5.16_戦う漢女
ハーマン=オウクスホーデン。
元本部のエンジニアで、CCCのディフィニラ局長に師事していたナイスガイ。
エンジニアの制服であり、仕事着でもある青いつなぎは、鍛えられた肉体によって凸凹としている。
つなぎの首元からは大黒柱のような首が伸びていて、肩のラインはダンプカーのタイヤみたいに膨れ上がっている。
腕まくりした袖からは、血管の浮き上がった筋肉がビシビシと言っていて、威圧感がある。
鍛えられた肉体に、整えられた髪形と髭。
力強さと清潔感を併せ持つ、男が惚れ惚れとしてしまうマッチョマン。
「ようこそ! ラブリーブラザーズ・カンパニーへ♡
歓迎するわ。うふふ――――。」
そんなハーマンの開口一番は、強烈で個性的な挨拶だった。
「「「‥‥‥‥。」」」
絶句するセツナたちの緊張をほぐすために、ハーマンはウインクをして、投げキッスをする。
――絶句は、ますます深くなった。
「車でここまで来たお客様は、アナタたちが初めてよ。個性的じゃない!」
ハーマンほどでは無い気がする。
確かに、ここまで車で来るのは少々エキセントリックだが、一応これはアゲハの護衛を兼ねている。
平気で3000メートルの距離を当ててくるスナイパーに狙われているのだ。
彼らがどこに潜んでいるか分からない以上、車に乗っていた方が安全だ。
「うちは、小さなチビッ子だけじゃなくて、大きなチビッ子も大歓迎よ。
男前にはサービスもしちゃうから、遠慮なく見てって♡」
と、胸の前でハートの形を作るハーマン。
今回の事件、アゲハに振り回され、本部に振り回され、行きついた先が――、コレ。
セツナが、JJたちよりも早く我に返った。
首を横にブンブンと振って、気持ちを切り替える。
スーツの裏ポケットからスマートデバイスを取り出して、画面にエージェントライセンスを表示させる。
「ハーマン=オウクスホーデン。貴方には、違法魔導兵器の生産と、流通の容疑が掛けられている。
我々と一緒に来てもらいましょうか?」
会話が通じそうな相手なので、まずは口での説得から入る。
現行犯でなければ、問答無用はご法度だ。
ハーマンは、セツナの説得に大仰な身振り手振りで答える。
「あらやだ~! エージェントさんだなんて♡
どおりでイイ男なわけね~。」
彼女(?)は、自分を太い両腕で抱きかかえて、くねくねとしている。
‥‥シュールな動きなのに、いちいち迫力がある。
くねくねが止まった。
「――でも、いくら色男の頼みでも、それは聞けないわ。」
ハーマンの右手にはいつも間にか赤いスイッチが握られている。
くねくねしていた隙に、袖の裏から取り出したのだ。
彼女はニヤリとしながら、スイッチを――。
ハーマンの前に置かれているカウンターに、コインが転がった。
コインはカウンターの上を跳ねると、青白い稲妻を発生させる。
青白い稲妻は、電磁パルス。
EMP攻撃によって、スイッチの機能がダウンする。
同時に、眩い光に目がくらむ。
光が収まると、ハーマンの手にスイッチは無かった。
スイッチは、アゲハの手の中に。
元々の持ち主に見せつけてから、床に落として踏み割った。
「ハーマン。借りを返させて貰うわよ。」
「あらあら、手癖の悪い子猫ちゃんね。
――でもダメよ、早とちりはッ!」
ハーマンは、そう言って両足を横に広げる。
広げて、右脚を大きく上に振り上げる。
「憤ぬッッッ!!」
振り上げた脚は、勢いよく床へ。
ハーマンが四股を踏むと、ビルが大きく揺れる。
はち切れんばかりの筋肉によって生み出された地震に、JJ以外の者がふらつく。
そして、ふらつくセツナたちの後ろで、会社の入り口のシャッターが閉まった。
それとタイミングを同じくして、閉じたシャッターを爆発音が叩き、閉扉した入り口を凹ませる。
――襲撃!
