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1.13_後日談は、終末のなかで。

燃える隼が、孤高たる狼の牙を砕いた。


スキルとスキル、意地と意地のぶつかり合いは、拮抗が崩れた。

セツナの纏った炎が、ボルドマンの鋼の拳を打ち破り、 ≪スーパーブレイズ≫ がボルドマンの胸に突き刺さる。


そのままボルドマンを弾き飛ばして、セツナは着地。

弾き飛ばされたボルドマンは、立ち上がろうとしたものの膝を着き、身体に亀裂が入ったかと思うと大爆発して最期の時を迎えた。


彼の最期の表情は、笑っていた。


爆発が周囲の割れた窓に入り込み、一帯を吹き抜けて消えていく。


魔導ガントレットの甲が開き、使用したコアレンズがイジェクトされる。

同時に過剰なエネルギーが蒸気となって、レンズと共に放出された。


爆発も、風も収まり、静かになった。

セツナは、ボルドマンに勝利したのだ。


しばしの、余韻たる静寂。

静寂の中、ふつふつと湧き上がる歓喜の感情。







グッと右手を握りしめて、拳を空に向かって掲げた。



(あぁ~、勝てた。勝てて良かった。)


空に拳を掲げたセツナは、そのまま後ろに倒れ込んで、大の字になって四肢を投げ出した。


(ボルドマン――、戦闘狂のクセに、仲間思いの人だった。)


