SS9.05_クラウン
「あれが‥‥、工場?」
セツナが、双眼鏡を覗きながら呟く。
目的地から、少し離れたビルの屋上。
10階建てのビルの屋上から、目的地の偵察を行っている。
ビルの壁を吹き上げる風を受けながら、ハルは座って双眼鏡を覗いている。
「工場っていうよりも‥‥、村?」
ロボットの群れの残骸から得られた情報。
それによれば、この地点が生産元であり、出荷元であるという。
大きな工場と言われて、この方どなたと、上から覗いてみれば、そこに大きな建物なんてありはしない。
刑務所のように塀に覆われた、建物が並ぶばかり。
工場は無かったが、敷地は広い。
田舎の村とか、集落くらいの規模がある。
200人とか、300人が住めそうなスケールの敷地だ。
上から警備の状況や、人や車両の出入りを確認してみるも、何も見つからない。
背の低い建物が並ぶばかりで、塀の中はゴーストタウンと化している。
‥‥いよいよ、これが工場だなんて、イヤな予感しかしない。
これらの状況を踏まえて、作戦を立てる。
スマートデバイスが、ビルの上から見た様子を参考にマップを作成し、ホロディスプレイに表示してくれる。
実物とマップを見ながら、行動方針を固める。
「ハル、一応聞くけど、ガンナーらしく遠距離からの支援射撃ってできる?」
「バルカン砲で良ければ。」
「‥‥。よ~し、工場には2人で潜入しよう、そうしよう。」
「うんうん。そっちの方が、私好み。」
今回のロケーションとしては、高台が確保できるシチュエーション。
上からの目と支援があれば、潜入もしやすくなるのだが、生憎、ハルはロングレンジの攻撃手段を持ち合わせていない。
狙撃用の主力火器なども存在するが、1人で何でもかんでもこなせるようにするのは難しい。
スキルや武器の装備数には制限があり、あちらを立てれば、こちらが立たなくなる。
また、仲間との連携が必要となる武器は、少人数行動の多いこの世界では、敬遠される傾向にある。
遠くからチマチマやるよりも、前線でバチバチ大立回りした方が、強いのだ。
この世界は、狙撃銃でさえ、地面を滑ったり、壁を走ったり、動のアクションのための武器なのだ。
この世界では、リスクを負える者が強く、偉いのだ。
作戦会議を続ける。
「兄さん、分かってると思うけど、爆発はダメだからね。」
「‥‥も、もちろん。」
いま、ちょっと間があった。
今回の任務は、あくまでも捜査。
赤目の正体と、出没の経緯を調べる必要がある。
殴って終わりでは無いのだ。
面倒だからと、施設を吹っ飛ばそうものなら、任務は失敗だ。
Ultを使えば、村ひとつ吹き飛ばすことも難しく無いのに、残念だ。
結局、2人は正面から堂々と、工場にお邪魔することにした。
結局、やってることはいつも通り。
だけども、当たり前の事でも、事前に確認しておくことは大切である。
1秒の準備を疎かにすれば、実戦の1秒を失う。
そして、実戦における1秒の空白は、死ぬには充分過ぎる。
意思の疎通は大切である。
機能的な理由はもちろん、意思の疎通を行うことにより、連帯感や士気の向上といった心理効果も得られる。
コミュニケーションのマメさは、セツナとハルの兄妹仲が良い理由のひとつ。
そして、両親の教えのひとつ。
自分の考えは、察して貰おうとするのではなく、ちゃんと自分の言葉で口にすること。
