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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5.5章_11月のサウィン祭

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SS8.09_蘇る厄災

――良かった、今の一撃で戦いが終わらなくて。

――良かった、更なる敵が来てくれて。


感覚で分かる。

今、我が心臓の闘争本能は、我が肉体たる鉄の鎧を凌駕した。


‥‥‥‥機が迫っている。

今こそ、鎧を捨てよう。



悪魔の竜、グレイワイバーンが放った、 ≪アプルヴァル≫ 。

ガンスリンガー最大の一撃は、格外の竜によって世界終末の光となった。


光は、竜の制御にさえも反逆し、世界の一片を飲み干した。


竜に挑んだ戦士は光に追われ、光に飲まれる寸前、燃える隼が夜空から強襲。

暴走する竜の腕を、寝かしつけた。


隼の登場に、戦士は安堵し、竜は歓喜する。


セツナの腕から、使用済みのストライクコアがイジェクトされて、魔力と蒸気が漏れる。

竜は、突如として現れた乱入者を見下ろし、歓迎する。


『――――!』


魔力の発生。そして殺気。

翼で身体を覆い、防御態勢。


「食らいな! 飛燕衝。」


夜の草原に、魔砲が轟然。

声高に自身の存在を主張する。


放たれた魔砲は、竜の守りと激突する。


砲撃が両翼に命中し、両翼を貫いた。

銀の翼に大穴が空き、龍の左顔面を消し飛ばし、片膝をつかせた。


軋む翼を広げ、魔法の砲手へ欠けた顔を向ける。


そこに居たのは、セツナと共に死地へ駆けつけた、ブーマー。


「セントラルのカワイ子ちゃんを守るため――、オレッちブーマー、参上。」


ブーマーは、キザったらしく決め文句。

曲がったタバコに火を点けて、――せいだいにむせた。


慣れないことをするものではない。


この場、全員の視線がブーマーに向く。


「――フッ。それでセッツン? 麗しのレディはどこに‥‥?」

「兄さん! それと‥‥、ナンパの人!」


「ナンパの人?」

「兄さん?」


ハルの ”ナンパの人” 呼びに、セツナが反応。

ハルの ”兄さん” に呼びに、ブーマーが反応。


アイもブーマーに気付いて。


「おや、あなたは確か――。」

「げぇ!? アイちゃん!?」

「げぇ、とは何ですか? げぇ、とは?」


セツナの視線は、ハルからブーマーに、ブーマーからアイに。


「なんだ、みんな知り合い?」


一同の顔合わせが済んだところで、竜が翼を大きく広げた。

翼を広げ、空に向かって吠える。


体は ≪アプルヴァル≫ によって限界を迎えている。

顔は潰れ、咆哮にはノイズが混じっている。


ノイズ混じりの声からは、声の主が抱く感情を正確に読み取れない。


セツナには、喜んでいるように聞こえた。

ハルには、怒っているように聞こえた。

ブーマーには、しんでいるように聞こえ、アイには楽しそうに聞こえた。


喜怒哀楽。

ノイズによって掠れ歪んだそれは、耳にした者の心理状況によって、如何様にも取れる声色となる。


喜ばしい、腹立たしい、悲しい、楽しい。

その全て一切、その通りだ。


喜ばしい、腹立たしい、悲しい、楽しい。

鋼の竜は、人の力によって、CEの限界を超える。


――人の奥底に眠る、次元の侵略種すら糧として。


グレイドラグーンの胸が裂けた。

CEの心臓部、ジェネレータから赤い結晶のつららが生えて、鋼の装甲を内側から食い千切る。


