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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5章_女スパイは、裏切りの蝶。

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153/248

5.15_プロンプト:Ↄ

セントラルの国土は、日本の5倍ある。

5倍ある国土は、東西南北のエリアに分かれている。


4つに区切っても、そのひとつひとつが、日本の基準だと広い面積を誇る。

エージェントの主だった拠点となっている西エリアだけでも、日本の1.5倍の広さはある。


その広い国土には、様々な交通網が張り巡らされている。


「サーキット」と呼ばれる道路は、科学と魔法が発展した、セントラルならではの交通網だ。

亜空間座標に浮かぶ、目には見えない道。


サーキットは、テレポートの技術を応用して敷かれている。

物質世界の上に、空間(レイヤー)を重ね合わせることによって、巨大な道路を宙に敷設しているのだ。


――少し、テレポート力学を学んでみよう。


そも、時空とは、天体や宇宙に似ている。


惑星があって、衛星があって、惑星系があって、銀河があって、銀河系があって――。

と、そういった具合だ。


基本的に、自分たちが居る惑星 (次元)から距離が開くほど、自分たちの常識が通用しなくなっていく。

分析哲学の、可能世界論の考えを借りるのであれば、次元的な距離が開くほど、自分たちの惑星では真である値の個数が減っていく。


ごく近くにある次元では、雨粒一滴の落ちた場所が違うとか、地球の誰かが気まぐれでやったコイントスの結果が違うとか、極々小さな値の変化しか観測されない。


しかし、次元間の距離が大きくなればなるほど、世界の違いはありありと明確になっていく。


距離のある次元では、地球とは別の惑星に、地球人とは異なる知的生命体が暮らしているかも知れない。

魔法という、超常的な技術を核に、文明が発展している世界があるかも知れない。


逆に、魔法文明によって発展した”者”たちからすれば、魔法や魔力の存在しない世界など、想像ができないだろう。


次元の距離が大きくなれば、真の値が減る。

次元宇宙では、このような負の比例関係がある。


そして、次元宇宙では、自分の惑星と近い惑星同士の間では、引力では無く斥力が発生する。

ここは、物質宇宙と異なる点である。


考えてみれば当然だ。

自分ところと近い次元惑星のあいだで引力が発生していたら、次元同士が衝突し、重なり合い、崩壊してしまう。


いま、この世界がこの世界として成り立っているのは、次元の斥力によって、明確に次元が隔てられているからだ。


だからこそ、セントラルからオーストラリア大陸までのテレポートは、手間なのだ。


次元の持つ斥力の嵐を抜けないといけないのだから、同次元内でのテレポートには、膨大なエネルギーが必要となる。


逆に、魔法界のような、次元的な距離がある場所へは、比較的にすんなりと行ける。


昔からあった神隠しとは、次元の性質の上に成り立っているのだ。


次元宇宙においては、自分の惑星と距離が遠いほど、真の値が減少する。

次元宇宙においては、自分の惑星と距離が近いほど、斥力が増加する。


次元宇宙は、惑星間の斥力によって明確に隔たれており、斥力が次元空間を支配している。

もし、次元宇宙が物質宇宙のように、斥力ではなく引力を持てば、世界はたちまち崩壊するだろう。


互いに引き合い、衝突し、圧縮されて爆発する。


‥‥その崩壊こそが、新たなる宇宙の創造。

創造神が成す、御業(ビックバン)の本質なのかも知れないが。


さて、このように次元には、宇宙の天体と似た共通点を持つ。

セントラルに張り巡らされたサーキットは、この次元宇宙の性質を利用したものだ。


つまり、物質世界の周りをぐるぐると回る、衛星のような空間。

ここにアクセスするのだ。


物質世界を周回する衛星の姿は、衛星の(あるじ)たる惑星の鏡映しだ。

次元衛星は、物質世界を、鏡の中から見ている。


鏡の中の自分に触れることができないように、物質世界から次元衛星に触れることもできない。

が、特殊な方法を用いれば、鏡の中に入り込むことができ、鏡の世界の情報を書き換えることができる。


