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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4.5章_2_銃士と狂戦士の、地下ダンジョン。

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SS7.13_戦場の手品師

「どけどけどけぇー! 天下のジョニー様のお通りだァ!!」


消耗を強いられている苦境に現れたのは、8人目のプレイヤー、ジョニーだった。


長身痩躯の体型。

ストライプの入った紫色のスーツ。


目深に被ったソフトハット。

こげ茶色の紳士帽は、ブリム(つば)が長く、遠目ではカウボーイハットにも見える。

材質は草を編んで作ってあるので、麦わら帽子にも見えるし、修行僧が被る托鉢笠にも見える。


手元は、薄手の茶色い革手袋で覆っている。


‥‥胡散臭い。

ヒョロっとした体躯。フィットしたスーツ。深く被った帽子。手元を隠す手袋。


それらの要素が幾重にも重なって、すごく胡散臭いイメージを他者に抱かせる。

三枚目な言動も相まって、彼の残念な感じに拍車がかかる。


ジョニーは、序盤にハルとアイに倒されたプレイヤー。


倒されたあと、リスポーン。

その後は、のらりくらりとスコアを集め、魔神との戦闘に遭遇。


自分1人が加勢したところで、どうにもならないと判断したジョニーは、ステージ内を走り回り、ステージ上のザコ敵を掻き集めた。


あちこち走り回って、自分を追いかけて走るザコの群れを大きくしていった。


ザコ敵は、スコア稼ぎだけでなく、リゲインによる体力回復やAG回復に使える。

これを魔神と戦っているプレイヤーまでトレインすることにより、魔神と戦う者たちのサポートをしようと考えたのだ。


状況を見るに、スゴく良いタイミングでトレインができたようだ。


一つ目は、突然の乱入者に首を傾げ、指で頭を掻いている。

プレイヤーも、あっけに取られている。


全員の視線を独り占めできて、ジョニーはご満悦。


「ふっ‥‥。お前らは、後ろのザコの相手でもして休んでな。

 デカ物は、オレがもらった。――とぉ!」


威勢の良い掛け声と共に宙へと繰り出し、ジョニーは一つ目の前に立つ。

大きな瞳がギョロギョロと瞬き、首を左右に傾げる。


その隙に、他のプレイヤーは下がり、ジョニーがトレインしてきたザコを狩ることにする。


彼が引き連れていたザコ敵は、50匹はくだらない数がいる。

全快とまではいかないが、態勢を立て直せるくらいの量はあるだろう。


「よ~しデカ物。タイマンといこうか?」


右肩を回し、臨戦態勢。


「倒す前に聞いておく――――。」


肩を回すのを止めて、巨大な瞳を指差す。




「高飛車なお姉さんは好きか?」

「‥‥‥‥。?????」


一つ目が、首を傾げたままフリーズした。


ジョニーは、テレポート。

一つ目の顔面に、拳が届く距離へと瞬間移動。


「高飛車なお姉さんは好きかって聞いてんだッ! このタコ助野郎ゥゥゥ!!」


ジョニーの右が炸裂した。

思考が停止していた一つ目は、突然のことに対応ができず、拳をもろに受け、地面に倒れる。


起き上がるために、両膝と両手をついて身を起こしたあと、殴られた左頬を手で押さえて、左右をキョロキョロしている。

なまじ、変に知性を持つばっかりに、ジョニーの支離滅裂な行動に動揺をしている。


「なんだぁ? 自分の性癖ひとつ語れないなんざ、魔神ってのも大した事ないのかもなぁ?」


‥‥‥‥。

この男が何を言っているのかはさっぱりだが、バカにされていることは分かった。


バカにした――。バカにした――。




バカにしたバカにしたバカにしたバカにした――――――!!!!!!


一つ目の瞳が、真っ赤に充血する。

立ち上がり、両腕を振るい、怒りに任せて床に叩きつける。


すると、鋭く尖った木の幹が、津波の如くジョニーに押し寄せる。

テレポートでは躱せないほどの密度と、速度と、範囲を伴った大津波。


(あ‥‥、オレ死んだわ、これ。)


だが、これでみんな立て直せるだろう。

自分にできることは、最大限やった。


そう思ったジョニーの前に、フロントさんと八車が駆けつける。

2人は、手に持った特大剣と双剣で、幹の津波を粉微塵に切り裂いた。


フロントさんが、フランベルジュという、刀身が波打っている剣を正眼に構え、八車は左手の剣で肩を叩いている。


「ナイトが守られるとか、ちょとsYレならんしょこれは・・?

 守るなら、本人に断ってからやれよ?」

「コイツと同感なのは癪だが、そういうこった。」


(あっれ~~~?)


