SS9.03_魔女の一撃 (ヘックス・シュトルム)
セントラル東部で目撃されている、赤目の人間。
赤い瞳は、ディヴィジョナー化の症状。
赤目の真相を究明すべく派遣されたハルとセツナは現在、屑拾いのロボット軍団に囲まれていた。
ロボットの種類は、3種類。
5メートルの大きさがある、カニ型のロボット。
灰色の体、大きなハサミに、鋭い脚、大きなモノアイ。
数は前方に1機。
――いま、ビルの屋上から飛び降りて来て、2機になった。
数は2機。前と後ろに1機ずつ。
カニのサイドを固めるのは、イカ型のロボット。
イカを上下反対にしたような形をしており、大きさは3メートル。
カニよりの一回り小さく、耳 (頭の三角形の部分)を地面の方に向け、触手が上を向いている。
地面から数センチほど浮いて (フロートして)おり、触手の先端は、鋭く研がれている。
視覚センサーとして、モノアイが搭載されている。
数は全部で――、たくさん。
前にも後ろにも、それぞれ10機以上いるので、たくさんだ。
体色はピンク色で、コイツ等が、本ミッションのザコ敵らしい。
‥‥ザコ敵も、いよいよザコと呼べないほど、格が上がってきた。
そして、空からこちらを見下ろすのは、ヒトデ型のロボット。
数は6機で、撃ち落とすのなら、主力火器に頼りたい距離。
大きさは1メートルで、オレンジ色をしている。
空中を、クラゲのようにフワフワと漂いながら、こちらを、体の真ん中にある瞳で見つめている。
セツナとハルは、たくさんのモノアイに囲まれて、何だか気が休まらない。
心を、下の方から撫で上げられるような、ソワソワとした感触を覚える。
相手の出方を窺う。
セツナが前を、ハルが後ろを担当するらしく、言葉も無しに、互いの背中を守るように構える。
‥‥‥‥。
敵が動いた。
空からヒトデが、一斉にレーザーを放つ。
レーザーは、速度こそ速くないものの、空中で分裂し、敵を追い詰めるような軌道で迫って来る。
これは、援護射撃としての攻撃。
レーザーで獲物の動きを制限し、地上部隊で仕留める連携なのだろう。
包囲レーザーをスライディングで潜り、2人は前と後ろに散会。
ハルは、空のヒトデに向けて、魔法の矢を放つ。
スライディングをしながら、合計で4発。
的が大きく、命中するも、的が大きいせいか、体力を削り切れない。
図体が大きい分、相応にタフであるようだ。
それは、想定通り。
スライディングから立ち上がりながら、二丁拳銃をホルスターへしまう。
武器の変更。
両手の人指し指と、中指を立てて、合わせる。
主力火器を召喚。
『トリックオアトリート~♪』
ハルの傍に、カボチャの精霊、2頭身のジャックオーランタンが顕れる。
アップデートで追加された、ガンスリンガー専用の主力火器。
今まで装備していた、ドローンと入れ替える形で装備した、新たな武器。
ハルは、足に炎を纏い、ジャックオーランタンを蹴り飛ばす。
『レッツゴー!』
精霊は火炎を纏い、黒い目と口から、赤い光を吹きながら、空へと突進。
魔法矢を受けて怯んだヒトデに、ごっつんこを決めて、ヒトデを倒す。
『やったぜ☆』
宙でくるりと縦に回って、喜びのダンス。
それから、ポフンと消えて、帰っていく。
ウェポンシフト。
両手の人差し指を立てて、合わせる。
チェーンソーを呼び出す。
ロケットランチャーと入れ替えで装備した主力火器。
走りながら、スターターを引っ張る。
一発でエンジンが掛かり、スロットルレバーを握れば、エッジが回転を始める。
エッジが回り、潤滑油のオイルがエッジに塗られて、オイルが発火して刃から火花が上がる。
