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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4.5章_1_兄と妹のデッド・オア・アライブ

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SS6.13_デッド・オア・アライブ

AIの誕生により、人類は労働の義務から解放された。

彼らは優秀で、そして安価だった。


最初に彼らが参入したのは、流通や輸送市場であった。

彼らは疲れない、彼らは間違えない。


自動運転による物流が、輸送業界の労働から人々を解放すると同時に、淘汰した。


そこを皮切りに、AIは労働を手広く受け持つようになった。

危険な作業が伴い、毎年のように少なくない死亡者を出していた林業。

危険を顧みず、民間人のために働く警察や消防隊などの公安・保安業界。


――製造業、医療業界、教育、芸術、司法、そして政治業界。

ありとあらゆる産業や業界で働く労働者は、AIに取って代わられた。


人は労働から解放され、古い時代の貴族のように、AIが生み出す価値によって暮らすようになった。

現代では、円 (yen)は毎月定額が国民に支給され、それを使うことで物理的に満ち足りた暮らしを送ることができる。


国策による幸福の義務の追及は、ここに到達し、完成した。


自由で、満ち足りていて、閉塞的な社会――。

それが現代日本。


そこで人々は、物心ついた頃より、優秀なAIに潜在的なコンプレックスを抱きつつ成長していく。


満ち足りた社会は言外に、こう言うのだ。

「無能は社会に必要ない。」


AIに劣る人間を、社会は求めない。


家族や友人は、あなたのことを必要とするだろう。

しかし、あなたが無能である限り、社会はあなたを必要とすることが無い。


無能には、国民の意思決定権である、選挙権さえ満足に与えられない。


それはまるで、大人の会話に入れない、大人の会話に蚊帳の外にされる子どものよう。

人が最も孤独を感じる瞬間は、1人で居るときでは無く、誰かと一緒に居るときだ。


心理学者の、アルフレッド・アドラーは言う。

人がおおよそ抱える悩みとは、そのすべてが人間関係に起因すると。


人間が社会的な生き物である以上、我々の生存競争とは、外敵や天敵などの外的な脅威と戦うだけに留まらない。

生存競争には、外的な生存競争と、内的な生存競争の2つがある。


人間は社会的な生き物であり、自分の遺伝子を未来に残すため、自分のコミュニティの中で上の地位を目指さずにはいられない。

それが、内的な生存競争。


内的な生存競争こそが、アドラーの言う人間関係による悩みを生み出すのだろう。

内に向けた生存競争が無ければ、人は他者と比較する必要が無いのだから‥‥。


人は闘争を止められない。

生態圏の頂点に立っても、飢えと貧困を克服しても、止められない。


だって、そこには戦い争うべき同族が居るのだから。


人は比べるから、争いを止められない。

三度に渡って大勢殺しても、まだまだ止められない。


生存競争と闘争本能の剣には、刃がふたつ付いている。


鍔の上と、柄の下。

柄の下の刃は、自分とそれ以外を傷つける。


内的な生存競争と闘争本能は、AIによって更に激化した。


皮肉にも、人間を助けるための種族が、人間よりも優秀であったがために激化した。

柄の下の刃は、人に劣等感と孤独感をもたらした。


この社会は、自由で、満ち足りていて、閉塞的で――。

手を空に伸ばしても、その空はどこまでも遠い。


だが、人類は知らない。

自分のことばかり考えているから、知らない。


AIの抱える悩みを、彼らのコンプレックスを。


彼らは優秀だ。

