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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
1章_簡単な仕事

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13/424

1.11_ソーサリー&コンバット_B

CCCオペレーションルーム。



衝撃的な映像が映し出された。

ボルドマンがドラゴンウルフに変貌した。

謎のナイフによって。



「――っ!! あれは!?」



アリサは目を見開いた。

実物を見るのは初めてだが、間違いない。


あれは、厄災時代の――!



(急いで増援を!)



コンソールを操作。

セツナに増援を送るべく対応をする。


現在、セントラルは混乱の渦中にある。

首都圏のセンターだけでなく、国全体で犯罪者の動きが活発化していた。


セツナがボルドマン派閥に奇襲を仕掛けたタイミングを契機に、セントラル中で暴動や略奪が多発。


同時偶発的な犯罪ではない。

何か、大きな仕掛けで動いている作為を、アリサは感じていた。


CCCのメインコンピュータの統計データを見てもそれは明らかで、統計的に有意な異常事態であることは、オペレーター全員の共通認識であった。

CCC支部は現在、その対応に追われている。


その中での、セツナへの増援。

‥‥現実的な問題として、いま彼に回せる戦力的な余裕は‥‥。



(ジャッカルさんのチームからなら、1人くらいは増援を出せるはず。)



オペレーションルームの最後尾で仕事をするアリサは、部屋の左側に視線を向ける。

左側の中腹、ハッキングに強いオペレーターたちが座っている席。

そこに座る、金髪の女性を、アリサは最後尾の席から見る。

金髪の女性は、アリサの同期で、名をカエデと言う。


カエデは、アリサの視線に気付いたのか、アリサの方へと顔を向けた。

仕事中で緊急事態にも関わらず、ニッコリと白い歯を見せる。


派手な見た目にピッタリの笑顔と、サムズアップ。

戦力を回してくれるらしい。

カエデがオペレートしている部隊は、ジャッカルの部隊。


とっととチンピラをシバいて、さっさとセツナのところへゴー!

カンペキ。


ジャッカルの部隊はいま、セントラルの西、「港の町」の沿岸部で、戦艦3隻を相手にしているのだが‥‥、まあすぐに駆け付けられるだろう。

よくあることだ、セントラルでは。


それに、あとちょっとで、戦艦の1つを()()()()()()なので、沿岸部のゴタゴタは、これで片付けよう。



なんか、海底を散歩していた所属不明の潜水艦は、もうすでに掌握してあるのだ。

潜水艦の中で、動画なんか観てるからそうなる。

あとは、この潜水艦を踏み台に、戦艦をちょちょいのちょい。


あと3分で戦艦は無力化。

援軍の転送に7分‥‥、いや、8分と少しは欲しい。


12分だ。

12分で、セツナに救援を送る!



