表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5章_女スパイは、裏切りの蝶。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/255

5.16_戦う漢女

ハーマン=オウクスホーデン。

元本部のエンジニアで、CCCのディフィニラ局長に師事していたナイスガイ。


エンジニアの制服であり、仕事着でもある青いつなぎは、鍛えられた肉体によって凸凹としている。


つなぎの首元からは大黒柱のような首が伸びていて、肩のラインはダンプカーのタイヤみたいに膨れ上がっている。

腕まくりした袖からは、血管の浮き上がった筋肉がビシビシと言っていて、威圧感がある。


鍛えられた肉体に、整えられた髪形と髭。


力強さと清潔感を併せ持つ、男が惚れ惚れとしてしまうマッチョマン。


「ようこそ! ラブリーブラザーズ・カンパニーへ♡

 歓迎するわ。うふふ――――。」


そんなハーマンの開口一番は、強烈で個性的な挨拶だった。


「「「‥‥‥‥。」」」


絶句するセツナたちの緊張をほぐすために、ハーマンはウインクをして、投げキッスをする。

――絶句は、ますます深くなった。


「車でここまで来たお客様は、アナタたちが初めてよ。個性的じゃない!」


ハーマンほどでは無い気がする。

確かに、ここまで車で来るのは少々エキセントリックだが、一応これはアゲハの護衛を兼ねている。


平気で3000メートルの距離を当ててくるスナイパーに狙われているのだ。

彼らがどこに潜んでいるか分からない以上、車に乗っていた方が安全だ。


「うちは、小さなチビッ子だけじゃなくて、大きなチビッ子も大歓迎よ。

 男前にはサービスもしちゃうから、遠慮なく見てって♡」


と、胸の前でハートの形を作るハーマン。

今回の事件、アゲハに振り回され、本部に振り回され、行きついた先が――、コレ。


セツナが、JJたちよりも早く我に返った。

首を横にブンブンと振って、気持ちを切り替える。


スーツの裏ポケットからスマートデバイスを取り出して、画面にエージェントライセンスを表示させる。


「ハーマン=オウクスホーデン。貴方には、違法魔導兵器の生産と、流通の容疑が掛けられている。

 我々と一緒に来てもらいましょうか?」


会話が通じそうな相手なので、まずは口での説得から入る。

現行犯でなければ、問答無用はご法度だ。


ハーマンは、セツナの説得に大仰な身振り手振りで答える。


「あらやだ~! エージェントさんだなんて♡

 どおりでイイ男なわけね~。」


彼女(?)は、自分を太い両腕で抱きかかえて、くねくねとしている。

‥‥シュールな動きなのに、いちいち迫力がある。


くねくねが止まった。


「――でも、いくら色男の頼みでも、それは聞けないわ。」


ハーマンの右手にはいつも間にか赤いスイッチが握られている。

くねくねしていた隙に、袖の裏から取り出したのだ。


彼女はニヤリとしながら、スイッチを――。


ハーマンの前に置かれているカウンターに、コインが転がった。

コインはカウンターの上を跳ねると、青白い稲妻を発生させる。


青白い稲妻は、電磁パルス。

EMP攻撃によって、スイッチの機能がダウンする。


同時に、眩い光に目がくらむ。


光が収まると、ハーマンの手にスイッチは無かった。


スイッチは、アゲハの手の中に。

元々の持ち主に見せつけてから、床に落として踏み割った。


「ハーマン。借りを返させて貰うわよ。」

「あらあら、手癖の悪い子猫ちゃんね。

 ――でもダメよ、早とちりはッ!」


ハーマンは、そう言って両足を横に広げる。

広げて、右脚を大きく上に振り上げる。


「憤ぬッッッ!!」


振り上げた脚は、勢いよく床へ。

ハーマンが四股を踏むと、ビルが大きく揺れる。


はち切れんばかりの筋肉によって生み出された地震に、JJ以外の者がふらつく。


そして、ふらつくセツナたちの後ろで、会社の入り口のシャッターが閉まった。


それとタイミングを同じくして、閉じたシャッターを爆発音が叩き、閉扉(へいひ)した入り口を凹ませる。

――襲撃!