そうすることで、自分の考えが受け入れられることと、自分が口にするでも無く察して貰えることに、ちゃんと感謝をできるようになる。
兄妹にとっては、金科玉条の教えである。
あのバカップル夫婦が説き、実践しているのだから、説得力も一塩だ。
2人は、屋上で潜入の準備を始める。
スマートデバイスによるナビゲーション、ロケーターを設定。
工場に正面から入ったら、そこから敷地内の中心にある建物を目指す。
そのルートを設定。
しつでも、視界にナビゲーションラインを表示できるようにしておく。
準備が終わったら、ビルから飛び降りる。
壁を走り下り、正面入り口まで移動。
敷地を囲う塀の外周を走るも、監視もカメラも無い。
3メートルほどの塀が、じっとこちらを見下ろすばかりだ。
間もなく、鉄の入り口の前へ。
入り口は、分厚く大きな扉で閉ざされている。
作戦開始。
セツナが、右手を地面に向けて広げる。
ハルが、両手の五指を組んで合わせる。
膨張する太陽に、二振りの特大剣。
地面さえ溶解させる魔法と、CEすら切り刻む特大剣が、開かずの扉を木っ端にして微塵に破壊する。
閉じた敷地は開き、外の者を招き入れる。
外からは、招かざる客が2人。
堂々と敷地に入って行く。
扉が破壊されたにも関わらず、警報が鳴る気配は無い。
警備の人間やロボットが、慌ただしく駆け付けることも無い。
‥‥だが、妙な視線は感じる。
前から、後ろから、生暖かい吐息が皮膚に掛かる、不快な感覚を覚える。
敷地に足を踏み入れた瞬間、周囲の湿度が高くなったと錯覚を覚える。
セツナとハルは、入り組んだ敷地内を、ロケーターの案内に沿って走る。
道中、手頃な建物の扉を開けて内部を確認するも、中に人もロボットも見当たらない。
雑多に荷物が積まれてあるだけで、目ぼしい物は見つからない。
だが、湿気た視線と吐息が、なおも皮膚を舐めている。
それは、敷地の深くへ行くほどに、その量を増していく。
2人は、目を合わせて頷き合う。
物語を動かす必要がある。
フラグを踏めば、この工場も本性を見せるだろう。
そして、物語が動き始める場所は、この敷地の真ん中。
外から見たときに、一目で目を引くほど、綺麗に塗装が施された建物。
正面入り口から潜入して約5分。
セツナとハルは、敷地の中央に到着した。
塀に囲まれた工場に、風が吹く。
‥‥耳の深いところ、鼓膜の上を虫が這うような、呻き声に似た風。
敷地中央の建物は、荒んだ無法の東部にあって、小奇麗な塗装が施されている。
コンクリート造りの3階建てに、白い塗装をして、土埃のひとつも無い。
建物の入り口や窓には、装飾が施されて、荒んだ街に華やかさを演出。
昼間でも存在感を示す、イルミネーション。
モミやサツマ杉などの常緑樹を用いた飾りつけ。
そして、入り口には――、クリスマスツリー。
「「‥‥‥‥。」」
どこからともなく、クラッカーの音が鳴り渡る。
どこからともなく、紙ふぶきが降って来る。
建物の屋上から、工場長であり村長である男が、姿を現す。
「ハッピーニューイヤー!!」
工場長は、サウィンイベントに乱入してきた、あわてんぼうのサンタクロースだった。
ハルが、屋上からこちらを見下ろすサンタに、指を差す。
「でたわね! ネタバレサンタ!」
「ネタバ――、何ぃ!?」
ネタバレサンタ。
あまりにも、あんまりな呼び名である。
サンタさんは、センチなハートがガッテムして、泣いてしまう。
「ガッテム! 激しくガッテム!!
