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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5.5章_11月のサウィン祭

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SS8.02_ケルトのお祭り。

セントラル、PvPサーバー。

この地では、今日から始まったイベントに合わせ、街の雰囲気が変わっていた。


カボチャの置き物、オレンジと紫のナイトフラッグ、オバケの人形、そしてイルミネーション。


現実の時間と同期して昼夜が訪れるようになった街は、飾り付けとランタンに輝いていた。

その飾り付けは、まさにハロウィン。


現実でのハロウィンは、もう1月前に終わってしまったが、セントラルでは今日からハロウィンだ。


季節外れのハロウィンとなった理由は簡単。

1ヵ月前は、M&Cの発売月であり、何は無くとも活気づいていたからだ。


なのでハロウィンの開催時期をずらし、発売直後の熱も落ち着いた頃に、大掛かりなイベントを開催することにしたのだ。


いわゆるソシャゲと呼ばれているゲームジャンルでは、他のイベントとの兼ね合いで、ハロウィンイベントの時期が前後することもある。

場合によっては、9月の末にハロウィンなんてこともあるのだ。


ソシャゲがそうであるならば、VRゲームのM&Cがダメという謂われは無いであろう。

‥‥さすがにソシャゲでもVRでも、5月や7月にジューンブライドは見たことがないが。


ともかく、セントラルの今年のハロウィンは11月。

そういうことになったのだ。


とくに、ハロウィンはM&Cにとっては重要なイベントだ。

それは、ハロウィンの起源に由来する。


ハロウィンの起源は、古代はアイルランド、ケルトのサウィン祭だとされている。


農耕の季節が終わり、冬の季節となる10月31日。

ケルト歴では、季節には「闇の季節」と「太陽の季節」の2つがあり、11月からは闇の季節が始まるとされていた。


そして、この闇の季節が、1年と始まりともされていた。

ケルト人からすれば、サウィン祭とは収穫祭であり、お正月でもあったのだ。


太陽の季節が終わるまでに作物を収穫し、食糧と飼料の関係から家畜を屠殺し、10月31日に収穫祭(サウィン)を開く。


サウィンは、収穫祭とお正月だけでなく、お盆の意味もあった。

日本のお盆と同じく、先祖の霊が現世に戻ってくるとされていたのである。


ケルトも、日本の信仰と同じく、輪廻転生が信じられていたのだ。


それは、ケルトの神々の性質にも強く現れている。


神の一族、トゥアハ・デ・ダナーンの母である、女神ダヌは豊穣と生命の女神だ。


また、ダヌの息子で、ケルトの最高神でもある巨漢磊落(らいらく)のダグザ神。

彼が所有していた棍棒の神器には、あらゆる者の生命を奪い、あらゆる死者を蘇生する力があったという。


彼もまた、豊穣と再生を司り、ここにケルトの死生観を見ることができる。


神話が先か? 文化が先か?

それは定かにならないし、文化圏によりけりだろう。


そうであっても、サウィン祭は、ケルトの生活に根付いた習慣であり、神話によって築かれた価値観の強く現れた祭りであることに相違ない。


M&Cには、ケルトの月の女神、アリアンロッドが登場する。

そして、彼女・彼女たちは、物語において重要なカギを握っている。


そんな世界観なのだから、サウィン (ハロウィン)イベントをしないなんて選択肢は無かったのだ。


ゲームが発売されてから、1ヵ月と3週間が経とうとしている。

多くのプレイヤーが夢の跡地にて、新月の女神、レイと邂逅を果たした頃合いだろう。


ならば、今こそ開こうではないか。

この世とあの世、この世界と向こうの世界が繋がる、新年の収穫祭、サウィン祭りを――。


先人の物語に、語り継がれた神話に、語り受けた者すべてからの敬意を。

ゆえに、セントラル最初の大規模イベントは、サウィン祭り。


祭りに賑わうセントラルを、星の瞬く空から月が見下ろしている‥‥。



1ヵ月おくれのサウィン祭り。

ホログラムのパンプキンたちが、宙に地上に楽しそうに漂い踊っている。


PvPサーバーはいま、ハロウィンの真っ只中にあった。


お祭り初日ということもあり、今夜は模擬戦民族が蔓延る(はびこる)PvPサーバーでも、戦闘は少ししか発生していない。


みんな、イベントの観光が目当てで、大多数が武器や銃をしまっている。

ガラス天井の繁華街を、多くのプレイヤーが行き来している。


一昼夜で街ひとつ更地にする模擬戦民族も、今宵ばかりは大人しい。


街の所々では、2階建ての建物に匹敵するサイズのビックリパンプキンも出現しており、街は収穫祭に湧いていた。


ちなみに、ビックリパンプキンは破壊ができ、壊すと大量のお菓子が手に入る。

破壊後は、時間経過でまた生えてくる。(!?)


