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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4.5章_1_兄と妹のデッド・オア・アライブ

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112/229

SS6.10_バトルモーターショー

地上2000メートル。

雲の上のモーターショーは、バトルショーへと演目を変える。


戦闘に関わらないチンピラたちは、おもむろにビルの窓を銃で割り、空へと身を投げる。


「イヤッホォォォォ!!」


次々と、チンピラたちは空へと繰り出し、モーターショーの会場を後にしていく。

悪党がサツに追いかけられたらとき、選択肢は2つ。


戦うか、逃げるか。

逃げるのだって立派な戦術だ。


逃げれば、また悪さができる。


それに、下手に戦いに参加しては、自分たちの頭目であるマルの邪魔になってしまう。

だからこそ、マルについて行ける連中を残して、ここは逃げる。


首尾は上々、前もって会場に運び込んでいたバラシュートジャケットを装備して、瞬く間に戦いに参加しないチンピラは逃げて行った。


マルが統率することにより、彼らは備えと要領が良くなっている。


これで、戦いを邪魔する者はいなくなった。

思う存分、戦える。


セツナとハル。

魔導拳士とガンスリンガー。


マルとゴロツキ6人。

AIと、強化ナノマシンのドーピング。


――戦いの火蓋が切られた。

先制したのは、エージェントの2人。


セツナの脚に銀色の魔力が宿り、ハルが二丁拳銃に魔力を送る。

スキル発動、 ≪シルバームーン≫ ≪飛燕衝≫ 。


ゴロツキの2人に、銀色の刃と魔法の矢が4本迫る。


ガンスリンガーは、様々な銃火器を持ち替えて戦うクラス。

二丁拳銃は、スキルにより魔力の弾丸を撃ち出す武器。


銃というよりは、メイジの魔法杖に似ている。


ゴロツキは、魔力による攻撃を腕に装備したガントレットで弾く。

魔導兵器によって戦闘能力の強化がされており、生半可な攻撃は通用しないようだ。


マルがモーターショーのために整列された車をハッキングして操る。

車2台が、セツナとハルに向けて暴走して突撃する。


セツナは、右手に火球を生成。

スキル ≪炎撃掌≫ 。

火球を握り潰し、右手に太陽を宿す。


ハルは、拳銃をホルスターにしまう。

そして、両手を指を組んで合わせる。


ホルスターから拳銃が消える。

武器の交換。武器を拳銃から――、銃剣へ。


ハルの斜め上の空間に、2本の巨大な銃剣が召喚される。


彼女のビルドは、銃剣ビルド。

巨大な2本の銃剣、刃渡り3メートルにも及ぶ、片刃の特大剣を駆使して戦うビルド。


巨大な刃を、CEのリンクシンクロの技術を転用し、電脳野で操る。

豪快で派手な見た目、繊細でテクニカルな操作。

やり込み要素の鉄塊。


セツナが右手の掌底を前に振り抜き、ハルが右手を上から下へ振り下ろした。


車は爆ぜ、車は両断され、それぞれ爆発を起こす。

2人のAGが普段よりも多く回復する。


ハッキングされた車は、強力な飛び道具扱いのようだ。

回避したり破壊したりすると、AG回復にボーナスが付く。


セツナは、車の正面衝突を完全には相殺しきれず、ノックバック。

ダメージを受けて体力が減り、右手をぷらぷらと振っている。


車のミサイルは、残弾豊富。

この会場には、100台を優に超える車と、同じくらいのバイクが並んでいる。


それに、違法ドーピングをしたゴロツキが6人。

もたもたしていたら、数の暴力で潰される。


「「‥‥‥‥。」」


言葉を交わす必要も、目配せをする必要も無い。

セツナとハル、考えることは一緒。


物心ついた頃から一緒に居る、兄妹の意思疎通。


((一気に畳み掛ける!!))