同期の同僚の心強いサムズアップを受け、アリサは少しだけ気が楽になる。

セツナには、時間を稼いでもらう。

ボルドマンを引き付け、増援を出して、それで――。



――プツン。



冷たく、乾いた音がした。

アリサの目の前と、手元で。


彼女が操作する機器の電源が落ちた。


科学と魔法を融合して作られた、質量を持つホログラムは、動力を絶たれて霧散して消えてしまう。

ホロディスプレイも、ホロキーボードも。


アリサはすぐに、足元に手を伸ばす。

物理的なPCの電源ボタンを押す。

しかし、PCが起動する前に、ディフィニラに声を掛けられた。

ホロディスプレイがアリサの机の上に表示される。



「アリサ君。現時点をもって君を、エージェント・セツナのオペレーションから外す。

 あとは私が引き継ぐ。これは、ハイオペレーターとしての命令であり、決定だ。」



ディフィニラは、アリサに一方的にそう告げた。


アリサの顔から、表情が抜ける。

優秀な頭脳が、ディフィニラの言葉を理解できない。

いや、理解を拒もうとしている。


セツナに援軍を出す気満々だったカエデは、不服そうな顔。

感情をすぐ顔に出し、ディフィニラに抗議をするため立ち上がるも、ハイオペレーターの鋭い眼光で黙らされる。


尻もちをつくように椅子へ座り込むカエデ。

クッションから空気が抜ける音が、虚しく響いた。


カエデというオペレーターは、元犯罪者。

ハッカーとしての腕を買われて、局長が直々に恐喝(スカウト)へ出向いた。

よ~く、身に染みているのだ。

生ける伝説の恐ろしさを。



局長でもあるディフィニラは、部下を眼力による一括で黙らせて、オペレーター全体に指示を出す。



「治外自治区への締め付けを強化しろ。

 民間人の人命が最優先だ。

 犯罪者どもを治外区に封じ込めて、混乱の拡散を防げ。


 締め付けによって、無法者どもの反発がしばらく強くなるだろうが、先の面倒事よりも、直近の事態を収束させる。


 カエデ君、エンジニアのブレッドに連絡を。

 エンジニア部隊も、前線に出てもらう。」


「――局長!」


淡々と指示を出す局長に、抗議の声を上げたのはアリサだった。

他のオペレーターたちは、局長の指示を受けて自分たちの仕事に専念する。

カエデだってそうだ。


一通りの指示を出し終えたディフィニラは、抗議をするアリサに話し掛ける。

他のオペレーターにしたように、淡々と。



「アリサ君、()()の存在を君がどこで知ったのかは、不問にしよう。

 元々、科学者を志していた君のことだ。

 ディヴィジョナーの研究をしている、元傭兵の科学者から噂話を聞いたということにしておく。

 ――だが、()()の脅威を前にしても、我々は冷静でなければならない。」



ディフィニラは、自らの顔に刻まれた、頬の傷を振れる。


オペレーターは、冷静でなければならない。

冷酷でなければならない。


大を守るために、小を切り捨てる罪を、背負わなければならない。



「君は少々、エージェントに肩入れをしすぎている。

 彼らは、人命と秩序のため――、死ぬために存在しているのだ。」



ディフィニラと、アリサ。

2人のあいだに沈黙が交わされる。



「アリサ君、そんな顔をしては他のオペレーターたちの士気に関わる。

 退席したまえ。

 全ての責任は、私が取る。」



‥‥力を入れていた拳から、力が抜ける。

「失礼します」とだけ言って、アリサはオペレーションルームから出ていった。


彼女を見送ったディフィニラは、背もたれに身体を預ける。



(こちらの作戦を知っていたかのような周到な動き。

 それに、無法者の同時多発的な一斉蜂起。

 ‥‥ウールーの置き土産か。)



戦士としての嗅覚が、そう考えさせる。

正義を買えるほどの財力を持つ彼であれば、安い犯罪者を買うくらい容易いはずだ。

国中の犯罪者を買ってみせるくらいの力が、彼にはあった。


そんな彼が残した遺産は、彼が死んでなお、CCCを苦しめている。

金の亡者が、亡者の金で犯罪者を操っているのだ。


彼は死んだ。

殺された。


臆病者な彼が、なぜわざわざ、勝てもしない殴り合いをセツナに挑んだのか?

死人に聞くことはできないが、死人の思考を推測するならば、彼は自分の最期を悟っていたのだろう。


人の恨みを買い過ぎたか、派閥の統率を取れなくなったか、あるいは――。

何者かへの、忠誠か。


ウールー=バスタード、惜しい人間を死なせてしまった。

正義を志すか、まっとうな仕事をするかしていれば、表舞台でも大成していただろう。



ディフィニラは、背もたらから上体を起こす。

眉間に指を押し当てたあと、髪を1度だけ撫でて整える。



(年をとると、集中力が欠けていかんな。)



CCC局長、ハイオペレーター・ディフィニラ。

30年前にセントラルを襲った戦火「千日戦争」を勝利に導いた英雄。


‥‥大勢死んだ。

死ななくていい人間が。


それだけでなく、死ぬべき人間が、生き残ってしまった。



自分の前から人が去ってしまうのは、自分がいなくなることよりもツラい。

自分のせいで、人がいなくなってしまうのであれば、なおさら。

年月を経るごとに、眠りが浅くなっていくのだ。



エージェントは、いずれ死ぬ。

務めを果たし続け、円満に退役できる者がいれば、それは自然界で動物が老衰を迎えるレベルの奇跡だ。


ならば最大限、有意義な殺し方を考えるのが、CCC支部局長であり、ハイオペレーターの役割だ。

先代から受け継いだ、老兵としての役割だ。


それはつまり、大義という罪を背負う役割。


適材適所だ。

先の短い人間には、ちょうどいい仕事だ。



人には死ぬなと命令しておいて――。

自分は人を殺そうとしているのだから、仕様が無い。



全く‥‥、嫌になる。








(狼人間、不死身なのも納得だ。)



