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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
6章_明けない夜

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6.8_明けない夜

――素晴らしい。


人の身を捨て去り、復讐に臨む凶行。

永遠に終わらぬ、執拗な責め苦。


それでこそ、人は美しい。


――青い空が憎いと言ったか?

――回る世界が憎いと言ったか?


その妄執、叶えてやろう。


暗い月が命じる。

今宵の月は、決して沈んではならぬ。





いつものように、現実世界から電脳世界へと潜る。

ダイブして、セントラルにやって来た途端、異変に気付いた。


空には、銀色の月。

青く白く輝く、銀色の黄金。


月は、薄い雲の笠を被っている。

月の光が雲に反射して、光の輪を空につくっている。


月笠(つきがさ)が出るとは‥‥、雨が近い。


――などと天体観測をしている場合ではない。

いや、そもそも、天体観測ができることがおかしい。


ここは、都市部(センター)のど真ん中だ。

港の町ならいざ知らず、不夜の灯りが照らす都市で、月が明るく見えようはずがない。


セツナは周囲を見渡す。


車道の真ん中で停まっている車。

車道と歩道を照らす街灯。

夜のビルを彩る、室内灯。


そのどれも、灯りが点いていない、消えている。


夜空に浮かぶ銀色の月こそが、センター唯一の光源で、地上を青く白く照らしている。


月の光は、夜空に星が輝くことを許さぬほどに明るい。

車やセツナの足元には影が伸びて、街路樹には()()()が揺らめいている。


‥‥とても、とてもイヤな予感がする。


イヤな予感は、不意に入った通信により、いよいよ実態を帯び始める。

アリサから、通信が入っている。


「――セツナさん? セツナさんですか? 応答してください。」

「アリサさん、聞こえているよ。」


セツナが応答すると、アリサの安堵の声が聞こえる。

普段の任務の時とは違う、藁にも縋った安堵の声色。


「ああ‥‥。寝起きで悪いんだけど、何が起きてるの?」


通話の向こうから聞こえるのは、沈黙。


事情を説明するために、事態を整理しているのだろう。

この時点で、彼女が相当参っていることだけは分かった。


「セツナさん、落ち着いて聞いてください。

 セントラルは今、明けない夜に遭遇しています。」


「‥‥‥‥。空に月が昇ってから、どのくらい経った?」

「すでに、18時間は経過しています。」


セツナはもう一度、周囲を見渡す。


「街に、人の気配が無いようだけど。」

「確認できた限りでは、私とセツナさん以外、この街には――。

 局長やオペレーターとも連絡が取れません。」


アリサは現在、イバラ症を研究するために、セントラルの研究病院に出向していた。

CCCのオペレーターとは別行動を取っており、そのおかげで、彼女だけは無事だったのだろう。


‥‥この広くて暗い街に独りぼっちが、無事とは言い難いが。


「この異変と、イバラやディヴィジョナーとの関連は?」


「分かりません。

 茨の龍も、その他の茨も、セツナさんが投薬した抗体によって消滅しました。

 それ以降、新たなレッドアラートは検知されていません。」


「――――。

 うん。分かった、ありがとう。

 何とかしてみるから、アリサさんは安全なところに隠れてて。」


「‥‥? は、はい。分かりました。」


夜の道路の真ん中を、風が通り過ぎて行った。

道路に止まる車を撫で、木漏れ日を揺らし、セツナの身体を横切っていく。


正面から吹く風に指さされ、ゆっくりと後ろへ振り返る。


そこには、この街で3人目の、起きている人間。


銀髪銀瞳。

情婦のように肌を晒した服装。


龍の眼を思わせるほどに、大きな宝石をつけたネックレス。

月灯りに照らされ、小さくも存在感を放つ、左人差し指に嵌めた指輪。


暗い月が、歪んだ三日月が、愉しそうに嗤っている。


――魔導ガントレットを装備。戦闘態勢に入る。


夜の元凶を見つけた。

解決方法も分かった。


‥‥けれども、それが、途方も無く無謀なことでは‥‥、あるのだけれど。


暗い月は両手を広げ空を仰ぎ、セツナへ向き直る。


――得意なのであろう?