ブーマーのズボンのポケットに入れている、スマートデバイスが鳴動する。


レッドアラート。

スマートデバイスが、ディヴィジョナー因子に反応している。


反応の先は、グレイドラグーン。


――今こそ、人の手を離れ、人智を超え、鋼の鎧を脱ぎ、厄災の主と至らん。


竜を内から食い千切った結晶は、次々と竜の体へ広がる。

腹、喉、脚、頭、翼、尻尾。


瞬く間に、全身が赤い結晶で覆われた。


夜の寒空の下、赤い結晶が不気味に発光している。


結晶は脈を打ち、それと共に光を強める。

脈を打つたび、空気は風となって、光から逃げようとする。


これは孵化。これは羽化。

これは微睡(まどろみ)。これは目覚め。


結晶を破り、龍が姿を現す。

人間に寄生する侵略種、ディヴィジョナーを取り込んだ龍が。


銃剣を突き刺していた右手は、カマキリの鎌のような風貌に。


尻尾はサソリの尾となり、翼はハチ。

欠けた左の顔は、蜘蛛の瞳。


胸や腹には、かつてCEだった頃の残骸が肉体から突き出ている。


竜は、龍へと進化した。

厄災時代の亡骸が、前時代から燻り残った闘争心が、現代に蘇ったのだ。


この龍に名を付けるならば、タイプ:アポカリプス。

人類が生み出してしまった、育ててしまった厄災。


蘇った終末は、2度目の絶滅をもたらすべく、闘争を撒き散らす。


龍が羽ばたく。

虫が飛ぶかのように、音も無く宙へ浮く。


目の前に、大量の魔法陣が生成される。

蜂の巣の如く、ハニカム状の魔法陣が展開されて、空から大量の毒針が降り注ぐ。


毒針は、大地を枯らしながら4人の方へ。


ハルが全員に指示を出す。


「みんな! 私のところへ!」


ハルが銃剣を展開。

それを楯に、全員が隠れる。


金属に毒は通じないのか、毒針は防げている。


龍は尻尾を前に出す。

サソリの尾が、蜂の毒針の奥から、楯を狙う。


ブーマーが、スキルを発動する。


「攻撃は任せな。」


彼が過去、ハルと戦ったときのクラスは、ハルと同じガンスリンガーだった。


しかし、今日のクラスは「エクスプロージョナー」。

発破士と呼ばれる、ブーマーがメインで使用しているクラス。


このクラスの特徴は単純だ。

全クラス中、最強の攻撃力。


AGを5ポイント消費。

最強火力のためには、通常スキルの発動にさえ、AGが求められる。


――天から6つの光が降りて、夜を照らす。


「フォーリーローダー。」


光が龍を照らし、龍を焼いた。


発破士は、科学と魔法を問わない、爆発のエキスパート。

火力だけならば、他の追随を許さない。


6本の光が爆発を引き起こし、龍の行動を阻害。


蜂の巣は砕かれ、サソリの尾は狙いが逸れた。

尾から放たれた毒が地面をしたたか濡らし、土を抉り取った。


恐らくだが、あれは食らってはいけない。


銃剣の楯からセツナと、大鎚を握ったアイが飛び出す。

電光と、冬の嵐が、枯れた地面を駆けて行く。


龍は、駆ける2人に突進。

左手で地面を抉りながら迎え撃つ。


アイが、大鎚と大鉈を振るう。

龍の地面を抉る腕に、力比べを挑む。


横薙ぎに振るった得物は、龍の腕力と拮抗する。


――それも束の間、拮抗はあっけなく覆され、アイは地面ごと空に投げ飛ばされる。


セツナがマジックワイヤーを、龍に撃ち込む。

アイが作ってくれた一瞬の拮抗によって、ワイヤーの照準が出来た。


ワイヤーを龍の胸に撃ち込んで、跳躍。

そのまま、右手の太陽を胸に押し込む。


龍の胸を、太陽の熱が焼く。

外骨格が焼けて、機械だったころの残骸が露出して、溶けた。


龍は、体に集る(たかる)羽虫を払おうと、左手を動かす。