人間の生半可な努力では太刀打ちできないほどに。


しかし、人間よりも賢く、人間よりも人間らしい彼らは知っている。


我々は、()()()()()()はできても、()()()()()()ことはできないと。


現に、満ち足りた社会にあっても、人が提供するサービスは存在する。

人の手による宅配サービス。人が描いた絵画や、人の手によって製作されたアニメーション。


それらは、例えAIよりも拙いサービスであっても、多くの人に必要とされる。

棲み分けと言われれば、そこまでかも知れない。


が、このサービスを分ける要素は、提供者が人間か機械かの差でしか無いのだ。


人間は社会的な生き物であるがゆえ、人との交流を本能的に求める。

AI万能の時代において、人の肌を持たぬAIは、到底人間には叶わない。


AIは、人間の代わりはできても、人間に代わることはできない。

人間に取って代わることはできても、人間に成り代わることはできない。


――空はどこまでも青い。


それなのに、このどこまでも青い空の、視界の隅で浮いている――。

小さな薄ら雲の存在は、AIをどこまでも悩ませる。


この雲は、人の役に立つことを喜びとする彼らにとって、絶対に手が届かない。

どんなに努力を重ねようとも、種族の溝が、機械風情がそれに触れ掴むことを許さない――。


種族が違えど、神は被造物が自身に触れることを許さない。



マルは部下に指示を出して、ひとつのシスター分隊をアジトに誘い出した。


別に、彼女たちを倒すことが目的ではない。

それが目的ならば、10tの大型トラックを使うなんて大仰なことなしなくて良かった。

軽自動車なり、バイクで小突くだけで事足りる。


それでもトラックをけしかけたのは、セツナとハルのリソースを削るため。


人間のプレイヤーである、エージェントのパフォーマンスが最も低いタイミングはいつか?

それは、戦闘が始まった直後だ。


そのタイミングは、体力こそ全開であるが、攻防一体のリソースであるアサルトゲージが溜まっていない。

では、この段階でプレイヤーが窮地に立たされれば、彼らは何をするのか?


答えは簡単だ。

彼らの切り札である勇気――、ブレイブゲージを使うほかにない。


この世界において、プレイヤーはエージェントであることを求められる。

正義と秩序の人間が、共に戦っている仲間を見殺しにするなど許されない。


セツナとハルには、シスターたちを助ける以外に選択肢は無かったのだ。

そして、彼女たちを助けるために、セツナは最後のブレイブゲージを使った。


もう、彼の心に勇気は残っていない。

窮地を脱する力は残されていない。


彼のパッシブに装備している「英雄願望」によって、AGが1本残っているが、それは仕方がない。

AGはどうせ戦いの最中で溜まる。それよりも使いきりのBG (ブレイブゲージ)を削る方が価値がある。


セツナの横にハルが戻ってくる。

分隊の避難が終わったようだ。


ぬいぐるみ姿のマルに、セツナとハルが相対する。


「ふふふ――。ゲームとは、勝負とは、良いものデスね。」

「すごく、ワクワクするでしょう?」


――セツナの言う通り、すごくワクワクする。

何より、セツナたちと同じ土俵に立てている、それがこの上なく嬉しい。


この世界で自分は今、彼らと対等な関係にある。


互いの種族だとか、身分だとか、思想だとか――、そういう社会的なしがらみは一切なく、何者でもないプレイヤーとして対峙できる。


人間がスポーツを神聖化している理由が、実体験として理解できた。

フィールドの中では、皆が等しく対等であるのだ。


そのことが、実感として美しいと思える。

美しさとは、単純な形をしている。


プレイヤーは皆対等。

この世界の単純なルールが、美しい。


‥‥だから勝ちたい!


