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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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魔導帝国の物語

悪役令嬢の約束~婚約破棄?いいえ五年越しのプロポーズです

作者: 染井Ichica

 ついにあの馬鹿共がやってしまった。

 あまりに稚拙にすぎる断罪。今どき劇にすることすらないだろうと言いたくなるような荒唐無稽な筋書き。卒業パーティーに参加し壁の染みになっていた俺、アロイス・トゥールはそれを眺めながら内心叫び出したかった。心の奥底から込み上げてくる恐怖と期待によって。ほら見て、礼服の下、鳥肌びっしりの冷や汗まみれ。震えてるのは武者震いだけど。


「……婚約破棄、と申されましたか、殿下?」


 馬鹿共こと第二王子とその浮気相手の視線の先、悪役令嬢に仕立てあげられた婚約者の公爵令嬢シャルロット・ミシェーレは眉を顰める。何を言っているのか、と聞き返すように。どこか冷徹に見えるほどに整った美貌は感情を抑えてはいるが、不快さと失望を隠しきれていない。その証拠に蒼銀の結髪に映える群青の瞳は敵意に満ち、漏れだした魔力で髪が靡き始めていた。


「殿下、この婚約は国同士の契約だと何度もお伝えしましたが? それでも強行するのですか?」


 子供に言い聞かせるのかのようにゆっくりと言葉を紡ぐシャルロット様。彼女の素を知る俺はもう逃げ出したくて仕方なかったが、周りの人々はこれから起きる婚約破棄を見ようと集まっているため、ろくに動けそうにもない。貴族のくせに野次馬揃いか!


「黙れ! お前に反論を許したつもりは無い! 身分を笠に平民であるラミーを貶め虐めるような悪女は」


 愛らしさだけしか取り柄がなさそうなフリフリドレスの小娘を傍らに抱き締めていた第二王子は罵倒の途中で吹っ飛ばされた。無詠唱で放たれたシャルロット様の風魔法で。顔面から壁にめり込んだのが見える。言わんこっちゃない。むしろ一撃で殺されなかっただけマシだろう。まぁ、流石にその辺は手加減しているか。あの方が本気になったらとっくの昔に第二王子なんてミンチになってる。


「虐め? ただ無礼が過ぎるので身分を考えた振る舞いをしろとお伝えしただけですわ。あら、そうすると、今度は王家や貴族の方々が長年紆余曲折しながら作り上げてきた身分制度及び社会構造の軽視でしょうか? 随分と……子供のように稚くていらっしゃいますこと」


 いや、違った。もっと痛め付けるためにわざと長引かせている。えげつない。


「この女狐! 貴様、殿下に何を」

「単なる躾ですわ。痛みは身に教えを刻ませます故。それより貴方達、各々の婚約者のご令嬢を放置して何故あの小娘に侍っているのです? エスコートはどうしたのです?」


 顔色を変えた側近に向ける氷の微笑みの奥に悪魔のような愉悦が見え隠れしているのはどうしてだろうか。


「何故? 婚約者の方々の忍耐強さに甘えた不貞行為かしら? なんて、なんて不潔ですこと」


 鈴を転がすような軽やかな声で笑うが周りは絶句するしかない。シャルロット様が婚約破棄されている場面だと言うのにいつの間にか彼女が場を支配している。あまりに容赦ない口撃と圧倒的な暴力で。その証拠に強者揃いのはずの警備の者もカツカツとヒールを鳴らして歩き続けるシャルロット様を取り押さえる様子はなく、震え上がっている。ラミーとかいう平民に至っては第二王子が吹っ飛ばされた時点で腰を抜かして、床の上に座り込んでいた。気骨が足りないな。仮にもシャルロット様を貶めるなら彼女の苛烈さぐらい計算に入れなさい。


「貴方がたも躾が必要ですか? 公衆の面前で醜態を晒しますか? 大丈夫、祖国で聞き分けのない子供を折檻するのは慣れてますからしっかり辱めてさしあげます」


 そう嘯くシャルロット様はここ数年間、今までで一番生き生きとしていた。


◆◆◆


 この状況をより理解してもらうため、シャルロット・ミシェーレという人について説明しよう。

 彼女は魔導帝国で生まれ育った生粋の魔女だ。通常なら発動に必要な詠唱をせずとも風を操る力を生まれつき持つ天才でもある。その趣味嗜好はサディスティック。悪女のような、美しくも恐ろしげな見た目と違い、その気質は陰湿では無く、むしろ正々堂々としているものの、人を痛めつけるのが好き。そして俺の幼馴染でもある。


