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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
6.5章_嵐へ続く

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191/255

SS9.07_物語は動き出す

曇天の下、グレイドラグーンと、サンダーバードとの戦い。


重く暗い空は、白く稲光(いなびかり)を起こす。

地上を見下ろす空から、荒んだ街に落雷を落とす。


雷鳥が雲を発達させ、雷を呼び、大空が抱えきれなくなったエネルギーが大地へと降り注ぐ。


落雷が、ドラグーンにも襲い掛かる。

1発2発と、規則的なテンポで、CEを飲み込むほどに太い雷柱が落ちる。


魔力野を頼りに、パチパチと炭酸飲料が弾けるような肌の感覚を頼りに、落雷を予測。

距離と大きさ、それとタイミングを計り、雷の剣山を躱していく。


雷の対処で一杯一杯のドラグーン。

雷鳥は、逃げ惑う竜に急接近。


足に取り付けた雷の蹴爪(けづめ)で上から襲い掛かる。


ドラグーンは、2本の銃剣がついた右腕を振るう。

上を取っていた雷鳥を追い払った。


すぐさま、竜の上に雷が落ちてくるが、これも回避。


雷鳥の速度には追い付けないが、ハルのマルチタスク能力によって、決して速度に優れないグレイドラグーンを、雷のコンビネーションから守っていく。


落雷を躱したドラグーンに、再度、雷鳥の攻撃。

今度は後ろから。


一瞬で背後に回り込んで、蹴爪で蹴りつける。


ドラグーンは、空中で後ろ宙返り。


蹴爪を躱しつつ、尻尾で反撃。

野生生物との戦闘ではお目に掛からない、非合理で非効率にも見える攻撃に、雷鳥は対応が遅れる。


尻尾が鞭として、風を切ってしなり、頭を打つ。


ドラグーンはテレポート。

落雷を躱す。


怯んだ雷鳥の背後に瞬間移動。

ゼナスを発動。


牙に黒雷を纏い、雷鳥を後ろから抑えつけ、喉元に食らいつく。


牙が刺さり、ノコギリの歯が、雷鳥の肉を削いでいく。

2度、3度と食らいつき、噛み直しをして、より牙を深く、より傷口を穿っていく。


雷鳥の背中を取った。

これなら、翼も蹴爪も、恐れるに足らない。


――サンダーバードが、まともな魔物であれば、の話しであるが。


雷鳥は放電。

自身の体に電気を流し、身を守る鎧とする。


食らいついたドラグーンの体が、焼かれて焦げる。

捕食による再生と、電撃により損傷を繰り返す。


空から落雷が降り注ぐ。

一等、大きな雷鳴が轟いて、雷鳥とドラグーンに、滝の如く降りかかった。


雷の滝行にあって、雷鳥は傷が癒え、ドラグーンは捕食による再生が間に合わなくなる。


ついに、滝の流れに耐えきれず、翼が負ける。


落雷に激しく殴られて、地上に墜落。

音を追い越さん勢いで落下する。


背の低いビルを上から丸ごと倒壊させて、一帯に砂煙を撒く。


ハルのスマートデバイスに、クレジットが振り込まれる。

どうやら、倒壊させたビルは、東部のクソ野郎の事務所だったらしく、懸賞金が即座に振り込まれる。


が、今はそれに一喜一憂しているどころではない。

呑気にクレジットの残高を表示してくるデバイスを、コックピットの中に投げ捨てる。


‥‥‥‥。


グレイドラグーンを立ち上がらせる。

ハル自身が、銃剣を呼び出す。


左銃剣のみを呼び出して、ドラグーンの左手に握らせる。

粉塵が舞う地上から、魔力の流れを頼りに――、投擲!


