SS8.07_ビッグフットを越えて
カオスルーラーを撃破 (降伏)させたセツナ。
本来であれば鹵獲して戦力にしたいところだが、今回それは許されなかった。
パイロットが降伏を認めると、CEはパイロットを閉じ込めたまま、石化してしまった。
先行体験は終了。
石となったCEには、乗り込むことも、動かすこともできない。
物言わぬ石の上に立っているセツナを、雪だるまの軍勢が囲み始める。
どこからともなく、頭だけが転がって来て、セツナの周りに群れて集まり、頭から胴体が生えて、胴体から得物を取り出して武装する。
(これからどうしようか‥‥?)
セツナは考える。
この戦いの首謀者の元へと行くか?
それとも、CEや雪だるま軍などの、首謀者を取り巻く脅威を排除するか?
CEは全部で12機。
さすがに、12機すべてがランカーにあてがわれたとは考えにくい。
M&Cにはランカーが集まっていると、もっぱらネットで噂されていても、今宵のイベントに12人もランカーが参加しているとは考えにくい。
ならば、どこかに、欠員の割りを食っているプレイヤーが居るはずである。
もしくは、ランカーが三悪魔の機体に乗っている可能性もある。
「‥‥‥‥。」
数の暴力を前に、考えに耽るセツナ。
のんびり構えている彼に、雪だるまが矢の雨を降らせる。
大地を踏み割ろうと片脚を上げて、その動きを稲妻の力でキャンセル。
雨よりを早く駆けて、敵地のど真ん中に地震を起こす。
思考をしつつも、身体は勝手に動く。
地震で頭だけになった雪だるまを蹴り飛ばして、同士討ち。
宙に浮きあがった金属バットを拾って、雪だるまの頭をジャストミート。
打球は正面を強襲し、アウェイな会場は乱闘となる。
戦いながら意思決定。
取り合えずは、アイとハルと合流するように動く。
移動中に何らかの脅威と遭遇すれば、そちらを取り除く。
臨機応変に動くことで方針を固めた。
北の方で、大きな魔力のうねりを感じる。
おそらく、そこに首謀者であるサンタが居るのであろう。
地を走り、屋根を駆け、宙を飛び、障害を殴り飛ばし、蹴り上げ、武器を強奪しながら北に進路を取る。
そして、セツナが村の広場に差し掛かった頃であった。
篝火が氷り、人の氷像が並ぶ広場で、大きな爆発が起きた。
爆風から目を守るために、腕を顔の前に出すセツナ。
すると、彼の背後でも爆発が起きて、彼を追いかける雪だるま軍団が瓦解する。
生き残った残党が、セツナの後ろから斧で脳天をカチ割ろうとする。
雪と氷の舞う広場から銃声が2回聞こえて、奇襲を仕掛けた雪だるまは砕けて積雪になった。
セツナは、大地を踏み割る。
魔力を帯びた脚力が大地を持ち上げて、地面をめくる。
雪の混じった地盤を、広場に向けて蹴り飛ばす。
地盤は、広場の残党に直撃して、派手に雪飛沫を上げた。
爆風の余波が落ち着き、セツナと広場に居る人間の姿を、互いが確認できるようになってくる。
そこに居たのは――。
「ブーマーさん!?」
「セッツン!!」
そこには、セツナと同じランカーであり、現実世界でも接点のあるブーマーの姿があった。
思わぬ遭遇の喜びと驚きもほどほどに、ブーマーがセツナに銃口を向ける。
主力火器の、DDH二丁拳銃。
デュアル・デザート・ホーク。
50mm口径のモンスターピストルを、デュアルアクションで扱う、トチ狂った主力火器。
トチ狂った2門が、伊達と酔狂の男に握られて、セツナを睨む。
「またまた奇遇だね。」
ブーマーが引き金を引く前に、セツナはその場でしゃがむ。