『トリック・オア・トリート。』


実体を持つホログラムのジャックオーランタンは、そう言ってセツナに飴を差し出した。

赤いカボチャ頭に、魔女の三角帽子とローブを羽織った、50cmくらいの2頭身妖精。


ホログラムではあるが、魔力を感じられる。

このトゲトゲした感じは、敵対エネミーの感じ。


だが、襲い掛かって来る気配は無いので、扱いは非敵対エネミーなのだろう。


彼は、お菓子をねだるのではなく、逆にお菓子をくれるようだ。

お礼を言って、飴を受け取った。


飴の入った籠を持ったカボチャさんは、セツナに手を振って、別のプレイヤーのところへ。

カボチャさんに手を振って見送り、視線を飴玉へ。


すると、視界にポップアップが表示がされて、飴玉の説明が表示される。


ハロウィンキャンディ (ぶどう味)


カボチャ印のキャンディ。

食べるとハロウィンな気分になれる。


ステートに、「仮装」を付与。


味のフレーバーは、全部で7種類。


セツナは、キャンディをパーカーのポッケに入れた。

電脳の世界なので、溶けることも無いだろう。


(‥‥アイテムコンプ勢は、飴をたくさん貰わないとね。)


カボチャさんがくれたキャンディには、どうやら7種類の味が存在するらしい。


ゲーマーの中には、アイテム収集に情熱を燃やす性癖のあるプレイヤーも存在しており、そういう人は、このキャンディも全フレーバー集めるのであろう。


もしかすると、時たま聞こえる銃声や爆発音は、キャンディ争奪戦のそれなのかも知れない。


――いま、カボチャさんのキャンディを強奪しようとしたプレイヤーが、セツナの目の前で返り討ちにされた。


『トリック・オア・トリート~~☆』


カボチャさんは魔法の杖を振りかざし、そこから光線が放たれる。

カボチャや星、月のエフェクトを伴って、光線はプレイヤーに直撃。


プレイヤーは、カボチャにされちゃった‥‥!


