表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
4.5章_1_兄と妹のデッド・オア・アライブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/232

EX1_週刊エージェント_クラスと月の女神 ※番外偏

◆はじめに


ワンランク上のエージェント活動を提供する、週刊エージェント。

M&Cのコンビニで購入したり、現実世界のネットで閲覧したりすることが可能。


そこには、攻略に役立つHow to や、世界観の設定などの情報が1冊80ページ程度でまとめられている。

電脳世界で閲覧することを前提としているため、紙媒体なのに写真やイラストをタッチすると映像が視聴できたり、冊子の内容を動画で視聴できたりできる。


M&Cの発売から1ヵ月。

今回は、週刊エージェント第4号の内容について、その一部を抜粋しよう。


週刊エージェントを編集ているCCC広報部スタッフが言うには、この刊から徐々に、世界の秘密や根幹に触れる情報を提供していくらしい。


ちょうど夢の跡地への遠征をクリアしている攻略進度を前提とした情報が記載されており、プレイヤーが月の女神と接触し、この世界の秘密の一端に触れた状態での閲覧を想定している。



◆クラスとは?


〇魔法界の、ずば抜けた技術体系。


クラスという技術は、魔法界由来の技術。

M&Cの魔法界は、かつては相当に高度な文明が発展していたという設定がある。


よくあるファンタジー物では、地球と異世界を比較した場合、科学や文明の発展は地球の方が進んでいることが多い。


が、M&Cの魔法界は、分野によっては科学界のそれを遥かに凌駕しているモノも存在する。

クラステクノロジーは、その最たる例である。


クラスとは、魔力の効率的な運用を可能にする技術で、その本質は体系化された戦闘技術。

常人を超人に変え、誰であってもすぐに戦士として戦えるようになる技術体系であり、それは科学界の軍事訓練よりも遥かに発展している。


科学界の軍事訓練も、常人や凡人を最低限、兵士として戦えるようにするための訓練であり、戦闘技術である。

魔法界のクラスも同様の目的で使用されているのだが、クラスは常人を超人へと変える。


クラスを使わずとも英雄的な戦士となる者も存在するし、クラスによって英雄的な戦士になる者も居た。


通常、軍事において最も高価な兵器とは兵士だ。

人を育てるのは、新たな兵器を開発するよりもコストが高い。

人の成長は、時間では買えないのだ。


その点、クラスは1週間も訓練をすれば、それまで武器を全く握ったことの無い者であっても下級の魔物くらいは倒せるようになる。

魔法の万能性をこの上なく利用した技術であると言える。


〇クラスの起源


クラスは、脳裏にルーンを焼きつけることにより習得ができる。

このルーンが魔力の運用を助け、魔力に乏しい者であっても実用レベルの魔力運用を可能にしているのだ。


クラスルーンは、芸術家であり名工でもあった、スピークレスの作品であるとされている。

これは銀月の女神が四番目、樫の木のウィドルに着想を得た作品。


ウィドルは、木曜日の女神、勝利と文字の女神とも呼ばれ、知恵や魔法の象徴として信仰されていた。


ウィドルは慈悲深く、人間の助けになることを厭わない性格の女神。

しかし、彼女は同時に、病的なまでの人見知りであり、人前に現れるときは男性の姿に化けて出ることが多いとされている。


姿を変え、名を偽るため、ウイドールやウインドルなど、彼女に関する文献には容姿や名に表記ゆれが目立つ。

そんな、優しくシャイな四番目の女神を賛美するために、クラスルーンは生まれた。


優しい彼女らしく、クラスルーンは安全で、誰であっても自分の中に眠っている力を引き出すことができる。

‥‥どこぞの性悪な三番目みたいに、「誰でも神の力を行使できる。あとのことは知らん」みたいなヤベー奇跡を人間に授ける諸行とは大違いである。


クラスルーンとは、月の女神の信仰により、人の手によって作られた。

月の女神を賛美するために作られた作品だったこともあり、魔法界にて広く受け入れられ、発展し、凡人のための戦闘技術として、連綿と受け継がれていったのである。


月の信仰が薄れた時代であっても、クラスルーンだけは魔法界に残っていた。


月の女神の信仰は失われたのでは無く、それがあることが当たり前であり、その上で様々な神を信仰する文化が培われていった。

