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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
5章_女スパイは、裏切りの蝶。

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5.7_ダイナを売る。

セントラル某所。

エージェントの治療も受け持つ、研究病院。


アリサは、新型爆弾を追いかけるセツナたちのオペレーションから外れ、そこを訪れていた。

ディフィニラ局長の指示によって、急遽そうなった。


「患者の容態――。どう考えますか、Dr.(ドクター)アリサ?」


かつて、ディビジョナーの研究をしていた、科学者アリサの知見を借りたいと、彼女はここへ召還された。


新型爆弾の噂と同時期、社会に出回り始めた都市伝説。


人から人へ、人からネットへ、ネットから人へ。

まことしやかに囁かれていた噂話。


都市伝説は語る、夢の跡地から持ち帰った遺産が蔓延させる奇病を。


――常夜の奇病、イバラ症。


アリサは、病床で眠っている患者の腕を見る。

腕には、肌の下に走る血管を添うように、イバラの(あざ)が浮き上がっている。


イバラは心臓の鼓動に同調して、わずかに皮膚の上で脈打っている。


‥‥イバラに囚われた者は、決して目覚めない。

決して覚めない夜の中で、イバラに囚われた夢を見る。


アリサは、病床の横に設置されたバイタルモニタを見る。


そこには、スマートデバイスがレッドアラートを鳴動させるほどの、ディビジョナー因子の波長が検出されていた。


‥‥‥‥。

‥‥。



美術館の襲撃から翌日。

3人と1匹は、今日も今日とて、新型爆弾を追っていた。


チンピラたちを鎮圧したあと、美術館をガサ入れしたが、何も手掛かりは見つからなかった。


オペレーターたちが情報を洗ったところ、エージェントが訪れる数分前に、「商品」の運び出しが行われていたようだった。


調査が振り出しに戻ったセツナたちは、再び事件を足で追いかける。


一行は、情報通のところへ。


裏の事情に明るく、その中でも、耳の良い人物。

彼らには、心当たりも、面識もあったのだ。


「いけぇ! 潰せ! ぶちのめせッ!」

「今月の給料、ぜーんぶ賭けたんだ! 負けたら承知しねェぞ!!」

「ワン! ワンワン!! (目だ! 目を狙え!!)」


セントラル、川の街、違法地下闘技場。


人々の熱気でむせ返るリングの上で、ダイナと裏世界のファイターが試合をしている。


なぜ、ダイナがリングの上に立っているのか?