イカ型ロボットが動く。
2機が前に出て、触手を伸ばす。
触手の中でも特に長い腕、触腕でハルを切りつける。
上から降りかかって来るように切りつける触腕、その2つを横に躱す。
そして、残りの2つを、チェーンソーで切り落とす。
無造作に振るわれたチェーンソーは、イカの腕をズタズタのミンチへと返る。
空から降り注ぐレーザーを ≪ブレイズキック≫ の速力で振り切りながら、触腕を切り落としたイカの懐へ。
チェーンソーを横に一閃。
イカの頭を両断。
イカの内臓が露わとなり、回線がスパークを起こす。
チェーンソーを投擲。
先ほど、ハルに触腕を伸ばした、もう一機のイカにチェーンソーを投げつけて、走り出す。
チェーンソーは、イカに命中。
大きな分、タフではあるが、動きはさほど速くない。
ハルの背後で、横に両断されたイカが爆発。
爆風を追い風に、加速。
後頭部に、小さな残骸が直撃したが、気にしない。
他のイカ共による触手を躱しつつ、刃が半分埋まったチェーンソーを握り、押し込む。
刃渡り1メートルの刃が、先端だけ、イカの身体を貫通する。
レバーを握り込み、フルスロットル。
チェーンソーを上に振り上げて、振り抜いて、イカの解体ショー。
これで、イカを2機、ヒトデを1機、捌いた。
カニが動く。
イカの取り巻きの後ろで、モノアイを輝かせ、熱線を放つ。
チェーンソーの腹を盾に、熱線を受ける。
ハルのブーツが煙を上げながら後退するも、レーザーを受け止める。
カニが前進。
ヒトデが、空から包囲射撃。
カニは、甲殻類に相応しい装甲を誇るようで、ヒトデのフレンドリーファイアを意に介していない。
ヒトデの包囲射撃によって、一方的に有利を得る。
レーザーの網で囲み、ハルの後退を咎め、距離を詰めてハサミで攻撃。
彼女の身体を刈り取るように、ハサミが広げられて、硬質なシャッター音が響く。
ハルは屈んで、攻撃をやり過ごした。
大きなハサミが日光を遮って、大きな日陰が出来ている。
頭の上で響いたシャッター音は、鼓膜を強く刺激し、それを受けた自分の末路を、脳裏に鮮明に想起させる。
チェーンソーをしまい、両手を地面につける。
スキル ≪サイバーシャドー≫ 。
テレポート。
ハルの姿が自分の影の中に溶けて、影の中を移動して瞬間移動。
現れたのは、カニの懐。
ここならば、ハサミの攻撃は通じない。
ここならば、レーザーも触手も飛んでこれない。
しかし、カニにとっても、ロボットの設計者にとっても、それは想定通り。
カニのモノアイの下、口に該当する部分が開く。
それは、足元に潜ったハルには見えていない。
いやらしいことに、口が開いた音も聞こえない。
カニの口から、バブルを発射。
ステイシスバブル。
ハルの頭上から、大量の細かい泡が落ちてくる。
泡はみるみるうちに広がって、カニの足元いっぱいを埋めてしまう。
ハルの姿が、泡に飲まれて見えなくなる。
(身体が‥‥、動かない‥‥。)
泡は粘度が高く、覆われた者の、動きと呼吸を奪う。
――悪質な初見殺し。
小賢しい立ち回りをしてくるプレイヤーを殺す、この世界の悪意。
カニは後退。
カニのクセに素早い後ろ歩きで、泡の中で藻掻くハルから距離を取る。
離れた間合いは、ハサミの間合い。
両のハサミを天へと掲げ、開く。
スモッグに覆われた太陽を、ギラギラとギロチンが浴びて――、両断。
必殺にして、致命の攻撃が、泡の塊を3枚におろす。
狙いなんてつける必要は無い。
大きなハサミを大きく広げて閉じれば、当たる。