「アロイス! 私と結婚しましょう!」


 頬をほんのり赤く染めて迫ってくる幼少期のシャルロット様の足元には手土産と言わんばかりに数日前の茶会で俺を虐めてきた令息がズタボロで転がっている。


「私と結婚すればたかが男爵だなんて虐められません! 私もアロイスが好きですし問題なし!」

「いや、問題しかないですねぇ!?」


 愛が重くてバイオレンスすぎる幼馴染が怖い。ナヨいデカブツと揶揄されるような治療魔法使いの自分にはどうすることもできない辺りも恐怖ポイントだ。


「お互いの社会的地位とか! 年齢とか! 魔力の質とか! 俺が御館様に殺されてしまいますーっ!」

「お父様が何よ!この前、あんまりにもアロイスとのことを反対されたので、ムシャクシャして捻り潰しました! 全く軟弱な」


 御館様って、国一番の魔導師なのだが。待て、つまり、今シャルロット様が国で最強なのか!?

 衝撃事実に思わず黙り込んだ俺に向かって自慢げに鼻を鳴らすシャルロット様。可愛い。その足元にある被害者さえ見ないふりをすれば。


「……はっ、既成事実さえ作ってしまえばいいのでは!?」

「やめてくださーい社会的にまだ死にたくありませーん」


 暴風お嬢様を落ち着かせるために仕方なくそっと抱き締める。不敬だとは分かっているが、そうしないと新たな犠牲者を生み出しかねないから黙認されているのだ。さもなくばただ親が商談で出入りしてるだけの男爵令息がこんな由緒正しいご令嬢に近づけるものか。外堀を埋められていると言わなくもない。しかし、俺はまだシャルロット様に篭絡されていない。流石に我が身はまだ惜しい。


「では、お茶会ならどうですか?」


 お茶会……まぁ、結婚や既成事実よりはましか。頭の中で算盤を弾きながら俺は頷いた。


◆◆◆


 だが、そんな日々も俺達が十二歳になった時に終わる。


「シャルロット様が、王国に?」


 魔導帝国と縁を繋ぎたいと所望する王国から第二王子との縁談を打診されたという。ひいては第二王子妃としての教育を施すために王国の学園へと入学するよう命じられたとか。


「……寂しくなりますねー」


 それを打ち明けられた日のシャルロット様は初めて見る悲しげな顔をしていた。冷たそうな切れ長の瞳もどこか潤んで、か弱く見える。


「もっと、もっとアロイスと一緒に過ごしたかったですわ」


 国の期待を一身に背負った公爵令嬢。されどまだ同い年のか弱い少女。その手足なんて迂闊に触ったら折れてしまいそうに細い。その時、俺は初めて今まで彼女を色眼鏡で見続けていたことに気付いた。


「でもこれからは我儘は言えないですね。アロイス、大好きでした」


 結婚しようでも既成事実を作ろうでもなく、大好きでした。過去形で語られるそれはその瞳を見ればまだ全然現在進行形であることなど悟るに容易く。

 やめてくれ。こんなどうしようもなくなってから自分の気持ちに気付きたくなんてなかった。だから泣かないように、歯を食いしばる。


「……もし、もし万が一婚約破棄されたら、シャルロット、俺は君にプロポーズする」


 群青の瞳に希望の光が点る。


「一年後、一年後絶対追いかけるから」


◆◆◆


 そして俺は宣言通り、一年後、とある実績を叩き出して留学という形で王国に渡った。男爵家の生まれとしては破格の待遇である。そこで待っていたのは浮気をされている上に悪女だと謂れなき誹謗中傷を受けるシャルロット様だった。他国の者ということもあり、立場が弱く、何より王族教育により耐え忍ぶのが癖になってしまった彼女はあの頃よりますます美しくなっていた。だが、婚約者でもない俺が世話をするとかえって彼女の悪評に繋がってしまう。だからこそ、その後もタイミングを見計らって雌伏し続けるしか無かった。その期間、四年間。まさか卒業シーズンまで問題が起きないとは思ってなかった。

