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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
6章_明けない夜

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6.6_イバラの厄災

――許さない。――許さない。


青い空が憎い。

何も知らず、回り続ける世界が憎い。


女性の無念と非情を啜り、イバラの龍が蘇る。


落下によって砕けた身体を接ぎ(つぎ)、怨念によって宙に浮かび、イバラに葉脈が浮き上がり、脈を打つ。

幽鬼のように生気も無く漂い、しかし、目と心臓に、収まらぬほどの狂気を宿している。


――青い空が憎い。

――青い空が憎い。


空が暗くなる。

空は飽きれるほどに晴れ渡っているのに、まるで曇天の空模様。


光が失せ、重い日和となった。


薄暗くなった地上で、イバラ龍が燃えるような妖気を放っている。


この龍は奪っているのだ、空の光を。

植物の持つ光合成の力を、魔力で拡大して。


龍の身体が変貌していく。

ツルを束ねただけだった身体が、細かく分化し、龍の身体へと近づいていく。


翼は翼らしく、頭は頭らしく、顔は顔らしく。

それでも、足元だけは、幽鬼のように定まらぬまま。


龍の大口が開いた。

口から漏れる、赤黒い煙が、光を奪っていく。


吠えることも無く、殺気を振り撒くでもなく、静かに、イバラの厄災との戦いは始まった。





最初に動いたのは、茨龍。

音も影も無く、忽然とその場から姿を消し、ホワイトナイトの目の前に現れる。


右腕を振りかざし、ホワイトナイトを襲う。


対するホワイトナイトは、エネルギーシールドを展開。

自分を体を覆えるタワーシールドを展開して、茨龍の爪を受けた。


攻撃を防ぎ、白騎士がわずかに後退る。


‥‥爪を受けたシールドから、ヤドリギが芽吹く。

ヤドリギは急成長し、瞬く間に盾を覆いつくさんとする。


ヤドリギの急成長によって、ホワイトナイトの重心がぐらつく。

それなりの重さを持っているようだ。


ジェネレータから、シールドにエネルギーを供給。

高圧魔力によるパルスを発生させ、ヤドリギを根元から焼き切る。


魔力パルスが生じた盾を使って、シールドバッシュ。


堅牢な盾は、時に剣よりも優れた武器となる。


茨龍にシールドバッシュが命中。

身体の表面を焼きながら、ダメージに怯む。


エネルギーソードで追い打ち。

その剣戟は、姿を消されて躱される。


茨龍の幽体移動は、テレポートと原理が似通っているらしい。

移動先の座標を、魔力野で追うことができる。


1度目で気づき、2度目で対応。

幽体移動に合わせて、プロトエイトが動く。


CE屈指の加速性能と旋回性能で、ホワイトナイトから距離を取った茨龍に斬りかかる。


カタールを龍の背後から突き刺す。

突き刺し、捻じってから横に切り裂く。


攻撃は入った。

利いているのかは微妙だが。


茨龍の傷口から、ツルが伸びて来る。

CE随一の加速力で持って、それをやり過ごす。


茨がカラスを追い払っているあいだに、テストウドとホワイトナイトが距離を詰める。


背中から生やしたツルが燃える。

空から奪った光の熱を使い、自身を燃焼。


燃える鞭を振るい、ホワイトナイトを攻撃。


迫る鞭を、剣で切り落とす。

盾で受けては、しなって絡みつかれる可能性がある。


搦め手に備え、あえてリスクを負い、鞭を叩き斬った。


鞭は切断され、燃え尽きて塵と消える。


ホワイトナイトの出力が低下する。

背中からチューブが伸びて、ショルダーショットガンにエネルギーを充填。


茨龍の攻撃対象とならなかったテストウドが、距離を詰める。

瞬発力に秀でるブースターの出力を解放し、ぶちかまし。


茨龍が姿を消す。

幽体移動。


(――気配が!?)


姿を消した瞬間、魔力野が不可解な魔力の流れを捉える。

力の流れが、3つに分かれた。


茨龍()()が姿を現す。


3体に分裂し、テストウドを囲む。


ダイナが、ショルダーショットガンの引き金を引く。

分裂した1体を即座に攻撃し、一射で蜂の巣にする。


幽鬼は木くずとなって、空から落ちていく。


テストウドが、分裂した1体に張り手を見舞う。

分裂体は張り手を受け、張り手に絡みつく。


偽物は、バインドトラップとしても機能するらしい。


残った本物の茨龍が、テストウドに襲い掛かる。


――シンクロ!