殴って解決ができるのであれば、挑んでみるがいい。





右手を地面に向けて広げる。

掌から、足元から、炎の魔力が噴き上げて包む。


右手に太陽を。

太陽の力を、ガントレットに封じ込める。


無防備にも力を溜めるセツナを前に、暗い月は動かない。

歪んだ笑みを浮かべ、彼を眺めるばかり。


セツナの姿が夜闇に消える。

テレポート。暗い月の眼前へ。


スキル ≪炎撃掌≫ 。

パッシブ「安定的な超新星」「双子の火星」発動。


手元で膨張する太陽を、両手で暗い月に押し付ける。

太陽は膨張し、爆ぜる。


初撃は命中。

焦げた匂いと煙が立ち込め、暗い月が吹き飛ぶ。


地面に背中を打ち付け、それでも衝撃を殺せずに、跳ね転び遠ざかって行く。


――火星の二撃目。

瞬間移動を行い、遠ざかる暗い月との距離を、瞬きの間で詰める。


宙を無様に転がっている暗い月に対して、二撃目を押し込む。


膨張する2発目を見て、暗い月の左手が輝く。


銀色の、炎。

銀色の、太陽。


燃え盛る火球と、銀に溶ける太陽が衝突。


銀色のガントレットが、太陽に焼かれて僅かに溶ける。

銀色の太陽が、槍や蛇ようにセツナの手元へ襲い掛かる。


瞬間、爆発。

両者吹き飛び、セツナは蛇に腕を食い千切られずに済む。


体勢を立て直したのは、暗い月が早かった。

先ほどの爆発を使い、姿勢を整えたのだ。


地面を這うほど低い姿勢で、暗い月がセツナに絡みつこうとする。


セツナが、足を振り上げる。


――大地を踏み割る。

地面がめくれ、岩塊が浮かび上がる。


岩塊は、姿勢を低く取る暗い月の顎や腹に衝突。

華奢な月の身体が、岩塊に持ち上げられて浮き上がる。


火炎を纏った足を振り上げる。

振り上げて、踵落とし。暗い月の脳天に食らわせる。


上下からの衝撃に、頭が潰される。


暗い月の美しい顔面は、岩塊に叩きつけられ、岩を割って地上にめり込む。


ギロリ、と。

それでも暗い月は、地の底から凡百を睨み、見下ろす。


暗い月が、両手を地面につける。

不敬にも自分の頭を踏みつける足から頭の逃して、腰を反り、足を上げる。


女性特有の身体の柔らかさ。

それを利用し、海老反り気味にキックを繰り出す。


だが、その攻撃は、曲芸の域を出ない。

セツナは、暗い月の反った背中を蹴り飛ばす。


マジレス一閃。

合理性の欠片もない攻撃に、手痛い反撃を与える。


「こひゅ」と、暗い月の口から空気が漏れる。

そして、口の形はすぐに歪む。


ブレイブアーマー。

暗い月の身体を、青いオーラが包み、彼女はあらゆる攻撃で怯まなくなる。


セツナの蹴りは、彼女の背中に食い込むばかりで、吹き飛ばすことができない。


暗い月は、不退転を得た身体で、反撃に対して反撃。


セツナの伸ばした足を、自分の脚で絡め取る。

海老反りに上方向へ反った脚を垂らし、セツナの脚に絡みつく。


「――――ッ!」


霹靂と、軸足に稲妻を宿す。


電光石火。

火花が散って消えるよりも速く地上を移動し、その勢いを使って、月が絡んだ脚を振るう。


雷光迸る速度をそのままに、脚を車の側面に叩きつけた。


暗い月は背中から車体に叩きつけられるも、拘束を解かない。

それどころか、暗い瞳に、恍惚とした表情を浮かべている。


暗い月が、セツナの脚に噛みつく。


蜂に刺されたかのような、肉が弾けんばかりの刺す痛みに、思わず怯んでしまう。

力の抜けた脚を、暗い月は我が物であるかのように扱う。


彼女は、セツナをうつ伏せに押し倒した。


セツナの尻の上にペタンと座り、彼の右脚を取る。

右脚を、自分の左腕で抱え込み、脚を固定。


そのまま、右手で足首を捻り――、関節を極める!