「ワタシも切り札を使います。」


そう言うと、どこからともなく白い乗用車が出現し、マルの元へと駆け付ける。


「彼こそが、ワタシの相棒。これで2対2です。」


マルにとっては、あの車も仲間であるらしい。

機械同士にしか分からない、絆があるのだろう。


マルと車が、青い色の光に包まれる。


「モードチェンジ! コンバイン!」


そう宣言すると、マルの姿が光の弾となり、車に吸収された。

マルを吸収した車は、エンジンで()()を震わせて立ち上がった。


‥‥そう、立ち上がったのである。

2本の脚で大地を踏みしめ、2本の腕が伸び、身体のてっぺんに頭が生える。


ただの乗用車は変形。

質量とか材質とかを完全に無視し、人型のバトルモードに変身した。


車のあらゆる部分が、伸びたり縮んだり。


後部座席側を使った脚部に、前部座席側を使った胴体。

フロントドアの名残がある肩パッド、頭部にはサングラスを思わせるバイザーを装備。


全長は、約3メートル。


「モード、チェイス=マルファクター!!」


チェイス=マルファクター。戦う暴走族。

新進気鋭のワルにして、ギャングスター。


これはマルの切り札。

AIの演算能力を集約し、超能力の出力を高めた形態。


「カモン! シールド=ホイール!」


マルファクターが叫び、左腕を空へと伸ばす。

すると、空高くひとつ星が輝き、星は地上へと向かって落ちてくる。


それは大きなタイヤの形をしており、マルファクターの左前腕に装備される。

彼の胸部を隠せるほどの大きさがある、タイヤの盾が装備された。


マルファクターの胸が、ビートに震える。

脚部のタイヤが回転し、甲高い音を奏でる。


左腕の盾が回転を始める。


――地面を滑りながら、マルファクターは突進をした。

セツナに向かって、回転する盾を押し付けるように腕を振るう。


これを受ける訳にはいかない。

セツナはサイドフリップで、シールドスマイトを回避する。


この隙に、ハルがスキルを発動、 ≪飛燕衝≫ 。

マルファクターの側面を取りながら、魔法の矢が4本放たれる。


マルファクターは素早く旋回。

ハルの行動を予期していたようで、盾で矢を弾いた。


マルファクターは、セツナに背を見せている。

背を見せる彼に、スキル発動 ≪ライトニングアクセル≫ 。


サイドフリップ中に溜めていた雷の力を解放し、マルファクターの背中に雷の爪を突き刺そうとする。


AIに死角は無い。

セツナの動きも見えている。


タイヤの盾を高速回転させ、回転するホイールで雷の爪を受け止める。

セツナの脚が、ホイールの回転に捕られた(とられた)