CEファイバーに負荷を与え、ショックスパーク。


ツルの絡みつく腕を茨龍に向けると、腕が爆発。

バインドトラップを爆発で四散させ、その向こうにいる茨龍にもダメージを与える。


茨龍は、爆発を左腕で受ける。

受けた直後、左腕を切り離す。


植物の身体だからこそできる、安易な四肢の切断。

自分の枝先を折る感覚で腕を切り離し、ショックアブソーバーとして扱う。


片腕で爆発を凌ぎつつ、脚の存在しない下半身で攻撃。

脚が無く、尻尾のようになっている下半身でテストウドを突き刺した。


重量級の装甲は厚く、貫通させるには至らない。

だが、これで充分。


種は撒いた。


テストウドの胴体からヤドリギが成長する。


茨龍の心臓が眩く光る。

空から奪った光を、開放する。


世界が、薄ら赤い景色に変わっていく。

茨龍の身体と同じ色をした光が、一帯に広がる。


これは、この植物が反射した光。

光合成に使わない、赤い波長の光。


その光は、一瞬でツルを燃焼させるほどの熱を持つ。


CE機内にある計器が、高温と高熱を検知。


――テストウドから煙が上がった。

胸に、深々と亀裂が入る。


ツルの持つ水分が、高温により一気に膨張し、装甲を砕いたのだ。


水に濡れた石を焚火に当てると、爆発することがある。

それと同じ原理。


重装甲に深く走る亀裂に、茨龍は畳み掛ける。

この龍は、派手な攻撃手段こそ持たないが、搦め手からの一点突破に秀でているらしい。


さざれ石に苔が生すように、植物の成長が石を割るように。


じわじわと、相手を追い詰めていく。


追い打ちを仕掛けようする茨龍の頭上から、プロトエイトが落ちてきた。


カタールを構え、龍の脳天に突き刺す。

そのまま、落下スピードを使って、龍をテストウドから引き離す。


脳天を割ったカタールに、ツルが巻き付いていく。

カタールを手放す。


手放して、宙で一回転して、踵落とし。


おおよそ、CEとは思えない人間的な動きで、カタールの根元まで龍の頭に食い込ませた。


茨龍は頭に踵落としをもらい、地上へと墜落。

茨の広がる地上で、土煙の中に消える。


――空が暗くなる。地上に赤黒い灯りが光る。


熱線。

空から光を奪い、奪った光を空に目掛けて放つ。


地上から伸びる熱線が、3機を狙う。


その隙に、茨龍は地に根を張る。

根を張り、自分が吸収したエネルギーを地下へと流していく。


たちまち、地下には根が成長し、張り巡らされる。


地下茎が伸びて、茨龍の数が増え、さらに増殖し、寄り集まる。


茨龍は、ついに大地を引き抜いて我が物とした。

文字通り、根の張った領域を根こそぎ剥ぎ取り、宙へと浮かべる。


セントラルに、大穴が空く。


距離にして、直径100メートル。

深さにして、10メートル。


その大地を持ち上げ、そこをプランターにして、龍は巨大化をする。


巨大化する龍の姿は、おとぎ話に登場する、ジャックと豆の木。

あっという間に見上げるほどの大きさに成長し、その巨体で持ち上げた大地を軽々と支えている。


茨龍の身体が大きくなることによって、日光は、ますます龍に奪われていく。

セントラルに曇天が広がっていく。


真っ先に、セツナが危機感を覚える。


「‥‥マズい! このままじゃ、コイツは加速度的に成長する。」

「でもどうする? こんなに大きくなったんじゃ‥‥。」

「速攻は難しいぞ。」


すでに茨龍は、CEが見上げるほどに成長をした。

もはや、山が飛んで動いているような状態だ。


さすがに、CEでどうにかできるスケールを越えている。

どうにかできるとしても、時間が掛かり過ぎる。


手を打っている間に、また彼奴は成長をするだろう。

このイバラにとって、一瞬は千年。一秒は万年なのだから。


悪いニュースは続く。


CEのセンサーが、巨大な魔力反応を捉える。


(‥‥‥‥赤龍!)