ドーム状に広がる砂煙を巻き上げて、銃剣が空へと飛び出す。

狙いは当然、雷鳥。


投げた銃剣を追うように、ドラグーンも砂煙の中から飛び出す。

翼で、目障りな粉塵を跳ね飛ばして、空へと飛ぶ。


左手には、クロスボウを装備。

ハルから奪った力、スキル ≪飛燕衝≫ 。


クロスボウから、魔法の矢が放たれる。

2本の矢を番えた弦から、矢が放たれて、雷鳥を狙う。


投げた銃剣も、魔法の矢も、雷を捉えること叶わず。

あっさりと躱されてしまう。


攻撃を放ったドラグーンも、鼻から当たるとは思っていないのか、すぐに迎撃態勢を取る。

「2倍強い」と豪語する右手の双銃剣をチラつかせて、雷鳥が安易に切り込めないようにする。


空からの落雷。

迎撃をしようと守りを固めるドラグーンを、空からの攻撃で無理やり動かす。


錐もみ回転をしながら回避。

それを、素早く雷鳥が蹴りつける。


両脚で蹴られ、蹴爪が刺さり、抜ける。


制御を失ったところに、落雷。


大木を割るほどの雷が落ちて、ドラグーンを撃ち抜く。

竜の動きが止まった。


雷鳥が突進をする。

放電し、翼を赤熱させ、竜の体を両断せんと、飛行する。


これで、勝負を決めに掛かる。


どだい、速力に劣るグレイドラグーン。

サンダーバードが、本気になったら、逃げる術は無い。


――曇天に、竜の眼孔が光る。


雷に打たれたはずのドラグーンが、動き出す。

左手のクロスボウから、マジックワイヤーを射出。


勝負を決めに掛かった雷鳥を捉える。

雷鳥が、雷の力で後退しようとするも、膂力はドラグーンに分があるようで、ビクともしない。


――死んでも離さん。


グレイドラグーンの黒雷(ゼナス)は、捕食の黒雷。

相手の力を奪い、自らの糧とする、弱肉強食の黒雷。


先ほど、雷鳥に食らいついたドラグーンは、雷に対する耐性を獲得していた。

耐性は完全で無く、本家に比べればお粗末な物だが、それでも意表を突くには充分。


電光石火の空中戦において、コンマ数秒、たったそれだけ早く、ダメージから復帰する。

初見殺しを決めるには、充分な能力。


ドラグーンは、雷鳥に撃ち込んだワイヤーを巻き取っていく。

巻き取り、手繰り寄せ、銃剣の間合いにせんと力を込める。


雷鳥が暴れる。

放電に、落雷。


全霊で暴れて、雷鳥もドラグーンを仕留めに掛かる。


ワイヤーで繋がって、両雄のデスマッチが始まる。


ドラグーンの雷耐性を貫通し、雷鳥の暴れがまかり通る。

片目が焼けて潰れ、左肩の関節が焦げて外れ、コックピットからは黒い煙が上がる。


落雷に撃たれて、片翼が千切れる。


‥‥それでも、ドラグーンはワイヤー離さない。

死んでも離さない。竜に二言は無い。


軋む体には、崩れる体には、「勇気」で鞭を打つ。


竜が吠える。

体が金色の光に包まれる。


ブレイブゲージを消費、ブレイブアーマー。

ハルから奪った勇気が、不退転の力を与える。


勇気は、人に大きな力を与える。

生身の人間が、CEを引き摺れるほどの力を発揮する。


竜が、雷鳥を引き摺るくらい、造作も無い。


ワイヤーが、煙を上げながら、雷鳥を手繰り寄せる。

銃剣の距離まで、あと少し。


――その時である。

空から、狙い済ました落雷が落ちた。


範囲を絞り、力を圧縮し、貫通力を高めた落雷。


落雷は、ドラグーンの左腕に落ちる。

二の腕を貫き、熱と爆発で、腕を内側から引き千切った。


ブレイブアーマーは、ダメージで怯まなくなるだけで、ダメージまでは無効にできない。

狙いすませた一撃が、ドラグーンの腕を破壊した。


勝敗を左右する蜘蛛の糸が、雷で腕ごと持っていかれて失われる。


‥‥‥‥。

‥‥。