ブレイブバースト。

セツナの身体から青い衝撃波が発生し、上に乗る暗い月を跳ね飛ばす。


頭から地上に落ちていく暗い月は、両手を地面について、起用に着地。


その隙にセツナも立ち上がり、右脚をプラプラと軽く動かす。

関節を持っていかれる前に、対応ができた。


暗い月が、ゆっくりと前に歩き出す。

セツナが、燃える足で地面を蹴って走り出す。


距離が近づき、地面を滑りながら屈む。


下段蹴り。――を意識させて、上!


セツナの十八番。

回転後ろ蹴り。


跳躍と回転と、炎の力を混ぜ合わせ、視線が下を向いている暗い月の側頭部を狙う。


暗い月は、前傾姿勢になりつつ、後ろ蹴りを躱す。


そのまま、地面を蹴り跳躍。

ムーンサルトキック。


攻撃を空振ったセツナに、ムーンサルトキックが襲い掛かる。


――マジックワイヤーを巻き取る。

下段を打つフェイントした際に、地面に刺していたワイヤーを起動させ、空中で後退。


鼻先寸前でムーンサルトをやり過ごす。

暗い月は攻撃が外れて、背中から音も立てずに着地。


フロアムーブ。

ブレイクダンスでも踊る要領で、近寄ってきたセツナを、細く長い脚で追い払う。


ダメージ覚悟で突っ込む。

暗い月のムーブメントに、身体を入れて割り込む。


銀色の軌跡を描く脚を、両腕を使って受け止めた。

受け止めて、足首を掴む。


華奢な身体を振り回し、近くにあった車のボンネットに叩きつける。

ボンネットは凹み、車から液体が漏れて地面を濡らす。


燃える足で、車を蹴り飛ばす。

セントラル製の車は、良く燃える。


ヘッドライト付近を蹴られた車は、スピンをしながら暗い月と踊る。

スピンを1回転する頃には、車は火柱に包まれ、爆発炎上。


ファイヤーダンスを踊る車から、暗い月が服を燃やしながら転げ落ちる。


転げ落ちたのを、服をひっ捕まえて無理やり立たせる。


そして、頭突き。

端正な顔の鼻っ柱に、硬い額の骨が命中。


ダメージと痛みにより、意識が上に行ったところで、腹部に膝蹴り。

さらに膝。もう一度――。


暗い月が距離を詰める。

セツナの首に両腕を回し、柔らかい身体を密着させて、膝を打てないように。


女性とは思えない怪力でセツナの首を押さえつけ、首筋に噛みつく。

街灯の無い夜に、赤いエフェクトが滲み、甘い香りと鉄の味が混じる。


ホルスターから銃を引き抜く。

暗い月の脇腹に銃口を押し当てて、射撃。


静ん(しん)とした都市に、一等大きく銃声が2回響く。


拘束の力が弱まり、顎の力も弱まる。


纏わりつく女神を引き剥がし、顔面に頭突きをお見舞いして、3発目。

暗い月の眉間をぶち抜いた。


歪んだ笑みを浮かべて、女神は倒れる。


セツナは、首元を抑えつつ、銃をしまう。

女神は、まだまだ底を見せず、手を使わずに立ち上がる。


そして、今度は彼女から動いた。

駆け寄り、右手を握り、拳を放つ。


拳を払い、こちらも拳を打つ。

暗い月が合わせる。


クロスカウンター。

自らの拳でセツナの拳を逸らしつつ、自分の一撃を顎にヒットさせる。


が、同時に、暗い月が膝をつく。


セツナは、顎への一撃を食らいざま、ローキックを膝に浴びせて体勢を崩させたのだ。

すかさず、姿勢を崩した暗い月の顔に、前蹴りを放つ。


コンビネーション。

膝蹴りで崩せるのを確信していたかのように、間髪を置かず前蹴りが放たれる。


前蹴りに対して、フックで受ける。

拳を、中指の関節を立てた状態で握り、(くるぶし)の後ろを狙う。


踝と靱帯の真ん中。

人体の隙間に、中指を捻じ込む。


鞭のようにしなる蹴りが、暗い月を捉える。

暗い月のフックも、前蹴りを捉えた。


セツナは足を引っ込めるも、痛みで表情が歪む。