銃弾は、セツナの後ろに居た雪だるまをバラバラにした。
地面に落ちた斧を拾い上げ、立ち上がる。
「この前といい、縁がありますね。」
斧は投げられ、魚の屋台の上へ。
屋台の上に立っていた雪だるまに、斧が深々と突き刺さり、だるまの頭と胴が離れ離れになる。
敵の気配が落ち着いたところで、2人は互いに歩み寄る。
ブーマーは銃を捨て、新しくホルスターから2丁拳銃を引き抜く。
ホルスターには、次のデザートホークがすぐさま補充される。
使い切り、使い捨てのリロードタイプの銃であるらしい。
「もしかして、CEと戦ったあとだったり?」
「あとだったりします。」
ここで知り合いにバッタリ出会えたのは大きい。
お互いにとって。
一緒に自衛団のトライアルを受けた仲で、慰労会を3次会まで楽しんだ仲で、一緒に魔神とも戦った仲だ。
友人で戦友。
とても心強い。
「これからどうしちゃう?」
「とりあえず、北に行こうかと。」
「じゃ、オレもそうしちゃおっかな。」
「助かります。」
そう、今後の方針を決めた所に――。
家屋を破壊しながら、CEが広場に現れた。
雪の結晶を思わせるシャープなデザイン、三悪魔の機体、スノーデビルだ。
青白いボディには所々煤けた汚れがついており、戦闘の痕が見られる。
雪の悪魔が現れた方向から、何人もの怒声が聞こえる。
「広場に逃げたぞ!」
「追え! 殺せ!」
「裏切り者は始末しろ!」
「天誅! 謀殺! 権謀術数!!」
「‥‥ひっ!?」
「「‥‥‥‥。」」
2人の目線はゆっくりと、悪魔と呼ばれるCEの方へ。
CEは、肩をすぼめてガタガタ、内股になってビクビクしている。
‥‥怖い目に遭ったのだろう。
スノーデビルは、慌てて地面に右手を付ける。
すると、右手に冷気が集まり、自分が逃げ込んで来た通路に氷壁を展開。
氷のバリケードが、物騒な怒声を遮り、広場は幾分か静かになる。
しかし、声は小さくなっても、声の勢いは衰えない。
「バリケードだ! 砲撃部隊、用意――――!」
セツナとブーマーは、自分の耳を塞ぐ。
「撃てぇぇぇぇぇッッ!!!!」
火薬と硝煙の匂いが、バリケードを飛び越えて広場に充満した。
身体の芯まで揺らす爆発が起きて、低い振動が身体を揺さぶり、氷の砕ける甲高い音が頭蓋に響く。
「突撃ィィィィィイイ!!」
「「「うぉォォォオオ!!」」」
崩壊したバリケードから、目を血走らせた模擬戦民族がぞろぞろと雪崩れ込んで来た。
全員、この混乱を生き残り、勝ち残った猛者である。
猛者は皆、強いヤツと戦いたい衝動だけで、ここまで生き残った。
新型CE、あれは魅力的だ。
――敵として。
ならば、彼奴と相対するまで、有象無象の雑兵ごときに後れを取る訳にはいかない。
雑兵を蹴散らし、生き残り、力を蓄え、機を窺った。
そして、機を見れば敏。
CEに目をつけた生き残りが1人、また1人と徒党を組んで、CEを追いかけ回した。
今日はお祭りで、初めての大イベントで、その目玉は新型CEのお披露目。
となれば、戦いたくなってしまうのが、この界隈のプレイヤーであり、界隈の民度。
猛者たちは知っている、この世界に集うプレイヤーは皆、強者であると。
それはちょっと困った勘違いなのだが、彼らはそれを信じて疑わない。
結果、強いヤツをシバきたいという個々のエゴが、謎のチームワークを生み、CEを追い詰めていく。
‥‥精神的に。
「待ってください! 降参! 降参します!」
CEのパイロットは、新人だろうか?