今日は、よくコイツに遭う日だ。

ぜんぜん嬉しくないが。


茨龍は、空に現れた赤龍を睨む。

鳥籠を破壊された恨みを晴らすように、今まで無口だった亡霊が吠えた。


二龍は睨み合い、龍同士の挨拶を言わんばかりに、ブレスを放つ。


白い火球と、赤黒い熱線が衝突し、セントラル上空を真っ白に染めた。

巨大な魔力が衝突し、力場が乱れ、セントラル中に停電が発生する。


それだけでない、巨大な力の衝突は、情報災害を引き起こす。


2次災害。

行き場を失った魔力が、物質世界を汚染。

魔力の竜巻となって、都市のビルを巻き込み破壊していく。


空では、地上の世紀末など露知らず、厄災の二頭が平然と睨みを利かせている。


この二頭に付き合っていては、セントラルが持たない。


赤龍は、自分よりも何倍も大きな茨龍を、相変わらず上から見下している。

自分の方が格が上であると、それを信じて疑わない。


茨龍は、空に浮く山となった身体を誇示し、厄災の頂点と対峙する。

復讐の邪魔をするのであれば、容赦しない。


誰が相手であろうと、例外は無い。


奇しくも、人間を破滅させる者同士が争っている。

その下で、人類は確実に滅亡へと向かっていく。


‥‥いつの時代も、忘れてはいけない。

人間は、自然には勝てない。


龍とは災害、肉体を持つ天災。


どだい、人間が抗うなど、不可能なのだ。

それは、夢戻りのエージェントであっても変わらない。


「何とかして、止めないと!」


一気に蚊帳の外となってしまったセツナが、そう口にする。

手元では操縦桿が小刻みに暴れている。


茨龍の足元では、情報災害が起きて嵐となっている。


この状況でできること。

それを考える。


あわよくば、龍が相討ちになってくれる。

なんてハッピーなことは考えない。


挨拶代わりの一撃で、地上は世紀末となって嵐が起きる始末だ。

次、まともにブレスをぶつけあったら、都市部(センター)は壊滅する。


ホラーな大脱走の次は、テラーなガルガンチュアと来た。

もう、何もかも滅茶苦茶だ。


この世の終わりを、3機のCEは見上げることしかできない。


‥‥‥‥。

‥‥。


「――――さん。――答してください。――セツナさん。」


絶体絶命のピンチに、通信。

通信の主は、久しぶりに声を聞いた、アリサ。


「アリサさん!?」


予想だにしない相手からの通信に、驚くセツナ。


「セツナさん、詳しく説明している時間はありません。

 いま、そちらにドローンを飛ばしています。


 ドローンには、対ディヴィジョナー用の抗体を持たせています。

 コアレンズに加工した、因子不活性化の抗体です。」


「――!! なるほど、了解。」


アリサから、ドローンの供給地点(サプライポイント)が送られてくる。

地点へ向けてプロトエイトを動かす。


その通信に、ダイナも混ざる。


「待って! 待って! 赤龍はどうするの?」

「それに関しては、アタシが説明するね。」


ダイナの質問に答えたのは、オペレーターのカエデ。


「ダイナっちと、じぇーじぇーに、赤龍を迎撃してもらうね。」

「どうやる?」

「このポイントに向かって、エンジニア謹製のドラゴンキラーを送ったから。」


「「了解。」」


セツナがビルの屋上で、ドローンからコアレンズを受け取る。

受け取り次第、すぐさまプロトエイトに乗り込み、ブースト全開で茨龍の元へと向かう。


空では、二頭の龍が大口を開け、力を溜めている。


プロトエイトで、空に浮かぶ山のふもとを飛んで登る。

山から、イバラの触手が伸びて来る。


ジェネレータに闘志を流し込む。

極彩色のカラスが、大きく翼を広げる。


翼を広げたカラスは、重力でさえも捕まえることはできない。

触手も、重力さえも振り切って、プロトエイトは山の一番高い所へ。


機体の胸が開く。

そこから、迷わずセツナが飛び降りる。


魔導ガントレットに、コアレンズを装填。


「――バスティングコア。」


同時刻。

ホワイトナイトとテストウドは、ビルの屋上にて、2機掛かりで巨大なカノン砲を担いでいた。


「うぎぎ――ッ! 重い――っ!!」

「テストウドの関節が軋んでるぞこれ!」