この爆発音には聞き覚えがある。
昨夜、ダイナのセーフハウスを襲撃してきた、透明な敵。
シグマ部隊の一員、擲弾兵が用いていたグレネードランチャーの炸裂音だ。
シャッターを襲う爆風は収まらず、次から次へと波状攻撃を仕掛け、ついに閉扉は破られる。
破られたシャッターが、会社の中へと押し込まれ、吹き飛んで来る。
「破ァッッ!」
ハーマンは腰を深く落とし、右の拳を付いた。
お手本のような正拳突き。
腕の筋肉に酸素が供給され、ミトコンドリアがエネルギーを生成し、筋肉が膨張。
腕のバルクアップに耐えられず、エンジニア仕事にも耐えられる青いつなぎの袖が破れた。
躍動する正拳突きは、空気を圧縮させ、鞭を叩くような音を生じさせる。
空気を圧し潰す拳圧は、セツナの鼻先を掠めて、こちらに吹き飛んでくるシャッターを外へと押し返した。
押し返されたシャッターは、外でスクラップになっているJJのスポーツカーに突き刺さり、スポーツカーをひっくり返した。
「悪い子には、お仕置きよ!」
ハーマンは、つなぎのポケットから、風船を4つ取り出す。
取り出した風船全部を口につけて、ひと息で膨らませ、口から離す。
風船は、吹き込まれた息を推進力に、風が抜ける音を立てながら会社の外へ。
この風船は、試作型のセキュリティバルーン。
ちびっ子たちを、あらゆる脅威から守るための、対犯罪向けの風船。
バルーン内部に施された仕掛けが駆動し始める。
内部に仕込まれた微量なナノマシンが活性化。
周囲の脅威を観測。
観測にヒット。
光学迷彩を装備した脅威を確認。
ナノマシンによる、ジャミングを実行。
風船が膨張し、破裂する。
4つのハジける音と共に、桃色の粉塵が辺り一帯に一瞬で散布される。
この粉塵は、光学迷彩による光の屈折を妨害する。
迷彩服に付着し、装備者が光の中に隠れられないようにする。
セキュリティバルーンによって、セツナをあれだけ苦しめた光学迷彩が無力化される。
彼らの目の前に、4人の兵士が出現した。
図らずとも、この場に役者が集まった。
JJは、4人の兵士を確認したあと、後ろに振り返る。
彼の視線に気づいたハーマンが、ウインクで答える。
――ため息。
「さあて‥‥。この状況、どうする?」
JJの言葉に、セツナは魔導ガントレットを右手に装備する。
装備し、拳で手の平を叩く。
「決まってるよ。
ハーマンは捕まえる。
――シグマ部隊は、ぶっ飛ばす!」
JJが火薬鎚を構え、ダイナが魔法の杖を構える。
「そうこなくっちゃ!」
セツナが、シグマ部隊の4人に近づく。
右肩を回しながら、彼らに無言で近づいていく。
言外に、シグマ部隊は彼が相手をすると告げる。
コイツ等には、借りがある。
まとめて相手をしてやる。
そういう気概と意気込みを見せる。
シグマ部隊の擲弾兵は、セツナの意図を理解する。
部隊側としては、単騎で挑んでくれるのならば好都合。
各個撃破するだけだ。
擲弾兵は床に向けてグレネードランチャーを構え、連射する。
機関銃に榴弾を詰め込んだような銃から、フルオートで擲弾が発射され、爆発が起きて床が抜ける。
セツナたちは、数階したの階層まで落ちて隔離された。
うちの鉄砲玉担当を見送りつつ、JJは火薬鎚で自分の肩を叩く。
叩きながら、アゲハにそれとなく確認する。
「1人で大丈夫そうか?」
「自衛くらいは、それなりにできるつもりよ。」
「なら良かった。」
JJとダイナは、ハーマンの相手をする。
武器を構え、臨戦態勢。
「うふふ。素敵な表情をするじゃない!