掴もうと迫る左手を、セツナは宙を飛んで避ける。


避けながら、サマーソルトキック。

足から銀色の魔力を銀月の形に伸ばして、龍の喉笛を裂く。


ハルが銃剣を叩き込む。

銃剣の柄頭に掌底を打って、突き攻撃。


狙いは、龍がセツナを払おうと動かした左手。

銃剣はそれに突き刺さって、左手を胸部に縫い付けた。


アイの大鎚が、龍の頭を捉える。

嵐の力で宙を蹴り、龍の傍まで力づくで戻って来た。


龍の反撃。

全身に黒雷が走る。


ハルの力を奪い取った、あの黒雷。


黒雷から逃れようとする3人を、龍は逃がさない。

――黒雷は引力を発生させ、逃げる者を許さない。


「「「――――!?」」」


空気の流れに違和感を覚えた頃には、もう遅かった。

物理法則を無視する、引き寄せる力に、3人が捕まる。


セツナの両脚と左腕が、龍の胸部に浅く沈み込む。

アイの得物が、龍の頭に飲み込まれていく。

ハルが、大地ごと龍の元へと吸い込まれていく。


龍の体への接触、非接触を問わず、引力に晒されているだけで、生命力が身体から奪われていく。


「全員、飛べ!」


そう叫んだのはブーマー。

彼は、両手にチャクラムを持っている。


AGを5ポイント消費。

スキル ≪飛燕刃≫ 。


面で無く、線の爆発を起こす、爆切チャクラム。


円形の武器を投擲。


チャクラムは引力によって龍へと吸い込まれ、至近距離で爆発。

刃に沿うように円形の爆発が起きて、空気を圧縮し、風の刃となって龍の体を切り裂く。


ダメージを受けたことにより、黒雷と引力が弱まる。


身体の自由が戻る。


セツナとアイが動いた。

セツナが龍の顎を打ち、アイが頭頂部を大鎚で殴る。


底面と頭頂からの同時攻撃によって、力の逃げ場が塞がり、互いの攻撃の威力を高める。

その一撃は、頭部を突き抜け、脊椎にもダメージを負わせた。


ハルは銃剣を操る。

左手と胸を貫通させた剣を、下へと振り抜く。


銃剣は手の甲を切り裂き、腹まで裂いてハルの元へと戻っていく。


裂かれた腹から、大量の子グモが地上へと零れていく。

赤い結晶を体から生やした、人間の指の第一関節くらいのクモ。


それ正体は、龍の血。

闘争を求め、敗者を貪る、龍の血。


明らかに母体の体積を超える量のクモが、ハルに集る。


まるで、そよ風が身体を包むように、あっという間に全身を覆われてしまう。


身体に集るクモを払おうとするが、払ったそばからハルの肌はクモに覆われる。


背筋に、文字通り虫唾が走る。

痛みも、ダメージもそれほどない。


が、生理的に耐え難い不快感と、それによる判断力の低下を引き起こす。


龍はハルに向けて、鎌を振りかざした。

地に足を付け、地を爪で捕まえ、上から下へと致命の一撃を放つ。


スキル ≪ハンドグレネード≫ 。

パッシブ「完熟パイナップル」が発動。


ブーマーの投げたグレネードが、ハルの背中に接触。

グレネードは直ちに爆風を起こし、ハルを吹き飛ばす。


ハルは龍の股下を潜り抜け、致死の鎌は空振りに終わる。


ロケットランチャーを構え、適当にぶっ放す。

適当にぶっ放しても、目の前に立ち塞がるデカい的には当たる。


その後、ドローンを展開。

ドローンにワイヤーで掴まって、追って来る小グモの群れから離脱する。


龍の背中に、人間の目玉が開眼する。

ギョロリとハルを睨むと、サソリの尻尾が襲い掛かってい来る。


ドローンを乗り潰して尻尾を避けつつ、銃剣に乗り移って尻尾の間合いから離れる。


龍の前面では、セツナとアイが応戦を続けている。

セツナは稲妻の力で宙に留まり、アイは嵐の力で子グモを寄せ付けない。


