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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4.5章_2_銃士と狂戦士の、地下ダンジョン。

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125/258

SS7.06_地下ダンジョン

ステージ、大地の(うろ)


戦闘形式、PvPvE。

参加人数、最大24名。

戦闘時間、15分。




○ステージルール

・ステージマップは、ランダムで生成される。

・ステージの敵は、ランダムで出現する。


・チームでの参加も可能。

 ⇒戦闘中にチームを組むことも可能。

  ⇒その場合、後述のスコア補正により獲得したスコアが減算される。


・プレイヤーはスコアを稼ぎ、戦闘終了時に最も高かったプレイヤー、あるいはチームが勝利となる。


・チーム人数が2人以下の場合は、スコアに補正が入る。

 ⇒2人なら獲得スコア2倍、1人なら3倍。


・その他、戦闘中にランダムでイベントが発生する場合がある。

 ⇒スコアトップの位置が全プレイヤーに表示される。

 ⇒大量のザコ敵がステージ中に出現する。

 ⇒大量のスコアを持ったリッチエネミーが出現する。

  など



○スコアについて

・スコアの取得方法は、以下の通り。

 ⇒ステージ上の財宝を集める。

 ⇒エネミーを倒す。

 ⇒ボスエネミーにダメージを与える。

 ⇒他のプレイヤーを倒す。


・プレイヤーをキルすると、所持していた半分のスコアを獲得する。

 ⇒PKによる獲得スコアは、人数補正の影響を受けない。


・プレイヤーはデスをすると、スコアを半分奪われる。

 ⇒敵に倒された場合は、半分をその場にロストする。



○プレイヤーについて

・デスした場合、1分間後に復活が可能。

 ⇒味方が生存している場合は、味方の近くで復活。

 ⇒ラスト3分を切ると、復活はできなくなる。

  ⇒ラスト3分でデスをした後でも、財宝は拾うことが可能。


・プレイヤーの体力は、非戦闘中であっても自動回復しない。

 ⇒アサルゲージも消滅しない。


・ステージのマップは、いつでも確認が可能。

 ⇒高スコアの敵や財宝はマップに表示され、プレイヤー同士の激突が発生しやすくなっている。



○攻略メモ

ランダムイベントによる振れ幅はあるが、スコアの総数は有限であることが多い。

そのため、最終的にはプレイヤー同士でのスコア争奪戦となる。

戦闘終盤ではザコを倒すよりも、スコアを貯め込んだプレイヤーを狙う方が旨みが大きくなる。


1人での参加は、対人戦では不利だが、スコア補正により対NPCに強い。

敵を狩り、プレイヤーから逃げることでトップを狙うことも可能。

また、1人で自チームの全スコアを抱えているため、デスした場合のロストが大きい。


3人での参加は、対人で有利。

ただ、敵を倒すことによる旨みは少ない。

味方同士でスコアを食い合うことになる。


セオリーとしては、最初は財宝を集めながら敵を倒してスコアを稼ぐ。

後半からプレイヤー同士で戦い、スコアを奪う。

この流れが一般的。


もちろん、勝ち負けなど気にせずに、ひたすら暴れ回って試合をぶち壊すのもあり。

楽しんだ者勝ちだ。




扉を潜り、青白い光の霧を潜ると、そこは地下遺跡であった。

ハルとアイは、扉の無い小部屋に立っている。