ワタシまで熱くなってきちゃう♡」
言葉が語尾に迫るにつれ、声が野太くなり、凄みが加えられる。
ハーマンは、再び四股を踏む。
階層が揺れて、揺れると同時に、社内の商品が消えていく。
マッスルテレポート。
彼女の秘密基地に、一時的に会社の資産を移動させた。
これで、心置きなく戦える。
「ワタシも、本気でいくわッ!」
大きな手は、ハート形のオモチャを握っている。
ハートのオモチャが、カチャリと音を立てて開く。
「コンパクトオープン! メタモルフォーゼ♡」
掛け声と共に、ハーマンの身体が桃色の光に包まれる。
エンジニアの仕事着から、戦士の戦装束へとメタモルフォーゼするのだ。
ハーマンの髪が伸びて、背中にかかるくらいの長さになる。
サラサラの髪にはカチューシャを当てて、より漢女らしさをアピール。
服の胸元はハート形に開かれており、そこから岩盤のような胸筋が覗いて、ピクピクと自己主張。
ボトムス (下半身に着用する服)はスカート‥‥、ではなく「ハイランドキルト」というスコットランドの民族衣装を参考にした、チェック柄のセントラルキルト。
仕上げに、クラス「メイジ」用の魔法ステッキを装備。
霊銀製の両手杖で、杖の先端部が空洞のハート形になっており、空洞の中にはハートのピンククリスタルが浮いている。
変身完了。
「うふふ。男の子だって、時には可愛らしくありたい時があるのよ♡
――さあ、どっからでもかかってらっしゃいッ!!」
エージェントと本部と、蝶を巻き込んだ事件は、主犯を抑えれば幕が下りる。
セントラル西エリアを右往左往した騒乱の主犯、ハーマンとの戦いの火蓋が切られた。
◆
最初に打って出たのは、ダイナだった。
杖の先に、巨大な火球が生成される。
スキル ≪魔導書フレアボール≫ 。
火球は、自身の身の丈を超えるまでに一瞬で成長し、床を削り溶かしながらハーマンを狙う。
巨大な火球を前に、ハーマンの握るステッキが光る。
ピンククリスタルが七色に輝き、水晶から7つの魔法の弾が生成される。
宙に浮いた7つの弾はそれぞれ、2つに分裂して数を2倍に増やす。
メイジのパッシブ「重複詠唱」の効果。
「エレメントフラ~ッシュ☆」
巨大な火球に、14発の魔法弾が撃ち込まれる。
一撃火力に秀でる魔導書の魔法を、七色の魔法が相殺する。
メイジとは本来、豊富な弾幕で相手を圧倒するクラス。
ハーマンのビルドは、彼の言動に反して伝統的な構築のようだ。
火球は弾幕に掻き消され、弾幕は火球に掻き消された。
相殺により霧散した魔力が、屋内で突風となって駆け抜ける。
ダイナが、突風の中を突進。
黒い槍を手に、ハーマンに突っ込んだ。
スキル ≪魔導異書ブラックパイル≫ 。
夕暮れの禁忌の前では、弾幕など無意味。
これは魔法でありながら、魔法を殺す術なのだ。
――ならば、魔法を使わずに受ける。
「征ッッ!!」
ハーマンは、左手の握力で、黒い槍を受け止めた。
命を対価に増幅された黒い槍の魔力と、鍛え抜かれた肉体が衝突し、室内が地響きを立てる。
槍から漏れる魔力が室内を走り、壁や床に亀裂を生む。
「あらあら、夕暮れの禁忌で火遊びなんて、イケない子ね。」
『「‥‥吹き飛べ。」』
力比べは、ダイナに軍配が上がった。
力負けし、ハーマンの足が床から離れる。
黒い槍がダイナの身体を強制的に加速させ、ゼロ距離から突進をさせる。
槍に胸を穿たれて、ハーマンは壁を突き破り吹き飛ぶ。
ダイナの攻撃に、JJが合わせる。
回復アイテムのサバイバルキットを使用。
パッシブ「滋養と狂走」により、移動速度が強化される。
自動注射器の針を脚に打ち込み、無造作に捨てる。
――ブースター、オン!
注射器の針が床に落ちる頃には、JJはハーマンの目の前に居た。
壁を突き破って吹き飛ぶハーマンに、速度増し増しで追いつく。
追い付き追い抜き、背後に回った。
彼の右手には、撃鉄の上がった火薬鎚が中段に構えられている。
走りながら、撃鉄を肩を使って上げたのだ。
中段から上へ、火薬と黒煙が走った。
火薬鎚がハーマンの背中を捉え、火薬の爆発力で天井に目掛けてかっ飛ばす。
ハーマンは、天井を破って上階へとかっ飛んでいく。
ブースターオン。
崩落した天井を抜け、追いかける。
粉塵が舞う天井を抜けた先では、ハーマンが待ち構えていた。
彼女は、2枚目の天井を足場に、そこに着地していたのだ。
足場にヒビを入れながら、JJに飛び掛かる。
ジャンピングキック。
鉄筋のような脚と、火薬の拳が衝突。
相討ちになる。
互いに床に転がり、すぐさま受け身を取って立ち上がり。
同じタイミングで走り出す。
JJは火薬鎚をしまう。
