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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5.5章_11月のサウィン祭

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SS8.04_異世界のサウィン祭。

魔法界、天蓋の大瀑布。

天蓋の大河。


そこは、空から落ちる滝が築く河が流れる場所。

一行は、カボチャさんに導かれて、そこへ転移した。


夜の魔法界を、満月が照らしている。

月のおかげで夜は明るく、空を見上げれば大瀑布のシルエットをうっすらと見ることができる。


また、河の周囲はサウィン仕様となっており、空中に鬼火や灯篭が浮かび、河を照らしている。

色とりどりの妖光は、セントラルのイルミネーションにも負けない華やかさを誇っている。


宙に揺蕩い(たゆたい)、河と森を照らす光は柔らかく。

セントラルのキラキラピカピカした趣とは異なり、しんしんと辺りを照らしている。


河の上流からは、大瀑布が河を叩く音がうっすらと響いて来て、森からはフクロウや虫の声が聞こえる。

夜の静けさと暗闇の孤独を、自然が奏でる音色が慰める。


普段は見ることの無い、見せることの無い、魔法界の姿。

プレイヤーは、サウィンの季節だけ、夜の大瀑布へとお邪魔することができる。


‥‥‥‥。

‥‥。


『いらっしゃい、セントラルの人! トリック・オア・トリート!』

「「「トリック・オア・トリート!」」」


セツナたちを天蓋の大瀑布で迎えたのは、白カブさんだった。


『こっちでは、ボクたちがセントラルの人を案内するヨ!』


ハロウィンにカボチャのイメージは、アメリカの開拓時代に根付いた。


ケルト発祥の地である、アイルランドの文化圏からアメリカに移住した開拓民が、当時アメリカでたくさん獲れていたカボチャを、ジャックオーランタンとして用いたのが始まりとされている。


だが、それ以前、ケルトのサウィン祭りでは、ジャックオーランタンはカブで作られていた。

中身をくり抜いたカブの中に灯りを灯して、悪霊避けに使っていたのが、今日まで続くジャックオーランタンの起源だ。


大瀑布に居るカブの妖精は、ケルトの文化に由来しているのだろう。


白カブさんは挨拶を終えると、彼の後ろに広がる大きな河を指差す。

妖光でライトアップされた河には、無人の舟がたくさん流れている。


舟は上流から下流へ、漕ぎ手が居なくとも一定の速度で進んでいる。


『さあさあ、舟に乗って! 舟がボクたちの村まで、連れて行ってくれるから。』


白カブさんの案内に従って、プレイヤーたちは舟に乗り込む。


舟は、岸に寄せてくれることは無かった。

ただ河を流れ、ただ河を下る。


なので、みんな飛び移ったり、テレポートで乗り移ったりしている。


‥‥中には、一斉に舟に飛び移って、舟を横転させてひっくり返した者も居る。

ここは電脳の世界であるから、舟の横転や転覆も笑い話だ。


乗船早々やらかしたプレイヤーたちは、そのままひっくり返った舟で河を下るようにしたらしい。

舟は腹を見せた状態でも気にせず、一定のペースで流れて下っていく。


セツナたちも、川べりに移動。

転移中にこっそり、侍の衣装となった彼が、一隻の舟にマジックワイヤーを撃ち込む。


船頭にワイヤーを撃ち込んで、ワイヤーを巻き取り、舟を岸辺に。


右手でアイとハルに乗船を促し、自分も最後に乗り込んだ。


セツナが乗り込むと、舟は独りでに岸から離れて、河を下り始める。

舟は5人くらいが乗れる小さめの舟で、一応オールが1組、備え付けられている。


せっかちなプレイヤーたちは、オールを漕いで河を下っているようだ。


灯篭の明るい河を、プレイヤーが乗った舟が進んでいく。

夜の冷気に冷やされた夜風が吹くと、森から落ち葉が河に舞い込む。


紅葉に色づく落ち葉は、鬼火や灯篭の光を浴びると燃えるように輝き、水面に落ちたあとも小さな灯火となって河を照らす。


「わあ~~!!」


静かで賑やかな、サウィンの川景色に、ハルが感嘆の声を漏らす。

大自然の中を、超常的な光源が照らし、その中を渡っていく幻想的な風景。


現実では決して見ることのできない、体験することのできない世界。


――平和だ。とても平和で、幻想的だ。


戦い一辺倒のセントラルでの暮らしに、サウィン祭は束の間の休息を与える。


『トリック・オア・トリート!』


白カブさんの友達の、黄カブさんがセツナたちの元に飛んで来て、サウィンの挨拶。

そして、3人にお菓子を配る。


渡されたのは、ひと口サイズよりも少し大きい、クッキー。


サウィンクッキー(チョコチップ)