作戦は決まった。実行に移す。

作戦の中身は、アドリブで充分。


ハルが銃剣のひとつを、地面と水平に寝かせる。

銃剣はシンクロにより、腕の神経とリンクしている。


腕を動かせば、銃剣をその通りに動かすことができ、電脳野での操作よりも直感的な操作ができる。


左手を地面と水平に寝かせると、それに追従してハルの左側で浮いている銃剣が水平になる。

そこにセツナが飛び乗る。


銃剣の腹に、セツナが飛び乗った。

コアレンズを取り出す、2枚。


青いレンズと、剣のシンボルが描かれたレンズ。


ハルが、セツナの乗った銃剣を、炎を纏った足で跳躍して蹴り飛ばす。

特大剣に炎の魔力が伝達し、刃が炎と熱を帯びる。


銃剣は、ゴロツキの1人に目掛けて勢いよく飛翔する。


さすがに、これは受けられない。

そう思ったのか、ゴロツキは回避を行った。


銃剣は床に突き刺さろうとして、刃に纏った魔力が爆ぜて床を抉り、床に転がった。


回避をしたゴロツキを、マジックワイヤーが捕まえる。

セツナのマジックワイヤー。


ゴロツキが、ワイヤーによって巻き取られる。

彼の眼前には、石の棺桶を背負ったセツナの姿が移った。


魔導ガントレットが、黒煙を吹く。


「潰す!」


火薬の力で、石の棺桶をしならせる。

片腕の膂力では到底動かない眠れる獣が、火薬の煙で目覚めて牙を剥く。


ゴロツキの1人が、巨獣の牙に倒れた。

山のような質量を身体に受け、吹き飛び、戦いを静観する車を3台ほど錐もみしながら戦線から離脱した。


ゴロツキの姿が光に包まれて消える。

テレポートによる脱出。


棺桶が、セツナの手元で暴れる。

眠りを邪魔されたことに怒り(いかり)、主人を巨体と質量で振り回そうとする。


セツナは、ぐずって駄々をこねる、獣の首に巻かれてある鎖から大人しく手を離した。

機嫌が収まるまで床に放置する。

こうすれば、振り回されることは無い。


棺桶が、床のフローリングを削りながら、そこに寝そべり、また眠りにつく。


床に転がっている特大剣の柄を握る。

全長が3メートルを超える特大剣。


人が振るうには大きすぎる得物の柄を、脇に挟んで抱え込む。


ゴロツキ2人と車がセツナに襲い掛かる。

銃剣は、人が振るえるようにはできていない。


隙だらけの彼の背中から、強化人間と車両が束になって襲い掛かる。


セツナは抱え込んだ剣を横に振ろうとしてみる。

が、ビクともしない。


‥‥それで良い。

動かないのは、それだけ重い証拠だ。


「でぇぇぇい!!」


火薬が爆ぜた。

人の膂力を軽く上回る力が、重い銃剣を軽々と動かす。


横に360度、刃渡り3メートルの特大剣が薙ぎ払われた。

車の群れはバターのように切り裂かれ、ゴロツキはガントレットを砕かれて吹き飛ばされる。


ゴロツキの残り、3人。


さらに火薬を追加。

もう一回転。


先ほどよりも勢いと切れ味を増した暴風が会場に吹き荒れる。

セツナの周囲にゴロツキが1人、残り2人はハルの方。


彼と相対するゴロツキは、切れ味鋭い台風に近づかない。


台風は、飾られた状態の無辜(むこ)の車を両断し、廃車に変えていく。


さらにさらに、もう一回転。

暴力と破壊の限りを、屋内で発生した台風は尽くしていく。


彼が通った場所には何も残らない。何も残さない。


銃剣に振り回されながら、セツナは足に炎を宿す。

抱えていた銃剣を手放し、宙に放り、柄を蹴り飛ばした。


銃剣は、主であるハルの方へと戻っていく。


魔導ガントレットから、剣のシンボルが描かれたレンズがイジェクトされる。

棺桶を拾い直して使おうとも考えたが、車に邪魔されそうな気がしたのでやめた。


捨てた武器は拾えるとは思わないこと。

戦いの鉄則だ。


右手を下に、床に向けて掌を開く。

炎撃掌のチャージ。


先ほど銃剣を振り回したおかげで、何人たりともセツナに近づけていない。

チャージをするなら絶好のチャンス。


これで、残りの1人を仕留める。



銃剣をコントロールできるのは、ハルから10メートル以内の範囲。

そこを離れると、電脳野で制御できなくなり、武器をしまうことができなくなる。


ゴロツキの1人が、ハルの懐に潜り込む。

銃剣は、近接戦闘を苦手とする。


巨大であるがゆえに大振りで、細かい操作が利かない。

ならば、どうするか?