そのため、魔法界の多くの神は、歴史を辿れば女神の子であることが多い。


信仰する神を女神の子とすることで、崇拝の正当性を持たせ、銀月教との衝突を避けていたのだろう。


◆銀月の女神


〇忘れられた神話、創世記



魔法界には、忘れ去られた女神がいる。

かつて世界を生み出したと呼ばれた、女神がいる。


彼女は、全知全能であった。

ゆえに、世界には彼女だけがあった。


そこには時間も世界も無く、ただ彼女だけがあった。

そこは彼女が居るだけで満ち、完全であった。


しかし、そこにある時、悪魔が生まれた。

原初の悪魔と呼ばれる、一番最初の悪魔。


女神と悪魔は戦った。

世界には、全能の自分さへあれば良い。


完全こそが、最も安定した形である。

自分は、自分以外を必要としない。


戦いの末、悪魔は銀の剣に倒れ、女神は勝利した。


銀の剣が悪魔を貫いた時、悪魔からは夥しいおびただしい血が流れた。

剣を深く突き立てた女神は、悪魔の血を浴びた。


女神は、血の涙を流した。

涙の混じった血は、女神の全能を注ぎ、女神は全能を失った。


倒れた悪魔の上に、血と涙が流れ、地と雨となった。

悪魔の亡骸は大地に、大地と雨から生命が生まれた。


魔法界の民は皆、女神と悪魔の子どもである。


女神の全能は悪魔によって注がれ、彼女は七つに分かれた。

七つは姉妹となり、今も我が子が眠る揺りかごを揺らす。



〇創世記を読む


魔法界は、月の女神と原初の悪魔によって創られた。

この創世記には、いくつかの解釈があるが、その中で最もメジャーな解釈で解説をしよう。


まず、女神と悪魔の関係性について。

これについて、悪魔は女神の子とされている。


悪魔は他の世界の存在であるとされる説もあるが、神秘学者から多くの支持を得ているのは、悪魔は女神の子とする解釈である。


なぜ、悪魔は女神と戦ったのか?


原初の悪魔は混沌の主とされており、魔法界の種族である「フォーモリアン」や「悪魔族」たちに信仰されている。

混沌教によれば、混沌は秩序を内包し、混沌のひとつの姿として秩序があるのだと言う。


原初の悪魔はまた、調和の悪魔とも呼ばれており、個の全を良しとせず、全による(くう)こそが世界の有り方として望ましいと考えていた。


空とは八百万、すなわち無限。


彼の思想をかみ砕くと要するに、こういうことだ。

つまり、1人よりもみんなで居た方が、世界は楽しい。


悪魔が何を思って女神と戦ったのか?

孤独であった女神を思っていたのか?

それとも、彼女の独裁に反旗を翻したかったのか?


いずれにしても、原初によって魔法界は生まれた。


女神との戦いには敗れたが、自身の死を持って目的を達成したのだ。

女神は全能を失い、感情が生まれ、子殺しを嘆き悲しみ、その姿は七つに分かれた。



◆七曜の女神


銀月教において古くは、月の女神は1柱であると信じられていた。


しかし、とある神秘学者が、複数の女神の存在を示唆し、これが教会や大陸を巻き込んだ大論争を生んだ。

結局、その神秘学者は道半ばで病に伏し、自身の主張の正しさを証明するには至らなかった。


学者は言うのである。

「満ちては欠ける、天蓋に浮かぶ黄金を――。同じ夜などふたつと無いのに、どうして、それがひとつと言えようか。」


そこから時代が下り、異界渡りの英雄であるエフトラが遺した「エフトラ手記」によって、女神七曜説が有力となり、神秘学者の悲願が叶う事となった。


エフトラによれば、女神の名は次のようになっている。


銀月のアリアン。

灼銀のディーナ。

暗い月のリリウム。

樫の木のウィドル。

満月のフィオン。

輝けるシュミーシカ。

陽月のグラニー。


ただし、彼の手記にも真実とは異なるところがあり、そこは随時訂正が繰り返されている。

魅力的な女性とは、全てを決して語らないのだ。


〇銀月のアリアン


銀月のアリアンロッド、力と知識の女神、月曜の女神。


科学界のケルト神話にも登場する女神は、科学界と魔法界の両方に所縁(ゆかり)がある。

かつて、人とそれ以外の存在の距離が近かった時代、神は気に入った者を自分の世界に招いていたのだ。


アリアンロッドの名は、魔法界に招かれた科学界の者が後世に伝えたものであるとされている。

このことから、科学界の人間にも魔法界の血が混ざっており、それがディヴィジョナーが引き起こす厄災の原因となる。


さて、七曜の一番目である長女は、どんな性格をしているのだろうか?