カブ印のクッキー。


使()()()サウィンな気分になれる。


()()()、「仮装」を付与。

味のフレーバーは、全部で7種類。


黄カブさんがくれたお菓子は、サウィンクッキー。

カボチャさんがくれたキャンディと、似てるようで効果が違うようだ。


黄カブさんにお礼を言って、手を振って彼を見送る。


クッキーは、インベントリにしまった。


セツナが、舟に腰を下ろす。


「いやはや。またにはこうして、ゆっくりするのも――。」






「Foooooooo!!!!! ハンニバル! ハンニバル!!」


3人は、物凄い勢いで後ろを振り返る。

頓智奇(とんちき)な歌 (?)が聞こえて、思わず振り返ってしまう。


すると、自分たちの舟の後ろを、猛烈な速度で航行する舟が爆走している。

頓智奇な歌と、暴走は止まらない。


「いつか一緒にアニマル人間!」


ハンニバル舟は、なぜかウィリーをしながら河を下っている。


「バナナはふわっと……。」


ふわっとの掛け声と共に、ウィリーの状態から、ふわっとジャンプ。

ふわっとジャンプして、ビチャンと着水。


ウィリーの姿勢で飛び、ウィリーの姿勢で着水した舟は、浮力など得られるはずもなく、そのまま河に沈んだ。


そのせいで、セツナたちの舟が、波に揺られて傾く。

小さな舟であるため、波の影響を強く受ける。


セツナたちは自分たちの体重を使って、波に傾く舟をなんとか宥める(なだめる)

‥‥とんでもねぇプレイヤーもいた者である。






「「「――Foo↓oooooo↑!!!!! ハンニバル↑! ハンニバル↑!!」」」


追いハンニバル。

しかも、なんか増えた。


‥‥とんでもねぇプレイヤーは、セツナたちの前に浮上して来た。

自分の声を加工したコーラスと共に、大河の走り屋となる。


「「「‥‥‥‥。」」」


ハンニバル号はそのまま、いつか一緒にアニマル人間になりながら、バナナがふわっとで舟を飛び越し、あるいは舟を潜り、暴走して視界から消えていった。


ドップラー音と共に消えていくハンニバル。

目が座っている、ハルとアイ。


「「やり返そう(しましょう)!」」

「‥‥‥‥へ?」


ハルとアイは、どうやらあのハンニバル号に追いつくつもりで居るらしい。


やられたらやり返す。

それが模擬戦民族。


ハルが二丁拳銃を抜いて船頭に立ち、アイがオールを握る。

嵐を纏い、巨人の膂力でオールを漕ぐ。


オールが水を掻くと、水中で気泡が爆発して、舟が水切りをしながら加速していく。

水の抵抗と摩擦を受けなくなった舟が、一気に他所の舟を追い抜いていく。


「うわっおぅ!?!?」


セツナは舟からあわや放り出されそうになり、ワイヤーを使って事なきを得る。


舟に振り回される形となったセツナに、アイが指示を出す。


「丁度良いです。セツナも手伝ってください。」

「はいぃ!?!?」


この状態で、一体何を手伝えと言うのか?