――プランB、発動。


ドラグーンは、千切れた腕を、足の爪を使って掴む。

死んでも離さない、竜に二言は無い。


雷鳥の、自分の作戦が決まったと、拘束から逃れたと、そう思った心の隙。


それが、ドラグーンの行動を許してしまう。


千切れた腕を脚で掴む行動に、雷鳥は虚を突かれてしまう。

逃げようと後退したにも関わらず、竜の膂力に咎められて、上手く距離を取れなかった。


ワイヤーが強く引っ張られるも、魔法の鎖は張力を吸収し、雷鳥が逃げることを許さない。


ドラグーンが口を開く。

初見殺しは、まだ残っている。


ステイシスバブルを放出。

カニを捕食することによって奪った、速度を殺す泡。


効果は、ハルが身をもって経験済み。

足の遅いイカに、タコ殴りにされるくらい、この泡は速度を奪う。


細かく小さな泡が、ドラグーンから放出される。

雷鳥の、横か上に移動する習性を加味して、泡を上から掛けるように照準。


放物線を描く泡は、上に逃げようとした雷鳥に直撃。

鳥を、泡の籠に閉じ込めて、機動力を奪う。


泡にまみれた体で、雷を纏おうとするが、泡に阻まれて上手くいかない。

翼を羽ばたかせても、浮力を思うように得られず、滞空するのがやっとな状態となってしまう。


落雷が落ちた。


2本、雷鳥と、ドラグーンに。

両者に直撃。


雷鳥が泡を少し剥がし、ドラグーンは空から落ちていく。

ドラグーンの関節にガタが来て、足の爪が千切れた左腕を離してしまった。


彼我の距離が、加速度的に離れていく。


雷鳥は、優雅に翼を大きく広げる。

鬱陶しい泡を払おうと、落雷を呼び寄せるべく構える。


翼を広げ、曇天の下で輝きながら、雲に稲光を作り――。




首の後ろに、銃剣が突き刺さった。



「だぁぁぁぁッッッ!!」



銃剣の上には、なんとハルの姿があった。

ドラグーンが、地上から投擲した銃剣。


彼女は、その裏に張り付いて乗っていた。

投擲の速度を、バレルロールで維持して銃剣を切り返し、落下速度も追加してのアンブッシュ。


初見殺しの本命は、ハル。

それを通すための、CEは囮。


彼女がコックピット内に投げ捨てたスマートデバイス、それで指示を出しながら、虎視眈々と、この機を待っていた。


雷鳥の挙動は、セツナが多用しているスキル ≪ライトニングアクセル≫ と似ている。

動き始めれば確かに速いが、動くまでに溜めと隙がある。


ハルとドラグーンは、その隙を狙っていた。


ドラグーンが隙を作り、ハルが崩し――、ドラグーンが仕留める。



「来なさい! ドラグーン!!」



雷鳥は、落下スピードの乗った銃剣突撃を受け、動けない。

ハルの声を、命令を受け、ドラグーンの目が闘志で燃える。


AGを消費。

アサルトダッシュ。


片翼を失い、飛行能力が低下してもなお、竜は空へと吠える。


暴走する闘争本能と闘志に身を委ね、空を暴走し駆け上がる。


右手の銃剣を突き出す。

当たれば2倍強い!


ハルが釘付けにした雷鳥に、ドラグーンが切り込んだ。

全身全霊で突進し、右手の得物を押し込み、雷鳥の胸に2つの大穴を開ける。


――空の戦闘を、終始優位に進めていたのは、サンダーバードであったはずだ。

だのに、今、トドメを刺されているのも、サンダーバードなのだ。


グレイドラグーン。厄災の幼体。

龍の心臓を持ち、龍の姿を模した、CEの設計から逸脱した機体。


しかし、その強さとは、その恐ろしさとは、まさにCEの設計を体現したもの。


すなわち、龍の戦闘能力と、人間の狡猾さ。

これこそが、厄災の幼体たる竜が、多くの厄災を屠った、悪虐なる強さの本質。


そこに、人と機械の絆と、いったいどんな差があるというのだろうか?