 とはいえ。

 あれは、やりすぎだろう。

 高笑いしながら風の鞭で側近達を空へと打ち上げ続けるシャルロット様。余程、化け物だ、悪女だ、などと何年もの間公私共に罵倒されてきた今までの仕打ちが腹に据えかねていたらしい。側近達の悲鳴が上がれば上がるほど愉悦の光に瞳が煌めく。いくら好きな相手とはいえ、あれはちょっとないな、と俺は思った。これは流石に止めないといけない。溜息をつきながら人混みを掻き分け、俺は前に出る。


「シャルロット様、その辺にしないと国際問題になってしまいます」

「あら、トゥール様。お久しぶりですわ。五年ぶりかしら」


 この国に来てから公の場で顔を合わせるのは初めてだ。何しろ俺の身分が身分だから。彼女の笑みはまだどこか貼り付けた氷の笑みである。一方、明らかに平民に毛が生えたような平凡な見た目の俺を見て人々は何が起きるのか、と怪訝そうにしている。もっとも俺の正体を知っている仲がいい生徒や俺と同様に魔導帝国から来た人達はこの先の展開を予測し、顔色を変えているが。


「どのような用件で? 私、今この不埒な方々に身の程を思い知らせるのに忙しくて」

「そう来ますかー……じゃあ、やり方を変える。【龍滅卿】アロイスの命令だ、シャルロット様。こんな雑魚共を見るな、俺だけを見ろ」


 権力には頼りたくなかったんだが。仕方なく俺が真剣にそう告げるとシャルロット様の瞳が見開かれた。


◆◆◆


 【卿】。

 それは魔導帝国が筆頭魔法使いに与える特別な称号だ。従来傷や病を治すのにしか使えないとされていた治癒魔法を昇華させ、個人として考えられるトップクラスの武力を所持したがために、国としても俺を特別扱いせざるを得なかった。たかが一帝国の名誉称号と言うなかれ、同時代にたった数人しか任命されない魔道帝国の【卿】は世界的な影響力および並び立つ者のいない戦闘力を持つ。

 ようやくぶつかった衝撃から復活したらしい第二王子が俺を信じられないという目で見ている。頬や額が擦り傷まみれになっていた。


「【龍滅卿】だと……!?」


 その中でも【龍滅卿】は文字通り龍の討伐数が最も多い者に与えられる。旋風を自由に操り龍を墜落させるシャルロット様のお父様こと御館様が先代【龍滅卿】だった。そして自分の場合、もっと邪道すぎる方法でそれを為した。


「ええ。この国へ来るのが許されたのもその功績です。ただ、元が単なる男爵家なのでなるべく表舞台には出ないようにしてましたが」


 というより言っても信じてもらえないだろうし。何しろ俺の見た目は未だにナヨいデカブツである。実際、他の生徒達は胡散臭そうに俺を見ていた。確かにこの国では魔法の授業がないから分かりにくいかもしれないが、代わりに生物学や医学の授業、首席だったのに、なんて扱いだ!


「それに俺の魔法は加減して普通に使えば傷や病を治すだけの無害なものですからねー。面倒だからあんまり対外的に喧伝してないんですよー」


 第二王子は目を丸くしていたが、すぐに気に食わないように壁にぶつかったせいで腫れ上がっている顔を歪めた。


「まぁ、いいだろう……【龍滅卿】ならそこの悪女を始末しろ!」


 何を言ってるんだ。俺は思わず鼻を鳴らす。


「どうして彼女を始末しなくちゃいけないんですかー? そもそもまだ国王にもなっていない身で大して交流もない【卿】に命令とか何様ですかー?」


 多分賢王と名高い国王や王太子ならこの時点で顔色変えて平謝りすると思うのだが……どうやら本当に身の程知らずらしい。俺が控えめだからそう見えないと言うのはあるが、【卿】なんて人間の形した魔法兵器みたいなものだぞ。さっきのシャルロット様なんてまだまだ話が通じるレベルに。多分ここにいたのが俺じゃなくて御館様だったなら婚約破棄宣言の瞬間に皆仲良く生首になってたに違いない。

