に、焼夷弾が命中した。
猪が鹵獲したショットガンの弾が、左頬に命中する。
頬の肉が焼け、爛れ、抉れ、金属質な骨格が露出する。
(でも‥‥、きっとあなたは、気が付くのでしょう。
その私が、いまの私では無いことに。)
アイは、射的の的にされ、全身が焦げていく。
頬を伝う涙は、身体を焼く熱で蒸発して、誰にも見えない。
(‥‥‥‥‥‥。いやだ。
いやだ! いやだいやだ!
アイは、時雨 アイは、私だけッ!
代わりなんてない。
私だけが――、あなたの――。)
丈夫な身体も、衰弱を迎えた。
全身全霊で泣き叫んでいるつもりなのに、掠れ声さえ出やしない。聞こえやしない。
この痛みも、苦しみも、叫びも、私は忘れる。
死んだことも忘れて、バックアップとして生まれ変わる。
‥‥‥‥。
ことごとく、理不尽なものだ。
機械の命というものは。
生きることを強いられる命とは。
そして、それらを一切合切、無かったこととして――。
忘れてしまうことが、何よりも怖い。
私には、残された者の痛みに寄り添うことさえ、許されていない。
‥‥‥‥。
‥‥。
今宵の悲劇を憐れむように、空が明るく月焼ける。
暗いはずの新月が、なぜかその輪郭だけ、青白く輝く。
その明かりは、満月にも負けないほど明るくて。
人を捨てた異形と、人でない機械の身体を、包み隠さず露わにする。
異常気象だ。
新月の夜に、こんなにも空が明るいなんて。
街灯さえ要らぬほどに、明るいなんて。
夜がこんなにも明るいから、街の灯りさえ消えてしまう。
日が昇ったと勘違いして、消えてしまう。
こんなにも明るい夜だから、空から雷が落ちてくる。
速く、黒く、霹靂と。
空から、黒い稲妻が――――。
アイの瞳に、光が戻る。
沼の泥に浸りかけた意識が、光の下に這い出てくる。
猪が死んだ。雷に打たれて死んだ。
丸焼きになり、黒焦げになり、跡形も無く崩れ去った。
「‥‥‥‥‥‥。」
雷の中から、人影が立ち上がる。
右手に、銀色のガントレット。
右の腰に、呆れるほど大きなリボルバー。
そこに立っていたのは、見間違うはずもない。
カッコ悪いけど、頼りになる、1番の友人。
――セツナの姿。
隼が狩りを始める。
何が起こったのか理解の追い付いていない、サイの畜生に、右ストレート。
固い角などお構いなしに、ドス黒く燃える拳を叩きつけた。
サイの首が折れた。頭が燃えた。そして爆ぜた。
頭を失った体が、後ろ向きに倒れる。
セツナの姿が消える。
アイが、地面に倒れる。
頭上から、虎の叫び声が聞こえる。
セツナは、大層つまらなさそうに、左手でカランビットナイフを弄び、右手に持った両腕を捨てる。
ナイフで虎の首を捕まえる。
三日月の形をしたナイフの湾曲が首を捕まえて、後ろへと引き倒す。
虎が仰向けに倒れる。
倒れた虎を、足で踏みつけて固定。
上から、畜生を屠殺する鉄槌が振り下ろされる。
両腕を切り落とされた虎に、拳を受ける術は無く。
頭を潰されて死亡した。
「セ‥ツ‥‥‥ナ?」
いつに無く、か細いアイの声。
懐から取り出した、治療用のナノマシンを注射し、自分を助けてくれた彼に声を掛ける。
声に、動揺と怯えを隠し切れない。
この短時間で、彼は3人の命を奪った。
銃や兵器で殺したのではない、自らの拳で命を奪った。
――なのに、そこに何の感情も無い表情で、セツナはアイを見下ろしている。
見たことも無い、冷たい表情。
殺人を、雑草を踏んだ程度にしか感じていない表情。
牛や豚を絞める機械のほうが、遥かに感情的に感じるほどに、人の痛みなど、意に介していない表情。
無事を喜ぶよりも、再開を喜ぶよりも、恐怖が勝り、目を逸らしてしまう。
見知った友人の、変わり果てた表情を、心が拒絶してしまう。
セツナは、そんな彼女を、赤く淀んだ目で見下ろしている。
喜ぶでも無く、怒りさえ無く――。
哀しみも、楽しみさえ‥‥。
久遠 刹那。
彼は――。
――新月の夜に、月を見た。




