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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
6章_明けない夜

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6.5_許さない。

‥‥夢を見ていた。


イバラによって、セントラルが崩壊していく夢。

人々は眠りに落ち、化け物が徘徊し、生存者を襲っていく。


一刻も早く、セントラルへ。





右手に太陽を。両手に闘志を。

パッシブ「安定的な超新星」、「双子の火星」発動。


AAGスキル ≪双星炎撃掌≫ 。


魔力圧力により自己融解をする黒い太陽を、イバラに向かって放つ。

鉄のように硬いイバラは氷が溶けるように破壊され、道が開ける。


それを、もう一発。

覚めぬ眠りの夜の底を、悪夢の監獄を、太陽が尽く(ことごとく)を焼いて照らす。


セツナたちは、イバラの眠りからの脱出を図っていた。


やり方はシンプル。

壁をぶち抜いて、真っすぐ進む。


それを、壁が無くなるまで続ける。


呑気に迷宮探索や、脱出ゲームに付き合ってやる義理は無い。

この箱を管理する責任者が出向いてくるか、その責任者の居場所を見つけるまで、3人はただひたすらに暴れ回る。


異変に気付き、イバラの看守たちが3人を制圧しようと押し寄せる。

看守が杖刑棒で地面を叩くも、茨の呪縛は死の淵から生還したセツナたちには通用しない。


通用しなければ、看守がいくら押し寄せようとも、物の数では無い。


彼奴等を殴り飛ばし、火薬の煤に変え、夕暮れへと招き消し去る。


暴れ回り、破壊し、障害を叩き壊し、ついに外の光が見えた。

3人は一斉に外へと飛び出す。


目が明順応をして、外の明るさに慣れて、外の景色が明らかになる。


眼前に広がっていたのは、青空。

イバラの籠に囲まれた向こうに、青空が見える。


3人は重力によって下へと落ちていく。


地上は湖になっていて、水面が広がり、そこからイバラが伸びている。


前を見て、下を見た次、周辺を見た。

すると、彼らが良く知る、ランドマークの姿が飛び込んでくる。


――大瀑布。


空から絶え間なく落ちている、大瀑布。


それが、イバラと空の向こうで、虹の橋を描いて地上へと落ちている。

どうやらここは、天蓋の大瀑布らしい。


なぜここに居るのか? それは分からない。

だが、ただ事ではないことだけは理解した。


ここは、浮き島。

天蓋の大瀑布の上にある、古代の都があった場所。


その都が崩れた断片。

それが、今もなお浮き島となって存在し、天蓋の上と下を繋ぐ道の途中で、群島を成している。


――3人は、湖の水面へと着水。

湖は浅く、靴が浸るほどの水深しかない。


水面には、映る限り一杯に青空が広がり、空と雲を水鏡に映している。


空を見上げれば、イバラの鳥籠に、その向こうの青空。

不思議なことに、湖は不気味なイバラを映しておらず、美しい空だけが澄み渡っている。


どこまでも広がる空、浮き島を横切る雲海。

水平線まで広がる澄んだ湖と、島の一切を逃さぬように広がる薄ら赤いイバラ。


セツナたちは、セントラルの災害の只中にあって、魔法界の美しくも不気味な島に居た。


脱獄者を追って、看守たちが空へと飛び出す。

飛び出して、彼らの後ろにドボドボと落ちて積もる。


しかし――。


湖の水に触れた途端、看守はインクが水に溶けるように、形を保てなくなって消えてしまう。

赤い色素が抜かれ、透明なイバラとなり、水になって消える。


代わりに、湖に赤い濁りが広がり、澄んだ水を汚す。


看守たちは、水に溶けて居なくなった。


彼奴等の積もる背後には、悪夢の監獄。

セツナたちが囚われていた、城のような監獄がそびえ、青い空へと伸びている。


監獄からは脱出した。

今度は、セントラルに戻る手段を探らねば。


いまだに主力火器も使えなければ、オペレーターと通信を取ることもできない。


「ねえ! あれ見て!」


ダイナが、空を指差す。

差した先には、宙に浮いている鳥籠が見えた。


監獄城から離れて、ひっそりと浮かぶ離れ小島。


何かがありそうと思うには、充分な立地だ。


「だが、流石に高くないか?」

「ジャンプでどうにかなる‥‥、高さではなさそう‥‥。」


目的地への距離は目算で、湖の水面から上方向に300メートル強。

周辺や籠の下に、足場として使えそうな壁などは無い。


最近は戦闘で、みんな当たり前のように空を飛んでいるが、完全に足場無しで300メートル上に飛ぶのは難しい。


不可能ではないが、プレイヤーのクラスやビルドによっては現実的ではない。


と、そんな時。

湖に漂う、赤いインクが動き出す。


急に3人の足元を通り過ぎて、鳥籠の方へ。

そして、インクが水面の上へと伸びていく。


インクが成長し、透明なイバラとなって、鳥籠までの道を創っていく。

イバラの上には、湖の水を使ったガラスの階段を用意。


安全に鳥籠に至るまでの道が築かれた。


ガラスの足場を頼りに、3人は上へと昇り始める。


視点がどんどん高くなっていき、湖をどんどん方々まで見渡せるようになっていく。

目を水平線の方へとやれば、白く壮大な雲海が広がっている。


とても幻想的な景色だ。


こんな、緊急事態で無ければ。

それと、高所恐怖症で無ければ。


鳥籠へと続く道を渡り切り、JJが格子を破壊する。

中が見えないほどに密度の高い格子を壊して、一行は鳥籠の中へ。


‥‥‥‥。

‥‥。


「――許せない。――許せない。」


籠の中は、驚くほど静かで、おぞましかった。


「‥‥‥‥憎い。‥‥‥‥憎い。」


女性の恨み辛み、湿った刃音。

びっしりと繁るイバラに木霊して、それらが鳥籠の中に幾重にもなって響く。


「奪われた。裏切られた。」


止まった籠の中で、長い黒髪の女性だけが、声を発し、腕を動かしている。

3人に背を向けて床に座り、ただひたすらに、腕を上から下へと振るう。


手には、鋭いイバラの棘。


棘も手も赤く染まり、それが自分の物なのか、誰の者なのか判断が付かない。


「許さない。許さない。」


女性は、鳥籠の壁が破壊され、侵入者を許すも、意には介していない。

ひたすらに腕を振り上げ、背中の向こうの何かに、執拗に棘を突き刺している。


「「「‥‥‥‥。」」」


3人は、顔を見合わせる。

どうしたものかと、困ってしまう。


見たところ、話しが通じそうな相手では無い。

かと言って、無抵抗な相手に攻撃をするのも憚られる(はばかられる)


今回のミッションは、プレイヤーの精神というか、正気度というか、そういうのを削ってくる。

いよいよ、殴って解決が通用しなくなってきたと、そう感じる。


全員が困った顔でアイコンタクトを取って、セツナが1歩前に出た。


鉄砲玉は自分の役目と、女性に近づいていく。

乾いた足音がするも、女性は気にも止めていない。


いよいよ、腕を伸ばせば届く距離になって、女性の肩に手を伸ばそうとする。


「――――!? うっ!?」


セツナが顔をしかめる。

生理的な嫌悪感。鳥肌が立つ。


それもそのはずだろう。

女性は背中の奥で、ピンク色の肉塊へ、執拗に棘を刺していたのだから。


いったい、どれほどの時間、どれだけの回数、繰り返せばそうなるのだろうか?