グレイドラグーンが、爪を振るう。

串刺しにした双銃剣を下に振り、サンダーバードの体を、3枚におろした。


鳥の胸から下が3つに分かれて、両の瞳から生気が失せていく。


雷鳥は、最期の力を振り絞り、落雷を呼ぶ。

雷で、傷を癒そうとする。


ドラグーンは離脱。

雷鳥に背を向けて、一瞬だけその場に留まってから、離脱した。


空を下りるように飛ぶドラグーンの背中を、ハルがよじ登って、彼の肩に乗る。

一瞬動きが止まったのは、彼女が飛び移る時間を、作ってあげていたのだ。


一瞬待って来ないようなら置いていく。

そんな意思が、彼の背中からは伝わって来た。


落雷が空から降る。

大きな大きな、地面にクレーターをこさえるほどの稲妻が空から降って、雷鳥の身に降り注ぐ。


だが、それでも傷を癒すには足りず。

力無く、雷鳥は空から落ちて行った。


隕石が落ちたように空いた、地上の穴へと体と翼を埋める。

暗い曇天が晴れ、空には、スモッグに覆われた太陽が帰って来る。


地上では、自分の仕事を片付けたセツナが、ハルとドラグーンに両手を振っている。


‥‥‥‥。

‥‥。





「はいはーい! オーライ、オーライ――。」



セツナが、ドラグーンを着陸させるためのナビゲーションを行う。

道路の真ん中で両手を振って、ここに降りてこいと案内をする。


ドラグーンは、指定された地点に降りて来る。

‥‥片方しかない翼を羽ばたかせて、加速しながら。



「危っっっぶな!?!?」



横に緊急回避、事なきを得る。

ドラグーンは、道路に引っ掻き傷をこさえて、こけた。


戦闘によって、体にボロとガタが来ている。

にも関わらず、減速ぜずに着陸するからこうなる。


ドラグーンの気性を知っているハルは、彼が着陸する寸前に、飛び降りていた。

地面をコロコロ転がっている兄と、地面に頭からスライディングをかましている竜を、交互に眺める。


セツナが立ち上がり、ハルにハイタッチを求める。

グータッチをして、彼女の健闘を労う(ねぎらう)



「良い戦いだったよ、ハル。」

「ありがとう。」



2人は、無駄に高いプライドが災いして、怪我を増やすドラグーンの方へ。

とても、龍の威厳なんて感じない、頭から道路にへたれている竜を見て、苦笑い。



「‥‥まさか、コイツに乗ろうとするなんて。」

「ふふ~ん。サウィンイベントの縁もあったからね、愛機にしようと思ったんだ。」



ハルが手を後ろで組んで、セツナの顔を、ジト目で覗き込む。



「彼の練習にも付き合って欲しかったから、アプデの日に連絡したんだけど?」

「まあまあまあまあ――。その話しは良いじゃん? 終わったことじゃん?」


「もう、気を付けてね。とくに、最近は物騒なんだから。」

「それはそう。そして、ごめんなさい。」



2人が、滑りこけたドラグーンの前に到着。

ドラグーンは、何事も無かったかのように立ち上がり、待機の姿勢を取る。


セツナは、立ち上がったハルの愛機を見上げる。


目が潰れ、翼はもげ、腕は千切れている。


‥‥なんか、アイが「ボロボロになったロボって‥‥、こう、キませんか?」とかって言っていたが、ドラグーンのこれは、痛ましい。


生きているCEなのだから、怪我の心配が勝ってしまう。



「大丈夫なの? これ?」


「お肉を食べれば治るらしい。」

「えぇ‥‥。」


「ちなみに、自費で高いお肉を上げると、機嫌が良くなるらしい。」

「えぇ‥‥。」



グレイドラグーン、謎の生態。

まさかの飼育(ブリード)要素。



「話しに聞いただけなんだけど、言うこと聞かないんでしょ、このCE?