ドラゴンキラーと呼ばれた兵器は、馬鹿みたいに大きなショルダーキャノンだった。

とてもCE1機で運用されることを想定していない、馬鹿みたいに大きな巨砲。

長さが、CE3機分ほどある。


ホワイトナイトは、肩のショットガンをパージし、ドラゴンキラーを担ぎ、背中のチューブを使いエネルギーを供給している。


テストウドも、ホワイトナイトの後ろでドラゴンキラーを抱えている。


テストウドには、武装を取り付けることができない。

しかし、ドラゴンキラーを動かすには、CEの動力が居る。


なので、機内の湯沸かし器を取り外し、そこに供給チューブをブッ刺した。


現在、供給チューブの都合で、コックピットは全開。

二頭の龍と、空を飛ぶプロトエイトが、肉眼で良く見える。


「よしダイナ。準備できた。」

「オッケー! じゃあ行くよ!」


ドラゴンキラーに、ジェネレータからエネルギーが供給される。

それだけでなく、パイロットのAG、それから体力もエネルギーに変換して、ドラゴンキラーに送り込む。


「「ゼクロス!!」」


ドラゴンキラーの周りに、黒雷が走る。

それは、悪魔の機体と呼ばれるCEの技術を転用した稲妻。


黒雷は、ゼナスという機能。

パイロットの命をCEが奪うことで、悪魔の眠れる力を呼び覚ます機能。


黒雷(ゼナス)闘志(シンクロ)を融合させる。


それが、ゼクロス。

機械と悪魔の力により、人間とCEが限界を超越する技法。


ドラゴンキラーに、エネルギーが充填される。

CE2機のジェネレータ。パイロット2人の命。


超兵器はそれらを貪り、腹を満たし、力を蓄える。


黒雷が激しくなり、砲門に青白いエネルギーが収束していく。


――隼が、龍に爪を突き立てる。

――龍殺しが、赤龍に牙を突き立てる。


「――ブレイズキック!」

「「いけぇぇぇぇ!!」」


隼の爪は、イバラの山を撃ち抜いた。

抗体を持った爪が、イバラを枯らし、力を奪い、機能を停止させ、龍の動きは止まった。


龍殺しは、赤龍の胴を貫いた。

人間風情と慢心する心を、覇者たる肉体を、一瞬の閃光によって貫いた。


山を撃ち抜き、落ちていくセツナを、プロトエイトが迎え回収する。


ドラゴンキラーの砲門は出力に耐えきれず裂け、テストウドもホワイトナイトも、体の節々から火花と煙を吹いている。


茨龍は、空を仰ぎ、頭から全身が白く枯れていった。

主を失った、空に持ち上げられた大地は、重力によって落下して、都市を破壊し、そこに山を創った。


赤龍は、撃ち落とされ、地べたに足をつけた。

足をつけ、体と瞳を燃え滾らせ、憤怒を口から噴く。


その熱と光は、ビルの屋上からでも見えた。


「――逃げよう!」

「いぃ!? 退避ぃ!!」


JJとダイナは機体を捨て、ビルの屋上から飛び降りた。

直後、足を付けていた屋上は、消滅した。


赤龍は、鬱憤が晴れたのか、空へと帰っていく。


プロトエイトは、去り行く龍を、崩れ行く龍を、宙に留まり眺めていた。


空に光が戻り、街に青空が帰って来る。


――青い日差しが映す物。


それは、たった数時間前まで、平和だった街。

たった数分前までは、形を保っていた街。


それが今は、終末の街となった。


幅100メートルの大穴が空き、高さ10メートルの山ができ、災害による竜巻が、未だ消えずに幾つも逆巻いている。


事態は、それだけでは終わらない。

セツナの腕で、スマートデバイスが鳴動。


再び、ディヴィジョナー化した彼自信を、アラートによって警告する。


「‥‥セッツン、じぇーじぇー、ダイナっち。」


カエデが、いつになく沈んだ様子で声を掛ける。


「ま、まあ、後はアタシたちに任せて。

 今日は、ゆっくり休んで。ね?

 ‥‥‥‥。」


これくらいで、セントラルは滅んだりしない。

この街も、ここの人々も、強いのだから。


だが、しかし。


この日の厄災は、街と人々に、大きな傷を与えた。

もしかすると、癒えないであろう、深い傷を。






――そして。

その日の夜、月は空から沈まなくなった。


人々は夜に眠り、暗い月が、終わらない夜を照らし続けている。


‥‥‥‥。

‥‥。

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