怖いお兄さんたちに追いかけ回されて、可哀想に。
アワアワと、両手を前で振って降伏の意思表示。
悪魔の名が泣いている。パイロットの目も泣いている。
怖いお兄さんたちは、戦意喪失したCEを見て、武器を下ろす。
「全体、回れぇぇ右!」
統率の取れた、一糸乱れぬ靴の音が響いて、分隊は回れ右をする。
すると、村の外、麦畑の方で信号弾が上がった。
「生存している敵機を発見! 全体、駆け足!」
「「「ヒャッハーーーーー!!!!」」」
駆け足どころか、全力ダッシュ。
我先にと全員が駆け出して、嵐は去って行った。
戦意喪失したスノーデビルは、立ったまま氷像となる。
パイロットにとっては、災難な夜になっただろう。
これに懲りず、明日もまたこの世界に来て欲しいものである。
氷像に、カブの妖精さんが近づく。
妖精は動かなくなったCEの中に入り込み、中からパイロットを引っ張り出した。
身体が半透明になったパイロットが、妖精さんに連れられて、村の外れに飛んで行く。
『あっちで、みんなで踊ろ!』
『踊ろ! 踊ろ!』
どうやら、脱落者の避難所が用意されているらしい。
そこでは、お肉にお魚にお菓子。
音楽にダンスに、観戦。
戦いの宴を、サウィンの宴に興じつつ見守ることができる。
セツナとブーマーは、意思の疎通も無く、真っ直ぐに北へ向かった。
CEの懸念は何とかなりそうだ。
自分たちは、不人気な首謀者の方へと向かう。
◆
アイとハルは、セツナと別れてからは進路を北に。
広場を抜けて、その向こうへと走り出す。
カブの妖精が言うには、村の北の外れに、遺跡があるそうだ。
巨石信仰の様式が強く見られる、遺跡。
そこは、妖精の棲み処と呼ばれており、自分たちはそこから生まれて来たのだという。
村の雪だるまを蹴散らしながら、集落を出た。
家畜を放牧するための放牧地が広がる道を、サンタの軍勢が跋扈している。
‥‥村の中とは、兵隊の顔ぶれが異なる。
村の外を歩いていたのは、雪だるまの巨人。
体長3メートル、大きな手と足を持つ巨人が、何体も跋扈している。
それは、未確認生命体「ビッグフット」を模したモンスター。
ビッグフットたちは、アイたちと同じく北へと向かおうとするプレイヤーを阻んでいる。
空を、赤鼻のトナカイが走る。
無人のソリを引く数頭のトナカイが、シャンシャンと夜空を駆けると、雪が降り、雪は雪玉に。
空を滑るにつれて、粉雪は雪だるまみたいに大きく肥えていく。
大きくなりながら、人間の頭サイズほどの雪だるまが、ボトリと空から落ちる。
この時はまだ、体が新雪のように柔らかいようで、地面にぶつかるとサラサラと形を変えている。
落ちた雪玉は、雪だるまの種。
種はその場でコロコロと転がる。
転がると、雪も無いのに体がムクムクと大きくなって、種が育つ。
種を転がして、種が充分に大きくなったら、ニョキリと胴体や手足、武器が生えてきて、雪だるま兵の完成。
なるほど、あの短時間で数の暴力を用意できたのも、それを継続的に供給できるのにも、合点がいった。
そして恐らく、この雪だるまの農場は、ここ一箇所ではないのだろう。
元凶を絶たぬ限り、敵の勢いが衰えることは無い。
非戦闘状態のビッグフットが、アイとハルに気が付いた。
大きな手でドラミングをして威嚇。
威嚇後、即座に襲い掛かって来る。
放牧地から、雪だるまの種を引っこ抜いて、2人に投げつける。
その投球は、プロの野球選手を彷彿とさせる。
投げられた球は、直径50cmはある。
雪といえど、その成分は水の塊。
直径50cmもあれば、死球は命に係わる。