 よく乗ろうと思ったね。」


「う~~~ん‥‥。だって、可愛くない?」



セツナは、両目をパチパチさせて、ハルを方を見る。

――可愛い?


にひっとスマイルなハル。



「なんか、生意気な弟みたいで、可愛い。」



両目をパチクリさせるセツナ。

ドラグーンを見上げるセツナ。



「へぇ~~~。このドラ(まつ)がねぇ? 可愛い?」



間の抜けた感嘆符を零すセツナに――、ドラグーンが吠えた。

上から、けっこう強めに、ちゃんと吠えた。



「うわぁぁ!?!?!?」



ビックリして、ハルの後ろへ回り込むように、飛んで逃げるセツナ。

兄にちょっかいを掛けるドラグーンを、ハルが「こら!」と叱る。


生意気なドラ末は、片方しかない翼で自分の顔を隠す。

聞こえていないアピール。


セツナが握り拳を、わなわなと震わせる。



「このガキ――――っ!!」



ドラ末がまた吠える。

「うわぁ!?」と逃げ出すセツナ。


ハルが銃剣を呼び出し、銃剣の腹で竜の頭を叩いた。

姉のゲンコツが炸裂し、生意気ドラ末は頭を押さえ、それから説教を受ける羽目になる。


竜の教育をするハルの後ろで、セツナは妹の威光を借りて、偉そうに腕組みをして、竜に威張り散らすのであった。


仕事を終えた教会の密偵が、そんな2人と1匹にあきれながら、東部から引き上げていく。

紆余曲折あったものの、今日の仕事も無事に終わる。



――サイドミッション「準備が9割」クリア   ‥‥?





「I'll be back! I'm home!

