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エッセイ「免許証の顔」

作者: 川越ふみ

小説ではなく、エッセイです。

 自動車免許を高校の卒業式前日に取得した。高校在学中に取得したかった自分にとって、これ以上ないギリギリさだった。しかし、なぜ高校在学中に取得したかったのかと聞かれると、「なんとなく」としか答える事が出来ないが、どうしても取りたかった。

 その日、すなわち卒業式の前日、自分は朝早くに起き、免許センターに出掛ける支度をすると、電車、バスと乗り継いでいった。しかし免許センターには直接行かず、ます、試験の講習を受ける為、そこの施設の近くのバス停で降車した。降りて周りを見ると、そこの施設に行列が出来ている。まるでドラクエを買う為、ビックカメラに並んでいる人のようだ。とりあえず長い物には巻かれろという事で、自分もその列に並んでみる。行列の割には流れが早く、意外に早く自分の順番がやって来た。

 部屋に通されると、そこには長机がいくつもあり、そしてパイプ椅子が備え付けられていた。その机の上にはパイプ椅子分のヘッドホンが置かれており、自分もその一つのパイプ椅子に腰を降ろした。とりあえず座ってみたものの、とても落ち着かない。周りの人を見ると、ヘッドホンを耳に装着している。自分も見よう見まねでヘッドホンを装着してみる。そして周りを見渡すと、部屋に居る全ての人が耳にヘッドホンを装着した、同じような格好でパイプ椅子に座っていた。端から見ると、いや、自分も含め危ない宗教団体である。

 その後、講習が始まったが、先生が登場して試験の傾向と対策を述べてくれる訳でもなく、ただ、ヘッドホンからクエスチョンとアンサーが永遠と流れてくるだけだった。そしてようやくその講習も終わり、自分は逃げるようにその施設の外に出た。少しは為になったのだろうが、その分、居心地が悪かった為、体調は低下し、よってプラスマイナス0のような気がした。

 免許センターに到着し、書類などを提出した後、視力検査を行い、とうとう試験の時間がやってきた。試験会場には免許が欲しいオーラを放った人達が沢山おり、会場の規模とヘッドホンを除けば、先程の施設の雰囲気となんら変わらない長机とパイプ椅子のスタイルだった。

 そして試験開始。自分は緊張しながらも問題を解いていった。数分後、自分の体の中に「緊急事態発生!緊急事態発生!」という機械的な声のアナウンスが流れ、スクランブルの赤ランプが点滅し始めた。自分のお腹が、カラの茶碗を箸で「ハ〜ラ減った!ハ〜ラ減った!」と最低の行儀をし始めたのだ。「ちょっとお行儀が悪いわよ!もうちょっとだから待ちなさい!」と注意するが、育て方に問題があったのか、尚も自分のお腹をまくしたてるという家庭内暴力にまで発展した。自分の抵抗する手立てはお腹を引っ込ませるくらいで、いつお腹が鳴る音が聞こえてきてもおかしくない状態だった。そんなだからもう試験どころではなくなり、気がつくと試験が終わっていて、お腹が鳴るという最悪の事態だけは免れたものの、その時の自分の顔は一気に老け込んでいた。

 数時間後、合格発表が行われた。結果は意外にも『合格』だった。点数は90点でギリギリ。その後、合格者だけが先程の試験会場へと戻る事になる。その時は、何か「また戻って来たぞ」的でとてもカッコよく感じた。

 免許センターの人の話が終わり、写真撮影に移る。自分にも順番が廻ってきて、なんなく写真撮影を終えた。

 数十分後、写真の撮り直しの人の名前が呼ばれ、その人達は再度写真撮影を行った。「こういう世話をやかせる人って絶対いるんだよなー。」と、体調が最悪な自分はイラ立つ。

 更に数十分後、とうとう免許証配布の瞬間がやってきた。その時には既に、免許証をいただく嬉しさよりも早く解散したい気持ちが勝っていた。次々に名前が呼ばれていき、ようやく自分の名前が呼ばれると、何気なく免許証をいただいた。そして何気なく自分の顔写真をチェックし、何気なくポケットにしまい込み、何気なく免許センターを出る。そのつもりだった...。