‥‥結局、彼は舟を後ろから稲妻の速度で押す、加速装置としての仕事をした。


そしていつしか、観光のため川下りは、多くのプレイヤーを巻き込んだボードレースとなり、大河に混乱と混沌をまき散らした。


ハルは舟を5隻ほど撃墜するも、結局ハンニバル号に攻撃は届かなかった。


ハンニバル号は、目的地に到着しても止まらず、川の遥か向こうで、いつか一緒にアニマル人間になった。


今日は観光のはずだったのに、結局コレである。

激しいレースの末、水しぶきでびしゃびしゃになる一行であった。



「「「おお!!」」」


気を取り直して、川下りのゴール地点。


そこには、一面の小麦畑が広がっていた。

黄金の穂が、夜風にサラサラとそよいでいる。


本来、サウィン祭の頃には、作物の収穫は終わっているはずだ。

だが、景観重視のためなのか、麦は刈り取られずに残っている。


畑を越えた先には、灯りで賑わう村が見える。


黄金の灯火が漏れる麦畑を越えて、村へと歩を進める。

村が近づくにつれて、村から聞こえる音楽が大きくなってくる。


リコーダーのようなティンホイッスル。

ピアノの祖、ハンマーダルシマー。


バクパイプ・アイリッシュハープ・バンジョー・打楽器のバウロン。


異世界を思わせるケルト音楽が、科学の世界からやって来た旅人を出迎えた。


村では、音楽と共にカブの妖精が宙に地上に踊り、祭りを楽しんでいる。


『ようこそ、サウィン村に! ボクたちのお祭り、楽しんでいってネ!』

『お店で買い物! お空で音楽! 広場でダンス!!』

『歓迎! ダイ歓迎!!』


セツナたちは、異世界のお祭りに招待された。

家の灯りは全て消され、村は篝火で明るくされている。


この篝火は、村の広場で起こし、広げたもの。


サウィンの篝火は、家畜の骨を火にくべて、薪とする。

これは清めの炎であり、これが篝火 (bonfire)の語源。


祭りの出店に目をやれば、お菓子や野菜、お肉などが並んでいる。

収穫祭というだけあって、お店は食べ物がメインのようだ。


3人は試しに、串焼きにされたお肉を購入。

代金は、魔石かセントラルのお菓子で払う。


先ほどセントラルの繁華街で購入したお菓子を消費して、お肉を購入した。


セツナが、店員のカブさんに尋ねる。


「念のため聞きますけど、これ何の肉ですか?」

『家畜のソードリザードのお肉だよん♪』


ソードリザード。

天蓋の大瀑布に生息する、一般的なトカゲ。


体長は成人男性よりも高く、前足に発達した大きな鱗を持ち、好戦的な生物。


「家畜の‥‥肉?」

『ここら辺に住んでるソードリザードは、家畜化したヤツが野生化しちゃったヤツなんだよね。』


現実世界の、馬と似た感じだろうか?