 ただいま、お疲れ、ごきげんよう☆」



薄暗い部屋に、愉快な挨拶が響く。

扉が自動で開き、帰って来た者を迎え入れる。



「あぁら? ナイスデイ、こんにちは。」

「こんにちは、ハーマン。

 おや? ファンデーションを変えたかい?」


「ナイスデイ、遅刻よ。何分待たせるつもり?」

「やあ☆ルフラン。今日もチミは、ちっこいな☆」



ナイスデイから、ルフランと呼ばれた女性は、ため息。

遅刻に怒るでもなく、背丈への煽りを怒るでもなく、ため息。



「まあいいわ。座ってちょうだい。」



薄暗い、12畳ほどの小さなミーティングルーム。

セントラルのどこかにある、秘密の研究所のミーティングルームで、会合が始まる。


部屋に居るのは、3人。


1人は、過去にセツナたちと戦ったことのあるハーマン。

小型の爆弾を作り、エージェントと本部の連中を引っ掻きまわした、張本人。


1人は、みんな大好き良い子の味方☆あわてんぼうのサンタクロース、ナイスデイ。

彼はアンドロイドで、金属質な肌が、暗い室内の光を反射している。


服や髭に燃えあとが見受けられ、少し焦げ臭く、ガソリン臭い。


そして、残りの1人が、ルフラン。

この3人のリーダー的存在であり、この研究所を擁する組織を束ねる人物。


紫色の瞳に、灰色の髪。

髪の色は、インナーカラーとなっており、灰色の髪の内側が、瞳と同じ紫色となっている。


彼女は、目にカラーコンタクトをしていなければ、髪を染めることもしていない。

元々、この色だ。


‥‥いや。こういう色に、なった。


小柄な身体は、パンツルックのスーツで包まれている。

白いシャツに、黒いベスト、黒ネクタイの、ジャケットを着ないスタイルの着こなし。


彼女が両手を組んでいる机の上には、小さなシルクハットが置かれている。

被るというよりも、乗せるという表現がしっくりとくる、小さなシルクハット。


机の上に置いた手は、白い手袋で隠している。

‥‥白は良い。赤い色が、よく目立つ。


部屋には3人。

作業服姿のハーマン、サンタ服のナイスデイ、カッチリと着込んだルフラン。


ルフランが、口を開く。



「ナイスデイ、道化(クラウン)調達の進捗は?」

「ほぼ9割。この調子なら、祭りには余裕で間に合うだろう。」


「ぜひそうして頂戴。お祭りに、クラウンは欠かせないでしょう?」

「そうだとも、そうだとも。」



ハーマンが机に肘をつき、ナイスデイとルフランの会話に混ざる。



「そう言えば、ナイスデイ。

 あなたのクラウンちゃん、エージェントちゃんに捕まっちゃったでしょう?」



ルフランの紫瞳が、鋭くなる。

机に置いたシルクハットを持ち上げて、つばを弄ぶ。


花占いでもするように、くるくる回しては、弄ぶ。


ナイスデイに、言外に説明を要求している。



「ルフラン、そう殺気立つなよ? 美人が台無しだぞ?」


「淑女とは、怒っていても様になるものよ?