私はただ、良い子に喜んで貰いたかっただけなのにッ!!」
オイオイと泣くサンタさん。
一瞬で泣き止むサンタさん。
指差してきたハルに、指を差し返すサンタさん。
「サンタさんを泣かせるなんて、さては悪い子だな? バッドガール?」
「‥‥どっちかというと、トムボーイ(米:じゃじゃ馬)。」
バッドガールに対して、トムボーイと返すセツナ。
すかさず、尻に蹴りを見舞うハル。
「痛った!? 痛っっった!?」
お尻を抑えて、ぴょんぴょん跳ねるセツナ。
微笑ましい兄妹のやり取りを見て、「HAHAHA――。」と陽気に笑うサンタ。
ホルスターから銃を抜き、魔法の矢をサンタに放つハル。
ひらりと矢を躱すサンタ。
「チッチッチッ! そんな安い芝居で、私に一矢報いれるとでも思ったかね?」
「――演技の勢いじゃなかったって、今の蹴り。」
お尻をさすり、ハルの横に戻るセツナ。
ハルは、サンタに銃を向けたまま。
「さあ、観念なさい。ネタバレサンタ。」
「ノンノン! 私はネタバレサンタなんかじゃ無いさ。
私には、ナイスデイという、素敵な名前があるのさ☆」
サンタの本当の名は、ナイスデイというらしい。
セツナが会話に混ざる。
「じゃあ、ナイスデイ。一体ここで、何してんの?」
「ふむ――。それはだな――――。」
ナイスデイは、白い付け髭をわざとらしく撫で、間を溜める。
それから――。
ナイスデイが立つ建物の窓が割れた。
セツナとハルは、咄嗟に建物から離れる。
ガラス片と共に、窓から人の影が落ちてくる。
人の影は、受け身も取らずにボトリと地上に落ちる。
水風船が割れる、イヤな音が響く。
ボトボトと10個ほど、落ちて響く。
セツナの腕で、スマートデバイスが鳴動。
レッドアラート。ディヴィジョナーの反応。
アラートが、周囲の建物に反響して、やまびこのように響き渡る。
割れた水風船が立ち上がる。
爛々と真っ赤な瞳をして、立ち上がる。
セツナとハルが身構える。
「赤目‥‥!」
「ハッハッハッ~! クリスマスに向けて、道化を用意していたのさ~☆」
ナイスデイがネタバレをかますと同時、工場のあちこちで、ドアを蹴破る音や、窓を割る音が響く。
レッドアラートのやまびこに釣られるが如くぞろぞろと、2人を囲むように赤目が迫って来る。
ナイスデイは、屋上に愛車のバイクを呼び出す。
同僚のトナカイは、家族が増えて、育児休暇中だ。
「せっかく東部まで足を運んだんだ。来たるイベントに向けて、ここで経験を積んでおきたまえよ!」
バイクのスロットルを開けて、屋上から飛び降りる。
着地し、道を黒く切りつけながら、黒い排ガスを2人にまき散らし、ナイスデイは逃走。
セツナが、ハルに指示を出す。
「ハル、プランBで行こう! 赤目はオレが。サンタを追って!」
「分かった!」
ナイスデイを追いかけるため、ハルもバイクを呼び出す。
バイクに跨り、フルスロットル。
赤目は、ハルが跨る、軽トラック並みの大きさを誇るランドクルーザーにも怯まず、群がって来る。
その様子は、まるでゾンビのようだ。
ウィリーをして、赤目を轢き潰す。
デカい車体は、赤目を轢いてもハンドルを取られること無く巡航。
逃げたナイスデイを追う。
無謀にも潰された赤目が、ゆっくりと立ち上がる。
潰れた身体が、赤い蟲のような液体に覆われて、完全に修復される。
蟲は、身体だけでなく、服の損傷まで修復している。
「うわー‥‥。どうやって倒そう、これ?」
ぼやきながら、魔導ガントレットを装備した右手を構えるセツナであった。
◆
ハルは、銃剣で塀を壊し、ショートカット。
最短距離を疾走し、ナイスデイの背中を捉える。
真っ直ぐのストレートを加速し、追いかける。
しかし、追われる身となっているナイスデイは、余裕綽々。
ドライブアシスト機能を使い、ハンドルから手を離し、葉巻の面倒を見ている。
ハルもハンドルから手を離し、二丁拳銃を構える。
交差点に差し掛かったナイスデイに向けて射撃。