前方には幅の狭い小道が伸びており、その30メートル先ほどに大部屋が見える。


天井の高さは10メートルほど。

そこから青い光が降り注いでおり、遺跡の中はほんのりと明るい。


床は石でできているが、カズラや木の根があちこちに生えており、ややもすると足を取られてしまいそう。

また、床のヒビからはクローバーのような植物が群生し、黄色く小さな花を咲かせている。


壁面は、自然物と人工物がごっちゃになっている造りで、加工した石を言い訳ほど土の壁に埋め込んで、土砂が崩れないようにしている。

壁にも床と同じく木の根が這っており、それも土砂避けとして機能していることが伺える。


天井からの光に、植物の息吹を感じられる床と壁。

地下深くに居るはずなのに、どことなく、自然の中に居るような開放感を覚える。


妙に空気も澄んでいて、これだけ土っぽいのに、埃っぽさを全く感じない。


ハルはマップを開く。

マップは、いつでも開くことができ、ステージの全体像と現在地を確認することができる。


ランダム生成であるため、迷子になってアクションを楽しめないという事態を防ぐためだ。


自分たちの現在地は、ステージの南西の端っこ。

小部屋からは北方向に道があり、その向こうが大部屋になっている。


ステージの構造は、大小さまざまな部屋が小さな道で繋がっている、アリの巣状の構造。

ゲーマーであれば、不思議のダンジョン構造と言えば、しっくり来るだろうか?


マップの横にある縮尺を参考するに、ステージの1辺は1kmほどあり、1辺1kmの正方形状となっている。

そこに24名のプレイヤーが集い、15分間の戦闘を行う。


24人に対して広すぎるように感じるが、ここにはエネミーも出現するのである。

それに、プレイヤーの肉体は魔力で強化されているため、下手をすればこれでも狭い可能性すらある。


そうやって、周辺の様子やマップを確認していると、マッチングが終了したらしい。

24人がマッチメイキングされ、マップの項目にプレイヤー名が色分けされて表示される。


3色の色を使い分ける形で、プレイヤー名だけでなく、そのプレイヤーが誰とチームを組んでいるかも一見化されている。


全体的にチームを組んでいるプレイヤーが多く、比率としては2人組が多いことが分かった。


マッチングした半分以上が2人組であり、これが7ペア

次いで3人組が3ペア、ソロでの参加が1人。


彼らの位置までは分からないが、全員位置に付いたらしい。

戦闘開始までのカウントダウンが始まる。


カウントダウンの間に作戦会議。

アイは、ハルに行動方針を決めてもらう。


「どこから攻めますか?」

「うーん‥‥、真っすぐ北を目指しましょう。

 北西の隅まで行ったら、そこから真ん中を目指す感じで。」

「最初は様子見ってことですね。」

「そういうことです。」


2人の現在地は、ステージの南西端。

そこから北上し、北西端を目指す順路を取る。


プレイヤーの初期位置が定かではないが、ステージの端の部屋は、そこに入るための通路が少ない。

なので、不意にプレイヤーが乱入してくる可能性も低くなる。


同じ考えのプレイヤーが偏ればその限りでは無いが、動線の数で言えばそうなる。

最初はそこで手堅く敵を倒したり財宝を集めたりで、スコアを稼ぐ。


そして、戦闘中盤あたりから、パァーっと行く。

大まかな流れは、そうと決めた。


カウントダウンが、5秒を切った。

4‥‥3‥‥2‥‥1‥‥スタート!