足に、痺れが走る。


到底、武術の達人であっても真似できない反撃方法。

漫画や映画の中だけの技を、この女神は平然と使って来る。


片脚が痺れ、片足立ちを余儀なくされるセツナに、暗い月が襲い掛かる。


無駄のない動きで立ち上がりつつ、セツナを鳩尾を突き上げるように肘打ちを放つ。

胸郭で守られた内臓に、胸郭の下からダメージを負わせる肘打ち。


AGを消費。

片脚でバックステップを踏む。


アサルトステップ。

セツナの姿が消える。


背後に回り込み、瞬間移動を利用して、空中で回り蹴り。


アサルトアタック成立。

アサルトダッシュへ移行。


回し蹴りをガードした暗い月にタックル。

バランスを奪いつつ距離を取らせる。


瞬間移動。

彼女の足元へ。


崩れた姿勢を刈り取る、下段蹴り。


暗い月が嗤う。

AGを消費。アサルトステップ。


セツナの下段蹴りは避けられる。

暗い月は、瞬間移動で背後へ回り込む。


――セツナは、屈んだ姿勢のまま、両手を地面につける。

腕で身体を支えて、上段蹴り。


暗い月の顎を蹴り上げる。


蹴り上げた足に、中指を立てた拳が突き刺さった。


(クソ‥‥ッ!)


アサルトアタックが成立。

アサルトラッシュへ移行。


2人の姿が、その場から消える。

そして、束の間の静寂が木霊して、それを終わらせるように、ほぼ同じタイミングで、宙に爆発が3度起こった。


爆発が起きたと思ったら、宙には稲妻や炎の軌跡が、流星群のように描かれていく。

月灯りしかない都市を、2つの流星が眩く照らす。


戦闘領域は、地上から空中へ。

戦闘方法は、泥臭い肉弾戦から、煌びやかな魔法戦に。


セツナの回し蹴りが、暗い月に命中する。

防御は間に合ったものの、アサルトラッシュによって大きく向上した衝撃力により、大きく吹っ飛ばされる。


ビル上層の壁を破り突っ込むと、反対の壁から暗い月が宙に放り出される。


放り出された先には、すでにセツナが回り込み、拳を振りかぶっている。

拳を、身体を捻り躱す。


海の中でも泳いでいるかの如く、綺麗に拳を捌きつつ、セツナの脳天に足を落とす。


勢いよく、隼が空から撃ち落とされる。

撃ち落とされて、地面に小さなクレーターを作った。


すぐさま、砂塵の中から暗い月が飛び出し、片膝をついているセツナの顔面を蹴り飛ばす。

セツナの身体は、道路を速度違反で捕まるスピードで吹っ飛んでいく。


暗い月が霹靂と駆けて、速度違反を取り締まるべく距離を詰めていく。


迫る稲妻を前に、空中で姿勢を直し、タイミングを計り――、大地を踏み割る。

スキル ≪グラウンドスマッシュ≫ 。


大地がめくられて、岩塊が稲妻を受け止める。


≪ライトニングアクセル≫ は小回りが利かない。

障害物を、回り込んで躱せない。


暗い月が減速、立ち止まろうとする。


対するセツナは、地上から脚を離す。

まだ、吹き飛ばされた慣性は残っている。


マジックワイヤーを暗い月に撃ち込む。


そして――、吹き飛ばされる慣性で、暗い月を引き摺り倒す。


ワイヤーに引き摺られ、暗い月は岩の塊を、腹で砕く。

身体が「く」の字に曲がり、岩が砕けたあとは、道路を顔面を使って走っていく。


セツナが着地し、足元に雷を宿す。


ガバリと、暗い月が顔を上げる。足元に雷を宿す。

美しい顔は砂で汚れ、それでも狂気じみた笑みを浮かべている。


――予定変更。


セツナは暗い月に向かって、霹靂と駆けて行く。

足を振りかぶると、2つの雷が地上で激突する。


雷は相子、相殺。

あいこの次は、グー。


セツナの右ストレートに、暗い月が左ストレートで合わせる。

先ほども披露した、クロスカウンター。


(その手は、通じない。)


