SS9.06_灰の竜騎
ハルがナイスデイを追い、セツナは赤目と戦う。
それが、プランB。
乗り物の運転が得意なハルに追跡を任せ、セツナは露払い。
ワラワラと建物の中から湧いてくる、赤目の道化の相手をしている。
クラウンは数が多く、力も強いが、動きは鈍い。
駆け足で走れば振り切れるくらいには、動きが遅い。
ただ――。
(キリが無い‥‥。)
クラウンを殴れど殴れど、一向に数が減らない。
それもそのはず。
殴り飛ばした端から、驚異的な再生能力で回復しているのだ。
最初は、小奇麗なゾンビていどの認識だったが、殴っても数が減らないのには、滅入ってしまう。
スキルを発動、 ≪魔女の一撃≫ 。
スキルの出始めをキャンセル。
AGが足りず、本来は発動失敗となるはずのスキルが、Zキャンセルにより性能が変化。
≪魔女の一撃≫ により発生した、昏い太陽の魔力を、キャンセルしたスキルに付与。
スキル ≪魔女のブレイズキック≫ が発動。
黒炎一文字。
足に生じた、墨のような炎が、クラウンの1体を捉える。
炎は、クラウンの胸当たりを横に撫でて焼き、彼奴の身体を浮かせる。
横に薙いだ蹴りが、敵を上方向へと浮かせる。
浮いて、重力に捕まって落ちてくるクラウンを蹴り飛ばす。
前に蹴り飛ばして、ボウリングのように他のクラウンを巻き込んで、転倒させる。
クラウンの群れは、何事も無かったかのように立ち上がって来る。
もう何度も見た光景。
頭を踏み潰してみたり、双子の火球をぶつけてみても、倒せなかった。
感覚的に、正攻法では倒せないと、そう感じている。
イバラ龍を倒した時に使った抗体は、まだ量産に至っておらず、まだ脅威度が定かで無いクラウンに使うのは微妙なところ。
また、抗体を使用された者は、今のところ確実に死亡する。
あれは、ディヴィジョナーの活性化を抑えるのではなく、ディヴィジョナーの活性を暴走させて、物理的な肉体を自己崩壊させるというメカニズムで作用する。
暴走した機械は、爆発すれば止まる。
それと同じことをしているだけなのだ。
抗体とは名ばかりの、劇薬。
しかも、必ず効くという保証も無い。
最悪、自己崩壊を起こせるほどの活性を促せずに、とんでもない化け物を生んでしまう可能性すらある。
それも相まって、気安くポンポン使える代物ではない。
セツナは、平屋のプレハブの上に飛び乗る。
ちょっと休憩。
クラウンたちは、理性を失っているようで、建物に登って来ることは無いようだ。
ただ、怪力のせいで、プレハブが殴られて凹んでいっている。
プレハブを殴ろうとして、同士討ちをしている個体もチラホラと見受けられる。
それらを眼下に、思考を巡らせる。
思考の手は、過去の記憶が保管された棚に手を伸ばす。
こういう不死の敵を倒す方法。
思い当たる可能性をまとめていく。
「‥‥‥‥。」
いくつか、検索にヒットした。
――空が、急激に暗くなった。
分厚い曇り空が広がって、夜みたいに暗くなる。
曇り空の暗がりに、足元で赤目が爛々と輝く。
プレハブに、いくつも穴が開いてグラつき始める。
スキルを発動。
AGを消費。
≪魔女のライトニングアクセル≫ 。
霹靂一閃!
地上に、雷が轟いた。
セツナが飛び上がり、地上へと斜めに急降下。
全身に雷を宿し、地面に向けて掌底を放つ。
雷のオーラを纏い、空から強襲。
地面に突進した衝撃で、纏った雷が爆ぜて空へと伸びる。
巻き込まれたクラウンたちが、空中に吹き飛ばされる。
雷が地面を流れて、爆発の被害から逃れたクラウンを感電させる。
雷に打たれて宙を舞うクラウンも、地上で感電したクラウンも、雷に皮膚を焼かれ黒焦げになる。
黒焦げになり、炭化した身体がボロボロと崩壊し、そのまま動かなくなった。
(ビンゴ! AG技であれば倒せる!)