左半面のクモの複眼が、セツナを見つめている。

龍の左手がギクシャクと捻じ曲がり、指が裂けて関節の数が増える。


指の関節と、手首の関節を増やして、クモの糸を放出。

関節の隙間から、宙の羽虫を絡め取る糸が幾重にも広がっていく。


虫網の中から、テレポートで脱出。

稲妻では、糸に引っ掛かってしまう。


龍は羽ばたく。

テレポート狩り。


虫の小技と、龍の大技。

この厄災の幼体は、人と戦い、人の知恵を学んだ。


龍は空中で縦に一回転。

勢いをつけた尻尾で、瞬間移動を終えたばかりのセツナを、空から叩き落とした。


セツナの視界は、一瞬でサソリの尾で覆われて、目にも止まらぬスピードで地面に叩きつけられた。


ランカーと言えど、ただの人間。ただのプレイヤー。

電脳の身体が、特別丈夫な訳ではない。


攻撃を食らえば、他のプレイヤーと同じだけのダメージを受ける。

CEの攻撃をまともに食らえば死ぬし、龍の攻撃をまともに食らっても死ぬ。






――それでも、セツナは立ち上がる。


彼は、テレポート中にグレネードランチャーを取り出していた。

龍の尻尾が命中する直前、榴弾を擲弾。


自爆することで、尻尾との相対速度を和らげ、ダメージを減少させたのだ。

爆風をクッションに、何とか生き残る。


そうは言っても、体力の残量は2割を切っている。


状態異常によって毎秒受けているダメージをリカバリーできなければ、長くない。


「セツナ、私に合わせて!」


アイが動いた。

ワイヤーを伸ばし、龍の脚を捕まえる。


彼女の纏う嵐が無くなり、子グモが一気に群がる。


巨人と龍の力比べが、また始まる。


龍は右手を振り上げる。

ワイヤーを切り裂いてしまう魂胆だ。


巨人と龍による綱引きの只中、ハルはブーマーと意思疎通。


「ブーマーさん!」


ロケットランチャーを構えるハルを見て、ブーマーは意図を理解。


「オーケー。」


AGを10ポイント消費。

魔法陣、レティクルサークルを展開。


ブーマーの前に、銃のレティクルサークルを模した魔法陣が展開される。

――照準ヨシ。


「ドーン!」


スキル ≪飛燕衝≫ 。

ブーマーが拳で魔法陣を殴ると、仮想HEAT弾 (仮想成形炸薬弾)が発射される。


この魔法陣は、衝撃を受けることによって雷管が作動し、魔法で砲撃を行うスキル。

科学兵器のHEAT弾を参考にした魔砲は、貫通能力に秀でる。


発破士が誇る最強火力を、ターゲットの装甲を問わず押し付けることができるのだ。


科学と魔法の砲撃が龍を捉え、龍が怯んだ。


クモで視界の塞がったアイは、ワイヤーの緩んだ感触で、それを理解。

両手でワイヤーを全力で引っ張り、龍を地面に叩きつけた。


叩きつけて、その後すぐに力が抜けて、両手両膝を地面に着いてしまう。

セツナを助けるために動いたが、アイもアイで、竜と龍の連戦で消耗をしてしまっている。


倒れ伏すアイを、銃剣に乗ったハルが回収。

クモに覆われたアイを抱きかかえると、クモは、蜘蛛の子を散らしたように消滅していく。


どうやら、高度制限あるらしい。

クモは生れ落ちたら、地上付近でしか存在できないらしい。


蠢く(うごめく)龍の血は、黒雷の力を宿している。

すなわち、地表から生命の力を奪って存在しているのだ。


そのため、生命力の濃い地上から離れると、たちまちのうちに餓死してしまう。


アイが力づくで叩き落とした龍に、セツナが走る。

ガントレットに、コアレンズを装填。




ソードコア × シルバームーン = 銀なる大輪(フルムーン・クリーオ)