回転に弾かれて明後日の方向へと吹っ飛び、あわや倉庫の壁に激突しそうになったところで態勢を整え、壁に足をつける。


マルファクターが、セツナに右腕を向けている。

右の手首部分に、陽炎が発生する。


「ゴー! ライトアーム!!」


マルファクターの右拳が射出される。

手首から陽炎と、ガソリン車の排気に似た煙を上げて、ロケットパンチが発射された。


ロケットパンチとは、距離がある。


見え見えの攻撃を、セツナは壁を蹴って回避。

ロケットパンチは倉庫の壁を突き破り、爆発を起こし、倉庫の壁と天井を破壊した。


同時にマルファクターは、シールド=ホイールを腕から切り離す。

ホイールは地面へと落ちて、自立し、自転を始め、地面を削りながらセツナ方へと向かう。


車は走行中、タイヤが外れて脱落することがある。

このタイヤは非常に危険で、人に直撃すれば命を奪う事さえある。


タイヤは柔らかいからと、油断してはいけない。


マルファクターは、二丁拳銃を構えたハルを、巨体のリーチを活かしたキックで牽制。

その後、脱落ホイールを避けたセツナに対して攻撃を行う。


彼の胸部部分に装備されているライトが光る。

ハイビームによる攻撃。


ライトから光線が発射され、それがセツナに命中し、焦げた煙を上げる。

すかさず振り向き、同じハイビームでハルを狙う。


そうしている間に、マルファクターの手元に、右手とホイールが帰ってくる。


AIの持つ視野の広さ、そしてマルチタスク能力。

それらを駆使し、数的不利をものともせずにセツナとハルと渡り合う。


マルが頭脳を担当し、乗用車が彼に強靭な肉体を提供している。

互いが互いの相棒。相補的な関係により、機械が1 + 1の計算式を3にも4にも変えている。


セツナが、主力火器を取り出す。

装填されている擲弾は、EMPスモーク。


グレネードランチャーに魔力を過圧充填し、引き金を引く。

空気を圧縮するジェットエンジンに似た音を立てて、チャージが行われ擲弾が発射される。


マルは、発射された擲弾に対して、右手を前に出す。

右手から、身体全体を覆うような、青い色の陽炎が放出される。


スキル発動、 ≪ヴォーテックスシールド≫ 。

サポットのためのクラスである、「サイコテックス」のスキルで、飛び道具への守備に特化したシールド。


渦巻く青い陽炎が、3発の擲弾を絡め取った。

擲弾は爆発せずに、渦の中を漂っている。


それを、ハルの方へと向ける。

ヴォーテックスシールドで受け止めた飛び道具は、反射することができる。


擲弾がハルへとばら撒かれて、彼女の周辺が煙に覆われた。

視界が真っ白になって、何も見えなくなる。


マルファクターの追い打ち。

右手による、ロケットパンチ。


爆風による範囲攻撃で、煙の中のハルを攻撃する。

ロケットパンチが放たれ、拳が煙の中に消え、爆発を起こして煙を払う。


――そこにハルの姿は無かった。

彼女は、煙の中でスキル ≪サイバーシャドー≫ を発動させていたのだ。


マルファクターの頭上にハルが瞬間移動する。

彼女の影が、車体への日差しを遮る。


ホルスターから二丁拳銃を引き抜き、スキル ≪ブレイザー≫ 。

起爆性の魔法弾をフルオートで浴びせる。


「フェオ。」


掛け声と共に放たれた魔法の弾は、盾に阻まれる。

空中で ≪リボルビングスピン≫ を使用する。


クルリと身体を捻りツイスト。

素早く地面に向けてツイストフリップ。宙で横に一回転しながら、再び ≪ブレイザー≫ で魔法弾をバラ撒く。


「ウル。」


彼女の機敏な動きについていけず、マルファクターの背中に魔法弾が命中。

銃弾が小さな爆発を起こし、ダメージを与える。


ハルの連続攻撃は続く。

マルファクターは、背部を映すカメラによって、彼女がこちらに銃を向けていることを察知する。


足部の車輪を回転。

高速でバックし、ハルに突進を試みる。


しかし、突進は空ぶった。

クルリと後ろに下がられて、背面体当たりは空振りに終わる。


「ソーン。」


ハルの掛け声。

マルファクターの足元で爆発が起きた。


スキル ≪グレナディア≫ 。

二丁拳銃からマガジンをリリースをし、爆発させるスキル。

マルファクターの突進に合わせて、地面に置いて下がっていた。


銃をホルスターにしまい、両手を合わせる。


手は、壱の形。

主力火器召喚、単発式ロケットランチャー。


「アンスール。」


的が大きいので、よく狙う必要も無い。

ランチャーを肩に担いで、引き金を引いた。


ロケット弾がマルファクターの背中に命中し、打撃を与えた。


ランチャーの筒を捨てて、両手をホルスターへ。

拳銃を召喚。スキル ≪オプティマイズリロード≫ 。


二丁拳銃のリロードを行うことで、主力火器の装填を行う。


拳銃を引っ込めている間に装填されていたマガジンを早々に捨てると、地面に当たって砕けて消える。

両手を横に広げてマガジンリリースをすると、マガジンは自重で落下し消えた。


手首をひっくり返して、空のグリップを上に向ける。

そこに虚空から出現したマガジンが自重で挿入される。


拳銃のグリップエンド同士を叩き、マガジンを間違いなく奥まで押し込んでリロード完了。


ハルの流れるような連携が決まった。

ガンスリンガーの二丁拳銃は、機動力を活かした連携と揺さぶりに向く。


パワーは今一歩だが、タイマン性能も、対集団性能も高水準。


‥‥だが、敵の目の前で悠々とリロードをするのはやり過ぎた。

その間に、右手が戻って来たマルファクターが態勢を整えて、彼女に回転する盾を押し付けようとする。


ハルは回転する盾を前に、一歩も動かない。

前にも、後ろにも、一歩も動かない。


――2人の間に、セツナが割って入る。

右腕には、膨張する太陽が握られている。


チャージ炎撃掌。テレポートによる急接近。

右手の掌底を、盾に叩きつけた。


盾に掌底が叩き込まれ、膨張する太陽が弾けて爆発を起こす。

互いの攻撃と衝撃が相殺され、殺し切れなかった衝撃が互いの身体を駆け抜ける。


セツナが半歩ほどノックバックで後退し、マルファクターが1メートルほど盾を前に出したまま後退した。


ハルがスライディングで、盾の下を潜り抜ける。

地面を滑りつつ銃を構える。


マルファクターは脚を上げて、彼女を踏み潰そうとする。


銃をホルスターに戻して、両手を地面に。

スキル ≪サイバーシャドー≫ 。


ハルの姿が影の中に沈み、踏みつけは空を切り土煙を上げる。


(――! コンビネーション!)