カニの両のハサミが、泡の塊に触れた瞬間――、泡の中で爆発が起こった。
爆発で泡が弾けて、その中から大きな泡のまとまりが、ごろごろとカニの足元に転がって来る。
泡の中には、ハルがまだ居る。
彼女は、二丁拳銃をホルスターから抜き、 ≪グレナディア≫ を発動。
爆発物と化した、銃のマガジンを足元にリリース。
自爆によって、間一髪で、泡の処刑台から脱出したのだ。
泡に覆われた状態で、カニの足元を転がり、もう一発自爆。
カニの足元を潜り、距離を取る。
これで、ギロチンからは逃れた。
‥‥次に待っているのは、ムチ打ちだったが。
自爆を2回もしたにも関わらず、ハルを覆う泡は、完全には取れていない。
まるで、イカやタコのぬめりのように、しつこく彼女に付きまとう。
視界を奪われたハルに、イカの触腕が振るわれる。
イカの群れに、1発2発、3、4、5、6と、タコ殴り。
タコ殴りによって、泡が取れ、やっと動きと視界が戻ったと思ったら、イカの触腕に巻きつかれて、持ち上げられる。
細い体がひょいと持ち上がり、胸の骨が軋みを上げる。
――宙に持ち上げられた獲物に、カニのギロチンが迫る。
8本の足を器用に使い、自動車の走る速度ほどで、一気に詰め寄る。
ハルは、触腕の拘束の中で抵抗する。
泡のぬめりを使い、両腕を触腕の中から引き抜く。
彼女の顔が、日陰に隠れる。
カニが立ち塞がり、触腕ごとギロチンに掛ける。
――両の五指を、組んで合わせる。
拘束の中で、右腕を振り上げる。
カニのハサミは、上へ逸れて、空を切る。
左腕を振り下ろす。
イカの触腕が、バターみたいに切り裂かれて、拘束から解放される。
彼女は、銃剣を召喚したのだ。
刃渡り3メートルの特大剣が、彼女の窮地を救う。
右銃剣をコントロール。
投げ飛ばすように腕を振るって、カニの胴に突き刺す。
厚い装甲に対し、銃剣は先端しか刺さらなかったが、怯ませることには成功。
左銃剣で、イカを仕留める。
左腕を横に振るい、触腕を切り落としたイカをひと撫で。
バターみたいに切り裂いて、仕留める。
銃剣をしまう。
空からレーザー。地上からは触手。
体勢を整えるために、回避に専念。
彼女の兄である、セツナを彷彿させる、アクロバティックな回避。
フロントフリップや、バックフリップで、空中も使って回避をしながら、攻撃の網から逃れたら、バク転で距離を取る。
インベントリからポーションを取り出し、体力を回復。
即座に攻勢。
両手を合わせる。
新ウェポンを召喚。
彼女の友人である、アイの影響を受けた主力火器。
6砲身バルカン砲。
毎分6000発の火力に、総重量300kgを超える怪物主力火器。
ガンスリンガー専用の主力火器で、AGを弾丸として攻撃を行う。
その重さゆえ、装備中は、まともに動けない。
牛歩で歩くのが、精一杯。
取り扱いの悪さは一級品。
同じくらい、火力の高さも一級品。
AGを注ぎ込むと、バルカン砲に蒼い稲妻が走り、砲身が回る。
スピンアップ、直ちに射撃準備が終了。
トリガーを引く。
毎秒100発という、「電動ノコギリ」の5倍もの暴力が、6門の砲から放たれる。
その制圧力は凄まじく、ハルの足元では、銃撃の余波で砂煙が巻き起こり、周囲の塵を持ち上げる。
道路が、忙しない工事現場のように微振動していく。
バルカン砲がもたらす暴力は、近距離でプレイヤーが食らえば、1秒で死ねる暴力。
挨拶代わりに横に薙ぎ払えば、カニを除くイカ部隊が怯んで二の足を踏む。
空から、ヒトデがレーザーを放つ。
レーザーは、ライフで受ける。
細かいダメージは無視。