ここからは先は、魔法の領分になってくる。

魔法によって鏡の中に、実像を伴わない虚像を創り出すのだ。


魔法とは、可能性の力。

それすなわち、真偽の値を変える力を有している。


虚空から火球を生成するのも、足元に稲妻を纏えるのも、全ては(0)(1)の値を操作する作業へと収束する。


この魔法の力を使い、鏡の中に、実像を持たない虚像を創り出す。

そうやってサーキットは、次元衛星に投影された世界を、書き換えて成り立っている。


セントラルの宙空を駆け抜ける道を、我々は普段、目にすることも、触れることもない。


しかし、その実、鏡合わせのセントラルには、空を駆け抜ける道が浮いており、セントラルの交通網を支えているのだ。



一行を乗せた車は、港の町をしばらく走り、ポータルエリアに足を踏み入れた。

一瞬、世界が水面のように揺らいで、それからは何事も無かったかのように、車は走り続ける。


世界が揺らいでから、周辺が明るくなった。

街灯の数が増えたのだ。


街灯が増え、道も増えている。


車は、ハイウェイに向けて進路を取る。

高速道路のインターチェンジに似た道を駆けのぼり、一気に港の町を一望できる高にまでなった。


港の夜景と、静かな川と、人々の住まう山岳地帯が、ハイウェイを走る者の目を楽しませる。


サーキットを走り、一行は都市部(センター)に向かうのだ。

ここは、制限速度が設けられていない。


大衆の目に付かないので、チンピラたちの承認欲求も満たされないため、治安も比較的に良い。


この車ならば、30分もあれば都市部まで戻れるだろう。


下道(したみち)では決してお目に掛かれない、スポーツカーの本気に、シバは上機嫌。

セツナの上に乗ったり、アゲハの上に乗ったり、2人の真ん中でグルグル回ったりしてフルスロットル。


シバのエンジンだって負けていない。


高鳴るツインエンジンをBGMに、セツナはそれとなく呟く。


「スナイパーに、透明な連中――。アイツ等って何者?」


肘をついて、外の景色を眺めるセツナに、アゲハが答える。


「あれは、ↃↃↃ(プロンプト:Ↄ)よ。」

「「「プロンプト:(シー)?」」」


聞き覚えのない名詞に、疑問符が浮かぶ。


「別名、シグマ部隊とも呼ばれているわ。

 本部お抱えの、影の部隊。」


「特殊部隊ってヤツか?」

「そんなところ。そんなのを出してくるんだから、向こうも本気みたいね。」


ↃↃↃ。シグマ部隊、アンチシグマとも呼ばれる、本部が擁する特殊部隊。

セントラルの影で任務にあたる部隊。


影にして個、個にして軍。


速い話しが、エリート部隊だ。


「なんでアゲハが、そんなこと知ってるの?」


エージェントでも知らない情報をアゲハが知っていることに対して、セツナは当然の疑問を抱く。


「言ったでしょ? 本部とは、仲が良かったの。」

「それだけだとは、思わないけど。」


アゲハのことだ。爆弾を盗む感覚で、情報も盗んでいそうだ。


「隠す方が悪いのよ。」

「隠さない方が悪いでしょ。」


悪びれる様子のないアゲハに、セツナのツッコミが入る。


爆弾といい、シグマ部隊といい、この蝶は次から次へと厄ネタに事欠かない。

美しい外見のその下は、疫病神か? はたまた貧乏神か?


アゲハは、シバを撫でつつ話しを進める。


「さて、エージェントさんたち。

 私と取引をしましょうか?」


セツナとダイナの前に、ホロディスプレイが表示される。


「私が提供する商品は2つ。

 私が所有する全ての新型爆弾と、ハーマンの居場所。」


提示された条件に、ダイナが質問をする。


「ボクたちがすることは何?」

「私を本部から守ること。それだけ。」


「ボクらをハーマンにけしかけて、何を企んでるのさ?」

「簡単よ。借りを返すだけ。爆弾を盗ませた借りをね?」


「???」

「私に依頼して、ハーマンのところから爆弾を盗ませたのは、彼自身だったのよ。」


「なんでそんなことを‥‥?」

「さあね? 本人に直接聞いてみれば?」


今回の事件は、アゲハがハーマンの所から、最新式の爆弾を盗み出したことに端を発している。

が、その盗みはなんと、ハーマンからの依頼であったのだという。


ならば、いま3人が追っている事件は、すべてハーマンの壮大なマッチポンプであったことになる。


いったいどうして? 何のために?