この爆発音には聞き覚えがある。

昨夜、ダイナのセーフハウスを襲撃してきた、透明な敵。


シグマ部隊の一員、擲弾兵が用いていたグレネードランチャーの炸裂音だ。


シャッターを襲う爆風は収まらず、次から次へと波状攻撃を仕掛け、ついに閉扉は破られる。

破られたシャッターが、会社の中へと押し込まれ、吹き飛んで来る。


「破ァッッ!」


ハーマンは腰を深く落とし、右の拳を付いた。

お手本のような正拳突き。


腕の筋肉に酸素が供給され、ミトコンドリアがエネルギーを生成し、筋肉が膨張。

腕のバルクアップに耐えられず、エンジニア仕事にも耐えられる青いつなぎの袖が破れた。


躍動する正拳突きは、空気を圧縮させ、鞭を叩くような音を生じさせる。

空気を圧し潰す拳圧は、セツナの鼻先を掠めて、こちらに吹き飛んでくるシャッターを外へと押し返した。


押し返されたシャッターは、外でスクラップになっているJJのスポーツカーに突き刺さり、スポーツカーをひっくり返した。


「悪い子には、お仕置きよ!」


ハーマンは、つなぎのポケットから、風船を4つ取り出す。

取り出した風船全部を口につけて、ひと息で膨らませ、口から離す。


風船は、吹き込まれた息を推進力に、風が抜ける音を立てながら会社の外へ。


この風船は、試作型のセキュリティバルーン。

ちびっ子たちを、あらゆる脅威から守るための、対犯罪向けの風船。


バルーン内部に施された仕掛けが駆動し始める。

内部に仕込まれた微量なナノマシンが活性化。


周囲の脅威を観測。

観測にヒット。


光学迷彩を装備した脅威を確認。


ナノマシンによる、ジャミングを実行。


風船が膨張し、破裂する。

4つのハジける音と共に、桃色の粉塵が辺り一帯に一瞬で散布される。


この粉塵は、光学迷彩による光の屈折を妨害する。

迷彩服に付着し、装備者が光の中に隠れられないようにする。


セキュリティバルーンによって、セツナをあれだけ苦しめた光学迷彩が無力化される。

彼らの目の前に、4人の兵士が出現した。


図らずとも、この場に役者が集まった。


JJは、4人の兵士を確認したあと、後ろに振り返る。

彼の視線に気づいたハーマンが、ウインクで答える。


――ため息。


「さあて‥‥。この状況、どうする?」


JJの言葉に、セツナは魔導ガントレットを右手に装備する。

装備し、拳で手の平を叩く。


「決まってるよ。

 ハーマンは捕まえる。

 ――シグマ部隊は、ぶっ飛ばす!」


JJが火薬鎚を構え、ダイナが魔法の杖を構える。


「そうこなくっちゃ!」


セツナが、シグマ部隊の4人に近づく。

右肩を回しながら、彼らに無言で近づいていく。


言外に、シグマ部隊は彼が相手をすると告げる。


コイツ等には、借りがある。

まとめて相手をしてやる。


そういう気概と意気込みを見せる。


シグマ部隊の擲弾兵は、セツナの意図を理解する。

部隊側としては、単騎で挑んでくれるのならば好都合。


各個撃破するだけだ。


擲弾兵は床に向けてグレネードランチャーを構え、連射する。

機関銃に榴弾を詰め込んだような銃から、フルオートで擲弾が発射され、爆発が起きて床が抜ける。


セツナたちは、数階したの階層まで落ちて隔離された。


うちの鉄砲玉担当を見送りつつ、JJは火薬鎚で自分の肩を叩く。

叩きながら、アゲハにそれとなく確認する。


「1人で大丈夫そうか?」

「自衛くらいは、それなりにできるつもりよ。」

「なら良かった。」


JJとダイナは、ハーマンの相手をする。

武器を構え、臨戦態勢。


「うふふ。素敵な表情をするじゃない!