やられる前にやる、ストロングスタイルで行く。
秒間100発の嵐を、カニが突っ切る。
ハサミを盾にして、脆弱な胴体を守りながら突進。
銃口を、カニに向ける。
100発の弾丸が、カニに襲い掛かる。
自動車に匹敵する速度を誇るカニの足が、鈍くなる。
鈍くなり、ついに止まった。
ハサミが銃弾に晒されて、赤熱していく。
赤熱すれば、脆くなる。
カニのモノアイが輝くも、それを見透かしていたかのように、弾丸に撃ち抜かれる。
熱線が暴発し、カニの動きが止まった。
その隙に、イカの掃除を済ませる。
距離を詰められる前に、銃弾を浴びせるられるだけ浴びせる。
1体倒し、2体目を倒し、3体目を倒した。
ここで、触腕の間合いとなる。
振るわれた触腕を、バルカン砲を抱えたまま躱し――、躱し切れずに直撃。
しかし、バルカン砲の重さによって、身体は吹っ飛ばず、砲を握ったままその場に留まる。
自分と地面を叩いた触腕に、バルカン砲の本体をプレゼント。
触腕の上に乗っけて、自由を奪う。
バルカン砲で動きを封じたイカの顔面に、渾身の右ストレートをお見舞い。
スキル ≪ブレイザー≫ 。
燃える右ストレートで、イカをぶっとばす。
バルカン砲に踏みつけられている触腕が千切れて、イカが吹っ飛んだ。
砲をしまい、次々と迫る触手を屈んで躱し、両手を地面へ。
≪サイバーシャドー≫ 、空中にテレポート。
瞬間移動が終わると同時に、カボチャを召喚。
精霊に手を取ってもらって、宙に滞空。
そのまま、精霊に投げてもらって、空中を漂うヒトデに、攻撃。
じゃじゃ馬キックが、ヒトデの目ん玉に突き刺さり、お釈迦になる。
仕留めたヒトデを足場に、バックフリップ。
宙返りした先では、カボチャが手を振って合図をしている。
拳に炎を纏う。
背中を向けたカボチャに、拳を振るう。
『Whoo~↑↑』
カボチャは、勢いよく地上へ。
間もなく着弾し、爆発を起こす。
ジャックオーランタンは、以前装備していたドローンとは異なり、単体での攻撃性能を持たない。
代わりに、投げ飛ばしたり、蹴り飛ばしたり、殴り飛ばすことで、武器として使うことができる。
‥‥なんでも、カボチャ界では、この遊びが今アツいらしい。
爆発を起こし、地面を弾んで宙に浮くカボチャ。
そこに、空から降ってきたハルの、燃える右ストレートが、もう一発。
追いストレートに、追い爆発。
イカの残党が、爆発に巻き込まれて怯む。
カボチャは、地面を弾んでバウンドし、空高くに飛んで行く。
それを、マジックワイヤーでキャッチ。
巻き取って、イカの上に叩き落とす。
『ごっつんこ☆』
本気になれば、魔神並みに強いカボチャは、コミカルな星のエフェクトを発生させて、イカに頭突きをかます。
脳震盪 (?)を起こしたイカが、ゆっくりと後ろに倒れる。
ワイヤーを巻き取り、戻って来たカボチャを、燃える足で蹴り飛ばす。
ワイヤーを繋いだままのカボチャが飛んで行って、やっぱりイカを倒す。
倒したら、ワイヤーで巻き取って手元へ。
カボチャを、ヨーヨーの要領で使役するハル。
カボチャさんは、キルカウントを稼げて、ご満悦の様子。
ハルの横で、キャーキャーはしゃぎ回っている。
‥‥なんでも、たくさんキルを稼ぐと、”格”が上がるらしい。
イカも大方片付いて、終わりが見えて来る。
行動不能になっていたカニが立ち上がり、ハルに接近し、日陰をつくる。
頼もしい相棒のカボチャさんが、ハルにサムズアップ☆
『やってやろうぜ! ――ブラザー☆』
‥‥‥‥。
「――ん? 君は、よくよく見れば‥‥女、か?