雪雲に覆われた夜空から、一筋の光が差す。

夜の太陽を浴びて輝く、銀色の月光。


月光は大剣となって、倒れ伏す龍の背に突き刺さった。


突き刺さると同時に、セツナが大剣の柄を握る。


立ち上がり、暴れる龍。

背に刺さった剣を強く握り、振り落とされぬように耐え、龍の背に足を付けた。


足に、銀色の炎が灯る。

銀月の加護を得て、セツナは龍の背を走る。


大剣の切っ先を食い込ませたまま、暴れる龍の背を切り裂いた。


背中から瞳が開眼。

血走った10ばかりの瞳がセツナを見下ろし、空からサソリの毒を滴らせる。


地面に埋まった大剣を蹴り上げる。

満月の大剣は本来、女神の寵愛を受けた英雄が振るうべき武器。


凡百がまともに振るえる武器ではない。

女神の寵愛を受けていない、選ばし者ではないセツナは、大剣を蹴り上げることで刃を振るう。


蹴り上げられ、上に半月の軌跡を描く大剣が、銀色に輝く。


スキル ≪シルバームーン≫ 。


刃から銀色の月光が放たれ、毒の雨を露と消す。

浄化して、蒸発させた。


銀色の月光は、地面を腐らせる毒であっても溶かせない。

月光が尻尾を捉え、攻撃の隙が生まれる。


セツナの身体が、銀の加護に包まれる。

満月の大剣が持つ、勇躍の奇跡。


重かった大剣が嘘のように軽くなり、身体は夜空へ向けて跳躍。

跳躍し、満月を描きながら地上へと落ちる。


遠心力の乗った大剣が、龍の尻尾の根元を、半分ほど切り裂いた。

空から、アイが飛び降りて来る。


根元半分で留まる大剣に、大鎚を振り下ろす。


空から雷神の(いかずち)が落ち、尻尾は完全に龍から切断された。


龍は尻尾を失い、重心が取れなくなり、バランスを崩して前へと転倒。

僅かばかりの隙が生まれる。


しかし、切断されたサソリの尾から、大地を腐らせる毒と血が噴き出す。


セツナはアイを庇うように、自分の影へと隠し、大剣を盾に。

大剣の表面が毒でしたたか濡れて、煙を上げる。


大剣に、ヒビと亀裂が生じる。

満月の加護が、ほころび、もつれる。


アイは毒をやりすごし、攻撃態勢。

立ち上がろうとしている龍の脚を攻撃した。


鉈で切りつけ、大鎚で殴り、離脱。


セツナも本体を叩こうとしたが、それは叶わず。


余力を残す尾が、蛇のように襲い掛かって来て、その突きを受け吹っ飛ばされて離脱。

尾の突きを受け、大剣は砕ける。


満月は砕け、新月となる。


ダークムーンスタンス。

大剣は、エストックとカランビットナイフに分かたれ、変則双剣の姿へ。


新月の双剣は、速足(はやあし)敏速の奇跡を与える。

吹っ飛ばされたはずのセツナが一息で、まだ生きているサソリの尾に接近。


前から切り裂き、後ろから切り裂き、さらに前から切り裂き、後ろから貫く。

貫いた剣を蹴り上げて、尾の先を二股にして、トドメを刺した。


しかし――。


(エストックが‥‥。)


サソリの毒で、エストックがダメになってしまった。

刃の中腹から腐って、ボトリと地面に落ちて溶けてしまう。


龍の本体へと目を向ける。


龍は、わずかな隙を突かれて、3人の波状攻撃に晒されていた。


大鎚で殴られ、銃剣で切られ、魔砲が直撃。


それでも、彼奴もやられてばかりではない。


勢いよく四つ足の体勢となり、地面を揺らす。

怯んだアイに対して首を振るって弾き飛ばし、羽で飛んでハルに突進をして、ブーマーに毒針の雨を降らせた。


AGを5ポイント消費。


ブーマーは、スキル ≪キックスターター≫ を発動。

靴底を地面に強く擦りつける。


スキル発動に伴い、パッシブ「丈夫な安全靴」も発動。


靴に仕込んだ火薬が爆発。

毒針の集中豪雨を切り抜ける。


本来ならば、火薬が靴底を貫通して自爆ダメージを受けるのだが、丈夫な安全靴を履いているので、足は火薬から守られる。


キックスタートからスライディングに繋ぎ、AGを10ポイント消費。


(――ぶち抜くぜ!)