戦闘の開始を告げる銅鑼のような音が、地下迷宮全域に広がった。


戦闘開始と同時に、プレイヤー全員に状態異常が付与される。


状態異常:臨戦

非戦闘中でも体力が回復しなくなり、アサルトゲージが維持される。

この状態異常は、状態異常によって効果を発動するスキルやパッシブの対象とならない。

この状態異常は、解除できない。


「さあ、ショータイムです。」

「やるからには、目指すのは1番です。」


2人は、小部屋を飛び出して、先に見える大部屋へと駆けだした。

10秒も立たないうちに、大部屋へと到達する。


大部屋へと足を踏み入れた瞬間、2人の足元が少しだけ下にめり込んだ。

床のカズラによって見えなかったのだが、2人は何かのスイッチを踏んだのだと、感触で理解した。


魔力野が、罠の作動を感知する。

罠は右手側の壁面。


2人は床に伏せる。

同時に、頭上を横一列に並んだ10本の矢が通り過ぎていった。


矢は、罠を踏んだ地下迷宮への侵入者を攻撃すること叶わず、侵入者を排除するためのエネミーに直撃し、彼奴の命を奪った。


敵を倒したことによるスコアが2人に配当される。

罠で敵を倒しても、スコアが貰えるらしい。


頭上を通り過ぎて行った矢の行く末を見送りつつ、ハルは立ち上がる。


「最初から罠?」

「ランダム生成ですから、そういうこともありますよ。」


アイの言う通りだが、この世界が今までプレイヤーにしてきた仕打ちの鑑みるに、ランダムだから運が悪かったなんて言い訳は、ちーっとも信頼できないのである。


ゼッタイ、そこかしこに罠を設置しているに違いないのである。


大部屋を軽く見渡すと、ほんのり明るい迷宮の中で、爛然と輝く黄金の財宝。

部屋への侵入者に気付き、襲い掛かって来る石像。


その2つが目に入った。


石像の数は10体。

人間の背丈くらいの大きさで、尻尾と角、それから手足に鋭い爪を持つ。


石の肌を持った、悪魔のような敵。

石で悪魔の見た目となれば、これらはガーゴイルなのかも知れない。


侵入者を認めたガーゴイルの群れは、2人に問答無用で襲い掛かって来る。


「ここは私が。」


ハルが両指を組む。

ザコの殲滅であれば、銃剣の出番だ。


2本の銃剣が出現し、右銃剣を横薙ぎに振るう。

馬鹿正直に突っ込んでくるガーゴイルは、回避すらせずに、横腹から両断される。

それを左銃剣でも行い、あっという間に10体のガーゴイルを平らげる。


‥‥珍しい。

この世界で、これほどまでにあっけなく敵を倒せるのは珍しい。


「‥‥ちょっと、クセになりそうかも。」


何の搦め手も無く、一心不乱に襲い掛かって来るガーゴイルに、可愛さすら感じる。

もののひと薙ぎで、たくさんの敵を屠り、気持ち良くなるハルであった。


「ほう、ハルさんは強い者イジメだけで無く、弱い者イジメもイケる口ですか。」

「言い方!」


根も葉も無いところに、水を撒こうとしないで欲しい。


軽口を叩いていると、ザコがリポップ (湧いて現れること)する。

ガーゴイルの亡骸が消え去って、新品のガーゴイルが追加された。


ハルの前に、アイが出る。


「今度は、私に譲ってください。」


そう言うと、アイは二刀武器を両手に握る。

5強と呼ばれるクラスの一角「ベルセルク」。


その獲物は、刃渡り1メートルのドラッカーハチェットと、小ぶりだが刃の大きなワンハンドアックス。

大鉈と手斧の変則二刀流こそが、ベルセルクの得物。


ガーゴイルは、自分に最も近い敵を狙うルーチンのようで、10体が寄ってたかってアイに殺到する。


アイはその場から動かず、大鉈を肩に乗せる。

彼女の周囲を、冬の嵐が包む。


スキル発動 ≪嵐と冬の剣≫ 。

嵐を纏い、力を溜め、嵐が更なる嵐を呼ぶ。


風に巻き込まれないように、ハルはアイから距離を取る。


ガーゴイルの群れが、アイに殺到する。

その中の1体が、カズラに覆われた罠を踏んだ。


罠が作動し、アイが立っている一帯に矢が放たれる。


矢が放たれると同時に、アイを包む嵐が一段階大きくなった。

肩に乗せた大鉈を持ち上げて、上から床へ力任せに振るう。


振るったと同時、アイの肩に矢が刺さった。

ダメージを受け、彼女の体力が50ポイント減少する。


被弾はしたものの、冬の嵐は振り抜かれた。

チャージによって強化された嵐は、前方へ扇状に広がって、風がガーゴイルの体を削り、一瞬で砂に変えた。


敵に攻撃が命中したことにより、リゲインが発動。

罠の矢によって受けたダメージは、リゲインによって全快した。


「‥‥なるほど、これは確かにクセになりますね。」


ザコをひと薙ぎで平らげて、アイもしっかり気持ち良くなっていた。


「ふ~ん。アイさんは弱い者イジメとかもしちゃうんですね。」


ハルの意趣返し、言われたことを、そのままアイに返す。

アイは、ハルの方へと向き直り、武器をしまい、右の頬っぺにピースをくっつける。


「私は、私が可愛く映るなら、何でもオーケーです。」

「そう‥‥。」


アイは、面の皮が厚かった。

その程度の煽りでは、まったく動じない。


「う~む。高飛車キャラ路線にも手を出してみますか?」

「何の話し!?」

「ハルさんはどう思いますか?