「‥‥‥‥。」


カボチャにされてしまったプレイヤーを、まじまじと見るセツナ。

彼の耳に、他のプレイヤーの話し声が入る。


「あぁ~、返り討ちにされちゃった。」

「ネットでも話題になってたけど、あのカボチャ、相当強いらしいよ?」


「それ、チラッと見たけど、どんくらい強いの?」

「プラチナを自称する6人組が、返り討ちにされたらしい。」


「魔神並みに強くない? それ?」


‥‥セントラルはどうやら現在、魔境と化しているらしい。


魔神並みに強いカボチャさんが、あっちでトリック・オア・トリート、こっちでトリック・オア・トリート。

飴を配っている。


運営さんも運営さんである。

ちゃんと、プレイヤーがちょっかいを掛けることを想定していたようだ。


さすがは、模擬戦民族と長年付き合ってきた運営。

倒す必要のない非敵対エネミーが相手でも、取り合えずケンカを売るプレイヤーの習性を見越して、遊び心を用意している。


明日からは、カボチャ狩りをしようと息巻くプレイヤーが増えて来ることであろう。


カボチャさんは、プラチナプレイヤー6人組を返り討ちにするのだから、相当手強い。


自衛団のランクは、情報コンプライアンスの観点から、公表することは推奨されていない。

人数が絞られてくる、プラチナやランカーならば殊更(ことさら)に。


そのため、プレイヤーのあいだでは、隠語を用いてランクをそれとなく伝えることもある。

ただ、プラチナ帯以上の上澄み連中であれば、肩を並べたり、相対するだけで、だいたい腕前が分かる。


セツナも、JJやダイナに自分のランクを言ったことは無い。

それでも、3人とも互いがランカーであるというのは察している。


「兄さん、お待たせ。」


お祭り気分を味わっていたら、人の流れの中から、ハルがやって来た。

この繁華街で、彼女と待ち合わせをしていたのだ。


「待った?」

「ぜんぜん。」


待ち合わせ場所は、繁華街にあるドーナツ屋「ドーナツキャンプ・セントラル支店」の前。

そこの道の真ん中には、大きなドーナツのオブジェが設置されており、待ち合わせに使いやすい。


ドーナツオブジェも、イベントに合わせてカボチャ味の仕様に代わっている。


『トリック・オア・トリート。』


ドーナツの前にやって来たハルに、先ほどプレイヤーをボコボコにして、プレイヤーをカボチャにしたランタンオバケが飴玉を渡す。


ハルはお礼を言って、飴玉を貰った。

‥‥ちなみに、飴玉を断ると、カボチャさんは怒って襲い掛かって来る。


その時は手加減してくれる。

負けたらカボチャにされるが‥‥。


「‥‥‥‥。」


セツナは、飴玉を受け取るハルと、道端に転がるカボチャへ交互に目を向ける。

それから、顔にしなびたミカンを食べたような表情を貼りつける。


彼女は知らないのだろう、この妖精の恐ろしさを。


「どうしたの?」

「――ぜんぜん。」


「あのカボチャがどうしたの?」

「知らない方が良い。」


いま、いま一瞬、鋭い視線を感じた気がする。

気のせいではない。


小首を傾げるハルに、歯切れの悪い返事をするセツナであった。


そうこうしていると、2人の後ろにあったドーナツのオブジェから魔力が発生。

ドーナツの真ん中の空間が歪む。


何事かと振り返る2人。

すると、ドーナツの中から、別のカボチャさんが出てきた。


出てきた個体は、頭が緑色に光っている。


出てきた緑カボチャさんは、ハルとセツナに飴を配ったカボチャさんと、互いに可愛らしく頭をごっつんこ。

それからハイタッチを交わして、赤カボチャさんはドーナツの歪みに入っていく。


選手交代のようだ。


『トリック・オア・トリート~~!』


緑カボチャさんは、杖を取り出し振り回して、魔法を唱える。


すると、繁華街の中に虹が掛かって、そこからお菓子が降り注ぐ。

虹とお菓子に、プレイヤーの視線が集まる。


お菓子は、落下して当たったプレイヤーのインベントリに自動で (強制的に)収納される。


「「おぉ~~~!」」


虹とお菓子に、兄妹同じ顔になって声を漏らす。


ジッとしているだけでも楽しい。

待ち合わせが、全然退屈しない。


2人はドーナツの前で、待ち合わせをしているもう1人を待つ。

ハルはお呼ばれした身なので、そのもう1人が誰なのかを知らない。


セツナの友人であるとは、彼から聞いている。


「そう言えば兄さん、今日の待ち合わせって――?」

「噂をすれば、来たみたいだよ。」


セツナが手を挙げると、1人の女性がそっと手を振り返す。


人混みの中を抜けて、セツナとハルに近づく、赤い瞳の女性。


赤い瞳の女性は、ベトナムの民族衣装である、白いアオザイに身を包んでいる。

アオザイに、アブラヤシの葉を編んだ、円錐形のノンラーという笠を被り、人混みでも目立つ格好。


「セツナ、お待たせしま、し‥‥‥‥た?」


彼への挨拶も言い切らぬうちに、隣の女性へと目が移る。

目が移って、目が合った。


セツナの隣に居た金髪碧眼の女性は、大きな瞳を見開き、くりくりとさせている。

アイもアイで、赤い瞳を見開き、空いた口を手で隠す。


「アイさん!」

「ハルちゃん!」


ハルがガバリと、兄の方へ振り向く。

アイが首を忙しくして、セツナに向く。


()()()()()!」

「ハル。」

「セツナ!」

「アイ。」


セツナはインベントリから、手持ち看板を取り出す。


『ドッキリ、大☆成☆功☆』


ハルとアイが再び顔を合わせて。


「「えぇ~~~!!」」


2人の驚く声が繁華街に木霊して、周囲の視線を集めた。

――驚く声を聞いて、宙のカボチャさんは楽しそうに笑った。

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