しかも、肉塊はまだ生きているようで、イバラが刺さると湿った音を立てて、筋肉が硬直を起こして固く収縮をしている。


イバラが引き抜かれると、ドロドロと溶けて、スライムみたいに不定形へと変貌する。

辺りに飛び散った肉片は、塊とひとつになろうと、床をドロドロと這っている。


セツナの正気度が、ここに来て、また削られる。


「ダイナ!」


セツナが叫んだ。


――この女は、終わっている。

無抵抗だからと、戦意が無いからと、情や情けを掛ける必要は無い。


セツナの声に、ダイナが魔法で答える。


杖を構え、杖の先端に火球を生成。

火球はみるみる巨大化し、ダイナの身の丈を超えるほどに。


鳥籠の床を削りながら、火球が放たれた。


セツナが射線から走って離れ、火球は女性の背に直撃。

背中を容赦なく焼いた。


「――かはッ!?」


女性の口から、黒い煙が上がる。

肺が焼け、吐血は熱により蒸発し、血が口の中で乾く。


火球の衝撃により、目の前に勢いよく倒れる。

肉片を押し潰し、ぶちまけながら、床に伏す。


「‥‥‥‥許せない。‥‥‥‥許せない。」


力尽きる死力を削ってまで、彼女はイバラを振るう。

もう、そこに憎むべき相手は居ないのに。


だが、イバラを、恨みを振るわずには居られない。


「‥‥‥‥あぁ。‥‥どう‥‥‥‥し、て‥‥。」


右手を上げて、すすり泣く声が漏れて、彼女は事切れた。

――赤い瞳を瞼が隠し、悪夢は終わる。


振り上げられたイバラが、重力で腕と共に落ちて、床を引っ掻いて砕けて折れた。


‥‥なんとも、後味が悪い。

出だしも最悪なら、後味まで悪い。


最悪も最悪だ。

終わっている。


いったい、この任務は何処に向かって、何処に着地しようとしているのか。


3人とも、気疲れからか、無意識に口から無言の文句が漏れてしまう。


もう、この場には居たくない。

一刻も早く、ここから離れたい。


皆、同じ気持ちで、出口へと向かう。


ダイナとJJが外に出て、セツナを待っている。

セツナも足早に、2人の元へと歩いていく。


――その時である。


セツナの足が止まる。

ダイナとJJの視線が、セツナの奥へと向く。


死んだはずの鳥籠の中で、物音、物の動き。


衣擦れの音がして、女性の死体がひっくり返る。

死体の下から、美しい女性が姿を現す。


銀髪銀瞳に、醜く歪んだ口元。


月の女神が3番目。

水曜の女神、暗い月のリリウム。


歪んだ三日月が、狂った箱庭の中に顕れたのだ。


――いや、彼女は最初から、ここに居たのだろう。

ここに居て、ここに囚われて。


この監獄はそもそも、彼女を捕らえ苦しめるための檻だったのだろう。


リリウムは、暗い笑みを浮かべる。


そして、無念を抱きかかえ力尽きた亡骸の顔を、踏みつける。

1度、2度、3度と踏みつけて、それから女性の頬を入念に踏みにじる。


それで気が晴れたのか、今度は上着の裾を両手で摘んで、亡骸に見せつけるような所作を取る。


リリウムの上着が、映像で見たときと変わっている。


生地が薄いのは相変わらず。

だが、半袖のブラウスから、長袖のワイシャツに変わっている。


――これは、()からの贈り物。

彼とのお楽しみのための、プレゼント。


歪んだ三日月が、深く吊り上がる。

勝ち誇った表情を浮かべ、両手を広げ、くるくると回り踊る。


「あははははははは――――!!」


狂った嗤い声と共に、鳥籠が崩れていく。

小さな鳥籠も、大きな鳥籠も。


イバラにヒビが入り、形を保てなくなる。


3人は、リリウムを置いて撤退した。

ヒビが入り、崩れていくガラスの階段を下っていく。


「――うわ!?」


ダイナが、階段から足を踏み外した。