――しかもこのボール。
アイはハルの前に立つ。
大鉈を構えてボールを受ける姿勢。
ボールは不規則に軌道を変えながら、2人に襲い掛かる。
ナックルボール。
無回転で放たれた雪玉は、表面の凹凸が生み出す空気抵抗の非対称性によって、弾道の予測ができない。
投球は、デッドボール。
ビッグフットの握力で固くなった雪玉を、大鉈で何とか受ける。
死球の威力を完全に殺し切れず、アイの身体が後退するのを、ハルが後ろから支え、2人で攻撃を凌いだ。
アイが嵐を纏う。
ハルが、雪玉を蹴り上げる。
大鉈を振るう。
巨人の膂力で、死球の報復。
鉈の峰で雪玉を打った。
打球は雪空の下はためいて、ビッグフットの胸部に直撃。
彼奴の胸を貫通して、強烈なピッチャー強襲をお見舞いした。
それでも、ビッグフットは倒れない。
その辺から雪だるまの種を引っこ抜いて、ぽっかりと空いた胸の傷に押し込む。
すると、種が体に馴染んで、傷口が塞がる。
ついでにもう1個、雪玉を引っこ抜く。
今度は、ボールをボウリングの要領で転がす。
ボールはワックスも塗られていない地面を転がりながら、どんどん大きくなる。
大きくなりながら、例に漏れず2人を狙う。
2人は前へと駆けだす。
転がるボールは、途中でカーブをするも、あっさり2人に躱されてしまう。
ビッグフットは、懲りずに2投目。
回転を変える。フックボールから、UFOボールへ。
転がされたボールには、UFOの回転のような、地球の自転のようなスピンがかかっている。
このボールは曲がらず、かつピンとの衝突に強い性質を持つ。
ワックスのコンディションに左右されにくく、クセの強い名前と回転軸に反して、安定感のある球種。
UMAが投げたUFOは、地面をクルクルと回りながら巨大化。
直線な軌道で2人を狙う。
ボールのスピンが竜巻を起こして、周囲の雪の種をかき集める。
かき集めて、竜巻が大きくなって、ボールは加速度的に巨大化。
30メートルそこそこの距離を滑っただけで、直径5メートルほどの壁になる。
竜巻の風に当てられて、2人の脚が鈍る。
主力火器を取り出す。
汎用機関銃と、ロケットランチャー。
秒間20発の暴風と、巨大な弾道ミサイルが氷の壁となったボールに叩きつけられる。
竜巻が掻き消え、表面にヒビが入る。
ハルが銃剣を取り出す。
右銃剣でボールを一刀両断。縦に叩き斬った。
砕けたボールの奥では、ビッグフットがピッチングの投球モーションに入っている。
アイが嵐を纏い、ハルが左銃剣の上に乗る。
ハルが乗った左銃剣を、アイが力任せに投げ飛ばす。
同時に、アイは足に火炎を宿す。
火炎が足元に伝導して、銃剣の刃に炎が走る。
左銃剣に乗り、右銃剣を回収して、突撃。
銃剣突撃は、ビッグフットが投げた火の球ストレートを蹴散らし、そのまま彼奴の腹を狙う。
ビッグフットは、素早く銃剣突撃を躱す。
手に持ったボールを、バスケットボールのドリブルの要領で操りながら、彼女の突撃をドライブで避けた。
屋外で、シューズも履いてないのに、鋭く床を切り込むバスケットシューズの音が響く。
スポーツマン気取りのビッグフットである。
主がアレならば、手下もコレだ。ふざけている。
銃剣をしまい、二丁拳銃に。
ビッグフットはドリブルをしたまま、ハルに背を向けて離れていく。
アイを攻撃するつもりのようだ。
ドリブルを止めて、ボールを右脇に抱える。
アメリカンフットボールの構え。
トラベリング (バスケの反則)など気にせず、アイに突進。
突進し、跳躍し、ボールを地面に叩きつけようとする。
タッチダウンダンク!