現実の馬も、現在生息している野生の馬は、すべて家畜化された種が野生化したものだ。


ソードリザードも、魔法界の文明が滅ぶ前は、別の姿だったのかもしれない。


今宵はサウィン祭り。

あの世とこの世が繋がる祭り。


このイベント中、滅んだ文明のかつて栄えていた姿が、どこかで見られるかも知れない。


店員さんの蘊蓄(うんちく)も頂いて、アツアツのお肉に3人でカブりついた。


爬虫類の肉は、鶏肉に似ているという話しをよく聞く。

トカゲに限らず、ヘビやワニなども、鶏肉に似た味がするという。


そして、ソードリザードのお味は‥‥。


「ん~! ジューシー!」

「鶏肉みたいですね。」

「うん。豚肉みたいに肉汁が多い、鶏肉。」


味のベースは鶏肉。

だけども、淡白な感じでは無く、肉汁が多くジューシー。


鶏と豚の良い所取りをした味がする。

ご飯が欲しくなる味である。


ソードリザードは可食部が多く、革から内臓、それと目玉まで余すことなく使えるため、この地では好まれて育てられていた。


雑食かつ小食。

気性は大人しく、交配も容易。


草や木の葉だけでなく、枝や木の皮も食べられて、飢餓に強い。


革や鱗は武器や防具に、内臓は水筒や道具袋にも使えたし、目玉は魔術の触媒に使えた。


骨髄は旨みの塊で料理にも使えたし、骨粉は肥料として優秀、肝臓や心臓からは良質な油が採れる。


などなど、家畜にするに理想的な生き物であったのだ。

そのためか、ソードリザードはこの地の恵みの象徴ともされ、土着信仰の地母神は、龍の鱗を持つ女性の姿で描かれる。


そして、その地母神は、太陽と嵐の化身たる、恐ろしき自然神の伴侶なのだ。


『まいどあり~!』


肉屋の店員さんに見送られて、セツナたちは他の店や催し物を見て回る。

空で奏でられる音楽をBGMに、この地に訪れた者たちは、篝火を囲み踊り、小リザードの目方当て (重さ当て)などに興じている。


賑やかなお祭りを、美味しそうな煙が包んで、胸は躍り食欲はそそられる。


村の中心にある広場で、一等(いっとう)美味しそうな香りを漂わせているのは、鮭を焼いているお店。

両手で抱えるくらい大きな鮭を店頭に飾って、豪快に切り身を炙っている。


美味しそうな香りに誘われて、多くの旅人が足を止めている。

人だかりに釣られて、セツナたちも鮭のお店に足が行ってしまう。


『へい! らっしゃい! へい! らっしゃい! 安いよ! 旨いよ!!』


威勢の良い店員さんが、景気よくお店を切り盛りしている。


『焼いた鮭はコッチ! 刺身と卵はソッチ!!』


鮭を焼いている隣のお店には、テーブルと席がいくつか用意されており、そこに座っている者たちは、鮭の刺身とイクラの漬け丼を食べている。


‥‥妙に日本人フレンドリー。


セツナたちは、焼いた鮭を頂くことにした。

ハルの提案である。


「すいません。お酒ありますか?」

『おぅ! うちはビールしか無いが、それでイイなら出してやるゼ!』

「お願いします。」


注文したのは、鮭とばと、ビール。

まごうこと無き、酒飲みの組み合わせ。


注文を受けた店員さんは、鮭とばを炭火で炙ってくれる。

火で炙られて、鮭の赤身から脂が滴る。


滴った脂が炭火に落ちて、炭がパチンと割れる。

火が脂に驚いて火柱を上げ、火柱に驚いた鮭が脂を飛ばす。


「あっつ!?」


セツナの親指に、アツアツの脂が飛んだ。


ビックリして、手を振るう。


『おぅ! お客さん、縁起がイイね!』

「縁起?」


『鮭は、月の女神様の使い。満月のフィオン様の使いなんだ。』

「ほうほう。」


『手に着いた脂を舐めてみな。

 すると、女神様のお智恵を借りられるって話しダ。』

「ふむふむ。」


店員さんに言われたまま、右手の親指を、口に含んでみる。

‥‥成人した男性が、自分の親指をしゃぶる光景。


「うっわ‥‥。」

「ドン引きです‥‥。」


「オレにどうしろと!?」


親指から口を離した直後――、セツナの脳に電撃が走る!


「――は!? 12月5日 夜19:00から、M&C公式生放送、2時間スペシャルがオンエア!!」


セツナは、月の女神様から啓示を授かった。

まだ告知されていない情報を、啓示によって得たのだ。


『そうかそうか。何のことかオレにゃサッパリだが、良かったじゃねぇか!』


そう言って店員さんは、焼き立ての鮭とばと、霜が降りるほど冷えたビールを提供してくれた。

3人はお礼を言って、塩味と脂の乗った鮭とばを齧り、氷点下にまで冷えたビールで流し込んだ。


「う~~~ん!! お祭りさいこーーー!!」


美味しいお酒が飲めるなら、どこでもさいこーなハルであった。


お祭りは異界の旅人によって盛り上がり、夜は更けて行く――。

夜が更けるごとに、村は賑やかになり、音楽が祭りをいっそう盛り立てる。


ティンホイッスル、ハンマーダルシマー。

バクパイプ・アイリッシュハープ・バンジョー・バウロン。


そして、鈴の音。

シャンシャンと、トナカイがソリを引く、鈴の音。


――祭りの喧騒が静まり返った。

パチパチと、篝火が薪の上でステップを踏む音だけが村に響き、虚空に消える。


皆、空を見上げる。


シャンシャンと、ジングルベルの鳴り渡る空を。


「ジングルベ~ル! ジングルベ~ル! 鈴が鳴る~~~♪」


ひと月おくれのサウィン祭に、空から雪雲を引き連れて、あわてんぼうのサンタクロースがやって来た。


‥‥‥‥。

‥‥。

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