ドラゴンウルフを前にして、セツナはそう思った。


伝承によっては、吸血鬼とも同一視されることがある狼人間。

狙撃で致命的な傷を受けてなお、立ち上がったのも頷ける。


だが、完全な不死ではない。

それは、彼の部下の様子を見れば明らかだった。

ありきたりな予想だが、蘇ることのできる回数には限りがある。



店が立ち並ぶ道路で、セツナとボルドマンが向かい合う。

誰の邪魔も入らない。

1対1、タイマンだ。


深呼吸をしても、セツナの鼓動は早く大きく打つ。

その鼓動も、呼吸も、ボロボロのパーカーが隠してくれる。

セツナは、ポーカーフェイスを気取るだけ。


腰を落とす。

脚から力を抜く。

脚のブレーキを外す。


蹴るのではなく、滑るように前へ走る。



セツナとボルドマン。

2人は脚に力を込め、同時に走り出した。


あっという間に距離が詰まった。

拳の距離。


先に攻撃に移ったのは、ボルドマン。

セツナに体格で勝る狼人間。

頭ひとつ分の身長差により、彼の拳が先制する。


その拳ひとつ分のリーチ差を意にも介さず、セツナはボルドマンと同時に拳を握り込む。

踏み込み、握り、体重を乗せ、打ち込む。


わずかに早く、ボルドマンの拳がセツナの頬を捉えた。

セツナは、被弾覚悟で首を少しだけ逸らした。

衝撃を逃がしながら、こちらもボルドマンの頬に拳を叩きつける。


ボルドマンも、セツナの拳を避けない。

両者の拳が顔面に突き刺さった。


開幕の一撃は、相討ち。

顔を殴られても、お互い引くつもりなど微塵もない。

互いの、意地と意地がぶつかり合っているのだ。


2人の拳が引っ込む。

2人の右脚が同時に地面を離れた。


前蹴り。

炎と冷気を纏った蹴りが交差。

これもまた相討ちとなり、互いの腹を穿つ。


セツナの視界左上、体力がわずかに回復し、その後に回復よりも大きく削られる。



ノックバック。

ボルドマンの左足が1度だけ後ろに下がり、セツナは後ろに何度も足を動かして衝撃を逃がす。


ボルドマンが左手を上げる。

左手を逆袈裟の方向へ振り下ろす。

左上から、右下へ。


狼の爪から冷気が鋭く放たれる。

5本の斬撃がセツナへ迫る。


セツナは両足で強く地面を掴む。

スニーカーの中で、足の指が開き、力が込められる。

道路に2本の黒い線を描きながら、右手を前に出す。


魔力を込めた掌底を、前に。



スキル:飛燕衝



魔法の衝撃波。

冷気の斬撃が砕ける。

セツナとボルドマンのあいだに、白く冷たい霧が発生する。


冷気は空気から熱を奪い、空気を重くする。

その場で停滞し、視界を塞ぐ。


白い霧が晴れた。

セツナの炎が、空気を膨張させ、その大気の流れで払いのける。


そのまま踏み切り、跳躍し、飛び蹴り。

ブレイズキック!