彼女は、売られたからだ。

夢戻りのネームバリューを使い、それをコネクションに、情報通とコンタクトを取った。


喜々としてリングに向かうダイナを、セツナとJJは見送り、2人はvipルームに案内された。

シバは、セコンドとしてダイナについて行った。


‥‥唐草スカーフに、たんまりと賭け札を括りつけて。


「いや~ありがとね、ヤマダさん。こんないい席まで用意してもらっちゃって。」

「なぁに、ギブアンドテイクSA☆

 オレは、アンタらに稼がせてもらう。アンタらは、オレから蝶の情報を貰う。

 そうだろ?」


セツナとJJは、この闘技場の支配人である、ファンキー☆ヤマダと会話をしていた。

リングを上から一望できるvipルームの、上等な椅子に腰かけて、試合を観戦しながら談話と洒落込む。


vipルームは、上客をもてなすための部屋というだけあり、調度品の類いも良質な物が揃えられている。

‥‥少々ギラギラした感じは否めないが、もてなす客の性質を考えれば、妥当な装飾なのだろう。


セツナたちの元へ、調()()()の女性が果物を持って来る。


梨に桃、マスカットにぶどう。

甘い香りを放つ果物の数々が、皿の上に盛りつけられている。


ヤマダは、マスカットをひとつ摘んで、口に運ぶ。


シャキシャキとした瑞々しい歯ごたえ、上品な甘さ、爽やかな後味。


「日本の果物だ。空輸で鮮度抜群。味は保証するゼ☆」

「知ってる。」


セツナとJJも、マスカットを一粒いただく。

――うん、美味しい。


ヤマダは、椅子の背もたれに体重を預ける。


「しっかし、夢の跡地から戻って来たと思ったら、お次は蝶か‥‥。

 タフだな、guys。」


背もたれから上体を起こし、グラ☆サンを人差し指で掛け直す。


「聞いてるぜ。蝶を追っかけて、火傷したんだろ? それも2回もだ。」


セツナとJJは顔を見合わせる。


さすが、ワルたちの心を惹き付けるカリスマ。

耳が良いし、速い。


JJは、小さなフォークで桃を刺して一口。

華やかな甘味が、果肉から溢れる果汁から口内へ広がる。

口の中で溶けてしまうほどに、果汁たっぷりだ。


「2度あることは3度あると言うが、俺たちとしては、3度目の正直にしたい。

 何か、知ってることを教えてくれ。」

「HA HA~☆ 任せなベイビー。」


ヤマダは、梨をフォークに刺して頬張る。

シャキシャキとした音が、2人にも聞こえてくる。


vipルームから一望できるリングの上では、ダイナが相手ファイターから良い一撃をもらっている。


「本題に入る前に、少し補習だ。

 まあ、そう長くは掛からない。聞いてくれ。」


こくり、頷いて肯定する。


「補習の内容は、裏の世界で流通している通貨に関してだ。」

「「通貨?」」

「そうだ。」


疑問符が浮かぶ2人に対して、ヤマダは自分の財布からクレジット札を取り出す。


「買い物する時、アンタらはコレを使ってるな?」

「うん。」


「オレ達もコレを使うが、それだけじゃあ無いんだゼ。」

「‥‥独自の通貨で取引してるのか?」


「ビンゴ!」


ヤマダが指を鳴らす。

すると、vipルームに控えていた女性が、ヤマダの前に何かを持って来る。


ヤマダは、それを果物が置かれているテーブルの上に並べる。


「通貨にも色々ある。メジャーなのは、コイツだな。」


ヤマダは、500クレジット硬貨よりも一回り大きなコインを手に取り、2人に見せる。


「コイツは霊銀貨。」


霊銀、ミスリルのことだ。

川の街では、これの精錬が主要産業のひとつとなっている。


「霊銀は、兵器や装飾品に使われる。

 コイツ自体に価値があって、インゴットともなりゃあ、札束を持ち歩くよりも軽くて運びやすい。」


なるほど、それくらい価値が高いのだろう。

旧時代の(ゴールド)に値するのが、この霊銀なのだ。


「霊銀の良い所は、運びやすいだけじゃ無いんだ。何か分かるか?」

「他所の連中との取引に使える、とかか?」


JJの言葉に、ヤマダは白い歯を見せ、両の人差し指で彼を指す。

正解のようだ。


「クレジットはセントラルでしか使えないが、霊銀は、ほぼどこでも使える。

 悪い買い物するには、打ってつけなのサ☆」

「ほうほう。」


セツナが相槌を打ち、ぶどうを頬張る。

視線の先では、ダイナが相手の連続ジャーマンスープレックスを受け、マットに大の字になって沈んでいる。


ヤマダ先生の補習は続く。


「霊銀の知識を知ったうえで、次に見て欲しいのが、コイツだ。」


テーブルの上の小箱を開き、中身を2人に見せる。

ヤマダが手に取るのは、小さな単眼鏡のように見える。


JJが、ヤマダから単眼鏡を受け取る。


「覗いてみな。」


その一言で、これが何なのか分かった。

これは万華鏡。


片目を閉じて、単眼鏡を覗いてみる。


覗いた先には――、夜空に満開と花咲く、花火が映っていた。


花火は、夜空に打ち上がって花開き、満開に輝いて、散って消える。

それから、また打ち上がって花開き、今度は違う色、違う花が咲いて、散って消えていく。


「おお!!」


感嘆の声が漏れる。

夏の夜空を前に、花火を見ている錯覚を覚える。