それは、本人に直接聞いてみるしか無さそうだ。


「さあ、取引の返事を聞きましょうか?」


ダイナたちに、断る選択肢はない。

取引や交渉とは、テーブルに座る前に勝負が決まる。


相手に、ノーと言わせない準備と用意をする。

それが、取引の常套手段だ。


ダイナは、しばし沈黙したのち――。


「わかった。」


アゲハの取引を受け入れた。


シバが、アゲハの手から離れて、セツナの方へと寄って来る。

何か言いたげな視線で、彼をじっと見る。


なんとなく、シバが思っていることが分かる。


「アゲハが取引をちゃんと守るっていう保証は?」

「あら、首輪を付けたいの? でも残念。いま、持ち合わせが無いの。

 だから――、そうね――。

 もし裏切ったら、また私を探して、見つけ出して、その時は煮るなり焼くなり、好きにすればいいわ。」


セツナは、背もたれに深く身体を預ける。

取り合えず、今はそれで納得することにする。


車内のカーナビに、目的地の更新がなされる。

JJが目的地を確認するために、画面へと目をやる。


「これは‥‥、セントラル第5ビルか?」

「そうよ。車で行くなら、丁度良いでしょ?」

「違いない。」


東の地平線が明るくなってきた。

セントラルの夜が終わり、朝が来る。


明るみ、地平線から顔を出す太陽に向かい、車は走っていく。


まもなく、車両は港の町を東進し、都市部に入る。

赤いスポーツカーは朝日に燃えて、最高速度を維持したまま、サーキットを突き抜けていく。



都市部のサーキットを駆け、ポータルを通ってサーキットを下りる。

鏡合わせの世界から、元の世界へと戻って来た。


車は、セントラル第5ビル近くのハイウェイを走行している。


セントラル第5ビルは、都市部にそびえる、13塔からなる摩天楼の一角。


セントラル第7ビルが、後ろ暗い連中の巣窟であるならば、第5ビルは技術者やエンジニアたちの楽園だ。


ビル内には、未来の技師を育成するための大学があるだけでなく、CEや車などの性能をテストするための試験場がある。


この試験場は、厳密にはビルの中からポータルで移動する、セントラル南側に浮かぶ無人島なのだが、ともかく技術屋たちが望む物の大半がここで手に入る。


第5ビルでは、志を同じくする同志たちが互いの技術を切磋琢磨し合い、時には畑違いの者が協力することによって、日々新たな技術を世に輩出させている。


同胞による技術の濃縮と、他分野との弱い紐帯(ちょうたい)による化学反応。


JJが先ほどまで運転して通って来たサーキットだって、この第5ビルの前身から誕生した。


だから、第5ビルには、サーキットから行けるようになっている。

だから、ポータルを抜けた先のハイウェイは、柱を持たず宙に浮いている。


だから、このハイウェイは、第5ビルの内部を突っ切るように敷かれている。


ハイウェイの先に、高くそびえる第5ビルが小さく見え始めた。

このペースなら、あと5分もあれば目的地だ。


東から登った太陽は高く昇り、朝日の赤るみ(あかるみ)は光量を増して、白い日差しとなる。


シグマ部隊の夜襲から一夜明けた。

セントラルの時間軸では、そうなっている。


目的地を目前にして、オペレーターから通信が入る。

同時に、ハイウェイの前方上空に、魔法陣が展開される。


「――おお! や~っと繋がった! みんな、聞こえてる?」


通信から、カエデの声が聞こえる。


「もう見えてると思うけど、所属不明CEのフォールを検出。

 CEは使えるようになってるから、思う存分やっちゃって!」


このタイミングでの所属不明CE。

不明とは言うが、十中八九、本部の差し金だ。


空中に展開された魔法陣は、10個ほど。

どんな機体が出て来るかは分からないが、セツナたち3人であれば、たかだか10機では足止めにすらならない。


「ワン! ワン!」


と、ここでシバが自己主張をし始める。

そして、パワーウインドウのボタンを自分で押して、窓を開ける。


「シバ!?」


困惑するセツナの脚に乗っかって、彼女はそのまま外へと飛び出した。


飛び出して、背中に翼を生やして、車と並走。

空中では、追加でもう1個、魔法陣が展開される。


(((‥‥‥‥。)))