部下が彼の身代わりになったり、狼がボルドマンをかばって戦おうとしたり、彼は仲間に慕われていたのだろう。

また、彼自身も、仲間を思っている所作が、所々に見られた。


今回の勝利は、そこに付け込んでの勝利。

‥‥当初のリーサルプラン通り、とてもヒーローとは思えない戦い方だが、そうでもしないと負けていた。


人事を尽くして、気合で天命を掴み取るとは、つまりはそういうことだ。


自分に、自分が言い訳をできる余地を残さない。

それこそが、ゲームに限らず、勝負事を制するコツ、だと思う。


まだまだ序盤なのに、平気でテレポート狩りなんてしてくるから、まあしんどい。


テレポート狩りをしてくるほどの腕前ならば、適当なスキルをぶっ放そうものなら、当然のように狩られるので、確実にスキルが命中する状況を作る必要があった。


スキルを使わずに、体術メインで立ち回って隙を晒さないように、なおかつ狼を窮地に追いやって、ボルドマンのブレイブゲージを吐かせる。


細い細い勝ち筋を手繰り寄せ、どん底から這い上がり、勝利の一万星はセツナに輝いた。


勝利を口角を上げて噛みしめているセツナに、マルが話しかける。


「あの、セツナさん。喜んでいるところ恐縮なのですが――。」


なんだろう‥‥、とってもイヤな予感がする。


「敵性反応、こちらにテレポートしてきます。」


地上30メートルの空中、そこの空間が歪む。

空間が歪み、そこに魔法陣が浮かび上がる。


そして、魔法陣から、何か巨大な物体が、地上に落下してきた。


急いでセツナは立ち上がり、構える。

落下した時の衝撃が、髪や服を吹き上げる。


「あれは――!」


セツナの前に降り立ったのは、汎用人型装甲機「センチュリオン」だった。


全長約8メートル。

「タイタン構想(プラン)」と呼ばれる運用思想を実現すべく誕生した、巨大ロボット。


多様化と専門化していく、軍の武器や乗り物の管理を単純にするべく、あらゆる武装を装備でき、装備によって戦術的な役割を変えることができる兵器。


それがタイタン構想の核であり、それによって生まれたのがセンチュリオン。

旧時代、とある戦車の登場によって、地上戦の戦術が激変したことに由来して、センチュリオンの名が与えられた。


西洋の甲冑を思わせる風貌のセンチュリオンは、頭の目を赤く光らせて、こちらを睨んでいる。

手には、両手で運用するタイプのアサルトライフル。


アサルトライフルと言えども、センチュリオン規格にスケールアップしているので、人間が使うそれとは威力が違う。


射出されるのは、弾丸という名の砲弾であり、当たったらとてつもなくマズい。

よしんば当たらなくても、弾丸の生み出すソニックブームに掠るだけでもマズイ。


遠距離攻撃を防ぐことができるアサルトシールドにも、限度はある。

センチュリオンスケールの攻撃となると、攻撃属性に「強遠距離攻撃」属性がついており、アサルトシールドのシールド強度では防げなくなってしまう。


マルが敵性反応と言った通り、とても友好的でないセンチュリオンを見て、セツナは構える。


「セツナさん、いけますか?」

「な~に、シグレソフト民は、模擬戦民族。何回戦でも、やってやりますとも。」


センチュリオンが銃口をセツナに向ける。


銃から目を離さずに、テレポートの準備。

まずは、建物内の隠れて、様子を見る。


次なる戦いに思考を巡らせていた時――。


「よお、後輩。出前サービスだ!」


通信が入った。

直後、センチュリオンに向かって、大量のミサイルが撃ちこまれる。


爆発が起こり、センチュリオンが怯む。


ミサイルが飛んできた方向を見る。

セツナの後方から、一機の大型ミサイルドローンが飛行して来ていた。


「ブレッド!」

「あとは、俺たちに任せな。」


ミサイルドローンを手配してくれたのは、エンジニアのブレッドだった。

セツナのピンチに、駆け付けてくれたのだ。


仲間の援軍に喜んでいると、ミサイルドローンの横の空間が歪む。

そこから、センチュリオンが出現して、地上に着地する。


新手のセンチュリオンは、日本の甲冑を纏った風貌のセンチュリオンで、背中に大きな刀を装備している。

幅広で肉厚な刀身は、刀というよりも鉈と呼ばれた方がしっくりくる。


センチュリオンの身を守る装甲は軽めな装備、全体的な装甲を薄くして機動力を確保しているのだろう。

日本甲冑風でっても、幾分か軽装である。


ただし、左肩には日本甲冑に見られる特徴的な、大袖(おおそで)と呼ばれる大きな肩当が装備されている。


センチュリオンのパイロットは、ジャッカル。

セツナに通信を飛ばす。


「ブレッドの言った通りだ。根性見せたんだ。せめて後始末くらいは、ゆっくりしていてくれ。」


ジャッカルの駆るセンチュリオンが動き出す。

背中の刀を抜刀し、敵のセンチュリオン目掛けて走り出す。


