表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/90

2.1_闇と光

マジック&サイバーパンク。略称M&C。


シグレソフトが開発した、VRゲーム。


「アクションゲームで出来ること、全部やりたい」そんな開発コンセプトを元に作成されたゲームは、世間一般基準ではコアユーザーと評されるユーザーたちに受け入れられて、VR界隈をひっそりと賑わせていた。


また、M&Cには、もうひとつ開発コンセプトがある。

それは、「自分だけの冒険譚」というコンセプト。


プレイヤーに、同じ場所、同じ風景を見せても、同じ感想を抱くとは限らない。


同じ物を見ても、同じことを考えるとは限らないのだ。

いや、むしろ、そういうことの方が多いであろう。


キャラのステータスを自由に振り分けられるゲームであれば、ステータスのポイント振りには個性が出るだろう。

オープンワールドだったり、フリーシナリオだったりであれば、最初に足を運ぶ街が違うかも知れないだろう。


そのような、個性がが出る要素を排除したとして――。

同じストーリー、同じ戦闘を経験したとしても、やはり個人が思い浮かべる”心”には、違いが生まれる。


むしろ、違いがあって良いのだ。


どんなに、ゲームがエンターテインメントとして発展しても、レトロな64ビットのゲームが自分にとっての神ゲーであっても良い。


どんなに、世間が神ゲーと評しても、自分の肌に合わなくったって良いのだ。

同じ世界を体験しても、同じ思いは抱けないのだから。


結局、ゲームの世界とは、自分の目で見て、自分の目で体験するしかないのだ。


成功、失敗、挫折、学習。

その全てが、最後には思い出となって、甘くなったり酸っぱくなったりする。


ゆえに、M&Cは、固有の特権(ユニーク)は排除するが、個性の権利(パーソナリティ)には寛容であることをコンセプトにした。


シネマチック・シナリオシステム。

いわゆる、シナリオ分岐システム。


AIが発達した世界であれば、シナリオを分岐させるだけでなく、システムがシナリオを新たに作ることだってできる。

プレイヤーの個性や選択が、ダイレクトに世界へ影響を与えていくのだ。


もし、個性と個性が重なる、マルチプレイを遊ぶのなら、今日その日、そのプレイヤー達だからこそ起きるイベントも――、あるのかも知れない。


それを、ユニークシナリオと受け取るか?

プレイヤーストーリーとして受け取るか?


全ては、体験するプレイヤー次第。



「――さて、エージェント・セツナ。それから、ESS(イズ)のマル君。

 なにか、申し開きはあるかね?」


前にも、こんなことあったな。セツナは、そう思った。

ディフィニラ局長を前にして、あの時の出来事を思い出す。


「「コイツが、いけないんです!」」


ただならぬ気配を感じたセツナとマルは、取り合えず、お互いに責任をなすりつけることにした。

セツナは指でマルを指し、マルは吹き出しでセツナを指差す。


何か申し開きがあるとすれば、それはボルドマンの追跡劇で出た被害に他ならない。

セントラルシティの都市部にボルドマンを逃がした挙句、戦闘でビルの壁や窓を破壊。

確かに、ボルドマンはセツナの手によって討たれたが、セツナの手によって被害が広がったとも取れる。


マルが、自分を指差す不届き者に、反論をする。


「だいたい、セツナさんの運転が下手っぴだからいけないんじゃないデスかー?

 もっとスマートに運転できてれば、レッドタウンで決着をつけられていたでしょう?

 妹さんみたいに、リアルでもハンドルを握らないからですよ!」


この、ボケナスぅ。と、マルの主張。


「うっさいなあ! そもそも、そういう人間の至らなさを支えるのが、キミたちの役割でしょ!

 な~にが、セツナさん前、前ぇ~だよ! だから、前がどっちかって聞いてんじゃん!」


この、ポンコツぅ。と、セツナの反論。


――ボケナスぅ! ポンコツぅ!