スキル ≪ダンブルファイア≫ 。

パッシブ、「効率2倍」が発動。


ブーマーの両手に、垂直二連のグレネードピストルが装備される。


――彼をランカーたらしめる、射撃の腕が猛威を振るう。


地面を滑りながら、照準も覗かずに、グレネードピストルの引き金を引く。


ブーマーの真骨頂は、本能射撃 (インスティンクト射撃)。

サイトを覗かずに、腕の感覚だけで精密射撃を可能とする。


4発の擲弾が緩い放物線を描き、龍の右翼に直撃した。

羽が根元から吹き飛び、龍は飛行能力を失い墜落。


墜落しながらも、毒針の雨を降らし続ける。


「――ぐッ!?」


苦し紛れの抵抗は、功を奏した。


羽を失い、飛行の軌道が不規則になったせいで、雨の位置を予測できず、左肩から腕にかけて毒針が刺さる。


毒針には、神経毒があるらしい。

左腕の感覚が乏しくなる。


針を引き抜き、墜落した龍と対峙する。


4人と1体が、相対して睨み合う。


連戦による消耗が激しい、アイとハル。

龍の一撃が直撃した、セツナ。

左腕が利かない、ブーマー。


尻尾を失い、羽を失った龍。


この場、全員が消耗している。

互いに、守りの札が少なくなっている。


ならば――。


龍が、勝負を決めに動いた。

右手の鎌を自らの心臓に突き刺す。


突き刺し、左手で鎌をへし折る。


龍の心臓から血が流れ、血が闘争本能の炎となる。


真っ黒な稲妻と、真っ白な炎を纏い、虫の小技と人の知恵を捨て、龍の力で小人を押し潰しにかかる。


この局面、消耗した状況で、ここ一番の馬力。

最後まで吠えるからこそ、龍なのだ。


ここ一番で、最大馬力を発揮する龍を前にしても、4人は臆することを知らず。

セツナが、アイとハルに声を掛ける。


「アイ、ハル。クッキーはまだ食べてない?」


こくりと答える2人。


「なら、それを使おう。何が出るかは、お楽しみだけどね?」


ブーマーとセツナは、2人の前に立つ。


「オレ達は、お膳立てって感じ?」

「そんな感じでお願いします。」


龍が、大口を開く。

黒雷と白炎が混ざり、圧縮され、融解し、ブレスの姿勢を取る。


セツナとブーマーは、前に歩き始める。


ブーマーは、1つしかないブレイブゲージを消費。


「うっひょ~~!

 カワイ子ちゃんのエスコート、テンション上がって来たッ!」


彼の念願悲願、ついに成就。

いつもは、むさ苦しい野郎ばかりとつるんでいたが、今宵はカワイ子ちゃんと一緒に戦えた。


ケルトの神とサウィンに、マジ感謝。


「テンション上がったから、一杯やっちゃうぜ!」


ブレイブゲージが消費され、パッシブ「ボルテックスチャージ」発動。


ブーマーの手に、どこから取り出したのか、エンジンバッテリーが出現。

おもむろにバッテリーの蓋を開けて、中身の電解液を飲み始める。


バッテリーをひっくり返して、そこから流れ落ちる電解液を飲むと、電池式の人工心臓に電力が供給される。


彼の心臓は、パッシブ「ハイ・ボルテージ」の効果によって、人工心臓となっているのだ。


電解液を一気に煽る。

なぜかバチバチと火花をショートさせている電解液を飲むと、なぜか充電が開始され、彼の身体に電流が駆け巡る。


電流がビリビリ、骨がスケスケになりながら――、ボルテックスチャージ!!


