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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
6.5章_嵐へ続く

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SS9.04_ビルドとアプデ談議。

『ばいば~い☆』


戦闘が終わり、カボチャの精霊は帰って行った。


肺の中の、熱くなった空気を入れ替えるために深呼吸。

東部の埃っぽい空気が入って、呼吸と心拍数が安定する。


体力が全快し、AGがゼロに戻る。



「ハル、お疲れ。」



ひと息ついているハルのところにセツナがやって来て、労う。

彼が拳を差し出しているので、グータッチで応える。


ハルは、インベントリから缶ジュースを取り出す。

氷点下まで冷えた、甘いソーダを2本。


1本をセツナに渡す。



「サンキュー。」



お礼を言って受け取り、缶の栓を開けてると、景気の良い音が、静かになった街中に響く。

栓を開けた衝撃によって、過冷却されたソーダがフリージング現象を起こし、中身の一部がシャーベット状となる。


運動のあとの、冷たいジュースは美味しい。


そして、冬に冷たいジュースも美味しい。

暖房の利いた部屋の飲むヤツは、格別。


2人は、ジュースを片手に休憩モード。


ロボットの残骸が転がる場所で、一服つき始めた。


そこに、教会の密偵が5名やって来る。

ハルとセツナを、裏でサポートするための人員だ。


その中には、かつてセツナが助けたシスターも居る。

空を走るトラックに轢かれそうになっていたところを、セツナとハルが助けたシスターである。


彼女は、2人にペコリとお辞儀をして、ロボットの残骸を集め始める。

データを解析して、情報を集めるつもりなのだろう。


アンドロイド紳士の口ぶりや、現在の状況から察するに、東部で目撃されている赤目は、このロボットたちと出所が同じである可能性がある。


残骸から足跡が掴めれば、捜査にも進展が見えて来る。

何か、掴めれば良いのだが。


密偵の邪魔をしても悪いので、2人は、大人しくしていることにする。

待っている間は、雑談タイム。


セツナは、ハルが倒したロボットの群れを一瞥。


彼女は、10を超えるロボット部隊を1人で倒したのだ。

もう、そんじょそこらのプレイヤーよりも、強くなっているかも知れない。



「すごいスピードで上達してるね。

 あれを、デビュー2ヵ月で倒せるなんて。」


「ありがと!」



ハルは、にひっと笑顔。



「やっぱり、お手本がいいんだよ。」

「それはどうも。」



ハルの上達が早い理由は、複数ある。


彼女が元々、才女であること。

分からないことは聞く、調べるなど、素直であること。


電脳世界での出会いに恵まれていること。


そして、優秀なお手本が近くに居ること。


電脳世界で戦うにあたり、彼女が最も参考にしているのは、他でもない、兄であるセツナだ。


先ほどの戦いにおいても、チェーンソーを投げつけたり、カボチャをワイヤーに括りつけたり、どこかの誰かさんがしそうな動きが、随所に見られた。


凡人であるがゆえの、手段を選ばない泥臭い戦法。

どだいセツナは、持っている物に乏しいゆえ、必然的に周りの物を使う、相手の虚をつくという発想に行きつきやすかったのだ。


ランカーという、持つ者の立場となっても、その傾向は変わらない。