運悪く、体重を掛けると同時に、足場が崩れてしまったのだ。


JJがマジックワイヤーを伸ばす。

伸ばして、ダイナを捕まえ、放り投げて復帰させる。


「ありがとう。」


足元に竜巻を発生させて、落下の衝撃を軽減。

安全に着地をして、階段を下りていく。


――受難は、まだ続く。


『――――!!』


空に、龍の咆哮が響いた。

その咆哮だけで、イバラは砕けて消滅する。


階段は崩れ、3人は湖の水面へ向かって落ちていく。


全員、スキルを使って何とか着地。

落下速度を軽減し、受け身と取り、転がるように着地。


そんな彼らに、崩壊した天井のイバラが降り注ぐ。

空を覆っていたイバラがへし折れ、支えを失って、空から3人に襲い掛かる。


火薬や夕暮れの爆発を使い、何とか生存スペースを確保。


天井の残骸が、彼らを囲むように降り積もっていく。

水しぶきに、木片の粉塵。


視界が塞がり、明けて開けた先には――、大口を開けた赤龍。


胸に傷を負った、夢の跡地で戦った赤龍が、空から矮小な生物どもを睥睨している。


雲海が散っていく。空が歪んでいく。

都市ひとつを消し飛ばした、あの攻撃が来る。


「逃げるぞ!」

「うえ!? 逃げるったってどこにさ!?」


JJの言う通り、逃げたいのは山々なのだ。

だが今は、オペレーターの支援も受けられなければ、CEも呼び出せない。


「――いい!?!?」


具体的な策を出せぬまま、龍のブレスが、浮き島を焼き尽くした。

その一撃に生存者はおらず、残ったのは、尽きぬ湖の水だけであった。


‥‥‥‥。

‥‥。






「――は!?」


視界が真っ白になって、瞼の下が真っ赤になって、暗い閉所で目を覚ました。

セツナは反射的に飛び起きようとするが、それをシートベルトに咎められる。


CE用の、パイロットの安全を確保するための、シートベルト。


「‥‥‥‥あれ?」


戻って来た?

じゃあ、どれくらい寝てた?


突如、機内にアラート響く。


ビックリトラップ。

肩が、びくりと跳ねてしまう。


アラートは、腕に装備したスマートデバイスから。

種類は、レッドアラート。


スマートデバイスから、電脳野を介して、検知箇所の座標が送られてくる。

ポイントは全部で3箇所。


1つは、この機内。

1つは、JJの乗るテストウドから。

1つは、ダイナの乗るホワイトナイトから。


「‥‥‥‥。」


死亡からの蘇生。

暴走した肉体に、驚異的な怪力。


そして、アラートを響かせているスマートデバイスの画面のように、真っ赤な赤い瞳。


いま、すべての合点がいった。

どうやら、セツナたちは、ディヴィジョナー化してしまったらしい。


自我を保てているし、別段なにかが出来るようになった実感はないが。


CEの機能が復活する。

ジェネレータからエネルギーが各機関に供給され、パイロットの操縦を受け付けるようになる。


イバラ龍との戦闘後、イバラの群生地に墜落したCEを立ち上がらせ、空に浮かせる。


同じタイミングで、テストウドとホワイトナイトも空へ。


『――許さない。――許さない。』


群生地の中に、女性が1人佇んでいる。

恨みつらみを吐きながら、よろよろと、砕けたイバラの龍の元へ。


龍の亡骸の上に乗り、そこから1本、棘を引き抜いて。


『青い空が憎い。何も知らず、回り続ける世界が憎い。』


自分の心臓に、イバラの棘を突き刺した。

女性は、龍に抱かれるように倒れ、胸から流れる血を、龍が啜る。


植物の龍に流れる葉脈が、誰にも知られることなく、拍動を始める。


‥‥‥‥。

‥‥。

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