アイは足を止め、後ろに飛び退く。
タッチダウンのダンクが豪快に地面に叩きつけられて、握っていたボールを破壊する。
ボールは破壊され、衝撃で氷柱が発生し、四方八方に伸びていく。
伸びた氷柱がビッグフットに刺さるも、彼は気にしていない。
むしろ、氷柱を体に取り込んでいく。
アイが機関銃を乱射し、ハルが爆発ドローンをけしかけて、氷柱を破壊。
放牧地に生えた氷の茨を駆除する。
茨の中に居たビッグフットは、ドラミング。
取り込んだ氷柱が体から生えて、ボディもビルドアップ。
スポーツマンフォームから、ストロングマンフォームにフォルムチェンジ。
――やりたい放題。少し早いクリスマスに、はしゃぐ。
大きな手を振り上げて、力任せに振り下ろす。
手の平には、1本の氷柱が生えている。
冗談みたいな敵だが、攻撃は冗談では済まない。
アイを狙った攻撃を回避。
ハルが、ビッグフットの背に、魔法の矢を撃つ。
利いてはいるようだが、浅い。
雪の筋肉に、威力の多くを吸収されている。
矢が背中で氷り、その背中が倒れ込んで来る。
茨の生えた剣山が迫るのを、横っ飛びで回避。
距離を取りながら、榴弾を乱射してダメージを稼ぐ。
ビッグフットは、そのまま後ろ受け身を取りつつ立ち上がる。
立ち上がり、両手を地面に。
手の平から手の甲を貫く氷柱が、地面の中に撃ち込まれた。
地表温度が一気に下がる。
地面から、霜と茨の波が発生する。
波は、アイとハルのくるぶしまでを濡らし、茨が足に突き刺さる。
霜と茨が、2人の動きを奪う。
ビッグフットは、両手を地面に押し込む。
そして、大地を持ち上げてハルに投げ飛ばした。
銃剣を取り出す。
投げ飛ばされた土地を銃剣で切り裂く。
――切り裂いた目の前には、拳を振りかぶったビッグフットの姿があった。
拳が振り抜かれる。
拳の軌道を、雷神の大鎚が逸らす。
アイの投擲。
手斧の封印を解き、大鎚の姿となって、ストロングストレートを逸らし、ハルを守った。
地面に拳が突き刺さり、その衝撃でハルの足回りが自由となる。
‥‥AGを2本消費。
距離が詰まり、空振りの後隙に、最大リターンを捻じ込む。
(ここから持っていく!)
EXスキル ≪ソーンバレット≫ が発動。
主力火器の威力が上昇し、オートエイムとなる。
パッシブ「隠し弾倉」が発動。※
パッシブ「ACC (アクションキャンセルキャンセル)」が発動。※
※R-キャンセルと、バリアディフェンスと交換して装備したパッシブ。
隠し弾倉の効果によって、主力火器の弾数が無限となる。
ハルは、手元にロケットランチャーを呼び出す。
パッシブ「ACC」が発動。
武器の変更モーションをキャンセルし、キャンセル中にスキルを発動。
本来ならば必要であるはずの、ウェポンシフトアクションを踏み倒し、すぐさま別のアクションに移行。
スキル ≪リボルビングスピン≫ 。
クルリと反転して距離を取りつつ、スキルをキャンセル。
パッシブ「ACC」は、アクションをキャンセルし、そのキャンセル動作を更にキャンセルできるパッシブ。
≪ソーンバレット≫ 中限定ではあるが、本来ならばキャンセル行動にできない、主力武器による射撃などでも、動作をキャンセルできるようになる。
ややこしいが、ACというキャンセル動作が可能になると考えておけば良い。
リボルビングスピンで少しだけ距離を取り、ロケットランチャーを担ぐ。
これは、爆風から逃れるためではなく、頭に狙いを定めるため。
引き金を引く。弾頭が発射される。
狙いが甘く、弾頭はビッグフットの側頭部の横を通り過ぎてしまう。
気にせず、ACC。
ショットガンに持ち替え、スピンで近づいて、スラムファイヤをぶっ放す。
引き金を引いたままコッキングをすることにより、疑似的なフルオート射撃。
銃口から、マイクロランチャーの子弾がばら撒かれる。
ビッグフットの正面を小爆発の連撃が襲い、怯む。
怯んだ彼奴の後頭部に、外れたはずのロケットランチャーの弾頭が突き刺さり、爆発を起こす。
≪ソーンバレット≫ によるオートエイムは、自動標準というよりも、自動誘導に近い性質。
弾の狙いが甘くとも、自動で敵を追従するようになる。
ACC。武器を銃剣に。