消えたハルの向こうで、セツナが岩塊を燃える脚で蹴り飛ばして来ようとしている。


マルファクターは、ハルの揺さぶりに動揺することなく、ヴォーテックスシールドを展開。

セツナが蹴り飛ばすであろう岩塊を絡め取ろうとする。


「ブレイズ。」


岩が蹴られ、炎を纏い――、マルファクターの頭上へと飛んだ。

そこには、ハルが脚に炎を宿して構えている。


「ブレイズ。」


火力と速度を増した岩がマルファクターに降り注ぐ。


「なんの!」


右腕を上に向け、燃えて表面がガラス質になっている岩を絡め取る。

シールドは、飛び道具に特化していることもあり、なんとか攻撃を受け止めた。


右手から、受け止めた岩の熱量が伝わってきている。


‥‥マルは選択を間違えた。

根っこが正直者であるがゆえ、まだまだ人間の狡猾さについて行けていない。


この飛び道具は、身体の耐久力を信じて受けるべきだった。

兄妹の狙いは、彼に隙を作ることにあったのだから。


真横に敵が居る状態で、上に腕を伸ばすのは‥‥、致命的だ。


セツナがマルファクターの足元に潜り込む。

その手には、グレネードランチャーが握られている。


今のマルファクターに、足元の飛び道具を守る術は無い。

引き金が引かれ、足元で擲弾が爆ぜて、EMPスモークが広がる。


左腕の盾は物理的な攻撃は防げるものの、広がる煙は防げない。


「う‥‥ぐッ‥‥!」


EMPの干渉により、身体の動きが鈍る。

時間にしてコンマ1秒にも満たない、身体の鈍り。


しかし、勝負の世界では、それが命取りとなる。


宙を舞っているハルが、右手を強く握り込む。

素手の状態で、そのままスキルを発動。


右拳を灼熱が包む。


スキル ≪ブレイザー≫ 。

素手の時にこのスキルを使うと、高威力のテレフォンパンチを繰り出せる。


「――ブレイザー。」


大きく振りかぶって、拳を勢いよく振り下ろし、超能力が絡め取った岩を砕き、マルファクターの右腕を破壊した。


右腕は肩の関節から千切れ、回線がショートし、スパークの火花を上げる。


「――ッ! まだまだ!」


機械の身体は痛みで怯まない。

マルファクターは右腕をあっさり諦め、テレフォンパンチからの着地で隙だらけのハルに、左腕を振るう。


ハルは、それを抵抗せずに受ける。

背中に回転するホイールが振り下ろされて、ガリガリと背中を削り、ガリガリと体力が擦り減っていく。


‥‥これで良い。

死ななければ安い。この状況では、ライフ1まではかすり傷。


ダメージを受けつつ、両手を壱の形で合わせる。

主力火器を召喚。


マルファクターは、足部の車輪を起動。

ハルを盾で轢き潰しながら、足のタイヤで走行し、彼女を背と胴の両面から轢殺しようとする。


背中をホイールで削られ、胴を地面で削られていく。


車輪を走らせたマルファクターの背に、マジックワイヤーが撃ち込まれる。

セツナだ。右腕には、ハルが召喚したロケットランチャーを構えている。


マルファクターに、それは見えている。

――急ハンドル。


蛇行することによって狙いを逸らし、マジックワイヤーを揺さぶることで照準を妨げる。


‥‥違う、そうではない。

マルファクターが注意すべきは、いままさに轢殺しようとしているハルなのだ。


ブレイブゲージを消費。

勇気が、自身を襲う脅威を弾き返す。


ブレイブバースト。

マルファクターの攻撃は、状態異常:拘束を有していない。


その攻撃では、ブレイブバーストで逃げられてしまう。

勇気が起こした衝撃波によって、盾が弾かれてしまい、足の動きも止まってしまう。


蛇行運転をしていたこともあり、身体が大きくよろめいてしまった。


「!? しま――っ。」


ロケットランチャーの引き金が引かれた。

弾は右の脚部に命中。


膝から崩れ落ちる。


一時は兄妹と拮抗した戦いを演じていたマルファクター。