 あまりにこちらを馬鹿にしきっている。苛立ちのあまり、つい、無意識に抑えていた魔力が漏れだしていく。それはこの中で一番負傷している第二王子へと向かっていく。


「おお!? 傷が、治っていく……!?」


 腫れた頬からは熱が引き、打ち付けた手足や胴体からは痛みが消えていく。

 そう、ここまでなら普通の治癒魔法だ。

 俺はあえて這い出した治癒魔法をそのまま展開し続ける。


「治癒魔法は他の攻撃魔法と違って、いくらドラゴンの魔法障壁だとしても弾かれない。回復のためのものですからー。でも、だからこそ、俺は【龍滅卿】になれたんですよねー」


 数秒後、激痛に濁った悲鳴が響き渡る。再生し続ける両手首の骨が塞がった表皮を突き破ったのだ。これで見せしめになったか。俺はこれ以上やると会話すらままならなくなりそうなので魔力の放出を止めた。


「過剰な治癒魔法。これが俺の専売特許ですー」


 きっかけは単に自分にかける治癒魔法の調整を誤ったことだった。いじめっ子に蹴られてヒビが入った足を治そうとしたら魔力を注ぎすぎたら細胞や骨が治っても増殖し続けて、もっと無惨なことになった。

 夥しい量の赤い血が滴り落ちるのを見て卒倒する令嬢達。まぁ、グロテスクかつ血腥いしな。シャルロット様は少しだけ顔を青くしたが、気丈に振舞っている。流石お嬢様。


「これを、えーい、ってドラゴンの群れにぶちかましたら阿鼻叫喚でしてねー……ボスに至っては細胞の異常増殖による無数の腫瘍が体内で自壊し続ける痛みに耐えかねて群れごと服従しましたよー。おかげで魔導帝国は竜騎兵隊を編成できるようになりましたねぇ」


 せっかく防衛上重要な情報を垂れ流してやってるのに第二王子は悲鳴ばっかりで聞いちゃいない。王の器、本当にないな。


「うでがっ、おまえっ、なにをしたか、わかってるのか!?」


 王族への加害行為。普通なら死刑一直線。だが。俺はあえてクスリと笑ってぼんくらと馬鹿にされがちな糸目を酷薄に細める。


「わかってますよー? うちの国のお姫様を国ぐるみで虐めた馬鹿共への制裁ですがー」


 シャルロット様は、国のため、友誼の証として嫁ぐつもりだったのに集団で虐げた。本来なら対等、もしくは格上の魔導帝国を軽んじていると判断されてもおかしくない。いくら子供のすることとはいえ、それを主導したのは高位貴族達の令息令嬢、将来国を作り上げていく立場の者達なのだ。数十年後この国がとる施策の根底にある思想自体が腐りきっていると考えれば、ここで潰しておくに限る。

 幸いシャルロット様は国に戻っても引く手数多の希代の魔女だ。俺以外の奴に求婚なんてさせないが。魔導帝国としてはシャルロット様の帰還は歓迎される慶事である。


「それはそうとしてシャルロット様の華々しい五年間を返してくれませんー? うちの国にいればシャルロット様は辛い思いをしなくて済んだのに」


 とりあえずシャルロット様以外一回肉塊に変えてから治せばいいや。そう思って魔力を拡散させようすると、不意にシャルロット様に抱きつかれた。


「アロイス!いい加減になさいませ!」


 そのまま俺の胸をポカポカと殴るシャルロット様は随分と華奢だった。元から身長差はあったけど、ここまでじゃなかったな。それが五年間の歳月を感じさせて少し胸が切なくなる。


「止めにきた貴方が国際問題を起こしてどうするのです! 馬鹿!」

「あー、それですかー。その辺の権限、ちゃんと国から承認取ってからきてますよー」


 王国のシャルロット様への冷遇は把握されていた。というよりそのせいで俺が派遣されて実態を逐一報告した。だってシャルロット様からのお手紙が一切御家族にすら届かないって状況が異様すぎるし。後暗いことがあります、って言ってるようなもんだ。おかげで国の上層部も、それ行け鉄砲玉、と言わんばかりに俺を送り出したんだし。