あらヤダ、皆さんお強い。

正直、自分の腕前だとこの場では足手まといでしかないので、ここで退場するのが一番丸かったのだが‥‥。


ジョニーは、スーツの内ポケットからタバコを取り出す。

口にくわえて、指を弾くと、人差し指の先に火が灯る。


タバコに火を点けて、一服。

左手でタバコを持ち、口から煙を吐き出す。


「なら、もう少しだけ、オレのショーに付き合ってもらおうか?」


そう言うと、彼の右手からトランプが出現して、それが手の中で円形に広がった。


クラス「マジシャン」。

手品と魔法で戦う、戦場のトリックスター。



一つ目は、真っ赤な瞳でジョニーを睨みつける。

怒りで身体をわなわなと震わせて、衝動に任せて突進をする。


突進に、フロントさんと八車が合わせる。

すれ違うように、自身の得物で一つ目を切りつけた。


樹の身体に傷が付き、たちどころに癒えていく。

同時に、フロントさんの体力も大きく回復する。


彼の握るフランベルジュは、その波打つ刃で敵の肉を削ぐため、リゲイン量が大きい。


一つ目は、2人の斬撃を受けても止まらず、ジョニーに突進。

ジョニーは余裕の表情。迫る脅威など何処吹く風。


ミントフレーバーの、タバコの煙を味わっている。

一服を続ける彼を、一つ目が怒りに任せて轢き潰した。


ジョニーの身体は、突進を受けるとトランプになって、パラパラと崩れていく。

マジシャンのスキル「リフラッシュエスケープ」。


突進が空を切り、手応えを得ない状況に、一つ目は首を傾げる。

傾げた首に、ナイフが突き刺さった。


マジシャンのパッシブ「六本目の指」。

テレポートでの回避が成功すると、攻撃してきた敵に、虚空からのナイフで反撃する。


一つ目の背後から、ジョニーの声。


「おい、タコ助野郎。」


一つ目が、首だけで後ろに振り返って、充血した瞳を向ける。

樹の幹が捻じれる乾いた音がして、瞳は血走り忙しなく小刻みに揺れている。


「魔神はガーゴイルだっただろ! なんだこの化け物!?」と、ジョニーは内心でビビりつつ、威勢とハッタリだけはしっかり保つ。


ギョロリと背を向いた瞳に、タバコを投げ捨てる。

視線が、投げられたタバコに向いた。


次の瞬間、ジョニーの手元から、コインが勢いよく撃ち出される。


スキル発動 ≪飛燕衝≫ 。

マジシャンの ≪飛燕衝≫ は、コインを指弾で撃ち出すスキル。


指弾とは、小石や針などを指で弾き、勢いよく飛ばす暗殺術。

マジシャンは、天下往来のスターであり、草木眠る晩の仕事人。


ジョニーの両手からコインが弾かれ、一つ目の身体に刺さるが、効果は無いようだ。

首を背中に向けたまま、後ろ走りでジョニーを挽き肉にしようと突進を繰り出す。


そこに、フロントさんと八車が一太刀。


ジョニーもすかさずテレポート。

パッシブ「六本目の指」が発動して、一つ目の首にナイフが刺さる。


テレポートしたジョニーは、彼奴の正面へ。


タバコの煙を口から吐き、右手にトランプを広げる。

広げたトランプの先端が、発火する。


スキル発動 ≪飛燕刃≫ 。


発火を伴う、トランプによる斬撃を浴びせた。

ジョニーが腕を振るったあと、手元には何も残っていない。


火の熱と斬撃に反応し、一つ目は右脚で滅茶苦茶に前方を蹴る。

それを、バク宙で回避。


ギョロリ。充血した瞳が、前へと向き直る。

ジョニーは、目深に被った帽子を上げる。


「ご覧あれ。ハトさんだ!」


帽子を上げると同時、四羽の鳩がそこから飛び出して来た。

鳩はそれぞれ、トランプを持っていたり、首にコインを巻いていたり、小道具を何かしら握っている。


一つ目は、飛び立った鳩に目を奪われる。


――が、すぐにジョニーへと視線を落とす。

彼を見下ろす瞳を、羽音と共に、鋭利な刃が突き刺した。


マジシャンが使役する魔法の鳩は、手品の小道具を持たせることができる。

鳩にトランプを握らせれば、そこから闘鶏で用いられる蹴爪(けづめ)を取り出して、攻撃を行う。


二羽の鳩が、脚に装備した金属製の蹴爪で、充血した瞳を突き刺した。


一つ目は、両手を勢いよく顔面に叩きつける。

それだけでは鳩を潰せず、うっとうしい鳩を追い払おうと、やみくもに腕を振るう。


腕を振るい、空振り、小さな鳩を巨大な身体では払えないと判断したのか、彼は巨大な瞳で天井を仰ぐ。

すると、ほんのり明るかった天井が眩く輝く。


まるで、夏の日差しのように、地上に強く光が照り付ける。


「‥‥‥‥。」


一つ目は空を仰いでいる。

空を見つめる瞳に、光が集まっていく。


天井に向かって、強い光が2回、瞬いた。


そして3回目。

瞬く光は、凶器となった。


太陽光を凝縮したかのような光が放たれて、蹴爪を持った鳩が燃やされてしまった。


瞬く瞳が、ジョニーを見る。

明滅――、明滅――、発火!