銃剣が使えぬなら、拳で戦えばよい。


顔面を狙ったストレートを右手で払う。

払いつつ、自分も距離を詰めて、密着状況を作る。


ゴロツキの上着を両手で掴む。

掴んで、腹部に膝蹴り。


かろうじて、ゴロツキの左腕が膝蹴りを凌ぐも、気にせず膝を連打。

2発、3発、4発を撃ち込んで、ゴロツキに反撃の意思が見えたところで、ゴロツキを自分の方向へと引き込む。


反撃しようと、前に意識がいったところで、ハルが上着を強く握って彼女の方へと引き込む。

ゴロツキのバランスが崩れる。ハルのバランスも崩れる。


崩れたまま、後ろに背中から倒れ込み、上から降ってくるゴロツキの股に足を添える。

――巴投げ。


ハルは、引き倒したゴロツキを、頭の後ろ方向へと投げ飛ばした。

そこに、タイミングを見計らったかのように、セツナを乗せて蹴り飛ばしたレフトソードが戻ってくる。


仰向けからうつ伏せに素早く反転。


「――そこっ!」


左手を、上から下に振り下ろした。

刃を燃やす銃剣、左腕の神経とリンクしているレフトソードがゴロツキに命中した。


質量と魔力を宿した一撃は、ドーピングによってタフになった肉体をもってしても耐えきれず、戦闘不能となる。


――スキール音。

寝そべっている身体が、タイヤの騒音と、エンジンの振動を感知する。


自分を引き潰そうと、車が暴走してくる。


床を転がり、車の下に潜り込んでやり過ごす。

身体の上を通り過ぎて行く車体を見送りながら、両手を合わせる。


武器の交換。

ガンスリンガーの武器変更は、ウェポンシフトアクションという動作をすることによって行われる。


両手を合わせる動作は、主力火器を呼び出すための動作。

銃剣が消え、手元にポンプアクションショットガンが現れる。


クラスの能力により、3つ装備できる主力火器のうちのひとつ。

2点バーストで、ドラムマガジンを装備し、マイクログレネードを射出するショットガン。


立ち上がる。バックで暴走してくる車を、ヒラリと身を翻して躱す。


スキル ≪リボルビングスピン≫ 。

移動距離は短いが、移動速度の速い回避スキル。


クルリと横に一回転して、車を躱し、横っ腹にショットガンの二連撃。

2点バーストによって、爆発する子弾がばら撒かれ、車を廃車に変えた。


ポンプを引きコッキング。


殴り掛かってくるゴロツキに射撃。

目の前に、爆発による火の壁が発生。ゴロツキにダメージを与える。


それでも気にせずに彼は突っ込んで来る。

≪リボルビングスピン≫ で距離を取りつつ、ショットガンを手放す。


手を離すと、ショットガンは消える。


腰に装備した2つのホルスターに触れる。

武器変更、二丁拳銃。


銃をホルスターから引き抜く。


さらに、スキル発動 ≪ブレイザー≫ 。

銃に爆発性の魔力が充填される。


引き金を引くと、それはフルオートで射出され、ゴロツキを襲う。

連続の爆発に晒られて、彼は怯んだ。


銃を持ち返る。

宙に軽く投げて、銃のバレル部分を握る。


鈍器と化した銃で、殴打。

右の銃で側頭部を狙い、それがガードされば、左の銃で脇腹を狙う。


それもガードされたら右手で鼻っ柱を狙い、次は左手を大きく振りかぶって――、金的。

ワザとらしい大きな動きで意識を上に向け、不意打ちの蹴りによる金的がキレイに入った。


ゴロツキが悶絶する。


スキル発動 ≪リボルビングスピン≫ 。

高速機動の遠心力を利用して、銃床でゴロツキの顔を殴りつけた。