「そこの第二王子殿下が欲に負けて婚約破棄ぶちかましたら下位貴族の俺が求婚してもお咎めなしってご褒美付きで」


 なお、その鉄砲玉は殺されても死なない模様。何しろ自動で再生するようにしてあるし。するとシャルロット様は唖然としたように俺を見ていたが、やがて堪えきれないようにくすりと微笑んだ。


「……呆れましたわ。本当に、本気になるととんでもないことをするところ、昔から変わってないですわね」


 可愛い。

 本心から浮かべるその笑顔を見て頭の中に浮かんだのはその一言だった。誰だ、シャルロット様を血も涙もない冷血女とか嘲ったのは。こんな風にはにかむように頬をほんのり赤く染めた彼女を見てみろ、天使以外の何物でもないだろ。その正体はサディスティックなご令嬢だけど。いや、やっぱ今更恋に落ちられても困るから見るな。そこの鼻息の荒い伯爵令息、興奮してふごふごうるさいから鼻からの大量出血をプレゼントしておくな。

 思わず顔を覆いながら天を仰ぐ。そして、つい、本心を吐露していた。


「むりぃ、しゅき……けっこんしよ……」

「あらあら、相変わらず締まりのない、みっともない求婚ですわね……喜んで!」


 かっこいいプロポーズをするつもりだったけど、シャルロット様が嬉しそうに笑ってくれてるなら、問題ないな!


◆◆◆


 後日、流石にやりすぎてはいるので王国からお咎めがあるかと思いきや、シャルロット様が事前に纏めてあった汚職や機密情報や醜聞をあちらの王宮に送り付けたら、あっさりと婚約破棄の受理と公式な謝罪を取り付けることに成功した。

 第二王子は直後に不祥事を起こしたことで除籍決定。まぁ、あの平民に唆されて人身売買に手を出そうとしたらしいから仕方ない。どうやら逆恨みしてシャルロット様を攫い、劣悪な娼館に売り飛ばすつもりだったそうだ。そうはさせない。仮にも元王族、御家騒動なんて起こされたら困るから、平民落ち後の断種処理は俺主導でしっかりやらせてもらった。シャルロット様に手を出す奴には容赦などいらん。

 とはいえ、それに乗じて慰謝料という形で魔導帝国側に有利な条約を俺達は押し通し、その功績をお土産に俺とシャルロット様には帰国許可が降りた。


「シャルロット様、悪女ですねー」


 結果だけを見れば、対外的にはハニートラップなどと言われかねないそのやり口。それでもシャルロット様は取り繕ったすまし顔だった。


「ええ、悪女ですわ。悪どい貴方を合法的に手に入れるためなら魔女を越えて悪女にならなくてはいけなかったので」


 悪どい、って仮にも惚れた相手に言うかな。言うな。俺もシャルロット様時々サディストって思うし。


「私、子供の頃、貴方が虐めた相手の実家の内部情報全て集めて合法的に潰す準備してたの、忘れてませんわ。どうやって育ったらあの温厚な御家族からこんな羊の皮を被った狼が生まれるのか、と興味を持ったのですし」


 ばれてたか。俺は最高に悪い笑みを浮かべながらシャルロット様の手の甲を取り、そっと口付ける。


「男は皆狼ですからねー……シャルロット様のことも食べちゃうかもー?」

「あら、いいですわよ? でもその前に、せめてシャルロットと呼べるようになって下さいませ」


 はっ、として顔をあげれば、シャルロット様がどこか挑発するように唇を尖らせていた。頬が燃えるように熱いのが分かる。なんだ、その可愛らしい顔。


「しゅき、シャルロットしゃま」

「……本当はかっこいいのに押すと弱い入婿様ね」


 約束を守ってくれてありがとう、と呟く声が聞こえたような気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛いー
[一言] むりぃ…しゅき… キャラが個性的で大変魅力的でしたw そしてただ力が強かったり魔力が強いのではなく 治癒魔法で滅する力を持っているという設定がよかったです
[一言] ( ゜д゜)ハッ!気づいたらポイント評価してブクマしてたわ! 作者さま、しゅき♡
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