 ワタシまで熱くなってきちゃう♡」


言葉が語尾に迫るにつれ、声が野太くなり、凄みが加えられる。

ハーマンは、再び四股を踏む。


階層が揺れて、揺れると同時に、社内の商品が消えていく。


マッスルテレポート。

彼女の秘密基地に、一時的に会社の資産を移動させた。


これで、心置きなく戦える。


「ワタシも、本気でいくわッ!」


大きな手は、ハート形のオモチャを握っている。

ハートのオモチャが、カチャリと音を立てて開く。


「コンパクトオープン! メタモルフォーゼ♡」


掛け声と共に、ハーマンの身体が桃色の光に包まれる。

エンジニアの仕事着から、戦士の戦装束へとメタモルフォーゼするのだ。


ハーマンの髪が伸びて、背中にかかるくらいの長さになる。

サラサラの髪にはカチューシャを当てて、より漢女らしさをアピール。


服の胸元はハート形に開かれており、そこから岩盤のような胸筋が覗いて、ピクピクと自己主張。


ボトムス (下半身に着用する服)はスカート‥‥、ではなく「ハイランドキルト」というスコットランドの民族衣装を参考にした、チェック柄のセントラルキルト。


仕上げに、クラス「メイジ」用の魔法ステッキを装備。

霊銀(ミスリル)製の両手杖で、杖の先端部が空洞のハート形になっており、空洞の中にはハートのピンククリスタルが浮いている。


変身完了。


「うふふ。男の子だって、時には可愛らしくありたい時があるのよ♡

 ――さあ、どっからでもかかってらっしゃいッ!!」


エージェントと本部と、蝶を巻き込んだ事件は、主犯を抑えれば幕が下りる。

セントラル西エリアを右往左往した騒乱の主犯、ハーマンとの戦いの火蓋が切られた。



最初に打って出たのは、ダイナだった。


杖の先に、巨大な火球が生成される。

スキル ≪魔導書(グリモワール)フレアボール≫ 。


火球は、自身の身の丈を超えるまでに一瞬で成長し、床を削り溶かしながらハーマンを狙う。


巨大な火球を前に、ハーマンの握るステッキが光る。

ピンククリスタルが七色に輝き、水晶から7つの魔法の弾が生成される。


宙に浮いた7つの弾はそれぞれ、2つに分裂して数を2倍に増やす。

メイジのパッシブ「重複詠唱」の効果。


「エレメントフラ~ッシュ☆」


巨大な火球に、14発の魔法弾が撃ち込まれる。

一撃火力に秀でる魔導書の魔法を、七色の魔法が相殺する。


メイジとは本来、豊富な弾幕で相手を圧倒するクラス。

ハーマンのビルドは、彼の言動に反して伝統的(トラディショナル)な構築のようだ。


火球は弾幕に掻き消され、弾幕は火球に掻き消された。

相殺により霧散した魔力が、屋内で突風となって駆け抜ける。


ダイナが、突風の中を突進。

黒い槍を手に、ハーマンに突っ込んだ。


スキル ≪魔導異書(ディ・グリモワール)ブラックパイル≫ 。

夕暮れの禁忌の前では、弾幕など無意味。


これは魔法でありながら、魔法を殺す術なのだ。


――ならば、魔法を使わずに受ける。


「征ッッ!!」


ハーマンは、左手の握力で、黒い槍を受け止めた。


命を対価に増幅された黒い槍の魔力と、鍛え抜かれた肉体が衝突し、室内が地響きを立てる。

槍から漏れる魔力が室内を走り、壁や床に亀裂を生む。


「あらあら、夕暮れの禁忌で火遊びなんて、イケない子ね。」

『「‥‥吹き飛べ。」』


力比べは、ダイナに軍配が上がった。

力負けし、ハーマンの足が床から離れる。


黒い槍がダイナの身体を強制的に加速させ、ゼロ距離から突進をさせる。


槍に胸を穿たれて、ハーマンは壁を突き破り吹き飛ぶ。


ダイナの攻撃に、JJが合わせる。


回復アイテムのサバイバルキットを使用。

パッシブ「滋養と狂走」により、移動速度が強化される。


自動注射器の針を脚に打ち込み、無造作に捨てる。


――ブースター、オン!