「うおぉォォォォ!! キタキタキタぁぁぁああ!!」


レディの前で、男らしくバッテリー液を一気飲み。

目と口からスパークをバチバチさせながら叫び、空になったバッテリーを投げ捨てる。


一見すると突飛に映るこの行動。

実は、かなり強い行動。


色々な要素により、彼はいま、1秒間にAGが2ポイント回復するようになっている。

伊達と酔狂の行動であり、勝ちに行く行動。


――龍のブレスが、口元から放たれた。

ブレスは、地上の1メートル上を飛んでいるのに、地面を融解させガラスに変えながら4人を襲う。


ブーマーが、AGを1本消費。

スキル ≪AG飛燕衝≫ 。


三重に連なるレティクルサークルが出現。


「ドッカーン!」


ノリノリで右拳を振るい、魔法陣を起動。

魔法陣から、強力な榴弾が放たれる。


魔砲が、龍砲と激突。


魔砲が爆ぜ、榴撃を発生。

龍砲に対しての壁となり、4人を守る。


セツナが姿勢を低く、アサルトダッシュ。

AGを消費し、新月の奇跡を授かり、目では追えぬ速度で駆ける。


彼は、光陰の速さでもって、魔砲と龍砲を横切る。

直後、龍砲が形を失い爆発。


爆発を追い風に、光陰は更に加速。


加速し、踏み切り――。

龍の右肩に、折れたエストックを突き刺した。


だがしかし、攻撃の直後、セツナは黒雷の引力に捕まる。

同時に、白炎の膨張する圧力にも晒される。


黒雷の引力と、白炎の膨張。

板挟みにされてしまう。


身体を前と後ろから潰されながら、エストックから手を離す。

そして、アサルトダッシュ。


銀月が光陰の如く駆け、白黒の呪縛を振り払う。


龍の背後にアサルトダッシュで抜けて、ブレイブゲージを消費。

青いコアレンズを、左手でポーチから取り出す。


左手にはカランビットナイフを握っているが、人差し指に通したリングのおかげで、レンズを取り出す邪魔にならない。


刃を手の甲側、つまりナイフを猛獣の爪のように立てて見せることで、手の平が使えるようになるのだ。


器用に青いコアレンズを取り出して、流れるように装填。

AGが50まで回復。


ブレイブゲージを消費したことで、パッシブ「英雄願望」が発動。

AGが追加で1本回復。


――アサルトダッシュ。


黒雷の引力を振り切りながら、龍が振り返るよりも速く、左肩を切りつけた。

龍は、セツナの速度について来れていない。


背後から切りつけて、龍の前に出た。


AGを2本消費。

EXスキル ≪銀の大輪≫ を発動。


新月の牙が光を吸収し、鈍く輝く。


「――新月の剣(ダークムーンクリーオ)。」


ナイフを逆手に構えるセツナの横に、新月を名乗る女神の幻影が現れる。

彼女は、冷めた視線で気怠そうにセツナを見て、龍を見る。


セツナの姿が消える。

その動きを知覚できた頃には、彼の攻撃は終わっている。


魔力の起こりを察知して、魔力の流れを追って、動きも流れも――時間さえ止まって。

次にやっと痛みが来た。


新月の牙は、不可視の刃。

美しも獰猛な牙が、龍の左肩の肉を抉り取っていた。


間髪を置かず、新月の女神が、牙の負わせた傷に触れる。

そっと宙に浮いて、抉られた傷に触れて、牙の軌道をなぞるように、そっと左の人差し指で撫でた。


――竜の左腕は、肩から切断された。


新月は、つまらなさそうに宙から降りる。

何が起きたか解せない龍を、女神は()()()()()()()()、月と消える。


龍の背後で、セツナが膝を付く。

ナイフは手の中で溶けて、手の平と一体化している。


黒雷と白炎に晒され過ぎた。

立ち上がる間もなく、状態異常のダメージによって体力ゲージが空になり、頭から地面に倒れた。


セツナの特攻に、ブーマーが続く。


月の剣で、左腕は切り落とした。

右腕にも重傷を負わせている。


龍の守りは弱まっている。

ブレスを吐かれる前に、とにかく攻撃。


押し切れなければ、こちらが負ける。


「うぉぉぉぉ! 普通のダッシュ!」


セツナの疾走よりも幾分も遅い、素のダッシュで龍に接近。

敵の攻め手を削いだ今だからこそできる、大胆な接近。


そして跳躍。


「とォ!!」


AGゲージを2本消費。

EXスキルを発動。


「行くぜベイビー!

 ウルトラスーパーーッッッ! ブレイズキィィィィィック!!」


EXスキル ≪ウルトラスーパーブレイズキック≫ 。


科学と魔法の力で、爆発的な火力を得た、ブレイズキック。


高く飛び上がったブーマーは、一気に急降下。

身体中が発火し、火だるまとなる。


その姿はまるで、大気圏を落ちる隕石。

月のファーストインパクトに続く、セカンドインパクト!!