もしかして――。


3人の無言の予想は、目に見える形で的中する。


『センチュリオン、オーバードライブ。』


シバの前方に、CEがフォールした。

一般的な人型のCEとは異なり、四足の獣型CE。


黒いボディがイカした、パンツァーパンサーが呼び出された。


バランス能力と、地上での運動能力に優れる体躯。


鋭い刀のような、長い牙と爪。

背骨の上を走るように搭載された、巨大な一門の砲。


その姿は、まさしく地上を駆ける戦車。

運動能力を活かしたインファイトも、巨大な砲によるアウトレンジもこなせる、優良機体。


シバが、黒豹戦車に乗り込む。


空からは、不明機体が次々とフォールしてくる。

フォールした機体は、いわゆるスクラップCEと呼ばれる機体。


東の悪党が用いる、ジャンク品をツギハギした機体だ。


CEとしては落第品だが、それでも歩兵にとっては脅威となるCE。

それらの相手を、シバは自ら買って出たのだ。


優秀な後輩のために、ここは先輩として、露払いの名誉に預かる。


JJは、アクセルを踏みフルスロットル。

貸し切り状態のハイウェイを、最高速で駆け抜ける。


「助かる。ここは任せた!」


車両を止めようと、スクラップCEが動く。

それを黒豹が咎める(とがめる)


背中の砲が火を吹いて、スクラップCEを一撃で仕留めた。


黒豹は走り出し、走りながら調子に乗ってもう一発砲撃。

四本歩行の安定性により、巨大な砲を反動制御姿勢なしに撃つことができている。


惜しくも、砲撃はスクラップCEに躱される。


躱されて、第5ビルに大穴を開けた。


「先輩!?」


驚いたセツナの声など露知らず、黒豹は車を追い抜いて、CEの一機に飛び掛かった。

飛び掛かり、押し倒し、鋭く長い牙を首に突き立て破壊する。


景気づけに、もう一発砲撃。


今度はちゃんと当たって、CEを沈める。


そうこうしているうちに、車がスクラップCE地帯から抜けた。

そのまま、第5ビルに向けて突っ走る。


「全員、シートベルト。」


JJが、同乗者にシートベルトを促す。

後部座席に座るアゲハは、素直に指示に従う。


セツナは何かを察して、シートベルトをする代わりに、グレネードランチャーを構える。

ダイナも、窓を開けて、杖を構える。


「行くぞ! スリーカウントで頼む。」

「「オーケー。」」


グレネードランチャーを構えて、窓から身を乗り出す。

杖の先に、火球を生成する。


「スリー‥‥、ツー‥‥、ワン‥‥。」


引き金が引かれ、魔力が圧縮されて擲弾に込められる。

火球を、竜巻が圧縮していく。


車は、第5ビルの内部へと進入。

吹き抜けとなった、商業区へと入り込む。


ビル内部に敷かれた道を走り、透明な障壁が、道とビルを隔てている。


「ゴー!!」


グレネードランチャーから、3発の擲弾が撃ち出される。

杖の先から、炎の槍が撃ち出させる。


ハイウェイと第5ビル、それを隔てる障壁を、爆風が包み槍が穿った。


障壁は破壊され、ガラスのように砕けて消える。

道とビルを隔てる物が無くなり、車両は勢いをそのままにビルの商業区に突っ込む。


突っ込んで、ビルの利用者にそれなりの迷惑を掛けつつ、車でエスカレーターを登り、道なき道を走って、途中で見つけたエレベーターに乗り込んだ。


技術者ビルであるがゆえ、機材などの搬入出を考慮した広々としたエレベーターに車両は乗り込み、エレベーターでさらに上階へと移動をしていく。


そして、エレベーターと車は、ビルの企業区へ。


そこの、とある階層。

ハーマンが居るという階層へ。


鈴の音が響いて、エレベーターの扉が開いた。

車は、無人の企業区へと歩を進める。


無人なのは、階下で騒ぎが発生したため。

CEの戦闘と、暴走車両によって、善良でまともな市民は避難をした。


企業区は、いくつか別々の企業がシェアをしている階層であった。


カーナビの案内(?)にしたがって、公共スペースを車で進み、ハーマンの会社の前で停まる。


野球やサッカーのスタジアムがすっぽりと入るくらいの広さがある階層に、ぽつんとハーマンの会社はあった。


入り口の前に車を置いて、無遠慮にドアを開けて中に入る。


そこにあったのは、おもちゃ屋さん。

ちびっ子たちが夢中になる、様々なアイテムが陳列された玩具屋があった。


ガラスケースのカウンター越しに、1人の大男が立っている。

間違いない、彼はハーマン=オウクスホーデン。


新型爆弾の開発者にして、この事件の元凶。


元凶たる彼は、両手を広げて、来客を歓迎。

朗らかな笑顔で接客をする。






「ようこそ! ラブリーブラザーズ・カンパニーへ♡

 歓迎するわ。うふふ――――。」


ガタイの良い――、オールバック頭の――、整えられた口髭のナイスガイが、4人を出迎えた。

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