泥をひたすらに積み上げ、他の超人たちと肩を並べるに至っている。


――兄に追いつくには、まだ時間が掛かりそうだ。

彼は、いつだって自分の前を走っている。



「そう言えば――。」



ハルが話題を変える。

話題は、セツナの()()()の話し。



「アプデ (アップデートの略語)で、兄さんの想い人が帰って来たらしいね。」

「そう! 強くなって新登場!」



≪魔女の一撃≫ 、元 ≪銀腕の一撃≫ の話題が出て、露骨にテンションが上がるセツナ。

よっぽど、嬉しかったらしい。



「今回はね、サポートパッシブのいくつか登場して、ちゃんとビルドとして組めるようになったの!」

「むしろ、過去作には無かったんだ。」


「無かった。無かったから、手頃な汎用パッシブで誤魔化してた。」



汎用パッシブとは、AG最大値上昇や、AG増加量上昇などのこと。

とにかく、AGが溜まらないことには話にならかったので、AG関連盛り盛りビルドになりがちだった。



「だけど、今回はAG2本でも使えるようになったから、だいぶ使いやすくなった!」

「おお! ちゃんと痩せて帰ってきたじゃん。」


「それはホントにそう。AG100ポイント使ってぶっぱするのも、ロマンあったけどね?」



過去作にてプレイヤーから、散々「痩せろ」と言われたせいか、今作ではパッシブ「魔女の魔水晶(ヘックス・コア)」を装備することで、 ≪魔女の一撃≫ をAG2本で使用ができるようになった。


その分、攻撃の前に、無限の発生隙があるので、使いどころが難しいのは変わっていない。

なお、AG4本で発動させると、前隙は短縮される。



「いや~、銀腕ビルド使いからしたら、報われる嬉しいアプデだったね。」

「――調子に乗って、動画を作るくらいだもんね。」


「うっ!?」


「可愛い妹の、ゲームのお誘いまで無視しちゃって~。」

「う゛っ!?!?」



アプデ当日、彼はひたすらCCC支部にあるトレーニングルームで、 ≪魔女の一撃≫ の研究をしていた。


ハルが、自分のビルドの調整と練習に付き合って欲しいと連絡を入れても、音信不通だった。

ちなみに、調子に乗って作った動画は、再生数がギリギリ3桁に乗っていた。


みんな、散々ネタにするけど、誰も使わない。

銀腕ビルドとは、そんなビルド。


ハルの口撃は止まらない。



「しかも、兄さん動画で銀腕ビルドって言ったけど‥‥。

 いま、スキルの名前、銀腕じゃないじゃん。魔女じゃん。」


「あぁ~! 言っちゃいけないこと言った!

 今、全銀腕プレイヤー(※)が気にしてること言った!」

※そんなものは、居ない。



過去作では ≪銀腕の一撃≫ 、今作では ≪魔女の一撃≫ 。

名前が変わっている。


‥‥厳密には、≪銀腕の一撃≫も続投はしているのだが。



「もうね、その辺、散々ネタにされてるんだよ。

 元銀腕とか、旧銀腕とか、新古品とか、左遷とか――。」



現役時代は、「痩せろ」とか「甘味たべてるだけ」とかネタにされ、復活したらしたでネタにされ。

逃れられない! イジられキャラの運命(カルマ)


売り言葉に買い言葉。

やられっぱなしだったセツナが、反撃に移る。



「そういうガンスリンガーこそ、銃使わずに、銃剣ブンブンしてんじゃん!

 もう、銃剣士に改名しちゃえば?」


「ああ~! 言ったなぁ!?

 銃もちゃんと使ってるんですけど!? 強いんですけど!?」


「あれでしょ? ガンスリンガーの銃って、爆弾をしまうための、爆弾ケースでしょ?