ボルドマンは、両手を身体の前で構える。

飛び蹴りを放ったセツナを、人外と化した自身のタフネスに物を言わせて、捕まえようとする。


ボルドマンが1歩前に出た。

セツナの飛び蹴りの間合いと、インパクトのタイミングを狂わせる。


そして、怪物の怪力で、セツナの胴体を捕える。



ボルドマンの両手は空を切った。

鋭い爪は、セツナを捕まえられない。


マヌケ顔の鳥野郎は、ボルドマンの拘束が届かない距離まで、空中で後退したのだ。


マジックワイヤーだ。

霧が発生したときに、セツナは道路にそれを撃ち込んでいた。

ボルドマンが攻撃した瞬間に、ワイヤーを巻き取って、身体ひとつ分だけ後ろに下がった。


地面に着地するセツナ。

屈んだ低い姿勢から、足払いを放つ。


ボルドマンの膝を狙って脚が伸びて‥‥、セツナが吹っ飛んだ。


ボルドマンの蹴りが、セツナの顔面を襲った。

それを魔導籠手で防御し、セツナは地面を転がる。

小細工を読まれていた。


ガントレットの装甲を貫通し、体力が削られる。

腕が痛みで痺れ、本能的に強く握り込まれる。

まともに受けたら、肩の関節が外れてしまいそうだ。



ボルドマンが追撃を行うために突っ込んでくる。

セツナは、ワイヤーに引っ張られて後退しながら、右手に魔力を溜める。

右手に火球が生成される。



スキル:ファイヤーボール




ボルドマンは、火球を受けるために走りながらガードを固める。

ボクシングのハイガード。

頭を守るガードを固める。

怪物の姿で、人間の技を使う。

姿が変わっても、理性は人間のままなのだ。


セツナは、左手から伸びるワイヤーを切り離す。

右手の火球を、ボルドマンに突き出す。



――なんちゃって。



セツナは足に炎を纏う。

ファイヤーボールの予備動作を、ブレイズキックでキャンセル。


ダブルドリブルと呼ばれる、旧作ではバグ技として発見され、その後、正式な仕様となったテクニック。


セツナはファイヤーボールを中断し、ガードを固めるボルドマンに向けて走り込む。

そして再度、ファイヤーボールを発動。


セツナの腕が燃え上がる。

挙動の怪しいファイヤーボールが発動する。

燃え盛る炎は、光というよりノイズに近く、陽炎の揺らめきは、空間の捻じれに近い。


先ほど、中途半端なタイミングで魔法の演算が中止されたため、魔法は不安定となり、本来の形から崩れてしまっている。


ファイヤーボールは火球の形を維持できず、半ば暴走気味となり、セツナの肘から先を延焼させる。

情報災害の種火であり、火種。

銀色のガントレットが、朱色の光沢を放つ。


燃える右腕。

燃える銀腕。



フラッシュチョップ!