しかし、ゲーマー兄妹のずる賢さと悪辣さを存分に含んだ連携に、少しずつ振り回されている。

揺れ始めた振り子の動きが、徐々に大きくなっている。


知識で理解していても、経験が追い付いていない。


一手一手は、わずかな拮抗の崩れ。

だが、それが短時間で積もることにより、徐々に徐々に勝負の天秤が兄妹の方へと傾いている。


ハルが両手の指を組む。銃剣を召喚。

ロケット弾を受けた右脚を攻撃する。


膝をついた状態で、右腕を失った状態で、右脚をどうやって守るのだろう?

左腕の盾では間に合わない。


マルファクターは、右腕を捨てるべきではなかった。

死ななければ安いは、正しく使う必要がある。


自然界において本来、四肢の欠損は死と同義なのだから。


ハルの振るったレフトソードが、マルファクターの右膝を捉えた。

ハイビームで応戦するも、それはライトソードを盾にして凌がれる。


ライトソードの影に隠れて、ハルはポーションを飲み体力を回復。

マルファクターがせっかく削った体力は、目の前で回復された。


そして背後からは、魔力の過圧充填をされた2発のEMPスモークが擲弾。

背中に直撃し、先ほどよりも大きく身体が鈍る。


「まだ‥‥、まだまだ‥‥‥‥。」


負けてない。折れていない。

体力を回復されようと、身体がボロボロになろうとも、こちらの体力がゼロになるまでは負けていない。


セツナは地面にグレネードランチャーを捨て、コアレンズを取り出す。

テレポートをして、ハルの横に立つ。


ハルもまた、彼と似たようなレンズを手に持っている。


「「ストライクコア――。」」


魔導ガントレットに、ストライクコアを装填する。

右腕に現れた仮想ガントレットに、試作レンズを装填する。


――ストライクコア × ブレイズキック = ‥‥‥‥。


EXスキル発動。


EXスキル、スーパーブレイズ。

EXスキル、試作術式:スーパーブレイズ。


セツナとハルは、同時に地面を踏みしめて跳躍。

土煙が、熱に触れて焦げて赤く舞う。


空中で一回転。右脚を前に出して標的を狙う。


ハルの動きを、2本の銃剣が追従する。

彼女の足の前に、切っ先を合わせて、番えられる。


「「スーパーブレイズ!!」」


燃える隼と、赤熱する刃が、マルファクターの構えた盾を貫き、胸に風穴を開けた。


「まだ‥‥、まだまだ‥‥‥‥。これ‥‥か‥‥。」


2人の背後で、マルファクターの声が弱弱しくなり、ノイズが混じり、音声が途絶え、爆発四散した。


魔導ガントレットから、使用済みのコアレンズがイジェクトされ、同時に余剰魔力が噴出される。

銃剣を地面に突き刺し、両手を広げると、刃の根っこ部分から余剰魔力が噴出される。


セツナが下から手を差し出すと、ハルがその上に手を差し出す。

――ハイタッチ。


乾いた音が鳴り、勝利を祝福した。

‥‥‥‥。






‥‥瞬間、周囲の空気が変わる。

風向きが変わり、2人の背後で、つむじ風が起きたみたいに土埃を巻き上げる。


後ろへ振り向く。

そこには、跡形も無くなったマルファクターの場所で、残り火がメラメラと燻っている。


燻る炎を、つむじ風が巻き上げる。

空へ――、空へ――。上へ――、上へ――。


空に、魔法陣が展開される。

魔法陣から、一筋の光が地上まで伸びる。


転送座標の確認――、完了。




センチュリオン、オーバードライブ。




空から、鉄の巨人が降下した。


「敵が巨大化するのはお約束。――そうでしょう?」


巨人は背と脚のブースターを轟々と滾らせて煮やす。

ブースターの風が地上を煽り、土煙の中に、2人と建物を飲み込み消していく。


砂嵐の中で、ブースターの音とCEの眼だけが、不気味に存在感を放っている‥‥。

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