 ‥‥ナイスデイ。

 わたくしは、隠し事が何よりも嫌いなこと、知っているでしょう?」


「ああ、もちろん。それは知っている。

 ――サプライズが好きなことも、な?」



ルフランの帽子を弄ぶ手が止まる。

シルクハットを、机の上に戻す。



「なら、ぜひ聞かせて頂戴? サンタさん?」



ナイスデイは、白髭を撫でる。

半分ほど焼けて失い、チリチリになった髭を撫でる。



「奴等にプレゼントしたのは、旧世代のクラウンさ。」

「旧世代?」



疑問の声を上げたのは、ハーマンだ。

クラウンに、新旧の区別がある。


そんな話しは、聞いていない。



「うむ、知らないのも無理もない。

 新世代が完成したのは、つい先日の話しだからな。」



ルフランとハーマンの前に、ホロディスプレイが展開。

そこには、新世代と呼ばれたクラウンのスペックが表示されている。


スペックに目を通したルフランの口元は吊り上がり、ハーマンは冷や汗を流す。

自慢げに、新世代の魅力を語るナイスデイ。



「――やはり、ゾンビは増えてなんぼ。変異してなんぼ。

 そして、人間同士で争わせてなんぼ。

 そうは思わんかね?」



ルフランが、ホロディスプレイを閉じる。



「新世代のクラウン。いい仕事ね、ナイスデイ。

 ‥‥でも、これは機密をエージェントに漏らした言い訳にはならないわよ?」


「チッチッチッ。バッドレディには、良い子の気持ちが分からないようだな。」

「‥‥どういうこと?」


「なに、簡単さ。サプライズとは、相手の予想を超えてこと成立する。

 旧世代をくれてやったのは、相手の予想をこちらで操作するためさ。」



人間の心や思考は、目で見ることができない。

だが、触って形を変えることはできる。


ならば、こちらで相手の思考の形を決めてやればいい。

そうすれば、遥かにサプライズは成功しやすくなる。



「今ごろ、奴等は旧世代の研究と対策に躍起だ。

 それが、途方の価値も無いことも知らずに。


 イバラ龍で得た情報以上のことは、旧世代からは何も得られやしないさ。

 なら、好きなだけ調べさせて、間違った対処法と準備をさせてやればいい。」



ハーマンが、ナイスデイの考えを要約する。



「つまりナイスデイは、エージェントちゃん達に、嘘の入ったプレゼントを渡したってこと?」

「そうだとも。いま、旧世代のアップデート作業をしているが、旧式にだって使い道はあるのさ。」



ナイスデイの申し開きとプレゼンに、ルフランは納得をする。



「素晴らしい。良いでしょう、独断の罰は不問としましょう。」

「ふっふっふっ、サンタさんを舐めちゃあ、イケないんだゼ☆」



セツナたちが捕まえたクラウン。

彼はブラフであり、罠。


クラウンを研究したところで、対策したところで、ナイスデイたちの思惑を阻止することはできない。

‥‥そのことに、セツナたちは気付けない。


ナイスデイたちは、正体を隠すだけでなく、嘘の尻尾を掴ませることで、相手を完全に煙に巻いている。


ハーマンが、今度はルフランに質問をする。



「ルフラン。貴女のプロジェクトの進捗も聞きたいわ。」

「――ああ、そうね。わたくしも、話したくて話したくて、その言葉を待っていたわ。」


「その口ぶりからすると、良い話しが聞けそうね。」

「ええ。今日この場を、心待ちにしていたのだから。」



ルフランは、ベストのポケットから、「銃と弾丸を取り出す。

小柄な彼女の手に隠せてしまうほど小さなデリンジャー (小型拳銃)と、赤い弾丸。



「あらあら、それが噂のジョーカーね?」

「そう。(サイファー)、そう呼んで頂戴。」



ルフランは、デリンジャーに赤い弾丸を込める。

3インチ (約7cm)ほどの小さな銃へ、細長い薬莢と弾頭を持つ弾を装填。


ライフル弾のような弾丸は、弾頭が短い銃身から僅かにはみ出ている。

銃口から、弾頭が覗いている。


ハーマンは、ルフランが装填をしているあいだに、スマートデバイスを取り出す。

アラートセンサーを起動。


エージェントが使用しているセンサーと同じ仕様の、監視ツール。

センサーは起動し、しかしアラートは検出されない。


ルフランが装填を終える。

銃を右手に握り、銃口を左手の甲に押し付ける。



「誰でも使えて――、量産も可能――。

 人々を進化に導く、それがサイファー。」



引き金を引く。

小さな撃鉄が、大きな弾の雷管を叩く。


火薬が爆発して、圧力で弾頭が発射。


発砲された弾は、ルフランの手の甲に刺さる。

‥‥刺さった弾丸が、ルフランの甲へめり込んで、吸収されていく。


ルフランの瞳が、赤く光る。

スマートデバイスが、鳴動する。


赤い警告画面が表示されて、規定値を超えるディヴィジョナー因子を検出した。


この弾丸で撃たれた者は、ディヴィジョナー化する。

ルフランは、そうデモンストレーションをして見せた。



「くふふふふふ――――。」



ルフランの瞳が、紫色に戻る。

アラートが鳴り止み、因子の存在が霧散する。