銃を持ち替え、握る場所をバレルからグリップへ。

射撃ができる構えに直してから残身。


右半身になり、姿勢を低く。

右脚と右腕を伸ばし、左脚と左腕を引いて、銃口を倒れたゴロツキに向ける。


リベリオンスタンス。

ガン=カタと呼ばれる、架空の銃戦闘術の残身。


ゴロツキは全員排除した。

車が動く気配も無い。


セツナの方でも、服の胸元が涼しくなったゴロツキが、車のフロントガラスにを割って助手席で昼寝をしている。


残身を解いて、スキルを発動。

オプティマイズリロード。


拳銃のマガジンリリースボタンを押し、マガジンを捨てる。

すると、目の前に虚空から新しいマガジンが出現し、それを空になったグリップの中へと押し込む。


この装填動作により、主力火器のリロードがなされる。

ガンスリンガーは、主力火器を3つ装備でき、ひとつひとつを個別でリロードしていては時間がかかる。


オプティマイズリロードをすれば、3つの主力火器すべてのリロードが完了する。

最適化されたリロード。


戦いの会場は、静かになった。


宙に車と一緒に浮いたままのマルの前に、セツナとハルがやって来る。

2人を前にして、2人の戦いぶりを見てなおも、マルは余裕の様子。


「フフフ――。さすが、やりますね。」


「マル、もう降参?」

「こんなんじゃ、私たちは止められないよ。」


数の暴力を、質の暴力で叩き潰した2人。

コンビネーションも相まって、ちょっとやそっと、数で叩いても間に合わない。


それは、マルも重々承知だ。

ならば、2人に勝つにはどうするか?


――こちらも、質で叩くのだ。


案ずることは無い。

悪行三昧で、リソースはたんまりと稼いである。


会場に、大きな影ができる。

黒くて、大きな、鳥のような影。


太陽の光を、何かが遮っている。


視線を窓の方へと向ける。

そこには、大型の輸送飛行機。

人だけでなく、車両を運ぶこともできる、大きな輸送機。


輸送機の姿を認めると同時、窓が割れた。

輸送機の後部ハッチは開かれており、そこから中に積載していた車両が飛び出してきたのだ。


車両は、会場に整列された車を踏み潰し、一目散にセツナとハル目掛けて迫ってくる。


「「!!??」」


会場に乱入してきたのは、一両の戦車だった。

ランドウォーカー。


スポーツカーに匹敵する加速性能と最高速度を備え、自力飛行も行える、セントラル製の戦車。


「くぅ~~~ッ!! リソースを湯水のごとく使って戦うの、たまんねぇ~~!」


ハイになったマルが、宙に浮きながら、恍惚の声色ではしゃいでいる。

情緒豊かなのは良いことだが、関心している暇ではない。


戦車の主砲がこちらを向き、砲撃が放たれる。


とっさに躱すものの、2人とも回避した先で、暴走したバイクに跳ね飛ばされてしまう。

戦車に意識が集中し過ぎて、それ以外への注意が疎かになってしまっていた。


戦車の走行音と、砲撃が屋内に反響して、その他の音を掻き消している。


()つつつ‥‥。」

「痛たたた‥‥。」


2人を囲むように、車とバイクがグルグルと周囲を走る。

ライオンやハイエナが狩りをする時のように、獲物の周りを包囲する。


その奥では、戦車がキャタピラの後を床につけながら、こちらに向かって来ている。


前哨戦は終わり。

ここからが、本当の人間と機械のPvPだ。

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