男かと思ったぞ。」
「男かと思ったぞ――。男かと思ったぞ――。男かと思ったぞ――。」
‥‥‥‥。
額に青筋。瞬間湯沸かし、瞬間沸騰。
カボチャの背中に、じゃじゃ馬の蹴りが、突き刺さった。
キャーと飛んで行って、カニのハサミに叩き落とされた。
◆
視点は変わり、セツナの戦い。
彼は、正々堂々正面衝突のハルとは異なり、ちまちまセコい戦い方をしていた。
初動、マジメに戦うフリをして、早々に廃ビルの中に逃げ込む。
階段を登りながら、主力火器のグレネードランチャーの弾を換装。
EMP弾に変更し、2階から飛び出して3点バースト。
過剰な魔力を充填したEMPスモークを地上にバラ撒いて、ロボットの自由を奪う。
自由を奪ったら、着地して、手頃なイカを1体倒す。
右手に火球を生成し、握り潰して掌握。
スキル ≪炎撃掌≫ 。
リーチこそ短いが、威力に優れる技。
――なのだが、一撃で倒せない。
スキル ≪ライトニングアクセル≫ 。
EMPの効果が切れたロボット軍団から逃れるべく、雷の力で疾駆。
道の反対側にあるビルの2階に飛び込んで、また空からグレネードランチャーを撃ち下ろす。
クラス「魔導拳士」は、徒手空拳で戦うクラス。
武器を持たないため、多数の敵に囲まれると、あっけなくタコ殴りにされて負ける。
無敵技にも、アーマー技にも乏しいため、頼りない防御性能を、セツナは足で補っている。
フィールドを広く使い、デカ物を翻弄していく。
2度、EMPで動きを封じて、攻撃のチャンス。
これ以降は、EMPの効き目も悪くなってくるであろう。
この世界の機械には、EMPに対する魔力的な免疫機能が搭載されており、同じ妨害方法は、何度も使えない。
早くも貴重な手札を使い切る形となったので、ここはリターンを最大化させる。
イカは、相当タフであることが分かった。
少なくとも、いま装備している普通のスキルでは、一撃で倒せない。
確定1発と、確定2発の差は大きい。
車と、自転車くらい違う。
ならば、彼奴等を一撃で葬れる、その手段を講じるまで。
スキル発動 ≪魔女の一撃≫ 。
Zキャンセル、スキルを中断。
帰って来たスキルが、新たに手にした力。
≪魔女の一撃≫ によって生じた魔力が、セツナを包む。
暗く、黒く、昏い茜の魔力。
≪魔女の一撃≫ をZキャンセルすると、それをキャンセルさせたスキルに、昏い太陽の力を与える。
≪ブレイズキック≫ に、昏い太陽の力をエンチャント。
セツナの足元に、黒い、墨汁のような炎が滴る。
地面を蹴り、炎を滴らせながら、足を横一閃。
一文字に薙いで、イカの胴を刈り取る。
炎が飛び散る。
イカの体が抉れて倒れる。
昏い太陽の魔法。
クラス「メイジ」の、夕暮れの禁忌を彷彿とさせる性質の魔法。
昏い太陽、魔女の体術は、内なる闘争心を一瞬だけ暴走させ、魔力の出力を瞬間的に上昇させる技。
身体の内底から引きずり出した魔力は濃く、昏い太陽のように見える。
イカを1体倒した所で、EMPの効果が切れる。
敵地のど真ん中に着地したセツナに、触手の束が襲い掛かる。
昏い太陽の力を、 ≪ライトニングアクセル≫ へ。
セツナの姿が消える。瞬間移動。
魔女版 ≪ライトニングアクセル≫ は、攻撃対象の頭上へと瞬間移動をし、攻撃をする技。
昏い太陽の力は、その原理ゆえ、細かい制御ができない。
決めれらたモーションの通りにしか攻撃ができず、使い方を誤れば身を滅ぼす。
セツナが、触腕を伸ばしていたイカの上を取る。
その頭上から、雷光一閃。
稲妻を纏った手刀を振り下ろし、3メートル体躯のイカを強襲。
上から下まで、身を抉って活動を停止させる。
イカを2体、仕留めた。
しかし、囲まれてしまった。
タコ殴りにされる前に、回避に徹して、回避で得られるAGを溜める。
アクロバティックにステップを踏んで、丁度いいカニが来てくれたので、懐に潜り込む。
潜り込み、触手をやり過ごしつつ、周囲の状況を確認。
確認終了。
すぐさま動き出す。
稲妻の力で、地を駆ける。
バブルを吹くカニの懐から飛び出して、イカに稲妻蹴りを浴びせる。
蹴りを浴びせ、慣性の力で、イカの体に引っ付く。
コイツ等を、一発で倒せないのは知っている。
ホルスターからリボルバーを引き抜く。
ファニングショット。
リボルバーを腰に付けて、超至近距離からの連続射撃。
シリンダーの中身を全部使って、ダメージを稼ぐ。
そのまま片足を上げて、大地を踏み割る力でもって、イカを踏みつける。
イカが倒れ、動かなくなった。
その場に留まらず、すぐさま前へと駆け出す。