注射器の針が床に落ちる頃には、JJはハーマンの目の前に居た。

壁を突き破って吹き飛ぶハーマンに、速度増し増しで追いつく。


追い付き追い抜き、背後に回った。


彼の右手には、撃鉄の上がった火薬鎚が中段に構えられている。

走りながら、撃鉄を肩を使って上げたのだ。


中段から上へ、火薬と黒煙が走った。


火薬鎚がハーマンの背中を捉え、火薬の爆発力で天井に目掛けてかっ飛ばす。

ハーマンは、天井を破って上階へとかっ飛んでいく。


ブースターオン。

崩落した天井を抜け、追いかける。


粉塵が舞う天井を抜けた先では、ハーマンが待ち構えていた。


彼女は、2()()()()()()を足場に、そこに着地していたのだ。

足場にヒビを入れながら、JJに飛び掛かる。


ジャンピングキック。

鉄筋のような脚と、火薬の拳が衝突。


相討ちになる。


互いに床に転がり、すぐさま受け身を取って立ち上がり。

同じタイミングで走り出す。


JJは火薬鎚をしまう。

まだ「滋養と狂走」の効果がわずかに残っている。


インファイトで畳み掛ける。


拳を構えて、一気に距離を詰める。

徒手空拳のJJに対して、ハーマンの方がリーチに分があった。


魔法のステッキを、上段から振るう。


それを、最小限の動きで半身となり捌く。


右の上腕を、内側に旋回させる。


そうすると、腕と連動している体幹部分も、腕につられて内旋する。

腕が内旋し、体幹も内旋すれば、身体は自然と半身の姿勢になる。


ボクシングなどのスポーツとは異なる、ステップを踏まない体捌きによって、動きの起こりも気配も無く、ハーマンの懐に入り込んだ。


杖が生み出した物理的な破壊力が床を両断するすぐ横で、JJは右フック。

腕を内旋させる動きをそのままに、拳を叩き込む。


狙いは、脇の下部分。

神経が多く集まっており、皮膚が薄く、血管が多い。


ただ腕を内旋させる動作だけで、相手の上段打ちを捌き、カウンターにまで持っていく。

見栄えや無駄を削ぎ落した、攻防一体の攻撃。


それを、ハーマンは上半身をくねられて回避する。


「ひらり☆」


右フックのインパクトゾーンから上半身だけを動かして、攻撃をやり過ごした。


JJは、攻撃を避けられても気にした様子もなく、追撃を入れる。

左拳で、ハーマンの顔面を攻撃。


これも、くねくねと避けられて、彼女は一歩後ろに下がる。

下がるに合わせて、自分も踏み込み、右拳で裏拳。


拳を打つというよりも、指ではたくイメージで、ハーマンの目を狙う。


容赦のない急所を狙う攻撃に対し、ハーマンは自身の顔を前に出した。

目潰しを、頭の位置を調整することで、額で受ける。


指ではたくような攻撃は、骨には効かない。


「捕まえた!」


JJの攻撃を凌いだハーマンが、太い両腕で組み付く。


ベアハッグ。

肋骨の下部を、万力のように締め上げていく。


魔力で強化された筋肉は、常人の骨ていどなら、容易くへし折ってしまう。


‥‥ブースター、オン。


左手に、蒼い炎が噴き上がる。


ハーマンも怯まないが、JJも怯まない。

彼女の腕に抱かれた体勢から、火薬の力を使った貫手。


ハーマンの首筋、鎖骨と肩甲骨の隙間に、貫手を撃ち込んだ。

筋肉が薄く、神経と血管が集中している部位。


人体構造の脆弱性を突かれ、筋骨隆々としたハーマンの拘束が緩む。


拘束から逃れ、左拳を握り込む。

火薬籠手の撃鉄が落ちて、火薬に火が付く。


腰を深く落とし、息を吐く。

脱力――、集中――。


自分の体重と重心、そして火薬の爆発力を、ハーマンに押し付ける。


蒼炎の拳、青拳突き。

武術と火薬が融合し、互いの限界を凌駕した一撃が放たれる。


拳は、ハーマンの鉄板のような腹筋を貫通し、ダメージを負わせる。

ハーマンが床から摩擦の煙を上げながら、後退していく。


JJは左手を2回、素早く開閉する。

籠手のチャンバーが開いて、使ったシェルが排莢される。


リロード。

――リロードの隙は、味方がフォローしてくれる。


ダイナが、竜巻と共に2人の前に現れる。

下の階から、魔法の竜巻を使い跳躍してきたのだ。


竜巻に乗って来たのは、彼女だけではない。


この短時間の戦闘によって破損した建材。

砕かれた壁や、崩落した天井を伴って、彼女は来た。


ダイナが、杖をハーマンに向ける。

すると、廃材となった塊たちが、竜巻の中から追い出されて、杖を向けた標的へと襲い掛かる。


ハーマンは、両腕の筋肉のカーテンで、防御陣形を敷く。

石の塊を、鋼の肉体で受け止め、守りを固める。


いくつも襲い掛かる風による投石を、ハーマンは肉体で受けきった。

‥‥受けきったものの、高速で飛来する投石によるダメージは無視できずに、膝をついた。


一連の攻防のあいだに、JJは火薬籠手への装填を終わらせる。


残弾は、武器に5発。籠手に4発。


「ワタシに膝をつかせるなんて、やっぱり素敵な人。」


ハーマンは、膝こそついているが、態度には余裕が見られる。

伊達に、ディフィニラに鍛えられていた訳ではないのだろう。


戦闘によって、3人はビルの窓際へと移動してきていた。


窓から差し込む光が、ハーマンの逞しい背中に阻まれて、長く深い影を彼女の前に作り出している。


ハーマンが立ち上がり、長い影がゆらりと彼女の真似をする。

ピンククリスタルが輝く。足元の影が失われる。


「ファイヤーボール☆」


ステッキから、双子の火球が放たれた。

ボーリング玉ほどの火球は、螺旋を描きながら、JJに向かって飛んで行く。


2発同時に放たれた以外は、何の変哲もない飛び道具。

何の変哲もないので、屈んで避ける。


屈んだ姿勢のまま、手元に火薬銃を取り出す。

コッキングレバーを引いて、射撃!