エフトラ手記によれば、彼女は奔放な性格であったらしい。

紛れも無い美女であるのだが、子どもっぽい無邪気な笑顔が特徴的との記述がある。


また、彼女の妹が言うには、アリアンは全能を失うことにより、学ぶ喜びと成長する喜びをその身で味わい、その力は全能であった頃よりも大きくなっていると言う。


‥‥が、奔放な性格であるためか、その力は仲睦まじいカップルに天啓と称して()()()を吹き込むことに使われている。


大陸中を人の姿に扮して歩き回り、冒険者稼業で路銀を稼ぎつつ、甘味や紅茶に舌鼓をうち、カップルに火遊びを吹き込む。

この奔放さも、神の特権であるのだろう。


神の価値観に違わず、近親配に対する抵抗が薄く、妹たちと寝床を共にするほどに溺愛しており、妹たちを困らせている。


このように、奔放さが目立つ彼女ではあるが、二番目以降の妹たちを束ねるカリスマ性 (自称、お姉ちゃん力)と力を有していることは間違いなく、彼女が一声を発すれば、姉妹は一夜のうちに月の神殿に集う。



〇灼銀のディーナ


情熱と文明の女神にして、火曜の女神。


エフトラによれば、明るい茶髪を腰まで伸ばした女性であるとされ、その髪は戦いになると赤く燃え上がると言う。


ディーナは普段、奔放な姉に代わり、女神としての務めを担っている。

人の子に啓示を授けたり、優れた戦士による神前試合を祝福したり、おおよそ女神らしい行いは彼女によるものだ。


文明の女神に相応しい知識人で、人に機織りと鍛冶を教えたとされている。

武芸にも秀でており、あらゆる武器を使いこなすとされている。


姉妹との仲に言及すると、ディーナは四番目と殊更に仲が良い。

エフトラ手記では、この2人は邪険とされていたが、これは誤りで正しくはその逆。


エフトラが女神の住まう神殿に招かれた際、二番目と四番目は同じ男性に恋をしていた。

そこをエフトラが恋敵と判断し、邪険としたのだろう。


しかし、2人は同じ男の妻となり、男の一生を3人で幸せに過ごした。

二番目と四番目は男の趣味が近いのか、このような事態が度々起こっている。


そして、このことから魔法界では。一夫多妻制が信仰によって正当化されている節がある。

‥‥人間のそれが必ずしも、二番と四番のようになるとは限らないのだけれど。



〇暗い月のリリウム


芸術と狂気の女神、水曜の女神。


プレイヤーが遭遇した最初の七曜。

その姿は、一番目に非常に似ていると言われている。


リリウムは、人々に暗い月の奇跡を授けた。


暗い月の奇跡は、時代によっては夕暮れの禁忌と呼ばれており、誰であっても代償を払えば神の力を行使できる。


この性質は非常に危険であり、才覚や鍛錬に見合わない大きな力を生み出せるためか、その多くは秘匿され、迷信と虚言の流布に埋もれるばかりとなっている。


それでも、リリウムが存在する限りは、迷信と虚言に真実が混ざることは避けられず、禁忌への探求は途絶えない。


しかし、この禁忌も、人が魔法界で生きていくには必要なのだ。


例えば、もし、邪神の力が増した時代。

その時代にあって、英雄が誕生しなかった場合、この禁忌は邪神を破る希望となる。


結局のところ、力の性質に善悪は無く、使い方次第であるのだ。


エフトラ手記によれば、彼女の手引きでエフトラは女神の神殿に招かれたらしい。

一番目に似て、奔放な性格であるが、子どもの残酷さが色濃く浮き出ている。


手記には、女と子供の悪い所を煮詰めたような性格と評されており、容姿以外はボロクソに書かれている。


男の趣味もオワっているのひと言で、いわゆるダメ男にばかり恋をしているらしい。

働かずに酒ばかり飲んでいる男、女癖が悪い男、すぐに暴力を振るう男――。


などなど、彼らの元に潜り込んでは、売られたり、殴られたり、殺されたりするのを愉しんでいる。


さらに性質が悪いのは、彼らの前では、彼女は完璧で都合の良い女だという事である。

しかも、それに絆されて彼女を花や蝶のように丁重に扱おうとすると、怒り狂って呪い殺してしまう。