過去作の経験が活きた。
過去作にも、不死のザコ敵が存在していた。
様々な魔物の姿を模した、影のモンスターで、そいつはAG技以上のスキルでないと倒せなかった。
クラウンも、同様の性質を持っているらしい。
不死が相手なので、AGは無限に溜めることができる。
1体でも生きていれば、AGが枯渇することは無く、倒せずに詰むことが無い。
不死だからこそ許される、突破方法だ。
確信を得たセツナは、コアレンズを取り出す。
ベルトのポーチからソードコアを取り出し、装填。
群がって来るクラウンを蹴り飛ばしながら、コアレンズをもう1枚。
ヘックスコアを左手で取り出し、右手でクラウンの顔面を殴る。
足に雷を宿しながら、コアを装填。
地上から離脱。
建物の壁を走り、屋上へと駆け上りつつ、ガントレットの装填口を閉じる。
「アドベントラ、アドバンス――。」
Ultパッシブ「AAA.S.」発動。
2枚のコアレンズと、1つのスキルを組み合わせ、強力なスキルを発動する。
ソードコア × ヘックスコア × グラウンドスマッシュ = 魔女の破砕鎚
建物を駆け登るセツナの下、地上に魔法陣が描かれる。
バイクや車両を呼び出す魔法陣よりも大きく、CEを呼び出す魔法陣よりは小さな魔法陣。
黒い魔力で描かれた魔法陣が、地上からセツナを追従するように宙へと浮き、彼を追いかける。
セツナが、クリスマスの装飾が施された3階建ての建物を登りきる。
屋上へと足を掛け、跳躍。
地上へと振り返りつつ、地上に目掛けて拳を振るう。
彼の動作に、魔法陣が反応。
黒い魔法陣から、悪魔の拳が伸びて地上を叩きつけた。
拳が着弾すると、その場を中心に爆発が起き、クラウンを滅ぼす。
宙に浮かぶ片腕が、魔法陣をこじ開ける。
陣を力づくで広げて、こじ開け、中から腕の本体が顕現。
CEに匹敵する赤い巨体に、岩の如く硬い肌、ヤギの二本角。
魔法陣から、悪魔の上半身が姿を現した。
建物の屋上から、セツナが拳を振るう。
彼の動きに追従し、悪魔が拳を振るう。
拳が地上に炸裂し、クラウンを薙ぎ倒す。
魔女の破砕鎚 (ヘックス・ガルツヴァイラー)。
怒れる悪魔を召喚し、従えるEXスキル。
セツナが、建物を飛び移る。
悪魔が、地上のクラウンを薙ぎ倒しながら追従する。
腕を横に振るい、触れた尽くを爆風に飲み込んで、地上を地獄へ作り変える。
スキル ≪炎撃掌≫ を発動。
悪魔が、セツナの魔力を奪う。
奪った魔力を糧として、悪魔が口から灼熱を吐き出す。
マグマのように粘性を持った吐息が、上からクラウンに降りかかり、質量と熱量でクラウンを地に跪かせる。
そこに拳の雨が落ちて、一帯は塵芥となる。
不死の軍勢を、赤い悪魔が地獄へと連れ帰る。
巨体が、両腕を振り上げる。
クラウンが寄って掛かるも、彼はビクともしない。
力を溜め、腕の血管が浮き上がり、筋肉が膨張し、拳が何倍も固くなり、大きな魔力を握り込む。
――悪魔の鉄槌が、不死の赤目を地の底、空の果てへ叩き落とした。
‥‥‥‥。
‥‥。
赤目の村は、突如出現した悪魔によって、ものの数分で滅びた。
暗い空の下に、瓦礫を積み上げている。
奇跡的に生き残った村民が、這う這うの体で瓦礫の山から抜け出す。
その背後には、悪魔を呼び出した張本人。
赤目の首根っこを掴み、瓦礫に叩きつける。
不死の身体を再生させている隙に、手錠で四肢を拘束する。
「1体、生け捕りにすれば、怒られないよね?」
◆
――グレイドラグーン。三悪魔CEにして、厄災の幼体。
彼は普段、CEのガレージで封印されている。
生きているCEであり、闘争本能の化身である彼を、ガレージで野放しにする訳にはいけない。
術式の施された鎖で手足を縛り、胴を何重にも縛り付け、封印が施されている。
そうすることで、龍の心臓を押さえつけているのだ。