走りながら、空をちんたら漂っているヒトデに、マジックワイヤー。
レーザー攻撃をライフで受けて、ワイヤーで空に逃げる。
ワイヤーを巻き取って、ヒトデに接近。
どこぞのじゃじゃ馬とは異なり、彼はヒトデを蹴落とさない。
「は~い、ちょ~っとお邪魔しますよ~。」
そう言って、ヒトデの背中に張り付く。
グレネードランチャーを取り出し、リロード。
弾切れのシリンダーを、地上に居るイカに投げつけて嫌がらせをしつつ、空の安全圏で、優雅なリロードタイム。
榴弾の詰められたシリンダーを取り出して、はめ込み、ゼンマイを巻く。
‥‥視界の隅、地上の方で、何かが瞬いた気がした。
地上から、カニの放った熱線が伸びて来る。
「危っっぶな!?」
慌ててヒトデから飛び降りる。
セツナが熱線から逃れ、のんびり屋のヒトデは真っ二つとなる。
とんだ災難である。
‥‥いや、飛んで来た災難か?
空中で、グレネードランチャーに魔力を供給する。
飛行機のジェットエンジンに似た、甲高い音が響いて、空から榴弾が3発投下される。
イカを3体ほど巻き込んで、擲弾が爆ぜてダメージを与える。
爆心地に着地。
周囲のイカは怯んでいるので、着地狩りの心配は無い。
足に昏い炎を宿し、横一閃。
イカの胴を抉り、仕留める。
本来、 ≪魔女のブレイズキック≫ を受けた敵は、上方向に浮くのだが、このイカは重すぎで浮かない。
が、重すぎる体が仇となって、上方向に働く力を体の外へ逃がすことができず、ダメージが増加している。
さらに、昏い魔力を使ってダブルアップ。
他の個体を狙う。
スキル ≪シルバームーン≫ へ、エンチャント。
セツナが、その場で足を振るうと、黒く濁った銀色の刃が伸びる。
伸びた刃は、イカの1体を前から切りつける。
セツナが、振るった足を地面へ戻す。
濁った刃が敵を背後から、時間差で切りつける。
後ろから切りつけられたイカは、馬にでも引き回されるように、体が前につんのめる。
≪魔女のシルバームーン≫ は、クラウドコントロールの魔法。
威力は低いが、相手を強制的に自分の方へと引き付けて、拳の距離での戦闘を強いる、魔女の呪い。
2メートルの間合いがあったイカは、濁った刃によって、セツナの前に引き回される。
重いため、思うように運べず、間合いが詰まったものの、拳の距離にはやや遠い。
しかし、それも想定内。
そのためのグレネードランチャー。
引き金を引き、発砲。
擲弾が命中し、榴弾が爆ぜて攻撃。
足に炎を纏い、射撃をした個体に向けて走り出し、 ≪ブレイズキック≫ 。
波状攻撃によって、タフネスを削り切った。
燃える足で蹴り倒して、そのまま速度を維持して、敵の追っ手から距離を取る。
走りながら、グレネードランチャーをリロード。
今回、珍しく単発リロード。
空になった薬室の中に、1発だけ榴弾を込めて、リロードした擲弾を撃てるように、シリンダーを回転させてゼンマイを巻く。
これで、残弾は3発。
マジックワイヤーをビルに伸ばし、壁に足をつけて、ウォールラン。
ランチャーに魔力を充填し、3点バースト。
先ほどの3点バーストの被害にあったイカに照準を合わせて、バースト射撃を放つ。
走りながらの射撃は、3発のうち1発が、見事なデッドボールとなり、イカを1体倒した。
これで倒した敵は、イカが5体の、ヒトデが1体。
セツナが担当する残敵は、カニ1匹、イカ8匹、ヒトデ2匹。
壁を走りながら、チラリとハルの方を見る。
‥‥なんか、討伐スピードが負けている気がする。
やはり、魔導拳士の弱点である1対多の不利が、モロに響いている。
だが、だがしかし、セツナには ≪魔女の一撃≫ があるのだ。
過去作にて愛用し、使い倒して来たスキルが、帰って来たのだ。
いわば、いまの彼はフルスペックな状態。
今作で手にした新たな力だけでなく、過去に蓄えた力も使えるようになった状態なのだ。
この世界の先輩として、ハルに後れを取る訳には行かない。
ペースを上げる。
グレネードランチャーをしまい、徒手空拳へ。
壁を走る足を止めて、壁に片手と片脚で張り付く。
マジックワイヤーを射出。
ちんたらヒトデをキャッチ。
今度は、自分の方へとヒトデを引き付ける。
引き付けながら、地上を確認。
ぞろぞろと、イカが押し寄せて来ている。
そして、イカの一部は、壁を平気で駆け登り始める。
フロートしているのだから、ウォールランをするくらいは、造作も無いらしい。
セツナは、ワイヤーでヒトデを巻き取りながら、視線を上と下に。
タイミングを計っている。
1‥‥2の‥‥、3!