弾道の威力に負けて前へと倒れるビッグフットを、二刀の銃剣で切りつける。
切りつけ、無理やりビッグフットのバランスを取らせて、その場に立たせる。
続けてナイフを投擲。
銃剣を呼び出した時、ホルスターに補充される4本のナイフ(※)を、ビッグフットの背後に投げる。
ナイフは空中で静止し、ビッグフットの背後に留まる。
※パッシブ「仕込み刃」の効果。
ACC。スピンで後ろに下がりつつ、ロケットランチャーをぶっ放す。
弾道は、ビッグフットの胴体に命中する。
EXスキルによって威力を高めた弾頭は、ビッグフットの動きを止めるに充分な威力がある。
彼奴の巨体を、後ろへと押しやる。
ハルの瞳に模様が浮かぶ。
電子製品の基盤のような模様。
すると、ビッグフットの背後に展開した2本のナイフが、レーザー光となり襲い掛かる。
レーザーに背中を撃たれ、ビッグフットはその場から動くことを許さない。
ロケットランチャーに怯んで、たたらを踏むことさえできない。
――レーザーでの間合い調整ヨシ。
ACC。
二丁拳銃を構え、スキル ≪ブレイザー≫ 。
回転しながら榴弾をバラ撒きながら近づいて、跳躍。
ビッグフットの上から、榴弾を浴びせる。
ACC、アクションのキャンセルをキャンセルする動作により、本来は不可能な同スキルの連続使用も可能になっている。
ブレイザーの後隙をACCの効果でキャンセルすることにより、別のスキルを仲介しなくとも連携ができるようになっているのだ。
弾幕による鳥籠、弾幕による連携。
ハルは、ビッグフットを動きを封殺し、一方的に攻撃を仕掛ける。
たった1度の空振り、それが命取りなのだ。
とくに、雑兵狩りでAGをしこたま溜め込んだプレイヤーが相手ならば。
ビッグフットは無理矢理ダメージに耐え、宙で銃を乱射するハルを掴もうとする。
それを、宙に浮いたナイフが咎める。
ナイフがレーザーとなってビッグフットに襲い掛かり、彼をダメージで前へと歩かせる。
掴みは外れ、彼奴はハルに背中をさらす。
ACC。ハルは徒手の状態に。
追加でAGを消費。
右拳に、灼炎を滾らせる。
「ブレイザー!」
隕石の如き一撃が、ビッグフットの後頭部を捉えた。
顔面が地面に叩きつけられ、勢い余って体がバウンドする。
ACC。銃剣を構える。
二刀の剣を振り上げて――。
無防備な巨猿にリーサルブロー。
「飛燕衝!」
普段であれば、呆れるほど隙だらけな、大振りも大振りな大上段。
それでも、今のビッグフットには避けること叶わず。
自身と同じくらいの刃物を受け入れ、その体は雪に還った。
たった1度の隙、たった1回の、わずかな隙。
たったそれだけでこうなるとは、ビッグフットは思いもしなかっただろう。
しかし、ゲーマーを相手にするというのは、こういうことだ。
ゲーマーは常にリターンを考えている。
常に、最大のリターン、倒し切りのリーサルルートを狙っている。
◆
「ハルちゃん。」
アイがハルに駆け寄る。
そして、ナーイスとハイタッチ。
ただ‥‥。
「どうしましょう? これ?」
ハルは周囲を見渡す。
ビッグフットは倒した。
が、ビッグフットは1体だけではない。
こうしている間にも、他のプレイヤーが別の個体と戦闘を続けている。
先は長そうだ。
それでも、魔力のうねりに向かって、前へ進むとする。
北に進路を取り、走り出そうとした瞬間――。
2人の前に、雪玉が投げつけれた。
足が止まる。
‥‥2体目。
距離にして、50メートル向こう。
他のプレイヤーを倒したビッグフットが、こちらに敵意を向けて戦闘状態となる。
埒が明かない。
勝利の余韻を味わう間もなく、気を引き締め、武器を手に取る。
ビッグフットが雪の種を引き抜き、振りかぶった――、その時。
「Foooooooo!!!!! ハンニバル! ハンニバル!!」
――あの、川で聞いた頓智奇な歌が放牧地に響き渡った。
「いつか一緒にアニマル人間!」
ここは村の北側。川は反対方向の南側。
「バナナはふわっと……。」
それなのに、ヤツは来た。
「「「Foo↓oooooo↑!!!!! ハンニバル↑! ハンニバル↑!!」」」
地上を、舟を逆さまにして、逆さにした舟を被って、3人掛かりで担いで爆走している。
‥‥‥‥3人?