‥‥まあ、プライドの高い龍の子が、封印に甘んじるのは、戦いが始まるまでの話しなのだが。
グレイドラグーンが、スマートデバイスの要請を察知する。
ハルが、CEを呼び出そうとしている。
暗くなっていたドラグーンの瞳に、光が宿る。
口を開き、熱を帯びた吐息を吐き出す。
封印の鎖が震える。
目覚めた闘争本能が、封印の解除を待たず、強行突破しようとする。
右手の拘束を引き千切る。
次は左手、両の脚。
翼を押さえつける胴体の鎖を引き千切り、ガレージで吠える。
ガレージで働くエンジニアたちを睨んだ後、彼は足元の魔法陣に飛び込んだ。
‥‥‥‥。
暗い空に描かれた魔法陣から、グレイドラグーンが召喚される。
ハルのCEとして投下される。
フォールされたCEは、ハルの元へ――。
落ちずに、明後日の方向へ。
空中で翼を広げ、空を雄大と駆けるサンダーバードに向けて機首を向ける。
「――ちょっと!?」
ハルは、自機に置いてけぼりを食らう。
あっけに取られる彼女に、カニのロボットが襲い掛かる。
グレイドラグーンは、CEであって、CEでない。
「生きている」の表現の通り、機械というよりも、生物に近い。
そのため、他のCEとは異なり、パイロットの命令を平気で無視する。
暴走する欠陥兵器、それがグレイドラグーンだ。
この気性ゆえ、並大抵のパイロットでは彼のパートナーは務まらない。
ドラグーンは、パイロットには目もくれず、サンダーバードに突進。
翼を広げた大きさが、自分の倍ほどもある相手にも怯まず、腕の爪を伸ばす。
サンダーバードは、体に稲妻を走らせる。
稲妻の力で、その巨体を素早く操る。
雷の力を具現化、身を包む装甲へと変える。
翼に、刃のついた鎧が。足に、獲物を貫く剣が装備される。
サンダーバードは、稲妻の速力でもって、突進してくる竜を易々と躱す。
後ろに退いて躱したかと思えば、次の瞬間には背後へと移動。
足に装備した剣で背を貫く。
竜の背にヒビが入る。
被弾したドラグーンが尻尾で反撃をするも、やはり易々と避けられる。
背後に居た雷鳥は正面へと回り込み、翼に纏った鎧で突進。
刃を取り付けた翼で体当たりをして、竜を空中から地上へと向けて引き摺り、叩き落とす。
ドラグーンは、あっけなく雷鳥にあしらわれて、地上に転落。
カニに囲まれているハルの元まで転がって来る。
――が、すぐさま起き上がり、翼を広げて空へと飛び立つ。
パイロットのことなど、まるで目に入っていない。
しかし、ハルもハルで、負けん気が強い。
カニの隙間を抜け出して、ドラグーンの脚にワイヤーを撃ち込む。
サンダーバードへと突っ込む竜に、無理やり張り付いた。
「この‥‥‥‥ッ!」
スキル ≪ブレイザー≫ 。
燃える拳を、ドラグーンに見舞う。
彼の足元で、爆発が起きる。
初めて、竜がハルの方を見た。
脚を震わせ、ワイヤーを切断。
宙に放り出されたハルに、尻尾を叩きつける。
細く長い尻尾がハルを叩いて、彼女を地上に埋める。
ドラグーンは、それだけで気が収まらない。
邪魔者を完膚なきまでに排除しようと、強襲。
自分の体重を押し付けるように、空からハルを潰しにかかる。
空から勢いをつけて、右の手の平でハルを潰す。
CEの巨体からすれば、生身など虫を相手取るも同然だ。
――地面に沈むハルが、武器を召喚。銃剣。
二振りの銃剣が、ドラグーンの粗相を咎める。
銃剣を、迫る手の平に突き立てて、手の平を貫通させ、ハルが潰されぬように食い止めた。
沈んだ地面の奥から、竜の5つある指の隙間から、意思の強い瞳が睨む。
教育的指導。
スキル ≪飛燕衝≫ 。
銃剣が、スキルの力で勢いよく振り下ろされる。
ドラグーンの手の平が切り裂かれ、裂けた。
当然、竜は激昂。
地面を蹴り、宙で一回転しながら、細い尻尾を振り下ろす。