ワイヤーを切り離す。
昏い魔力が身を包み、セツナの姿が消える。
消えて現れたのは、ヒトデの頭上。
先ほど、ワイヤーで引っ張っていた個体の上。
雷光一閃。
空から稲妻の手刀が振り下ろされて、ヒトデを一刀両断。
‥‥稲妻は、まだ勢いが衰えない。
ヒトデを両断した勢いをそのままに、地上へと縦一閃、振りかざし落ちていく。
落ちた先には、イカ。
飛び回るセツナを追っていた、イカの1体。
魔女の落雷が、イカの背後を抉り取った。
魔女の一撃は、動きを制御することができない。
しかし、そのデメリットも使いよう。
≪魔女のライトニングアクセル≫ は、宙から手刀で強襲する技。
現れる位置が決まっており、バレた瞬間に狩られてしまう技だが、昏いの魔力の力により、着地するまで攻撃の威力が保存される。
だからこそ、落下位置を調整すれば、このように2枚貫きが可能なのだ。
スキルの研究が、実戦で活きて、成果が結実。
1度のスキルで、2体の敵を倒した。
残り、カニ1匹、イカ7匹、ヒトデ1匹。
ビルに押し寄せていたイカが、空から降ってきたセツナへと方向転換。
触手の間合いに居た個体は、攻撃を行う。
攻撃を、バク転で回避。
ビルに張り付いていたおかげで、敵が密集した。
囲まれるリスクが、グッと減った。
バク転で距離を取り、大地を踏み割って、岩塊を浮かせる。
岩塊を、蹴り飛ばす。
蹴られた岩は、道路を白線に沿って飛び、明後日の方向へ。
方向は、これで合っている。
すぐさま、左腕からマジックワイヤーを、岩に向けて撃ち込む。
セツナの身体は、岩に引っ張られて道路を走り出す。
右手を下に向けて、広げる。
岩に引っ張ってもらいながら、太陽の力を右手に溜め込む。
右手と足元から炎が逆巻いて、ガントレットに太陽を封じ込める。
ワイヤーを切り離す。
転身反転して、追って来るロボット軍団へ向き直る。
振り返ると、目前には、カニが居た。
ハサミをスライディングが躱し、足元を潜り抜けて、そのままダッシュ。
封じられた太陽を解放。
スキル ≪炎撃掌≫ を発動。
パッシブ「安定的な超新星」「双子の火星」が発動。
走りながら、カニの後ろに居たイカに、火球をくれてやる。
伸びた触腕を焼き切って、熱が触腕を伝導して、本体にも甚大な損傷を与える。
火球が手元で爆ぜ、襲い掛かった個体を倒す。
テレポート。
双子の火球で攻撃。
別の個体の背後を取って、火球を捻じ込む。
力を溜めたスキルであれば、一撃で倒せる。
これで、2体倒した。
残り、カニ1匹、イカ5匹、ヒトデ1匹。
マジックワイヤー。宙のヒトデに。
先ほど同様に張り付いて、今度は背中を蹴り飛ばす。
座標を確認、タイミングを計って――、雷光一閃。
2枚貫き。
ヒトデとイカを仕留めた。
残り、カニ1匹、イカ4匹。
――もう、勝負は決した。
ベルトのポーチから、コアレンズを取り出す。
手にしたのは、5枚目のコアレンズ。
セフィロトの樹を模したシンボルが描かれた、新たなレンズ。
AGを2本消費し、コアレンズをガントレットに装填。
視界の端に、アイコンが出現。
ヘックス・スペル・スタックが、4つ蓄積する。
テレポート。
イカのど真ん中に現れて、AGを1本消費。