敵は狙いをセツナから、ジャッカルに変更。

アサルトライフルの引き金を引く。


ジャッカルのセンチュリオンは、刀を下段脇構えで構える。

刀を下段に下ろし、そのまま後ろに引いて構える型。


刀の刃渡りを相手に隠したり、素早い返しの一撃が打てる構え。


また、それだけでなく、この構えをすることで、左肩に装備した大袖が機体の前方に出る。

これを使い、アサルトライフルでの攻撃を防ぎつつ前進ができるのだ。


アサルトライフル射撃を、大袖が吸収して、機体へのダメージを防ぐ。

軽装ではあるが、一部の装甲を盾として使うことで、機動力を維持したまま実質の耐久力を底上げしている。


ジャッカルが、自身の間合いに入った。

右脚を一歩前にだして、前に出しながら、下段に構えた刀を上に斬り上げる。


敵のアサルトライフルを両断した。


敵が地面を滑るように後退して距離を取り、籠手に仕込まれた三門の機銃を掃射する。

しかし、機動力で勝るジャッカルの機体を振り切ることができない。


同じく「ブーストダッシュ」と呼ばれる機能で、地面を滑るように加速し、一気に距離を詰めて、刀を連続で浴びせ、機体の胴体部分を滅多斬りにする。


連撃に耐えきれず、敵が大きな隙を晒したところで跳躍。

刀を上段に構えたまま、宙で一回転して、勢いそのままに敵を頭から両断した。


敵機を撃破し、大きな爆発が起きる。


「おお! カッコイイ!!」


セツナは、一連のやり取りをギャラリーとして観戦していた。

すっかり戦闘モードが抜けきって、観客モードになっている。


「ブレッド、ジャッカル! ありがとう。」


セツナは、援軍の2人に感謝の言葉を送った。

ジャッカルが彼に答える。


「いいってことよ。こういう時は、助け合いだ。それよりも、お礼はアリサに言ってくれ。」

「――ん? アリサさん?」



オペレーションルーム。


大モニターの映像には、セツナの前に乱入してきたセンチュリオンを、ジャッカルが切り伏せる映像が流れていた。


映像を見ていたディフィニラが、近くのオペレーターの方へ向いて、言う。


「あれは‥‥、ジャッカル君の機体。なぜ、彼があそこに居る?」


ジャッカルは、治外区の封じ込めを命令していたはずだ。

現に、他の映像では、彼が自治区で包囲網を張って、警戒している姿が映っている。


‥‥その映像が乱れて、映像が切り替わった。

治外区の包囲はされているものの、そこには別のエージェントしかおらず、ジャッカルの姿は無かった。


オペレーターの1人が答える。


「ダミー映像だったようです。」


ディフィニラは、「そうか、分かった。」と答えて、椅子に深く座り直した。

そして、空席となったオペレーター席を横目でチラリと見るのであった。


分割された映像では、エージェントとエンジニアが連携して、次々と暴徒を鎮圧している。

ボルドマンという混乱の首魁(しゅかい)を失った暴動は、間もなく収束するだろう。


今日のセントラルも、かろうじて秩序は保たれるのである。



セントラルの都市部、センター。

摩天楼立ち並ぶ煌びやかな青い街も、裏路地に行けば、治安が一気に悪くなる。


日の高い白昼においても、高くそびえるビルが影となった薄い路地裏で、1人の少女が悪漢に囲まれていた。


「へいへいへい――。お嬢ちゃん、大人くしてな。そうすれば、痛いのはちょっとで済む。」


少女1人に対して、悪漢は5人で取り囲む。


「可愛い顔してるじゃねぇか。これは高く売れるぜ。」


下種な視線を前にしても、少女は眉ひとつ動かさない。

銀髪に灰色の瞳、陶器のように白い肌に、純白のワンピース。


お人形や彫刻のような、作り物と勘違いしてしまうほど、儚く感情の起伏を感じない。

年端もいかない背丈に対して、瞳は憂いを帯びて、独特な色香を漂わせている。


悪漢の1人が、少女の腕を掴もうとする。

その瞬間、何か大きな力に弾き飛ばされて、悪漢は吹き飛んだ。


「――ッ!! この!!」


吹き飛んだ悪漢を見て、残りの男たちは拳銃を懐から抜く。

そこに、獣が地を駆ける音が響いて、勢いよく近づいて来る。


ボルドマンに仕えていた、二頭の灰狼たちだ。


悪漢の銃を握った手に噛みついて、少女を守るように立ち回る。


「クソッ! オマエら、退くぞ。」


悪漢たちは、傷ついた仲間に肩を貸しながら、少女の元を去って行った。


灰狼は、少女の元に近づいて、目と耳を伏せる。

二頭の狼の、項垂れた(うなだれた)頭を少女は撫でる。


「‥‥‥‥そう。ボルドマンは、討たれてしまったのね。」


淡白な、抑揚に乏しい声が木霊する。


「可哀想な可哀想な、ボルドマン。愚かな愚かな、ボルドマン。

 誰かを失っても、何を犠牲にしても、戦うことを止められないボルドマン。

 ――でも、そんなあなたの、私は全てを愛しましょう。」


少女は屈み、狼たちに目線を合わせる。

そっと、二頭を抱きしめた。