それを、銃剣をクロスさせて受ける。
尻尾を銃剣で受け、ハルは銃剣の横へと踊り出し、マジックワイヤーを射出。
竜の胸へと撃ち込んで、跳んで張り付く。
そして、AGをドラグーンに流し込む。
シンクロ。
竜と同調することによって、彼を強制的に従える。
「――開けなさいッ!」
なおも、抵抗するドラグーン。
固く閉じた、胸にあるコックピットの隙間へ指を入れるようにして、力づくでコックピットを開ける。
身体ひとつ分だけ開いた隙間から、内部に滑り込んで乗り込む。
すぐさまコックピットが閉まり、今度はドラグーンが黒雷を発生させる。
――黒雷。
ゼナスと呼ばれる、三悪魔の保有する機能。
パイロットの生命力を力に変換する、恐ろしい機能。
ハルが、機内で黒い雷に打たれる。
ドラグーンが、口うるさいパイロットを黙らせて、物言わぬ生体電池にしようとする。
黒雷に、シンクロで対抗。
ドラグーンの体表に、黒い稲妻と青い閃光が同時に走る。
雷鳥に今にも飛び掛かりそうなドラグーンは、動きをギクシャクとさせ、その体を翻す。
ハルが、操縦桿を強奪。
機体をカニの方へと向ける。
小物の相手をさせられるドラグーンは、大層ご立腹。
怒りのボルテージが、みるみる溜まっていく。
この短い堪忍袋の緒が切れると、竜は言うことを聞かなくなる。
‥‥もともと、言うことなんて聞いていないが。
ドラグーンは、八つ当たりをするように、カニに襲い掛かる。
カニの数は6体。
その内の1体に飛び掛かり、片手で軽々と持ち上げて、地面に叩きつける。
地面にひっくり返ったカニが、ハサミをブンブンと振り回して危ないので、ハサミの根っこを持って振り回す。
人よりも遥かに大きなカニも、CEには体格で劣る。
カニを振り回して、同士討ち。
即席の武器として、ブンブン振り回していると、ハサミが千切れて、吹っ飛んでしまう。
吹っ飛んで、建物に激突し、深く埋まって事切れる。
仕方が無いので、手元に残ったハサミを、別のカニにプレゼント。
胴体へと深々と突き刺して、仕留める。
軽く空を飛んで、別の個体を上からペシャンコにして仕留めて、残り3体。
熱線を撃って来た個体の攻撃を躱し、カニの頭部を、強靭な竜の顎で食い千切る。
ノコギリのような歯から黒雷が走り、鉄の体を食い千切り、咀嚼して飲み込む。
捕食。ドラグーンの右手に負った傷が、修復していく。
グレイドラグーンの持つ、ゼナスの効果。
捕食により、敵の力を奪い、自分の物とする。
この調子で、残りのカニも捕食。
通常のCEでは有り得ない、体力の回復を行って、大物の雷鳥に備える。
ドラグーンが吠え、飛び立つ。
小物は片付けた。
溜まった鬱憤を空にぶつけるように、翼で風を切る。
雷鳥は、地上に居る相手には、積極的に手を出さないようだ。
巨体ゆえに、ビルが立ち並ぶ地上には降りにくいのだろう。
ハルが、ゼナスを発動。
ドラグーンに自分の力を与える。
生命力を代償に、ドラグーンを強化。
失った体力は、ポーションで回復。
竜の前腕の骨が浮き上がり、体から突き出る。
突き出た骨は鋭く、獲物を屠る双剣となる。
グレイドラグーンの捕食能力は、パイロットへの適応も可能。
これにより、ドラグーンはパイロットのクラス特性やスキルを獲得することができる。
ゼナスにより、竜は銃剣を獲得した。
同時に、翼が真っ赤に燃え始める。
≪黒雷ブレイズキック≫ 。
炎の推進力で加速。
先ほどのリベンジと、雷鳥に斬りかかる。
速度を乗せて、右銃剣で突き刺し。
――雷鳥の姿が掻き消える。
ハルが、魔力野で雷鳥の動きを追う。
彼奴は、上に避けた。
ドラグーンの直上、雷が落ちるかの如く、雷鳥が突進。
今度は、ドラグーンの姿が掻き消える。
テレポート。
エージェントなら、誰でも使えるスキル。