≪AGグラウンドスマッシュ≫ 。
拳を大地に叩きつけ、地ならしを引き起こす。
震える大地から噴き上がる魔力が、地面から浮いたイカの動きを止める。
二発目を叩く。イカの体がわずかに跳ね、カニもバランスを崩す。
三発目。
何をしても動かせなかったイカの巨体が、跳ね飛ばされて、跳ね上がる。
制御を失い、地面に叩きつけられて、バラバラに砕けた。
範囲攻撃によって、ザコを一気に壊滅させた。
残るは、カニ1匹。
カニが立ち上がる。
身を起こしている隙に、テレポート。
彼奴の頭上へ。
魔女の体技が発動する。
≪魔女のグラウンドスマッシュ≫ 。
セツナは、空中で大地を掴む。
そこに、まるでしっかりとした地面があるかのように、空中で力強く踏み込み、足を高く上げる。
振り上げた足は上弦の弧を軌跡を描き――、カニの頭を踏みつけた。
魔女の地割りは、満身大力。
隙は大きいが、屈指の威力を誇る。
単純な膂力と魔力を、相手に押し付ける技。
立ち上がろうとしていたカニは、頭部への一撃を受け、再び地面に沈む。
セツナは着地。
もう、邪魔する者も無く、あるのは、攻撃に適した隙を晒す眼前の敵だけ。
「ヘックスコア――。」
装填されていたコアレンズが反応を起こす。
ヘックススペルスタックが、4つ全て消費され、力に還元される。
スキルの力を引き出す、コアレンズ。
ヘックスコアは、 ≪魔女の一撃≫ を発動させる。
ヘックスコア × 魔女の一撃 = 魔女の一撃。
本来は、AGを4本消費する大技。(※)
※Zキャンセルは、AGを必要としない。
それを、AG2本で発動できるようにする。
それが、ヘックスコア。
過去、銀に輝いた光は褪せ――。
昏い茜となって、今、蘇る。
右の拳から、茜の炎が噴き上がる。
身体の奥底から力を汲み上げ、力を溜め、全霊を委ねる。
敵前で、大胆不敵にも力を溜める阿呆に、カニが立ち上がり襲い掛かる。
両のハサミを開き、3枚におろそうと襲い掛かる。
切り裂かんと迫るハサミに、迷い無く拳を振るう。
「魔女の――!」
ハサミが、拳に勝てる道理無し。
拳が、2つの大ばさみを易々と砕く。
拳に触れる前から、砕けて砂になっている。
「一撃ッッッ!!」
カニの一つ目に、拳が突き刺さった。
拳は、5メートルの巨体を殴り飛ばしてひっくり返し、道路を滑走させる。
セツナが着地。
着地すると、右手から、昏い太陽が昇る。
‥‥脈打つ太陽を、握り潰す。
瞬間、カニの体が、内から爆ぜた。
彼奴の体に流し込んだ魔力が、体内で何度も爆ぜて、いたる部位で爆発を起こす。
その様は、目にも止まらぬ速さの打撃を、連続で浴びているかのよう。
カニの巨体が宙に浮き、爆発によって上下前後左右へと蹂躙される。
そして、最後に起こった大きな爆発で地面に叩きつけられ、地に伏したまま、動かなくなった。
――六道鏖殺。
一瞬で数多の打撃を叩き込む、魔女の奥義。
ガントレットから、使用済みのレンズがイジェクトされる。
振り返れば、ハルの方も、もう直にケリがつきそうだ。
セツナは、散歩でもするような歩調で、ロボットの残骸が散らばる道を、ハルの方へと歩いていくのだった。
‥‥‥‥。
‥‥。