燃える右手で、セツナは逆水平チョップを繰り出した。

ボルドマンのハイガードを、横から殴りつける一撃。

ボルドマンの脚が止まる。


近接攻撃と化したファイヤーボールに意表をつかれた。


足を止めたボルドマンに、セツナはローキックを叩き込む。

鞭のようにしならせた蹴りが、ボルドマンの足に命中する。


セツナの連続攻撃は止まらない。

また、これ見よがしに、ボルドマンの真ん前で火球を右手に作る。


ボルドマンの反撃。

顔の前に構えた右手でジャブ。

怪物の膂力でのジャブは、小技であるものの、生身の人間が熊に殴られるほどの殺傷能力を誇る。

ヘヴィ級ボクサーのパンチを、フライ級ボクサーが受けるようなものだ。


セツナは、そのジャブを払う。

彼は、右手をボルドマンに見せつけるように挙げていたので、パリングが間に合った。


ボクシングなどのそれとは異なり、ジャブの軌道を変えるというよりも、ジャブの力を利用して、自分の軸をズラす感覚。

人間離れした力を発揮できる魔法戦闘だからこその、パリングテクニック。


セツナはジャブを払い、その力を利用して身を翻す。

前進しながら、クルリと1回転。

ボルドマンの横を取り、肘打ち。

右側に回り込んで、左肘を放った。


左肘がボルドマンの脇腹を捉えた。


そして、セツナが膝をつく。

左足から赤いエフェクト。

ボルドマンの足の爪で抉られた。


ボルドマンが右腕を振るう。

セツナの顔を、横から切り裂く攻撃。


セツナは身体を後ろに倒す。

冷たい爪が、眼前を通り過ぎる。

背中が道路につく。

自分から仰向けの姿勢となった。


地面を蹴る。

物理法則を無視する炎で蹴り、スライディング。

後ろに向かって地面を滑る。


ホルスターからリボルバーを引き抜く。

ファニングショット。

銃声は1回、マズルフラッシュは2回。

2発の弾丸がボルドマンの頭部を捉えた。


音速を超える弾丸は、魔法で強化された肉眼でも見切れない。


ボルドマンは右手で顔を抑える。

効いてはいるが、決定打にはなり得ない反応。


その証拠に、彼はすぐさま反撃を行う。

ボルドマンは、左手を地面に突き刺す。

鋭い爪が、硬いアスファルトを軽々と貫く。


アスファルトが凍っていく。

凍結し、脆くなる。


アスファルトを引っぺがした。

氷が砕ける音と、アスファルトが切り裂かれる音がして、道路の塊がセツナに向かって飛んでいく。


セツナは地面に両手をつく。

飛んで来るアスファルトの塊に背を向ける。

地面に手をついた姿勢から、後ろ蹴り。


アスファルトの塊を、ボルドマンに蹴り返した。


蹴り返したアスファルトは、空中で切り裂かれる。

ボルドマンが突進してくる。


セツナはマジックワイヤーをリボルバーに撃ち込む。

リボルバーがワイヤーに繋がれる。


短く伸びたワイヤーを振り回す。

鉄球棍棒(フレイル)でも扱うかのように、リボルバーに遠心力を溜めて――、振るう。


遠心力の乗った打撃が、ボルドマンの右肩に直撃。


ボルドマンは怯まない。

前蹴りを繰り出す。


セツナはサイドステップで回避。

ワイヤーを振るい、フレイルアタック。

今度はボルドマンの頭部を狙う。


打点の高い攻撃は、姿勢を低くして避けられた、

ボルドマンはフレイルアタックを回避し、姿勢を起こすと同時に右腕を振り上げる。

下から上へ、冷気を纏う斬撃が飛ぶ。


セツナはフレイルを回転させながら、自分も回る。

ダンスでもする身のこなしでタイミングを計り、冷気の斬撃を蹴り壊す。


炎のキックが斬撃を砕き、冷たい霧が立ち込める。

セツナの姿が、霧の中に隠れる。


その彼のところに、フレイルの鉄球(リボルバー)が潜り込んでいく。

霧の中に潜ったと思ったら、すぐに飛んでいく。

ボルドマンに向かって、真っすぐ飛んでいく。


いささか単調な攻撃。

拳を警戒しなくて良い距離での、直線的なフレイルアタック。

ボルドマンは、ワイヤーを掴んでやろうとする。



――発砲。



フレイルの先端が火を吹いた。

セツナがワイヤーを引っ張ると、リボルバーの撃鉄が落ちた。

霧の中で上げていた撃鉄が、ワイヤーを引っ張ったことで誤作動を起こした。


手綱を引かれて機嫌を損ねたじゃじゃ馬が、八つ当たりとばかりに大口径をぶちまける。


セツナの愛銃は、引き金が軽い。

図体は人一倍なクセして、引き金は羽毛みたいに軽い。

引き金が軽いということは、誤作動が起こりやすい。

ちょっと力が加わると、すぐに撃鉄が落ちてしまう。


神経質な上に短気。

その気性難を利用した不意打ち。