(なんか増えてるぅぅぅぅ!?!?!?)
川で見た時、ハンニバルは1人だったはずだ。
だのになぜか、今は3人になっている。
――見間違えではない。
ビッグフットの動きが止まる。
その表情は、まるでUMAでも見たかのようだ。
3人のハンニバルはそのまま、困惑するビッグフットに突撃をかます。
憐れビッグフットが吹っ飛ばされ、それでも立ち上がる。
立ち上がったところに追撃の突撃。
ハンニバルが、ビッグフットを肉薄している。
雪玉の投擲も、頭に被った舟で防いで、執拗に突撃を繰り返す。
しまいには、ビッグフットは背中を見せて逃げ出した。
「「「Foo↓oooooo↑!!!!! ハンニバル↑! ハンニバル↑!!」」」
「「「いつか一緒にアニマル人間!」」」
「「「バナナはふわっと……。」」」
しかし、ハンニバルからは逃げられない。
逃げるUMAを、ギリギリ人類のハンニバルが轢いて、次なるUMAを狙う。
「――ハルちゃん。――ハルちゃん!」
「‥‥‥‥はっ!?」
ビッグフット同様、あっけに取られていたハルが我に返る。
「今の隙に。」
「は、はい。」
ハンニバルがビッグフットを引き受けてくれたおかげで、アイたちはフリーになった。
この隙に、2人は北へと向かう。
その後、大きな交戦も無く、2人はサンタの元へ――。
‥‥‥‥。
‥‥。
そこで見た光景は、異様な光景だった。
辺りにはCEの残骸。
プレイヤーが乗っていた物ではない。
それらは戦闘不能になると、鹵獲防止のために石や氷となる。
残骸のまま残っているということは、これらはAIで制御されているCEなのだろう。
横たわるCE、積み上がる残骸。
その上に立っていたのは、一機のCE。
――食っている。
そのセンチュリオンは、同胞を食っている。
悪魔の竜、グレイドラグーン。
生きているジェネレータを内蔵した、三悪魔の一機。
竜は、大口を開け、強靭なアギトで鉄の戦士を食い千切り、同胞を腹の中と収めている。
咀嚼を繰り返し、嚥下して同胞を腹に迎えると、同胞食いの化け物に、変化が起こる。
翼の鱗が剥がれ、部分的に脱皮がなされる。
剥がれた鱗の下から、魔力に輝く新たな翼が生える。
‥‥銀色の、ツバメを思わせる翼。
その翼は、試作型のカラスや、最速のツバメが持つ翼と同等の代物。
この竜は、この悪魔は、同胞を食らうことで、その武器を、能力を、我が物とする災厄のCEなのだ。
骸の山の上で、悪魔がこちらに気が付いた。
悪魔が骸の頂で咆哮する。
――ちょうど、同胞の味に飽きたところだ。
骸の頂で雄叫びを上げる竜を、それを麓で見上げる旅人を、夜空からサンタが見下ろしている。
ソリの上でくつろぎ、チキンにかぶりつき、コーラでチキンを流し込む。
肉汁の旨み、カリカリの食感、香ばしいスパイス。
地上の様子など眼中に無く、夢中でチキンにかぶりつく。
そうやって、あっという間に骨だけになった姿のチキンを、空から骸の山に捨てた。
‥‥‥‥。
‥‥。