エフトラの評も納得のオワりっぷりである。


このように散々なリリウムだが、姉妹との仲はなんと良好。

それにもきちんと理由がある。


――女神は、すべての人を愛する訳ではない。


女神によって好みの人間が別れ、愛と寵愛を注ぐ相手には偏りがあるのだ。

その中で、リリウムは到底神からも人からも愛されない人間を、心から愛する。


それは、例え彼女に呪い殺される最期だとしても、ただの一時(いっとき)でも紛れの無い愛情に包まれた時間は、ろくでもない人生の慰めになるであろう。


リリウムは姉妹の中でも才能に溢れ、唯一、一番目に届くとするならば三番目以外には居ないと姉妹から思われている。

そのためか、リリウムの行動は全て、演技であるとも考えられている。


女神としては特殊な生まれで、輪廻転生を繰り返し、女神の力に目覚めた三番目。

史上に登場する悪女は、彼女の前世であることがしばしばある。


そんな三番目は、一番目と七番目と殊更に仲が良い。


‥‥が、七番目を除く他の妹からは、自分の方が姉なのに妹扱いされている。

妹に、「リリィちゃん」なんて呼ばれる始末である。


自分が姉として振る舞えて、「リリィ姉さま」と敬ってくれる七番目のことは、常に気に掛けている。


また、全ての女神の姉である一番目には、心からの尊敬を抱いており、心酔し、ある種の信仰心を抱いている。

自分の愛した人間が、一番目に盗られて嫉妬と怒りに狂いたいという、破滅的な願望を抱えている。


一番目に負けず劣らず姉妹大好き女神で、姉妹に害を向ける者には一切容赦しない。


そして、彼女の本当の名を、姉妹以外が決して呼んではいけない。

歴史において、芸術家が彼女の神秘に触れ、名を口にし、消息を絶っている。



〇樫の木のウィドル


勝利と文字の女神、木曜日の担当。


四番目が二番目と仲が良いのは先述の通り。

2人は文字と文明を司る女神であるためか、価値観も似通っており、共に時間を過ごすことが多い。


一番目が、信仰のための神としての役割を放棄しているため、二番目の役割を補佐する形で人々の信仰を助けている。


ウィドルを語るのであれば、彼女の性格に触れないわけにはいかない。

彼女は、病的なまでの人見知りとして知られており、エフトラ手記にもそのことが記載されていた。


エフトラの前には決して姿を現さず、あるいは姉妹に化けて現れ、紙に伝えたいことを書いて渡していたらしい。

二番目の補佐をして自らが前に出ないのには、このような理由がある。


が、どこぞの三番目と異なり、根っからの善性気質であり、人を助けるために自己の病的な人見知りに挑み、人の前に現れて知識や知恵を授けている。


干ばつの続く村に雨をもたらしたり、疫病に苦しむ村に薬の製法を教えたり、彼女は為政者の手の届かぬところに救いをもたらす。


伝える者が少なく、目立った逸話こそ持たないが、ウィドルは歴史の隅に必ず人と共にあり、人々を見守っている。


人見知りだが、打ち解けると案外饒舌で、毒舌な部分もある。



〇満月のフィオン

富と技術の女神、金曜の女神。


満月の名に相応しい美しい金髪の持ち主。

その髪はあらゆる刃を持ってしても、決して切ることができないという。


富と技術の女神とされており、商人からの信仰が篤い女神。


‥‥なのだが、彼女はゴリゴリの武闘派であり、とくに槍術に秀でる。

二番目が戦神の側面が強いのに対し、五番目のフィオンは軍神の側面が強い。


しかし、戦いの女神となると二番目の認識が強いのか、フィオンの逸話が二番目の逸話として伝えられていることもしばしばある。


フィオン自身、とくに名誉や名声を気にするような気質では無いため、このことを特には気にしていない。

人間に対しても放任主義で、便りが無いのは元気な証拠とばかりに、基本放逐している。


ただ、姉妹の呼びかけや人々の助けがあれば、自身の武勇を如何なく示す。


富と技術の女神であるゆえか、賄賂に弱い傾向があり、悪い悪魔にそそのかされては度々窮地に陥ることもある。