ルフラン。彼女は、ディヴィジョナー因子を完全に制御している。

サイファーを撃ち込むことによって活性化した因子を、その特異な体質で鎮静化させる。


彼女は元々、ラボで飼われていたモルモット。

ラボが駆除に失敗して、脱走した、改造されたモルモット。



「この、素晴らしい全能感を、皆様に分け与えられるなんて――。

 とても嬉しい――、この上なく――。」



ルフランが銃をポケットにしまい、静かにシルクハットを被る。



「‥‥ねえ? そうは思わない? 蝶々さん?」



ルフランが天井を見上げる。

部屋の照明、施設の照明が、赤色に切り替わる。


侵入者を知らせる照明。

ナイスデイが、帽子の中からダイナマイトを取り出す。



「サプラァァイズ‥‥!」



ダイナマイトが爆発。

天井に穴が空き、そこから人の影が落ちてくる。


机の上に落ちたのは、アゲハ。

女性だけの裏組織「蝶」に属する工作員。


盗み聞きをしていた蝶は、天井から机の上に落下。

研究員に変装してしていた彼女は、懐から銃を取り出す。


――が、銃は彼女の手から離れてしまう。

まるで、見えない手に引っ張れるかのよう、力づくで、銃を取り上げられた。


離れた銃は、ルフランの手に。

奪った銃のマガジンを抜き、スライドを外して分解、使えなくした。


アゲハが、ルフランを蹴りつけようとする。


柔らかく身体を使い、しなる蹴りを繰り出すも――、攻撃は失敗に終わる。


謎の斥力が働いて、アゲハの身体が吹き飛ばされる。

壁に叩きつけられる。


ルフランが指を動かす。

3人で囲んでいた机が斥力に押され、アゲハの腹に突き刺さった。


腹が圧迫されて、えずき、身体の力が抜ける。


四肢の力が抜けたアゲハを、ルフランが引力で引っ張る。

自身の手元まで手繰り寄せて、斥力で天井に叩きつけ、すぐさま床に叩きつける。


アゲハは咳き込みながらも、嗜虐的な笑みを浮かべる紫色の瞳から逃げようとする。

床を這いながら、懐から何かを取り出そうとしている。



「――くふふ!! やっぱり、蝶は手足をもいでやらないと。大人しくしないかしら?」



ルフランが右手を上げる。

振り上げた右手の上、何も無いはずの空間が、蜃気楼のように揺らぐ。


右手を、地を這う蝶に向けて振り下ろす。

右手は、床を指すことなく、止まる。


ハーマンだ。

彼の大きな手が、細い手首を掴んだ。


ルフランの目が鋭くなる。



「‥‥‥‥。なんのつもりだ? ハーマン?」

「逃げなさい蝶々ちゃん! お友達も! 早くッ!」


「ナイスデイ、取り押さえろ。」



ルフランの冷たい声に、冷たい体のナイスデイが動く。


ハーマンが、懐から爆弾を投擲。

EMPボム。ハーマン謹製の品。


爆弾が爆ぜて、ナイスデイの動きが止まる。

対EMPボディであるにも関わらず、体が言うことを聞かなくなる。



「‥‥‥‥ぐっ!? この私に、サプライズとはッ!?」



アゲハは、懐からサバイバルキットを取り出す。

魔導兵器に分類されるナノマシンが封入された、自動注射器。


自動注射器を腿に押し当てて、ボタンを押す。

キットから針が飛び出して、ナノマシンが注入される。


身体能力を一時的に強化するナノマシンにより、アゲハは立ち上がり、走り出す。


ミーティングルームの扉が開く。

ロックを、ハーマンが解除した。



「これは、借りにしておくわ。」



アゲハは、ハーマンにそう言い残して、走り去った。

自分を嵌めた人物の足跡を辿っていたら、とんでもないところに来てしまった。


アゲハが去り、部屋には、元々ここに居た3人が残される。


ルフランが、口を開く。



「ハーマン。今ならまだ許す。

 手を離して、あの女を捕まえろ。」



冷淡な声。次は無いという、組織のリーダーとしての意思表示。

逆に、ここで言う通りに従えば、彼女は何事もなかったかのように、ハーマンと接するのだろう。



「‥‥悪いけど、引くつもりは無いわ。」



ルフランは、ため息をつく。

鋭かった瞳は、物悲しげなものへと変わる。



「そう‥‥、バカな人。」



――せっかく、わたくしたちの寝首を搔く準備をしていたのに。

想い人への恋慕との葛藤さえ振り切ったのに。

あんなコソ泥の好奇心で台無しにされるなんて。


本当に、バカな人。

バカだし、()()()()()()|。



「中途半端な準備で、わたくしたち2人の相手が務まると?」


「ふふ。所詮アタシは、ヒーローになれなかった半端者!

 半端な最期、上等ッ!!」



ハーマンは雄叫びを上げる。

ルフランを掴み上げ、ナイスデイをタックルで押さえ込み、魔法を唱える。



「ラブリー☆☆ マックス☆☆ ファイヤーボォォォル☆☆☆」



――ハーマンの愛と覚悟は、研究所に大きな爆発を起こし、施設の稼働が不可能になるほどの被害を与えた。


‥‥‥‥。

‥‥。




――サイドミッション「準備が9割」クリア。

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