火球のお礼に、花火を返してやる。

拡散する花火が、ハーマンに直撃した。


ダメージを肉体で受けつつ、彼女は魔法を唱える。


「ファイヤーボール☆☆」


再び、双子の火球が放たれる。

今度はダイナに向けて。


バランスボールほどの大きさの火球が、ダイナを襲う。


――先ほどよりも、サイズが大きくなっている。

これは‥‥。


ダイナは、2つの火球を氷の槍で刺し貫く。

氷と冷気に守られて、ダメージは受けない。


槍は火球の熱に溶かされて、水蒸気となりダイナの姿を隠す。

水蒸気の(もや)に隠れたまま、夕暮れの禁忌を唱える。


ハーマンの周りに、黒い星空が広がる。

スキル ≪魔導異書ダークボール≫ 。


黒い星空は、爆発して膨張。

星空の中心に居たハーマンを、夕暮れの中へと飲み込んでいく。


JJが続く、武器を火薬刀に。

踏み込んで、抜刀。


火薬の斬撃で、夕暮れの中のハーマンに斬撃を浴びせた。

振るわれた刀は、しかし虚空を切る。


‥‥テレポート。


魔力野が、瞬間移動の ”起こり” を捉える。

頬を、魔力の風が前から後ろへと撫でた。


ハーマンは後ろ。

彼女は、JJとダイナの背後へと移動をしていた。


瞬間移動に反応したダイナは、足に炎を纏い、手に片手剣を召喚。

スキル ≪魔女の七つ道具ヘックス・フェシトビフ≫ 。


同時に、左眼を紫色に変えて、瞳に映る者を呪う。

スキル ≪魔導異書カースマイン≫。


呪いを起爆させるために、片手剣を振るう。

片手剣は、瞬間移動を終えたハーマンのステッキを掻い潜り、その先で待ち構えていた素手によって受け止められた。


とても人体を切り裂いた感触とは思えない衝撃が、ダイナの手に伝わる。

杉や檜に、白刃を立てたような感触だ。


「――――!!」


肌を裂いた手応えは無く、成木の樹を凹ませる程度の威力しか与えられていない。


剣を素手で取られる異常事態であっても、ダイナは冷静。

表情を崩すことなく、剣を捨てる意思決定を下す。


筋力勝負では不利。

下手に張り合うことはしない。


剣を手放そうと、右手を開こうと――。

そうするだけ時間が、彼女には与えられなかった。


ハーマンは、掴んだ剣を腕を外旋させて捻る。

剣を捻りる動きは、それを握るダイナにも伝わる。


万力を思わせる筋力の力が伝わって、つられて、手首と肩の関節を極められてしまう。

剣から手を離すのが、一瞬だけ遅かった。


捻られる剣の動きに手元がつられて、身体のバランスが崩れて、脚が止まってしまう。


脚が止まったダイナに、ヘッドバットが上から振り下ろされる。

分厚い骨を持つ額が、鼻っ柱に直撃して、ダイナは背を床につけて滑り飛ぶ。


ハーマンが持つステッキが、3度目の輝きを発する。


「ファイヤーボール☆☆☆」


3度目となった双子の火球は、ダイナの背丈よりも大きな火球となった。


パッシブ「多重詠唱」。

同じスキルを繰り返し使用することによって、威力を上昇させるパッシブ。


多重詠唱中は、スキルのキャンセルが利かなくなり、魔法の後隙も大きくなる。

取り回しが悪くなるため、多重詠唱は一般的にロマン魔法とされている。


それを、ハーマンは持ち前のフィジカルによって、取り回しの悪さを無理やり解消させている。

相手の攻撃を耐えらるのならば、キャンセルができなかろうが、後隙が増えようが、関係ない。


JJは、双子の巨星を前に、床を滑るダイナを担ぎ上げる。

担ぎ上げて、火薬籠手に火を入れて、緊急脱出。


火薬の突進でビルの窓を割り、ダイナと共に空中へと飛び出した。


――直後、2人の後ろで、大爆発が起こった。

爆発は、階下と階上の窓すら巻き込んで粉砕し、破壊の限りを尽くす。


暴力的な魔力と爆風によって、2人は抵抗もできずに屋外へと放り出された。


屋外のJJたちは、重力に捕まり、そのまま地上へと落下して居なくなっていった。


‥‥‥‥。

‥‥。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