まだ「滋養と狂走」の効果がわずかに残っている。
インファイトで畳み掛ける。
拳を構えて、一気に距離を詰める。
徒手空拳のJJに対して、ハーマンの方がリーチに分があった。
魔法のステッキを、上段から振るう。
それを、最小限の動きで半身となり捌く。
右の上腕を、内側に旋回させる。
そうすると、腕と連動している体幹部分も、腕につられて内旋する。
腕が内旋し、体幹も内旋すれば、身体は自然と半身の姿勢になる。
ボクシングなどのスポーツとは異なる、ステップを踏まない体捌きによって、動きの起こりも気配も無く、ハーマンの懐に入り込んだ。
杖が生み出した物理的な破壊力が床を両断するすぐ横で、JJは右フック。
腕を内旋させる動きをそのままに、拳を叩き込む。
狙いは、脇の下部分。
神経が多く集まっており、皮膚が薄く、血管が多い。
ただ腕を内旋させる動作だけで、相手の上段打ちを捌き、カウンターにまで持っていく。
見栄えや無駄を削ぎ落した、攻防一体の攻撃。
それを、ハーマンは上半身をくねられて回避する。
「ひらり☆」
右フックのインパクトゾーンから上半身だけを動かして、攻撃をやり過ごした。
JJは、攻撃を避けられても気にした様子もなく、追撃を入れる。
左拳で、ハーマンの顔面を攻撃。
これも、くねくねと避けられて、彼女は一歩後ろに下がる。
下がるに合わせて、自分も踏み込み、右拳で裏拳。
拳を打つというよりも、指ではたくイメージで、ハーマンの目を狙う。
容赦のない急所を狙う攻撃に対し、ハーマンは自身の顔を前に出した。
目潰しを、頭の位置を調整することで、額で受ける。
指ではたくような攻撃は、骨には効かない。
「捕まえた!」
JJの攻撃を凌いだハーマンが、太い両腕で組み付く。
ベアハッグ。
肋骨の下部を、万力のように締め上げていく。
魔力で強化された筋肉は、常人の骨ていどなら、容易くへし折ってしまう。
‥‥ブースター、オン。
左手に、蒼い炎が噴き上がる。
ハーマンも怯まないが、JJも怯まない。
彼女の腕に抱かれた体勢から、火薬の力を使った貫手。
ハーマンの首筋、鎖骨と肩甲骨の隙間に、貫手を撃ち込んだ。
筋肉が薄く、神経と血管が集中している部位。
人体構造の脆弱性を突かれ、筋骨隆々としたハーマンの拘束が緩む。
拘束から逃れ、左拳を握り込む。
火薬籠手の撃鉄が落ちて、火薬に火が付く。
腰を深く落とし、息を吐く。
脱力――、集中――。
自分の体重と重心、そして火薬の爆発力を、ハーマンに押し付ける。
蒼炎の拳、青拳突き。
武術と火薬が融合し、互いの限界を凌駕した一撃が放たれる。
拳は、ハーマンの鉄板のような腹筋を貫通し、ダメージを負わせる。
ハーマンが床から摩擦の煙を上げながら、後退していく。
JJは左手を2回、素早く開閉する。
籠手のチャンバーが開いて、使ったシェルが排莢される。
リロード。
――リロードの隙は、味方がフォローしてくれる。
ダイナが、竜巻と共に2人の前に現れる。
下の階から、魔法の竜巻を使い跳躍してきたのだ。
竜巻に乗って来たのは、彼女だけではない。
この短時間の戦闘によって破損した建材。
砕かれた壁や、崩落した天井を伴って、彼女は来た。
ダイナが、杖をハーマンに向ける。
すると、廃材となった塊たちが、竜巻の中から追い出されて、杖を向けた標的へと襲い掛かる。
ハーマンは、両腕の筋肉のカーテンで、防御陣形を敷く。
石の塊を、鋼の肉体で受け止め、守りを固める。
いくつも襲い掛かる風による投石を、ハーマンは肉体で受けきった。
‥‥受けきったものの、高速で飛来する投石によるダメージは無視できずに、膝をついた。
一連の攻防のあいだに、JJは火薬籠手への装填を終わらせる。
残弾は、武器に5発。籠手に4発。
「ワタシに膝をつかせるなんて、やっぱり素敵な人。」
ハーマンは、膝こそついているが、態度には余裕が見られる。
伊達に、ディフィニラに鍛えられていた訳ではないのだろう。
戦闘によって、3人はビルの窓際へと移動してきていた。
窓から差し込む光が、ハーマンの逞しい背中に阻まれて、長く深い影を彼女の前に作り出している。
ハーマンが立ち上がり、長い影がゆらりと彼女の真似をする。
ピンククリスタルが輝く。足元の影が失われる。
「ファイヤーボール☆」
ステッキから、双子の火球が放たれた。
ボーリング玉ほどの火球は、螺旋を描きながら、JJに向かって飛んで行く。
2発同時に放たれた以外は、何の変哲もない飛び道具。
何の変哲もないので、屈んで避ける。
屈んだ姿勢のまま、手元に火薬銃を取り出す。
コッキングレバーを引いて、射撃!
