第一章1 『はじめまして』
秋も終わりに近づいて、冬の風が噴き始めている頃。
水の都市ウォムエーレから馬車で一〇日分離れたところにあるコアル村にある民家には、人が集まっていた。
これから一大行事である『出産』が行われるのだ。
出産を手伝う産婆たちが忙しなく行き来し、村の女たちは誕生を祝うためのご飯の準備を、男と子供たちは中央にある井戸に向かって祈りを捧げている。
水の都市が近いということもあって、村では水の神が信仰されている。
わあと大きな声が上がると、これから生まれる赤子の父親であるローマンは顔を上げた。
「もう生まれたのか!?」
「さあ。でも、生まれたらすぐに教えてくれるって言ってたからちょっと待ってようよ」
ローマンを静止するのは、息子であるウドだ。
そうだな、とローマンをその場に座りなおし、家の方を不安そうに見つめる。
ローマンもさっきまでは他の男たちと一緒になって祈りを捧げていたのだが、どうしても不安になってすぐそばに駆けよれるように家の目の前に座っている。ウドは父親が心配でついてきたのだ。
また、わあと大きな声が上がると、今度は遅れて赤ん坊の泣く声が聞こえてくる。
ウドとローマンは顔を見合わせて立ち上がった。
家の扉が開かれて産婆が満面の笑みで二人に言う。
「元気な男の子だよ。はやく、顔を見せてあげな。リーリエも安心するだろうし」
「男の子か。ウド、弟だぞ」
「弟かあ……一緒になって剣を振り回せるかな」
「ああ、父さんも一緒にやろう」
ウドとローマンが部屋の中に入ると、ローマンの妻であるリーリエが安らかな笑みを浮かべて生まれたばかりの赤ん坊を抱きしめていた。
ローマンは産後間もないリーリエを労わるような笑みを浮かべて、近付いていく。
ウドは初めてできる弟という存在がどうしようもなく嬉しいようで、必死になって顔をのぞき込んでいる。
「生まれてきてくれてありがとう。リーリエもよく頑張ったな」
「これからは四人で楽しく暮らしていきましょうね」
「名前は決まってるのかい? この新しい赤ん坊の名前は」
「はい。名前は――テオです。勇者のテオライド様からもじって、テオにしました。元気で勇敢な男に育つように、と願って」
オリヴァー・ヘフスハッドの備忘録より抜粋
『村の人間は誕生したその時から、勇者テオが常人ならざることを予感していたと語る。しかし真偽は――以下解読不能』