セツナの拳の内側を添うように、暗い月の拳が伸びていく。


身体の力を抜く。

脱力し、暗い月の拳にもたれ掛かるように。


合気の理合い。

脱力し、鋭敏になった感覚で力と重心の流れを読み取り、水となった身体で重心を奪う。


拳の上に乗られる形となった暗い月のカウンターは、威力が殺される。

勢いが死に、それどころか、腕を使ってバランスを崩される。


もたれ掛かられる体重に抵抗しようと、身体が前につんのめり、足が居着いてしまう。


――動きの止まった暗い月に、左ストレートが炸裂。

ダブルクロス。


ほぼ無抵抗な状態で攻撃を受け、暗い月の足が地面から離れ、遠ざかって行く。

‥‥低空を背泳ぎする彼女の手元から、マジックワイヤーが伸びている。


「――――ッ!」


セツナは、その場にすっ転んだ。

攻撃を当てる直前、脚にワイヤーを撃ち込まれていた。


背中から地面に打ち付けられ、肺から息が漏れる。

咄嗟に首を引っ込めることで、後頭部だけは強打せずに済んだ。


ワイヤーを切り離した暗い月が、瞬間移動でセツナの前に現れる。


彼が立ち上がるよりも速く、彼女は大地を踏み割った。


Zキャンセル。

足を上げ、炎を纏った足で大地を踏み鳴らす。


本来、大地をめくるはずの力が分散し、魔力が地鳴りが起こす。

地鳴りで、セツナの背中が押され、身体が宙に浮く。


浮いた先には、暗い月が拳を構えて待ち構えている。


全体重を乗せた、渾身のテレフォンパンチが、セツナの顔に突き刺さる。

地鳴りで浮いた身体は、直ちに地べたに叩き落とされた。


‥‥後頭部を、激しく強打してしまう。

視界が真っ暗になり、意識が朦朧として、前後不覚に陥る。


地べたに寝そべっているはずなのに、宙に浮いているような、それとも立っているような幻覚を覚える。


暗い月が、両手でセツナの胸倉を掴む。

震える手で抵抗しようとすると、激しく地面に叩きつけられた。


1度、2度、地面に叩きつけ、大人しくさせる。

雷を宿し、霹靂と駆けて、建物の壁に突っ込み、セツナを壁に埋め込む。


暗い月は、手をまだ離さない。


再度、雷を宿し、壁沿いに霹靂と駆ける。

壁に埋め込んだセツナを引き摺りながら、壁をセツナで削りながら、雷の力で駆ける。


それが終われば、壁からボロ雑巾を引っこ抜いて、両手で高々と持ち上げる。


歪んだ笑みを浮かべ、暗い瞳をセツナに向ける。


「‥‥‥‥ソードコア‥‥。」


空の月が、明るく輝く。

月から光の柱が降りて、セツナを包む。


ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪(フルムーン・クリーオ)


空から伸びる月光が、暗い月の腕を焼こうとする。

月焼けを嫌い両手を離し、セツナは解放される。


彼の目の前に、エストックが月光の中から顕れ、左手にカランビットナイフが携えられる。


‥‥‥‥。


ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪(フルムーン・クリーオ)


セツナを煽るように、暗い月は微笑みながら、自分を両腕で抱いて、彼から距離を取る。

それから、自分の美貌を際立たせるように、そっと左の人差し指を唇の前へ。


――人差し指に押し込めていた、指輪が大きくなる。


大きな輪っかを指で回すと、それは太くなり、輪っかから尾が生えて伸びていく。

尾の生えた輪っか――、カランビットナイフを回して弄び、左手で握る。


空から、月光の柱が降りて来る。

セツナとは異なり、月からではなく、彼女の後ろに、空から真っ直ぐに。


両手を広げ、その光を潜っていく。

空には、月のエストックが浮かんでいる。


暗い月が、空を仰いだ。

エストックが、光り輝く。


月灯りを集めて輝き、それは空に、自身の所有者の名を高らかに謳う。


ケルト十字だ。

空に、月の光で、ケルト十字が描かれている。


――我が身は女神。3番目の女神。

――芸術と狂気の女神。夕暮れの母。


十字の剣に、太陽を思わせるほど明るい、月の円環。

銀軸の女神、太陽の対となる存在。




背を向けて空を仰いでいた暗い月。

腰を反り、狂った瞳でセツナを見つめる。


正面を向き直り、地に堕ちた月の欠片を拾い上げれば‥‥。

その切っ先をそっと、セツナに向けた。


‥‥‥‥。

‥‥。

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