――ボケナスぅ! ポンコツぅ!


CCC支部3階、ホロ・オペレーションルーム。

ディフィニラを前にして、セツナとマルは、罵詈雑言の応酬を繰り返している。


まるで子どものケンカ、とてもセントラルの危機を救ったコンビとは思えない。

ディフィニラは、咳払いをして、2人の応酬を止めさせる。


ビクリ! と、2人とも同じタイミングで静かになって、ディフィニラの方に視線をぎりぎりと動かして向き直る。


「ふふ――、すまないな。少し意地の悪いことをしてしまった。許してくれ。

 マル君、キミは聞いた通り、とても個性豊かなESSのようだ。」


ディフィニラの表情が柔らかくなる。


どうやら、怒られることはなさそうだ。

念のため、セツナが確認してみる。


「あの‥‥、ディフィニラ局長。都市部(センター)の被害の件ですが‥‥。」

「ああ、それならば気にすることは無い。キミの任務はボルドマンの暗殺で、その手段は問わないと言った。

 幸い、便乗暴動による怪我人こそ出たが、死者は居なかった。建築物の破壊など安い――。

 いや、許容の範囲内だ。」


安いものだと言ったら、今度はビルごと破壊しそうなので、一応、釘を刺しておく。


この男には、前科があった。

エージェントの研修期間中に、暴走した警備ロボットを鎮圧しろと指令を出したら、家屋ごと吹き飛ばしたことがある。


確かに、警備ロボットが家屋や敷地の外に出て、被害が拡大する前に家屋ごと吹き飛ばす方法にも、百歩譲って一理ある。


しかし、死者が出なければ良い、という訳では無い。何事にも限度がある。


ともかく、ボルドマンの件でのお咎めは無いらしい。

安心した。マルと顔を合わせて、「セーフ、セーフ」とジェスチャーをする。


安心したところで、セツナが話題を変える。


「では、もうひとつ質問を良いですか?」

「許可しよう。」


ゲーマーの勘が言っている、ボルドマンをウェアウルフの姿にした、あのナイフはヤバい代物だと。


「ボルドマンが使用した、ナイフのような物に、心当たりは?」

「‥‥‥‥。」


ディフィニラは、しばし沈黙。

その後、机の上にある端末を操作した。


すると、3階の景色が変わる。

オペレーションルームの映像をホログラムで投影していた3階の景色が変わって、真っ白な部屋に変わる。


真っ白となった部屋に居るのは、セツナとマル、それとディフィニラの3名だ。


「これから話すことは、他言無用だ。なので、人払いをさせてもらった。」


つまり、この空間で話されることは、外部には漏れることはない、ということだろう。

ディフィニラが、机の上で腕を組んだ。


「セツナ君。キミは、過去の厄災――、人類が滅ぶことになった原因は知っているかね?」

「色々と要因があったそうですが‥‥、厄災の最大級はドラゴンであったと聞いています。」

「その通りだ。」


ディフィニラが、一拍置いてから続ける。


「では、その厄災、人類をかろうじて絶滅から救ったものは何かを、知っているかね?」


セツナは、首を横に振った。

彼の反応を見て、ディフィニラは「ふむ」と相槌を打つ。


「人類を絶滅に追い込んだ原因がドラゴンならば――。」






「――絶滅を救ったのも、またドラゴンなのだよ。」


セツナとマルは、互いに顔を見合わせて、ディフィニラに向き直る。


「その様子だと、見当が付いたようだね。

 そう、人類を絶滅から救った道具、それこそがボルドマンの使った道具の正体。古くは”龍の牙”と呼ばれる道具だ。」


龍の牙、ドラゴンウェポンとも呼ばれる道具。

過去の厄災を払ったのは、この道具たちだと、ディフィニラは言う。


「龍の牙は、その名の通り、龍の死体を元に作製した道具だ。

 使用することで、人間の内なる魔性を引き出し、強力な力を得られる。