『――――!!』


が、セカンドインパクトは見切られ、回避された。


バックステップを踏まれ、ブーマーは地面に突き刺さる。

しかし、攻撃が外れたのに、彼の表情には余裕がある。


口元にニヒルな笑みを浮かべて、龍を指差した。


ウルトラスーパーなところは、ここから。


‥‥‥‥。

‥‥。




サードインパクト。

ブーマーの着弾点を震源に、地震が発生。


地面を持ち上げるほどの大地震が起き、空にキノコ雲が伸びていく。


大地震、キノコ雲。

それらはまさに、隕石の威力を象徴する現象。


龍は、隕石の直撃こそ回避したが、その余波でダメージを受ける。

さらに足元が崩落し、下半身が埋まってしまう。


着弾点では、ブーマーがやり切ったように、大の字で倒れていた。


死因は自爆。

発破士の起こす爆発は、自他に甚大な被害をもたらす。


うべもなし。

最強の火力を、誰よりも近くで受けたのだから。


――その直上、大の字で倒れる爆発屋の上を、白い閃光が一閃。


ハルが、サウィンクッキーを使用。

サウィンクッキーは、銃の弾丸となった。


弾丸を拳銃に装填すると、銃は巨大なレールガンへと変貌。


片膝立ちになり、抱きかかえるように担ぎながら照準。

撃ち出された弾丸は、白い閃光となり、音速の何倍もの速さで、龍の心臓を撃ち抜いた。


‥‥龍の動きが止まる。

体の端から、砂になって消えていく。


そして――。






――魂だけの姿となり、さらに巨大化した。


肉体という檻から解放され、魂がこの世に存在を許されたわずかな時間で、最期の闘争を試みる。


ファイナルアタック。

強大な敵が最期に放つ、必死の攻撃。


それを受けるのは、サウィンクッキーを手にしたアイ。

クッキーは、アイの手の中で、サウィンコアとなった。


コアを、嵐と竜の力で砕く。



サウィンコア × 竜のルーン = ――――。






赤 龍 降 臨






夜を照らし、天蓋の大瀑布に朝が来た。

朝となって、昼になった。


昼の明かりは、地上に降り立ち、アイを忌々しく睨み、その奥で吠える、チビッこい若造を睨む。


赤龍は、軽く翼を動かす。

死体2つと、生きている2人は、二雄の前から横に押しのける。


赤龍を前に、チビが吠える。

肉体から解放され、魂だけとなり、文字通りの全霊が放てるようになった幼き龍が大口を開く。


黒雷を纏い、白炎を燃やし、その口に大地と大空を飲み干して、力を蓄える。


赤龍は、何をするでも無く、若輩の戯れを傍観している。


幼龍が辺り一帯を飲み干して、自らの全霊を一片残さず、吐き出した。

短き生涯において、最高の一撃、厄災の名を冠するに、恥じぬ全霊。


ブレスに、自らの魂も乗せ、灯火のひとつも残さない勢いで、己が全てを吐き出す。

龍の口から、魂が蓄えた力が放出される。


溶けた土砂、圧縮された水、食ったCE。

それらを黒雷で圧し潰し、ひとつの惑星にして。


途方も無い質量と魔力の限りを、赤龍にぶつける。


厄災の頂点たる赤い覇者は、その場から一歩も動かず、動じず、幼龍の全霊を受ける。


惑星が赤龍に衝突し、天変地異が起きて、大地が噴火して、空からは拳ほどの雹が降る。

今、この場は、生命が存在できる空間では無くなった。


龍の戦いに巻き込まれたアイとハルは、互いに身を寄せ合って、伏せて動けない。


‥‥そんな極限環境の中、赤龍は身じろぎひとつ取らず、堂々と立っている。


マグマが鱗に散ろうが、雹が翼を叩こうが、動かない。


やがて、全霊の惑星は彼の前で砕け、無に帰す。



幼龍の魂が、限界を迎えた。

その場に倒れ伏し、存在が希薄になっていく。


急激に弱っていく幼龍を前に、赤龍が口を開く。


――戦いで死ねぬは、龍の恥。

――龍と呼ぶには弱すぎるが、同胞のよしみで手向けをやろう。


心して聞け。その心胆に刻め。

龍とは‥‥‥‥、こう吠えるのだ。


赤龍の口から、咆哮が放たれた。


咆哮は、幼龍の身を一片すら残さず焼き、その火柱は、空高くまで上った。


その炎は、天蓋から落ち出ずる(いずる)大瀑布、その滝の上にある都まで届いて、一昼夜に渡って、地上と空を焼き続けた。



幼龍は死に、赤龍はアイとハルを睨み、大空へと帰って行った。


北の草原には、全てが終わった静けさだけが、そこに残るのであった。


‥‥‥‥。

‥‥。

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