瞬く瞳が、床の石を砕き、壁に穴を開けた。

光りが石の表面を乾燥させ、石の内部に含まれた水分が、瞬間的に水蒸気となる膨張圧で砕けたのだ。


当然、石を砕くほどの高温に人体が晒されれば、タダでは済まない。

ジョニーが立っていた場所に、彼の姿は無く、黄金のコインが溶けて床にへばりついている。


イリュージョン成功。

虚空からのナイフが、一つ目を襲う。


「あっぶね‥‥!」


AG版スキル ≪トスアップバニッシュ≫ 。

本来は、見えない糸で繋がれた巨大化するコインを、ヨーヨーのように扱うスキル。

AG版では、コインと自分の位置を入れ替えることができる。


ジョニーは、鳩の首に巻き付けていたコインと、自分の位置を入れ替えたのだ。

一つ目は、自分の前から消えたジョニーを探し、首を大きく左右に振っている。


「「‥‥‥‥。」」


その様子を、フロントさんと八車が観察している。


一つ目が、ギョロリと振り返る。

手を叩く音が聞こえて、反射的に振り向いたのだ。


手を鳴らすのはジョニー。

彼はキョロキョロする瞳を指差して、お腹を押さえて笑うジェスチャーをして煽る。

追撃で、一つ目が首を右往左往していたのを真似して、さらに燃料を追加。


まんまと焚きつけられて、充血した瞳から湯気が立つ。

真っ赤な瞳から赤い液体が吹き出して、それが気化して湯気が立つ。


ジョニーの上空に、鳩がやって来て、小道具を彼に渡す。

小指ほどのサイズの棒きれが、彼の手元でステッキになり、鳩が帽子の上に止まった。


「ショーに夢中だな? それとも、オレに夢中?」


一つ目は、湯気の立つ頭を大きく振りかぶり、地面に何度も叩きつける。

怒りに任せて、顔面で地面を揺らし、それでも怒りが収まらず、両腕を地面に叩きつけた。


鋭い樹の幹が地面から生えて、津波の如くジョニーに襲い掛かる。

‥‥土砂を多分に含んだ津波を、冬の大嵐が弾き飛ばした。


「ジョニーさん、ありがとうございます。」


アイがジョニーの前に立ち、礼を言う。


「みんな、元気を貰えました。」

「なあに、礼ならいいさ。」


ジョニーは、手元でステッキをくるくると回す。


「だけど、チップをくれるって言うんなら、頂戴したいね。

 ――ヤツを倒そう。」

「はい。もちろんです。」


一つ目は、自分の攻撃を妨害され、頭を沸騰させていた。

ことごとく――、自分の思惑のことごとくが、あの訳の分からん男が現れてから通らない。


度し難く、許し難い。

堪忍袋の緒は、もう5本はブチ切れている。


その様子を、フロントさんと八車は冷静に観察しており、互いに認識をすり合わせる。

「おい」と、八車が声を掛けた。


「何か用かな?」

「ヤツをどう見る?」


「ふむ、俺が思うに、ヤッコはリジェネのアビリティがあるのでは無いかな?」

「戦い方についてはどう思う?」


「ヤツが一般貧弱プレイヤーなのは確定的に明らか。

 テレポを読めないとか、雑魚狩り専門なのがバレバレ。」

「同意見だ。」


ここまで戦って分かった、一つ目の特徴。

彼の肉体は再生力が凄まじく、コンスタントにダメージを重ねていては倒せない。


しかし、彼の戦い方は稚拙で拙い(つたない)

テレポートの移動先を感知するという、熟練者であればできて当然のことができていない。


規格外のフィジカルと、反則じみた大技に頼った力押しが、一つ目の戦い方。

その反則じみた大技も、煽りに弱いメンタルのせいで、適切に使えていない。


感情任せに技を選択し、感情のままに振り回しているだけだ。

つけ入るならば、そこだろう。


八車は、フロントさんに目配せをする。

全員をまとめろと、皆まで言わんぞとばかりの視線。


フロントさんは、目配せに行動で答える。


「お前いら、聞け!

 高火力で一気に攻めるぞ!」


手短に、すべきことの指示を出す。

この場に居る人間をまとめるには、これだけで足りる。


その後にすべきは、全員がパフォーマンスを発揮できるためのサポート。

当然、それらはフロントさんと八車が責任を持って負う。


言いだしっぺなのだから、作戦のケツを持つのは当たり前。

それが、一級廃人プレイヤー。


「フォローは、俺と、はっちゃんに任せろ!」

「はっちゃん言うな!」


――はっちゃん言うなというが、俺h(おれは)お前の名前を知らない不具合。

――八車だ! 二度とその愛称で呼ぶな!


突破口は見つけた。

あとは、そこをこじ開けるのみ!

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