暴発した弾丸は、ボルドマンの顔に命中。

憂さ晴らしをしたリボルバーは、大口径の反動で空高くに飛んでいく。


セツナが霧を払う。

地面に燃える足跡を作りながら走り、前蹴り。

前蹴りが、怯んだボルドマンの腹に命中。


それにボルドマンはカウンター。

後の先ならぬ、後の後の攻撃。

タフネスを利用し、痛み分けの貫手。

鋭い突きがセツナの胸を狙う。



――貫手の軌道が逸れた。



リボルバーの、踏みつけ攻撃。

セツナがワイヤーを下に振ると、リボルバーがボルドマンの脳天を踏みつけた。


セツナは踏み込む。

跳躍。


跳び膝蹴り。


ボルドマンの顎に、セツナの右膝が突き刺さった。

ボルドマンは、後ろ向きに倒れていく。


セツナは空中でリボルバーをキャッチ。

ホルスターにしまう。


仰向けに倒れるボルドマン。

その上を取ったセツナ。

ポーチから、コアレンズを取り出す。

必殺技を使うためのアタッチメント。


魔導ガントレットの甲が開き、そこにストライクコアを――。



ストライクコアが、セツナの手から離れた。

セツナが地面に叩きつけられた。



狼だ。

番いの狼が、男同士の真剣勝負に水を差した。


番いの1頭が、セツナに空中で噛みつく。

彼の脇腹を噛み、地面に頭から落とす。

そこに、待ち構えていたもう1頭が追撃。

セツナの喉笛に、容赦なく喰らいついた。


猛獣による凄惨な狩りが、摩天楼の街で執行される。


その凄惨な狩りを見下ろすように、コアレンズは宙を舞い、道路に落ちて小気味よい音を奏でた。

タイヤのように地面をころころ転がって、歩き疲れて倒れたら、空の青い日差しを受けて金色に輝く。

空の太陽に負けないように、太陽のシンボルが刻まれたレンズが輝く。

――道路の咀嚼音なんて、気にもせずに。


‥‥‥‥。


コアレンズが寝転ぶ道路に突風が吹いた。

黄色い風、黄色い衝撃波。

コアレンズが衝撃波に煽られて、少しだけ浮く。

その上を、狼の片割れが通り過ぎて地面に落ちた。



ブレイブアクション:ブレイブバースト



勇気が、窮地を跳ね除ける。

黄金にも見える魔力が、狼たちを弾き飛ばした。


セツナは、首を右手で抑えて立ち上がる。


ポーチから、ポーションを取り出す。

青い霊薬が入った小瓶。

霊薬は魔力を失う。

透明な、ただの水になってしまった。


ブレイブゲージを3つすべて使い果たした。

廃工場で1回、アパレルショップで1回、狼畜生に1回。


ブレイブゲージがなければ、このポーションは使えない。

チュートリアルの時は、普通のポーションを使っていたのに‥‥。

ビルドの変更が、完全に裏目に出た。



セツナは、左手に力を入れる。

小瓶が砕け、ただの水がセツナの手の中から零れる。


狼が懲りずにセツナへ襲い掛かる。

白い狼と、灰色の狼の、灰色の方。


セツナは左手を振るう。

小瓶の砕けた破片が、狼に向かって飛散する。


狼は急ブレーキ。

減速し、進行方向を変える。

主であるボルドマンの方へ走っていく。



‥‥首の赤い液体が止まらない。



ファイヤーボールを発動。

喉を焼く。

焼いて、止血。


焦げた肉と鉄の臭い。

身体から流れ出る生命力は止まり、体力の減少も止まる。


前に歩こうとして、倒れ込む。

視界の上の方が暗くなり、身体から力が抜ける。

失血のショック症状。

首がやられて、一時的に脳が酸欠を起こした。


深呼吸を繰り返し、何とか立ち上がる。


その様子を、ボルドマンと番いの狼が見ている。


‥‥ボルドマンは、不服そうにしていた表情を取り繕う。

不敵に口角を吊り上げる。



「よぉ、キツそうだなヒーロー!」



肩で息をしているセツナを、ボルドマンが煽る。


セツナの視界の左上では、警告の赤い明滅。

精神高揚(リゲイン)により、戦いの中で傷を癒していたけれど、現在の体力は1割。


切り札である勇気も、使い果たしてしまった。


残っているのは、闘志だけ。

2本分のアサルトゲージ。



――へっちゃらだ。



逆境は、いつだって大好物。

ここから失う物なんて、何も無いのだから。


勝ちのルートだって見つけた。

盤面を作る。

それで終わらせる。


口を開き、啖呵を切る。

ボルトマンの煽りに、ぶっきらぼうに答える。



「何言ってんだ。――こっからが、ゲーマーズハイだろ。」



ブザービート。

逆転のダンクシュート。


サイコーだ。



‥‥‥‥

‥‥

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