姉妹から、一番目を連れ戻すために駆り出されるこもあり、その先で一番目に甘味や紅茶で懐柔され、手土産片手に帰って来ることも珍しくない。


良い逸話と同じくらい、やらかした逸話の多い女神である。

そう言った意味では、人間味に溢れていて親しみを抱きやすい。


男の趣味は、少年を男にすることに悦びを見出している節がある。

‥‥強くて美人で、残念な女神。



〇輝けるシュミーシカ

大地と星の女神、土曜の女神。


聖銀、魔法界ではミスリルの語源となった名を持つ女神。

ミスリルは女神の名を持つことから、銀月教では特別な意味を持つ。


また、ミスリル自体が膨大な魔力を貯め込んでおり、大規模な儀式では必ずといって良いほど使用される。


ここに、人間の天敵が多い魔法界ならではの、質実剛健な銀月の教えが感じ取れる。

聖銀は信仰に留まらず、それ以上に実用的な価値があるのだ。


ミスリルの製法は非常に難しく、錬金術によって()()を聖銀に製錬していく。

霊銀を精製できるだけで一流の錬金術師なのだが、聖銀は超一流の領域。


ミスリルは反応性が非常に高く、錬金術師の魔力を固着させて純度の低下を招く。


そのため、聖銀を練ることができる術士は、反応性の低い魔力の波長を持って生まれた者か、(くう)の波動と呼ばれる特別な魔力を習得した者に限られる。

ミスリルの精錬は国力に直結するため、ミスリルの確保と生産は国を挙げての事業であった。


科学界では、聖銀の精錬には成功しておらず、不純物の混ざった霊銀がミスリルとして扱われている。


そんな信仰と文明の発展に少なくない影響を与えているミスリルの名を持つ女神、シュミーシカ。


彼女は五番目と双子とされており、何かと共に行動することが多い。

青みがかった銀髪を持つ女性で、夜空に瞬く星のような美しい瞳を持つ。


エフトラ手記によれば、シュミーシカはミステリアスな女性で、1人物思いに耽ることが多く、そうでなければハープを奏でているという。


エフトラは彼女との茶会に招かれた際に、なぜ1人で居ることが多いのかと尋ねた。

その答えは、「その方が、誰かと一緒に居る茶会が楽しくなるから」だそうだ。


孤独を愛し、それ以上に誰かと共に居ることを愛する。

姉妹全員で行う茶会の段取りは彼女が執り行っており、その際は双子の姉である五番目をこき使っている。


茶会に姉妹を呼ぶとき、放浪癖のある一番目の三番目の居場所をピタリと言い当て、そこに五番目をピシャリと遣わせる。


彼女もまた、姉妹愛が重い女神の1人。



〇陽月のグラニー


◆◆と■■の女神、日曜の女神。


彼女に関する文献は、驚くほど少ない。

あるいは、意図的に歴史から焼き消されたかのように、異常なまでに少ない。


彼女の足跡は、わずかに地名や湖の名に残るのみで、いったいどのような女神か知る者がいない。


エフトラも、ついぞグラニーと会えずじまいだったという。


断片的に姉妹から聞いた話では、彼女は姉妹随一と言って良いほどに生真面目であり、また融通が利かないところがあるらしい。

女神としての役割、神としての役割、人を守る役割に固執している節があり、そのためならば世界の罪を背負う事も厭わない。


エフトラが女神の神殿を離れたあと、知らぬうちに手記に彼女からの手紙が挟まれていた。

それによれば、末妹である自分のことを、堅苦しいところも含めて姉に愛してもらっており、感謝が絶えないと角ばった文字で書かれていた。


ただ、一番目や三番目が隙あらば男漁りに連れ出そうとするのは止めて欲しいと、控えめな文字で書かれていた。


七番目の女神グラニー。

彼女が何者かは分からないが、月の姉妹であることは確かであり、姉たちからは愛されている。


それだけ分かれば、信仰をするには充分で無かろうか?


あなたが祈る祈らないに関わらず、月とは夜に昇り、世界を照らすのだから。


――週刊エージェント、第4号より。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