 弾も撃てる爆弾ケース。」


「この‥‥‥‥ッ!!」



ガンスリンガーは、銃剣士。

これもまた、ネットでネタにされている話題のひとつ。



「――で? 実際、銃って使用感はどうなの?」

「う~ん‥‥。対人では強い。」


「ボス戦は?」

「大型の敵がホントに無理、キツイ。」


「ほう。なんで?」

「火力とリゲインが低いから、ダメージレースで負ける。」


「なるほど。」

「だから、強い敵とかボスとかが相手だと、銃剣ブンブンしがち。」



ガンスリンガーは、銃剣士。

このネタには、ガンスリンガー使いにとって、切実な悩みが関係している。


ガンスリンガーは、クラスコンセプトとして、武器をとっかえひっかえしつつ戦うことを前提としている。


二丁拳銃と、3つの主力火器、徒手空拳。

それと、ビルドによっては銃剣。


この武器には、それぞれ特徴があり、強みと弱みを持っている。


銃剣は大振りだが威力に優れ、徒手空拳は守りを犠牲に、優れた近接火力を誇る。

そして、二丁拳銃は、高機動ロングレンジ・低火力の特徴を持つ。


機動力が高く、リーチに優れるため、ロータフネスの敵を狩ったり、1対1の対人戦では猛威を振るう。

が、逆に硬い敵が相手だと、強みが死に、弱みの低火力だけが目立つようになる。


結果、手強い敵には銃剣を使用することが多くなり、そのため、傍から見ると銃剣をブンブンしているイメージばかりが強く残ってしまうのだ。


この辺りの事情は、実際に使って見なければ分からないし、深い所までやり込んでいないと分からないことだ。


今作からの新クラスであるガンスリンガーの事情に、ちょっと明るくなったセツナであった。



「――そうなると、ハルがチェーンソーを装備してるのって‥‥。」

「二丁拳銃の非力を補うため。銃剣は、近寄られると何もできなくなるから。」


「へぇー、考えること多いね、ガンスリンガーって。」

「そこが、面白いところなの。」



あれこれと、ビルドや戦術を考えるのは楽しい。

ゲーマーあるある。


大真面目に構築した結果、物凄く中途半端で、物凄く弱い構築が出来上がることもある。

メッチャふざけて組んだ構築が、割りとガチでビビることもある。


FPSで、プライマリ枠にシールド、セカンダリ枠にRPG、グレネード枠に投げナイフなんて構築が、割りとイケるなんてこともある。


無限のスクラップ&ビルドと、トライ&エラーが、ゲームの世界にはある。



「ハルが、Ultをアンロックするのが、今から楽しみ。」

「Ultスキルもだけど、Ultパッシブも凄いらしいね。」


「うん、ヤバい。特にメイジがヤバい。

 一覧見せてもらった時に、目を疑ったわ。」


「そんなにスゴイのがあったんだ。」

「うん。なんでも1作目で――。」


「あの――!」



雑談で盛り上がっている所に、シスターが走って来た。

解析が、ひと段落したらしい。


雑談を切り上げて、シスターの話しを聞く。



「解析をした結果、ロボットの生産場所が分かりました。」



セツナとハルは、互いの顔を見合わせる。



「オーケー。じゃあ、そこに行ってみよう。」

「決まりだね。」


「えっと‥‥、その‥‥。」



報告を受けて、即行動に移ろうとする2人に、シスターはしどろもどろ。

何やら、気に掛かることがあるのだろう。


シスターにハルが笑顔を見せる。



「だいじょうぶ、だいじょうぶ。

 罠かも知れないってことも承知で、行ってくるから!」



東部は、エージェントが普段過ごしている西部とは勝手が異なる。

現に、教会の密偵が解析をしているあいだ、何者もここに現れなかった。


これが西部であれば、闘争と抗争の気配を嗅ぎつけたチンピラが、乱入して乱闘になるのだ。


東部の連中には、それが無い。

ヤバそうな手合いには、手を出さずに隠れる。


そんなに用心な連中が、ロボットに製造元なんて情報を残すだろうか?


自分たちが逆の立場であれば、そんなことはしない。

そんなことをする時は、相手を罠に掛ける時だ。


十中八九、次の行き先には、罠があるだろう。


ハルとセツナは、それを承知で、解析で明らかになった場所へと赴くことにする。

シスターは、2人の意向を受けて、目的地の座標を送る。



「場所は、ここから北西に20km。そこに大きな工場があるようです。」



ハルはお礼を言って、移動の準備に入る。

目的地が、20km先なら、足がいる。


足を呼び出す。


道路に魔法陣が展開され、呼び出したのは、バイク。

軽トラと見紛うサイズの、ランドクルーザー。


セツナも、バイクを呼び出す。

オフロードもイケる、中型のバイク。


バイクに跨り、エンジンを点ける。



「工場、ねぇ‥‥。いったい、何を作ってんだか?」

「ロボットを作ってるだけ――。それで、終わればいいんだけど。」



赤目の製造元なんてことが無いのを、祈るばかりである。


ホロディスプレイのナビが起動し、2人は目的地までフルスロットル。

道交法の存在しない都市を、全速力で走り出すのであった。

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