魔法の矢が4本放たれて、1本がバイクに命中する。
ナイスデイは、葉巻に火をつけて、ひと口目を吸っている。
ハルが交差点に差し掛かる。
2射目の照準。
――と、ここでカーチェイスに乱入者。
左右の道から、バイクに乗った、スーツ姿のアンドロイド。
信心深く、信仰のために爆発四散したアンドロイド。
彼は、チューズデイ。
ナイスデイの、頼もしい助手。
ハルは照準を変更。
前方のナイスデイから、左右のチューズデイに。
腕を交差させ、二丁拳銃が火を吹く。
魔法の矢が、左右のチューズデイの体を捉え、彼らはバイクから転倒。
バイクは主を失ってなおも走り、ハルの後ろで正面衝突して爆発を起こす。
銃をホルスターにしまう。
姿勢を低くして、飛散する残骸に当たらないように。
ナイスデイを追いかける。
チューズデイの追跡は終わらない。
立ち並ぶビルの上に、いくつもの人影。
皆、バイクに跨っている。
ある者は、バイクで加速して空を飛び、ある者は、ビルの壁をバイクで走る。
空から、ハルに目掛けてチューズデイの奇襲。
機械らしい偏差処理によって、ハルを上から潰さんと迫る。
バイクを傾けて、右に避ける。
ハンドルを切るのではなく、身体の重心を傾けることによってバイクを操り、回避。
左の拳銃を抜き、発砲。
スキル ≪ブレイザー≫ 。
爆発する弾丸が、銃口からフルオートで吐き出される。
爆発を何発も浴びて、チューズデイとバイクが誘爆を起こす。
連鎖爆発。
――バイクの傾きが、キツくなる。
「‥‥‥‥うっ!?」
銃の反動と、敵の爆発。
その煽りで、バランスが取れなくなってしまう。
右の膝が、道路を擦りそうになる。
そこに、ビルの壁を横に走っていたチューズデイが飛び掛かる。
「――このっ!」
足に火炎を纏い、地面を蹴る。
≪ブレイズキック≫ によって、転倒を阻止。
身体と車体が、今度は左へと大きく傾く。
素早く、右の銃を引き抜いて、 ≪ブレイザー≫ 。
空中に居るチューズデイを仕留める。
チューズデイとバイクが爆発し、またもや転倒の危機。
銃をホルスターにしまい、ウェポンシフト。
両手の人差し指を立てて、合わせる。
チェーンソーを召喚。
両手に握ったチェーンソーを、身体の左側に突き立てる。
エンジンの掛かっていないチェーンソーが、倒れる車体の杖となる。
回っていないエッジが、道路で火花を上げて、道を削っていく。
チェーンソーを杖に、反動を使い、車体のバランスを取り戻す。
空からは、三度チューズデイ。
ウィリー、前輪を浮かせる。
道路との摩擦が減ったことにより、少しだけ加速。
チューズデイの強襲をやり過ごす。
チェーンソーのスターターを引っ張る。
眠っていたエンジンが目覚め、エッジが回転を始める。
後ろに居たチューズデイが加速し、ハルの横にバイクを着ける。
‥‥、一刀両断!
のこのこと横に出てきた怖いもの知らずを、胴体から一刀両断してやった。
ハルは、チェーンソーを片手で握り、スロットルレバーを握り込み、エッジを回しながらバイクで疾走。
並走しようとするチューズデイを叩き斬り、空から強襲するチューズデイを真っ二つにする。
バイクに跨り、チェーンソーを振り回す。
終末世界の騎馬兵となる。
チェーンソーのスロットルを強く握り込めば、エッジに塗られるオイルの量が増える。
オイルが増えると、火花の勢いがますます強くなる。
チェーンソーを振るう。
すると、火花が竜巻となって飛んで行く。
火花は、回転する斬撃となって、空を飛んで来たチューズデイを迎え撃ち、仕留めた。
同時に、チェーンソーのエッジが止まる。
オイル切れ。
オイルが無くなったことでエッジが熱を持ち、膨張してスタックしてしまう。
サイドミラーを確認。
後ろに、チューズデイが1人。
チェーンソーを手放して、追跡するチューズデイにプレゼント。
ウェポンシフト。
そして、バイクの上に立つ。
呼び出すのは、バルカン砲。
カーチェイスにより、AGが溜まった。
闘志を薬室に込めて、ぶっ放す!
