息を吐くように嘘をつく
この長い人生の中で誰しも必ず嘘をついて生きている、この世界は嘘を中心として廻っていると言っても過言じゃ無いのかもしれない。
そんな事を考えながら僕は学校の屋上に向かって階段を登っていた
「君の事が好きなの。もし良かったら私とー」
樋口詩音が彼女の告白を受けて真っ先に抱いた感情は、恋も嘘でできているんだろうな、というものだった。
「ダメかな?樋口くん」
綺麗な夕日に照らされている彼女のまるではやく答えて欲しいとでも言わんばかりの勢いに僕はただ
「少し時間が欲しい」
とだけ答えて彼女を残しその場を後にした。
時間が欲しいというのは半分本当であとは嘘でしかない。
2階にある図書室に入った僕は図書室内でも1番奥の席に座りただ1人少し考え始めた
一体どれだけたったのだろうか、気づいたら図書室内には僕以外の人の影が見当たらなくなっていた。時計を見ると7時を過ぎている。外はとっくに日が暮れて真っ暗になりかけていた。
僕は嫌な予感がして急ぎ足で学校を後にした。
ちょうど学校の門を超えた辺りで声がした。
嫌な予感が的中した。と思っている僕を裏切るように声の主は軽快な足取りで近ずいてきた
「珍しいね、詩音がこんな時間まで何してんの?」
「ただ図書室で考え事をしてただけだよ」
僕はさも嘘をついてないとでもいうような平然とした態度で答えた。
「ふーん?」
あまり深く考えない性格であるこいつに助けられたと思うと同時に少しイラっともした
「朱音はさ、恋ってなんだと思う?」
気づいたら僕の口からそんな言葉が零れていた
「なんだよ急に、告白でもされたか?」
からかうように言ってくる朱音を横目に僕は歩きだした。その横を朱音が並んで歩いてくる。
「なんだよーなんか言えって」
こいつには人の心を考えるとかそういうのはないのだろうか。
そんな疑問を持ちながら
「そんなんじゃないよ。ただ僕は恋は嘘でできてると思うんだ」
そんなことを口にした。
その夜僕は家で彼女の事や朱音に言われたことを思い出していた。
あの後朱音はさも自分が恋愛マスターでもあるかのような口振りで話し始めた。
「俺も恋は嘘でできてると思ってるよ。誰かを好きになる、誰かに好きになってもらう。そんな行動の中で相手を完全に知ってるわけでもないし相手も同じだ、でも人はさも相手を知り尽くしてるとでも言いたいように関係を築いていける」
まるで何かに怒っているような、まるで何かを見つめているような表情をしていた朱音を鮮明に覚えている。
自室のベットに寝そべりながら朱音の言葉を自分なりの解釈で理解していた僕は、ふと彼女が僕なんかに恋愛感情をおぼえているという事に不思議な気分になっていた。
人は生きる上で誰かに、何かに恋をして執着して生きる生き物だ。大切な物や自分の中でなくてはならない物などそれに縋りながら人は誰しも概念でしかない死に迎ってただひたすらに毎日1歩また1歩と進んでいる。
僕は多分これから何度も恋をして、その度に何度もまたこんな事を考えるのかもしれない。
気づいたら目の前の窓から入る朝日の光が自分にむかって差し込んでいた。どうやら朝になっていたらしい。ぼーっとした頭を起こすように僕は学校に行く準備を始めた。
何度も歩いた通学路、あと何度ここを歩くのだろうか。もしかしたら明日亡くなるかもしれない、それは明後日かもしれない。そんな事を考えながらただひたすら学校に向かって歩いていた。
学校につくと自分の机の上に1つの手紙がおいてあった
「今日、放課後に屋上で」
ただそれだけ書かれた手紙、宛先は自分なのだろうが書いた人物の名前も書いてない。それでも僕にはこれは彼女が僕に書いた手紙なのだとすぐにわかった。
自分に1番近いドアの扉が開いた。
「おー詩音、おはよう」
扉のとこには朱音が立っていた。
「おはよう」
それだけ答えて僕は手紙を朱音に見えないように自分の学校用のバックの奥に閉まった。
どれだけ僕が考え事をしていたとしても時間は止まらない。
気づいたら授業は終わり放課後になっていた。
まるで昨日をループしているように僕はまた学校の屋上にむかって階段を登っていた。
屋上の隅、ドアから少し遠い場所に彼女が立っていた。
名前も知らない、性格も知らない。そんな彼女が...
「ごめん。お待たせ」
「大丈夫だよ。樋口くんを呼んだのは私だから」
そんな会話をしながら僕は彼女の顔を見た。
その顔は綺麗な夕日に照らされていた。
まるで目の前の世界に嘘なんて存在しないかのように。
彼女の顔をいやそこに映る夕日に見とれていた僕は自分でも気づかない内に答えていた。
「付き合おうか」
まるでそこには嘘なんてないかのように...。