火球のお礼に、花火を返してやる。
拡散する花火が、ハーマンに直撃した。
ダメージを肉体で受けつつ、彼女は魔法を唱える。
「ファイヤーボール☆☆」
再び、双子の火球が放たれる。
今度はダイナに向けて。
バランスボールほどの大きさの火球が、ダイナを襲う。
――先ほどよりも、サイズが大きくなっている。
これは‥‥。
ダイナは、2つの火球を氷の槍で刺し貫く。
氷と冷気に守られて、ダメージは受けない。
槍は火球の熱に溶かされて、水蒸気となりダイナの姿を隠す。
水蒸気の靄に隠れたまま、夕暮れの禁忌を唱える。
ハーマンの周りに、黒い星空が広がる。
スキル ≪魔導異書ダークボール≫ 。
黒い星空は、爆発して膨張。
星空の中心に居たハーマンを、夕暮れの中へと飲み込んでいく。
JJが続く、武器を火薬刀に。
踏み込んで、抜刀。
火薬の斬撃で、夕暮れの中のハーマンに斬撃を浴びせた。
振るわれた刀は、しかし虚空を切る。
‥‥テレポート。
魔力野が、瞬間移動の ”起こり” を捉える。
頬を、魔力の風が前から後ろへと撫でた。
ハーマンは後ろ。
彼女は、JJとダイナの背後へと移動をしていた。
瞬間移動に反応したダイナは、足に炎を纏い、手に片手剣を召喚。
スキル ≪魔女の七つ道具≫ 。
同時に、左眼を紫色に変えて、瞳に映る者を呪う。
スキル ≪魔導異書カースマイン≫。
呪いを起爆させるために、片手剣を振るう。
片手剣は、瞬間移動を終えたハーマンのステッキを掻い潜り、その先で待ち構えていた素手によって受け止められた。
とても人体を切り裂いた感触とは思えない衝撃が、ダイナの手に伝わる。
杉や檜に、白刃を立てたような感触だ。
「――――!!」
肌を裂いた手応えは無く、成木の樹を凹ませる程度の威力しか与えられていない。
剣を素手で取られる異常事態であっても、ダイナは冷静。
表情を崩すことなく、剣を捨てる意思決定を下す。
筋力勝負では不利。
下手に張り合うことはしない。
剣を手放そうと、右手を開こうと――。
そうするだけ時間が、彼女には与えられなかった。
ハーマンは、掴んだ剣を腕を外旋させて捻る。
剣を捻りる動きは、それを握るダイナにも伝わる。
万力を思わせる筋力の力が伝わって、つられて、手首と肩の関節を極められてしまう。
剣から手を離すのが、一瞬だけ遅かった。
捻られる剣の動きに手元がつられて、身体のバランスが崩れて、脚が止まってしまう。
脚が止まったダイナに、ヘッドバットが上から振り下ろされる。
分厚い骨を持つ額が、鼻っ柱に直撃して、ダイナは背を床につけて滑り飛ぶ。
ハーマンが持つステッキが、3度目の輝きを発する。
「ファイヤーボール☆☆☆」
3度目となった双子の火球は、ダイナの背丈よりも大きな火球となった。
パッシブ「多重詠唱」。
同じスキルを繰り返し使用することによって、威力を上昇させるパッシブ。
多重詠唱中は、スキルのキャンセルが利かなくなり、魔法の後隙も大きくなる。
取り回しが悪くなるため、多重詠唱は一般的にロマン魔法とされている。
それを、ハーマンは持ち前のフィジカルによって、取り回しの悪さを無理やり解消させている。
相手の攻撃を耐えらるのならば、キャンセルができなかろうが、後隙が増えようが、関係ない。
JJは、双子の巨星を前に、床を滑るダイナを担ぎ上げる。
担ぎ上げて、火薬籠手に火を入れて、緊急脱出。
火薬の突進でビルの窓を割り、ダイナと共に空中へと飛び出した。
――直後、2人の後ろで、大爆発が起こった。
爆発は、階下と階上の窓すら巻き込んで粉砕し、破壊の限りを尽くす。
暴力的な魔力と爆風によって、2人は抵抗もできずに屋外へと放り出された。
屋外のJJたちは、重力に捕まり、そのまま地上へと落下して居なくなっていった。
‥‥‥‥。
‥‥。