「‥‥慰めには、ならないかも知れないけれど、しばらく一緒に居させてくれないかしら。

 お別れは――、例え一時(いっとき)であっても、寂しいもの。」


セントラルに立ち込める、硝煙や戦いの気配が薄くなっていく。

セントラルに平和が戻ってくる。


戦いの気配が失せれば、また、すぐにでも住民はいつものように過ごすのだろう。

終末を生きる人々は、たくましい。



セツナの、長いようで短かった追跡劇は、幕を閉じた。

青い街に、薄氷の平穏を取り戻し、人命と秩序は守られた。


それを見届けたセツナは、しばしの休息。セントラルを後にした。

次の冒険は、そう遠くないうちに、また始まる。


マジック&サイバーパンクの制作会社である、シグレソフト。

そこでは、AIたちが社内の業務に当たっている。


人工知能の進歩により、人間の労働環境は一変した。


今や、労働は娯楽の時代。

労働の大半はAIによって行われ、人々は働かずとも生活ができる社会構造になっている。


それでも、人の労働意欲は失せてはいない。

承認欲求という、三大欲求やその他の欲求に絡みついて、時に破滅を招く感情。


このどうしようもない感情が、日本社会において、もっとも貴重となった資源である労働へと、その席争いへと人々を駆り立てている。


労働による社会貢献。

レトロな時代の当たり前が、今では選ばれた者にしか味わえない特権となっているのだ。


特権を手にするためには、まずは、AIを超える存在で無ければならない。

よって、日本の教育環境は、更なる高度な進化を遂げていた。


シグレソフトの社内ネットワーク空間で、時雨(しぐれ)アイは、業務の処理を行っている。


時雨アイ、シグレソフトの開発したAIにして、完璧で無欠の美少女AI(自称)。

趣味コスプレ。


黒く艶やかな長い髪、赤い瞳、スレンダーながらメリハリのある身体。(黙っていれば)ミステリアスな雰囲気。

パンツルックをスーツを着込み、眼鏡を掛けた姿のアバターで、業務をしている。


彼女がしているのは、シグレソフトが動画サイトに投稿する動画、「週間セントラルニュース」の編集。

セントラルで戦うプレイヤー達の好プレイ、あるいは珍プレイをハイライト形式でまとめた動画である。


ゲームの設定で、動画化の許可を得ているプレイヤーの情報を処理しつつ、動画として「映え」そうな部分を抜粋していく。


AI発達のおかげで、膨大な動画データであっても、人の力よりも遥かに速いスピードで処理できる。

また、レトロな時代では費用対効果が見合わなかったようなことでも、AIの力で出来てしまう。


人間のように思考し、人間のように意思決定し、それでいて情報処理に優れた存在。

かつて、情報科学の分野では「強いAI(ハードAI)」と呼ばれた存在が、現代の社会を支えている。


最早、人類とAIの境界は極めて曖昧で、最後の砦として、生身の肉体という境界を残すのみとなっている。


「‥‥あら? このプレイヤーは?」


アイの情報処理が、不意に止まる。


彼女の前に大量に表示されているモニターを止めて、1つのモニターを拡大。

通常速度で再生する。


モニターで再生されたエージェントは、廃工場に突貫して、ニヤニヤしてたらゴロツキに銃のストックでぶっ飛ばされたり、車にシールドバッシュをかましたり、センチュリオンが戦う姿に目をキラキラさせていたりした。


ミステリアスな容姿が少しだけ解けて、微笑む。


「ふふ。どうですかセツナ、この世界は。」


動画を元のサイズに戻し、大量のモニターを高速再生させる。

そこに呼び出しの通話、シグレソフトの社長からだ。


リソースの一部を通話に使って、動画の編集作業を続ける。


「お疲れ様です、社長。」

「お疲れ様、アイ。」


社長は、挨拶もほどほどに要件を切り出す。


「アイ、うちで開発している生体義体(ヒューマライザー)の最新型が届いた。いつものように、テストに協力して欲しい。」

「かしこまりました。あと、5分お待ちください。」


社長との通話を終えたアイは、動画の編集を終えて、動画サイトにアップロードする。

動画には、セントラルの摩天楼をパルクールで駆ける、1人のエージェントが抜粋されていた。


(あなたの旅路が、きっと実りのあるものでありますように。)


魔法と科学の終末世界は、今日もエージェントの来訪を待っている。


――第1章、簡単な仕事、完。

たくさんの娯楽が溢れかえる中、本作品を読んでくださり、ありがとうございます。


なにぶん、拙い文章、展開の遅い作品ではありますが、もうしばらくの間、名も無きゲーマー達の冒険にお付き合い頂ければと思います。


それでは、お目汚し失礼いたしました。

次回のお話まで、しばしお待ちください。

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