 何気なく免許証をいただくまでは自分のプラン通りだったが、何気なく自分の顔写真をチェックする所で何気なくどころではなくなった。だって自分じゃない赤の他人の顔がそこには映っていたから。「え!?」ともう一度確認すると、自分じゃないけど自分で、自分なんだけど自分だと認めたくない顔がそこにはいらっしゃった。分かりやすく説明するのならば、物凄い人生に疲れきって、人間なんて信用出来ないくらいの悟りを開いた18才の少年だろうか。そこで、「ちょっと待ってよ」と、「この顔で免許証として成り立つのか?」と疑問をいだいた。確かさっき、写真撮影の取り直しされた人いたよなー。その審査にパスしたという事は、「こちらサイドはその写真でOKだよん」って事だよなー。いや、そちらがOKサインを出した所でこちらはOKではない。それかもしかすると、こんな顔の人だと思われている危険性もあるかもしれない。これは是が非でも取り直しを要請せねばならないと、免許センターのおっさんの元へ歩み寄った。と、その途中でふと思ったー


「すいません、この写真撮り直していただけませんか?」

「え?どれどれ...」

 免許センターの年輩の男は、手元にある免許証の写真と、目の前に居る本人の顔とをまじまじと見比べた。

「プッ!」

 写真と本人とを2回見比べた所で、男は思わず吹き出した。

「これは失礼」

 そう自分に詫びを入れながらも、その言葉とは裏腹に男の顔はニヤケていた。

「ちょっと、失礼じゃないですか!」

「高橋くーん!」

 自分の言葉を聞き流すかのように、年輩の男は大きな声で若い男を呼んだ。

「なんでしょう?」

 若い男は自分の顔を軽く確認すると、年輩の男に顔を向けた。

「これは彼の免許証なんだそうだが、見たまえ」

 年輩の男は自分に視線を送った後、免許証を若い男に差し出し、若い男はそれを受け、自分の顔を確認した後、免許証を覗き込んだ。

「プッ!」

 若い男は年輩の男と全く同じ反応を見せた。

「これ、チェックしたの君だよね?」

「いや、渡辺さんじゃないでしょうか」

「あ、渡辺くんか〜...彼はああ見えて、結構いい加減な所あるからな〜」

「呼んできましょうか?」

「いや、いいよ、いいよ」

「あー、君ね...」

 そう自分に言う年輩の男の顔は半笑いだった。

「...これ、全然OKだよ。なんの問題もないよ。ノープロブレム。それより、免許取得おめでとう」

 半笑いの顔以上に、話をすり替えられた事に腹が立った。

「そんな顔でいいんですか?...」

 怒りを抑制させながら、なんとかそう答えた。

「いいよ、いいよ。だって、面白くない?それにさ、なんかで捕まった時にさ、それ見せれば話が和んで違反帳消しになるか...」

 次の瞬間、自分は物凄いスピードでそのおっさんの口を拳で塞いだー


 「そうなったら大変だなー」と、そんな有り得ない想像をしていた。

 おそらく、写真の撮り直しギリギリの顔なのだろう。しかし笑える顔だ。目は半開きで服はよれてるし、放送コードに引っかかると思われる。それでも放送したいのならば、モザイクが必要になるだろう。しかしそれでギリギリOKなのだから、写真を撮り直しした人の顔はもっとヒドいという事になる。ある意味見てみたいものである。それが見られるのは、免許センターの人の特権だろうか?

 この日は何もかもがギリギリだったが、自分はその有り得ない免許証を持って、免許センターを後にし、そして次の日、高校の卒業式を迎えた...。

 くだらないエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。

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