バルカン砲から、秒間100発という暴風雨が吹き荒れる。
暴風は、前方を走るナイスデイに、後ろから降りかかる。
魔法の矢を物ともしていなかったバイクも、さすがにこの暴風雨には耐えられない。
ミラーが割れ、ライトが割れ、タイヤがパンクし、黒い煙を上げていく。
そして、ナイスデイがハンドルを取られた。
「Shit!!」
ナイスデイがバイクから転げ落ちる。
サンタの衣装を塵埃で汚しながら転がり、その彼方前方で、愛車が爆発する。
「マンマミーア!!」
ナイスデイは膝立ちとなり、両手で頭を抱え、コミカルに燃える愛車を見つめる。
ハルが、ランドクルーザーを止めて、ナイスデイの元へと歩み寄る。
二丁拳銃のリアサイト同士を引っ掛けて、スライドを引く。
戦闘修道服の、軍靴の靴底が、カツカツと道路を叩く。
軍靴の音に、ナイスデイが振り返る。
銃口が、額に突き付けられる。
「ヒドイじゃないか。まだ、ローンも払い終わってないんだぞ。
――カミさんに内緒で買ったヤツだったんだぞ。」
スキル ≪飛燕衝≫ 。
問答無用、魔法の矢で額をぶち抜いた。
ナイスデイの上体が反れて、後ろへと倒れていく。
上体を反って倒れていく、その無防備なアゴに、じゃじゃ馬キック。
サウィン祭りの借りを、ここで返す。
ナイスデイは吹き飛び、燃えるバイクに突っ込む。
「――なら、ずっとそうしてなさい。」
ナイスデイを蹴り飛ばしたハルの周りを、新手のチューズデイが囲む。
‥‥キリが無い。
「ふっふっふ――。」
不敵な笑みを浮かべながら、ナイスデイが炎の中から立ち上がる。
燃えるサンタの衣装を着たまま、2歩3歩と前へ。
「兄の背中にくっついてばかりだと思っていたが――、大したレディだ。」
「それはどうも。」
サンタは、指を鳴らす。
――空が、急激に曇り始める。
スモッグに覆われた太陽が隠れ、曇り、急激に気温が下がる。
風が吹く。強風となり、嵐となる。
「素敵なレディ。これは、私からのプレゼントさ☆」
曇より雲の合間から、怪物が顕れる。
――大きい、見るからに凶暴な、怪鳥。
翼を広げた大きさは、CEの2倍はくだらない。
「サンダーバードだ。可愛がってやってくれ。」
そう言って、ナイスデイは、ハルに背を向けて去って行く。
‥‥少し歩いて、よろめいてこけそうになり、チューズデイに支えられる。
「――ゴホッゴホッ。うむ、ありがとう。」
チューズデイに、口から出たトマトケチャップを拭いてもらい、肩を借りながら歩いていく。
ナイスデイの助手である紳士が、指を弾く。
すると、どこからともなく、カニが集まってくる。
建物の中から、ビルの屋上から、地中から。
5体6体と現れて、ハルを囲む。
地上にはカニ、空にはサンダーバード。
サンタさんからの、大人になったレディへの贈り物。
「――やってやろうじゃない‥‥!」
ハルは不敵な笑みを浮かべ、インベントリからスマートデバイスを取り出す。
デバイスの横にあるボタンを長押し。
デバイスの画面に、読み込み画面が表示され、ゲージが溜まっていく。
『センチュリオン、オーバードライブ。』
暗い空に、さらに一層と暗い魔法陣が展開される。
曇った空よりも更に暗く、稲光を吸い込むほどに大きな穴が開く。
魔法陣から、黒い稲妻が走る。
――魔法陣の向こうから、竜の遠吠えが響いた。
「来なさい! グレイドラグーン!!」
厄災の幼体が、ハルの呼び声に吠える。
‥‥‥‥。
‥‥。