竜の巨体がテレポートで消えて、雷鳥の落雷は空振る。
そして、動きを止めた雷鳥の前に、ドラグーンが出現する。
両の銃剣で切りつける。
下から逆袈裟を放って、雷鳥の体にクロスの斬撃を浴びせた。
初めて、ドラグーンの攻撃が通った。
ドラグーンは調子に乗って、追撃。
ハルの操縦を聞かずに、突きを放つ。
――あっけなく躱されて、背後から剣で刺される。
「‥‥‥‥もう!」
コックピットでむくれるハルに、ちょっとシュンとなるドラグーン。
さすがに反省したのか、大人しく操作をハルに譲る。
「ふふ、よろしい。」
背中に受けた攻撃により、崩したバランスを制御する。
上から翼で切りつけようとする雷鳥の攻撃を、バレルロールでやり過ごす。
なおも急降下する雷鳥の背を追いかけるも、ドラグーンの速力では追いつけない。
加速と最高速では、相手に分がある。
雷鳥は、雷の力を使い、ジグザグと狙いを絞らせないように飛行し、高度を上げて空へと戻る。
両雄、空中で睨み合う。
雷鳥が動く。
ここに来て、何の捻りもない体当たり。
真っ直ぐ最短距離で、翼で切りつけに来た。
それを、間一髪で受け止める。
魔力野が、相手の起こりを捉えてくれて良かった。
一瞬でCEの最高速度以上に加速する攻撃を、見てから回避なんて不可能だ。
雷鳥の翼を左銃剣で受けて、右銃剣で反撃。
反撃は、稲妻の後ろ回避によって避けられる。
始めから、突進と回避をワンセットとして組んでいたようだ。
ドラグーンが動く。
左銃剣を口の中へ。
バリバリと銃剣を噛み砕いて、再利用。
右腕が変形し、もう1本銃剣が生えてくる。
重心が偏り、機体がやや右方向へと傾く。
想定外の武器変更に、やや戸惑い気味のドラグーン。
「ふふふ――。これが当たれば、2倍強い!」
――もしかすると、操縦桿を渡したのは失敗だったかもしれない。
――もしかすると、コイツはダメなヤツかも知れない。
翼から炎が噴き上がり、雷鳥に銃剣突撃。
重い右腕を、左手で支えながら突撃する。
威力2倍となった銃突は、当たり前のように避けられる。
‥‥さて、上か後ろか?
(――後ろ!)
魔力野が、雷の流れを読み切る。
雷鳥が背後に現れて、竜の背中を、剣で引っ掻いた。
ドラグーンには申し訳ないが、これは耐えてもらう。
雷鳥の追撃。
こちらに振り返らない竜に対して、剣戟をもう1発。
ライフで受ける。
そして――。
武器を換装。
バルカン砲。
ドラグーンが振り返る。
振り返りながら、竜の高度が落ちて、雷鳥の剣戟が外れる。
黒雷と、闘志を混ぜ合わせ、力に変換。
ゼクロス。
黒雷で生命力を奪い、シンクロで闘志を流し、ドラグーンの出力が上昇。
左腕から生えた、高度を維持できないほどに重い武器を、片手で持ち上げる。
腕に生えたバルカン砲が、回り始める。
赤黒い稲妻と、蒼い閃光が走り、曇天に弾丸の嵐が吹く。
嵐に撃たれ、雷鳥は空で錐もみをする、嵐から逃れるように、雷の力で逃げ、距離を取る。
バルカン砲は、雷鳥の圧倒的な速度に対し、圧倒的な弾幕で食らいつく。
ハルの体力と闘志を根こそぎ奪いながら、雷鳥の体力を削っていく。
バルカン砲の砲身が赤熱し、焼ける。
武装をパージ。
捨てた武器が、空から落ちて、ビルに大穴を開けた。
雷鳥が、よろよろと体制を整える。
そして、自分に雷を落とし、傷を癒し失った力を蓄え直す。
反対に、ハルの方はボロボロのまま。
機体はまだまだ持つが、ハルの精も根も底が近い。
バルカン砲を撃つためのリソース、バルカン砲を構えるためのリソースで、体力もAGも大幅に消耗した。
今ので決まってくれれば良かったが、この世界はそんなに甘くない。
――だが、まだまだ作戦はある。
「よ~し。ドラグーン、プランBでいこう。
当たれば2倍強い、だからね。」




