第31話 フェニックス
3日ぶりに地上に戻ってきた。何かホッとしたような…、そんな安堵感を感じる。地上には日本人が随分見られた。みんな個人旅行者のようだ。団体さんは少々苦手ではあるが、個人旅行者なら会話は大歓迎である。が、今日はいささか疲れた。フラグスタッフまで戻ってゆっくり休みたい。
グランドキャニオンに別れを告げて、フラグスタッフ行きのバスに乗る。
翌朝、フラグスタッフで目覚める。朝食後、傘を手に旧市街と思わしき場所を適当に歩いてみた。古びた粗末な家が割と多い。その後、部屋に戻ってのんびりしていたら、チェックアウトの催促をされた。11時5分前だった。チェックアウトタイムが何時だったのかは知らなかった。我ながら、いい加減極まりない。
バスデポで、昨日も谷底で会った日本人2人組にまた会った。彼らは昨夜は予定変更してグランドキャニオンに宿泊したそうだ。もう1人、昨日も南縁近くで会った日本人女性は、3日後L.A.から帰国するとの事だった。
彼らと別れて、フェニックス行きのバスに乗る。残る西部の町はフェニックスとツーソン、それに場合によってはツームストーン。バスの中でこれらの町や周辺の荒涼とした砂漠を想像していたら、いつの間にやら眠ってしまっていた。
今朝は4時半に起こされたので少し睡眠不足だった。眼が覚めたら大きなサボテンが至る所に生えているのが眼にとまった。西部劇に必ず登場する樹のようなあのサグアロである。
1か月ほど以前にセントラルシティにサイクリングしたときの帰り道でいくつか見られたが、今回のはかなりの数で数秒間に数十本は見られる。樹高は平均的には2~3m、高いものは5~6mはありそうだ。
フェニックスではいつものように先ずはYMCAを訪ねたらシングルルームはないとの事。次にバスデポで目を付けていた Hotel San Carlos に行ってみた。驚いたことにダブルベッドにバス、シャワー、トイレ、TV付きで18ドルだった。これはYMCA に宿泊できなくて幸いだったと不運の幸運を心底歓迎した。
部屋に入ってみると、広くきれいで家具やスタンドもバックパッカーには勿体ないくらい立派である。
後で分かった事だが、このホテルは日本のガイドブックにも紹介されているが、宿泊料金が全然違っている。恐らくオフ・シーズン料金(夏季料金)の為、格安になっているのであろう。ガイドブックには両シーズンの料金を記してくれないと。
ホテルで紹介されたヴィジターセンターを訪ねてみたが、15時で閉店だった。レストランや各店とも閉店時刻が随分と早いようだ。
翌朝、先ずはいつも通り観光案内所を訪ねてみる。フェニックスを拠点にした見所では、アパッチ街道、トント国定公園に注目していたのであるが場所が遠い上、公共交通機関がないとの事である。これはショックであった。モペッド(原付)があれば、何とかなるが、フンダラモーター(自転車)ではきつ過ぎ。1か月前のセントラルシティとは全然違う。ここはカラカラ天気で気温40度である。途中で干からびる事必至だ。困ったぞ、これは。
ここの観光案内所のおばさんも例外ではなく愛想の良い話好きの人で、小一時間話が弾んだ。どこから飛躍したのか、Brooke Shields の話題になったが、おばさんは
"She is not talented, only pretty."
と言う。
"Talent? It means Star?"
"No. You have a Dictionary. Check it."
"O.K."
英和辞典で、”才能“ である事が分かった。要するに ”ブルック・シールズは可愛いだけで、才能は無い” と言う事か⁉
これはたぶん個人的見解だろうなあ。いくら何でもあのブルック・シールズに対して…。
フォローしなければ。
"In Japan, They say She is the most beautiful Girl in the whole World."
"No....."
おばさんは呆れたように首を振りながら、そう答えた。
残念ながら、意見が合わなかった。ここで、日米戦争を勃発させると塩梅悪いので引き分けた。
日米戦争を避けた後、パパゴ公園を訪ねてみた。あまりの暑さに、じっくり動物を見学する気になれず、それよりも園内至る所にニョキニョキ生えている巨大なサボテン・サグアロが見応え十分で大いに堪能した。
ホテルに戻った後、部屋で Brooke Shields をTV でしっかり観た。スターたちによるサーカスショウに司会者として出演していた。19歳だと思うが圧倒的な美しさである。女優であるなら、演技力のみならず、美しさも Talent (才能)のうちだと思うが、あの観光案内所のおばさんの娘さん、不器量なのかなあ⁉