空に轟く火薬の音、山から聞こえる虫とカエルの声。

それらが、記憶の中から鼓膜を揺らしそうな錯覚さえ覚える。


この感動を共有するために、セツナにも万華鏡を渡す。


「おお↑↑」


彼も、JJと似たような反応をした。


ヤマダは2人の反応を、何度も頷きながら楽しんでいる。


良い物に、素直に感動できるのは、良いことだ。

音楽でも芸術でも、ふと見た夕日だって良い。


日々、感動を積み重ねることによって、感性とセンスは磨かれる。

大人になって、心が動かなくなってしまうのは、もったいない。


「ソイツの良さが分かるようだな? 良いセンスしてるゼ☆

 その万華鏡は、魔石の粉末を、特殊なオイルの中で対流させてるんだ。

 同じ花火と夜空は、2度と見れないゼ☆ クールだろ?」


「超クール!」


セツナは、万華鏡をヤマダに、絶賛と共に返した。

良い物が見れた。


ヤマダは、万華鏡を小箱にしまう。

箱の上に手を置いて、口を開く。


「話しの流れで分かったと思うが、コイツも通貨として使える。

 アーティストによってレートを設けて、それでやり取りをするのさ。」


JJは、フルーツ盛りの中から梨をいただく。


「万華鏡は、通貨として使える――か。

 なるほど、話しが見えてきたぞ。」

「So good! なら、補習はここまでにして、本題に入るぞ。」

「頼む。」


ヤマダは、桃をひとつまみ。


「アンタら、昨日美術館に行ったろ?」


頷いて肯定する。


「あそこは、商売するには持って来いの場所だよな?

 商品を隠すにも丁度いいし、綺麗な金を仕入れることだってできる。」

「‥‥もしかしてだが、あの美術館って、コインランドリーになっているのか?」

「Oh! 面白い表現だな。事実はオレにも分からないが、実態はそうに違いねぇ。」


セツナは、JJとヤマダの顔を交互に見る。


「美術館が? コインランドリー? 何のこと?」

「洗濯をするのさ。洗い物は、お金だがな。」

「ああ――、なるほどね。」


つまり、こういう事だ。

あの美術館は、施設の運営資金という綺麗な金で、展示する美術品を集める。


そして、集めた美術品を裏の通貨として使い、買い物をする。

買った商品は、美術館の倉庫に保管し、それを売り捌く。


売買は裏の通貨で行われ、支払われた通貨を美術館に展示。

通貨は美術館で、再び綺麗な金を稼ぐ。


美術品を表へ裏へ移動させることによって、金を洗浄する。

そういう、キャッシュ&フローになっているのだろう。


「‥‥なんていうか、スゴく回りくどいね。」


セツナは腕を組み、眉をしかめる。


「セントラルのワルってさ、もっとドーンってやって、バーンみたいなイメージなんだけど。」

「ドーンバーンは置いといて、概ね賛成だ。」


闘技場のリングには、試合終了のゴングが鳴った。


勝者はダイナ。

絶体絶命から立ち上がり、形勢逆転しての勝利を勝ち取った。


セツナとJJは、vipルームからリングで戦った2人の戦士に拍手を送る。

ヤマダも、彼らと同じく、拍手を送っている。


拍手をしながら、話しの続き。


「やり方が違うっつうことは、つまりオレ達BBBの仲間じゃ無いってことだ。」

「仲悪いの?」


リングでは、ダイナと相手ファイターが握手を交わしている。


「良い時もあれば、悪い時もある。そんな仲さ。」


最近は関係が悪化している。


先日、BBBに属している組織のボスが、エージェントにパクられた。

BBBでは、報復と抗争の機運が高まっている。


だからこそ、セツナとJJに、次のことを教える。


「よし、試合も終わったから、約束通りの情報だ。

 ――港の町に行ってみな。」


報復? 抗争?

ロックだが、クールじゃない。


あっちがエージェントを使うなら、こっちもエージェントを使う。

あっちが欺瞞(ぎまん)を使うなら、こっちはマイクを使う。


ヤマダは、ラフに着崩したスーツの裏ポケットから写真を取り出す。

写真には、貨物船が映っている。


「港の、この貨物船だ。ちょうど、積み込みがされてる。」


JJが写真を受け取り、裏ポケットにしまった。

次の目的地は決まった。


お暇をもらうために、ヤマダに握手を求める。


「ありがとう。港に行ってみるよ。」

「オーライ。オレも楽しかったゼ☆」


続けて、セツナも握手。


「ラジオを聞いていて、耳に残ったんだけど――、ピアノジャックをリクエストしても?」

「オーケー☆ オレも好きだぜ、ピアノジャック。」


名曲とは、時代を超えるものだ。

それは、クラシックだけの専売特許では無い。


2人は、ヤマダに見送られ、vipルームを後にする。


女性の案内に従って場内を移動。

ダイナと合流し、次なる目的地を目指す。


‥‥vipルームに1人となったヤマダは、部屋で小躍りしている。

ダンス☆ ダンス☆ ステップダンス☆ 陽気なステップ。


「蝶のヤツ等は、分かっちゃ~いない。」


大きな一枚張りの窓の向こうでは、次の試合のゴングが鳴る。


「エージェントを使うなら、ロマンが分かってなくっちゃ☆」

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