 キミの報告にあったボルドマンの不死性も、力の一端だろう。

 これにより、我々人類は、絶滅の窮地を脱したのだ。」


ゆえに、この道具は危険視され、歴史と文明の闇と混沌に葬られた。


もし、誰かが龍の魔性に魅入られて、力を得るために、龍を呼ぶような真似をすれば――。

人類は、たちまちのうちに絶滅するだろう。


過去の厄災では、龍は一匹では無かったという。

複数の龍からドラゴンウェポンを作り出し、それで龍や厄災を狩ってまわった。


薄氷の平穏を築いたあと、ドラゴンウェポンは放棄された。

終末と混沌の世界に、龍の力は魅力的過ぎる。


けれども、龍の力と、龍の武器が現代に蘇ってしまった。


「――これは、私の予想ではあるが、最近多発している魔導兵器による犯罪と、セントラルに現れた赤龍は、同じ源泉に繋がっていると考えている。」


一通り話しを終えて、ディフィニラは、自身の推測を口にする。

セツナも、同じ考えだ。


同じ考えなので、もうちょっと突っ込んで聞いてみる。


「ディフィニラ局長、この空間で喋ったことが外に漏れる可能性は?」

「完全なシステムなど存在しないが、()()()たりとも聞き耳は立てられないと保証する。」

「では心置きなく。局長、もしかして、この”ヤマ”には内部の人間も関わっていると思ってます?」


質問を投げかけられた彼女は、少し考えるそぶりをみせて答える。


「セツナ君、たいそれた発言には気を付けたまえ。

 ‥‥だがしかし、動くべき時が来れば、キミの力を借りることもあるだろう。

 それまでは、用心して任務にあたるように。」


「部下の死亡手続きをするのは、堪えるのでな」、ディフィニラはそう付け加えた。

秘匿性の高い空間だからこそ、零れた発言だろう。


「――ああ、局長も、ボルドマンの件では気を揉んだことだと存じますよ。

 ‥‥こう、上手く言えないけど、何と言うか‥‥。」


言葉に詰まったので、身振り手振りで言いたいことを伝える。

「板挟み、板挟み」みたいなジェスチャーをして、何とか伝える。

伝わって欲しい。


アリサから、先の任務において、オペレーションルームで何があったかは、だいたい聞いた。


だいたい聞いたから、何とかフォローしたい。


ディフィニラ局長は、恐らく全責任を自分で背負って、セツナを捨て駒として扱うつもりだったのだろう。

多くを守るために、少数を犠牲にする。

誰だって、そんな十字架を背負いたくは無い。


目上の人間に対して、差し出がましいようだけど、自分は気にしてないって伝えたい。


ここは、マルに頼るのも違う。

自分の力で伝えなければ、意味が無い。


そう思ったのだけれど、上手くいかない。

カッコ良くは決められない。


しかし、それでもセツナの気持ち自体は、汲んでくれたようだ。


「ふふ、現場のキミ達に比べれば、私の労など大したことは無いさ。

 だが、そうだな。ありがとう。気持ちは貰っておくよ。」


白い空間が、塗り替えられていく。

CCC支部3階、ホログラムで投影されたオペレーター達が、業務に当たっている。


「さあ、話しは終わりだ。

 エージェント・セツナ、及びマル君。引き続き、セントラルの秩序の維持に励むように。

 そのためには、チームを組んで任務に赴く、その選択肢も持っておいてくれ。」


「「はい!」」


龍の牙、ドラゴンウェポン、魔導兵器の犯罪、赤龍。


ボルドマンという問題を片づけたら、それよりも厄介な問題が増えた。


それでも、やっていけそうな気がする。

自分が何とかするのではなくって、みんなで何とかすれば良いのだ。


自分は、自分にできることを。

そう、セツナは思うのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