 高飛車なお姉さんに、ゴミを見るような目で蔑まれると――。

 こう、グッときませんか?」

「それは――。」


赤い瞳から、青い瞳が目を逸らす。


「グッときませんか!」


逃げる青い瞳を、赤い瞳が追いかける。


「‥‥まあ、‥‥分からくはない、です。‥‥はい。」

「そうでしょう、そうでしょう。」

(何、この罰ゲームっ!?!?)


意外と、押しに弱いハルであった。


「――フッ。その話、オレも混ぜてもらおうかッ!」


大部屋の東側の小道から、男性アバターのプレイヤーが現れた。




(聞かれてたぁぁぁぁぁ~~~~~!?!?!?)


そう、心の中で絶叫した。

見ず知らずの人に、蔑まれて喜ぶ人間だと思われた!


穴が無くとも、掘って入りたい。

思わず、顔を両手で覆ってしまう。


羞恥に悶えるハルを横目に、アイは男性に向かって構える。


「何ヤツ!」

「オレは、さすらいのジョニー。

 人はオレをこう呼ぶ、――さすらいのジョニーってな!」

「‥‥‥‥?」

「まあ、そんな事はどうでも良いんだ。

 それよりも今、高飛車なお姉さんの話しをしていたか?」


ジョニーと名乗るプレイヤーに、明確な殺気を帯びる、右銃剣が飛んで来た。

寸でのところで銃剣を回避する。


「ドゥワァフッ!?」

「‥‥56す!」


聞かれてしまったのなら仕方がない。

殺して口を封じよう。


「待て待て待て待て――。人間、性癖のひとつやふたつあって然るべきだろうッ!

 そこに、男も女も無いだろうがッ!!」

「うるさい! 4ね!!」


明晰な頭脳はどこへやら。

羞恥心を発散するかの如く、ジョニーを銃剣引っさげて追いかけ回す。


逃げ回るジョニー、追いかけ回すハル、面白そうなので傍観するアイ。


逃げるジョニーの足元で、カチリと音がする。

隠れた罠を踏んだ。


「――へ?」


素っ頓狂な声を上げたかと思うと、矢が身体に刺さって足が止まってしまう。

その隙を逃さず、横薙ぎの左銃剣がジョニーを捉えて、吹っ飛ばした。


吹っ飛ばしたジョニーは、アイの足元に転がってくる。

傍観中止。アイはサッカーボールを止めるように、彼の胸を踏みつけて動きを止める。


「あは‥‥、これってピンチってヤツ?」


ジョニーを、上から赤い瞳と青い瞳が、蔑んでいた。


「いや、ご褒美だったか。」


ジョニーに、二丁拳銃の魔法矢と、大鉈の一撃が振り下ろされた。

体力がゼロとなり、身体が砕けて光の粒子となっていく。


「ちなみにオレは、パーじゃなくて、グーが出るお姉さんが大好きです!

 胸倉掴まれて詰め寄られたあと、鳩尾を殴られたい!!」


そう言い残して、彼は消えていった。

さすらいのジョニー、彼は馬鹿な男‥‥、いや、バカな女だった。


だが、心意気はまさしく漢だった。


そんな彼に感化されたのか、アイは小さく拍手をする。


「素晴らしい方でした。出会い方が違えば、敵として出会わなければ、友になれていたでしょう。」

「‥‥‥‥。」


ついていけない。

ハルはため息をして、深呼吸。


「気を取り直して、財宝を集めましょう。」

「そうですね。根こそぎ頂いちゃいましょう。」


2人は手分けして、何事もなかったかのように、大部屋に散らばる財宝を集めるのであった。

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